JP3743591B2 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関し、特に多気筒内燃機関の排気系集合部に配された空燃比センサの出力に基づいて、排気系集合部の空燃比が目標空燃比と一致するように内燃機関に供給される混合気の空燃比を制御する集合部フィードバック制御と、各気筒に供給される混合気の空燃比が目標空燃比と一致するように内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する気筒別フィードバック制御とを選択的に実行する内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、内燃機関に供給される混合気の空燃比に略比例する値の信号を出力する空燃比センサ(限界電流式酸素濃度センサ)を用い、該センサの半暖機状態においては比例・積分(PI)制御による空燃比フィードバック制御を実行し、非半暖機状態においては現代制御理論の活用による空燃比制御を実行する技術が例えば特開平−52140号公報により公知である。この現代制御理論による空燃比制御は、空燃比を決定する内燃機関の動的モデルに基づき燃料供給量制御手段の制御量を算出する手法であり、上記技術は、空燃比センサの素子温度、即ち活性度合いに応じて、共に空燃比センサが空燃比フィードバック制御が可能な素子温度(制御温度)に達していない状態であるセンサの半暖機状態及び非半暖機状態においてそれぞれPI制御による空燃比フィードバック制御及び現代制御理論による空燃比フィードバック制御を選択的に実行し、空燃比センサが制御温度に達していない状態から空燃比フィードバック制御を開始することを可能としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の技術においては、センサが半暖機状態にあるときはPI制御を行っているが、PI制御では精度の高い空燃比制御を行うことができず排気ガス特性が悪化するおそれがある。また、半暖機状態で現代制御を行うと空燃比センサが制御温度に達していない状態では空燃比センサの応答性が劣り空燃比を正確に検出できないため、場合によっては、空燃比が目標空燃比に収束することなく発振してしまい、この結果排気ガス特性が悪化すると云う不都合があった。
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、複数の気筒を有する内燃機関における精度の高い空燃比制御をできるだけ早く開始するようにし、空燃比の発振を防止して排気ガス特性を向上させることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、複数の気筒を有する内燃機関の排気系集合部に設けられ前記内燃機関に供給される混合気の空燃比に略比例する値の信号を出力する空燃比センサと、前記空燃比センサによって検出される前記排気系集合部の空燃比に基づいて各気筒毎の空燃比を推定するオブザーバと、該空燃比センサの出力信号に基づいて前記排気系集合部の空燃比が目標空燃比と一致するように前記内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する集合部フィードバック制御と前記オブザーバの推定結果に基づいて各気筒毎に供給される混合気の空燃比を演算し該演算された各気筒の空燃比が目標空燃比と一致するように前記内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する気筒別フィードバック制御とを実行する空燃比フィードバック制御手段と、前記空燃比センサの活性状態を判定する活性判定手段と、前記空燃比センサの活性の程度が低いときは前記空燃比フィードバック制御手段に前記集合部フィードバック制御を実行させる一方、前記空燃比センサの活性の程度が高いときは前記空燃比フィードバック制御手段に前記気筒別フィードバック制御を実行させるように制御するフィードバック制御選択手段とを具備したことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、複数の気筒を有する内燃機関の排気系集合部に設けられ内燃機関に供給される混合気の空燃比に略比例する値の信号を出力する空燃比センサの活性状態が判定されて、空燃比センサの活性の程度が低いときは空燃比の集合部フィードバック制御が実行される一方、空燃比センサの活性の程度が高いときは空燃比の気筒別フィードバック制御が実行される。これによって、複数の気筒を有する内燃機関における精度の高い空燃比制御をできるだけ早く開始するようにし、空燃比の発振を防止して排気ガス特性を向上させることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0008】
図1は本発明の実施の一形態に係る空燃比制御装置を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)及びその制御装置の構成を示す図である。同図中、1は吸気弁及び排気弁(図示せず)を各一対ずつ設けた4気筒のエンジンである。
【0009】
エンジン1の吸気管2は分岐部(吸気マニホルド)11を介してエンジン1の各気筒の燃焼室に連通する。吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度(θTH)センサ4が連結されており、スロットル弁開度θTHに応じた電気信号を出力して電子コントロールユニット(以下「ECU」という)5に供給する。吸気管2には、スロットル弁3をバイパスする補助空気通路6が設けられており、該通路6の途中には補助空気量制御弁7が配されている。補助空気量制御弁7は、ECU5に接続されており、ECU5からの信号によりその開弁量が制御される。
【0010】
吸気管2のスロットル弁3の上流側には吸気温(TA)センサ8が装着されており、その検出信号がECU5に供給される。吸気管2のスロットル弁3と吸気マニホルド11の間には、吸気管内絶対圧(PBA)センサ10が取り付けられている。PBAセンサ10の検出信号はECU5に供給される。
【0011】
エンジン1の本体にはエンジン水温(TW)センサ13が装着されており、その検出信号がECU5に供給される。ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ14が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ14は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置で信号パルス(以下「CYL信号パルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に対し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDC信号パルスを出力するTDCセンサ、及びTDC信号パルスより短い一定クランク角周期(例えば30度周期)で1パルス(以下「CRK信号パルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYL信号パルス、TDC信号パルス及びCRK信号パルスがECU5に供給される。これらの信号パルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数NEの検出に使用される。
【0012】
吸気マニホルド11の吸気弁の少し上流側には、各気筒毎に燃料噴射弁12が設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されているとともにECU5に電気的に接続されて、ECU5からの信号により燃料噴射時期及び燃料噴射時間(開弁時間)が制御される。エンジン1の点火プラグ(図示せず)もECU5に電気的に接続されており、ECU5により点火時期θIGが制御される。
【0013】
排気管16は分岐部(排気マニホルド)15を介してエンジン1の燃焼室に接続されている。排気管16には分岐部15が集合する部分の直ぐ下流側に、広域空燃比センサ(限界電流式酸素濃度センサ、以下「LAFセンサ」という)17が設けられている。さらにLAFセンサ17の下流側には三元触媒19が設けられている。三元触媒19は、排気ガス中のHC,CO,NOx等の浄化を行う。
【0014】
LAFセンサ17は、ローパスフィルタ22を介してECU5に接続されており、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)に略比例した電気信号を出力し、その電気信号をECU5に供給する。
【0015】
また、ECU5には、大気圧を検出する大気圧(PA)センサ21が接続されており、その検出信号がECU5に供給される。
【0016】
ECU5は、上述した各種センサからの入力信号波形を整形して電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変化する等の機能を有する入力回路と、中央処理回路(CPU)と、該CPUで実行される各種演算プログラムや後述する各種マップ及び演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶回路と、燃料噴射弁12等の各種電磁弁や点火プラグに駆動信号を出力する出力回路とを備えている。
【0017】
ECU5は、上述の各種エンジン運転パラメータ信号に基づいて、LAFセンサ17の出力に応じたフィードバック制御運転領域やオープン制御運転領域等の種々のエンジン運転状態を判別するとともに、エンジン運転状態に応じ、下記数式1により燃料噴射弁12の燃料噴射時間TOUTを演算し、この演算結果に基づいて燃料噴射弁12を駆動する信号を出力する。
【0018】
【数1】
TOUT(N)=TIMF×KTOTAL×KCMDM×KFB×KOBSV#N
図2は上記数式1による燃料噴射時間TOUTの算出手法を説明するための機能ブロック図であり、これを参照して本実施の形態における燃料噴射時間TOUTの算出手法の概要を説明する。なお、本実施の形態ではエンジンへの燃料供給量は燃料噴射時間として算出されるが、これは噴射される燃料量に対応するので、TOUTを燃料噴射量若しくは燃料量とも呼んでいる。
【0019】
図2においてブロックB1は、吸入空気量に対応した基本燃料量TIMFを算出する。この基本燃料量TIMFは、基本的にはエンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて設定されるが、スロットル弁3からエンジン1の燃焼室に至る吸気系をモデル化し、その吸気系モデルに基づいて吸入空気の遅れを考慮した補正を行うことが望ましい。その場合には、検出パラメータとしてスロットル弁開度θTH及び大気圧PAをさらに用いる。
【0020】
ブロックB2〜B8は乗算ブロックであり、ブロックの入力パラメータを乗算して出力する。これらのブロックにより、上記数式1の演算が行われ、ブロックB5〜B8の出力として、気筒毎の燃料噴射量TOUT(N)が得られる。
【0021】
ブロックB9は、エンジン水温TWに応じて設定されるエンジン水温補正係数KTW,排気還流制御装置(図示せず)による排気還流実行中に排気還流量に応じて設定されるEGR補正係数KEGR,蒸発燃料処理装置(図示せず)によるパージ実行時にパージ燃料量に応じて設定されるパージ補正係数KPUG等のフィードフォワード系補正係数をすべて乗算することにより、補正係数KTOTALを算出し、ブロックB2に入力する。
【0022】
ブロックB21は、エンジン回転数NE、吸気管内絶対圧PBA等に応じて目標空燃比係数KCMDを決定し、ブロックB18、B19及びB23に入力する。目標空燃比係数KCMDは、空燃比A/Fの逆数、すなわち燃空比F/Aに比例し、理論空燃比のとき値1.0をとるので、目標当量比ともいう。ブロックB23は、KCMD値に応じて燃料冷却補正を行い最終目標空燃比係数KCMDMを算出し、ブロックB3に入力する。
【0023】
ブロックB10は、ローパスフィルタ22を介して入力されるLAFセンサ出力値を、CRK信号パルスの発生毎にサンプリングし、そのサンプル値をリングバッファメモリに順次記憶し、エンジン運転状態に応じて最適のタイミングでサンプリングしたサンプル値を選択し(LAFセンサ出力選択処理)、ブロックB11に入力するとともにローパスフィルタブロックB16及びB17を介してブロックB18及びB19に入力する。このLAFセンサ出力選択処理は、サンプリングのタイミングによっては変化する空燃比を正確に検出できないこと、燃焼室から排出される排気ガスがLAFセンサ17に到達するまでの時間やLAFセンサ自体の反応時間がエンジン運転状態によって変化することを考慮したものである。
【0024】
ブロックB11は、いわゆるオブザーバとしての機能を有し、LAFセンサ17によって検出される集合部(各気筒から排出された排気ガスの混合ガス)の空燃比に基づいて、各気筒毎の空燃比を推定し、4つの気筒に対応しているブロックB12〜B15及びブロックB19に入力する。図2においては、ブロックB12が気筒#1に対応し、ブロックB13が気筒#2に対応し、ブロックB14が気筒#3に対応し、ブロックB15が気筒#4に対応する。ブロックB12〜B15は、各気筒の空燃比(オブザーバブロックB11が推定した空燃比)が、集合部空燃比に一致するようにPID制御により気筒別補正係数KOBSV#N(N=1〜4)を算出し、それぞれブロックB5〜B8に入力する。
【0025】
ブロックB18は、検出空燃比と目標空燃比との偏差に応じてPID制御によりPID補正係数KLAFを算出してブロックB20に入力する。ブロックB19は、LAFセンサ17の検出空燃比及びオブザーバブロックB11が推定した各気筒の空燃比に基づいて適応制御(Self Tuning Regulation)により適応補正係数KSTRを算出してブロックB20に入力する。この適応制御は、目標空燃比係数KCMD(KCMDM)を基本燃料量TIMFに乗算するだけでは、エンジンの応答遅れがあるため目標空燃比がなまされた検出空燃比になってしまうため、これを動的に補償し、外乱に対するロバスト性を向上させるために導入したものである。
【0026】
ブロックB20は、入力されるPID補正係数KLAF及び適応補正係数KSTRのいずれか一方をエンジン運転状態に応じて選択し、フィードバック補正係数KFBとしてブロックB4に入力する。これは、エンジン運転状態によっては、適応制御ではなく従来のPID制御によって算出したKLAF値を用いた方がよいことを考慮したものである。
【0027】
以上のように本実施の形態では、LAFセンサ17の出力に応じて通常のPID制御により算出したPID補正係数KLAFと、適応制御により算出した適応補正係数KSTRとを切り換えて、補正係数KFBとして上記数式1に適用して、燃料噴射量TOUTを算出している。適応補正係数KSTRにより、検出される空燃比変化に対する追従性及び外乱に対するロバスト性を向上させ、触媒の浄化率を向上させ、種々のエンジン運転状態において良好な排気ガス特性を得ることができる。
【0028】
また、後述するように、LAFセンサ17の活性状態を含む気筒別空燃比フィードバック制御条件が成立したときには、上述したブロックB12〜B15で算出された気筒別補正係数KOBSV#Nをさらに上記数式1に適用して、気筒毎の燃料噴射量TOUT(N)を算出している。気筒別補正係数KOBSV#Nにより気筒毎の空燃比のばらつきを解消して、触媒の浄化率を向上させ、種々のエンジン運転状態において良好な排気ガス特性を得ることができる。
【0029】
本実施の形態では、上述した図2の各ブロックの機能は、ECU5のCPUによる演算処理により実現されるので、この処理のフローチャートを参照して処理の内容を具体的に説明する。
【0030】
図3は、LAFセンサ17の出力に応じて、PID補正係数KLAF及び適応補正係数KSTRを算出し、最終的にフィードバック補正係数KFBを算出するとともにLAFセンサ17の出力に応じて気筒別補正係数KOBSV#Nを算出する処理のフローチャートである。本処理はTDC信号パルスの発生毎に実行される。
【0031】
ステップS1では、始動モードか否か、すなわちクランキング中か否かを判別し、始動モードのときは始動モードの処理へ移行する(ステップS11)。始動モードでなければ、目標空燃比係数(目標当量比)KCMD及び最終目標空燃比係数KCMDMの算出(ステップS2)及びLAFセンサ出力選択処理を行う(ステップS3)とともに検出当量比KACTの演算を行う(ステップS4)。検出当量比KACTは、LAFセンサ17の出力を当量比に変換したものである。
【0032】
次いでLAFセンサ17の活性状態を判定するLAFセンサ活性判定処理を行う(ステップS5)。この処理は、後述するように、LAFセンサ17の活性状態を示す特性(本実施の形態においてはLAFセンサ17の内部抵抗RI)に応じてLAFセンサ17の活性の程度を検出する処理である。
【0033】
次にエンジン運転状態がLAFセンサ17の出力に基づくフィードバック制御を実行する運転領域(以下「LAFフィードバック領域」という)にあるか否かの判別を行う(ステップS6)。これは、LAFセンサ活性判定処理においてLAFセンサ17が所定程度活性化したことが検出され、且つエンジン1がフュエルカット中やスロットル全開運転中でないとき、LAFフィードバック領域と判定するものである。この判別の結果、LAFフィードバック領域にないときはリセットフラグFKLAFRESETを「1」に設定し、LAFフィードバック領域にあるときは「0」とする。
【0034】
続くステップS7では、リセットフラグFKLAFRESETが「1」か否かを判別し、FKLAFRESET=1のときは、ステップS8に進んでPID補正係数KLAF、適応補正係数KSTR及びフィードバック補正係数KFBをいずれも「1.0」に設定し、気筒別補正係数KOBSV#Nを後述する気筒別補正係数学習値KOBSV#Nstyに設定するとともに、PID制御の積分項KLAFIを「0」に設定して、本処理を終了する。また、FKLAFRESET=0のときは、気筒別補正係数KOBSV#N及びフィードバック補正係数KFBの演算を行って(ステップS9、S10))、本処理を終了する。
【0035】
図4は、図3のステップS5におけるLAFセンサ活性判定処理のフローチャートである。
【0036】
先ず、ステップS101では、LAFセンサ17の内部抵抗RIが第1の基準値RILAFよりも小さいか否かを判別する。この第1の基準値RILAFは、LAFセンサ17が空燃比の集合部フィードバック制御(PID制御及び適応制御のいずれか一方)の実行が可能な程度に活性化したか否かを判別するための基準値であって、例えばLAFセンサ17の素子温度が430℃のときのLAFセンサ17の内部抵抗値が第1の基準値RILAFとして設定される。
【0037】
上記ステップS101において、RI<RILAFであれば、ステップS102に進み、集合部フィードバック制御を実行することを「1」で示す集合部フィードバック制御実行フラグFLAFFBを「1」に設定し、ステップS104に進む。RI≧RILAFであれば、上記フラグFLAFFBを「0」に設定し、ステップS106に進む。
【0038】
ステップS104では、更にLAFセンサ17の内部抵抗RIが第2の基準値RIOBS(RIOBS<RILAF)よりも小さいか否かを判別する。この第2の基準値RIOBSはLAFセンサ17が空燃比の気筒別フィードバック制御の実行が可能な程度に活性化したか否かを判別するための基準値であって、例えばLAFセンサ17の素子温度が630℃に達したときの内部抵抗値が当該第2の基準値RIOBSとして設定される。
【0039】
上記ステップS104で、RI<RIOBSであれば、ステップS105に進み、空燃比の気筒別フィードバック制御を実行することを「1」で示す気筒別フィードバック制御実行フラグFOBSFBを「1」に設定し、処理を終了する一方、RI≧RIOBSであれば、ステップS106に進み、フラグFOBSFBを「0」に設定し、処理を終了する。
【0040】
図5は、図3のステップS6におけるLAFフィードバック領域判別処理のフローチャートである。
【0041】
先ずステップS121では、上述した集合部フィードバック制御実行フラグFLAFFBが「1」であるか否かを判別し、FLAFFB=1であれば、フュエルカット中であることを「1」で示すフラグFFCが「1」か否かを判別し(ステップS122)、FFC=0であるときは、スロットル弁全開中であることを「1」で示すフラグFWOTが「1」か否かを判別し(ステップS123)、FWOT=1でないときは、図示しないセンサによって検出したバッテリ電圧VBATが所定下限値VBLOWより低いか否かを判別する(ステップS124)。そして、ステップS121〜S124のいずれかの答が肯定(YES)のときは、LAFセンサ出力に基づくフィードバック制御を停止すべき旨を「1」で示すKLAFリセットフラグFKLAFRESETを「1」に設定する(ステップS132)。
【0042】
一方、ステップS121〜S124の答がすべて否定(NO)のときは、LAFセンサ出力に基づくフィードバック制御を実行可能と判定して、KLAFリセットフラグFKLAFRESETを「0」に設定する(ステップS131)。
【0043】
続くステップS134では、エンジン水温TWが所定下限水温TWLOW(例えば0℃)より低いか否かを判別する(ステップS134)。そして、TW<TWLOWであるときは、PID補正係数KLAFを現在値に維持すべきことを「1」で示すホールドフラグFKLAFHOLDを「1」に設定して(ステップS136)、本処理を終了する。一方、TW≧TWLOWであるときは、FKLAFHOLD=0として(ステップS135)、本処理を終了する。
【0044】
次に図3のステップS9における気筒別補正係数KOBSV#Nの算出処理について説明する。
【0045】
最初にオブザーバによる気筒別空燃比の推定手法について説明し、次に推定した気筒別空燃比に応じた気筒別補正係数KOBSV#Nの算出手法を説明する。
【0046】
排気系集合部の空燃比を各気筒の空燃比の時間的な寄与度を考慮した加重平均であると考え、時刻kのときの値を数式2のように表した。なお、燃料量(F)を操作量としたため、数式2では燃空比F/Aを用いている。
【0047】
【数2】
すなわち、集合部の燃空比は、気筒毎の過去の燃焼履歴に重みC(例えば直前に燃焼した気筒は40%、その前が30%、…など)を乗算したものの合計で表した。このモデルをブロック線図で表すと、図6のようになり、その状態方程式は数式3のようになる。
【0048】
【数3】
また、集合部の燃空比をy(k)とおくと、出力方程式は数式4のように表すことができる。
【0049】
【数4】
数式4において、u(k)は観測不可能であるため、この状態方程式からオブザーバを設計してもx(k)は観測することができない。そこで、4TDC前(すなわち、同一気筒)の空燃比は急激に変化しない定常運転状態にあると仮定してx(k+1)=x(k−3)とすると、数式4は数式5のようになる。
【0050】
【数5】
このように設定したモデルが4気筒エンジンの排気系をよくモデル化していることは実験的に確認されている。従って、集合部A/Fから気筒別空燃比を推定する問題は、数式6で示される状態方程式と出力方程式にてx(k)を観察する通常のカルマンフィルタの問題に帰着する。その荷重行列Q,Rを数式7のようにおいてリカッチの方程式を解くと、ゲイン行列Kは数式8のようになる。
【0051】
【数6】
【0052】
【数7】
【0053】
【数8】
本実施形態のモデルでは、一般的なオブザーバの構成における入力u(k)がないので、図7に示すようにy(k)のみを入力とする構成となり、これを数式で表すと数式9のようになる。
【0054】
【数9】
したがって、集合部燃空比y(k)及び過去の気筒別燃空比の推定値Xハット(k)から、今回の気筒別燃空比の推定値Xハット(k)を算出することができる。
【0055】
上記数式9を用いて気筒別燃空比Xハット(k+1)を算出する場合、集合部燃空比y(k)として、検出当量比KACT(k)が適用されるが、この検出当量比KACT(k)は、LAFセンサ17の応答遅れを含んでいるのに対し、CXハット(k)(4つの気筒別燃空比の重み付け加算値)は、遅れを含んでいない。そのため、数式9を用いたのでは、LAFセンサ17の応答遅れの影響で、気筒別燃空比を正確に推定することはできない。特にエンジン回転数NEが高いときは、TDC信号パルスの発生間隔が短くなるので応答遅れの影響が大きくなる。
【0056】
そこで、数式10により集合部燃空比の推定値yハット(k)を算出し、これを数式11に適用することにより、気筒別燃空比の推定値Xハット(k+1)を算出する。
【0057】
【数10】
【0058】
【数11】
上記数式10において、DLはLAFセンサ17の応答遅れの時定数に相当するパラメータであり、本実施形態では図8に示すDLテーブルを用いて算出される。DLテーブルは、DL値がエンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて0から1.0の間の値となるように設定されている。同図において、PBA1〜3はそれぞれ例えば、660mmHg,460mmHg,260mmHgであり、適宜補間演算を行って、検出したエンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じた時定数DLの算出を行う。なお、時定数DLの値は、実際の応答遅れ時間に相当する値より20%程度遅い時間に相当する値が最適であることが実験的に確認されている。
【0059】
なお、数式10及び11において、Xハット(k)の初期ベクトルは、例えば構成要素(xハット(k−3),xハット(k−2),xハット(k−1),xハット(k))の値が全て「1.0」のベクトルとし、数式10においてyハット(k−1)の初期値は「1.0」とする。
【0060】
このように、数式9におけるCXハット(k)を、LAFセンサの応答遅れを含んだ集合部燃空比の推定値yハット(k)に置き換えた数式11を用いることにより、LAFセンサの応答遅れを適切に補償して正確な気筒別空燃比の推定を行うことができる。なお、以下の説明における各気筒の推定当量比KACT#1(k)〜KACT#4(k)が、それぞれxハット(k)に相当する。
【0061】
次に推定した気筒別空燃比に基づいて気筒別補正係数KOBSV#Nを算出する手法を、図9を参照して説明する。
【0062】
先ず、数式12に示すように、集合部A/Fに対応する検出当量比KACTを全気筒の気筒別補正係数KOBSV#Nの平均値の前回演算値で除算して目標A/Fに対応する当量比としての目標値KCMDOBSV(k)を算出し、#1気筒の気筒別補正係数KOBSV#1は、その目標値KCMDOBSV(k)と#1気筒の推定当量比KACT#1(k)との偏差DKACT#1(k)(=KACT#1(k)−KCMDOBSV(k))が0となるように、PID制御により求める。
【0063】
【数12】
より具体的には、数式13により比例項KOBSVP#1、積分項KOBSVI#1及び微分項KOBSVD#1を求め、さらに数式14により気筒別補正係数KOBSV#1を算出する。
【0064】
【数13】
【0065】
【数14】
但し、KPOBSV、KIOBSV、KDOBSVは、夫々、基本比例項、基本積分項、基本微分項である。
【0066】
#2〜#4気筒についても同様の演算を行い、KOBSV#2〜#4を算出する。
【0067】
これにより、各気筒の空燃比は集合部空燃比に収束し、集合部空燃比はPID補正係数KLAFにより、目標空燃比に収束するので、結果的にすべての気筒の空燃比を目標空燃比に収束させることができる。
【0068】
さらに、この気筒別補正係数KOBSV#Nの学習値である気筒別補正係数学習値KOBSV#Nstyを以下の式により算出し記憶する。
【0069】
ここで、Cstyは重み係数、右辺のKOBSV#Nstyは前回学習値である。
【0070】
図10は、図3のステップS9における気筒別補正係数KOBSV#N算出処理のフローチャートである。
【0071】
先ずステップS331では、上述した気筒別フィードバック制御実行フラグFOBSFBが「1」であるか否かを判別する。FOBSFB=1であれば、上述したオブザーバによる気筒別空燃比の推定処理を行い(ステップS332)、次いでPID補正係数KLAFを現在値に維持すべきことを「1」で示すホールドフラグFKLAFHOLDが「1」か否かを判別し(ステップS333)、FKLAFHOLD=1であるときは、直ちに本処理を終了する。
【0072】
続くステップS334では、リセットフラグFKLAFRESETが「1」か否かを判別し、FKLAFRESET=0であるときは、エンジン回転数NEが所定回転数NOBSV(例えば3500rpm)より高いか否かを判別し(ステップS335)、NE≦NOBSVであるときは、吸気管内絶対圧PBAが所定上限圧PBOBSVH(例えば650mmHg)より高いか否かを判別し(ステップS336)、PBA≦PBOBSVHであるときは、エンジン回転数NEに応じて図11に示すように設定されたPBOBSVLテーブルを検索して、下限圧PBOBSVLを決定し(ステップS337)、吸気管内絶対圧PBAが下限圧PBOBSVLより低いか否かを判別する(ステップS338)。
【0073】
以上の判別の結果、ステップS331の答えが否定(NO)であるか、又はS334〜S336及びS338のいずれかの答が肯定(YES)のときは、ステップS340に進み、全ての気筒の気筒別補正係数KOBSV#Nを「1.0」に設定し、気筒別空燃比フィードバック制御は行わない。一方、ステップS331の答えが肯定(YES)であり、且つステップS334〜S336及びS338の答がすべて否定(NO)のときは、エンジン運転状態が図11に斜線で示す領域にあり、且つLAFセンサ17の活性の程度が高いものとして、気筒別空燃比フィードバック制御が実行可能と判定して、上述した手法により気筒別補正係数KOBSV#Nの演算を行って(ステップS339)、本処理を終了する。
【0074】
次に図3のステップS10におけるフィードバック補正係数KFBの算出処理を説明する。
【0075】
フィードバック補正係数KFBは、前述したようにエンジン運転状態に応じてPID補正係数KLAF又は適応補正係数KSTRに設定される。そこで、先ず図12を参照して、これらの補正係数の算出手法を説明する。
【0076】
図12は、PID補正係数KLAF算出処理のフローチャートである。
【0077】
同図のステップS301では、ホールドフラグFKLAFHOLDが「1」か否かを判別し、FKLAFHOLD=1のときは、直ちに本処理を終了し、FKLAFHOLD=0のときは、KLAFリセットフラグFKLAFRESETが「1」か否かを判別する(ステップS302)。その結果、FKLAFRESET=1のときは、ステップS303に進み、PID補正係数KLAFを1.0に設定するとともに、積分制御ゲインKI及び目標当量比KCMDと検出当量比KACTとの偏差DKAFを「0」に設定して、本処理を終了する。
【0078】
ステップS302でFKLAFRESET=1のときは、ステップS303に進み、PID補正係数KLAFを1.0に設定するとともに、積分制御ゲインKI及び目標当量比KCMDと検出当量比KACTとの偏差DKAFを「0」に設定して、本処理を終了する。
【0079】
ステップS302でFKLAFRESET=0のときは、ステップS304に進み、比例制御ゲインKP、積分制御ゲインKI及び微分制御ゲインKDをエンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて設定されたマップから検索する。ただし、アイドル状態のときはアイドル用のゲインを採用する。次いで、目標当量比KCMDと検出当量比KACTとの偏差DKAF(k)(=KCMD(k)−KACT(k))を算出し(ステップS305)、偏差DKAF(k)及び各制御ゲインKP,KI,KDを下記式に適用して、比例項KLAFP(k)、積分項KLAFI(k)及び微分項KLAFD(k)を算出する(ステップS306)。
【0080】
KLAFP(k)=DKAF(k)×KP
KLAFI(k)=DKAF(k)×KI+KLAFI(k−1)
KLAFD(k)=(DKAF(k)−DKAF(k−1))×KD
続くステップS307〜S310では、積分項KLAFI(k)のリミット処理を行う。すなわち、KLAFI(k)値が所定上下限値KLAFILMTH,KLAFILMTLの範囲内にあるか否かを判別し(ステップS307、S308)、KLAFI(k)>KLAFILMTHであるときは、KLAFI(k)=KLAFLMTHとし(ステップS310)、KLAFI(k)<KLAFILMTLであるときは、KLAFI(k)=KLAFILMTLとする(ステップS309)。
【0081】
続くステップS311では、下記式によりPID補正係数KLAF(k)を算出する。
【0082】
KLAF(k)=KLAFP(k)+KLAFI(k)+KLAFD(k)+1.0
次いで、KLAF(k)値が所定上限値KLAFLMTHより大きいか否かを判別し(ステップS312)、KLAF(k)>KLAFLMTHであるときは、KLAF(k)=KLAFLMTHとして(ステップS316)、本処理を終了する。
【0083】
ステップS312で、KLAF(k)≦KLAFLMTHであるときは、KLAF(k)値が所定下限値KLAFLMTLより小さいか否かを判別し(ステップS314)、KLAF(k)≧KLAFLMTLであれば直ちに本処理を終了する一方、KLAF(k)<KLAFLMTLであるときは、KLAF(k)=KLAFLMTLとして(ステップS315)、本処理を終了する。
【0084】
本処理により、検出当量比KACTが目標当量比KCMDに一致するように、PID制御によりPID補正係数KLAFが算出される。
【0085】
次に適応補正係数KSTR算出処理について、図13を参照して説明する。
【0086】
図13は、図2のブロックB19、すなわち適応制御(STR(Self Tuning Regulator))ブロックの構成を示すブロック図であり、このSTRブロックは、目標空燃比係数(目標当量比)KCMD(k)と検出当量比KACT(k)とが一致するように適応補正係数KSTRを設定するSTRコントローラと、該STRコントローラで使用するパラメータを設定するパラメータ調整機構とからなる。
【0087】
本実施の形態における適応制御の調整則の一つに、ランダウらが提案したパラメータ調整則がある。この手法は、適応システムを線形ブロックと非線形ブロックとから構成される等価フィードバック系に変換し、非線形ブロックについては入出力に関するポポフの積分不等式が成立し、線形ブロックは強正実となるように調整則を決めることによって、適応システムの安定を保証する手法である。この手法は、例えば「コンピュートロール」(コロナ社刊)No.27,28頁〜41頁、ないしは「自動制御ハンドブック」(オーム社刊)703頁〜707頁に記載されているように、公知技術である。
【0088】
本実施の形態では、このランダウらの調整則を用いた。以下説明すると、ランダウらの調整則では、離散系の制御対象の伝達関数A(Z−1)/B(Z−1)の分母分子の多項式を数式15のようにおいたとき、適応パラメータθハット(k)及び適応パラメータ調整機構への入力ζ(k)は、それぞれ数式16、17のように定められる。数式16、17では、m=1、n=1、d=3の場合、即ち1次系で3制御サイクル分の無駄時間を持つプラントを例にとった。ここで、kは時刻、より具体的には制御サイクルを示す。また、数式17において、u(k)及びy(k)は、本実施形態では、それぞれ適応補正係数KSTR(k)及び気筒別推定当量比KACT#N(k)に対応する。
【0089】
【数15】
【0090】
【数16】
【0091】
【数17】
ここで、適応パラメータθハット(k)は、数式18で表される。また、数式18中のΓ(k)及びeアスタリスク(k)は、それぞれゲイン行列及び同定誤差信号であり、数式19及び数式20のような漸化式で表される。
【0092】
【数18】
【0093】
【数19】
【0094】
【数20】
また数式19中のλ1(k)、λ2(k)の選び方により、種々の具体的なアルゴリズムが与えられる。λ1(k)=1,λ2(k)=λ(0<λ<2)とすると漸減ゲインアルゴリズム(λ=1の場合、最小自乗法)、λ1(k)=λ1(0<λ1<1)、λ2(k)=λ2(0<λ2<2)とすると、可変ゲインアルゴリズム(λ2=1の場合、重み付き最小自乗法)、λ1(k)/λ2(k)=σとおき、λ3が数式21のように表されるとき、λ1(k)=λ3とおくと固定トレースアルゴリズムとなる。また、λ1(k)=1,λ2(k)=0のとき固定ゲインアルゴリズムとなる。この場合は数式20から明らかなように、Γ(k)=Γ(k−1)となり、よってΓ(k)=Γの固定値となる。
【0095】
【数21】
ここで、図13にあっては、前記STRコントローラ(適応制御器)と適応パラメータ調整機構とは燃料噴射量演算系の外におかれ、検出当量比KACT(k)が目標当量比KCMD(k−d’)(ここでd’はKCMDがKACTに反映されるまでの無駄時間である)に適応的に一致するように動作して適応補正係数KSTR(k)を演算する。
【0096】
このように、適応補正係数KSTR(k)及び気筒別推定当量比KACT#N(k)が求められて適応パラメータ調整機構に入力され、そこで適応パラメータθハット(k)が算出されてSTRコントローラに入力される。STRコントローラには入力として目標当量比KCMD(k)が与えられ、検出当量比KACT(k)が目標当量比KCMD(k)に一致するように漸化式を用いて適応補正係数KSTR(k)が算出される。
【0097】
適応補正係数KSTR(k)は、具体的には数式22に示すように求められる。
【0098】
【数22】
以上の説明は、制御サイクルと制御周期(TDC信号パルスの発生周期)とを一致させ、全気筒について共通の適応補正係数KSTRを使用する場合のものであるが、本実施形態では、制御サイクルを気筒数と対応させて4TDCとすることにより、気筒毎に適応補正係数KSTRを決定するようにしている。具体的には、上記数式17〜22をそれぞれ数式23〜28に置き換えて、適応補正係数KSTRを決定することにより、LAFセンサ17の活性の程度が高いときには、図10のステップS332で算出された各気筒の空燃比(気筒別推定当量比KACT#N(k))に応じて気筒別の適応補正係数KSTRを算出して適応制御を行っている。
【0099】
【数23】
【0100】
【数24】
【0101】
【数25】
【0102】
【数26】
【0103】
【数27】
【0104】
【数28】
なお、上記数式28におけるd’は、例えば「2」とする。
【0105】
以上のように本実施形態では、LAFセンサ17の活性の程度が高いときには、図10のステップS332で推定される気筒別空燃比に応じて、適応補正係数KSTRを気筒別に算出するとともに、適応パラメータ調整機構に入力するy(k)を、検出当量比KACT(k)ではなく気筒別推定当量比KACT#N(k)としたので、気筒毎の特性の違いが適応パラメータに適切に反映され、空燃比の制御性能を向上させることができる。
【0106】
次に上述のようにして算出するPID補正係数KLAFと適応補正係数KSTRとを切り換えて、すなわちPID制御と適応制御とを切り換えて、フィードバック補正係数KFBを算出する手法を説明する。
【0107】
図14は、図3のステップS10におけるフィードバック補正係数KFBの算出処理のフローチャートである。
【0108】
先ずステップS401では、図3の処理の前回実行時がオープンループ制御であったか(FKLAFRESET=1であったか)否かを判別し、オープンループ制御でなかったときは、目標当量比KCMDの変化量DKCMD(=|KCMD(k)−KCMD(k−1)|)が基準値DKCMDREFより大きいか否かを判別する(ステップS402)。そして、前回がオープンループ制御だったとき又は、前回がフィードバック制御であり且つ変化量DKCMDが基準値DKCMDREFより大きいときは、低応答のフィードバック制御を実行すべき領域(以下「低応答F/B領域」という)と判定し、カウンタCを「0」にリセットするとともに(ステップS403)、低応答のフィードバック制御処理を行い(ステップS411)、本処理を終了する。
【0109】
この低応答のフィードバック制御処理においては、前述した図12の処理によりPID補正係数KLAFが算出され、フィードバック補正係数KFBが該算出されたPID補正係数KLAF(k)に設定される。
【0110】
なお、前回がオープンループ制御であったときに、低応答F/B領域と判定するのは、例えばフュエルカット状態からの復帰時のような場合には、LAFセンサの検出遅れなどから、必ずしも検出値が真の値を示すとは限らないため、制御が不安定となる可能性があるからである。また、同様の理由で、目標当量比KCMDの変化量DKCMDが大きいとき、例えばスロットル全開増量状態から復帰したとき、リーンバーン制御から理論空燃比制御に復帰したとき等においても低応答F/B領域と判定している。
【0111】
ステップS401及びS402の答がともに否定(NO)のとき、すなわち前回もフィードバック制御であり、かつ目標当量比KCMDの変化量DKCMDが基準値DKCMDREF以下のときは、カウンタCを「1」だけインクリメントして(ステップS404)、カウンタCの値が所定値CREF(例えば5)以下か否かを判別し(ステップS405)、C≦CREFであるときは前記ステップS411を実行し、一方C>CREFであるときはステップS406へ進む。ステップS406ではF/B判別処理、すなわち高応答のフィードバック制御を実行すべき領域(以下「高応答F/B領域」という)であるか、低応答F/B領域であるかを判別する。
【0112】
このF/B判別処理においては、エンジン水温TWが所定範囲内にあり、エンジン回転数NEが所定の高回転域にあり、エンジンがアイドル域にあり、且つLAFセンサ17、クランク角度位置センサ14(気筒判別センサ、TDCセンサ、CRKセンサ)且つ又スロットル弁開度θTHセンサ4等の各種センサに異常がないとき等に、高応答フィードバック制御が選択され、上記以外の場合は低応答のフィードバック制御が選択される。エンジンがこのような運転状態のときは、エンジンの燃焼状態が安定しているので高応答のフィードバック制御を行っても制御の安定性を損なうことがない。また、各センサの異常時に高応答のフィードバック制御を行うと空燃比制御の悪化を招くため、低応答のフィードバック制御を行う。
【0113】
次にステップS407では、ステップS406で判別された制御領域が、高応答F/B領域であるか否かを判別し、高応答F/B領域でないときは前記ステップS411を実行する。一方、高応答フィードバック制御領域であるときは高応答のフィードバック制御処理を行って適応補正係数KSTRを算出する(ステップS408)。
【0114】
この処理においては、前述した手法により適応補正係数KSTRを算出する一方、前回適応制御が実行されていなければ、適応パラメータ(ゲインを決定するスカラ量)b0を、PID補正係数の前回値KLAF(k−1)で除算した値に置き換え、PID制御から適応制御への切換をより滑らかに行い、制御の安定性を確保するようにしている。
【0115】
次に、適応補正係数KSTRと1.0との差の絶対値|KSTR(k)−1.0|が基準値KSTRREFより大きいか否かを判別し(ステップS409)、|KSTR(k)−1.0|>KSTRREFであるときは、前記ステップS411に進む一方、|KSTR(k)−1.0|≦KSTRREFであるときは、フィードバック補正係数KFBをKSTR値に設定して(ステップS410)、本処理を終了する。
【0116】
ここで、適応補正係数KSTRと1.0との差の絶対値が基準値KSTRREFより大きいときに「低応答フィードバック処理」を選択するのは、制御の安定性確保のためである。
【0117】
また、カウンタCの値がCREF値以下のときに低応答F/B領域であるとするのは、オープンループ制御からの復帰直後や目標当量比KCMDが大きく変化した直後は、燃料の燃焼が完了するまでの遅れやLAFセンサの検出遅れの影響を吸収できないからである。
【0118】
図15は、LAFセンサ17の活性状態(内部抵抗RI)と空燃比制御手法との関係を説明する図である。
【0119】
エンジン1の始動後(時刻t0以後)、LAFセンサ17の素子温度が上昇するにつれてその内部抵抗RIは低下していく。時刻t1にRI値が第1の基準値RILAFを下回ると集合部フィードバック制御実行フラグFLAFFBが「0」から「1」に切り替わって、エンジン1の運転状態に応じてPID制御又は適応制御のいずれかの集合部フィードバック制御が実行される。
【0120】
LAFセンサ17の素子温度が更に上昇して、時刻t2に内部抵抗RIが第2の基準値RIOBSを下回ると気筒別フィードバック制御実行フラグFOBSFBが「0」から「1」に切り替わって、気筒別フィードバック制御が開始される。
【0121】
以上説明したように、本実施の形態の内燃機関の空燃比制御装置によれば、LAFセンサ17の内部抵抗RIが第2の基準値RIOBS以上の値であるときは、LAFセンサ17の活性の程度が低いものとして、PID制御及び適応制御のいずれかの手法による空燃比の集合部フィードバック制御が実行される一方、内部抵抗RIが第2の基準値RIOBSを下回っているときは、LAFセンサ17の活性の程度が高いものとして、空燃比の気筒別フィードバック制御が実行される。これによって、LAFセンサ17が制御温度に達してから空燃比の気筒別フィードバック制御が開始されるので、各気筒の空燃比を精確に推定することができるため、気筒別空燃比の発振を招くことがなく、排気ガス特性を向上させることができる。
【0122】
尚、上述した実施形態においては、LAFセンサ17の活性の程度が低いときに、空燃比の集合部フィードバック制御としてPID制御と適応制御とを選択的に実行する構成としたが、これに限られるものではなく、LAFセンサ17の活性の程度が低いときに、空燃比の集合部フィードバック制御としてPID制御又は適応制御のいずれか一方のみを実行するようにしてもよい。
【0123】
また、LAFセンサ17の活性の程度が低いときに、空燃比の気筒別フィードバック制御を停止する代わりに、制御ゲインを小さくするようにしてもよい。
【0124】
【発明の効果】
請求項1記載の内燃機関の制御装置によれば、複数の気筒を有する内燃機関の排気系集合部に設けられ内燃機関に供給される混合気の空燃比に略比例する値の信号を出力する空燃比センサの活性状態が判定され、この結果、空燃比センサの活性の程度が低いときは空燃比の集合部フィードバック制御が実行される一方、空燃比センサの活性の程度が高いときは空燃比の気筒別フィードバック制御が実行される。これによって、複数の気筒を有する内燃機関における精度の高い空燃比制御をできるだけ早く開始するようにし、空燃比の発振を防止して排気ガス特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態に係る内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態における空燃比制御手法を説明するための機能ブロック図である。
【図3】LAFセンサ出力に基づいて空燃比補正係数を算出する処理のフローチャートである。
【図4】LAFセンサの活性状態を判定する処理のフローチャートである。
【図5】LAFフィードバック領域判別処理のフローチャートである。
【図6】内燃機関の排気系の挙動を示すモデルのブロック図である。
【図7】本実施形態におけるオブザーバの構成を示すブロック図である。
【図8】LAFセンサの応答遅れ時定数(DL)を設定するためのテーブルを示す図である。
【図9】気筒別空燃比フィードバック制御を説明するためのブロック図である。
【図10】気筒別補正係数(KOBSV#N)を算出する処理のフローチャートである。
【図11】気筒別空燃比フィードバック制御を実行する運転領域を示す図である。
【図12】PID補正係数(KLAF)算出処理のフローチャートである。
【図13】適応補正係数(KSTR)の算出処理を説明するためのブロック図である。
【図14】フィードバック補正係数(KFB)の算出処理のフローチャートである。
【図15】本実施の形態の空燃比制御装置の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 吸気管
5 電子コントロールユニット(ECU)
12 燃料噴射弁
16 排気管
17 広域空燃比センサ(LAFセンサ)
Claims (1)
- 複数の気筒を有する内燃機関の排気系集合部に設けられ前記内燃機関に供給される混合気の空燃比に略比例する値の信号を出力する空燃比センサと、前記空燃比センサによって検出される前記排気系集合部の空燃比に基づいて各気筒毎の空燃比を推定するオブザーバと、該空燃比センサの出力信号に基づいて前記排気系集合部の空燃比が目標空燃比と一致するように前記内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する集合部フィードバック制御と前記オブザーバの推定結果に基づいて各気筒毎に供給される混合気の空燃比を演算し該演算された各気筒の空燃比が目標空燃比と一致するように前記内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する気筒別フィードバック制御とを実行する空燃比フィードバック制御手段と、前記空燃比センサの活性状態を判定する活性判定手段と、前記空燃比センサの活性の程度が低いときは前記空燃比フィードバック制御手段に前記集合部フィードバック制御を実行させる一方、前記空燃比センサの活性の程度が高いときは前記空燃比フィードバック制御手段に前記気筒別フィードバック制御を実行させるように制御するフィードバック制御選択手段とを具備したことを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
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