JP3742928B2 - インクジェットプリンタ用インクタンク弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットプリンタ用部材の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、プラスチック基体と弾性材料層とが複合化されてなるインクジェットプリンタ用部材を多色射出成形又はインサート成形により効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェットプリンタにおいては、インクが充填されるインク室と、記録ヘッド部にインクを供給するインク供給部とを有するインクタンクが装着されている。そして、このインクタンクの形式としては、例えばキャリッジに対し固定的に取付けられた記録ヘッドに対して、装置内をはい回されたチューブを介してインクを供給するように構成され、装置に対して着脱自在なもの、あるいは記録ヘッドと一体的に構成され、キャリッジに対して着脱自在なものなどがある。
前者のインクタンクにおいては、記録ヘッドに対して水頭差を設けることでインクを供給する形態をとっており、一方、後者においては、インクタンク側に負圧発生源を備えることで、記録ヘッドにインクを供給する形態をとっている。
近年、装置の小型化やメインテナンスの容易性などの面から、後者の形態のインクタンクを採用する装置が多く提案されている。
このようなインクタンクには、記録時に記録ヘッドから吐出されるインク量に見合ったインクを良好に供給できるとともに、非記録時においては吐出口からのインクの洩れなどがないことが要求される。
【0003】
このような要求を満たすインクタンクとしては、例えば記録ヘッドとインクタンクとが一体化され、キャリッジに対して着脱自在とされたカートリッジであって、インクタンク内に吸収体(発泡体)が充填されているものがある。このように、インクタンク内に吸収体を充填することで、記録ヘッドのインク吐出部で安定したインクのメニスカスを維持することができ、また、この吸収体の毛細管力によってインクタンク内でインクが保持されている。この場合、インクタンク内ほぼ全体に吸収体が充填されていることが必要であり、吸収体が最大保持可能なインク量よりもやや少ないインク量を吸収体に保持させておくことにより、毛細管力を利用して内部負圧を発生させている。したがって、記録ヘッド及びインクタンクに振動などの機械的衝撃や温度変化などの熱的衝撃などが付与された場合でも、記録ヘッドの吐出部やインクタンクの大気連通部からのインクの洩出が少なく、安定したインクの保持を行うことができる。
【0004】
しかしながら、インクタンク内全体に吸収体を充填した方式は、インクの消費に伴って吸収体の負圧が大きくなり、記録ヘッドに供給されずにインクタンク内に残るインク量が多く、使用効率が悪いという問題を有している。
このような問題を解決するために、例えばインク室とインク供給部とを分割する位置に設けられ、かつ該インク室とインク供給部との圧力差により移動し、インク室に充填されたインクを記録ヘッド部に供給するインクタンク弁の使用が試みられている(特開平8−174860号公報)。
このようなインクタンク弁を装着することにより、記録ヘッドとの間の微小な差圧に確実に応動し、かつキャリッジの移動によるインクの揺動に左右されることなく、記録ヘッドとの間で印字に適した負圧を維持して記録ヘッドに確実にインクを供給でき、さらには温度変化によるインク供給口からのインクの漏洩や、記録ヘッドからのインクの漏洩を防止することができる。
【0005】
このインクタンク弁においては、通常、弾性材料が用いられており、また、例えばプラスチック基体に弾性材料を接着したものなどが用いられている。従来からこのようなプラスチック基体に弾性材料を接着させた部材を製造する場合には、プラスチック基体と弾性材料とをそれぞれ別々に成形して、しかる後にこれらを接着させる手法が採られているが、工程数が多く、また操作も煩雑であって、製造コストが高くついていた。
また、インク供給口などには、インクが洩れるのを防止するためにシール部材が設けられている。このシール部材は、従来、例えば(1)プラスチック部材に接着剤を塗布し、上から金属板を押え付けてシール部形状に型付けする方法、(2)熱硬化性ゴムのOリング又は熱硬化性ゴムの平板などから所定形状に打ち抜いて得られたシール部材、あるいは熱硬化性ゴムを所定形状に射出成形して得られたシール部材などを、プラスチック部材に後から嵌着させる方法、などによって装着されている。
【0006】
しかしながら、上記(1)の接着剤を塗布する方法は、接着剤の管理が煩雑である、はみ出した接着剤の後処理が必要である、などの問題を有している。一方、シール部材を後から嵌着させる方法においては、予めシール部材を所定形状のものにする必要があるため、加工工数が多くなり、コストが高くつくのを避けられないなどの問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来のインクジェットプリンタ用部材の製造方法、例えばインクタンク弁などのプラスチック基体に弾性材料を接着させてなる部材の製造方法、あるいはシール部材をプラスチック部材に装着させる方法、などがもつ問題を解決するための技術を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多色射出成形やインサート成形を採用することにより、プラスチック基体と熱可塑性エラストマーからなる弾性材料層とが一体的に複合化された部材、例えばインクタンク弁やパッキン付部材などが、簡単な工程で生産効率よく、経済的に有利に得られ、その目的を達成しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)プラスチック基体用材料と熱可塑性エラストマーからなる弾性材料を、順次金型内に溶融射出する多色射出成形により、該基体の一部と弾性材料層とを複合化することを特徴とするインクジェットプリンタ用部材の製造方法、
(2)金型内に所定形状のプラスチック基体を予め載置したのち、これに熱可塑性エラストマーからなる弾性材料を溶融射出するインサート成形により、該基体の一部と弾性材料層とを複合化することを特徴とするインクジェットプリンタ用部材の製造方法、
を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のインクジェットプリンタ用部材は、プラスチック基体とその表面に設けられた弾性材料層とが、一体的に複合化されたものであって、このような部材としては、インクジェットプリンタにおいて、プラスチック基体に弾性材料層が設けられている部材であればよく、特に制限はない。例えば、インク室とインク供給部とを分割する位置に設けられ、かつ該インク室とインク供給部との圧力差により移動し、インク室に充填されたインクを記録ヘッド部に供給するインクタンク弁、あるいはインクタンクのインク供給口に設けられ、かつ該インク供給口からインクが洩れるのを防止するシール部材が設けられているパーツなどを好ましく挙げることができる。
このような、プラスチック基体と弾性材料層とが一体的に複合化された部材は、本発明の方法によれば、多色射出成形法又はインサート成形法により製造されるが、この場合、弾性材料層を形成する弾性材料として、多色射出成形又はインサート成形が容易である熱可塑性エラストマーを選択することが望ましい。
【0010】
このような弾性材料としては、熱可塑性エラストマーであれば特に制限されず、様々な状況に応じて、適宜選定使用すればよく、例えばスチレン系,オレフィン系,ウレタン系,エステル系等の熱可塑性エラストマーを用いることができ、特にビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなる共重合体の熱可塑性エラストマーを含有するものが好ましく用いられる。
より具体的には、例えば、
▲1▼ ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、
▲2▼ ポリブタジエンとポリスチレンとのブロック共重合体、及びポリイソプレンとポリスチレンとのブロック共重合体、あるいは、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)など、中でも、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体又はスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体、
などを挙げることができる。
【0011】
これらの中で、特に▲2▼に挙げられた、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体であって、その数平均分子量が180000以上であるものが、インクジェットプリンタ用部材に用いたときの耐久性の点で好ましく、特に200000以上であるものがより好ましい。またその上限は特に制限はないが、通常は400000程度である。
すなわち、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つ(1セグメント)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水添して得られるものが好ましいが、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも二つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つとを有するブロック共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等)を水添して得られる水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0012】
また、この水添ブロック共重合体に類似した水添ブロック共重合体として、カルボン酸基若しくは無水マレイン酸基又はこれらの誘導体基を含有する分子単位が結合した変性ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体も好ましい。
上記ブロック共重合体の非晶質スチレンブロックの含有量は、10〜70重量%、好ましくは15〜60重量%の範囲のものが望ましい。また、非晶質スチレンブロック部のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上、好ましくは80℃以上であるものが望ましい。また、両末端の非晶質スチレンブロックを連結する部分の重合体としては、やはり非晶質のものが好ましく、例えば、エチレン−ブチレン共重合体、ブタジエン重合体、イソプレン重合体等を挙げることができ、これらのブロックあるいはランダム共重合体であってもよい。
なお、これらの各種熱可塑性エラストマーは主に単独で用いられるが、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0013】
この弾性材料においては、前記熱可塑性エラストマーを低硬度化する目的で、所望により軟化剤を配合することができる。この軟化剤としては特に制限はなく、従来プラスチックやゴムの軟化剤として慣用されているものの中から、任意のものを選択して用いることができるが、数平均分子量が20000未満の低分子物質が好ましく、物性的には、100℃における粘度が5×105センチポイズ以下、特に、1×105センチポイズ以下であるものが好ましい。また、分子量の観点からは、数平均分子量は20000未満、特に10000以下、とりわけ5000以下であるものが好ましい。このような軟化剤としては、通常、室温で液体または液状のものが好適に用いられる。また、親水性,疎水性のいずれの軟化剤も使用できる。
このような性状を有する軟化剤としては、例えば鉱物油系,植物油系,合成系などの各種ゴム用又は樹脂用軟化剤の中から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系としては、ナフテン系,パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、植物油系としては、ひまし油,綿実油,あまに油,なたね油,大豆油,パーム油,梛子油,落花生油,木ろう,パインオイル,オリーブ油などが挙げられる。
なかでも、鉱物油系のパラフィン系オイル,ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上であって、その数平均分子量が450〜5000であるものが好ましい。
【0014】
なお、これらの軟化剤は一種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば二種以上を混合して用いてもよい。
これらの軟化剤の配合量は特に制限はないが、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対し、通常50〜1000重量部、好ましくは50〜300重量部の範囲で選ばれる。この量が50重量部未満では充分な低硬度化が達成できず弾性材料の柔軟性が不充分となるおそれがあり、また1000重量部を超えると軟化剤がブリードしやすくなり、かつ弾性材料の機械的強度が低下する原因となる。本発明において用いられる弾性材料においては、それを構成する高分子有機材料は、三次元連続の網状骨格構造を有することが好ましく、形成される三次元連続の網状骨格構造は、その骨格の平均径が50μm以下、好ましくは30μm以下、セル(網目)の平均径は、500μm以下、好ましくは300μm以下であり、高分子有機材料の体積分率を〔高分子有機材料の体積/(高分子有機材料の体積+軟化剤の体積)〕×100(%)と定義したとき、高分子有機材料の体積分率が50%以下、特に33%以下であるのが好ましい。
【0015】
また、多量の軟化剤とより少ない量の高分子有機材料を含む弾性材料を得るために、用いる軟化剤と高分子有機材料の各々の溶解度パラメーター値δ=(ΔE/V)1/2 (ΔE=モル蒸発エネルギー,V=モル体積)の差が3.0以下、好ましくは2.5以下となるように、両材料を選択することが好ましい。この差が3.0を超えると両材料の相溶性の点から、軟化剤が多量に保持されにくく、得られる弾性材料の低硬度化の障害となり、また、軟化剤のブリードが発生しやすくなるため好ましくない。
また、本発明に係る弾性材料には、材料の圧縮永久歪みを改善するなどの目的で、所望によりポリフェニレンエーテル樹脂を配合することができる。ここで用いられるポリフェニレンエーテル樹脂は、下記一般式で表される繰り返し単位からなる単独重合体又は該繰り返し単位を含む共重合体である。
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、R1,R2,R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子,ハロゲン原子又は炭化水素基を表す。)
このポリフェニレンエーテル樹脂は公知のものを用いることができ、具体的には、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、また、2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。なかでも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)や2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらに、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0018】
ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、弾性材料100重量部に対して10〜250重量部の範囲で好適に選択することができる。この配合量が250重量部を超えると弾性材料の硬度が高くなるおそれがあり、10重量部未満では配合して得られる圧縮永久歪みの改善効果が不十分であるため、いずれも好ましくない。
また、本発明に係る弾性材料は、クレー,珪藻土,シリカ,タルク,硫酸バリウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,金属酸化物,マイカ,グラファイト,水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系添加剤、各種の金属粉,木片,ガラス粉,セラミックス粉,粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤,その他の各種の天然または人工の短繊維,長繊維(例えば、ワラ,毛,ガラスファイバー,金属ファイバー、その他各種のポリマーファイバー等)などを配合することができる。
【0019】
また、中空フィラー、例えば、ガラスバルーン,シリカバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン,ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。更に軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
本発明に係る弾性材料には、前記成分のほか、諸特性の改良のため、公知の樹脂成分などの添加剤を併用することができる。
樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂などを併用することができる。これらを添加することにより本発明に係る弾性材料の加工性、耐熱性の向上を図ることができる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン,アイソタクティックポリプロピレン,プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体,プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリブテン−1などを挙げることができる。ポリオレフィン樹脂としてアイソタクティックポリプロピレン又はその共重合体を用いる場合、そのMFR(JIS K7210)が0.1〜50g/10分、特に0.5〜30g/10分の範囲のものが好適に使用できる。
【0020】
また、ポリスチレン樹脂としては、公知の製造方法で得られたものであれば、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれで得られたものも好適に使用できる。ポリスチレン樹脂の数平均分子量は、好ましくは5000〜500000、より好ましくは10000〜200000の範囲から選択でき、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)〕は5以下のものが好ましい。
このポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60重量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、これらは一種または二種以上を併用してもよい。さらに、これらポリマーを構成するモノマーの混合物を重合して得られる共重合体も用いることができる。
また、前記ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とを併用することもできる。本発明に係る弾性材料にこれらの樹脂を添加する場合、ポリオレフィン樹脂単独を添加する場合に比較してポリスチレン樹脂を併用すると、得られる材料の硬度が高くなる傾向にある。したがって、これらの配合比率を選択することにより、得られる弾性材料の硬度を調整することもできる。この場合、ポリオレフィン樹脂/ポリスチレン樹脂の比率は95/5〜5/95(重量比)の範囲から選択することが好ましい。
【0021】
これらの樹脂成分を併用する場合、本発明の効果を損なわない範囲において使用すべきであり、配合量は熱可塑性エラストマー100重量部に対して、0〜100重量部程度であることが好ましい。樹脂成分の配合量が100重量部を超えると得られる弾性材料の硬度が高くなり過ぎるため好ましくない。
また、他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤,抗菌剤,ヒンダードアミン系光安定剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤,着色剤,シリコーンオイル,クマロン樹脂,クマロン−インデン樹脂,フェノールテルペン樹脂,石油系炭化水素,ロジン誘導体などの各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、レオストマーB(商品名:理研ビニル社製)などの各種接着剤性エラストマー、ハイブラー(商品名:クラレ社製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体)、ノーレックス(商品名:日本ゼオン社製、ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを併用することができる。
【0022】
本発明に係る弾性材料の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、前記の各成分及び所望により用いられる添加剤成分を加熱混練機、例えば、一軸押出機,二軸押出機,ロール,バンバリーミキサー,プラベンダー,ニーダー,高剪断型ミキサーなどを用いて溶融混練りし、さらに、所望により有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加したり、又は、これら必要な成分を同時に混合し、加熱溶融混練りすることにより、容易に製造することができる。
また、高分子有機材料と軟化剤とを混練りした弾性材料を予め用意し、この材料を、ここに用いたものと同種か若しくは種類の異なる一種以上の高分子有機材料に更に混ぜ合わせて製造することもできる。
さらに、本発明に係る弾性材料においては、有機パーオキサイドなどの架橋剤,架橋助剤などを添加して架橋することも可能である。
【0023】
ここで、部分架橋のために添加し得る架橋剤としては、有機パーオキサイドが好適に挙げられ、具体的には、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−ヘキサン;t−ブチルパーオキシベンゾエート;ジクミルパーオキサイド;t−ブチルクミルパーオキサイド;ジイソプロピルベンゾハイドロパーオキサイド;1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)−ベンゼン;ベンゾイルパーオキサイド;1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられ、また、有用な架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン,トリメチロールプロパントリアクリレート,エチレンジメタクリレート,ジアリルフタレート,キノンジオキシム,フェニレンビスマレイミド,ポリエチレングリコールジメタクリレート,不飽和シラン化合物などが挙げられる。これら有機パーオキサイド及び架橋助剤は、配合材料全体を100重量部としたとき、0.1〜5重量部の範囲で、任意に使用して架橋度を調整することができる。これらの有機パーオキサイド及び架橋助剤は、必要に応じてそれぞれ二種以上を併用することもできる。なお、架橋助剤として不飽和シラン化合物を使用した場合には、さらにシラノール縮合触媒の存在下で水分と接触させて架橋を進行させることができる。
【0024】
従来の熱硬化性ゴムでは、多色射成形やインサート成形により、プラスチック基体と該熱硬化性ゴム層とを一体的に複合化させることが困難であったが、前記したようなSEBS,SEPSなどの熱可塑性エラストマーを含む弾性材料を用いることにより、多色射出成形やインサート成形が可能となり、低いコストでインクジェットプリンタ用部材を作製することができる。
【0025】
一方、本発明のインクジェットプリンタ用部材において、プラスチック基体の材料として用いられる樹脂としては特に制限はなく、例えばアクリロトニトリルスチレン(AS)樹脂,アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂,ポリスチレン,シンジオタクティクポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンチテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、アクリル系樹脂、ポリアセタール,ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂の中から、該部材の用途などに応じて、適宜選択すればよい。また、これらの樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のインクジェットプリンタ用部材、すなわちプラスチック基体とその表面に設けられた弾性材料層とが一体的に複合化された部材は、多色射出成形法及びインサート成形法のいずれによっても製造することができるが、どちらの方法を採用するのが有利であるかは、複合化すべき部材の種類に応じて、適宜決めればよい。
【0026】
例えば、インクジェットプリンタにおいて、インク室とインク供給部とを分割する位置に設けられ、かつ該インク室とインク供給部との圧力差により移動し、インク室に充填されたインクを記録ヘッド部に供給するインクタンク弁は、通常プラスチック基体の表面に弾性材料層が形成された構造を有しており、このようなインクタンク弁を作製する場合には、多色射出成形法を採用するのが有利である。もちろん、このインクタンク弁は、インサート成形法によっても作製することができる。
一方、インクタンクのインク供給口に設けられ、該インク供給口からインクが洩れるのを防止するシール部材回り、あるいはインク供給部と記録ヘッドを連結する連結部に設けられているシール部材回りのシール部材付きパーツを作製する場合には、インサート成形法を採用するのが有利である。もちろん、このシール部付きパーツは、多色射出成形法によっても作製することができる。
【0027】
次に、多色射出成形法及びインサート成形法について説明する。多色射出成形法においては、まず、プラスチック基体用材料を専用の射出成形機により、金型内に溶融射出成形し、次いでこのプラスチック成形物が固化進行中に、弾性材料を専用の射出成形機により溶融射出成形して、該プラスチック成形物の一部に弾性材料層を設置することにより、プラスチック基体とその表面に設けられた弾性材料層とが一体的に複合化された所望の部材が得られる。
このような多色射出成形法は、生産効率が高く、インクタンク弁などを低コストで作製することができる。
一方、インサート成形法においては、予めプラスチック基体用材料を用いて、公知の各種成形法により、所定形状のプラスチック基体を作製し、このプラスチック基体を金型内に載置する。次いで、これに、弾性材料を射出成形機により溶融射出成形して、該プラスチック基体の一部に弾性材料層を設置することにより、プラスチック基体とその一部に設けられた弾性材料層とが一体的に複合化された所望の部材が得られる。
【0028】
このようなインサート成形法により、例えはシール部材付きパーツなどを、低いコストで、効率よく作製することができる。従来、シール部材の装着方法としては、前述のように、接着剤をプラスチック部材に塗布し、上から金属板を押え付けてシール部形状に型付けする方法や、予め作製しておいた所定形状のシール部材を、プラスチック部材に後から嵌着させる方法などが用いられている。しかし、接着剤を塗布する方法は、接着剤の管理が煩雑である、はみ出した接着剤の後処理が必要である、などの問題を有し、一方、シール部材を後から嵌着させる方法においては、予めシール部材を所定形状のものにする必要があるため、加工工数が多くなり、コストが高くつくのを避けられない上、シール部材が柔らかいと嵌着工程を簡略化しにくいなどの問題があった。
これに対し、前記のインサート成形法によるシール部材付きパーツの製造方法においては、接着剤の塗布方法に比べて、接着剤の煩雑な管理が不要である、接着剤のはみ出しによるバリなどの後処理が不要である、などの長所を有し、またシール部材を後から嵌着させる方法に比べて、工程数が少なくてコストダウンが図れる。しかも精度よく成形しうるので、シールの信頼性が高い、などの長所を有している。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)弾性材料の調製
スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体〔数平均分子量20万,SP値(溶解度係数)8.5〕100重量部、パラフィン系オイル〔出光興産(株)製,商品名:PW380,分子量750,SP値7.8〕140重量部、ポリプロピレン樹脂13重量部及びポリフェニレンエーテル樹脂10重量部を混練して弾性材料を調製した。
この弾性材料のJIS A硬度は20度であった。
(2)二色射出成形法によるインクタンク弁の作製
図1に示す形状のインクタンク弁を二色射出成形法により作製した。
図1(a)は、本実施例で作製したインクタンク弁の斜視図であり、図1(b)はその断面図である。図において、1はポリプロピレン樹脂からなる外筒部、2は弾性材料からなる弁部、3はインク供給穴を示し、数値の単位はmmである。
成形機として日精樹脂工業(株)製DC40E5ASE機を用い、まず金型温度60℃、樹脂温度190℃の条件で、ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、次いで、これに、金型温度60℃、樹脂温度190〜230℃の条件で、上記(1)で得られた弾性材料を溶融射出成形することにより、ポリプロピレン樹脂からなる外筒部と弾性材料からなる弁部とが一体的に複合化されたインクタンク弁を作製した。
【0030】
このようにして得られた弁をインクタンクのインク室とインク供給部とを分割する位置に装着して、インク供給テストを行ったところ、インクを記録ヘッド部に安定して供給することができ、また、長期間(120℃,1000時間)の使用においても、ブリードによるインクへの汚染が全くなく、かつ弁にもほとんど変化がみられず、弁として充分に機能していることを示した。
実施例2
(1)弾性材料の調製
実施例1(1)と同様にして、JIS A 硬度20度の弾性材料を調製した。
(2)インサート成形法によるシール部材付きヘッド部品の作製
図2に示す形状のシール部材付きヘッド部品をインサート成形法により作製した。
図2(a)は、本実施例で作製したシール部材付きヘッド部品の斜視図であり、図2(b)は、上記部品のシール部材回りの部分断面図である。図において、4はヘッド部本体、5はシール部材、6はインク供給穴を示し、数値の単位はmmである。
【0031】
予め成形しておいた変性ポリフェニレンエーテルからなるヘッド部本体を金型にセットした。成形機として日精樹脂工業(株)製PS20E2A機を用い、金型温度60℃,樹脂温度190〜230℃の条件で、上記(1)で得られた弾性材料を、該金型内に溶融射出成形することにより、ポリフェニレンエーテルからなるヘッド部本体と弾性材料からなるシール部材とが一体的に複合化されたシール部材付きヘッド部品を作製した。
このようにして得られたシール部材付きヘッド部品を用いてヘッドを組み立て、60℃で1週間、インク間欠供給試験を行ったところ、ブリードによるインクへの汚染及びシール部からのインク洩れは全くなく、かつ印字への影響も全く認められなかった。
【0032】
【発明の効果】
本発明のインクジェットプリンタ用部材は、プラスチック基体とその表面に設けられた弾性材料層とが一体的に複合化されたものであって、多色射出成形又はインサート成形により、簡単な工程で生産効率よく、低いコストで製造することができる。
本発明のインクジェットプリンタ用部材は、特にインクタンク弁やシール部材付きパーツなどとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で作製したインクタンク弁の斜視図(a)及び断面図(b)である。
【図2】 実施例2で作製したシール部材付きヘッド部品の斜視図(a)及びシール部材回りの部分断面図(b)である。
【符号の説明】
1:外筒部
2:弁部
3:インク供給穴
4:ヘッド部本体
5:シール部材
6:インク供給穴
Claims (13)
- プラスチック材料からなる外筒部と、該外筒部の半径方向内側に配置された熱可塑性エラストマーからなるディスク状弁とを有し、該ディスク状弁の中央部にインク供給穴が設けられており、かつ、該ディスク状弁の周縁が該外筒部の半径方向内面に多色射出成形によって一体的に複合化されており、前記熱可塑性エラストマーが、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなる共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体であることを特徴とするインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記外筒部と前記ディスク状弁が、前記プラスチック材料と前記熱可塑性エラストマーとを順次金型に溶融射出し、該プラスチック材料と該記熱可塑性エラストマーとを多色射出成形し、よって該プラスチック材料と該記熱可塑性エラストマーとを一体的に複合化することにより形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、および、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、カルボン酸基若しくは無水マレイン酸基又はこれらの誘導体基を含有する分子単位が結合した変性ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、60℃以上のガラス転移温度を有する非晶質スチレンブロックを10〜70重量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、軟化剤を配合されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインクタンク弁。
- 前記軟化剤が、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して50〜1000重量部配合されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、三次元連続の網状骨格構造を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、ポリフェニレンエーテル樹脂を配合されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記ポリフェニレンエーテル樹脂が、熱可塑性エラストマー100重量部に対して10〜250重量部配合されていることを特徴とする請求項9に記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、充填材を配合されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、および、ポリブテン−1からなる群より選ばれた樹脂成分を配合されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
- 前記熱可塑性エラストマーが、難燃剤、抗菌剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、シリコーンオイル、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、粘着性付与剤、および、接着剤性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも一の添加剤を配合されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のインクジェットプリンタ用インクタンク弁。
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