JP3735709B2 - 生産性を向上させた高等植物の形質転換植物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高等植物の光合成と生育を促進することによって、その収穫量を増大させ、あるいは早期に収穫できるように生産性が向上していることを特徴とする形質転換植物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
組み換えDNAの技術の発展に伴い、高等植物に対して、特定の遺伝子を新たに導入したり、あるいは既に存在する遺伝子の発現を制御することが可能となってきている。しかし、乾物生産あるいは収量といった、食糧問題に直接係わる特性に影響を及ぼす例は少ない。近年、ドイツを中心として、光合成、炭水化物代謝などに関する酵素遺伝子を高等植物へとアンチセンス方向に導入し、その発現を抑制することによって、その酵素遺伝子が光合成や炭水化物代謝の律速因子として重要であることを示した例がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、組み換えDNA技術を利用して、高等植物中で特定の遺伝子を形質発現させることによって、高等植物の一次代謝である光合成の機能を改善し、その生育を促進することは、試みられてこなかった。
【0004】
本発明の課題は、組み換えDNA技術を利用して、高等植物中で特定の遺伝子を形質発現させることによって、高等植物の一次代謝である光合成の機能を改善し、その生産性を向上させ、収量ポテンシャルを向上させ、あるいは早期に収穫可能とすることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ラン藻由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼを高等植物の葉緑体中で形質発現させる過程より成る、生産性を向上させた高等植物の製造方法に係るものである。
【0006】
また、本発明は、ラン藻由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼをコードする塩基配列を含むDNAフラグメントが導入されることにより生産性が向上していることを特徴とする、形質転換植物に係るものである。
【0007】
高等植物葉緑体のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ(fructose-1,6-bisphosphatase :FBPase)およびセドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼ(sedoheptulose-1 ,7-bisphosphatase :SBPase)は、光還元力による活性調節を受ける光合成炭素還元系の律速酵素の1つである。一方、ラン藻Synechococcus PCC 7942遺伝子由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼ(FBPase/SBPase)は、原核藻類であるラン藻に広く分布する酵素であり、高等植物葉緑体のFBPaseおよびSBPaseとは、一次構造および酵素学的性質が異なっている。また、一つのタンパク質で、FBPaseおよび/SBPaseの2つの酵素活性を有するバイファンクショナル酵素である。
【0008】
ラン藻Synechococcus PCC 7942遺伝子由来のFBPase−Iは、40kDaの同一のサブユニットからなる4量体で、精製酵素は1mM H22 の処理でも80%以上の活性を保持していた。FBPase−Iは、細胞質型FBPaseの特異的阻害材であるAMPによって阻害されたが(Ki=0.26mM)、フルクトース−2,6−P2 によってまったく阻害を受けなかった。至適pHは8.0であり、pIは4.8であった。FBPase−Iは、フルクトース−1,6−ビスリン酸(Fru1,6−P2 )だけでなく、セドヘプツロース−1,7−ビスリン酸(Sed1,7−P2 )も加水分解した。精製酵素におけるFru1,6−P2 およびSed1,7−P2 に対する活性は、それぞれ、11.7μmol/min/mg protein、12.1μmol/min/mg proteinであり、Km値は、それぞれ、52μM、118μMであった。また、活性は典型的なFBPaseと同様、Mg2 + 濃度に依存しており、その依存曲線は葉緑体型FBPaseと同様、シグモイド型を示し、S0.5 は1.4±0.1mMであった。この酵素それ自体については、「Archives of Biotechnology and Biophysics, Vol. 334, No.1, pp. 27 to 36, 1996 「Molecular characterization and resistance to hydrogen peroxide of two fructose-1,6-bisphosphatase from Synechococcus PCC 7942 」に記載されている。
【0009】
本発明者は、ラン藻Synechococcus PCC 7942より単離したフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼを、タバコに導入し、この際発現蛋白質が葉緑体に移行するようにした。そして、播種後7週間目におけるFBPaseおよびSBPase活性、および光合成能を野性株と対比した結果、野性株に比べて著しく上昇していることを見いだした。更に、一定期間栽培したところ、形質転換植物は、野性株に比べて、背丈が大きくなっていた。また、葉の面積が大きくなり、茎が太くなり、根が多くなり、長くなっていた。更に、形質転換植物は、野性株よりも、葉、茎、根におけるヘキソース、シュクロース、デンプンの量が増加していた。
【0010】
従って、タバコ葉緑体へとラン藻由来のFBPase/SBPaseを導入することにより得られた形質転換植物は、野性株よりも光合成能が強化され、この結果、糖、デンプンの合成能力が増大し、生育が促進され、かつ最終的な物質生産能も増加していた。従って、高等植物の葉緑体へのFBPase/SBPaseの導入は、早生、高収量作物を作出する上で非常に有効な手段であった。
【0011】
この作用は以下のように考えられる。種々の環境ストレスに応じて、植物に対しては光・酸素毒が様々な障害をもたらし、最終的には食物生産の大きな律速因子となっている。ラン藻由来のFBPase/SBPaseは、高等植物のFBPaseおよびSBPaseとは異なり、酸素毒に対して耐性を有しており、種々の環境ストレス下でも機能するものと思われる。また、ラン藻由来のFBPase/SBPaseは、高等植物には存在しない遺伝子であるので、ジーンサイレンシングによる悪影響がない。
【0012】
本発明において、組み換えDNAを作製する際のベクターとしては、例えばプラスミド、pBI101、pBIN19、pMSH−1等を使用できる。また、組み換えDNAを導入するための高等植物としては、広く光合成を行う有用栽培作物や樹木に利用できる。例えば、トウモロコシ、イネ、小麦、大麦、オート麦、粟、ひえなどの穀物類、ダイズなどの豆類、、ジャガイモ、トマトといった野菜類、ナタネ、ワタ、タバコなどのその他の有用栽培植物に加えて、樹木にも適用できる。
【0013】
前記のアミノ酸配列において、欠失、置換、付加が行われても、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼとしての酵素学的な性質を保持する限り、本発明の範囲内である。また、前記の塩基配列のうち、酵素を発現する構造遺伝子部分は、塩基番号1−1068であるので、本発明に必須であるが、塩基番号−180−1170で表される塩基配列を有する遺伝子が最も好ましい。
【0014】
【実施例】
図1に示すように、pBI101に、トマトrbcSプロモーターとトランジットペプチドのコード領域およびラン藻由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼ( S. 7942 FBP/SBPase )遺伝子 (fbp-I)を連結したプラスミドを構築した。 (fbp-I)は、ラン藻 SynechococcusPCC7942遺伝子由来の、配列表の配列番号2に示す塩基配列のうち、塩基番号−180−1170で表される塩基配列を示す。このプラスミドを、アグロバクテリウム ツメファシエンス LBA4404に導入し、タバコ(Nicotiana tabacum cv Xanthi )のリーフディスクに感染させることによって、fbp-I をタバコ核遺伝子に導入した。ゲノムDNA を単離した後、PCRおよびイムノブロッティングによりfbp-I の導入を確認した。7種の形質転換株 (TFI-1 〜7)を得た。形質転換株 (T2世代) から葉緑体を単離し、ウエスタンブロッテイングにより、 S. 7942 FBP/SBPase の発現を確認した。更に、細胞分画によって、導入タンパク質が葉緑体に局在することを確認した。
【0015】
(FBPase活性、SBPase活性、光合成活性)
播種後、7週間目の成葉に含まれるFBPase活性を、遺伝子導入前の野生株と比較した結果、野生株は1.04±0.22μmol/min/mgクロロフィル、形質転換植物は1.82±0.24μmol/min/mgクロロフィルであり、野生株に比べて約1.75倍高い活性を有していた。
【0016】
また、SBPase活性を比較した結果、野生株は1.37μmol/min/mgクロロフィル、形質転換植物は2.40μmol/min/mgクロロフィルであり、野生株に比べて約1.75倍高い活性を有していた。
【0017】
また、通常条件(360ppm CO2 )下での光合成活性を比較した結果、0、10、50、100μE/s/m2 の光条件下では、野生株と形質転換植物には有意な差は見られなかった。しかし、200μE/s/m2 の光条件下では、形質転換植物の光合成活性は、野生株の光合成活性と比べて有意に上昇していた。1600μE/s/m2 の光条件下では、野生株の1.24倍に上昇していた。これらの結果を図3に示す。
【0018】
(生育に及ぼす影響)
ホグラント培養液を用いて、野生株および形質転換植物について水耕栽培を行った。その条件は、400 マイクロモル/m2 /sであり、相対湿度は60%であり、気温は25℃である。栽培開始から63日目、72、77、82、85、90、97、102、105、109、112日目に、植物の背丈を測定した。この結果を図2に示す。64日目には、野生株は14.0±4.6cm、形質転換植物は16.6±2.9cmであったが、栽培112日目には、野生株が58.3±7.0cm、形質転換植物が84.5±7.8cmであり、有意に生育が促進されていた(約1.45倍)。図4の写真において、左側に野生株を示し、右側に形質転換植物を示す。
【0019】
生育期間の全体を通じて、形質転換植物は、野生株と比較して、葉、茎、根のいずれも発達しており、葉は肉厚で1枚当たりの面積が大きく、茎が太く、根が多く、長くなっていた。図5には、112日目における葉と茎との外観を示しており、左側が野生株であり、右側が形質転換植物である。図6には、111日目における根の外観を示しており、左側が野生株であり、右側が形質転換植物である。
【0020】
(代謝中間体の量)
播種後、12週間目の上葉(上から4番目)、下葉(下から3番目)、茎、根における代謝中間体(ヘキソース、シュクロース、デンプン)の量を定量し、比較した。この結果を図7に示す。形質転換植物の代謝中間体の量は、上葉、下葉、茎、根のいずれにおいても、野生株に比べて有意に増加していた。特に上葉において、ヘキソースおよびシュクロースが大幅に増加していた。また、デンプンは下葉に多く蓄積されていた。これは、上葉で合成されたシュクロースが下葉へと転流したことによる。
【0021】
以上の結果から分かるように、本発明によって、高等植物の光合成能が強化され、この結果、糖、デンプンの合成能力が増大し、生育が促進されたものと考えられる。また、花芽形成時の乾燥重量は、野生株が14.1±2.2gであり、形質転換植物が21.0±1.9gと約1.5倍増加しており、最終的な物質生産能も増加していることがわかる。
【0022】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の形質転換植物は、野性株よりも光合成能が強化され、この結果、糖、デンプンの合成能力が増大し、生育が促進され、かつ最終的な物質生産能も増加していた。従って、高等植物の葉緑体へのFBPase/SBPaseの導入は、早生、高収量作物を作出する上で非常に有効な手段であった。このように、組み換えDNA技術を利用して、高等植物の一次代謝である光合成の機能を改善し、早生、収穫量の増大を可能とした類例はなく、将来の食料危機に対応する上で極めて重要な鍵となる技術である。
【0023】
【配列表】
Figure 0003735709
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【図面の簡単な説明】
【図1】 タバコ葉緑体への導入用のプラスミドを示す模式図である。
【図2】 野生株と形質転換植物との水耕栽培時の背丈を比較したグラフである。
【図3】 野生株と形質転換植物との光合成能を比較したグラフである。
【図4】 水耕栽培112日目における、野生株と形質転換植物との外観を比較した写真である。
【図5】 水耕栽培112日目における、野生株と形質転換植物との葉および茎の外観を比較した写真である。
【図6】 水耕栽培112日目における、野生株と形質転換植物との根の外観を比較した写真である。
【図7】 野生株と形質転換植物との代謝中間体の含量を比較したグラフである。

Claims (6)

  1. ラン藻由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼをコードする塩基配列を含むDNAフラグメントが導入されることにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、形質転換植物。
  2. 以下のタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAフラグメントが導入されることにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、請求項記載の形質転換植物。
    (a) 配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1−356で表されるアミノ酸配列
    (b) フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼとしての活性を示す、(a)のアミノ酸配列の一部が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
  3. 以下の(c)または(d)に示す塩基配列を含むDNAフラグメントが導入されることにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、請求項記載の形質転換植物。
    (c) 配列表の配列番号2に示す塩基配列のうち、塩基番号1−1068で表される塩基配列
    (d) フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼとしての活性を示すタンパク質をコードする、(c)の塩基配列の一部が欠失、置換若しくは付加された塩基配列
  4. 以下の(e)または(f)に示す塩基配列を含むDNAフラグメントが導入されることにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、請求項記載の形質転換植物。
    (e) 配列表の配列番号2に示す塩基配列のうち、塩基番号−180−1170で表される塩基配列
    (f) フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼとしての活性を示すタンパク質をコードする、(e)の塩基配列の一部が欠失、置換若しくは付加された塩基配列
  5. ラン藻由来のフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼが高等植物の葉緑体中で形質発現することにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、形質転換植物。
  6. 以下の(a)または(b)に示すアミノ酸配列を有するタンパク質が高等植物の葉緑体中で形質発現することにより光合成産物の生産性が向上していることを特徴とする、請求項記載の形質転換植物。
    (a) 配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1−356で表されるアミノ酸配列
    (b) フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ/セドヘプツロース−1,7−ビスホスファターゼとしての活性を示す、(a)のアミノ酸配列の一部が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
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