JP3732258B2 - 新規ヒアルロニダーゼ - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なヒアルロニダーゼに関し、詳細には医薬品、医薬部外品、またはこれらのスクリーニング等のために有用な新規ヒアルロニダーゼに関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
ヒアルロニダーゼ(以下、「HAase」と略記する)は、ヒアルロン酸を低分子化する酵素に与えられた総称で、(1)ヒアルロン酸・コンドロイチン・コンドロイチン硫酸のβ−N−アセチル−D−ヘキソサミニド結合を加水分解するエンドヘキソサミニダーゼ型酵素(EC 3.2.1.35)、(2)ヒアルロン酸のβ−D−グルクロニド結合を加水分解するエンドグルクロニダーゼ型酵素(EC 3.2.1.36)、(3)ヒアルロン酸のβ−N−アセチル−D−グルコサミニド結合を脱離的に分解するエンドグルコサミン開裂型酵素(EC 4.2.2.1)、(4)ヒアルロン酸・コンドロイチン・コンドロイチン硫酸のβ−N−アセチル−D−ヘキソサミニド結合を脱離的に分解するエンドヘキソサミン開裂型の酵素等の異なる型のものが知られている。これらはそれぞれ反応の最終産物も異なっているが、いずれもムコ多糖の構造研究や、同定・定量の試薬として広く利用されてきた。
【0003】
一方、HAaseは、脳水腫、心筋梗塞等の急性期の処置に医薬品として使用され、また皮下投与用もしくは胸膜滲出の局所療法用の薬剤の添加剤としても用いられてきた。
さらにHAaseは、HAaseの活性を阻害する作用を有する物質の探索上においても有用である。ヒアルロン酸は、人体の細胞間隙に水分を保持し、また組織内にゼリー状のマトリックスを形成して細胞を保持したり、皮膚の潤滑性と柔軟性を保ち、機械的障害による外力や細菌の感染を防止する働きがある。ところが、HAaseはかかるヒアルロン酸を分解する活性を有する。従ってヒアルロン酸を分解するHAaseの活性を抑制する物質は、皮膚の肌荒れ、小ジワ、かさつきなどを防ぎ、しっとり感を保つ薬剤、化粧品となり得る可能性がある。
このようにHAaseには様々な利用法が提案されているが、その全ての機能が解明されたわけではなく、またさらに新しいHAaseの出現も待ち望まれていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、新規HAaseを見出すべく探索を進めてきた結果、ヒト子宮体癌組織の培養上清に新規なHAaseが産生されることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の要旨は、下記の理化学的性質を有するヒト子宮体癌組織由来のヒアルロニダーゼに存する。
基質特異性:pH3.5〜7.5の範囲においてヒアルロン酸を分解し、pH3.5〜7.5の範囲においてコンドロイチン硫酸を分解しない
至適pH:pH5.0付近
等電点:8.8
また、本発明のヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を基質とするドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)において測定した分子量が約94キロダルトンであることが確認された。
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0005】
本発明の新規HAaseは、ヒト子宮体癌組織から、目的とするHAaseの物理的、化学的性質を利用した各種の処理操作に従い分離・精製することができる。すなわち、通常の蛋白沈殿剤による処理、塩析、限外ろ過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、遠心分離、電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、透析法、これらの組合わせ等の処理操作が挙げられる。具体的には、ヒト子宮体癌組織の培養上清から、ヒアルロン酸、下記参考例記載の修飾−コンドロイチン硫酸等を基質とするゲル電気泳動等を用いてMARKUSW GUNTENHONER他、Matrix Vol.12,388〜396(1992)の方法に従って分離することができる。
【0006】
ゲル電気泳動用担体の合成は、従来のポリアクリルアミドゲルを調製する方法(Laemmli,U.K.,Nature,227,680−685(1970))に準じて行うことができる。即ち、アクリルアミドとN,N’−メチレンビスアクリルアミドを含む水溶液にヒアルロン酸又は修飾−コンドロイチン硫酸を加えて、例えば冷暗所に一昼夜置くなどして均一に混合し、これを重合開始剤、例えば過硫酸塩、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や酸化剤と還元剤よりなるレドックス開始剤を用いて重合する。また、重合促進剤として、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを添加してもよい。アクリルアミドに対するN,N’−メチレンビスアクリルアミドの使用量は、一般のポリアクリルアミドゲルに使用されている程度であり、ヒアルロン酸又は修飾−コンドロイチン硫酸の使用量は、通常1〜20μg/mlの範囲から選ばれる。また、重合反応は、所望の大きさの担体に適したセル中で行う。
【0007】
このようにして調製したヒアルロン酸混合又は修飾−コンドロイチン硫酸結合ポリアクリルアミドゲルを担体として使用し、ヒト子宮体癌組織の培養上清を該培養上清中に含まれる酵素が基質を分解しない条件で電気泳動する。次いで、泳動後の担体を必要に応じて緩衝液等で洗浄した後、通常の酵素反応条件下に置き、酵素反応後の担体を、アルシャンブルーやトルイジンブルー等の発色試薬で発色させる。培養上清中に含まれる酵素がポリアクリルアミドゲルに固定した基質を分解すると、分解された部分のみが発色せず白く抜けて検出されるので、これにより該酵素の活性及び分子量を同定することができる。かくして得られた酵素が本発明のHAaseである。また、酵素反応時のpHを種々変化させてHAase活性を測定することによって、本発明酵素の至適pHを確認することができる。
【0008】
【発明の効果】
本発明のHAaseは新規な酵素であり、従来のHAaseと同様、脳水腫、心筋梗塞等に対する医薬品として、薬物の添加剤として、またHAaseの活性を阻害する物質の探索上有用である。
【0009】
【実施例】
以下、本発明につき具体的な実施例を挙げて説明するが、その要旨を越えない限り以下に限定されるものではない。
参考例
サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸(I)(分子量40,000〜48,000;4−硫酸:6−硫酸=1:5)の還元末端を、R.H.Raja et al.(Anal.Biochem.,139,168−177(1984))の方法に従ってNaBH4で還元し、NaIO4で部分酸化し、エチレンジアミンを用いてアミノ化して反応物を得た。反応物は4℃の透析で精製した。精製した還元末端アミノ化コンドロイチン硫酸(IV) 100mgを2mlの蒸留水に溶かし、1mlのエタノールを加えた。混合物は、40℃で2時間、アリルグリシジルエーテル 1mlとインキュベートし、4℃で蒸留水に対して透析を行った後、凍結乾燥した。こうして修飾−コンドロイチン硫酸(V)を得た。以上の合成経路を図1に示す。
【0010】
実施例1
1mm厚の8% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲルを調製した。このゲルの作成時に、4℃で一昼夜保存したヒアルロン酸(鶏冠由来,分子量824,000)1mg/mlを、最終濃度が17μg/mlとなるように加えた。
一方、ヒト子宮体癌組織の培養上清(名古屋大学の玉腰浩司博士より分譲)15μlにSDSおよびLaemmli緩衝液(Nature,227,680−685(1970))を加え、上記ゲルに供した。
【0011】
電気泳動は、室温で行った。泳動後、ゲルは室温で1時間、2.5% トリトン(Triton) X−100で洗浄した。ゲルは新鮮なバッファー(50mM クエン酸−Na2HPO4および0.15M NaCl(pH5.0,6.0,7.5)、あるいは0.1M HCOOH−HCOONaおよび0.15M NaCl(pH3.5))を用いて、37℃、16時間インキュベートした後、37℃で2時間、0.1mg/ml プロナーゼ溶液(20mM Tris−HCl(pH8.0)、プロナーゼはストレプトマイセス グライセウス(Streptomyces griseus)由来のもので、Calbiochem Corp社より購入)で処理した。インキュベートしたゲルは、20% エタノール−10% 酢酸で20分間洗浄し、0.5% アルシャンブルー(Alcian blue)を含む20% エタノール−10% 酢酸で1時間染色した後、20% エタノール−10% 酢酸で洗浄した。
結果を図2(a)に示す。pH3.5〜7.5の範囲内において、94キロダルトン付近に明瞭なバンドが観測された。そして同バンドは、特にpH5.0付近において高いヒアルロン酸分解活性を有することも確認された。
【0012】
実施例2
実施例1において、ヒアルロン酸の代わりに参考例で調製した修飾−コンドロイチン硫酸を用い、ゲル中の最終濃度が8.5μg/mlとなるように加えたこと以外は同様にして、ヒト子宮体癌組織の培養上清の電気泳動を行った。
結果を図2(b)に示す。pH3.5〜7.5の範囲内においては、特に特徴的なバンドは何ら認められなかった。
以上の結果から、94キロダルトンのタンパクはヒアルロン酸に対して作用し、コンドロイチン硫酸に対しては全く作用しない、ヒアルロニダーゼ活性を有していることが判明した。
【0013】
実施例3
以下の条件による2次元電気泳動にて、94キロダルトンタンパク質の等電点を求めた。
【0014】
【表1】
Figure 0003732258
【0015】
【表2】
サンプルバッファー
等電点電気泳動ゲル溶液:
30%アクリルアミド−0.8%ビスアクリルアミド 2.0 ml
40%グリセリン 2.0 ml
蒸留水 5.5 ml
アンフォライン(LKB社),pH3.5〜10 0.5 ml
に、さらに40%グリセリンを等量加えたもの
サンプル
子宮体癌組織培養上清 10μl
マーカー(BIO−RAD社) 5μl
泳動条件
400V、2時間30分、0℃
【0016】
【表3】
Figure 0003732258
【0017】
洗浄
2.5% トリトン(Triton) X−100で1時間
インキュベーション
37℃で16時間(pH5.0)
プロテアーゼ処理
0.1mg/ml プロナーゼ(Calbiochem Corp社)で、37℃、2時間
固定
20% エタノール−10% 酢酸で20分間
染色
20% エタノール−10% 酢酸に溶かした0.5% アルシャンブルー(Alcian blue)で1時間
脱色
20% エタノール−10% 酢酸で1時間を2回
この結果、本発明のHAaseの等電点は、8.8であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】修飾−コンドロイチン硫酸の合成経路を示す図面である。
【図2】(a)本発明のHAaseを、ヒアルロン酸を基質とするSDS−PAGEにて検出した結果を示す図面である。図中、レーン1、2、3、4は、それぞれpH3.5、5.0、6.0、7.5における電気泳動パターンを表す。(b)本発明のHAaseを、修飾−コンドロイチン硫酸を基質とするSDS−PAGEにて検出した結果を示す図面である。図中、レーン1、2、3、4は、それぞれpH3.5、5.0、6.0、7.5における電気泳動パターンを表す。

Claims (2)

  1. 下記の理化学的性質を有するヒト子宮体癌組織由来のヒアルロニダーゼ。
    i ヒアルロン酸を基質とするドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において測定した分子量が94キロダルトンである
    ii 基質特異性:pH3.5〜7.5の範囲においてヒアルロン酸を分解し、pH3.5〜7.5の範囲においてコンドロイチン硫酸を分解しない
    iii )ヒアルロン酸を基質とするドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、pH3.5、pH5.0、pH6.0及びpH7.5におけるヒアルロン酸分解活性を測定し、前記の各pHにおける当該活性の強度を比較することにより決定される至適pHが、pH5.0である
    iv 等電点pH8.8である(等電点電気泳動法)
    v 37℃においてヒアルロン酸分解活性を有する(pH5.0、緩衝液:クエン酸−リン酸水素二ナトリウム緩衝液)
  2. ヒト子宮体癌組織の培養上清由来であることを特徴とする、請求項1に記載のヒアルロニダーゼ。
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