JP3732019B2 - ハイドロスタティックトランスミッション装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ロードローラ等の作業車両の走行駆動機構として用いられるハイドロスタティックトランスミッション装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハイドロスタティックトランスミッション装置とは、具体的に図示しないが、可変吐出ポンプと、油圧モーターとによって閉回路を構成したものである。
すなわち、エンジンの駆動力で可変吐出ポンプを回転させると、この可変吐出ポンプは、斜板の傾きに応じて作動油を吐出する。そして、その吐出油によって油圧モーターを回転させて、車両を走行させるとともに、この油圧モーターから排出された作動油を可変吐出ポンプに戻す構成となっている。
【0003】
このようにしたハイドロスタティックトランスミッション装置では、エンジンの回転数を一定にしておけば、可変吐出ポンプも一定回転する。そして、その状態で、可変吐出ポンプの斜板を傾けて、その吐出量を最小から最大に制御すれば、油圧モーターの回転速度を連続的にコントロールすることができる。したがって、無段階変速が可能となり、例えば、スムーズな発進、加速、減速を実現することができる。
また、可変吐出ポンプの斜板の傾きを反対にすれば、その吐出方向を逆にすることができる。したがって、油圧モーターを正逆両方向に回転させて、車両を前進走行させたり、後進走行させたりすることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなハイドロスタティックトランスミッション装置では、特に変速することの多い低速走行時において、無段階変速といった特性が非常に有効なものとなる。
しかし、エンジンの駆動力を、直接的ではなく、作動油を介して間接的に油圧モーター側に伝えることから、伝達効率が悪く、燃費等の点で劣ってしまう。
そして、高速で通常走行するような時には、変速の必要性はほとんどない。そのために、高速走行時には、無段階変速といった特性よりも、伝達効率が悪くなるといった欠点が目立ち、この欠点が大きな問題となってしまう。
この発明の目的は、低速走行時には、無段階変速といった特性を維持しながらも、高速走行時には、動力源の駆動力を直接的に油圧モーター側に伝えるようにして、伝達効率が悪くなるのを避けることのできるハイドロスタティックトランスミッション装置を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、一方向に回転する動力源と、この動力源に連係され、斜板の傾きに応じて吐出量および吐出方向を変える可変吐出ポンプと、この可変吐出ポンプの吐出流体で駆動されるとともに、斜板の傾きに応じて大・小2種類の容量が設定される流体圧モーターと、上記可変吐出ポンプの一方のポートを上記流体圧モーターの一方のポートに接続する前進走行ラインと、上記可変吐出ポンプの他方のポートを上記流体圧モーターの他方のポートに接続する後進走行ラインと、これら前進走行ラインと後進走行ラインとを連通して流体圧モーターを迂回するバイパスラインと、このバイパスラインを連通したり遮断したりする連通バルブと、流体圧モーターを上記動力源側に連係したり、その連係を遮断したりするクラッチと、このクラッチに作用して流体圧モーターを動力源側に連係させるクラッチ切換機構と、上記流体圧モーターの容量を選択する容量選択機構と、この容量選択機構による選択に応じて流体圧モーターの斜板の傾きを切り換える容量切換機構と、上記可変吐出ポンプの斜板の傾転角を検出する傾転角検出機構とを備え、上記容量選択機構が、流体圧モーターの小容量を選択した状態で、上記傾転角検出機構が、車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角を検出したときに、上記クラッチ切換機構がクラッチを連係させるとともに、上記連通バルブがバイパスラインを連通させる構成にしたハイドロスタティックトランスミッション装置を前提とする。
【0006】
上記の装置を前提にしつつ、第1の発明は、クラッチ切換機構が、クラッチに連係させ、流体圧で作動するクラッチ連係機構と、クラッチ制御バルブと、上記クラッチ制御バルブを切り換えたときにクラッチ連係機構へ流体を供給する制御ポンプとからなるとともに、可変吐出ポンプの傾転角を検出する電気的な傾転角センサと、この傾転角センサの検出信号と容量選択機構の選択信号に応じて、クラッチ制御バルブや連通バルブを制御するコントローラとを備え、このコントローラに、上記容量選択機構から、流体圧モーターの小容量を選択した選択信号と、上記傾転角センサから、車両の前進走行範囲内での設定角度以上の傾転角を検出した検出信号とが同時に入力されたときには、上記コントローラが、上記クラッチ制御バルブと上記連通バルブとを切り換えて、上記制御ポンプからクラッチ連係機構へ流体を供給させるとともに、上記バイパスラインを連通させる構成にした点に特徴を有する。
【0007】
さらに、第2の発明は、クラッチ切換機構が、クラッチに連係させ、流体圧で作動するクラッチ連係機構と、クラッチ連係機構に流体を供給する制御ポンプと、上記制御ポンプと上記クラッチ連係機構とを接続する第1制御ラインと、可変吐出ポンプの斜板の傾転角が車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角となったときに連通位置に切り変わる傾転角検出バルブと、上記傾転角検出バルブと直列に設けたクラッチ制御バルブとからなるとともに、上記第1制御ラインと連通バルブのパイロットポートとを接続する第2制御ラインとを備え、容量選択機構で小容量を選択すると上記クラッチ制御バルブが連通位置に切り換わり、この状態で、上記傾転角検出バルブが連通位置に切り換わったときに、上記第1制御ラインと第2制御ラインに、制御ポンプから流体が供給され、上記クラッチが連係するとともに、バイパスラインが連通する構成にした点に特徴を有する。
【0008】
第3の発明は、前進走行ラインと後進走行ラインとを接続する連通ラインと、この連通ライン上に制御ポンプの吐出ポートを接続した接続部と、上記連通ライン上であって上記接続部より前進走行ライン側に設け、上記接続部から上記前進走行ラインへの流通のみを許容するチェックバルブと、上記連通ライン上であって上記接続部より後進走行ライン側に設け、上記接続部から上記後進走行ラインへの流通のみを許容するチェックバルブとを備えるとともに、容量切換機構が制御ポンプから供給される流体によって作動する構成とした点に特徴を有する。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1に、この発明のハイドロスタティックトランスミッション装置の第1実施例を示す。
この装置は、可変吐出ポンプ1を、その動力源であるエンジンEに連係させている。そして、この可変吐出ポンプ1の一方のポート1aを、前進走行ライン2を介して、油圧モーター3の一方のポート3aに接続している。また、この可変吐出ポンプ1の他方のポート1bを、後進走行ライン4を介して、油圧モーター3の他方のポート3bに接続している。したがって、これら可変吐出ポンプ1と油圧モーター3とによって、閉回路を構成する。
【0010】
上記可変吐出ポンプ1は、常に、エンジンEの回転方向に回転している。
そして、可変吐出ポンプ1の斜板を前進走行範囲で傾ければ、この可変吐出ポンプ1は、ポート1aから前進走行ライン2側に作動油を吐出する。したがって、その吐出量に応じた速度で油圧モーター3が正回転して、車両を前進走行させることになる。そして、可変吐出ポンプ1の斜板の傾転角が最大のとき最大吐出量となる。
また、可変吐出ポンプ1の斜板を後進走行範囲で傾ければ、この可変吐出ポンプ1の吐出方向が逆となり、ポート1bから後進走行ライン4側に作動油を吐出する。したがって、その吐出量に応じた速度で油圧モーター3が逆回転して、車両を後進走行させることになる。
【0011】
可変吐出ポンプ1の斜板には、斜板の傾きを検出する傾転角センサ5を連係している。この傾転角センサ5は、電気的なセンサで、コントローラCに接続し、傾転角の検出信号をコントローラCに入力する。
さらに、上記可変吐出ポンプ1には、制御ポンプ6を連設している。この制御ポンプ6は、エンジンEの駆動力によって、可変吐出ポンプ1とともに回転し、吐出ポート6aから油を吐出する。
このようにした制御ポンプ6の吐出ポート6aを、リリーフバルブ7を介してタンクTに接続している。
【0012】
一方、上記油圧モーター3は、斜板の傾きを2段階に変化させて、その容量を大・小2種類に設定することができる2速モーターである。
そして、この第1実施例の装置では、油圧モーター3の斜板の傾きに応じて容量を切り換える容量切換機構として、シリンダ8を用いている。つまり、シリンダ8が図示の収縮状態にあるとき、油圧モーター3の傾転角を最大に保つ。また、油圧モーター3が伸長すると、そのピストンロッド8aで斜板を押して、その傾転角を最小に保つ。
【0013】
そして、油圧モーター3の傾転角が大きいときには、そのトルクが大きくなり、傾転角が小さいときにはトルクが小さくなる。また、可変吐出ポンプ1の吐出量を一定とすれば、油圧モーター3は、その傾転角が大きいときに低回転となり、傾転角が小さいときに高回転となる。
したがって、油圧モーター3の傾転角が大きい大容量のときには、油圧モーター3が高トルク、低回転となっていわゆる1速状態になる。反対に、その傾転角が小さい小容量のときには、油圧モーター3が低トルク、高回転となっていわゆる2速状態になる。
ただし、このハイドロスタティックトランスミッション装置では、油圧モーター3の回転速度が、可変吐出ポンプ1の吐出量に依存しているので、その吐出量によっては、高トルク、高回転も可能であり、低トルク、低回転も可能である。したがって、この実施例の場合には、1速あるいは2速での速度制御の幅が大きくなるという特徴を有する。
【0014】
上記のように油圧モーター3の傾転角を制御するシリンダ8は、油圧室8bとロッド側室8cを設けるとともに、このロッド側室8cにスプリング8dを設けている。
したがって、油圧室8bに油圧が作用していないときには、シリンダ8はそのスプリング8dの作用で図示の収縮状態を保つ。言い換えれば、油圧室8bに油圧が作用していないときには、油圧モーター3が前記1速の状態に設定される。また、上記油圧室8bに油圧が作用すると、シリンダ8はスプリング8dに抗して伸長し、油圧モーター3の傾転角を小さくして、油圧モーター3を前記2速の状態に設定する。
【0015】
上記のようにした油圧シリンダ8の油圧室8bには、この発明の容量選択機構である選択バルブ9を接続している。この選択バルブ9は、レバー10によって、そのバルブ位置を手動で切り換えるようにしたものである。
選択バルブ9が、図1のノーマル位置にあるとき、上記シリンダ8の油圧室8bは、タンクTに連通し、シリンダ8を収縮状態に保つ。このとき、油圧モーター3は、1速に設定される。
一方、選択バルブ9を、図示の状態から他方の位置である図面下側位置に切り換えると、上記制御ポンプ6の吐出ポート6aと上記シリンダ8の油圧室8bとが連通し、油圧室8bに油圧が作用する。このように油圧室8bに油圧が作用すれば、シリンダ8は伸長して、そのピストンロッド8aが油圧モーター3の斜板を押し、その傾転角を小さくする。したがって、油圧モーター3は、2速に設定される。
上記のことからも明らかなように、選択バルブ9の切り換え位置によって、油圧モーター3が、1速あるいは2速に設定される。
なお、上記選択バルブ9には、上記コントローラCを接続し、選択バルブ9の切り換え位置をコントローラCに入力している。そして、コントローラCは、選択バルブ9の切り換え位置に応じて、油圧モーター3が1速に設定されているのか、2速に設定されているのかを判断する。
【0016】
さらに、この第1実施例では、従来のハイドロスタティックトランスミッション装置とは異なり、上記油圧モーター3を、軸11を介して可変吐出ポンプ1側に連係させている。
ただし、この軸11の途中には、クラッチ12を設けている。クラッチ12は、具体的に図示しないが摩擦クラッチ方式を採用し、通常は、油圧モーター3を可変吐出ポンプ1側から遮断する遮断状態にある。そして、このクラッチ12が連係状態に切り換わると、油圧モーター3を可変吐出ポンプ1側に連係させて、エンジンEの駆動力を、軸11を介して油圧モーター3側に直接伝わるようにしている。
【0017】
このようにしたクラッチ12は、油圧で作動するクラッチ連係機構13によって作動するようにしている。
このクラッチ連係機構13には、クラッチ制御バルブ14を接続している。このクラッチ制御バルブ14は、通常、スプリング14aの作用で図示のノーマル位置を保つ。このノーマル位置では、ポート14bを介して、クラッチ連係機構13をタンクTに連係し、それを操作力解除状態に保つ。クラッチ連係機構13が操作力解除状態にあれば、クラッチ12は遮断される。
また、このクラッチ制御バルブ14のソレノイド14cを励磁すると、クラッチ制御バルブ14は、スプリング14aに抗して、図面右側の切り換え位置に切り換わる。この切り換え位置においては、ポート14bと14dとが連通するので、上記制御ポンプ6からの圧油がクラッチ連係機構13に導かれる。クラッチ連係機構13に圧油が導入されると、それが作動力となってクラッチ12を連係させる。
【0018】
なお、上記ソレノイド14cは、上記コントローラCに接続されているので、クラッチ制御バルブ14をノーマル位置に保ったり、あるいは切り換え位置に保ったりするのは、このコントローラCで制御されることになる。
また、この第1実施例においては、上記クラッチ連係機構13と、上記クラッチ制御バルブ14と、上記制御ポンプ6とで、この発明のクラッチ切換機構を構成している。
そして、上記コントローラCは、次の条件が整ったときに、ソレノイド14cを励磁して、クラッチ12を連係する。すなわち、上記選択バルブ9を2速位置に切り換え、かつ、可変吐出ポンプ1が前進走行範囲で設定角度以上に傾けられたときに、上記ソレノイド14cを励磁する。言い換えれば、可変吐出ポンプ1の吐出量が最大量付近になって、車両が高速で前進走行するときに、上記ソレノイド14cを励磁して、油圧モーター3をエンジンEによって直接駆動するようにしている。
【0019】
また、両走行ライン2、4の間には、油圧モーター3を迂回するバイパスライン15を設け、このバイパスライン15に、連通バルブ16を設けている。
この連通バルブ16は、スプリング16aの作用でノーマル位置である閉位置を保ち、ソレノイド16bを励磁することによって開位置に切り換わるようにしている。
上記ソレノイド16bは、上記コントローラCの出力信号で制御される。すなわち、コントローラCは、選択バルブ9から2速を選択した信号が入力されるとともに、傾転角センサ5が前進走行範囲で、設定角度以上の傾転角を検出したときに、上記ソレノイド16bを励磁する。つまり、先に説明したクラッチ制御バルブ14が切り換わるのと同じ条件で、バイパスライン15が連通する。
【0020】
さらに、両走行ライン2、4との間には、連通ライン17を設けている。この連通ライン17には、接続部18を介して、制御ポンプ6の吐出ポート6aとリリーフバルブ7とを接続している。
上記連通ライン17上であって、接続部18より前進走行ライン2側には、チェックバルブ19を設けている。このチェックバルブ19は、接続部18から前進走行ライン2への流通のみを許容する。
一方、連通ライン17上であって、接続部18より後進走行ライン4側にも、チェックバルブ20を設けている。このチェックバルブ20は、接続部18から後進走行ライン4側への流通のみを許容する。
このような連通ライン17を設けたので、可変吐出ポンプ1→前進走行ライン2→油圧モーター3→後進走行ライン4からなる閉回路から、外部に油が漏れて油量が減ってしまった場合に、制御ポンプ6から油を補充できる。
【0021】
次に、この第1実施例のハイドロスタティックトランスミッション装置の作用を説明する。
ロードローラ等の作業車では、エンジンEの回転数を一定にしておき、図示しない操作レバーを動かして、可変吐出ポンプ1の斜板を操作する。
そして、最初に、可変吐出ポンプ1の斜板を車両の前進走行範囲で傾ける場合について説明する。この車両の前進走行範囲では、前述したように、可変吐出ポンプ1が前進走行ライン2側に作動油を吐出して、油圧モーター3を正回転させる。
【0022】
このとき、選択バルブ9を図示のノーマル位置に保持していれば、シリンダ8の油圧室8bがタンクTに連通する。したがって、シリンダ8はスプリング8dの作用で収縮状態を保ち、油圧モーター3を1速の状態に保つ。
選択バルブ9がノーマル状態にあれば、油圧モーター3が1速の状態にあることをコントローラCが認識するので、このときにはクラッチ制御バルブ14も図示のノーマル位置を保持する。したがって、クラッチ連係機構13が操作力解除状態を維持し、クラッチ12を遮断したままにする。また、このときには、連通バルブ16も閉位置を保つ。
このように連通バルブ16が閉位置を保つので、可変吐出ポンプ1の吐出油が油圧モーター3に供給され、油圧モーター3は上記のように高トルクで作動し、当該車両を1速で走行させる。そして、このときの車両の走行速度は、可変吐出ポンプ1の傾転角で制御される。
【0023】
次に、レバー10を操作して選択バルブ9を図面下側位置に切り換えると、シリンダ8の油圧室8bが、選択バルブ9を介して制御ポンプ6に連通する。したがって、この油圧室8bに油圧が導かれるとともに、その圧力作用でシリンダ8が伸長する。シリンダ8が伸長すれば、油圧モーター3の傾転角が小さくなり、2速の状態になる。この2速の状態になっていることは、選択バルブ9を介してコントローラCに入力される。
【0024】
このとき、傾転角センサ5で検出した可変吐出ポンプ1の傾転角が設定角度未満であれば、コントローラCがそれを判断して、クラッチ制御バルブ14を図示のノーマル位置に保ち、クラッチ12を遮断したままにする。それとともに、連通バルブ16も閉位置を保つ。
したがって、可変吐出ポンプ1の吐出油で、油圧モーター3が回転し、当該車両が2速で走行する。そして、このときの車両の走行速度は、可変吐出ポンプ1の傾転角で制御されること、1速の場合と同様である。
【0025】
上記のように2速走行時に、可変吐出ポンプ1の傾転角を大きくしながら増速していくと、その過程で、傾転角が設定角度以上になる。傾転角が設定角度以上になると、傾転角センサ5がそれを検知して、コントローラCに信号を出力する。このときコントローラCには、選択バルブ9からの2速信号も入力している。このように2速走行時に、可変吐出ポンプ1の傾転角が設定角度以上になったとき、言い換えると、車両の走行速度が設定速度以上になったとき、コントローラCは、クラッチ制御バルブ14を図面右側位置に切り換える。
【0026】
クラッチ制御バルブ14が上記右側位置に切り換われば、クラッチ連係機構13が作動してクラッチ12を連係する。
また、これと同時に、コントローラCは、連通バルブ16を開位置に切り換える。
したがって、油圧モーター3がクラッチ12を介してエンジンEに直結することになる。また、このときには可変吐出ポンプ1の吐出油が、油圧モーター3に供給されずに、バイパスライン15を通って可変吐出ポンプ1に戻される。
【0027】
なお、上記のような閉回路から油漏れが発生した場合には、上記制御ポンプ6から、連通ライン17を介して前進走行ライン2または後進走行ライン4に油を補充することができる。
また、この閉回路からの油漏れがなければ、制御ポンプ6の吐出油は、連通ライン17との接続部18からリリーフバルブ7を介してタンクTへ戻される。そのため、上記接続部18には、リリーフバルブ7の設定圧が作用している。このようにして、接続部18の圧力を保っているので、前進走行ライン2や後進走行ライン4の圧力が接続部18の圧力より下がったときには、連通ライン17から油を補給することができる。
【0028】
例えば、走行中、油漏れによって、後進走行ライン4の圧力が連通ライン17の接続部18の圧力より低くなった場合には、チェックバルブ20を介して、制御ポンプ6から後進走行ライン4へ油を補給する。反対に、前進走行ライン2の圧力が低くなった場合にも、同様に、チェックバルブ19を介して油を補給する。
もしも、上記閉回路中の油が漏れて、圧力が下がったままにしておくと、可変吐出ポンプ1から油圧モーター3への動力の伝達がうまくできなくなってしまうことがあるが、上記のように制御ポンプ6から補給すれば、閉回路中には、常に必要量の油が流れ、安定した運転ができる。
【0029】
なお、車両が後進走行するとき、高速となることは考えにくいので、エンジンEの駆動力で油圧モーター3を直接的に回転させる必要性はほとんどない。そこで、可変吐出ポンプ1の斜板を車両の後進走行範囲で傾ける場合は、常にクラッチ12を遮断させたままにする。
【0030】
図2に、この発明のハイドロスタティックトランスミッション装置の第2実施例を示す。
この装置は、クラッチ切換機構を制御したり、バイパスライン15を連通させるための制御を、全て油圧によって行うようにした点が第1実施例と異なる。
ただし、低速走行時には、エンジンEによって駆動される可変吐出ポンプ1と前進走行ライン2と、油圧モーター3と、後進走行ライン4とで、閉回路を形成し、通常のハイドロスタティックトランスミッション装置として機能する点は、第1実施例と同じである。
そして、第1実施例と同じ構成要素には、同じ符号を付けるとともに、詳細な説明は省略する。
【0031】
以下に、この装置の構成のうち、油圧によって制御される部分について、詳細に説明する。
可変吐出ポンプ1には、上記可変吐出ポンプ1とともに回転する制御ポンプ6を連設している。この第2実施例では、制御ポンプ6の吐出油によって、クラッチ連係機構13を作動させたり、バイパスライン15を連通させたりする。
上記制御ポンプ6の吐出ポート6aには、分岐点29からクラッチ連係機構13を接続する第1制御ライン25を接続している。この第1制御ライン25には、傾転角検出バルブ21と、第1制御バルブ22を設けている。
【0032】
上記傾転角検出バルブ21は、可変吐出ポンプ1の斜板の傾きを検出するために、第1実施例の傾転角センサ5の代わりに設けたものである。そして、この傾転角検出バルブ21は、可変吐出ポンプ1の斜板の傾転角が設定角度未満の場合には、スプリング21aによる図示の遮断位置を保っているが、上記傾転角が設定角度以上になった時に、連通位置に切り換わるようにしている。
また、上記第1制御バルブ22は、スプリング22bによって図示の遮断位置を維持し、パイロットポート22aに圧力を作用すると連通位置に切り換わる。
【0033】
そして、この第1制御バルブ22と、上記傾転角検出バルブ21の両方が連通位置に切り換わって、初めて、第1制御ライン25が連通する。第1制御ライン25が連通すると、クラッチ連係機構13に制御ポンプ6の圧油が供給され、クラッチ12を連係する。
なお、この第2実施例では、第1制御バルブ22がこの発明のクラッチ制御バルブであり、上記クラッチ連係機構13、傾転角検出バルブ21、第1制御バルブ22、制御ポンプ6とで、クラッチ切換機構を構成している。
【0034】
また、第1制御ライン25の分岐点30から、連通バルブ24のパイロットポート24aに接続する第2制御ライン26を設けている。上記連通バルブ24は、バイパスライン15を連通させたり、遮断したりするバルブで、スプリング24bによって遮断位置を維持している。ただし、パイロットポート24aに油圧を作用させると、連通位置に切り換わる。
そして、第1制御バルブ22と傾転角検出バルブ21の両方が同時に連通位置にあるときに、上記第2制御ライン26に制御ポンプ6からの圧油が供給され、連通バルブ24は連通位置に切り換わる。
【0035】
一方、油圧モーター3は、第1実施例のモーターと同じで、1速、2速を設定することによって、高トルク、低トルクを設定することができる。
上記斜板の傾きを切り換える容量切換機構としては、第1実施例と同様のシリンダ8を設けている。ただし、この第2実施例では、シリンダ8の油圧室8bは、第2制御バルブ23を介して制御ポンプ6に接続している。図示の状態では、油圧室8bがタンクTに接続していて、シリンダ8が収縮しているので、油圧モーター3は、1速に設定されている。
この第2制御バルブ23が他方のバルブ位置に切り換わると、制御ポンプ6から油圧室8bに圧油が供給され、シリンダ8が伸長する。そして、油圧モーター3は2速側に設定される。
なお、第2制御バルブ23のパイロットポート23aは、第3制御ライン27と、選択バルブ9を介して、制御ポンプ6に接続している。そのため、選択バルブ9を連通位置に切り換えると、制御ポンプ6からの圧油によって、第2制御バルブ23が切り換わる。
【0036】
上記選択バルブ9は、第1実施例と同様に、レバー10によって、1速か、2速かを選択するバルブである。図示の遮断位置が1速を選択するバルブ位置で、連通位置が2速を選択するバルブ位置である。
さらに、上記選択バルブ9には、上記第3制御ライン27の分岐点31から分岐した第4制御ライン28を介して第1制御バルブ22のパイロットポート22aを接続している。したがって、油圧モーター3の2速を選択するために、選択バルブ9を連通位置に切り換えると、第1制御バルブ22が切り換わる。
【0037】
以下に第2実施例の装置の作用を説明する。ただし、前進走行時についてのみ説明し、後進走行時の説明は省略する。
まず、油圧モーター3が高トルクを出力する1速を選択した図2の状態を考える。
この状態では、選択バルブ9が遮断位置になっているので、第1制御バルブ22も遮断状態である。したがって、可変吐出ポンプ1の斜板を最小角度から最大角度まで変化させても、第1制御ライン25が連通してクラッチ連係機構13が作動することはない。すなわち、可変吐出ポンプ1の吐出量に対応して、油圧モーター3が回転する。このときには油圧モーター3が高トルク作動すること、第1実施例と同様である。
【0038】
次に、選択バルブ9を切り換えると、第3、第4制御ライン27、28が制御ポンプ6と連通し、第1制御バルブ22と第2制御バルブ23が切り換わる。第2制御バルブ23が切り換わると、シリンダ8が伸びて、油圧モーター3を2速に設定する。
このとき、第1制御バルブ22は、連通状態になるが、傾転角検出バルブ21が連通状態になるまでは、第1、第2制御ライン25、26と制御ポンプ6間は、遮断されたままである。
この状態で、可変吐出ポンプ1の斜板の傾きを設定角度より小さな範囲で変化させた場合には、傾転角検出バルブ21は切り換わらない。つまり、油圧モーター3が低トルクで作動すること、第1実施例と同様である。
【0039】
一方、可変吐出ポンプ1の斜板を、最大傾転角まで傾けると、傾転角検出バルブ21が連通位置に切り換わり、制御ポンプ6と第1、第2制御ライン25、26間が同時に連通する。
第1制御ライン25が連通すると、クラッチ連係機構13によって、クラッチ12が連係する。したがって、油圧モーター3は、クラッチ12を介して、エンジンEと連係し、このエンジンEによって、直接駆動される。
このように、油圧モーター3を2速に設定した状態で、可変吐出ポンプ1の斜板を設定角度以上に傾けたとき、つまり、高速走行時には、クラッチ12を連係状態に切り換えることができる。したがって、エンジンEの駆動力は、軸11を介して油圧モーター3側に直接的に伝えられることになり、最も効率よくエンジンEの駆動力を出力側に伝達することが可能となる。
また、第2制御ライン26と制御ポンプ6間が連通すると、連通バルブ24が切り換わり、バイパスライン15が連通する。したがって、両走行ライン2、4が同圧となり、可変吐出ポンプ1の吐出油によって油圧モーター3を回転させることがなく、そこで伝達効率が損なわれるおそれがない。
【0040】
なお、上記第1、第2実施例では、1速、2速を選択する選択バルブ9をレバー10によって、切り換えているが、この選択バルブを電磁バルブとして、ソレノイドを励磁することで切り換えるようにすることもできる。この場合は、手動スイッチのオン・オフによって、バルブを切り換える。
また、上記第1、第2実施例では、制御ポンプ6を可変吐出ポンプ1に連設させているが、必ずしも連設させなくても良い。ただし、可変吐出ポンプ1に連設すれば、エンジンEを両ポンプの共通の動力源とすることができる。
【0041】
【発明の効果】
第1、2の発明によれば、流体圧モーターを大容量に設定したとき、あるいは、小容量でも、可変吐出ポンプの斜板を設定角度に達しない範囲で傾けたときには、つまり、低速走行時には、クラッチが遮断状態にある。したがって、低速走行時には、通常のハイドロスタティックトランスミッション装置として機能し、油圧モーターの回転速度を連続的にコントロールでき、無段階変速が可能である。
これに対し、流体圧モーターを小容量に設定して、可変吐出ポンプの斜板を車両の前進走行範囲で設定角度以上に傾けたとき、つまり、高速走行時には、クラッチを連係状態に切り換えるので、動力源の駆動力を、流体圧モーター側に直接的に伝えることができる。
また、高速走行時には、連通バルブが連通位置に切換わり、バイパスラインが連通するので、両走行ラインが同圧となり、可変吐出ポンプの吐出流体によって流体圧モーターを回転させることがなく、そこで伝達効率が損なわれるおそれがない。
さらに、流体圧モーターとして、その容量を2段階に設定できる2速モーターを用いることで、高トルクと低トルクを選択し、それぞれのトルク範囲での速度制御ができる。
【0042】
特に、第2の発明によれば、クラッチ切換機構として、流体圧を利用するので、誤作動がほとんどなく、確実にクラッチを切り換えることができる。
また、第3の発明によれば、両走行ラインからの流体漏れが発生したときに、制御ポンプによって、流体を補充することができる。しかも、ひとつの制御ポンプを共用して、クラッチ連係機構や容量切換機構の作動と、上記両走行ラインへの流体供給とができるので、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のハイドロスタティックトランスミッション装置を示す回路図である。
【図2】第2実施例のハイドロスタティックトランスミッション装置を示す回路図である。
【符号の説明】
E エンジン
1 可変吐出ポンプ
2 前進走行ライン
3 油圧モーター
4 後進走行ライン
5 傾転角センサ
6 制御ポンプ
6a 吐出ポート
8 シリンダ
9 選択バルブ
10 レバー
11 軸
12 クラッチ
13 クラッチ連係機構
14 クラッチ制御バルブ
15 バイパスライン
16、24 連通バルブ
17 連通ライン
18 接続部
19、20 チェックバルブ
21 傾転角検出バルブ
22 第1制御バルブ
23 第2制御バルブ
25 第1制御ライン
26 第2制御ライン
C コントローラ
Claims (3)
- 一方向に回転する動力源と、この動力源に連係され、斜板の傾きに応じて吐出量および吐出方向を変える可変吐出ポンプと、この可変吐出ポンプの吐出流体で駆動されるとともに、斜板の傾きに応じて大・小2種類の容量が設定される流体圧モーターと、上記可変吐出ポンプの一方のポートを上記流体圧モーターの一方のポートに接続する前進走行ラインと、上記可変吐出ポンプの他方のポートを上記流体圧モーターの他方のポートに接続する後進走行ラインと、これら前進走行ラインと後進走行ラインとを連通して流体圧モーターを迂回するバイパスラインと、このバイパスラインを連通したり遮断したりする連通バルブと、流体圧モーターを上記動力源側に連係したり、その連係を遮断したりするクラッチと、このクラッチに作用して流体圧モーターを動力源側に連係させるクラッチ切換機構と、上記流体圧モーターの容量を選択する容量選択機構と、この容量選択機構による選択に応じて流体圧モーターの斜板の傾きを切り換える容量切換機構と、上記可変吐出ポンプの斜板の傾転角を検出する傾転角検出機構とを備え、上記容量選択機構が、流体圧モーターの小容量を選択した状態で、上記傾転角検出機構が、車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角を検出したときに、上記クラッチ切換機構がクラッチを連係させるとともに、上記連通バルブがバイパスラインを連通させる構成にしたハイドロスタティックトランスミッション装置において、クラッチ切換機構が、クラッチに連係させ、流体圧で作動するクラッチ連係機構と、クラッチ制御バルブと、上記クラッチ制御バルブを切り換えたときにクラッチ連係機構へ流体を供給する制御ポンプとからなるとともに、可変吐出ポンプの傾転角を検出する電気的な傾転角センサと、この傾転角センサの検出信号と容量選択機構の選択信号に応じて、クラッチ制御バルブや連通バルブを制御するコントローラとを備え、このコントローラに、上記容量選択機構から、流体圧モーターの小容量を選択した選択信号と、上記傾転角センサから、車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角を検出した検出信号とが同時に入力されたときには、上記コントローラが、上記クラッチ制御バルブと上記連通バルブとを切り換えて、上記制御ポンプからクラッチ連係機構へ流体を供給させるとともに、上記バイパスラインを連通させる構成にしたことを特徴とするハイドロスタティックトランスミッション装置。
- 一方向に回転する動力源と、この動力源に連係され、斜板の傾きに応じて吐出量および吐出方向を変える可変吐出ポンプと、この可変吐出ポンプの吐出流体で駆動されるとともに、斜板の傾きに応じて大・小2種類の容量が設定される流体圧モーターと、上記可変吐出ポンプの一方のポートを上記流体圧モーターの一方のポートに接続する前進走行ラインと、上記可変吐出ポンプの他方のポートを上記流体圧モーターの他方のポートに接続する後進走行ラインと、これら前進走行ラインと後進走行ラインとを連通して流体圧モーターを迂回するバイパスラインと、このバイパスラインを連通したり遮断したりする連通バルブと、流体圧モーターを上記動力源側に連係したり、その連係を遮断したりするクラッチと、このクラッチに作用して流体圧モーターを動力源側に連係させるクラッチ切換機構と、上記流体圧モーターの容量を選択する容量選択機構と、この容量選択機構による選択に応じて流体圧モーターの斜板の傾きを切り換える容量切換機構と、上記可変吐出ポンプの斜板の傾転角を検出する傾転角検出機構とを備え、上記容量選択機構が、流体圧モーターの小容量を選択した状態で、上記傾転角検出機構が、車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角を検出したときに、上記クラッチ切換機構がクラッチを連係させるとともに、上記連通バルブがバイパスラインを連通させる構成にしたハイドロスタティックトランスミッション装置において、クラッチ切換機構が、クラッチに連係させ、流体圧で作動するクラッチ連係機構と、クラッチ連係機構に流体を供給する制御ポンプと、上記制御ポンプと上記クラッチ連係機構とを接続する第1制御ラインと、可変吐出ポンプの斜板の傾転角が車両の前進走行範囲内で設定角度以上の傾転角となったときに連通位置に切り変わる傾転角検出バルブと、上記傾転角検出バルブと直列に設けたクラッチ制御バルブとからなるとともに、上記第1制御ラインと連通バルブのパイロットポートとを接続する第2制御ラインとを備え、容量選択機構で小容量を選択すると上記クラッチ制御バルブが連通位置に切り換わり、この状態で、上記傾転角検出バルブが連通位置に切り換わ ったときに、上記第1制御ラインと第2制御ラインに、制御ポンプから流体が供給され、上記クラッチが連係するとともに、バイパスラインが連通する構成にしたことを特徴とするハイドロスタティックトランスミッション装置。
- 前進走行ラインと後進走行ラインとを接続する連通ラインと、この連通ライン上に制御ポンプの吐出ポートを接続した接続部と、上記連通ライン上であって上記接続部より前進走行ライン側に設け、上記接続部から上記前進走行ラインへの流通のみを許容するチェックバルブと、上記連通ライン上であって上記接続部より後進走行ライン側に設け、上記接続部から上記後進走行ラインへの流通のみを許容するチェックバルブとを備えるとともに、容量切換機構が制御ポンプから供給される流体によって作動する構成としたことを特徴とする請求項1または2に記載のハイドロスタティックトランスミッション装置。
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