JP3731761B2 - 画像処理方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は画像処理方法および装置に関し、詳細には画像のうち、異常陰影やコントラストの高い画像部分等の特定の画像部分だけを選択的に強調処理する画像処理方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、種々の画像取得方法により得られた画像を表す画像信号に対して、階調処理や周波数処理等の画像処理を施し、画像の観察読影性能を向上させることが行われている。特に人体を被写体とした放射線画像のような医用画像の分野においては、医師等の専門家が、得られた画像に基づいて患者の疾病や傷害の有無を的確に診断する必要があり、その画像の読影性能を向上させる画像処理は不可欠なものとなっている。
【0003】
この画像処理のうち、いわゆる周波数強調処理としては、例えば特開昭61-169971 号に示されるように、原画像の濃度値等の画像信号(オリジナル画像信号という)Sorg を、
【0004】
【数8】
【0005】
なる画像信号Sprocに変換するものが知られている。ここでβは周波数強調係数、Susは非鮮鋭マスク(いわゆるボケマスク)信号である。このボケマスク信号Susは、2次元に配置された画素に対してオリジナル画像信号Sorg を中心画素とするN列×N行(Nは奇数)の画素マトリクスからなるマスク、すなわちボケマスクを設定し、
【0006】
【数9】
【0007】
等として求められる超低空間周波数成分である。
【0008】
式(8)の第2項括弧内の値(Sorg −Sus)は、オリジナル画像信号から超低空間周波数成分であるボケマスク信号を減算したものであるから、オリジナル画像信号のうちの、超低空間周波数成分を除去した超低空間周波数よりも高い周波数成分を意味する。この比較的高い周波数成分に周波数強調係数βを乗じたうえで、オリジナル画像信号を加算することにより、この比較的高い周波数成分を強調することができる。
【0009】
一方、画像のうち異常な陰影等の特定の画像部分だけを選択的に抽出する、モーフォロジー(Morphology;モフォロジーまたはモルフォロジーとも称する)のアルゴリズムに基づく処理(以下、モーフォロジー演算またはモーフォロジー処理という)が知られている。このモーフォロジー処理は、特に乳癌における特徴的形態である微小石灰化像を検出するのに有効な手法として研究されているが、対象画像としては、このようなマンモグラムにおける微小石灰化像に限るものではなく、検出しようとする特定の画像部分(異常陰影等)の大きさや形状が予め分かっているものについては、いかなる画像に対しても適用することができる。
【0010】
以下、このモーフォロジー処理を、マンモグラムにおける微小石灰化像の検出に適用した例により、モーフォロジー処理の概要について説明する。
【0011】
(モーフォロジーの基本演算)
モーフォロジー処理は一般的にはN次元空間における集合論として展開されるが、直感的な理解のために2次元の濃淡画像を対象として説明する。
【0012】
濃淡画像を座標(x,y)の点が濃度値f(x,y)に相当する高さをもつ空間とみなす。ここで、濃度値f(x,y)は、CRTに表示するための信号のように、輝度の高いもの程大きな値となる高輝度高信号レベルの信号とする。
【0013】
まず、簡単のために、その断面に相当する1次元の関数f(x)を考える。モーフォロジー演算に用いる構造要素gは次式(10)に示すように、原点について対称な対称関数
【0014】
【数10】
【0015】
であり、定義域内で値が0で、その定義域Gが下記式(11)であるとする。
【0016】
【数11】
【0017】
このとき、モーフォロジー演算の基本形は式(12)〜(15)に示すように、非常に簡単な演算となる。
【0018】
【数12】
【0019】
すなわち、dilation(ダイレーション)処理は、注目画素を中心とした、±m(構造要素Bに応じて決定される値)の幅の中の最大値を探索する処理であり(図6(A)参照)、一方、erosion (エロージョン)処理は、注目画素を中心とした、±mの幅の中の最小値を探索する処理である(図6(B)参照)。したがって、このようにダイレーション処理、あるいはエロージョン処理された信号(図6(A),(B)において破線で示す)をオリジナル画像信号から差し引くことによって、図面上の斜線で示す、信号値が急峻に変化するという画像のエッジ部と構造要素より空間的に小さな範囲で変動する画像部分とについてのみゼロ以外の値を出力するモーフォロジー信号Smor を得るものである。
【0020】
また、opening (またはclosing )処理は最小値(または最大値)の探索の後に、最大値(または最小値)を探索することに相当する。すなわちopening (オープニング)処理は、低輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより小さい凸状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が高い部分)を取り除くことに相当する(図6(C)参照)。一方、closing (クロージング)処理は、高輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより小さい凹状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が低い部分)を取り除くことに相当する(図6(D)参照)。したがってオープニング処理、クロージング処理されたもの(図6(C),(D)において破線で示す)をオリジナル画像信号から差し引くことによって、図面上の斜線で示すような、構造要素より空間的に小さな範囲で変動するという特徴的な画像部分についてのみゼロ以外の値を出力するモーフォロジー信号Smor を得るものである。
【0021】
なお、構造要素gが原点に対して対称ではない場合の、式(12)に示すダイレーション演算をMinkowski (ミンコフスキー)和、式(13)に示すエロージョン演算をミンコフスキー差という。
【0022】
ここで、濃度値f(x)が、ネガフイルムに記録するための信号のように、濃度の高いもの程大きな値となる高濃度高信号レベルの信号の場合においては、輝度と濃度との関係が逆転するため、高濃度高信号レベルの信号におけるダイレーション処理は、高輝度高信号レベルにおけるエロージョン処理(図6(B))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるエロージョン処理は、高輝度高信号レベルにおけるダイレーション処理(図6(A))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるオープニング処理は、高輝度高信号レベルにおけるクロージング処理(図6(D))と一致し、高濃度高信号レベルの信号におけるクロージング処理は、高輝度高信号レベルにおけるオープニング処理(図6(C))と一致する。
【0023】
なお、本項では高輝度高信号レベルの画像信号(輝度値)の場合について説明する。
【0024】
(石灰化陰影検出への応用)
石灰化陰影の検出には、原画像から平滑化した画像を引き去る差分法が考えられる。単純な平滑化法では石灰化陰影と細長い形状の非石灰化陰影(乳腺、血管および乳腺支持組織等)との識別が困難であるため、東京農工大の小畑らは、多重構造要素を用いたオープニング演算に基づく下記式(16)で表されるモーフォロジーフィルターを提案している(「多重構造要素を用いたモルフォロジーフィルタによる微小石灰化像の抽出」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol.J75-D-II No.7 P1170 〜1176 1992年7月等)。
【0025】
【数13】
【0026】
ここでBi (i=1,2,…,M)は、例えば図7に示す直線状の4つ(この場合M=4)の構造要素(これら4つの構造要素の全体をもって多重構造要素というが、以下、i=1の場合を含めて単に構造要素という)である。構造要素Bi を検出対象である石灰化陰影よりも大きく設定すれば、上記オープニング演算による処理で、構造要素Bi よりも細かな凸状の信号変化部分である石灰化陰影は取り除かれる。一方、細長い形状の非石灰化陰影はその長さが構造要素Bi よりも長く、その傾きが4つの構造要素Bi のいずれかに一致すれば、それぞれの構造要素Bi に対するオープニング処理の最大値(式(16)の第2項の演算)を求めてもそのまま残る。したがってこのようにして得られた平滑化画像(石灰化陰影のみが取り除かれた画像)を原画像fから引き去ることで、小さな石灰化陰影のみが含まれる画像が得られる。これが式(16)の考え方である。
【0027】
なお、前述したように、高濃度高信号レベルの信号の場合においては、石灰化陰影は周囲の画像部分よりも濃度値が低くなり、石灰化陰影は周囲部分に対して凹状の信号変化部分となるため、オープニング処理に代えてクロージング処理を適用し、式(16)に代えて式(17)を適用する。
【0028】
【数14】
【0029】
このように、モーフォロジー処理は、
(1)石灰化陰影そのものの抽出に有効であること
(2)複雑なバックグラウンド情報に影響されにくいこと
(3)抽出した石灰化陰影がひずまないこと
などの特徴がある。すなわち、この手法は一般の微分処理に比べて、石灰化陰影のサイズ・形状・濃度分布などの幾何学的情報をより良く保った検出が可能である。
【0030】
【発明が解決しようとする課題】
ところで上述したように、画像の読影性能を向上させるには、対象となる画像に対して画像処理を行うことが不可欠となっているが、特開平2−1078号に開示されているように、単に濃度依存による強調処理では、例えばマンモグラムにおける放射線ノイズ成分のような、画像読影の障害となる成分まで強調されるため、読影性能をむしろ低下させることになる。
【0031】
また特公昭60−192482号、特開平2−120985号、特表平3−502975号等に開示されているように、画像信号の分散値に依存した強調処理では、局所的に濃度変化の大きい画像部分が強く強調されるため、その付近でアンダーシュート、オーバーシュートが相対的に目立ち、特にX線画像に関しては高濃度側でアーチファクトが発生しやすいという問題がある。
【0032】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、ノイズ成分等の画像読影に不要な成分を強調することなく、注目する特定の画像部分だけを効率よく強調処理し、アーチファクトの発生を抑制した画像処理方法および装置を提供することを目的とするものである。
【0033】
【課題を解決するための手段】
本発明の画像処理方法は、画像を表すオリジナル画像信号Sorg の所定の空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号Susを求め、
該非鮮鋭マスク信号Susと前記オリジナル画像信号Sorg との差信号Sspに対して、構造要素Biおよびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、前記差信号が空間的に前記構造要素Biより小さく変動する画像部分および/または前記差信号の変化が急峻な画像部分について特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を求め、
前記画像部分を強調するように、前記差信号Sspに対して前記モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理を施すことを特徴とするものである。
【0034】
なお、構造要素Biを構成する構造要素Bとしては、例えば、正方形、長方形、円形、楕円形、線形または菱形等の上下左右対称の要素が望ましい。以下の発明においても同様である。
【0035】
また、前記モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理としては、下記式(1)にしたがった強調処理を用いることができる。
【0036】
【数1】
【0037】
上記強調係数β(Smor )としては、例えば図3に示すような関数形状を有するものが望ましい。すなわち、図3(A)に示すような関数形状は、放射線ノイズ領域(粒状領域)であるモーフォロジー信号値Smor が小さい領域についてはその出力を低く抑制し、石灰化陰影等の所望の画像部分に対応する領域であるモーフォロジー信号値Smor が極端に大きい領域についてはβ(Smor )の上限値に固定し、これらの中間領域についてはモーフォロジー信号値Smor の増大にしたがって単調増加するように設定されている。また、図3(B)に示すような関数形状は、放射線ノイズ領域(粒状領域)であるモーフォロジー信号値Smor が小さい領域についてはその出力をゼロに固定し、石灰化陰影等の所望の画像部分に対応する領域であるモーフォロジー信号値Smor が大きい領域についてはβ(Smor )の上限値に固定し、モーフォロジー信号値Smor がさらに大きい領域についてはβ(Smor )を低く抑制して、極端な強調を行った場合にもオーバーシュートやアンダーシュートが発生するのを抑制するものである。
【0038】
また、モーフォロジー演算としては、下記式(2)〜(6)で示される種々のものを適用することができる。
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
【外1】
【0045】
なおモーフォロジー演算として上記式(6)に示すものを用いた場合には、モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理としては下記式(7)にしたがったものを用いるのが望ましい。
【0046】
【数7】
【0047】
ここでf(Ssp)は、例えば図5に示すように、差信号Sspが所定の大きさ以上の範囲、または所定の大きさ以下の範囲については、その出力が一定値に固定された関数形状とするのが望ましい。これは極端な強調を行った場合にもオーバーシュートやアンダーシュートが発生するのを抑制するためである。
【0048】
式(2)または(3)で表されるモーフォロジー演算を適用した場合、モーフォロジー信号Smor として、差信号Sspが前記構造要素Bi より空間的に小さく変動する画像部分や、輝度(濃度)が急激に変化するエッジ部分を構成する画素の信号を抽出することができ、このような画像部分を効果的に強調処理することができる。
【0049】
また、式(4)で表されるモーフォロジー演算を適用することにより、モーフォロジー信号Smor として、差信号Sspが周囲の画像部分よりも大きく、かつ前記構造要素Bi より空間的に小さく変動する画像部分(例えば、高輝度高信号レベルの画像信号における石灰化陰影)を構成する画素の信号を抽出することができ、この画像部分を効果的に強調処理することができる。
【0050】
さらにまた、式(5)で表されるモーフォロジー演算を適用することにより、モーフォロジー信号Smor として、差信号Sspが周囲の画像部分よりも小さく、かつ前記構造要素Bi より空間的に小さく変動する画像部分(例えば、高濃度高信号レベルの画像信号における石灰化陰影)を構成する画素の信号を抽出することができ、この画像部分を効果的に強調処理することができる。
【0051】
また式(6)で表されるモーフォロジー演算を適用することにより、モーフォロジー信号Smor として、差信号Sspが構造要素Bi より空間的に小さく変動する画像部分や、輝度(濃度)が急激に変化するエッジ部分を構成する画素の信号を抽出することができ、このような画像部分を効果的に強調処理することができる。
【0052】
本発明の画像処理装置は、画像を表すオリジナル画像信号Sorg の所定の空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号Susを求める非鮮鋭マスク信号演算手段と、
該非鮮鋭マスク信号Susと前記オリジナル画像信号Sorg との差信号Sspに対して、構造要素Biおよびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、前記差信号が空間的に前記構造要素Biより小さく変動する画像部分および/または前記差画像信号の変化が急峻な画像部分について特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を求めるモーフォロジー信号演算手段と、
前記画像部分を強調するように、前記差信号Sspに対して前記モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理を施す強調手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0053】
また、前記モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理としては、上記式(1)にしたがった強調処理を用いることができる。
【0054】
上記強調係数β(Smor )としては、前記本発明の画像処理方法と同様に、例えば図2に示すような関数形状を有するものが望ましい。
【0055】
また、モーフォロジー演算も、上記式(2)〜(6)で示される種々のものを適用することができる。そして、式(6)のモーフォロジー演算を用いた場合には、強調処理として上記式(7)にしたがったものを用いるのが望ましい。
【0056】
なお、構造要素Bi (i=1,2,…,M)は、2次元面内での向きが互いに異なる構造要素Bとして準備されたM個の構造要素Bの集合を意味するものであり、M=1の場合は上下左右対称の要素を意味し、本発明においてはi≧2である構造要素およびi=1の場合も含めて構造要素Bi と表記するものとする。また、スケール係数λは上記ミンコフスキー和の演算およびミンコフスキー差の演算を行う回数を意味し、回数を増加するに応じて平滑化の程度が進む。
【0057】
【発明の効果】
本発明の画像処理方法・装置は、画像を表すオリジナル画像信号Sorg から、所定の空間周波数に対応する周波数成分(通常は超低空間周波数成分)Susを減算することにより、オリジナル画像信号Sorg のうちのその周波数以下の周波数成分が除かれた比較的高い周波数成分(差信号)Sspだけを抽出する。この抽出された比較的高い周波数成分Sspには、高周波成分であるいわゆる放射線ノイズも含まれる。
【0058】
このようにして得られた比較的高い周波数成分Sspに対して、構造要素Bi およびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、画像信号が空間的に構造要素Bi より小さく変動する画像部分や、信号値が急激に変化するエッジ部等の特徴的な画像部分について、特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を得る。ここで、上記特徴的な画像部分には上述の放射線ノイズも含まれるが、放射線ノイズに対応するモーフォロジー信号Smor は微小なものであり、一方、放射線ノイズ以外の特徴的な画像部分についてのモーフォロジー信号Smor は、この放射線ノイズについてのモーフォロジー信号Smor より大きな値を示す。このため、モーフォロジー信号Smor により放射線ノイズを特徴的な画像部分から分離することができる。
【0059】
次いで、上記比較的高い周波数成分Sspに対して、モーフォロジー信号Smor に応じた強調処理を施すことにより、放射線ノイズ以外の特徴的な画像部分は強い強調がなされ、放射線ノイズを含む他の画像部分については強調がほとんどなされず、これにより特徴的な画像部分を選択的に強調することができる。
【0060】
このように、本発明の画像処理方法・装置によれば、ノイズ成分等の画像読影に不要な成分を強調することなく、注目する特定の画像部分だけを効率よく強調処理することができる。また、分散値依存強調処理において生じるようなアーチファクトの発生を抑制することもできる。
【0061】
さらに、モーフォロジー演算では画像信号の分散値を計算する処理に代えて最大値または最小値を計算する処理を行うため、その演算時間を短縮することができる。
【0062】
なお、モーフォロジー演算として式(2)または(3)に示す演算を行った場合は、さらに以下のような効果がある。すなわち、例えば、図8(A)に示すように、強調しようとする特徴的な画像部分(図面中においては下に凸の「信号領域」と表記)が、周辺濃度が均一な画像部分において存在している場合は、このオリジナル画像信号Sorg に対して式(2)の第2項に示すダイレーション処理を施すと、そのダイレーション処理により得られるダイレーション信号Sdiは原画像の「信号領域」の周辺の画像部分に対応するオリジナル画像信号Sorg と略一致する。この結果、ダイレーション信号Sdiとオリジナル画像信号Sorg との差は「信号領域」についてのみゼロ以外の値を採る、換言すれば式(2)のモーフォロジー信号Smor は「信号領域」についてのみ所定の値を出力を示すが、他の周辺部分についてのモーフォロジー信号は略ゼロを示す。
【0063】
一方、同図(B)に示すように、周辺濃度が緩い濃度勾配を有する画像部分において「信号領域」が存在している場合は、このオリジナル画像信号Sorg に対して式(2)の第2項に示すダイレーション処理を施すと、そのダイレーション処理により得られるダイレーション信号Sdiは原画像の「信号領域」の周辺の画像部分に対応するオリジナル画像信号Sorg を信号値が大きくなる方向に平行移動したものとなる。この結果、ダイレーション信号Sdiとオリジナル画像信号Sorg との差は「信号領域」以外の周辺画像についてもゼロ以外の値を採り、「信号領域」については同図(A)の場合よりもかなり大きな値を採る。したがって式(2)に示したモーフォロジー信号も原画像の各部分にわたって全体的に大きな値を採ることとなる。その結果、モーフォロジー信号に応じた強調処理を行うと、強く強調され過ぎる虞がある。
【0064】
しかし、本発明の画像方法・装置によれば、オリジナル画像信号Sorg に対して直接にモーフォロジー演算を行うのではなく、オリジナル画像信号Sorg と非鮮鋭マスク信号Susとの差信号である高周波成分Sspについてモーフォロジー演算を施すため、図8(B)に示したような緩い濃度勾配に対してはモーフォロジー演算の結果であるモーフォロジー信号値が略ゼロとなり、したがって上述した過度の強調を防止することができる。式(3)に示したエロージョン処理についても同様である。
【0065】
なお、本発明の画像処理方法・装置の作用について図9を用いて説明すると、図9(A)に示すようなオリジナル画像信号Sorg のうち、非鮮鋭マスクの大きさに応じた高周波成分が分離され、そのうちの信号成分だけが選択的に強調係数β(Smor )により強調されて、同図(B)に示すような信号成分だけが強調された処理済画像信号Sprocに変換される。
【0066】
また、図10(A),(B)に従来の強調処理((A)参照)により求められる処理済画像信号と本発明の強調処理((B)参照)により求められる処理済画像信号の相違を示す。本発明の画像処理方法による画像強調処理によれば、オーバーシュート、アンダーシュートを抑制しつつ所望信号だけを選択的に効果的に強調処理することができる。
【0067】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の画像処理方法を具体的に実施するための画像処理装置について図面を用いて説明する。
【0068】
図1は本実施形態の画像処理装置を示す概略ブロック図である。図示の画像処理装置は、画像を表すオリジナル画像信号Sorg の、超低空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号Susを求めるローパスフィルタ11と、オリジナル画像信号Sorg から非鮮鋭マスク信号Susを減算処理する演算素子14a と、この演算素子14a により得られたオリジナル画像信号Sorg の高周波成分Ssp(=Sorg −Sus)に対して、構造要素Biおよびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、オリジナル画像信号Sorg の高周波成分Sspが空間的に構造要素Bi より小さく変動する画像部分や、信号値が急激に変化するエッジ部等の特徴的な画像部分について、特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を得るモーフォロジーフィルタ12と、モーフォロジー信号Smor の入力を受けてモーフォロジー信号Smor に応じた強調係数βm(Smor )を出力する変換テーブル13と、変換テーブル13により出力された強調係数βm(Smor )により、オリジナル画像信号Sorg に下記式(1)にしたがった演算処理を施して処理済画像信号Sprocを得る演算素子14b ・14c とを備えた構成である。
【0069】
【数1】
【0070】
ここで画像を表すオリジナル画像信号Sorg は、予め所定の画像読取装置により放射線画像から読み取られて所定の記憶手段に記憶されたものであってもよいし、画像読取装置から直接入力されたものであってもよい。また、本実施形態における放射線画像としてはマンモグラムとし、ローパスフィルタ11はオリジナル画像信号Sorg に対して、例えば3列×3行の画素マトリクスからなるボケマスクを設定し、下記式(9)(N=3に設定)にしたがって得られたボケマスク信号Susを出力する。
【0071】
【数9】
【0072】
なお、ボケマスクとしては上記式(9)に示すようにマスク内の画素値の単純平均を用いるものの他、例えば図2のマトリクスに示したような、中心画素からの距離に応じてマスク内の画素値の重み付けを変化させたものを用いることもできる。
【0073】
モーフォロジーフィルタ12はオリジナル画像信号Sorg の高周波成分Sspに対して、例えば5列×5行の画素マトリクスからなる構造要素Bとスケール係数λとにより下記式(2)に示すダイレーション処理にしたがって演算処理することにより、オリジナルの画像信号Sorg の高周波成分Sspが空間的に構造要素Bi より小さく変動する画像部分(例えばマンモグラムにおいては乳癌であることを示す微小石灰化部分)と、信号値が急激に変化するエッジ部等の特徴的な画像部分とに対応する画像信号が入力された場合は大きな値のモーフォロジー信号Smor を出力し、一方、高周波成分Sspの値が周囲の画像部分よりも大きくまたは構造要素Bi より空間的に大きく変動する画像部分に対応する画像信号が入力された場合は極めて小さな値のモーフォロジー信号Smor を出力する。なお、構造要素Bは強調処理を施そうとする所望の微小石灰化部分の形状や大きさに応じて予め設定されたものである。
【0074】
【数2】
【0075】
変換テーブル13は、例えば図3(A)に示すように放射線ノイズ領域であるモーフォロジー信号値Smor が小さい領域についてはその出力を低く抑制し、石灰化陰影等の所望の画像部分に対応する領域であるモーフォロジー信号値Smor が大きい領域については出力を大きくするように、モーフォロジー信号値Smor の増大にしたがって単調増加するように設定されている(図1中においては模式的に記載している)。
【0076】
なお、演算素子14b は演算素子14a の出力と変換テーブル13の出力とを乗算する演算素子、演算素子14c はオリジナル画像信号Sorg と演算素子14b の出力とを加算する演算素子である。
【0077】
次に本実施形態の画像処理装置の作用について説明する。
【0078】
画像処理装置にオリジナル画像信号Sorg が入力されると、まずローパスフィルタ11はオリジナル画像信号Sorg に対して、3列×3行の画素マトリクスからなるボケマスクを設定し、上記式(9)(N=3)にしたがった演算を施してボケマスク信号Susを出力する。このボケマスク信号Susは3列×3行の画素マトリクスからなるボケマスクであるため、比較的高い周波数の信号となっている。
【0079】
演算素子14a は、オリジナル画像信号Sorg からローパスフィルタ11の出力であるボケマスク信号Susを減算して、オリジナル画像信号Sorg うち高周波成分Ssp(Sorg −Sus)だけを出力する。
【0080】
この演算素子14a の出力Sspに対して、モーフォロジーフィルタ12が5列×5行の画素マトリクスからなる構造要素Bとスケール係数λとにより、上記式(2)にしたがった演算処理を施して、その画像部分の特徴的な形状や信号値の変動に応じたモーフォロジー信号Smor を出力する。ここでその画像部分が異常陰影である微小石灰化部分やコントラストが急激に変化する部分である場合には大きな値のモーフォロジー信号Smor が出力され、その他の場合には極めて小さな値のモーフォロジー信号Smor が出力される。
【0081】
モーフォロジーフィルタ12から出力されたモーフォロジー信号Smor は変換テーブル13に入力され、変換テーブル13は入力されたモーフォロジー信号Smor の大きさに応じた強調係数βm(Smor )を出力する。本実施形態においては、微小石灰化部分においては略上限値が強調係数βm(Smor )として出力され、その他の部分においては極めて小さい値が強調係数βm(Smor )として出力される。
【0082】
演算素子14b は、演算素子14a からの出力Sspと変換テーブル13からの出力βm(Smor )とを乗算処理して高周波成分Sspに重み付けを行う。
【0083】
次いで演算素子14c は、オリジナル画像信号Sorg と演算素子14b からの出力とを加算処理して処理済画像信号Sprocを出力する。この出力された処理済画像信号Sprocは、上述の処理によりオリジナル画像信号の高周波成分Sspのうちの微小石灰化部分やコントラストが急激に変化する部分が強調処理された信号である。
【0084】
このように、本実施形態の画像処理装置によれば、高周波成分Sspの周波数帯域内にある放射線ノイズの強調を抑制しつつ微小石灰化部分等の特徴的な画像部分を選択的に効率よく強調処理することができ、計算機支援画像診断等において非常に有用である。
【0085】
なお、モーフォロジーフィルタ12による演算は、上記式(2)によるものに限らず、下記式(3)、(4)、(5)または(6)によるものであってもよい。
【0086】
【数3】
【0087】
【数4】
【0088】
【数5】
【0089】
【数6】
【0090】
ただし、式(6)の演算を適用する場合には、演算素子14aからの出力である高周波成分Sspに対して直接にモーフォロジー演算を施す代わりに、図4に示すように、高周波成分Sspを、例えば図5に示す関数グラフによる第2の変換テーブル15にしたがった変換を行い、その変換後の高周波成分f(Ssp)に対してモーフォロジーフィルタ13によるモーフォロジー演算(式(6))を施す構成とするのが望ましい。
【0091】
これは、上記高周波成分(変換前)信号Sspが所定の大きさ以上の範囲、または所定の大きさ以下の範囲の場合であって、極端な強調を行った場合にもオーバーシュートやアンダーシュートが発生するのを抑制するためである。
【0092】
また、変換テーブル13は図3(A)に示すものの他、同図(B)に示す関数形状を有するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の画像処理装置の第1実施形態を示すブロック図
【図2】非鮮鋭マスク内の各画素に対する重み付け係数を示すマトリクス
【図3】(A),(B)変換テーブルを表す関数のグラフ
【図4】本発明の画像処理装置の第2実施形態を示すブロック図
【図5】第2の変換テーブルを表す関数のグラフ
【図6】モーフォロジー演算の基本的な作用を説明する図
【図7】構造要素Bi(i=1,2,…,M;M=4)の一例を示す概念図
【図8】(A)は強調しようとする特徴的な画像部分が、周辺濃度が均一な画像部分において存在する場合、(B)は強調しようとする特徴的な画像部分が、周辺濃度が緩やかな濃度勾配において存在する場合についての説明図
【図9】本発明の作用を説明するための概念図
【図10】(A)従来の強調処理により求められる処理済画像信号、(B)本発明の強調処理により求められる処理済画像信号の相違を示すグラフ
【符号の説明】
11 ローパスフィルタ
12 モーフォロジーフィルタ
13 変換テーブル
14a,14b,14c 演算素子
15 第2の変換テーブル
Sorg オリジナル画像信号
Sus ボケマスク信号
Ssp 高周波成分
Sproc 処理済画像信号
Claims (2)
- 画像を表すオリジナル画像信号Sorg の所定の空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号Susを求め、
該非鮮鋭マスク信号Susと前記オリジナル画像信号Sorg との差信号Sspに対して、構造要素Biおよびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、前記差信号が空間的に前記構造要素Biより小さく変動する画像部分および/または前記差信号の変化が急峻な画像部分について特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を求め、
前記画像部分を強調するように、前記差信号Sspに対して前記モーフォロジー信号Smor に応じて、下記式(1)にしたがった強調処理を施すものであり、
- 画像を表すオリジナル画像信号Sorg の所定の空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号Susを求める非鮮鋭マスク信号演算手段と、
該非鮮鋭マスク信号Susと前記オリジナル画像信号Sorg との差信号Sspに対して、構造要素Biおよびスケール係数λを用いたモーフォロジー演算を施すことにより、前記差信号が空間的に前記構造要素Biより小さく変動する画像部分および/または前記差信号の変化が急峻な画像部分について特徴的な出力を示すモーフォロジー信号Smor を求めるモーフォロジー信号演算手段と、
前記画像部分を強調するように、前記差信号Sspに対して前記モーフォロジー信号Smor に応じて、下記式(1)にしたがった強調処理を施す強調処理手段とを備えてなり、
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