JP3731612B2 - 口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は新規なブプレノルフィン製剤に関する。更に詳しくは、ブプレノルフィン類を含有し、口腔粘膜に付着させて用いることを特徴とする口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ブプレノルフィン(N−シクロプロピルメチル−7α−(S−1−ヒドロキシ−1,2,2−トリメチルプロピル)−6,14−エンド−エタノ−6,7,8,14−テトラヒドロノルオリパビン)は、嘔気、嘔吐、眠気、便秘、精神錯乱、薬剤耐性および習慣性等の阿片系麻薬の重篤な副作用の軽減を目的とし、阿片系麻薬を部分的に化学修飾し合成された拮抗性鎮痛薬の一つである。その特徴として、ブプレノルフィンはモルヒネの20〜30倍の強力な鎮痛効果を有し、精神障害や呼吸抑制等の副作用の発現が少ないことが知られている。それゆえ麻酔前投薬、麻酔維持、術後疼痛および癌性疼痛の治療等に広く用いられ、特に癌性疼痛の治療に関しては、WHO 三段階疼痛治療ラダーにおいてモルヒネ利用に先立ってブプレノルフィンの使用が勧められている。
【0003】
しかしブプレノルフィンは、経口投与の場合その胃腸からのバイオアベイラビリティー(bioavailability) 量が約10%にしか過ぎず、日本では注射剤と坐剤が市販されているのみである。またこれら剤型には使用時の問題点として注射剤の場合、医師の介助なしでは実行および制御不能であること、さらに連続的な注射の場合、しばしばカニューレを挿入した場所に炎症が生じること、あるいは坐剤の場合、投与方法が煩雑で投与時に嫌悪感を生じること等があり投与方法がより簡便で苦痛を伴わないブプレノルフィン製剤の開発が望まれていた。
【0004】
最近かかる問題を解決する為に舌下錠が外国で市販され、また日本でも院内製剤として使用されている。しかしながらブプレノルフィンの舌下錠の場合、バイオアベイラビリティ量は約50%であり、生物学的利用率や投与方法の簡便さ、および速効性という点では満足できるが、製剤の消出が早く持続性に関しては不充分である。このことは特に癌性疼痛の治療において、投与回数が多く正確な時間に投与しないと疼痛が再発することを意味する。
【0005】
また舌下錠の他に上記欠点を解消する目的でブプレノルフィン類の経皮吸収製剤の研究が種々行われており、例えば特開平3-193732号公報や特開平4-217926号公報および特開平4-334326号公報等で経皮吸収組成物が提案されている。しかしブプレノルフィン類の皮膚透過性は悪く、上記3つの経皮吸収製剤のいづれにおいても吸収性が充分ではないため、長時間一定に安定して供給することができない欠点がある。
【0006】
さらに極く最近、非習慣性と考えられてきたブプレノルフィンにおいても投与管理の形式により乱用される恐れがあると言われはじめている。即ち投与直後の鎮痛剤の血中濃度は治療の為に必要とされるレベルに比較して非常に高く陶酔感を生じるが、その後急速に血中濃度が低下して最早充分に苦痛を処理し得なくなる。この苦痛のために患者は次の処方を求め習慣性が生じる。つまり急激な血中濃度の変動は習慣性の点において好ましくなく、また治療有効範囲と比較して非常に高いレベルの血中濃度はその他の副作用や呼吸抑制等も誘発する恐れがある。これら薬理学的な面から考えても、薬物血中濃度の変動が大きい注射剤・舌下錠あるいは個人間差の大きい坐剤は副作用を誘発する恐れが高く、より薬物血中濃度が安定したブプレノルフィン製剤の開発が望まれている。
【0007】
従来の製剤の上記欠点を改良するために口腔粘膜から薬物を吸収させ、薬物の唾液への溶出が長時間に亘って持続するタイプの口腔粘膜適用徐放性製剤、例えば特公昭63-47687号公報や特公平5-30808 号公報等に記載されているタイプの製剤が適しているが、これら公報においてはブプレノルフィン類に関して何ら記載が無い。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記したような従来のブプレノルフィン製剤の種々の欠点を改良することにあり、より具体的には投与方法が簡便であって、適用時にブプレノルフィン類が容易に吸収されるとともに、一回の投与によって長時間にわたり血中ブプレノルフィン濃度が一定の治療有効範囲に維持され、さらには必要により速効性を有するブプレノルフィン製剤、即ち易吸収性と持続性とを兼ね備えたブプレノルフィン製剤を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するポリマー成分中にブプレノルフィン類を含有させた貼付製剤を口腔粘膜に適用することにより、これら従来の欠点のない優れた易吸収性と持続性を兼ね備えたブプレノルフィン製剤が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、ブプレノルフィン類を含有し、口腔内に付着させて用いることを特徴とする口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤であり、その態様としてはポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(A) と、ポリアクリル酸あるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(B) の二成分を必須構成成分とし、該ポリマー成分(A) とポリマー成分(B) の重量比が95:5〜5:95である混合物中にブプレノルフィン類を含有させ、必要に応じて賦形剤・その他の添加剤を加えて成形してなることを特徴とする前記の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤であり、又、口腔内における製剤の消失が速い速放性層と製剤の消失が遅い徐放性層の二層よりなることを特徴とする前記口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤であって、該速放性層がポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(A) を必須構成成分とし、必要に応じて賦形剤・その他の添加剤を加えてなり、徐放性層が該ポリマー成分(A) とポリアクリル酸あるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(B) の二成分を必須構成成分とし、かつ該徐放性層におけるポリマー成分(A) とポリマー成分(B) の重量比が95:5〜5:95である混合物中に必要に応じて賦形剤・その他の添加剤を加えてなり、さらに速放性層および徐放性層の少なくともいずれか一方にブプレノルフィン類が含有されてなることを特徴とする前記口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤に関するものであって、更には好ましい態様としてブプレノルフィン類がブプレノルフィン塩酸塩であることを特徴とする前記口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤に関するものである。
【0011】
本発明のブプレノルフィン製剤を口腔粘膜に接着させて用いることにより、ブプレノルフィン類が唾液中に絶えず一定量溶け出し、常に一定量が口腔粘膜を通じて全身血に供給され、血中ブプレノルフィン濃度が長時間一定有効値に維持されるだけでなく、坐剤や舌下錠とほぼ同程度の吸収量が得られる。
【0012】
必要により、速効性が要求される場合は例えば2層化形態の製剤とし、口腔内への接着側となる徐放性層(高接着性層)に較べて速放性層側(低接着性層)により多量のブプレノルフィン類を含有させることや、速放性層のみにブプレノルフィン類を含有させることでその目的が達成される。
【0013】
逆に血中ブプレノルフィン濃度を長時間一定有効値に維持したい必要があれば、速放性層に較べて徐放性層側により多量のブプレノルフィン類を含有させることや徐放性層のみにブプレノルフィン類を含有させることで対応できる。
なお、徐放性層のみにブプレノルフィン類を含有させる場合であっても、速放性層が存在することにより口腔内貼付の際の貼付性や作業性が優れたものとなる。
【0014】
次に本発明について詳細に説明する。
本発明の製剤に主薬として含有されるブプレノルフィン類とは、フリーのブプレノルフィン又はブプレノルフィン塩酸塩等のブプレノルフィンの薬学的に許容される塩類を言う。
【0015】
本発明の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤に使用されるポリマー成分(A) は、ポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分であり、その物理化学的性質に影響しない限り他の1種以上のモノマーとの2元以上の共重合体であっても良い。ここで他のモノマーとは例えばポリビニルアルコールやアルギン酸及びその薬学的に許容される塩等を言う。共重合する場合のポリマー成分(A) に対する他のモノマーの共重合割合としては通常30モル%以下の範囲が好ましく、該範囲内であれば物理化学的性質があまり影響を受けずに支障なく使用できる。ここで薬学的に許容される塩とはナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩等を言う。
【0016】
本発明の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤に使用される他方のポリマー成分(B) は、ポリアクリル酸あるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分であり、その物理化学的性質に影響しない限りホモポリマーや他の1種以上のモノマーとの2元以上の共重合体および適当な架橋剤で架橋された架橋ポリマーであっても良い。共重合する場合のポリマー成分(B) に対する他のモノマーの共重合割合としては、ホモポリマーの物理化学的性質が影響をうけない様に、通常30モル%以下の範囲が好ましい。共重合する場合の他のモノマーの好適な例として、グッドリッチケミカル社製のカーボポール934 、カーボポール934 、カーボポール940 およびカーボポール941 等の市販品を使用することができる。
【0017】
本発明で徐放性層のブプレノルフィン類の溶出を遅延する作用はポリマー成分(A) とポリマー成分(B) の組合せによりもたらされる。ポリマー成分(A) とポリマー成分(B) の配合比は目的とする製剤の最終性能に合わせて任意に選ぶことができるが、重量比で5:95〜95:5の範囲に設定することが必要である。ポリマー成分(A) とポリマー成分(B) の割合を該範囲内で種々変更することにより、口腔粘膜への接着性やブプレノルフィン類の徐放性を任意にコントロールした製剤とすることができる。ポリマー成分(A) の占める割合が95重量比を超えると徐放性および接着性に難点が生じ、ポリマー成分(B) の占める割合が95重量比を超えると膨潤性が強すぎ、口腔内に適用した場合に異物感を生じるからである。また徐放性層中にはブプレノルフィン類の外に必要に応じて賦形剤やその他の添加物を加えることができるが、その効果を充分に発揮させる為にはその添加量は徐放性層中の全組成の20重量%以下であることが好ましい。
【0018】
一方本発明の速放性層はポリマー成分(A) とブプレノルフィン類の他に必要に応じて賦形剤やその他の添加物を含ませることができるが、ブプレノルフィン類の溶出が適度な速度とする為には上記ポリマー成分(A) が速放性層中、全組成の50重量%以下であることが好ましい。ポリマー成分(A) の占める割合が50重量%を越えると溶出が遅れる為に速効性を有する速放性層としての機能が低下する。また前記したように速効性のみを目的とする製剤の場合であって接着力強化のため二層錠として使用する場合、徐放性層(高接着性層)にはブプレノルフィン類を含有させずに速放性層のみにブプレノルフィン類を含有させることが好ましい。
【0019】
本発明の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤の製法は、例えば上記ポリマー成分(A) とポリマー成分(B) とブプレノルフィン類とを、更には必要に応じ外観あるいは臭味を良くするため滑沢剤、結合剤、賦形剤および矯味矯臭剤の1種または2種以上とを充分に混合して均一な混合物を形成し、これ等の適当量をパンチ、ダイスおよびプレスなどを用いて直接加圧成形する方法、あるいは適当な造粒工程を経て加圧成形する方法などにより容易に行える。
【0020】
又、速放性層と徐放性層の二層錠とする場合には、たとえば該徐放性層を成形した後にポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(A) およびブプレノルフィン類を、更には必要に応じ外観あるいは臭味を良くするため滑沢剤、結合剤、賦形剤および矯味矯臭剤の1種または2種以上とを充分に混合した混合物を該徐放性層の上にのせ、更に加圧することにより容易に製造することができる。
【0021】
本発明の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤を製造する他の方法として、例えば二層構成の場合に徐放性層と速放性層のそれぞれを構成する成分を別々に適当な溶媒溶液とした後に流延し、乾燥工程を経て薄膜上に成形し適当な接着剤により貼り合わせる、水その他の溶媒で湿らせて圧着する、熱を用いて圧着するなどの方法で二層錠を得ることができる。
【0022】
形状としては、例えばトラックフィールド型錠剤や円形錠剤等が挙げられる。また二層錠とする場合には、徐放性層と速放性層の厚さの割合はそれぞれ1:9〜9:1好ましくは3:7〜7:3である。
【0023】
本発明の製剤において必要に応じて用いられる滑沢剤としては例えばタルク、ステアリン酸およびその塩、ワックス類等が挙げられ、結合剤としては例えばデンプン、デキストリン、トラガント、ゼラチンおよびヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、賦形剤としてはデンプン、結晶セルロース、デキストリン、乳糖、マンニトール、ソルビトールおよび無水リン酸カルシウム等が挙げられ、矯味矯臭剤としてはクエン酸、フマール酸、酒石酸、メントールおよびカンキツ香料等が挙げられる。
【0024】
本発明の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤の適用は特に限定されるものではなく歯茎や内側の頬の粘膜に貼付することにより、又、二層錠の場合は徐放性層をこれらの粘膜に貼付して行われる。二層錠とした場合に、速放性層もポリマー成分(A) の存在により粘膜に対するある程度の接着性を有するので例えば徐放性層を歯茎の外側に接着させて適用した場合に速放性層が頬粘膜に接着することがあるが、この場合、徐放性層に較べて速放性層の接着力はかなり弱いために実用上何ら支障にならない。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述するが本発明はこれらに何ら限定されるものでは無い。実施例中、単に部あるいは%とあるのは重量部あるいは重量%を示す
。
【0026】
試験方法1
ビーグル犬を用いたブプレノルフィン口腔粘膜適用剤の投与試験
投与試験前夜から絶食させた1群3頭あるいは2頭とした雄のビーグル犬(体重9〜12kg)の上奥歯茎の外側に、1頭につき後述する実施例1と同様に調製した種々の組成から成るトラックフィールド型錠剤を1錠づつ接着させた後、一定時間毎に10%ヘパリン液で湿らせた注射器にて前脚静脈から採血(4ml)し、得られた血液を遠心分離(3000r.p.m. 、10分、4℃)にかけ1.5ml の血漿を得、ブプレノルフィン濃度測定の試料とした。
この血漿にアセトニトリル1.5ml を加えて撹拌し、遠心分離(10000r.p.m.、20分、0℃)にかけて上清2.5ml を採取し、Waters社製 Sep-Pak C18カートリッジに注入しブプレノルフィンをカートリッジ内に保持させた。その後、カートリッジ内を洗浄溶媒(50%アセトニトリル含有pH7.4 りん酸塩溶液:5mlおよび蒸留水:5ml)を用いて洗浄し、溶出溶媒(55%メタノール含有pH2.9, 0.05 %ギ酸溶液:5ml) を用いてブプレノルフィンを溶出させた。さらに遠心濃縮により溶出溶媒を減圧除去して200 μl の移動相により希釈し、これを電気化学検出器を検出器に用いた液体クロマトグラフィー装置にて定量した。
【0027】
液体クロマトグラフィーおよび電気化学検出器の条件は以下の通りである。
以下、図における血漿中のブプレノルフィン濃度は1群2ないし3例中の平均値を示す。
【0028】
試験方法2
被験者による口腔内粘膜への付着性及び異物感試験
後述する実施例7,8,9 の方法で得られた二層錠を用い、人の口腔粘膜への付着性及び異物感の度合いを観察するために各群6名の被験者の上奥歯の外側歯茎に錠剤の徐放性(接着性)層側を付着させ、喫茶や喫食などの日常行動に制限を加えずに錠剤の消出あるいは剥離するまでの観察を行った。
観察は、消出あるいは剥離するまでの時間で付着性を試験終了後のアンケートで異物感の大小をそれぞれ評価して行った。
以下、表における錠剤の消出あるいは剥離するまでの時間は1群6例中の平均値を示す。
【0029】
比較例1
塩酸ブプレノルフィンを生理食塩水に溶解して0.216mg /mlの濃度の注射溶液を調製した。投与試験前夜から絶食させた雄のビーグル犬(8.5〜11kg)の後脚半腱様筋部位に前述の注射を溶液1頭につき1.0ml(ブプレノルフィンとして0.2mg 含有)を筋注投与後、一定時間毎に10%ヘパリン液で湿らせた注射器にて前脚静脈から採血(4ml)し、得られた血液を遠心分離(3000r.p.m. 、10分、4℃)にかけ1.5ml の血漿を得、ブプレノルフィン濃度測定の試料とした。この場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を試験方法1の分析法に従って測定した。この結果を図1に示す。
【0030】
比較例2
塩酸ブプレノルフィンを蒸留水に溶解し1mg /mlの濃度の液剤を調製した。投与試験前夜から絶食させた雄のビーグル犬(8.5〜11kg) の下顎歯肉部位に1頭につき液剤0.2ml(ブプレノルフィンとして0.185mg 含有)を塗り付け投与した後、一定時間毎に10%ヘパリン液で湿らせた注射器にて前脚静脈から採血(4ml) し、得られた血液を遠心分離(3000r.p.m. 、10分、4℃) にかけ1.5ml の血漿を得、ブプレノルフィン濃度測定の試料とした。この場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を試験方法1の分析法に従って測定した。この結果を図1に示す。
【0031】
実施例1
分子量120 万のポリビニルピロリドン(五協産業製 PVP-K90)43.08 部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)8.1 部および炭酸水素ナトリウム0.6 部を均一に混合したのちに打錠して塩酸ブプレノルフィンを含有しない徐放性層、すなわち高接着性層を形成した。この接着性層中のポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比は84.2:15.8とした。
一方、塩酸ブプレノルフィン0.2 部、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業製 PVP-K30)8.74部、D-マンニトール 28.69部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合した後に上記接着性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の速放性層のみに塩酸ブプレノルフィン0.2mg を含有する錠剤を得た。この錠剤の高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を試験方法1に従って測定した。この結果を図1に示す。
【0032】
実施例2
塩酸ブプレノルフィン 0.6部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業製PVP-K90)43.95 部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)6.73部および炭酸水素ナトリウム 0.5部を均一に混合したのちに打錠して徐性層を形成した。この徐放性層中のポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比は86.7:13.3とした。
他方、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業製 PVP-K30)7.94部、D-マンニトール 29.69部、ステアリン酸マグネシウム0.38部、タルク0.21部をとり均一に混合した後に上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の徐放性層のみに塩酸ブプレノルフィン0.6mg を含有する錠剤を得た。この錠剤の高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図1および図2に示す。
【0033】
図1より、本発明の徐放性層にブプレノルフィン類を含有する製剤投与後の血漿中ブプレノルフィン濃度は筋注投与後や口腔内液剤投与後の濃度推移と比較して長時間一定レベルに保持されていることがわかる。すなわち、本発明製剤の徐放性は筋注製剤や口腔内液剤製剤の徐放性より優れていることがわかる。また本発明の速放性層にブプレノルフィン類を含有する製剤投与後の血漿中ブプレノルフィン濃度の立ち上がりは口腔内液剤投与後のブプレノルフィン濃度推移と同等の立ち上がりであり、舌下錠と同程度の速効性能が付与されていることがわかる。
【0034】
比較例3
塩酸ブプレノルフィン 0.6部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K90) 50.06部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)1.04部および炭酸水素ナトリウム0.08部を均一に混合したのちに打錠して徐放性層を形成した。この徐放性層中のポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比は、98.0:2.0 とした。
一方、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K30) 7.94 部、D-マンニトール 29.69部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合したのちに上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の徐放性層のみに塩酸ブプレノルフィン0.6mg を含有する二層錠を得た。この錠剤の徐放性層側即ち高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図2に示す。
【0035】
実施例3
塩酸ブプレノルフィン 0.6部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業製PVP-K90) 43.03部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)3.30部および炭酸水素ナトリウム0.24部を均一に混合したのちに打錠して徐性層を形成した。この徐放性層中のポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比は、92.9:7.1 とした。
他方、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業製 PVP-K30)7.94部、D-マンニトール 29.69部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合した後に上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量82mg、厚さ1.9mm 、長径8.75mm、短径5.0mm のトラックフィールド型の徐放性層のみに塩酸ブプレノルフィン0.6mg を含有する錠剤を得た。この錠剤の徐放性層側即ち接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図2に示す。
【0036】
図2より、本発明の徐放性層にブプレノルフィン類を含有する製剤投与後の血漿中ブプレノルフィン濃度は組成を変えることにより徐放性の調節を任意に行えることがわかる。しかし、ポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比が95:5の範囲よりポリアクリル酸比が小さくなった製剤の場合は徐放性が不充分であることがわかる。
【0037】
比較例4
塩酸ブプレノルフィン 0.5部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K90) 50.16部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)1.04部および炭酸水素ナトリウム0.08部を均一に混合したのちに打錠して徐放性層を形成した。この徐放性層中のポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比は、98.0:2.0 とした。
一方、塩酸ブプレノルフィン 0.5部、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K30) 9.81 部、D-マンニトール 27.32部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合したのちに上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の速放性層および徐放性層に各々塩酸ブプレノルフィン0.5mg を含有する二層錠を得た。この錠剤の徐放性層側即ち高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を比較例3と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図3に示す。
【0038】
実施例4
塩酸ブプレノルフィン 0.5部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K90) 42.58部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)8.10部および炭酸水素ナトリウム0.60部を均一に混合したのちに打錠して徐放性層を形成した。
一方、塩酸ブプレノルフィン 0.5部、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K30) 9.81 部、D-マンニトール 27.32部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合したのちに上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の速放性層および徐放性層に各々塩酸ブプレノルフィン0.5mg を含有する二層錠を得た。この錠剤の徐放性層側即ち高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図3に示す。
【0039】
実施例5
塩酸ブプレノルフィン 0.8部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K90) 42.28部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)8.10部および炭酸水素ナトリウム0.60部を均一に混合したのちに打錠して徐放性層を形成した。
一方、塩酸ブプレノルフィン 0.2部、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K30) 10.11部、D-マンニトール 27.32部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合したのちに上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の速放性層に塩酸ブプレノルフィン0.2mg 、徐放性層に塩酸ブプレノルフィン0.8mg を含有する二層錠を得た。この錠剤の徐放性層側即ち高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図3に示す。
【0040】
実施例6
塩酸ブプレノルフィン 0.2部、分子量 120万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K90) 42.88部、ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)8.10部および炭酸水素ナトリウム0.60部を均一に混合したのちに打錠して徐放性層を形成した。
一方、塩酸ブプレノルフィン 0.8部、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業PVP-K30) 9.51 部、D-マンニトール 27.32部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合したのちに上記徐放性層の上に載せ、打錠して重量90mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の速放性層に塩酸ブプレノルフィン0.8mg 、徐放性層に塩酸ブプレノルフィン0.2mg を含有する二層錠を得た。この錠剤の徐放性層側即ち高接着性層側をビーグル犬の上奥歯歯茎外側に接着させ投与した場合の血漿中ブプレノルフィン濃度変化を実施例1と同様の試験方法1に従って測定した。この結果を図3に示す。
【0041】
図3より、本発明の速放性層および徐放性層にブプレノルフィン類を含有する製剤は、ブプレノルフィン類の量比を調節することにより目的の溶出性能すなわち目的の血漿中濃度推移を任意に調節できることがわかる。さらに、ポリビニルピロリドンとポリアクリル酸の配合比が本発明の範囲である95:5〜5:95の範囲を外れた場合は徐放性層と速放性層との溶出性の差に不都合が生じ、血漿中濃度と持続性の機能を両立させるのが困難であることがわかる。
【0042】
実施例7
塩酸ブプレノルフィンを除いた以外は実施例1と同一の組成を有する製剤を実施例1と同様の方法で調製し、試験方法2の被験者による口腔粘膜への付着性及び異物感試験を二層錠の徐放性(高接着性)層側を被験者の上奥歯の外側歯茎に付着させて行った。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例8
塩酸ブプレノルフィンを除いた以外は実施例2と同一の組成を有する製剤を実施例2と同様の方法で調製し、試験方法2の被験者による口腔粘膜への付着性及び異物感試験を実施例7と同様にして行った。その結果を表1に示す。
【0044】
実施例9
塩酸ブプレノルフィンを除いた以外は実施例3と同一の組成を有する製剤を実施例3と同様の方法で調製し、試験方法2の被験者による口腔粘膜への付着性及び異物感試験を実施例7と同様にして行った。その結果を表1に示す。
【0045】
比較例5
塩酸ブプレノルフィンを除いた以外は比較例3と同一の組成を有する製剤を比較例3と同様の方法で調製し、試験方法2の被験者による口腔粘膜への付着性及び異物感試験を実施例7と同様にして行った。その結果を表1に示す。
【0046】
比較例6
ポリアクリル酸(グッドリッチケミカル社製 カーボポール934P)51.18 部、炭酸水素ナトリウム 0.6部を均一に混合したのちに打錠してポリアクリル酸のみから成る接着性層を形成した。
一方、分子量4万のポリビニルピロリドン(五協産業製 PVP-K30)8.74部、D-マンニトール 28.69部、ステアリン酸マグネシウム0.38部およびタルク0.21部を均一に混合した後に上記接着性層の上に載せ、打錠して重量89.8mg、厚さ1.9mm 、長径9.5mm 、短径5.0mm のトラックフィールド型の二層錠を得た。得られた錠剤について実施例7と同様の試験方法2の被験者による口腔粘膜への付着性及び異物感試験を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
表1から明らかなように本発明の製剤は長時間付着し口中での異物感がない。しかし、比較例5であるポリビニルピロリドンの配合比が本発明の範囲より大きい製剤については接着力が弱く付着後ずれやすい。また、比較例6であるポリアクリル酸の配合比が本発明の範囲より大きい製剤については口中で大きく膨潤し、かなりの異物感があった。
【0048】
【表1】
【0049】
【発明の効果】
本発明の製剤の最大の特徴は、図1および図2で示される様にブプレノルフィン類の唾液への溶出が長時間にわたり一定に保たれる結果、血中ブプレノルフィン濃度が長時間一定レベルに保持されることであり、さらに必要により速効性も付与できることであり、従来の注射剤や坐剤および舌下錠では達成できなかったものである。しかも血中濃度の時間変化から観測される吸収量は、既存のブプレノルフィン坐剤や舌下錠に匹敵する。
本発明の製剤の第二の特徴は、口腔粘膜に容易に接着し、その接着性が2時間以上にもわたり持続することで、しかもこの接着性は飲酒、喫煙、喫茶、喫食および会話等の日常の口腔内運動に何ら影響されることが無い点にある。
本発明の製剤の第三の特徴は、成形品が口中で唾液により膨潤し、極めて柔軟になるために異物感が殆ど無いことである。従来から知られているバッカルやトローチ等の剤型でブプレノルフィンの持続性製剤を得ようとしても異物感が大きく、患者が噛み砕いたり、嚥下したりする衝動にかられやすい為に不可能であったことに対して、本製剤はこのような欠点のない優れた特徴を有している。
本発明の製剤の第四の特徴は、図2や図3で示される様に速放性層および徐放性層中の組成を変えることにより接着性や持続性の調節を任意に行えること、及び速放性層と徐放性層の量比を調節することにより目的の鎮痛効果作用に応じた最適の溶出性能を任意に得ることができる点にある。
【図面の簡単な説明】
【図1】比較例1,2 および実施例1,2 における血漿中の塩酸ブプレノルフィン濃度の経時変化を示す。
【図2】比較例3および実施例2,3 における血漿中の塩酸ブプレノルフィン濃度の経時変化を示す。
【図3】比較例4および実施例4,5,6 における血漿中の塩酸ブプレノルフィン濃度の経時変化を示す。
Claims (5)
- ブプレノルフィンの薬学的に許容される塩類を含有し、口腔内に付着させて用いることを特徴とする口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤であって、前記製剤が口腔内における製剤の消失が速い速放性層と製剤の消失が遅い徐放性層の二層よりなり、前記徐放性層が、ポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(A) と、ポリアクリル酸あるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(B) の二成分を必須構成成分とし、さらにブプレノルフィンの薬学的に許容される塩類と炭酸水素ナトリウムを含むことを特徴とする口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤。
- 該徐放性層におけるポリマー成分(A)とポリマー成分(B)の重量比が95:5〜5:95であることを特徴とする請求項1記載のブプレノルフィン製剤。
- 速放性層がポリビニルピロリドンあるいはその薬学的に許容される塩を含有するポリマー成分(A) を必須構成成分とすることを特徴とする請求項1又は2記載の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤。
- ブプレノルフィンの薬学的に許容される塩類が、ブプレノルフィン塩酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の口腔粘膜貼付ブプレノルフィン製剤。
- 徐放性層における炭酸水素ナトリウムの含有量が、ポリマー成分(B)の7.27〜7.43重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブプレノルフィン製剤。
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