JP3722601B2 - 変性シアネートエステル系樹脂フィルム及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷配線板等における絶縁層の形成に用いられる変性シアネートエステル系樹脂フィルム及びその製造方法に関する
【0002】
【従来の技術】
電子機器の小型・高機能化に伴い、印刷配線板では薄型・軽量でかつ高密度配線が可能な基板材料が求められられるようになった。近年、小径でかつ必要な層間のみを非貫通穴で接続するIVH構造のビルドアップ積層方式印刷配線板が開発され、急速に普及が進んでいる。ビルドアップ積層方式印刷配線板の絶縁層にはガラス布等の基材を含まない耐熱性樹脂が用いられており、IVH用の穴は、感光性樹脂を利用したフォトリソグラフィあるいは熱硬化性樹脂をレーザー加工機によって熱分解する等の方法で形成されている。
【0003】
さらに近年では、大量のデータを高速で処理するためコンピュータや情報機器端末などでは信号の高周波化が進んでいるが、周波数が高くなる程電気信号の伝送損失が大きくなるという問題があり、高周波化に対応した印刷配線板の開発が強く求められている。
高周波回路での伝送損失は、配線周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損の影響が大きく、印刷配線板用基板(特に絶縁樹脂)の低誘電率及び低誘電正接(tanδ)化が必要となる。例えば移動体通信関連の機器では、信号の高周波化に伴い準マイクロ波帯(1〜3GHz)での伝送損失を少なくするため誘電正接の低い基板が強く望まれるようになっている。
【0004】
さらにコンピュータなどの電子情報機器では、動作周波数が200MHzを越える高速マイクロプロセッサが搭載されるようになり、印刷配線板での高速パルス信号の遅延が問題になってきた。信号の遅延時間が印刷配線板では配線まわりの絶縁物の比誘電率εrの平方根に比例して長くなるため、高速コンピュータなどでは誘電率の低い配線板用基板が求められている。
【0005】
上述の印刷配線板の技術動向に対して、高周波帯域での誘電率と誘電正接が低く、かつビルドアップ積層方式印刷配線板の製造に適した耐熱性絶縁フィルムはこれまで開発されていなかった。
【0006】
従来から誘電特性が良好なフィルム材料として、耐熱性熱可塑性樹脂(エンジニアリング・プラスチックス)のポリフェニレンエーテル(PPO又はPPE)系樹脂が知られていたが、印刷配線板用の絶縁材料に適用するためには、実装時のはんだ接続工程に耐えられる耐熱性と印刷配線板製造時のその他の工程での耐溶剤性・耐薬品性などの改善が必要であった。
【0007】
この耐熱性や耐溶剤性を改善する方法として、ポリフェニレンエーテル樹脂を熱硬化性樹脂で変性する方法が提案されている。例えば、熱硬化性樹脂の中では最も誘電率が低いシアネートエステル樹脂を用いた樹脂フィルムとして、特公平1-53700号公報に示されているようにポリフェニレンエーテル樹脂にシアネートエステル樹脂を配合した硬化性樹脂組成物を用いるポリフェニレンエーテル樹脂系フィルムがある。同様に、シアネートエステル系の変性樹脂を用いる樹脂組成物として、特公昭63-33506号公報に示されているビスマレイミド/シアネートエステル変性樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との樹脂組成物及び特開平5-311071号公報に示されている変性フェノール樹脂/シアネートエステル系樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との樹脂組成物などがある。
【0008】
また熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテル系樹脂に熱硬化性を付与して耐熱性や耐溶剤性を改善するものとして、特公平5-77705号公報に示されているポリフェニレンエーテル樹脂と架橋性ポリマ/モノマとの樹脂組成物をキャスティングしたフィルム及び特開平7-188362号公報に示されている不飽和基を持つ特定の硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂を適度に架橋させたフィルムなどがある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
特公平1-53700号公報に示されるポリフェニレンエーテル樹脂にシアネートエステル樹脂を配合した樹脂組成物からなるフィルムは、樹脂同士の相容性が悪いという問題点があり、硬化性樹脂としてシアネートエステルを単独で用いているため、樹脂硬化物の誘電特性は、誘電率は後述の他の組成物よりは比較的良好ではあるものの誘電正接が誘電率の値の割に高いという傾向にあり、高周波特性(特に伝送損失の低減)が不十分であるという問題点があった。
特公昭63-33506号公報や特開平5-311071号公報に示される方法は、ポリフェニレンエーテル樹脂を変性する熱硬化性樹脂がビスマレイミド/シアネートエステル変性樹脂や変性フェノール樹脂/シアネートエステル系樹脂であるため、ポリフェニレンエーテル樹脂に対する相容性は若干良好になるものの、シアネートエステル樹脂以外の他の熱硬化性樹脂を含有しているため樹脂硬化物の誘電特性はシアネート樹脂単独で変性された樹脂よりも悪く、その結果高周波特性が更に不十分であるという問題点があった。
【0010】
特公平5-77705号公報に示される方法は、ポリトリアリルイソシアヌレートやスチレンブタジエン共重合体等の架橋性ポリマ及びトリアリルイソシアヌレート等の架橋性モノマをポリフェニレンエーテル樹脂に配合することにより熱硬化性(ラジカル重合性)を付与しているが、架橋性のポリマ及びモノマが極性の高い化合物であるために未反応で残存する少量成分によって樹脂硬化物の誘電特性が悪化するという問題点があった。
【0011】
また特開平7-188362号公報に示されている方法は、ポリフェニレンエーテル樹脂自身にアリル基などの不飽和基を導入したポリマを用いるものであるが、本来熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテルの誘導体が主体となっているため、もともと溶融粘度が高いことに加え、不飽和基のラジカル重合性を利用しているので連鎖反応的に一気に硬化が進むため、硬化時の最低溶融粘度が高くかつ溶融粘度の上昇率も大きいという性質があり、プレス成形時に樹脂が十分に流動化できない結果、ボイドが発生して回路充填性が不十分となったり、多層化接着工程でのプレス条件の管理幅が狭くなる等成形性が悪いという問題点があった。
【0012】
このような状況に鑑みて本発明者らは、先に印刷配線板用樹脂組成物として特定のシアネートエステル樹脂を1価フェノール類化合物で変性した組成物を用いる方法(特願平9−80033号)を提案した。この方法によれば特定のシアネートエステル樹脂を1価フェノール類化合物で変性することで高周波(GHz)帯域での誘電特性、特に誘電正接が低い樹脂組成物を得ることができたが、使用する特定のシアネートエステル樹脂が特殊かつ高価であるという問題点があった。
【0013】
本発明は、耐熱性と耐溶剤性・耐薬品性が良好で、かつ印刷配線板の薄形・軽量化と高密度化に有効なビルドアップ積層方式に適した絶縁フィルムであって、高周波帯域での誘電率と誘電正接が低く高周波回路の低損失性を実現でき、しかも回路充填性などの成形性が良好な変性シアネートエステル系樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを課題とした。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(A)式(1)で示されるシアネートエステル類化合物、(B)式(2)で示される1価フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂及び(D)金属系反応触媒を必須成分として含有する変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を半硬化もしくは硬化してなる変性シアネートエステル系樹脂フィルムである。
また、本発明は、前記変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物が、(A)式(1)で示されるシアネートエステル類化合物の100重量部に対して、(B)式(2)で示される1価フェノール類化合物を4〜30重量部、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂5〜500重量部及び(D)金属系反応触媒を(A)シアネートエステル類化合物1gに対して1〜300ppmを配合した硬化性樹脂組成物であると好ましい変性シアネートエステル系樹脂フィルムである。また、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物の一部又は全部を反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂と(C)ポリフェニレンエール樹脂及び(D)金属系反応触媒を必須成分として含有する変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物であると好ましい変性シアネートエステル系樹脂フィルムである。そして、本発明は、前記の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物と溶剤を含むワニスを支持基材の片面に流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し製膜する変性シアネートエステル系樹脂フィルムの製造方法である。また、前記の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物において、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の溶剤溶液中で、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物の反応を行い得られたワニスを用いてフィルムを作製すると好ましく、さらに、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の芳香族炭化水素系溶剤溶液中で、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物の反応を行いワニスを作製すると好ましく、また、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の芳香族炭化水素系溶剤溶液中で、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物の反応を行い、さらにケトン系溶剤を配合してワニスを作製すると好ましく、このワニスを支持基材の片面に流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し製膜する変性シアネートエステル系樹脂フィルムの製造方法である。
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、誘電特性の良好な変性シアネートエステル樹脂に誘電特性が良好な熱可塑性樹脂である(C)ポリフェニレンエーテル樹脂を配合することにより誘電特性の向上を図っており、本来非相容系であって均一な樹脂を得ることが困難であるシアネートエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とを、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の溶剤溶液中で、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物の反応を行うといういわゆる“セミIPN化の手法によって、フィルム用の均一な樹脂ワニスを製造し、さらにそれを支持基材である銅箔やキャリヤフィルムの片面に流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去して相容化した樹脂フィルムを得る変性シアネートエステル系樹脂フィルムの製造方法及変性シアネートエステル系樹脂フィルムである。
【0018】
高分子材料など誘電特性は双極子の配向分極による影響が大きく、したがって分子内の極性基を少なくすることにより低誘電率化が図れ、また極性基の運動性を抑えることにより誘電正接を低くすることが可能である。シアネートエステル樹脂は、極性の強いシアナト基を有していながら硬化時には対称性かつ剛直なトリアジン構造を生成するので、熱硬化性樹脂としては最も低い誘電率及び誘電正接の硬化物が得られるという特徴がある。
【0019】
しかしながら、実際の硬化反応においては、シアネートエステル樹脂中のすべてのシアナト基が反応してトリアジン構造を生成するということは不可能であり、硬化反応の進行に伴って反応系が流動性を失い未反応のシアナト基として系内に残存することになる。その結果、これまでのシアネートエステル樹脂では、本来の硬化物が示すはずの特性よりは誘電率や誘電正接が高い硬化物しか得られなかった。
【0020】
これに対して本発明の樹脂組成物では、(B)1価フェノール類化合物を(A)シアネートエステル類化合物に対して適正量配合することで未反応として残るシアナト基をイミドカーボネート化してその極性を減じることにより硬化物の誘電率と誘電正接を本来の値まで低下させようとしたものである。この目的で用いる材料としては、シアナト基との反応性が高く、また単官能で比較的低分子量でありかつシアネートエステル類化合物との相容性が良い(分子構造に類似性があり)化合物が適していると考えられる。本発明の樹脂組成物で用いる1価のフェノール類化合物は、このような理由によって特定された化合物である。
【0021】
従来、シアネートエステル類化合物の三量化反応(トリアジン環の生成)の助触媒として、ノニルフェノール等のフェノール化合物がシアネートエステル類化合物100重量部に対して1〜2重量部程度用いられる場合があった。しかし配合量が触媒量であったため、上記のような未反応のシアナト基と反応し低極性化するという効果は認められなかった。しかるに本発明者らがフェノール化合物の配合量について検討した結果、フェノール化合物を従来の触媒量よりも多量に配合した場合に硬化物の誘電率と誘電正接が低下することを認め、かつ特定の1価フェノール類化合物を用いれば、配合量が増える事による耐熱性の低下も抑制できることを見出した。そのため本発明の方法によれば、これまでのシアネートエステル樹脂単独の硬化物や、従来のエポキシ樹脂や多価フェノール類(片方の水酸基が未反応基として残り易いため誘電特性をかえって悪化させる)及びビスマレイミド等を配合した樹脂の硬化物よりも誘電率と誘電正接の低い硬化物が得られるようになった。
【0022】
したがって本発明の樹脂組成物では、1価フェノール類化合物の配合量が重要である。すなわち、配合量が少ない場合は未反応として残存する全てのシアナト基と反応し低極性化することができず、配合量が必要量より多い場合はかえって自分自身が未反応として残存し、自身の水酸基の極性によって硬化物の誘電特性を悪化させてしまうことになるからである。
【0023】
本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムに用いられる変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物は、(A)式(1)で示されるシアネートエステル類化合物、(B)式(2)で示される1価フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂及び(D)金属系反応触媒を必須成分として含む。
【0024】
本発明における(A)シアネートエステル類化合物は、式(1)で示されように1分子中にシアナト基を2個有するシアネートエステル類化合物である。式(1)で示される化合物としては、例えば、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−シアナトフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化物等が挙げられる。その中でも、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン及び2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタンが硬化物の誘電特性と硬化性のバランスが特に良好であるため好ましい。また(A)シアネートエステル類化合物は、1種類を単独で用いてもよく、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明における(B)1価フェノール類化合物は、式(2)で示される1価フェノール類であり、耐熱性の良好な化合物が好ましい。式(2)で示される化合物としては、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール及びp−tert−オクチルフェノールが挙げられ、その中でもp−tert−オクチルフェノールがより好ましい。(B)1価フェノール類化合物は、上記のうちいずれか1種類を単独で用いてもよくまたは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明における(B)1価フェノール類化合物の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して4〜30重量部とするのが好ましく、5〜25重量部とすることがより好ましく、5〜20重量部とすることが特に好ましい。(B)1価フェノール類化合物の配合量が4重量部未満では十分な誘電特性が得られず、特に高周波帯域での誘電正接が十分に低くならない傾向がある。また30重量部を超えるとかえって誘電正接が高くなるという傾向があり望ましくない。したがって、高周波帯において誘電正接の低い変性シアネートエステル系樹脂フィルムを得るためには、(A)シアネートエステル類化合物に対して適切な配合量の(B)1価フェノール類化合物を用いる必要がある。
【0027】
本発明における(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物は、通常、それぞれを反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂として用いられる。すなわち、(A)シアネートエステル類化合物のプレポリマ化とともに、(A)シアネートエステル類化合物に(B)1価フェノール類化合物を付加させたイミドカーボネート化変性樹脂として用いられる。
【0028】
(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物を反応させる際には、(B)1価フェノール類化合物を反応初期から上記の適正配合量の全部を投入して反応させて変性シアネートエステル樹脂としても良いし、反応初期は上記の適正配合量の一部を反応させ、冷却後残りの(B)1価フェノール類化合物を投入して、Bステージ化時あるいは硬化時に反応させて変性シアネートエステル樹脂としても良い。
【0029】
本発明における(C)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレンのアロイ化ポリマ、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとスチレン−ブタジエンコポリマのアロイ化ポリマ等が挙げられ、その中でも、ポリ(2、6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレンのアロイ化ポリマ及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとスチレン−ブタジエンコポリマのアロイ化ポリマ等が好ましい。(C)ポリフェニレンエーテル樹脂中のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルの成分量は、50重量%以上含有するポリマであることが硬化物の誘電特性が良好であるために好ましいが、65重量%以上含有するポリマであることがより好ましい。
【0030】
本発明における(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して5〜500重量部とすることが好ましく、10〜300重量部とすることがより好ましく、15〜200重量部とすることが特に好ましい。(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量が5重量部未満では十分な誘電特性が得られなくなる傾向があり、500重量部を超えると熱硬化成分である(A)シアネートエステル樹脂の反応性が(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の希釈効果により悪くなり、得られた樹脂フィルムの耐熱性や耐溶剤性が悪くなるという問題点が生じる。
【0031】
本発明の(D)金属系反応触媒は、(A)シアネートエステル類化合物と(B)1価フェノール類化合物との反応を促進するものであり、変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を製造する際の反応触媒及び樹脂フィルムが硬化する際の硬化促進剤として用いられる。金属系反応触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等の金属触媒類が用いられ、具体的には、2−エチルヘキサン酸塩やナフテン酸塩等の有機金属塩化合物及びアセチルアセトン錯体などの有機金属錯体として用いられる。変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を製造する際の反応促進剤と積層板を製造する際の硬化促進剤で同一の金属系反応触媒を単独で用いてもよく、またはそれぞれ別の2種類以上を用いてもよい。
【0032】
本発明における(D)金属系反応触媒の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物1gに対して1〜300ppmとすることが好ましく、1〜200ppmとすることがより好ましく、2〜150ppmとすることが特に好ましい。(D)金属系反応触媒の配合量が1ppm未満では反応性及び硬化性が不十分となる傾向があり、300ppmを超えると反応の制御が難しくなったり、硬化が速くなりすぎて流動性が乏しくなり成形性が悪くなる傾向がある。また、本発明における(D)金属系反応触媒の配合時期は、変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を製造する際に反応促進剤及び硬化促進剤として必要な量を同時にまとめて配合してもよいし、変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を製造する際に変性反応の促進に必要な量を用い、反応終了後残りの触媒、又は別の金属系触媒を硬化促進剤として添加混合してもよい。
【0033】
本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムに用いる組成物には、上記必須成分以外に必要に応じて難燃剤、無機充填剤及びその他添加剤を配合することができる。難燃剤の例としては、トリブロモフェノールやテトラブロモビスフェノールAなどの臭素化フェノール系、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂や臭素化ノボラック型エポキシ樹脂などの臭素化エポキシ樹脂系、臭素化ポリスチレンや臭素化ポリカーボネートなどの臭素化熱可塑性樹脂系、デカブロモジフェニルエーテルに代表されるポリブロモジフェニルエーテル系、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン及びヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素化炭化水素系、2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンなどの臭素化トリフェニルシアヌレート系難燃剤等が挙げられる。その中でも、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン及び2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン等の難燃剤が、シアネートエステル類化合物と反応性を有しないため得られる硬化物の誘電特性が良好であるので好ましい。
【0034】
本発明における難燃剤の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物、(B)1価フェノール類化合物及び(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の総量100重量部に対して5〜50重量部とすることが好ましく、5〜40重量部とすることがより好ましく、10〜30重量部とすることが特に好ましい。難燃剤の配合量が5重量部未満では耐燃性が不十分となる傾向があり、50重量部を超えると樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。
【0035】
無機充填剤としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、クレイ、タルク、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウム等を使用することができる。この配合量としては、本発明の樹脂組成物の総量100重量部に対して、300重量部以下とすることが、本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムが均一でかつ良好な取扱性を得るために好ましい。
【0036】
本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムを製造するには、以上説明した変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解して10〜50重量%のワニスとし、支持基材の片面にバーコータやロールコータなどを用いて流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去してフィルム(製膜)とすることができる。
【0037】
上記のワニスを製造する場合に用いられる溶剤の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等のアミド系やN−メチルピロリドンなどの窒素系溶剤などが用いられる。特にベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類(芳香族炭化水素系溶剤)がより好ましい。これらの溶剤類は1種類単独で用いてもよく又は2種類以上を混合して用いてもよい。芳香族炭化水素系溶剤の配合量は、樹脂組成物の全体量100重量部に対して100〜900重量部が好ましく、100〜600重量部がより好ましく、150〜400重量部が特に好ましい。
【0038】
またアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類を芳香族炭化水素系溶剤類と併用した場合はワニスが懸濁溶液となるが、より高濃度の溶液が得られるという利点がある。しかし、ケトン類の配合量が多すぎると樹脂組成物が分離沈降する恐れがあるので、ケトン系溶剤の配合量は芳香族炭化水素系溶剤100重量部に対して250重量部以下とするが好ましい。
【0039】
本発明に用いる支持基材は、銅やアルミニウム等の金属箔、ポリエステルやポリイミド等の樹脂フィルム、あるいはこれらの樹脂フィルムの表面に離型剤を塗布したものなどを用いることができる。支持基材に銅箔を用いた場合は、銅箔をそのまま回路導体として使用することができる利点があり、また支持基材に離型剤処理が施されていると支持基材から変性シアネートエステル系樹脂フィルムを引き剥がす際や支持基材付フィルムを基板に積層した後支持基材だけを剥離する際の作業性を向上させる上で好ましい。
【0040】
このように支持基材の片面に絶縁性の樹脂層を形成した変性シアネートエステル系樹脂フィルムは、以下に示す方法によって印刷配線板の製造に供することができる。例えば、支持基材を除去したフィルム状の樹脂を1枚または複数枚積層しその上下に銅箔を配置してプレス成形するか、あるいは支持基材である銅箔にワニスを塗工した変性シアネートエステル系樹脂フィルムをフィルム同士を合わせるように貼り合わせ、さらに必要ならばその間に樹脂フィルム基材を除去した変性シアネートエステル系樹脂フィルムを1枚以上介在させてプレス成形することによって印刷配線板用の銅張積層板を製造することができる。
【0041】
また、従来のガラス布基材の銅張積層板あるいは上記の銅張積層板に回路を形成後、支持基材を除去した変性シアネートエステル系樹脂フィルムを1枚以上積層し、さらにその上に銅箔や回路形成基板を配置してプレス成形するか、または支持基材としての銅箔に塗工した変性シアネートエステル系樹脂フィルムを配置してプレス成形することにより多層配線板用の基板を製造することができる。
【0042】
なお、回路の形成には、従来の方法を適用することができる。例えば、銅張積層板又は多層配線板用基板に必要に応じて貫通又は非貫通穴を明け、ついで無電解めっき又は必要に応じて電気めっきを施して穴内壁を導体化した後、導通穴部の保護とエッチングレジストの形成及びエッチングによる非配線部分の銅の除去などの工程により回路を形成することができる。
【0043】
さらに本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムでは、貫通又は非貫通穴を明ける方法としてドリル穴明け及びレーザ加工を採用することができる。レーザ加工の場合には、レーザショットにより直に穴を形成するダイレクト・イメージング法や金属製マスク等を用いるコンフォーマル・マスク法でレーザ穴明けが可能であるが、本発明に示される変性シアネートエステル系樹脂フィルムの一例である銅箔を支持基材とした場合は、貫通又は非貫通穴を形成すべき場所をエッチングによって除去した銅箔をマスクとして用いてレーザ穴明けを行うことができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。表1に示す配合量に従い変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスを製造し、半硬化状の樹脂フィルムを作製した。
【0045】
(実施例1)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン450gと(C)ポリフェニレンエーテル樹脂としてノニルPKN4752(日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)120gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に(A)シアネートエステル類化合物として2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)60g、(B)1価フェノール類化合物としてp−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)5gを投入溶解後、(D)金属系反応触媒としてナフテン酸コバルト(Co含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.8gを添加し還流温度で1時間反応させた。室温まで冷却し変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=31重量%)を製造した。
【0046】
このワニスをバーコータの一種であるコンマ型コータ(株式会社ヒラノテクシード製)を用いて厚さ50μmの離型剤付きのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ピューレックスA−63,株式会社帝人製商品名)に塗工、乾燥(130℃)し、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた変性シアネートエステル系樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0047】
(実施例2)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン240gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)160gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)80g、p−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)2gを投入溶解後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.3gを添加し還流温度で3時間反応させた。ついで反応液を冷却し、内温が90℃になったらメチルエチルケトン(MEK)300gを攪拌しながら投入し懸濁化させた。さらに室温まで冷却した後、p−tert−ブチルフェノール(和光純薬製)5g、ナフテン酸亜鉛(Zn含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.2gを投入溶解し変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=31重量%)を製造した。
【0048】
このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0049】
(実施例3)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン450gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)105gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)75g、p−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)15g、ナフテン酸コバルト(Co含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.7gを添加し還流温度で2時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、ナフテン酸亜鉛(Zn含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.1gを添加し攪拌溶解して変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=31重量%)を製造した。
【0050】
このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0051】
(実施例4)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン450gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)90gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)90g、p−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)11gを投入溶解後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.7gを添加し還流温度で6時間反応させた。ついで室温まで冷却し変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=30重量%)を製造した。
【0052】
このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0053】
(実施例5)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン450gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)60gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次にビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン(ArocyM−10、旭チバ株式会社製商品名)120g、p−tert−アミルフェノール(和光純薬工業株式会社製)6gを投入溶解後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.4gを添加し還流温度で6時間反応させた。ついで反応液を室温まで冷却した後、ナフテン酸コバルト(Co含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液0.2gを添加し攪拌溶解して変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=29重量%)を製造した。
【0054】
このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0055】
(比較例1)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン360gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)120gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解し、ワニス(固形分濃度=25重量%)を製造した。このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0056】
(比較例2)
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、メチルエチルケトン(MEK)240gと2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)120g、p−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)2gを投入し攪拌溶解後、ナフテン酸コバルト(Co含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液1.2gを添加し還流温度で2時間反応させ、室温まで冷却しワニス(固形分濃度=35重量%)を製造した。このワニスを用いて実施例1と同様にして、樹脂層厚さ30〜33μmのPETフィルム付樹脂フィルムを作製したが、得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断した際に樹脂割れや粉落ちが発生し、PETフィルムを剥離すると樹脂フィルム単体で取扱うことができなかった。
【0057】
(比較例3)
実施例4において、トルエン450gにポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)90gを投入し80℃に加熱して攪拌溶解し、次に2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)の替わりにそのオリゴマ(ArocyB−30、旭チバ株式会社製商品名)90gを投入して80℃で1時間加熱溶解した。ついで常温まで冷却し、p−tert−オクチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)の替わりにノニルフェノール(三井東圧化学株式会社製)1g、ナフテン酸マンガンの替わりにナフテン酸コバルト(Co含有量=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液1gを添加してワニス(固形分濃度=29重量%)を製造した。しかし、このワニスは1日後にポリフェニレンエーテル樹脂の凝集分離物が観察され、結局、樹脂フィルムを作製することができなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
(A)B−10(旭チバ株式会社製商品名);2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン
M−10(旭チバ株式会社製商品名);ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン
B−30(旭チバ株式会社製商品名);2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンのオリゴマ
(B)PBP(和光純薬工業株式会社製);p−tert−ブチルフェノール
PAP(和光純薬工業株式会社製);p−tert−アミルフェノール
POP(和光純薬工業株式会社製);p−tert−オクチルフェノール
NP(三井東圧化学株式会社製);ノニルフェノール
BPA(三井東圧化学株式会社製);ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
(C)PPO(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名);ポリフェニレンエーテル樹脂
(D)Co;ナフテン酸コバルト(Co=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液
Zn;ナフテン酸亜鉛(Zn=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液
Mn;ナフテン酸マンガン(Mn=8重量%、日本化学産業株式会社製)の10重量%トルエン希釈溶液
【0060】
つぎに、実施例1〜5のPETフィルム付樹脂フィルムについて、樹脂フィルム単独での取扱性と硬化後のフィルムの耐溶剤性の評価を行った。
実施例1のPETフィルム付樹脂フィルムからPETフィルムを剥離し、得られた樹脂フィルムを12枚と、その上下に電解銅箔の鏡面を剥離面として用いて重ね、200℃、1.5MPaで1時間プレス成形を行い、厚さ約0.4mmの変性シアネートエステル系樹脂の硬化フィルムを作製した。同様にして実施例2〜5の樹脂フィルムをプレス成形してそれぞれの樹脂の硬化フィルムを作製した。
また、比較例1のPETフィルム付樹脂フィルムについて、樹脂フィルムをPETフィルムから剥離し、その12枚と上下に電解銅箔の鏡面を剥離面として用いて重ね、200℃、1.5MPaで1時間プレスし、厚さ約0.4mmの樹脂成形フィルムを作製した。比較例2のPETフィルム付樹脂フィルムについても同様に行ったが、比較例2のPETフィルム付樹脂フィルムは、シアネートエステル樹脂単独のフィルムであるためPETフィルムを剥離しようとすると、樹脂フィルム自体が脆いため割れてしまいフィルム単独で扱うことができなかった。その結果、樹脂の硬化フィルムを作製することができなかった。
【0061】
上記の樹脂硬化フィルムを50mm角に切断し、トルエン中に浸漬し室温で60分間放置した。実施例1〜5の樹脂硬化フィルムは、膨潤あるいは外観に変化が見られなかった。また、別に用意した実施例1〜5の樹脂硬化フィルムの表面を、トルエン又はメチルエチルケトン(MEK)を含ませた布で数回擦ってフィルム表面の異常の有無を観察したが、実施例1〜5の樹脂硬化フィルムでは、フィルム表面の異常は見られなかった。以上のことから実施例1〜5の樹脂硬化フィルムは、耐溶剤性が良好であることが確認できた。
【0062】
同様に、比較例1の樹脂成形フィルムを50mm角に切断し、トルエン中に浸漬し室温で60分間放置したところ、ポリフェニレンエーテル単独の樹脂成形フィルムであるため膨潤し、一部は溶解してしまった。また別の樹脂成形フィルムの表面をトルエンを含ませた布で数回擦ったところ、フィルムの表面が溶けてべたつきが発生した。また別の樹脂成形フィルムの表面をメチルエチルケトン(MEK)を含ませた布で数回擦ったところ、フィルムにひびわれ(亀裂)が生じ、遂には穴が明いて割れてしまった。
以上の結果より、本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムは、フィルム単独での取扱性が可能でありかつ耐溶剤性も良好であることが確認できた。
【0063】
つぎに、実施例2〜5の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスを用いて無機充填剤を添加した樹脂フィルムを作製し、その硬化物のGHz帯での誘電特性、ガラス転移温度及び引張弾性率を測定した。
【0064】
(実施例6)
実施例2の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス170gに、無機充填剤として平均粒径5μmの溶融シリカ粉25gを加え、さらに直径1.0mmセラミックビーズ200gを投入し、AIMEX社製ビーズミルを用いて1500rpmで1時間混練した。混練後、ビーズをろ別したワニスをバーコータの一種であるコンマ型コータを用いて厚さ50μmの離型剤付きのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ピューレックスA−63,株式会社帝人製商品名)に塗工、乾燥(130℃)し、樹脂層(フィラ入り)厚さ55〜60μmのPETフィルム付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られたフィラ入り樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0065】
(実施例7)
実施例3の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスを用いた以外は実施例6と同様にして樹脂層(フィラ入り)厚さ55〜60μmのPETフィルム付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られたフィラ入り樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0066】
(実施例8)
実施例4の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス170gに、無機充填剤として平均粒径5μmの溶融シリカ粉40gを加え、さらに直径1.0mmセラミックビーズ200gを投入し、AIMEX社製ビーズミルを用いて1500rpmで1時間混練した。混練後、ビーズをろ別したワニスをバーコータの一種であるコンマ型コータを用いて厚さ50μmの離型剤処理PETフィルム(ピューレックスA−63,株式会社帝人製商品名)に塗工、乾燥(130℃)し、フィラ入り樹脂層厚さ50〜55μmのPETフィルム付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られたフィラ入り樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0067】
(実施例9)
実施例5の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスを用いた以外は実施例8と同様にしてフィラ入り樹脂層厚さ55〜60μmのPET付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られたフィラ入り樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0068】
(比較例4)
実施例1において、p−tert−オクチルフェノールの替わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA;ビスフェノールA、三井東圧化学株式会社製)1gを用いた以外は実施例1と同様に反応させて変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=29重量%)を製造した。このワニスを用いて実施例6と同様にして溶融シリカ粉と混練及び塗工し、フィラ入り樹脂層厚さ55〜60μmのPETフィルム付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0069】
(比較例5)
実施例4において、p−tert−オクチルフェノールの替わりにノニルフェノール(三井東圧化学株式会社製)2gを用いた以外は実施例4と同様に反応させて変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニス(固形分濃度=30重量%)を製造した。このワニスを用いて実施例6と同様にして溶融シリカ粉と混練及び塗工し、フィラ入り樹脂層厚さ55〜60μmのPETフィルム付フィラ入り樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0070】
実施例6のPETフィルム付きフィラ入り樹脂フィルムからPETフィルムを剥離し、得られたフィラ入り樹脂フィルム12枚とその上下に厚み18μm電解銅箔を重ね、200℃、1.5MPaの条件で1時間プレス成形を行い、厚さ約0.6mmの両面銅張樹脂硬化物を作製した。同様にして実施例7〜9及び比較例4、5のPETフィルム付きフィラ入り樹脂フィルムを厚さ18μm電解銅箔とプレス成形してそれぞれの両面銅張樹脂硬化物を作製した。
【0071】
次いで、これらの両面銅張樹脂硬化物から線路長約200mmのトリプレート線路共振器を化学エッチングにより作製し、ネットワークアナライザを用いて1GHz帯の伝送損失を測定することにより、1GHzでの誘電率及び誘電正接をもとめた。また、銅箔を全て化学エッチングで除去し、フィラ入り樹脂の硬化物から、試験片を切出して広域粘弾性測定装置(株式会社レオロジー製DVE)を用いて引張モード(周波数;10Hz、昇温;5℃/min)でガラス転移温度(Tg)と引張弾性率/40℃を測定した。それらの結果を表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
表2より、本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムを用いたフィラー入り樹脂フィルムは、シアネートエステル類化合物を特定の1価フェノール類と反応させているために、GHz帯の誘電特性、特に誘電正接が低く、さらに耐熱性の目安となるガラス転移温度及び機械的特性も良好であることが確認できた
。
【0074】
次に、実施例2〜4の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスをそれぞれ用いて銅箔付き樹脂フィルムを作製し、印刷配線板用多層材料としての特性を評価した。
【0075】
(実施例10〜12)
実施例2〜4の変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物ワニスをバーコータの一種であるコンマ型コータを用いて厚さ18μmの電解銅箔の粗化面に塗工、乾燥(130℃)して、樹脂層厚さ60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムをそれぞれのワニスについて作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0076】
次いで、導体回路を形成したガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板(基材厚さ;0.1mm)を内層回路板(回路用銅箔厚さ;18μm)とし、その両面に実施例10〜12の銅箔付き樹脂フィルムを、樹脂層が内層回路に接するように重ね、200℃、2.5MPaの条件で60分間プレス成形して4層配線板を作製した。
【0077】
(比較例6)
比較例5のワニスを用いて、実施例10〜12と同様に、樹脂層厚さ60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製し、ついでそれを用いて同様に4層配線板を作製した。
【0078】
(比較例7)
実施例10〜12で用いたと同じガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路板とし、その両面に、公称厚さ70μmの多層配線板用ガラス布基材エポキシ樹脂プリプレグ(FR−4グレード)1枚と18μm厚みの電解銅箔を積層し、180℃、2.5MPaの条件で60分間プレス成形して4層配線板を作製した。
【0079】
実施例10〜12及び比較例6、7の4層印刷配線板について、以下に示す方法により成形性(ボイドやカスレの有無)、はんだ耐熱性及び銅箔ピール強さを評価した。その結果を表3に示した。
【0080】
<特性評価方法>
・成形性;4層配線板の外層銅箔を化学エッチングによって全て除去し、目視にて内層回路への樹脂の充填性(ボイドやカスレの有無)を評価した。
・はんだ耐熱性:外層銅箔付きの50mm角4層板を260℃の溶融はんだに浮かべ、ふくれが発生するまでの時間を測定した。
・銅箔ピール強さ:JIS−C−6481に準拠して測定した。
・耐燃性:FR−4グレードの0.2mm厚基板の銅箔を全面エッチングし、その両側に実施例または比較例の銅箔付き樹脂フィルムをプレス成形した試験片を作製し、UL−94垂直試験法に準拠して測定した。
【0081】
【表3】
【0082】
表3から明らかなように、実施例10〜12の銅箔付き樹脂フィルムは多層配線板材料として成形性が良好であり、かつ変性シアネートエステル系樹脂を特定の1価フェノール化合物と反応させたことにより本発明の銅箔付き樹脂フィルムを用いた4層配線板は、はんだ耐熱性が良好であり、従来のガラス布を基材に用いた接着用プリプレグと同様の特性を持っていることが確認できた。
【0083】
【発明の効果】
本発明の変性シアネートエステル系樹脂フィルムは、フィルム単独での取扱性が可能で耐溶剤性に優れ、かつその硬化物は高周波帯域での誘電率や誘電正接が低く、ガラス転移温度や弾性率が高く、さらには多層配線板材料として、成形性、はんだ耐熱性及び銅箔ピール強さなども良好であるので、高速デジタル信号や無線通信関連の高周波信号を扱う機器に用いる印刷配線板の、特にビルドアップ積層方式による製造に好適な絶縁性樹脂フィルムである。本発明の樹脂フィルムを用いることにより、コンピュータの高速化や高周波関連機器の低損失化に適した印刷配線板を容易に製造することが可能となる。
Claims (17)
- 前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分が4〜30重量部であり、前記(C)成分が、5〜500重量部であり、かつ前記(D)成分が、前記(A)成分1gに対して、1〜300ppmである、請求項1に記載の樹脂フィルム。
- 前記(A)成分が、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン及び/又は2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタンである、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
- 前記(B)成分が、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール及びp−tert−オクチルフェノールから選ばれる1種類以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記(C)成分が、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレン又はスチレン−ブタジエンコポリマとのアロイ化ポリマであって、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルを50重量%以上含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記(D)成分が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛の2−エチルヘキサン酸塩、ナフテン酸塩若しくはアセチルアセトン錯体から選ばれる1種類以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記(A)〜(D)成分を含有する硬化性樹脂組成物と溶剤を含むワニスを支持基材の片面に流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し製膜することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを製造する方法。
- 前記変性シアネートエステル樹脂が、前記(A′)成分100重量部と前記(B′)成分4〜30重量部の一部又は全部を反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂であり、
前記(C′)成分が、前記(A′)成分100重量部に対して、5〜500重量部であり、かつ
前記(D′)成分が、前記(A)成分1gに対して、1〜300ppmである、請求項8に記載の樹脂フィルム。 - 前記(A′)成分が、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン及び/又は2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタンである、請求項8又は9に記載の樹脂フィルム。
- 前記(B′)成分が、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール及びp−tert−オクチルフェノールから選ばれる1種類以上である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記(C′)成分が、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレン又はスチレン−ブタジエンコポリマとのアロイ化ポリマであって、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルを50重量%以上含有する、請求項8〜11のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記(D′)成分が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛の2−エチルヘキサン酸塩、ナフテン酸塩若しくはアセチルアセトン錯体から選ばれる1種類以上である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
- 前記変性シアネートエステル樹脂、前記(C′)成分及び前記(D′)成分を含有する硬化性樹脂組成物と溶剤を含むワニスを支持基材の片面に流延塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し製膜することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを製造する方法。
- 前記変性シアネートエステル樹脂を、前記(C′)成分を投入した前記溶剤中で、前記(A′)成分と前記(B′)成分の一部又は全部を反応させて得る、請求項14記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記溶剤が、芳香族炭化水素系溶剤を含む、請求項14又は15に記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記溶剤が、さらにケトン系溶剤を含む、請求項16に記載の樹脂フィルムの製造方法。
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