JP3720926B2 - 耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板 - Google Patents
耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
TiやNbを極低炭素鋼に添加し、固溶C,Nを炭窒化物の形で固定したIF鋼板(Interstitial atom free steel sheet)は優れた深絞り性を有する冷延鋼板として広く使用されている。しかし、この鋼板は軟質であるため耐面歪み性は優れているが耐デント性が劣り、自動車外板等に適用した場合、成形後外力を加えると形状が容易に崩れる欠点がある。
一方耐デント性を向上させるには降伏点を高めることが有効であることが知られているが、この場合プレス成形性が悪化する。
【0003】
耐デント性ならびに耐面歪み性を有する鋼板の製造法として表層をハイテン化した複層鋼板による製造方法が開示された(特願平2−266409号、特願平2−320122号、特願平2−320123号)。また同様に表面近傍のみをハイテン化する方法として浸炭処理あるいは窒化処理がよく知られており、浸炭、窒化処理により表層近傍で強度の高い鋼板ならびにその製造方法が開示されている(特開平3−243757号公報)。また張り出し性及び耐デント性ならびに耐面歪み性を有する鋼板として板表面から板厚の10%までの平均硬度を1800>HV>1200MPaとした鋼板(特願平6−204006号)がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの技術は成形加工上重要な特性の1つである2次加工性については全く言及していない。窒化による表層強化のために2次加工性は低下するが、その2次加工性を改善する技術として板表面から板厚の10%までの平均硬度をビッカース硬度で180≦HV≦300とし、さらに表面から板厚の3%までの平均硬度がビッカース硬度180以下とした鋼板(特願平7−308011号)がある。しかし、この鋼板は表層近傍の硬度が十分上げられないため、耐デント性が不足する場合があった。
本発明は、耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は耐デント性に優れ、かつ2次加工性、時効性および深絞り性が優れた冷延鋼板について検討を重ね、窒化による表層強化により低下した2次加工性が、表層のC濃度に強く影響されることを突き止めた。また、時効性は表層部におけるTi,Nb炭窒化物の析出により抑制されることを突き止め、鋼の成分と表層の硬度を最適化することにより上記の特性を同時に満足する冷延鋼板を得られることを見いだした。以上の理由は未だ明確ではないが以下のように考えられる。表層部でTi,Nb炭窒化物の析出が起こると強度が上昇するとともに、炭窒化物の化学量論的組成以上のC,Nが化学的に固定されて歪み時効に対して影響を及ぼさなくなる。Ti,Nb原子を中心としてC,Nがクラスタリングしている可能性も考えられる。この際、固溶Cは若干残存して粒界に偏析して粒界強度を上昇させるために2次加工性を改善する。よって、2次加工性の劣化無く表層硬度を上昇できる。すなわち、表層部を硬化させ、内層部に加工性の優れた鋼板を用いて耐デント性と深絞り性を同時に満足し、鋼の成分を規定することにより2次加工性と非時効性を同時に満足することができることを明らかにした。
【0006】
本発明の要旨とするところは、表面から板厚の5%以上、35%以下までの表層の平均組成が重量比で、
C:板厚の中心部の平均C量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、N:板厚の中心部の平均N量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、必要に応じてB:0.0002%以上、0.005%以下を含み、
Ti/48,Nb/93の一方あるいは双方の和が0.0003以上、残部Feおよび不可避的不純物であり、さらに(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上であること、そして表層の板厚5%内側から板厚中心までの平均組成が、
C:0.005%以下、
N:0.01%以下、
必要に応じてB:0.0002%以上、0.005%以下を含み、
Ti,Nbの一方あるいは双方をC/12+N/14+S/32<1.2(Ti/48+Nb/93)なる条件を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板にある。
【0007】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の成分の限定理由は次の通りである。
表面の板厚5%内側から板厚中心までの平均組成で、TiおよびNbのいずれか一方または双方を1.2(Ti/48+Nb/93)>C/12+N/14+S/32なる関係を満足するように限定したのは、鋼中のCおよびNを析出物の形で固定し、固溶のC,Nを冷延時にほとんど存在させずにスムースな結晶回転を可能にすることにより、その後の再結晶焼鈍で製品の深絞り性を良好ならしめるに有利な方位である(111)<112>,(554)<225>などの集積度の高い集合組織を有する鋼板を得るためである。
【0008】
一方、表面から板厚の5%以上、35%以下において、(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上であることに制限したのは、この値が20以下であると十分な耐デント性が得られないためである。
表層硬化層の厚さを5%以上、35%以下と制限したのは、5%以下であると表層硬化による耐デント性向上の効果がなくなるためである。また、表層硬化層が35%以上となると延性等の加工性を担っている内層部が少なくなり、加工性が劣化するためである。
表面から板厚の5%以上、35%以下までの表層の平均組成で、Ti/48,Nb/93の一方あるいは双方の和が0.0003以上と限定したのは、Ti/48,Nb/93の一方あるいは双方の和が0.0003以下だと、窒化物の形成が十分起こらず、(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上にならないためである。
【0009】
表面から板厚の5%以上、35%以下までの表層の平均組成でN量の下限を板厚中心部の平均N量より0.001%以上としたのは、これ以下のN量の差では窒化による表層の硬化代が小さく、(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上にならないことより、十分な耐デント性が得られないためである。また、上限を板厚中心部の平均N量より0.1%超と限定したのは、これ以上のNの添加は加工性の劣化をもたらすからである。
一方、C量の下限を板厚中心部の平均N量より0.001%以上としたのは、これ以下のC量の差では浸炭窒化による2次加工性の改善効果が無いためである。また、上限を板厚中心部の平均C量より0.1%超と限定したのは、これ以上のCの添加は加工性の劣化をもたらすからである。
【0010】
表層の板厚5%内側から板厚中心までの平均N量を0.01%以下としたのは、これ以上の添加は加工性の劣化をもたらすからである。
一方、C:0.005%以下としたのはこれらの量を超えて、Cを添加すると製品の加工性を損なうのみならず、1.2(Ti/48+Nb/93)>C/12+N/14+S/32の条件式を満たすに必要なTiあるいはNbの量が多くなり、不必要に製造コストが高くなるためである。
また、Bの添加は2次加工性を更に高めるので、必要に応じ0.0002%以上のBを添加することは効果的であるが、0.0050%以上になると加工性の劣化が著しくなるので、上限は0.0050%とする。
【0011】
また、上記で規定した以外の元素は原則添加されないことが望ましいことが、通常不可避的に存在する元素として、Si,Mn,P,Al,O等が挙げられる。Si,Mn,Pについては、加工性の観点から上限をSi:0.3%以下、Mn:0.5%以下、P:0.1%以下とするのが望ましい。Alは溶鋼での確実な脱酸を可能とするために少なくとも0.005%の添加が望ましいが、過度の添加は加工性を劣化するので上限を0.2%とするのが望ましい。Oは0.01%程度まで許容できる。
【0012】
本発明鋼の特徴としては以上であるが、その製造方法としては製造コストが低い連続焼鈍における浸炭窒化が望ましい。浸炭窒化条件としては浸炭窒化温度、浸炭窒化時間、鋼表面における炭素ポテンシャル・窒素ポテンシャル等の多くの影響因子が関わるが、基本的には本発明の範囲を満足する硬度分布を与えられた成分系で実現すれば、耐デント性、2次加工性、非時効性、深絞り性に優れた鋼板が製造できる。
【0013】
【実施例】
表1に示した成分組成を有する材料を用いて様々な機械試験をした結果を表2に示す。実験番号1〜6、8〜14は、連続鋳造スラブを1200℃で加熱し、約930℃で仕上げ圧延した4mm厚の熱延板を82.5%冷延し、連続焼鈍の前半で800℃で30秒の再結晶焼鈍をし、その後連続焼鈍炉中で様々な条件で浸炭窒化を行ったものである。浸炭窒化条件は、炉温600℃以上800℃以下、時間は1分以内、雰囲気はアンモニア、一酸化炭素、窒素および水素の混合雰囲気中とした。実験番号7は、連続鋳造スラブを1100℃で加熱し、Ar3 以下の約790℃で良潤滑条件で仕上げ圧延した4mm厚の熱延板を、冷延以下を上記と同工程で製造したものである。
【0014】
耐デント性の指標としては図1に示す実験装置により鋼板に負荷を与えた後、残った凹み量が50μmになった時の荷重をもって表した。耐デント性は70N以上をもって良好とする。表層硬度は荷重10gのビッカース硬度により評価した。深絞り性については限界絞り比(LDR)で評価し、2.2以上を良好とした。2次加工性については、ブランク径86mmの円盤をしわ押さえ力1トンで押さえ、径40mmの円筒ポンチで深絞り加工を行いカップを成形した。その後0℃以下に冷却し、テーパー(角度37°)付きポンチにカップをのせ、1mの高さから5kgの重錘を落下させた。その際脆性割れを生じなかった最低の温度をもって2次加工性の指標とした。2次加工性は脆性割れを生じなかった最低の温度が−30℃以下をもって良好とする。
【0015】
実験番号2から6までは同じ材料を浸炭窒化条件を変えて表層部の浸炭量・窒化量を変化させたものである。また実験番号1は同材料の無処理材である。本発明鋼の範囲内である実験番号2、3、5、6は耐デント性、深絞り性、2次加工性の全てにおいて優れた特性を示し、実験番号1の比較材に比べて著しい耐デント性と2次加工性の向上が達成されていることが分かる。実験番号4は2次加工性が改善されていない。これは浸炭量が少ないために、表層強化による2次加工性の低下を改善できなかったと考えられる。
【0016】
実験番号7は、熱延条件を変化させたものであるが、本発明鋼の範囲内であり、耐デント性、深絞り性、2次加工性の全てにおいて優れた特性を示した。
実験番号8〜16は添加元素を変化させたものである。本発明鋼の範囲内である実験番号9、10、11、12は耐デント性、深絞り性、2次加工性の全てにおいて優れた特性を示した。実験番号8、13、14はC/12+N/14+S/32<1.2(Ti/48+Nb/93)なる条件を満足しておらず、深絞り性が低かった。実験番号15、16ではTi・Nb添加量が少なく、表層の硬化が十分起こらず、耐デント性の向上か得られなかった。これは窒化時に十分な量のTi,Nb炭窒化物が析出しなかったためと考えられる。
これらの実施例のうち、実験番号3、6は焼鈍、窒化、脱窒後、連続して450℃の溶融亜鉛の入ったポットに通板した後、約550℃で約20秒間の加熱をして亜鉛メッキ層の合金化を行った材料である。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、自動車用外板のような耐デント性、2次加工性、非時効性、深絞り性が要求される冷延鋼板を低コストで供給でき、工業的に価値の高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】耐デント性の測定の実験方法の概要を示した説明図である。
Claims (2)
- 表面から板厚の5%以上、35%以下までの表層の平均組成が重量比で、
C:板厚の中心部の平均C量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、
N:板厚の中心部の平均N量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、
Ti/48,Nb/93の一方あるいは双方の和が0.0003以上、残部Feおよび不可避的不純物であり、さらに(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上であること、そして表層の板厚5%内側から板厚中心までの平均組成が、
C:0.005%以下、
N:0.01%以下で、
Ti,Nbの一方あるいは双方をC/12+N/14+S/32<1.2(Ti/48+Nb/93)なる条件を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板。 - 表面から板厚の5%以上、35%以下までの表層の平均組成が重量比で、
C:板厚の中心部の平均C量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、
N:板厚の中心部の平均N量より0.001%以上、0.1%以下だけ高い量、
B:0.0002%以上、0.005%以下、
Ti/48,Nb/93の一方あるいは双方の和が0.0003以上、残部F eおよび不可避的不純物であり、さらに(表層の平均硬度)−(板厚中心の硬度)なる値がビッカース硬さで20以上であること、そして表層の板厚5%内側から板厚中心までの平均組成が、
C:0.005%以下、
N:0.01%以下、
B:0.0002%以上、0.005%以下で、
Ti,Nbの一方あるいは双方をC/12+N/14+S/32<1.2(Ti/48+Nb/93)なる条件を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、耐デント性と2次加工性に優れた非時効性深絞り用冷延鋼板。
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