JP3720417B2 - 磁石モータ - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ファンモータなどの小型簡易な磁石モータの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ファンモーターなど余りトルクリップルが問題にならないブラシレス磁石モータでは、ローターマグネットとステータティップあるいはスロットの数を四程度の同数として、一個のホール素子を用い、二つのコイルに交互に通電して回転させている。この場合、正逆の回転方向に対して対称な磁場が形成されると、後述の理由で起動死点を発生するため、ティップの一部に切り欠きを設けることにより、マグネットの磁極とステータティップの間に発生するコギングトルクを偏向させて死点を回避する方法が一般化している。
【0003】
第2図は、そのような従来のファンモーターの磁気回路の断面を示す。図で、1は正弦波四極着磁の円環状ローターマグネット、1aは着磁のゼロクロス部分、1bはローターヨークである。2は、四個の突起状ティース2a、2b、2c、2d、および軸受孔2eを有する等方性珪素鋼帯を打ち抜いたラミネーションコアを十数枚積層して形成したステータであって、マグネット1とステータ2によってアウターロータータイプの磁気回路が構成される。ティース2a、2b、2c、2dは、それぞれテイップ2f、2g、2h、2iを有してマグネット1の内周面と対向し、ティース2b、2dは、鎖線2bdによってその中心角が示される。
各ティースの外周にはコイル3a、3b、3c、3dが巻回され、3a−3c、3b−3dがそれぞれ直列に接続される。マグネット1の内周と各テイップの外周の間にはエアーギャップ4が形成され、ティップ2fと隣接のテイップ2gの間隙には、非表示のベースプレート上にホールセンサ5が取り付けられている。
【0004】
ティップ2fはマグネット側に張り出した部分2f1とマグネットから後退した部分2f2を有し、他のティップ2g、2h、2iについても同様な形状に設定される。このためティップ2fについて言うと、対向するマグネット1の着磁中心Nがティース2aの中心線よりもティップ2fの張り出し側2f1により強く引き寄せられ、その結果、ゼロクロス1aの位置が図示の位置まで移動してセンサ5に磁界が鎖交する。応じて、センサ5に出力電圧が発生すると、この出力電圧が信号処理され、オン・オフ信号として図3(a)のドライブ回路に与えられる。すなわち、ドライブ回路のパワーステージを構成する半導体スイッチ6a、6bのベースの一方に導通信号が与えられ、半導体スイッチ6aか6bの一方が閉成し、巻線3a−3cから成るコイル31あるいは巻線3b−3dから成るコイル32に励磁電流が供給され、これによりマグネット1と各ティツプ間に回転磁力が発生してローターが回転する。以下ローターマグネットの回転によりセンサの出力電圧が交番することにより、両スイッチが交互に開閉してローターの回転が継続する。
【0005】
ところで図2の磁気回路において、もしティップ上の張り出し部分2f1や後退部分2f2のような変形がないときは、マグネットの磁極中心は各ティースの中心線に対面して引き合うだけとなる。このときゼロクロス1aは、ティップ間の空隙部分の中央線上に位置するため、センサ5には磁束が鎖交せず通電は得られない。なおドライブ回路によっては、一定の期間信号が到来しないとき自動的に通電が行われるようにしたものもあるが、例え通電が得られたとしても、このような位置関係では、マグネットとティップがラジアル方向に引き合うか反発するのみでローターの起動には至らない。よって従来の磁気回路では、マグネット1の内周と対向する各ティップ外周の形状を切り欠くことによってローターマグネットを周方向に対して偏角させることを不可欠としている。
【0006】
ここで無通電時のティツプとローターマグネットの相対位置について、やや詳しく説明するとつぎの通りである。一般に磁極とティップの数を4とした磁気回路(4ポール4スロット)では、ティップの形状が、図1のような切り欠きなしの対称形状であるとすると、ローター1が1回転する間に8個の安定点すなわち起動死点に遭遇する。うち4コが不安定な仮死点、4コが安定な真の死点であって、前述のマグネット磁極とティツプが引き合う場合は真の起動死点に相当する。この場合、隣接する真の死点間の角度は90゜となり、真の死点がティースの中心角に対してなす角度はそれぞれ45゜の角度となり、ティース中心角は隣接する死点角度の中央に位置する。
ところがステータを図2のような切り欠き付きのティップにすると、真の死点間の角度は、やはり90゜で変わらないが、ティースの中心角と死点間の角度は円周方向に対して例えば20゜対70゜と偏り、その結果起動死点が解消される。
【0007】
ティップの切り欠きによってローターが偏角する理由に関し、図2の場合、ローターマグネット1の内周に対向して形成されるギャップ4のラジアル方向の長さは回転方向に対して非対称であるため、エアギャップの磁気抵抗が、したがってその吸引力も非対称となる。したがって、ローターマグネット2の磁極は各ティップとの間に発生するこの非対称なコギングトルクによって吸引され、切り欠きがない場合に比較して移動した位置で安定する。
【0008】
第2図の構成は、簡易低価格のため広く用いられる反面、つぎの欠点を余儀なくされる。第一に、ある角度のギャップ長がティツプに切り欠きがあるため回転とともに波打つため、起磁力中に振動成分が混入してトルクリップルが増大する。第二に、このトルクリップルによって、電磁振動や騒音が直接的に発生するだけでなく、モータ各部の機構部品が加振される結果、騒音振動レベルの増大を免れない。第三に、切り欠き形状は平均のギャップ長を増加させ空隙磁気抵抗を高めるため、回転トルクの低下を来たし、したがって、効率の低下を免れない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第一の課題は、上述の従来磁石モータの問題点に鑑み、とくに単一のセンサを用い、スロット数とポール数が等しい磁石モータの分野において、ステータコアの切り欠きを不要とする新規な磁石モータを提供することである。
【0010】
本発明の、第二の課題は、従来の諸問題の解消に止まらず、新規な磁気回路によって従来不可能とされたトルクリップルそれ自体の改善を図ることができる新規な磁石モータを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、磁極を備えたローターマグネット、マグネットの磁極位置を検知するための位置検知手段、軟磁性素材から成り、複数のティースと前記磁極に対向するティップを有するとともに、前記テイースに励磁巻線を備えたステータ、および巻線に通電するためのドライブ回路を有し、ステータは、方向性を付与して各ティースの磁気中心軸と軟磁性素材の磁化容易軸となす角度をティース毎に相違させ、各ティースの磁束密度を相違させることにより、巻線の無通電時において、ローターマグネットの回転方向の偏角を得て前記位置検知手段に磁束を鎖交させ、前記検知手段の出力により前記巻線への通電を開始し、前記磁極と前記ティツプとの間に磁力を発生させて前記ローターの回転を起動させる。
【0012】
本発明の第一の特徴は、無通電時にローターの回転方向偏角を得る目的でこれまで用いられて来たテイップの切り欠きを用いることなく、代わりに磁気回路に方向性を導入することによって回転円周に対して対称形状の磁性部材を用いたまま、ローターの偏角を得ることにある。すなわち方向性のステータティツプがローター磁極に対向する円周端面には切り欠き部分がなく、両者間に形成されるギャップ長が回転全周にわたって実質上一定に保たれることにより、コギングトルクの最大振幅を低減するとともに、回転中のギャップ長の増減に伴う磁力の変調を排除して回転中の振動・騒音を低減するとともに、磁気回路の効率を高める。
【0013】
本発明の第二の特徴は、これまで用いられて来たティツプの切り欠きに代えて磁性の方向性を導入することによって対称形状のティップを採用し、通電時のローターの偏角を助長できる。すなわち方向性ステータでは、各ティースの磁化容易軸と中心角の角度差がティース毎に異なり、したがって飽和磁束密度が異なるため、各巻線に通電してティースを励磁すれば、その通電レベルと励磁の極性に基づいて各ティースの飽和状態が変わり、あるティースはより飽和し、あるティースは飽和から少し開放されるため、ローターの回転方向の偏角が助長される。それゆえ本発明においては、ステータの磁化容易軸とティース中心角に角度差がなく、例え両者が一致している場合についても、前記角度差を設けた場合と同様にローターマグネットのスピンを得ることができる。
【0014】
本発明の磁気回路は、ローターマグネットの極数とステータティースの数が2の倍数の同数に設定された同期モーターに対して適用できる。この場合モータコイルとドライブ回路には、図2の従来例と同よう、図3(a)に示す二つの通電経路を交互に導通させるか、図3(b)のように全巻線を二端子のコイル3に結線して一つの通電経路として単相交番電流を流すか、あるいは図3(c)のように、各ティースにバイファイラ巻の平行二巻線を設けてコイル31、32を交互に通電することによって各ティースを励磁するなどの方法がある。
【0016】
【作用】
従来の等方性ステータ部材を用いた磁石モーターでは、各ティースの中心角から見て、磁化の容易さが全方位同等であるから、各ティップをティース中心角に対して対称な形状にすると、ティップとマグネットとの間に発生する吸引力が回転方向に対して正方向逆方向対称に発生し、各ティップ間の空隙部分が着磁のゼロクロスに対面して安定する。したがって、この部分に位置するセンサには磁束が及ばず、あるいは通電を得たとしても回転トルクが得られず、いわゆる起動死点を形成する。このため従来の磁気回路では、必ずテイップのマグネット対向面を非対称に切り欠いて吸引力を回転方向に対して非対称に傾斜させている。その結果、コギングトルクによってローターが偏角され起動死点が解消されるが、半面において回転中の振動・騒音と低効率を余儀なくされていた。
【0017】
これに対して本発明では、ステータの素材として、例えば図4に磁気特性を示す一方向性の冷間圧延の珪素鋼帯を用いる。図で、横軸は圧延方向すなわち磁化容易軸からの角度θ[度]、縦軸は磁束密度B[T]を示す。図の曲線は、各種の磁界の強さをパラメータとした角度θと磁束密度Bの関係を示す。すなわち、磁束密度Bは、磁界が弱いとき曲線7a〜7cのように角度θの増加とともに右下がりに低下し、比較的磁界の強いときは曲線7d〜7eのように右下がりに低下した後少し戻すが、いずれにせよ磁化容易軸に磁束が集中することが判る。したがってティップに切り欠きがなく対称形状であっても、磁化容易軸を傾斜させることによって切り欠きと類似の特性を得ることができる。
またステータコアの形状においては、コア全体の磁化容易軸と個別のティースの中心角がなす角度がティースによって相違するため、ティース毎に磁化特性が相違する。つまり、それぞれのティース毎に飽和の程度が異なり、あるティースは飽和し難く、あるティースは飽和し易い。したがって、各ティップが対向磁極に及ぼす力は無通電状態においても異なる値となり、各磁気力の総和としての軸トルクが変調されるため、ローター角度を偏倚させることができる。
【0018】
図4の曲線7a〜7fによれば、磁界の強さによって磁束密度が変化する。したがって通電励磁によって各ティースの磁束密度が変化する。つまり、磁化容易軸から見てステータが例え左右対称な特性であったとしても、励磁巻線の設定によって通電時に左右非対称の磁気特性を得ることができる。このように、通電励磁によってあるティースをより飽和させ、あるティースの飽和をより開放することができるので、各ティツプの磁気吸引力の違いを助長して各磁気力の総和としての軸トルクを変化させローター角度を回転方向に偏倚させることができる。
【0019】
ステータの異方磁性に基づく作用の基本原理は、軟磁性体から切り出した6面体に球磁石を乗せた実験から証明できる。つまり、もし6面体の材質が等方性であると、球は、どの面にも安定に吸着する。しかし6面体が異方性であれば、磁化容易軸と直角をなす面上には安定に吸着するが、それ以外の面では不安定であり磁化容易軸に直角な面に走り込む。
【0020】
【実施例】
図1は、本発明の第一の実施例の磁気回路の断面を示す。図で、各部の記号は図2の場合と共通である。マグネット1は、等方性のNdボンド磁石に実質上等間隔を置いて4極の正弦波着磁を施したものである。ステータ2は一方向性の冷間圧延の珪素鋼帯を13枚積層したラミネーションコアで形成され、その冷間圧延方向すなわち磁化容易軸は紙面の矢印2jの方向に設定されている。図の場合磁化容易軸2jの角度は、ティース2b、2dの中心角2bd(破線で示す線)を基準にして反時計方向に10゜傾斜している。各ティツプ外周の形状は、回転方向に対して対称に設定され、ギャップ4の間隔は、図2の従来例の張り出し側ティップ2f1とマグネット1の内周の最短距離に等しい。巻線3a、3b、3c、3dは、その極性が、例えば3aと3cは増磁性、3bと3dは減磁性、すなわち交互に異極性に巻回され、全巻線が直列に接続され、図3(b)のコイル3を形成する。
【0021】
図1の実施例の磁気回路を用いて、無通電時のコギングトルクを算出すると、図5の実線8aが得られる。これに対し、同一のステータ形状で材質を等方性に変更し、同様に無通電コギングトルクを算出すると鎖線8bが得られる。これらの曲線は、ほぼ実測値と一致する。また図2の従来例の等方性ステータを用いた磁気回路で、切り欠きのない対称形状のティップを用い、コギングトルクを測定すると、図5の8bと類似の曲線が得られる。したがって、方向性ステータを用いるとコギングトルクが減少することが判る。
【0022】
ここで図1の磁気回路の起動死点に関し、ローター一回転当たりの安定点を求めると、図2の従来例と同よう8個であるが、隣接する死点間の角度は45゜と図2の従来例に比較して半減する。ここでもし、磁化容易軸2jとティースの中心角2bdを一致させると隣接する起動死点間の角度はそれぞれ22.5゜で、ローターの偏角にも拘らず安定点はティース中心角の対称位置に来る。図示の場合は、磁化容易軸2jを中心角2bdから傾斜させているので、これらの角度は中心角2bdを基準にして17゜対28゜となり、ローターの回転方向の偏角を得る。
【0023】
この理由を考察すると、従来の等方性ステータでは対称形状のティツプを用いると、各ティースが対称な磁界分布となり、マグネットのゼロクロスがティップ間の空隙部分に周回して対向するため、ティップに切り欠きを設けて非対称形状とし、磁場を偏向する他になかった。これに対して実施例では、一方向性のステータが用いられ、ティースによってその中心角と磁化容易軸のなす角度が変化するから、対称形状のティップを用いた場合においても、個々のティースが異なる特性を呈し、その結果、軸トルクにおいてバランスする点までローターを偏角することができる。
【0024】
このように図1の実施例では、ティップに切り欠き部分が無いにも拘らず、ローターの偏角が得られて死点が解消され、センサ電圧が得られる。そこで、巻線3a、3b、3c、3dから成るモータコイル3を図3(b)のドライブ回路に接続し、センサ電圧を信号処理して半導体スイッチに与えると、コイル3を経由してスイッチ6c−6fかスイッチ6e−6dが導通して巻線3a−3b−3c−3dに電流が流れ、その結果マグネットの各磁極と各ティップ間に回転磁力が発生してローターが回転を開始する。以後、回路6c−3−6fと回路6e−3−6dが交互に導通してコイルLに単相交流が給電され、ローターの回転が継続する。
【0025】
モータが起動して回転数が加速されると、ファンにおける風圧などの負荷、あるいは各種の制御手段を用いて回転数が一定値に達すると、この実施例ではマグネットの極数とティースの数が同数であるため、図6に示すような同期運転となる。この図は、回転中マグネットの磁極と各ティップ間に発生する磁力を模式的に表すものであり、記号はこれまで用いたものと共通である。すなわち図6に実線で示す矩形の枠は、図1のティップ2f、2gをローター軸の直角方向の円周外側から見て、紙面に展開したものである。点線の枠は同じくマグネットを展開したものであるが、下方に行くに従ってローターマグネットが回転する様を実線で示すゼロクロスの1aの移動によって表す。磁極中に表示された不等号は、マグネットの各磁極が対面するティップから受ける磁力の方向を表す。なお、マグネットがティップ間の空隙と対面する部分については、殆ど力を生じないと考えてよい。
図6によれば、ローターが回転して、マグネットの磁極が逆トルクを受ける位置に接近すると、センサ5がゼロクロスを検出して通電方向したがってステータの電磁石の極性を反転することにより、回転が継続する。この間、ティップとマグネットの磁極中心が同期しているため、両者の位置関係によって磁力は0から最大値の間で増減し倍調波振動を発生する。このような磁気回路では、回転方向に対して逆方向のトルクは発生せず、比較的高い効率が得られる。そして本実施例においては、磁界の方向性に基づいてコギングトルクおよびトルクリップルを従来に比較して低減することができる。
【0026】
図7は、本発明の第二の実施例の磁気回路の断面を示す。記号は、これまで用いたものと共通である。図で、ローターマグネット1は、ラジアル配向の異方性ゴムフェライト磁石を正弦波着磁したものである。ステータティツプの数とポール数は同数であるが、ティース2c、2dの幅(コイルが巻回される部分の幅)はティース2a、2bの1/2に設定されている。またティップ2h、2i(比較的角度の大きい第1のティップを構成する)の円周角は、ティップ2f、2g(比較的角度の小さい第2のティップを構成する)の円周角の2/3である。また、ティップ間の空隙の幅は、巻線に必要な間隔で図1の第一実施例と大差はなく、ティップ2h、2iの1/4に相当する。ホールセンサ5は、円周角が比較的小さいティップ2c、2dの間の空隙にあって、非表示のベースプレート上に配置されている。巻線3a、3b、3c、3dは、二本の平行銅線を交互に増磁性、減磁性のように異極性に巻回したもので、これらの巻線をそれぞれ直列接続したバイファイラ巻きによってモータコイル31、32が構成され、図3(c)のドライブ回路で交互に半波通電される。各巻線の巻数は、それぞれのティースのアンペアターンが等しくなるように定められており、したがって巻線3c、3dの巻数は巻線3a、3bの巻数の1/2である。
【0027】
ここで各ティースの中心角がなす角度差に関し、ティース2aと2b間の角度差は最も大きく、ティース2bと2c間の角度差は2dと2a間の角度差に等しく、2aと2b間の角度差に次ぎ、ティース2cと2d間の角度差は、最も小さい。そしてこれらのティースの寸法は、2aと2bが3スロットステータの2本のティース、2cと2dが6スロットステータの2本のティースに相当する。
これらティースの組み合わせから成る第二の実施例においては、実質上等間隔の4ポールの正弦波着磁のマグネットとの組み合わせにおいて、そのコギングトルクが3スロツトおよび6スロットに対するものの合成となるから、同期構造に基づくコギングトルクが解消され、その結果、トルクリップルを大幅に減少することができる。
【0028】
図7の磁気回路では、センサ5が狭小なティップ間隙2h、2iの間に位置するため、ゼロクロス1aの位置を比較的鋭く捉えることがてきる。すなわち出力電圧のゼロクロスの変化勾配が高まり、したがって図3(c)の回路に正確なオン・オフ信号を伝達して、モータの起動・回転を容易にすることができる。かくしてモータが回転すると、マグネット1の着磁と各ティップの間に発生する磁力は図8のパターンになる。
図で、各ティップおよびティツプ間の間隙の円周角は、6:1:6:1:4:1:4:1の比率に設定されている。かくすれば、ティップとマグネットポール間に発生する回転トルクは、図に不等号で示すように全て順方向となるため、逆方向のトルク成分を解消できる。したがってモータ効率を高めることができ、あるいは最大磁束密度の低いマグネット素材を使用できる。またこの場合、全ての磁極と全てのティップが同期することが避けられるから、振動周波数の分散が可能になる。なお、このような効果は、図7の磁気回路を整数倍した多スロット構成、あるいは上記ティース幅の比率1/2を2/3に変化させるなど各種の組み合わせにおいても得ることができ、コギングトルクやトルクリップルを低減することができる。
【0029】
このような本発明の第二の実施例においては、ラジアル配向の異方性マグネツトに代えて等方性素材もしくは非ラジアル配向の異方性マグネットを用いることもできる。前者の場合、回転方向に対して非対称な着磁を用い、後者の場合、例えば素材の配向方向と着磁方向をラジアル方向から30゜程度傾斜させる。このようなモータでは、ステータの方向性とマグネットの異方性が相乗するため、ローターの偏角を高めることができる。また、このような第2の実施例は従来の等方性のステータコアにも適用することができる。
【0030】
また、このような本発明の第二の実施例の構成は、ステータティツプとマグネットポールの間に作用する部分トルクを特定できる特殊なステータ形状の設定を基盤とするものであるから、その適用は図7に示したラミネーションコアに限定されるものではなく、例えばインダクタモータのように、打ち抜き鋼板によって形成される一枚板のステータティップの表面に作用する磁気力を応用する磁気回路に対しても、複数のティップ形状を採用することによって同様に適用することができる。
【0031】
以上4スロット4ポール構成の磁気回路に異方性を付与した本発明の二つの実施例について述べたが、本発明の応用範囲は、第一、第二の実施例の構成に止まらず、異方磁場を用いる各種のモータと駆動に対してその技術基盤を逸脱しない範囲において広く適用することができる。例えば、方向性と等方性を混在させたステータ、二方向性など多方向性のステータ、ポール数、スロット数を増加させた磁気回路、複数の配向方向が混在したマグネット、インナーロータータイプの磁気回路、ホールセンサ以外もしくはセンサレスタイプの磁気検知手段、並列接続を含む各種のコイル結線、起動のみに本発明を適用し回転中は多相でドライブするなどの方法などを選択的に用いることができる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、磁石モータに異方磁場を導入することにより、ステータの形状またはマグネットの素材の変更に自由度が与えられ、その結果、従来にない特性機能を創出することが可能になった。すなわち本発明によれば、起動死点解消のために磁気回路に特別な機械的変形を加える必要はなく、純電磁的な方法によって、コギングトルクを低減して振動・騒音を低減するとともに、高い効率を得ることが可能になった。
【0033】
第一の実施例においては、モータの磁気回路に異方性を導入することにより、起動死点を解消するとともに、これまで必須とされて来たステータティツプの切り欠きを廃して、振動・騒音を低減することができた。また、コギングトルクを低減し、かつしたがってトルクリップルを軽減することができた。さらに、平均ギャップ長を低減して、モータ効率を高めることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による磁石モータの第一実施例の磁気回路の断面を示す。
【図2】従来のファンモータの磁気回路の断面を示す。
【図3】各種の単相励磁ドライブ回路のパワーステージを示す。
【図4】第一実施例の無通電コギングトルクの性質を示す。
【図5】方向性珪素電磁鋼帯の角度対磁束密度の関係を示す。
【図6】第一実施例の各ティップに発生する部分トルクの性質を示す。
【図7】本発明による磁石モータの第二実施例の磁気回路の断面を示す。
【図8】第二実施例の各ティップに発生する部分トルクの性質を示す。
【符号の説明】
1 ローターマグネット
2 ステータ
2a ステータティース
2b ステータティップ
2j ステータの磁化容易軸
3 コイル
4 エアーギャップ
5 磁気センサ
6a 半導体スイッチ

Claims (3)

  1. 磁極を備えたローターマグネット、前記マグネットの磁極位置を検知するための位置検知手段、軟磁性素材から成り、複数のティースと前記磁極に対向するティップを有するとともに、前記テイースに励磁巻線を備えたステータ、および前記巻線に通電するためのドライブ回路を有する磁石モータにおいて、
    前記ステータは、一方向性磁化容易軸を有する軟磁性素材を複数のティースが分割されることなく打ち抜いて得られたラミネーションコアを複数枚積層して構成され、前記ステータティツプが前記ローターマグネットに対向する円周端面には切り欠き部分がなく、前記マグネットの内周面との間に形成されるギャップ長が回転方向全周にわたって実質上一定に保たれるとともに、前記各ティースの中心軸と軟磁性素材の磁化容易軸がなす角度をティース毎に相違させ、前記巻線の無通電時において、前記マグネットから前記ティップに供給される磁束を偏向させて前記ローターマグネットを回転方向に偏角させることにより、前記位置検知手段に鎖交磁界を得てその検知出力をもって前記巻線への通電を開始するとともに、前記磁極と前記ティツプとの間に発生する磁力により前記ローターの回転を起動せしめることを特徴とする磁石モータ。
  2. 磁極を備えたローターマグネット、前記マグネットの磁極位置を検知するための位置検知手段、軟磁性素材から成り、複数のティースと前記磁極に対向するティップを有するとともに、前記テイースに励磁巻線を備えたステータ、および前記巻線に通電するためのドライブ回路を有する磁石モータにおいて、
    前記ステータは、一方向性磁化容易軸を有する軟磁性素材を複数のティースが分割されることなく打ち抜いて得られたラミネーションコアを複数枚積層して構成され、前記ステータティップが前記ローターマグネットに対向する円周端面には切り欠き部分がなく、前記マグネットの内周面との間に形成されるギャップ長が回転方向全周にわたって実質上一定に保たれるとともに、前記各ティースの中心軸と軟磁性素材の磁化容易軸がなす角度をティース毎に相違させ、各ティースの磁束密度を相違ならしめるとともに、前記巻線の通電によって前記磁束密度の相違を助長せしめることにより、前記ローターマグネットの回転方向の偏角を増倍して前記位置検知手段への鎖交磁束を高め、その検知出力をもって前記巻線への通電を切換え、前記磁極と前記ティップの間に発生する磁力により前記ローターを回動せしめることを特徴とする磁石モータ。
  3. 前記マグネットの極数と前記ティースの総数は2の倍数かつ同数に設定され、前記巻線は、円周方向に順次に配列される前記の各ティースに対して、隣接するティースの極性が交互に異極性となるように巻回され、前記ドライブ回路によって通電され、前記ティースを交互もしくは全て同時に励磁することを特徴とする請求項1または2項の磁石モータ。
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