JP3711258B2 - 固体無機材料の評価方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体無機材料の評価方法に関する。具体的には、酸素化合物の評価方法に関する。更に詳しくは、核磁気共鳴(以下、NMRと略称する)法を用いた、酸素核と酸素核以外の核磁気共鳴測定対象核の結合連鎖を決定し、酸素含有材料中の酸素化合物の化学構造や存在比を推定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸素が構造の中心を担う酸素化合物を含む酸素含有材料は、石炭、スラグ、耐火物などの製鉄業での原材料や、ゼオライトを始めとした触媒等、広範囲に用いられている。これら酸素含有材料中の酸素原子の配位数や、他原子との結合連鎖を決定し、酸素含有材料中の酸素化合物の化学構造や存在比を推定することは酸素含有材料の有効利用の点から重要であり、特に製鉄業においては、石炭の有効利用やスラグの効率的なリサイクルを推進する上で極めて重要である。例えば、スラグに関しては、酸素を中心とした3次元的な化学構造を明らかにすることにより、粘度等の物理的性質を精度良く予測できる可能性があり、高効率の転炉操業が達成されることが期待される。
【0003】
固体無機材料中の酸素化合物の化学構造を推定する従来の方法としては、X線回折法(以下、XRDと略称する)、X線光電子分光法(以下、XPSと略称する)等を用いた方法が挙げられる。XRDは表層部及び内部の構造情報を得ることができるが、結晶格子からの回折像を測定する方法であるため、結晶性が高く、長周期的な構造を持つ物質の解析に対しては有効な手法であるが、非晶質系の材料に対してはピークが極端に広幅化してしまうため、解析は非常に困難になる。さらに、XRDは特定元素の情報を得ることができないため、酸素化合物の同定を行う際に、他の元素に由来するピークと重なり合い、同定が困難になる場合もある。また、XPSは検出深さが数10Å程度であるため、表層部から内部にわたる全体の酸素構造を解析することは不可能である。
【0004】
一方、NMR法は特定元素の表層部から内部にわたる全体の化学構造やその存在比を推定できる分析法として広く利用されている。しかしながら、酸素原子のNMR測定対象核である17O核は核スピンI=5/2であり、四極子モーメントを有するため、化学シフト異方性、双極子−双極子相互作用のほかに、核周囲の電場勾配との間に核四極子相互作用が働くため、従来の低速マジック角回転(Magic Angle Spinning、以下、MASと略称する)法(回転数6kHz程度)ではこれらの異方的相互作用を消去、低減することができず、ピークが分裂及び極端に広幅化し、スペクトル解析が困難であった。
【0005】
しかし、最近ではこれまで種々の異方的相互作用により十分な分解能が得られなかった固体無機材料のNMR測定も、近年のパルスシーケンスおよび装置の改良に伴い、固体高分解能NMRとして広く応用されつつある。
【0006】
固体無機材料のNMR測定法として、最も広く知られている手法の一つに交差分極/マジック角回転(Cross Polarization/Magic Angle Spinning、以下CP/MASと略称する)法が挙げられる。CP/MAS法とは、静磁場に対して54.7°をなす角(マジック角)の周りで試料を回転させ、化学シフト異方性及び双極子−双極子相互作用を消去、低減できるMAS法に、双極子−双極子相互作用を利用して異種核間の交差分極を起こさせる手法(CP)を組み合わせた方法であり、主に天然存在比の少ない核のNMR測定における感度上昇法ならびにスピン−格子緩和時間(以下、T1と略称する)が長く、測定に長時間を要する核に対する積算効率向上法として用いられている。特に1H核から13C核への磁化移動を観測するCP/MAS法(便宜上、1H→13C CP/MAS法と表記)は、有機化合物中の炭素原子の解析に広く用いられている。その理由として、1H核のような高感度核から13C核のような低感度核への磁化移動によって、低感度核のNMR測定感度を向上させることが可能となることと、パルスを照射する繰り返し時間をT1の短い1H核に合わせることができるため、著しい積算の効率化を図ることができることが挙げられる。特開平9−133644号公報には、1H→13C CP/MAS法により、石炭中の全有機酸素量を定量する方法が示されている。
【0007】
多量子遷移を利用することによって、通常のMASプローブでI=1/2以外の半整数スピン核に対して高分解能スペクトルを得ることのできる多量子マジック角回転(Multiple Quantum Magic Angle Spinning、以下MQMASと略称する)法とCP/MAS法を組み合わせたCP/MQMAS法はPruskiらによって開発され、フッ素化されたAlPO4を用いて19F→27Al CP/MQMASスペクトルを測定した実例が報告されている(Solid State Nuclear Magnetic Resonance,7(1997)327)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
CP/MAS法及びCP/MQMAS法は一般的に高感度核から低感度核への双極子−双極子相互作用を通じた磁化移動を利用した測定手法であり、磁化移動効率はCP対象核の核間距離に依存する。即ち、磁化の移動元の核と移動先の核が直接結合あるいは一つの原子を介して存在しているような近距離に存在する場合には磁化移動は高効率で達成されるが、2核が遠距離に存在する場合には磁化移動効率は低下する。このような特徴を有することから、CP/MAS法及びCP/MQMAS法は異なる元素間の結合状態を知る方法としても好ましいものである。CP/MAS法により酸素化合物中の酸素原子と他原子との結合状態を評価する場合において、酸素原子由来のCP/MASスペクトルを得る際、磁化の移動元の核(酸素以外のNMR測定対象核であり、便宜上、X核と呼ぶ)と移動先の核(酸素核)が直接結合あるいは一つの原子を介して存在しているような近距離に存在する場合には、2核間の双極子−双極子相互作用は比較的強いため、2核間の磁化移動は高効率で達成される。一方、X核と酸素核が遠距離に存在する場合には、2核間の双極子−双極子相互作用は非常に弱いか存在しないため、2核間の磁化移動効率は大きく低下する。このような試料においてX→17O CP/MASスペクトルを測定した場合には、X核から酸素核への磁化移動が高効率で行われたX核から近距離に存在する酸素化学種のピークのみが観測され、X核から遠距離に存在する酸素化学種由来のピークは観測されないことから、X核から近距離にある酸素原子と、X核から遠距離に位置する酸素原子を区別することが可能となる。
【0009】
また、酸素原子の核四極子相互作用が大きく、静磁場中でのエネルギー分裂幅に対応するゼーマン相互作用に対して無視できなくなる、すなわち、酸素の核四極子相互作用がゼーマン相互作用に対して二次の摂動として表される試料においては、CP/MAS法では核四極子相互作用の影響によってピークが広幅化し、解析が困難となる場合があるが、CP/MQMAS法を用いることによって、核四極子相互作用が消去された高分解能スペクトルを得ることが可能となる。Journal of American Chemical Society,119(1997)6858には、1H→27Al CP/MQMAS法によって、ゼオライトAlPO4−11と水分子との結合力の程度(分子間距離)を評価した例が報告されている。
【0010】
しかしながら、測定対象試料が多元素系から成り、無秩序な構造を持つなどの複雑な構造を持つ場合には、磁化の移動元の核から酸素核(移動先)への磁化移動を測定するX→17O CP/MAS或いはX→17O CP/MQMASスペクトル測定だけでは、酸素含有材料中の酸素原子と他原子との結合連鎖を決定する上で、構造情報量が不充分であり、結合連鎖を推定できない場合があった。X→17O CP/MAS或いはX→17O CP/MQMASスペクトル測定では、X原子と結合した酸素原子と、X原子と結合していない酸素原子を区別することは可能である。しかしながら、この手法からは酸素原子と結合したX原子と、酸素原子と結合していないX原子を区別することはできないため、酸素含有材料中の分子の繋がりを詳細に決定することは不可能である。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、製鉄業での原材料やゼオライトなどの触媒等、広範囲に用いられている酸素含有材料の酸素化合物における、酸素原子と酸素原子以外のNMR測定対象核の結合連鎖を精度良く決定し、酸素化合物の化学構造や存在比を明確化する方法を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討を行った結果、CP/MAS法あるいはCP/MQMAS法において、磁化の移動元の核(X核)と移動先の核(酸素核)を入れ替えた交差分極を合わせて実施することによって、酸素原子周辺の結合連鎖を更に明確にできることを見い出した。すなわち、17O→X CP/MAS法(X核がI=1/2である核、または一次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)或いは17O→X CP/MQMAS法(X核が二次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)による測定を行い、X核から見た酸素核との結合連鎖の情報と、X→17O CP/MAS(酸素核が一次の核四極子相互作用を受けている場合)或いはX→17O CP/MQMAS(酸素核が二次の核四極子相互作用を受けている場合)スペクトルから得た酸素核から見たX核との結合連鎖の情報を合わせて考慮することにより、酸素核ならびに酸素核周辺構造を更に明確にすることができることを見い出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は上記目的を達成するために以下のような手段を用いる。
【0013】
(1)固体無機材料を8kHz以上の速度で回転させながら、固体無機材料中の核磁気共鳴測定対象とする2元素間において相互の磁化移動スペクトルを測定し、得られた核磁気共鳴スペクトルから該2元素間の結合連鎖を決定し、前記固体無機材料の化学構造や存在比を推定することを特徴とする固体無機材料の評価方法。
(2)前記固体無機材料は酸素化合物であり、酸素核と酸素核以外の核磁気共鳴測定対象核との相互の磁化移動スペクトルを測定することを特徴とする前記(1)記載の固体無機材料の評価方法。
(3)前記核磁気共鳴測定に用いる手法は、交差分極/マジック角回転(CP/MAS)法又は交差分極/多量子マジック角回転(CP/MQMAS)法である前記(1)又は(2)記載の固体無機材料の評価方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、酸素核以外のNMR対象核と17O核との交差分極を利用して2元素間の結合連鎖を決定し、酸素原子周辺の構造を評価する方法であり、対象となる酸化物材料に特に制限はない。
【0015】
X→17O CP/MAS(酸素核が一次の核四極子相互作用を受けている場合)或いはX→17O CP/MQMAS(酸素核が二次の核四極子相互作用を受けている場合)スペクトルと、17O−MAS(酸素核が一次の核四極子相互作用を受けている場合)或いは17O−MQMAS(酸素核が二次の核四極子相互作用を受けている場合)スペクトルを比較することにより、X原子と結合した酸素原子と、X原子と結合していない酸素原子を区別することができる。
【0016】
また、17O→X CP/MAS(X核がI=1/2である核、または一次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)或いは17O→X CP/MQMAS法(X核が二次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)と、X−MAS(X核がI=1/2である核、または一次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)或いはX−MQMAS(X核が二次の核四極子相互作用を受けている半整数スピン核)スペクトルを比較することにより、酸素原子と結合したX原子と、酸素原子と結合していないX原子を区別することができるようになり、酸素含有材料中の分子の繋がりを詳細に決定することが可能となる。
【0017】
酸素核から他核への磁化移動の測定については、一般に17O核の天然存在比が非常に少ないため、感度が非常に悪くなってしまうという欠点があることから、測定試料中の17Oを同位体濃縮し、測定感度を上昇させることが望ましい。
【0018】
CP/MAS法、CP/MQMAS法のいずれの方法も、磁化移動の対象となる元素は酸素原子および酸素原子以外のNMR対象元素である。酸素原子以外のNMR対象元素としては、例えば水素原子、フッ素原子、リン原子、ケイ素原子、金属原子(アルミニウム原子等)などが挙げられるが、核スピンを持つNMR測定対象元素であれば特に制限はない。
【0019】
CP/MAS法およびCP/MQMAS法においては、試料回転速度の上昇に従い化学シフト異方性および双極子−双極子相互作用に起因する線幅の広がりやスピニングサイドバンド(Spinning Side Bands、以下SSBと略称する)強度が低減するため、できる限り試料回転速度を上げることが望ましいが、汎用されている直径4mmのNMR試料管を用いた場合、現状では17kHz程度の回転数が限界である。試料回転速度が8kHz未満の場合では、17O核の化学シフト異方性及び双極子−双極子相互作用が残存して、主値ピークが広幅化し、混在する酸素原子ピークを分離することができない上、主値ピークからSSBを分離できず、精度の良い酸素化合物の評価が困難となる。従って、少なくとも8kHz以上、好ましくは15kHz以上の回転速度であることが望ましい。
【0020】
CP/MAS法においては、(1)式に示す以下の条件式に従って照射核および観測核のパルス条件を設定することにより、交差分極効率の良いCP/MASスペクトルが得られる。CPを行っている時間(コンタクト時間)は、ピークの強度が最大となるような時間を選べば良い。
(I+1/2)ν1I=(S+1/2)ν1S±nνr (1)
式中のI、ν1I、S、ν1S、n、νrは、各々次の値を示す。
I : I核(照射核)の核スピン
ν1I : I核(照射核)のrfパルス強度
S : S核(観測核)の核スピン
ν1S : S核(観測核)のrfパルス強度
n : 任意の整数
νr : 試料回転周波数
【0021】
17O→X CP/MAS或いは17O→X CP/MQMASスペクトル測定において、X核の核スピンが1/2以外の半整数スピン核であり、核四極子相互作用がゼーマン相互作用に対して二次の摂動で表される場合には、CP/MQMAS法によって高分解能スペクトルが得られる。また、X核の核スピンが1/2の場合、あるいは1/2以外の半整数スピン核であっても、核四極子相互作用がゼーマン相互作用に対して一次の摂動である場合には、CP/MAS法により高分解能スペクトルが得られる。
【0022】
CP/MQMAS法におけるコヒーレンス経路の方法は二種類ある。一つは、CPで照射核の磁化を観測核に移した後、MQMASによって多量子励起するという方法であり、もう一つは最初から多量子励起状態で磁化移動を行う方法であり、どちらの方法を用いても良い。また、CP/MQMAS法の場合には、多量子励起パルス幅が通常のMQMAS法測定時のパルス幅の約1/3となる。
【0023】
CP/MQMASパルスシーケンスの後半部分、すなわちMQMAS部分で用いられるパルスシーケンスは、現在までに数種のパルスシーケンスが提案されており、代表的なものとしては、2パルスシーケンス及びz−filter付3パルスシーケンス等がある。2パルスシーケンスにおいては、第1パルスで磁化を多量子励起させ、第2パルスで1量子変換を行い、等方エコー信号を観測するという単純なシーケンスであり、MQMASパルスシーケンスの中では、測定パラメータの調整が最も容易であるが、コヒーレンスの非対称性に起因するアーティファクトが出現し、スペクトル解析を困難にする場合がある。これに対し、z−filter付3パルスシーケンスの場合は、第1パルスで磁化を多量子励起させ、第2パルスでは0量子に変換し、第3パルスで観測可能な1量子変換を行うシーケンスのため、エコーとアンチエコーのコヒーレンス経路が対称となり、アーティファクトの影響のない良好なスペクトルを得ることが可能となるため、z−filter付3パルスシーケンスを使用することが望ましい。第1パルス及び第2パルスは、固体の90°パルス幅が4μs未満、好ましくは2μs未満になるような強いラジオ波を照射する必要がある。固体の90°パルス幅が4μs以上となる場合には、第1パルスにおける多量子遷移への励起が効率良く行われないため、核四極子相互作用が完全に消去されないという問題が生じる。第3番目の1量子変換パルス強度に関しては、強度の強いパルスを用いる必要はなく、固体の90°パルス幅が5〜20μs程度になるようなパルス強度を用いることが望ましい。各パルス幅については、得られるMQMASのシグナル強度が最大になるように順次調節すれば良い。
【0024】
【実施例】
以下に本発明の内容を具体的に説明するための実施例を示す。
評価する酸化物材料として、17Oを同位体濃縮(15%)したアモルファス性リン酸アルミニウムを用いた。この粉末試料を直径4mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、500MHz固体専用NMR装置にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)で14kHzの高速で回転させた。17O共鳴周波数は67.77MHz、測定にはシングルパルス法を用いた。17O−NMR化学シフトの基準として、純水のピークを0ppmとした。
【0025】
上記条件下で、17O−高速MAS NMRスペクトルを測定したところ、図1に示すような、ピークトップが42.7ppmの位置にあり、12.3ppmにピークの肩を持ち、かつSSBと完全に区別可能なピークが存在するスペクトルが得られた。このスペクトルは試料中の全ての酸素構造を反映したスペクトルであるが、二次の核四極子相互作用の影響によって、シフトのずれやピークの広幅化が起こっている可能性があるため、この結果からだけでは2種類の酸素構造が存在しているかどうかは不明である。
【0026】
そこで次に、17O−MQMASスペクトル測定を行った。17O核はI=5/2であり、核四極子相互作用を有するため、MQMAS法で核四極子相互作用を平均化することによって、正確な化学構造を知ることができる。試料回転速度は12.5 kHzとし、パルスシーケンスはz−filter付3パルスシーケンスを使用した。第1パルス幅、第2パルス幅及び第3パルス幅をそれぞれ4.2μs、1.4μs、14μsに設定することにより、シグナル強度が最大となり、図2に示すような感度の良いMQMASスペクトルが得られた。図2のMQMASスペクトルにおいて、核四極子相互作用が平均化された線形を示す縦軸(Isotropic shift)方向の投影スペクトルは、従来法(MAS法)の線形を示す横軸(MAS shift)方向の投影スペクトルと比較して、線幅の大幅な減少が見られ、高分解能化していることが確認された。クロスピークは2つのピークトップ(図2中の▲1▼と▲2▼)を示していることから、主に2種類の酸素化学構造が存在していることがMQMASの結果から明らかとなった。MQMASスペクトルの縦(F1)軸の等方シフト値及び横(F2)軸のMAS軸の重心値を用いて、それぞれのピークの真の化学シフト値Δσ及び核四極子相互作用の大きさを表す四極子結合定数CQを求めたところ、ピーク▲1▼はΔσ=60.7ppm、CQ=6.7MHzであり、ピーク▲2▼はΔσ=77.2ppm、CQ=6.4MHzであった。また、ピーク▲1▼は図1のMASスペクトルの12.3ppmをピークトップとする低周波数側ピークに、ピーク▲2▼は42.7ppmをピークトップとする高周波数側ピークに相当していることから、図1で示されたMASスペクトル上の2つのピークは、二次の核四極子相互作用によって広幅化、シフトのずれが生じているものの、MQMASで明らかとなった2つの化学構造を反映している。
【0027】
次に、リンと結合した酸素の化学構造を特定するために、31P核から17O核への交差分極を伴ったCP/MAS(便宜上、31P→17O CP/MASと表記する)スペクトル測定を実施した。31P共鳴周波数は202.48MHz、17O共鳴周波数は67.79MHzであった。31Pのスピン−格子緩和時間T1Pを測定したところ、12sであったため、CP/MASスペクトル測定時のパルス繰り返し時間を5T1P時間(60s)とした。31P核、17O核にそれぞれ照射するパルス強度は、前記(1)式の条件を満たすように設定した。
【0028】
上記条件下で、31P→17O CP/MASスペクトルを測定したところ、図3に示すように、12.3ppmの位置にシグナルが観測された。このピークは図1に示された高速MASスペクトルの低周波数(高磁場)側に観測された肩の部分に対応していたことから、該試料中の酸素構造として、図3で観測されている12.3ppmをピークトップとする低周波数側ピークに対応する酸素と、図3では観測されないが、図1で観測されている42.7ppmをピークトップとする高周波数側ピークに対応する酸素に大きく分類されることがわかる。前者は直接リンと結合している架橋酸素(P―O―Al或いはP―O―P)或いは末端PO4中の酸素(P―O)を示しており、後者は末端AlO4中の酸素(Al―O)或いはリンと結合していない架橋酸素(Al―O―Al)を示しているものと推定される。
【0029】
更に、リン原子から見た酸素原子との結合連鎖に関する構造情報を得るために、17O→31P CP/MASスペクトル測定を行った。31P核はI=1/2であるため、CP/MAS法によって高分解能スペクトルを得ることができる。17O共鳴周波数は67.79MHz、31P共鳴周波数は202.48MHzであった。CP/MASスペクトル測定時のパルス繰り返し時間は5T1時間(0.4s)とした。17O核、31P核にそれぞれ照射するパルス強度は、前記(1)式の条件を満たすように設定した。また、31P化学シフトの基準として、(NH42HPO4のピークを1.33ppmとした。
【0030】
上記条件下で、17O→31P CP/MASスペクトルを測定したところ、図4に示すように、−14.5ppm、−22.8ppm、−29.7ppmに3つのピークトップを示すシグナルが観測された。この結果から、該試料中の酸素原子近傍には、大きく分けて3種類の化学構造のリンが存在していることが分かる。リン酸塩の31P−NMRスペクトルを測定した場合に、PO4の縮重度Qnの違いによって化学シフトが変化し、nが大きいほど低周波数(高磁場)側に化学シフト値がずれる傾向があることが知られており、今回の3つのピークトップは、高周波数(低磁場)側からQ2(シクロ、イノ)、Q3(フィロ)及びQ4(テクト)の縮重度の異なる3種類のリンに対応していると考えられる(図5中の数字付き白抜き丸印)。
【0031】
また、CP/MASスペクトルでは、一般にシングルパルス法によって測定されたスペクトルほどの厳密な定量性は議論できないが、大まかな整数比程度の定量性を議論することは可能であるため、図4に示されたそれぞれのピークの積分比を波形分離(Gaussian型でフィッティング)し、各成分の存在比を調べたところ、3種のリン化学構造は高周波数(低磁場)側ピークから順に約1:3:2の割合で存在していることが分かった。
【0032】
以上のように、31P→17O CP/MAS測定から得られる構造情報と、17O→31P CP/MASから得られる構造情報を合わせることによって、酸素原子とリン原子の結合連鎖を詳細に決定することができる。
【0033】
続いて、酸素とアルミニウムの結合連鎖を決定するために、上記と同様の実験を行った(これ以後の各種NMRスペクトルの表示は省略する)。27Al−MQMASスペクトルは55.2ppmに1つのピークトップを示したことから、該試料中のAlは4配位として存在していることが分かった。
【0034】
また、アルミニウムと結合した酸素の化学構造を特定するために、27Al→17O CP/MAS測定を実施したところ、図1で示された17O−MASスペクトルと同様に、ピークトップが42.7ppmにあり、12.3ppmにピークの肩を持つようなスペクトルが得られた。42.7ppmのピークはAl―O―Al或いはAl―O由来の酸素(図5中の白抜き四角菱形)である。また、図1と比較して、12.3ppmのピークの積分比が約2分の1になっていたことから、12.3ppmのピークに相当する酸素構造のうち、P―O―Alの架橋酸素(図5中の白抜き丸印)とP―O―Pの架橋酸素或いはP―Oの末端酸素(図5中の黒丸印)の存在比は約1:1であることが明らかとなった。
【0035】
更に、17O→27Al CP/MASスペクトルを測定したところ、51.8ppm、54.3ppm及び60.4ppmにピークトップを示し、その積分比は約2:1:3であった。この結果から、該試料中の酸素原子近傍には、大きく分けて3種類の化学構造の4配位アルミニウムが存在しており、3つのピークトップは、低周波数(高磁場)側からQ4、Q3、Q2の縮重度の異なる3種類のアルミニウムに対応しているものと推定した(図5中の数字付き白抜き丸点線印)。
【0036】
また、PO4ユニットとAlO4ユニットの結合連鎖を明らかにするために、P―Al間での相互のCP/MASスペクトルの測定を行った。27Al→31P CP/MASスペクトルでは、PO4四面体のQ3、Q4に対応するピークが観測され、Q2に対応するピークは観測されなかった。
【0037】
続いて、31P→27Al CP/MASスペクトルを測定したところ、AlO4四面体のQ2、Q3、Q4に対応するピークが観測されたが、Q2のピーク積分強度は、17O→27Al CP/MASスペクトルにおけるQ2のピーク積分強度に比べて、約3分の2となっていた。
以上の全ての実験結果をふまえると、該試料の化学構造は図5のように推定された。
【0038】
【発明の効果】
本発明は、CP/MAS法又はCP/MQMAS法を用いて、固体無機材料を評価する方法に関するものであり、具体的には17O核以外の核磁気共鳴測定対象核から17O核への磁化移動と、17O核から17O核以外の核磁気共鳴測定対象核への磁化移動の両方を測定することにより、酸素原子と他原子の結合連鎖を明らかにし、酸素含有材料中の酸素化合物の化学構造や存在比を精度良く評価できる方法であるため、酸素含有材料を多量に扱う製鉄業や化学工業分野における分析技術の向上に大きく寄与するものである。特に製鉄業においては、従来組成のみで議論されてきたスラグ粘度等の特性推定を、酸素を中心としたスラグの3次元的な化学構造を明らかにすることにより、スラグ粘度等の物理的性質を精度良く予測できる可能性があり、高効率の転炉操業が達成されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における、17Oを同位体濃縮したアモルファス性リン酸アルミニウムの17O−高速MASスペクトルを示したものである。
【図2】本発明の実施例における、17Oを同位体濃縮したアモルファス性リン酸アルミニウムの17O−MQMASスペクトルを示したものである。
【図3】本発明の実施例における、17Oを同位体濃縮したアモルファス性リン酸アルミニウムの31P→17O CP/MASスペクトルを示したものである。
【図4】本発明の実施例における、17Oを同位体濃縮したアモルファス性リン酸アルミニウムの17O→31P CP/MASスペクトルを示したものである。
【図5】本発明の実施例の実験結果から推定された、17Oを同位体濃縮したアモルファス性リン酸アルミニウムの化学構造モデルを示したものである。

Claims (3)

  1. 固体無機材料を8kHz以上の速度で回転させながら、固体無機材料中の核磁気共鳴測定対象とする2元素間において相互の磁化移動スペクトルを測定し、得られた核磁気共鳴スペクトルから該2元素間の結合連鎖を決定し、前記固体無機材料の化学構造や存在比を推定することを特徴とする固体無機材料の評価方法。
  2. 前記固体無機材料は酸素化合物であり、酸素核と酸素核以外の核磁気共鳴測定対象核との相互の磁化移動スペクトルを測定することを特徴とする請求項1記載の固体無機材料の評価方法。
  3. 前記核磁気共鳴測定に用いる手法は、交差分極/マジック角回転(CP/MAS)法又は交差分極/多量子マジック角回転(CP/MQMAS)法である請求項1又は請求項2記載の固体無機材料の評価方法。
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