JP3710568B2 - 往復動流体機械 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、給油式あるいは無給油式の往復動流体機械に関し、特に低騒音性と、樹脂製ピストンの耐摩耗性を向上させた往復動流体機械に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、往復圧縮機や往復膨張機などの往復動流体機械におけるシリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンとの潤滑な摺動性を確保するために、ピストンの構造や材質について、種々の工夫がなされてきた。
以下無給油式往復圧縮機を例として説明する。
図2は無給油式往復圧縮機の一例を示したもので、図3はこの無給油式往復圧縮機のシリンダ内に配された金属製のピストンの構造の例を示したものである。この往復圧縮機は、駆動源であるモータ1と、このモータ1によって駆動され、外部から取り入れた空気を圧縮する圧縮部2と、この圧縮部2において圧縮された空気を貯蔵するタンク3とから概略構成されている。
【0003】
前記圧縮部2は複数個の円筒状のシリンダ4を有している。このシリンダ4は、アルミ合金、鉄の鋳物などからなる金属製であるが、最近では軽量化のためにアルミ合金を用いるのが主流である。
このシリンダ4内には、図3に示されるように、それぞれピストン10が摺動自在に挿入されており、これらシリンダ4とピストン10によって圧縮室6が形成されている。
【0004】
このピストン10の特徴は、上部ピストン部材11側面のシリンダ4との接触部のカジリを防止するために、樹脂からなるライダーリング14が設けられている点である。
【0005】
このピストン10は、その先端部を構成する上部ピストン部材11と、クランクシャフト(図示せず)の駆動力を伝達する連接棒15と、この上部ピストン部材11と連接棒15を支持するピストンピン13によって概略構成されている。
前記連接棒15は、そのピストンピン13との接触部にグリスなどの潤滑剤が塗布されており、揺動自在にこのピストンピン13によって支持されている。そして、往復圧縮機運転時には、前記クランシャフトの駆動によって連接棒15が軸方向上下に連続的に移動するのに伴い、この連接棒15とピストンピン13を介して連結されている上部ピストン部材11が上下に移動し、圧縮室6内部の空気が圧縮されるようになっている。
【0006】
一方、上部ピストン部材11外周のシリンダ4側壁との接触面においては、圧縮室6側にピストンリング12が設けられ、その連接棒15側にはライダーリング14が設けられ、これらは、いずれもテフロンなどの自己潤滑性材料から形成されている。
前記ピストンリング12は、ピストン10とシリンダ4との間のシール性を保つものである。
前記ライダーリング14は、往復圧縮機稼働中に、共に金属製のシリンダ4と上部ピストン部材11とが直接接触してこれらが摩耗し、カジリが発生するのを防ぐ役割をするものである。
【0007】
ところで、給油式の往復圧縮機において用いられるピストンの構造も上述の無給油式の場合とほぼ同様とされるが、給油式の場合は、上部ピストン部材11が金属製であっても油によってそのシリンダ4との接触面の潤滑性が維持されるので、ライダーリング14は不要とされる。
【0008】
図1は、無給油式往復圧縮機に用いられるピストンの構造の他の例を示したもので、このピストン20が上述のピストン10と異なるところは、上部ピストン部材21が樹脂から形成され、このためこの上部ピストン部材21と金属製シリンダ4との接触によるカジリが発生しないので、無給油式であってもライダーリングが設けられていない点である。
このように上部ピストン部材21を樹脂から構成したものとしては、熱硬化性縮合多環多核芳香族樹脂(略称:COPNA樹脂)を用いたものが知られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図3に示される金属製の上部ピストン部材11を用いたものにおいては、ピストンリング12とライダーリング14が摩耗した場合に、上部ピストン部材11とシリンダ4を構成する金属材料どうしの接触によって騒音が大きくなったり、上部ピストン部材11やシリンダ4にカジリが発生することがあった。
また、上部ピストン部材11の熱伝導性が高いために、無給油式往復圧縮機の断続運転によるシリンダ4と上部ピストン部材11との接触面の摩擦によって発生する熱が、上部ピストン部材11を介してピストンピン13に伝わりやすく、このピストンピン13と連接棒15との接触部の潤滑を保つグリスなどが熱劣化するという問題があった。
【0010】
また、図1に示される従来の樹脂製の上部ピストン部材21を用いたものにおいては、上述の金属材料どうしの接触による騒音の発生は解決できるが、シリンダ4を形成する金属材料と、上部ピストン部材21を構成する樹脂材料との熱膨張差が大きいという問題があった。
【0011】
すなわち、往復圧縮機運転開始時は室温であるが、断続運転によってシリンダ4の温度と上部ピストン部材21の温度が上昇する。
すると、樹脂からなる上部ピストン部材21がシリンダ4と比較して大きく膨張するため、このシリンダ4とこのピストンリング12との接触圧が大きくなり、ピストンリング12が摩耗する。そして、これらシリンダ4と上部ピストン部材21との間のクリアランスが大きくなり、ピストン20に首振りが生じ、シリンダ4壁面に衝突し、騒音が発生するとともにさらに上部ピストン部材21の摩耗が進行する。
このため、温度上昇時の熱膨張に備えてピストンリング12とシリンダ4との間のクリアランスを予め大きくとって設計すると、ピストンリング12によるシール性が保てなくなったり、また、運転開始時にピストン20の首振りが生じることがある。
【0012】
これらの問題は、動力機関などとして用いられるシリンダとこのシリンダ内を摺動するピストンからなる往復膨張機においても同様で、シリンダと上部ピストン部材との接触による騒音や、上部ピストン部材の摩耗を低減した往復膨張機が求められている。
【0013】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、ピストンに起因する騒音を低減し、かつ連続稼働において上部ピストン部材が摩耗しにくい往復動流体機械を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、シリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンを有する往復動流体機械において、このピストン先端部を構成する上部ピストン部材を、熱硬化性フェノール樹脂に充填材が配合され、その熱膨張係数がシリンダ構成材料の熱膨張係数と同等以下とされている熱硬化性フェノール樹脂複合材から形成することを前記課題の解決手段とした。
また、前記熱硬化性フェノール樹脂複合材を構成する熱硬化フェノール樹脂として、ゴム状弾性材料で変性した熱硬化性フェノール樹脂、またはゴム状弾性材料を複合した熱硬化性フェノール樹脂を用いると、さらに騒音を低減することができ、好ましい。
【0015】
さらに、前記充填材の全部または一部を旧モース硬さが2〜4の強化繊維とすることによって、上述の上部ピストン部材の耐久性を向上させることができる。
この強化繊維の配合量を5〜50重量%とすると、必要な耐久性向上効果が得られ、かつ熱硬化性フェノール樹脂複合材の成形性が良好で好ましい。
また、この強化繊維としてはチタン酸カリウム繊維が好適である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の往復圧縮機におけるピストンは、例えば、図1に示されるものと同様の構造とすることができる。
以下図1を利用して説明する。
本発明における特徴は、上部ピストン部材21の材料として熱硬化性フェノール樹脂複合材(以下フェノール樹脂複合材と略記する)を用いている点である。
【0017】
上述のフェノール樹脂複合材として、本発明においては3種類のものを用いている。
第一のフェノール樹脂複合材は、フェノール樹脂に、このフェノール樹脂よりも熱膨張係数が小さい充填材を配合してその熱膨張係数を低下させ、このフェノール樹脂複合材の熱膨張係数を、シリンダ4構成材料の熱膨張係数と同等以下に調整したものである。
フェノール樹脂を用いるのは、フェノール樹脂が機械特性、耐熱性に優れるためである。
また、フェノール樹脂であれば特に限定せず、一般に用いられているものを使用でき、COPNA樹脂などの特殊なものと比較して経済的である。
【0018】
一方、前記シリンダ4は、アルミ合金、鉄の鋳物などからなる金属製であるが、最近では軽量化のために陽極酸化処理を施したアルミ合金製のものを用いるのが主流である。
通常用いられるこのアルミ合金の熱膨張係数は2.3×10-5(/℃)程度である。
シリンダ4がアルミ合金製である場合、第一のフェノール樹脂複合材の熱膨張係数は、アルミ合金の熱膨張係数と同等以下、すなわち1.5×10ー5〜2.5×10ー5(/℃)とされる。
【0019】
フェノール樹脂よりも熱膨張係数の小さい充填材としては、例えば、鉄、チタン酸カリウム、雲母、黒鉛、モリブデンなどからなる繊維状や粉末状のものが用いられる。
この充填材の配合量は、フェノール樹脂、充填材の種類などによって変化するが50重量%以下、より好ましくは40重量%以下とされる。50重量%を越えるとフェノール樹脂による接着力が低下して成形性が低下するため好ましくない。
【0020】
上述の熱膨張係数の条件を満足するように、充填材の種類と配合量を決定するが、ここで、フェノール樹脂の配合量Va(体積%)、フェノール樹脂の熱膨張係数A、充填材の配合量Vb(体積%)、充填材の熱膨張係数Bとすると、フェノール樹脂複合材の熱膨係数Dは、以下の式Iで表される。
D=(A×Va+B×Vb)/100 ・・・(I)
充填材の配合方法は特に限定することはないが、ミキサーなどを用いた公知の方法によって配合することができる。
また、二硫化モリブデン、テフロン粉末、人造黒鉛などの無機潤滑材を添加して自己潤滑性を付与すると好ましい。この配合量は通常10〜40重量%とされる。
【0021】
このような第一のフェノール樹脂複合材から上部ピストン部材21を構成することによって、以下のような効果が得られる。
すなわち、樹脂製であるにも関わらず、温度上昇による上部ピストン部材21の寸法変化に起因する異常摩耗が生じにくい。
そして、異常摩耗によるピストン20の首振りが生じないため、騒音が抑制できる。
【0022】
このように樹脂製であって、かつ騒音が低減され、摩耗しにくいものとされているので、従来の金属製の上部ピストン部材を用いた場合と比較して、金属材料どうしの接触による騒音の発生はおこらず、無給油式往復圧縮機においても、ライダーリングを設ける必要がなく、コストが削減できる。
また、シリンダ4とこの上部ピストン部材21にカジリが発生しないという効果もある。
さらに、上部ピストン部材21の熱伝導度は金属よりも小さいので、ピストンピン23に熱が伝わりにくく、このピストンピン23の温度が上昇しにくい。したがって、ピストンピン23と連接棒15との接触面に塗布されているグリースなどの潤滑剤が劣化しにくいという効果も得られる。
【0023】
第二のフェノール樹脂複合材において、第一のフェノール樹脂複合材と異なるところは、フェノール樹脂複合材を構成する熱硬化フェノール樹脂として、ゴム状弾性材料で変性したフェノール樹脂、またはゴム状弾性材料を複合したフェノール樹脂が用いられている点である。
【0024】
ゴム状弾性材料とは、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴムなどのゴムや、熱可塑性エラストマーなどである。
ゴム状弾性材料で変性したフェノール樹脂(以下変性フェノール樹脂と呼ぶ)とは、フェノール樹脂合成時にゴム状弾性材料を配合して製造したものである。
また、ゴム状弾性材料を複合したフェノール樹脂(以下複合フェノール樹脂と呼ぶ)とは、フェノール樹脂合成後に未硬化のフェノール樹脂にゴム状弾性材料を混合したものである。
この変性フェノール樹脂および複合フェノール樹脂におけるゴム状弾性材料の配合量は、通常10〜30重量%とされる。
【0025】
このようにゴム状弾性材料を用いることによって、フェノール樹脂にゴム状弾性材料の特性が付与され、振動に対する減衰性が大きくなる。
すなわち、ゴム状弾性材料を用いない場合よりも動的曲げ損失などが増大し、振動が与えられた場合にこの振動が吸収されやすい性質、すなわち減衰性が大きい特性を有するようになり、衝撃が吸収されやすくなる。
【0026】
この変性フェノール樹脂または複合フェノール樹脂を用い、第一のフェノール樹脂複合材と同様にして充填材を配合し、シリンダ4構成材料とその熱膨張係数を同等以下とした第二のフェノール樹脂複合材から上部ピストン部材21を形成すると、第一のフェノール樹脂複合材から形成した場合の効果に加えて、さらにシリンダ4との接触、衝突による衝撃が吸収されやすくなり、騒音が低減され、上部ピストン部材21が摩耗しにくくなるという効果が得られる。
【0027】
第三のフェノール樹脂複合材は、第一のフェノール樹脂複合材または第二のフェノール樹脂複合材において、充填材の一部または全部を、旧モース硬さ(以下モース硬さと略記する)2〜4の強化繊維とし、より上部ピストン部材21の耐久性を高めたものである。
強化繊維を樹脂に配合してその強度を高めることは通常行われているが、この強化繊維が硬すぎるとシリンダ4を傷つけ、上部ピストン部材21自身も摩耗することになる。また、強化繊維が柔らかい場合には、上部ピストン部材21が摩耗し、必要な耐久性向上効果が得られない。
【0028】
ところで、最近シリンダ4構成材料として用いられているアルミ合金に陽酸化処理を施したものは、その硬度がビッカース硬さHV約400〜440であり、これをモース硬さに換算すると4.6〜4.8程度となる。
そこで、この点に着目し、このモース硬さを基準として、シリンダ4構成材料を傷つけず、適度な強度と耐久性を付与することができる強化繊維のモース硬さについて検討したところ、その範囲は2〜4が好ましいことがわかった。
このモース硬さが4を越えるとアルミ合金からなるシリンダ4を攻撃し、傷つける可能性があり、2未満であると上部ピストン部材21が摩耗しやすく、耐久性向上効果が得られない。
【0029】
モース硬さ2〜4の強化繊維としては、チタン酸カリウム繊維(モース硬さ:3)、銅繊維(モース硬さ:3)、ロックウール(モース硬さ:2.5〜3.5)、などがあげられるが、なかでもチタン酸カリウム繊維が分散性、耐食性にすぐれており、好適である。
強化繊維の配合量は、充填材とあわせて5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%とするが、少なくとも5重量%以上の強化繊維を配合しないと、強化繊維を配合しない場合と殆ど差がなく、十分な耐久性向上効果が得られない。
50重量%を越えると、フェノール樹脂による接着力が低下して成形性が低下し、好ましくない。
【0030】
第三のフェノール樹脂複合材の熱膨張係数は、強化繊維の熱膨張係数と配合量によっても変化するので、シリンダ4がアルミ合金製である場合には、アルミ合金の熱膨張係数と同等以下、すなわち1.5×10ー5〜2.5×10ー5(/℃)となるようにこれらを調整する必要がある。
すなわち、フェノール樹脂の配合量Va(体積%)、フェノール樹脂の熱膨張係数A、充填材の配合量Vb(体積%)、充填材の熱膨張係数B、強化繊維の配合量Vc(体積%)、強化繊維の熱膨張係数Cとすると、フェノール樹脂複合材の熱膨係数D’は、以下の式IIで表される。
D’=(A×Va+B×Vb+C×Vc)/100 ・・・(II)
強化繊維の配合方法は特に限定することはないが、充填材と同様に、ミキサーなどを用いた公知の方法によって配合することができる。
【0031】
第三のフェノール樹脂複合材からなる上部ピストン部材21においては、モース硬さ2〜4の強化繊維の配合により、シリンダ4を傷つけない適度な強度を上部ピストン部材21に付与することができ、低騒音性を維持しつつ、第一および第二のフェノール樹脂複合材を用いた場合よりもさらに耐久性を向上させ、長時間の断続運転にも耐えるものとすることができる。
【0032】
往復膨張機においても、シリンダとこのシリンダ内を摺動するピストンの作用は、上述の無給油式往復圧縮機の場合と同様であるので、往復膨張機に用いるピストンを構成する上部ピストン部材を上述の第一ないし第三のフェノール樹脂複合材から形成することによって同様の効果を得ることができ、上述の課題を解決することができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例を示して詳しく説明する。
(実施例1)
表1に示す組成に従い、上述の第一のフェノール樹脂複合材に係るもの(NO.1)およびゴム状弾性材料を用いた第二のフェノール樹脂複合材に係るもの(NO.2 , NO.3)を形成した。
また、比較として、アルミ合金(NO.4)、フェノール樹脂に充填材を配合してその熱膨張をアルミ合金の約2倍としたもの(NO.5)を表1に示した組成に従って形成した。
これらNO.1ないしNO.5の材料の熱膨張係数および動的曲げ損失は表1にあわせて記した。
この動的曲げ損失の数値が高いほど、振動に対する減衰性が大きく、振動を吸収しやすい性質をもつことを示している。
【0034】
これらNO.1ないしNO.5の材料からなる図1に示すような構造の上部ピストン部材21を有するピストン20(径82mm)を形成し、無給油式往復圧縮機にて、0.8MPaの断続負荷運転を行い、1000時間後の騒音、突出空気量の変化、ピストンピン23の温度を測定した。このときシリンダ4構成材料は、陽極酸化処理が施されたアルミ合金であって、その熱膨張係数は2.3×10-5(/℃)であった。
この実施例1の結果は表2に記した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表2の結果より、本発明に係るNO.1ないしNO.3においては、NO.4、NO.5と比べて騒音が小さいことがわかった。特にゴム状弾性材料の配合によって減衰性が高められている第二のフェノール樹脂複合材に係るNO.2とNO.3においては、より騒音低減効果が大きいことが確認された。
さらにこれらNO.1ないしNO.3においては、アルミ合金製であるNO.4のように、ピストンピン23が高温になったり、シリンダ4構成材料(陽極酸化処理を施したアルミ合金)にカジリが発生することがなく、また、アルミ合金の熱膨張係数の約2倍の熱膨張係数を有するNO.5のように、上部ピストン部材21の摩耗や、これに伴う空気量の低下も確認されず、従来より耐久性に優れたものであることがわかった。
【0038】
(実施例2)
強化繊維としてチタン酸カリウム繊維を用いて、上述の第三のフェノール樹脂複合材に係るもの(NO.1 , NO.2)を製造した。
また、比較のためのフェノール樹脂複合材として、チタン酸カリウム繊維の配合量が5%未満であるもの(NO.3)、チタン酸カリウム繊維と充填材の配合によってその熱膨張をアルミ合金の約2倍としたもの(NO.8)、チタン酸カリウム繊維以外の強化繊維を用い、熱膨張係数をアルミ合金同等以下としたもの(NO.4〜7)を製造した。
これらNO.1ないしNO.8のフェノール樹脂複合材の組成と熱膨張係数は、表3に示した。
また、これらフェノール樹脂複合材の熱膨張係数を表3にあわせて記した。
【0039】
これらNO.1ないしNO.8の材料からなる図1に示す構造の上部ピストン部材21を有するピストン20(径82mm)をそれぞれ形成し、無給油式往復圧縮機にて、0.8MPaの断続負荷運転を行い、実施例1よりも長時間の5000時間後の騒音、突出空気量の変化、上部ピストン部材21およびシリンダ4の摩耗量を測定した。
このときシリンダ4構成材料は、陽極酸化処理が施されたアルミ合金であって、その熱膨張係数は2.3×10-5(/℃)であった。
この実施例2の結果を表4に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表4より、本発明の第三のフェノール樹脂複合材に係るNO.1およびNO.2においては、5000時間という長時間の断続運転後であっても、騒音が小さく、上部ピストン部材21やシリンダ4の摩耗がほとんどみられず、非常に耐久性に優れていることか明らかになった。
これらNO.1およびNO.2に対し、NO.3はチタン酸カリウム繊維の配合量が少ないためやや耐久性に劣る結果となった。
【0043】
モース硬さが4を越える強化繊維を用いたNO.4ないしNO.7は、上部ピストン部材21やシリンダ4に異常な摩耗が認められた。
また、その熱膨張係数がアルカリ合金のほぼ2倍とされているNO.8においては、上部ピストン部材21の摩耗がみられ、断続運転に伴う温度上昇によって、上部ピストン部材21とシリンダ4との接触面圧が高くなり、上部ピストン部材21の摩耗が進行することが確認され、さらに騒音も大きくなることがわかった。したがって、熱膨張係数をアルミ合金と同等以下とするとともに、モース硬さ4以下の強化繊維を5重量%以上配合することによって、騒音低減効果を維持しつつ優れた耐久性向上効果が得られることが確認された。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の往復動流体機械においては、上部ピストン部材が、熱硬化性フェノール樹脂に充填材が配合され、その熱膨張係数がシリンダ構成材料の熱膨張係数と同等以下とされている熱硬化性フェノール樹脂複合材から形成されているので、樹脂製であるにも関わらず、運転時の温度上昇による寸法変化に起因する異常摩耗が生じにくく、耐久性に優れたものとすることができる。
そして、異常摩耗によるピストンの首振りが生じないため、騒音が抑制できる。
【0045】
このように樹脂製であって、かつ騒音が低減され、摩耗しにくいものとされているので、従来の金属製の上部ピストン部材を用いた場合と比較して、無給油式往復圧縮機においては、ピストンにライダーリングを設ける必要がなく、コストが削減できる。また、シリンダとのカジリが発生しないという効果もある。
【0046】
また、ゴム状弾性材料を用いて、前記熱硬化性フェノール樹脂複合材に減衰性を付与することによって、さらに騒音を低減できる。
【0047】
また、上述のフェノール樹脂複合材に配合する充填材の全部または一部を旧モース硬さ2〜4の強化繊維とすることによって、シリンダを攻撃せず、シリンダおよび上部ピストン部材を摩耗させずに、適度な強度を付与することができ、より耐久性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図2に示される無給油式往復圧縮機のシリンダ内に配された樹脂製の上部ピストン部材を用いたピストンの構造の例を示した断面図である。
【図2】 無給油式往復圧縮機の一例を示した図である。
【図3】 図2に示される無給油式往復圧縮機のシリンダ内に配された金属製の上部ピストン部材を用いたピストンの構造の例を示した断面図である。
【符号の説明】
20・・・ピストン
21・・・上部ピストン部材
Claims (5)
- シリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンを有する往復動流体機械であって、
このピストン先端部を構成する上部ピストン部材は、熱硬化性フェノール樹脂に充填材が配合され、その熱膨張係数がシリンダ構成材料の熱膨張係数と同等以下とされている熱硬化性フェノール樹脂複合材から形成されていることを特徴とする往復動流体機械。 - 請求項1記載の往復動流体機械において、熱硬化性フェノール樹脂複合材を構成する熱硬化フェノール樹脂は、ゴム状弾性材料で変性した熱硬化性フェノール樹脂、またはゴム状弾性材料を複合した熱硬化性フェノール樹脂であることを特徴とする往復動流体機械。
- 請求項1または請求項2記載の往復動流体機械において、充填材の一部または全部が旧モース硬さが2〜4の強化繊維であることを特徴とする往復動流体機械。
- 請求項3記載の往復動流体機械において、強化繊維の配合量は5〜50重量%であることを特徴とする往復動流体機械。
- 請求項3または請求項4記載の往復動流体機械において、強化繊維がチタン酸カリウム繊維であることを特徴とする往復動流体機械。
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