JP3699501B2 - 走査レンズ系の設計/製造方法 - Google Patents

走査レンズ系の設計/製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、正の研磨トーリック面を有するガラストーリックレンズを含む走査レンズ系の設計方法、および製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、fθレンズ等の走査レンズ系には、主走査方向の曲率半径と副走査方向の曲率半径とが異なるトーリック面を有するレンズが使用されている。ガラス製のトーリックレンズの製造工程では、図6に示すように、主走査方向の曲率半径に対応した半径を有する円形の回転皿20の周面に複数のレンズ21,21を貼り付け、回転皿20を回転させつつ、副走査方向に曲率を持つ凹面状の研磨皿(図示せず)を往復動させて研磨する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の方法でトーリック面を研磨すると、副走査方向の曲率半径が、主走査方向の中心部より周辺部で小さくなる傾向がある。これは、レンズに対する研磨皿の接触状態が主走査方向の中心部と周辺部とで異なることに起因すると考えられる。すなわち、主走査方向の中心部では、研磨皿が全体的にレンズに接触するのに対し、周辺部では、研磨皿がレンズ間の境界の部分にさしかかった際に一部がレンズから離れ、研磨皿が部分的にレンズに接触する。この接触状態の違いにより、中心部と周辺部とで研磨作用に違いが生じると考えられる。
【0004】
したがって、従来の方法により製造されたトーリックレンズを有する走査レンズ系は、主走査方向の周辺部における副走査方向のパワーが中心部より大きくなり、図7に破線で示すように副走査方向の像面湾曲が設計値よりアンダーになる。
【0005】
【発明の目的】
この発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、トーリック面の研磨工程で発生する誤差により生じる像面湾曲を低減することができる走査レンズ系の設計方法、製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明にかかる走査レンズ系の設計方法は、上記の目的を達成させるため、要求される仕様に基づいてレンズデータを決定する際に、研磨トーリック面の研磨誤差を見込んで像面湾曲がオーバーとなるよう設計することを特徴とする。また、この発明にかかる走査レンズ系の製造方法は、上記の設計方法で求められたレンズデータに基づいて研磨する加工段階を有することを特徴とする。
【0007】
【実施例】
以下、この発明にかかる走査レンズ系の設計方法、製造方法の実施例を説明する。図1は、実施例の走査レンズ系の設計、製造方法を示すフローチャートである。ここでは2種類の方法を説明する。第1の方法は、トーリックレンズの研磨誤差を見込んで一段階でレンズデータを設定する。第2の方法は、基本設計により加工したレンズの誤差を測定し、これに基づいて基本設計を修正することにより、二段階でレンズデータを設定する。
【0008】
第1の方法では、図1(A)に示されるように、ステップ1で仕様が決定されると、ステップ2で予め研磨トーリック面で発生する研磨誤差を見込んで評価する。研磨トーリック面の研磨工程で発生する誤差は、周辺部の過剰研磨による副走査方向の曲率半径のバラツキであり、このバラツキによる副走査方向のアンダーの像面湾曲をステップ3の評価段階で予め求めておく。
【0009】
トーリックレンズの屈折率をnとし、副走査方向の断面内での光束の実効FナンバーをF、光束の光軸からの高さをh、高さhでの過剰研磨量をSとすると、副走査方向の像面湾曲量Cは、以下の式(1)で求められる。
【0010】
【数1】
C=8(n−1)・S・F2 …(1)
【0011】
したがって、過剰研磨量Sが予め予測できれば、発生するアンダーの像面湾曲が求められ、かつ、これを相殺するために必要なオーバーの像面湾曲の量も求められる。なお、個々のレンズにより過剰研磨量Sにもバラツキはあるが、平均的な値を基準に設計することにより、全体的に良品率を向上させることができる。
【0012】
ステップ4の決定段階では、ステップ3の評価段階で求められるアンダーの像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生させるようレンズデータを決定し、ステップ5の加工段階では、決定されたレンズデータに基づいてレンズを加工する。
【0013】
第2の方法では、図1(B)に示されるように、ステップ11で仕様が決定されると、ステップ12でこの仕様に基づいて研磨誤差を考慮に入れずに基本設計値を決定する。ステップ13では、この基本設計に基づいてレンズを加工し、ステップ14で加工されたレンズの像面湾曲を測定する。
【0014】
続いて、ステップ15の決定段階において、ステップ14の評価段階で求められるアンダーの像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生させるよう基本設計値を修正し、ステップ16では修正された値に基づいてレンズデータを決定する。ステップ17の加工段階では、ステップ16で決定されたレンズデータに基づいてレンズを加工する。
【0015】
【実施例1】
次に、上記の第1の方法により設計されたfθレンズ系の実施例を2例示す。図2は、実施例1のfθレンズ系を含む走査光学系の要部を示す主走査方向の説明図である。
【0016】
図示せぬ半導体レーザー等の光源から発した光束は、副走査方向にのみパワーを持つシリンドリカルレンズ1により収束され、ポリゴンミラー2で偏向され、走査レンズ系であるfθレンズ系10により像面4上に結像する。
【0017】
fθレンズ系10は、主走査面内において、像面4側に凸面を向けた正メニスカスの第1レンズ11と、平凸の第2レンズ12とから構成されている。第2レンズ12はガラスレンズであり、その像面4側の面が研磨トーリック面12bである。
【0018】
研磨トーリック面12bは、前述したように図6に示す回転皿と研磨皿とを用いて研磨されるため、副走査方向の曲率半径が設計上は一定であっても、加工すると主走査方向の中心部より周辺部が小さくなる。したがって、研磨トーリック面は、結果的に副走査方向の像面湾曲がアンダーとなる形状に加工される。
【0019】
研磨トーリック面12bを除く面、すなわち、第1レンズ11の両面11a,11bと第2レンズ12のポリゴンミラー2側の面12aとは、研磨トーリック面12bの副走査方向の曲率半径の分布により発生するアンダーの像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生するよう設計されている。
【0020】
実施例1では、トーリックレンズの屈折率n=1.51072、副走査方向の実効FナンバーF=1:50.0、光束の光軸からの高さh=1.44、高さhでの過剰研磨量S=2.90×10-4としており、副走査方向の像面湾曲量の最大量は前述の式(1)によりC=
2.96となる。
【0021】
実施例1にかかるfθレンズ系の具体的構成は表1に示される。表中、第1、第2面がfθレンズの第1レンズ11、第3、第4面が第2レンズ12を示す。表中の記号d0はポリゴンミラー2の基準偏向点(反射光がfθレンズ系の光軸と平行になる際の偏向点)から第1面までの距離、Ryは主走査方向の曲率半径、Rzは副走査方向の曲率半径、dは面間の光軸上の距離、nはレンズの屈折率である。偏心量は、主走査方向における平行移動量であり、符号は光軸より図中の上側、すなわちシリンドリカルレンズが設けられていない側をプラス、下側をマイナスとしている。
【0022】
なお、実施例1のfθレンズの第1面および第2面は、レンズ面が主走査面内で形成するカーブの主走査方向の曲率半径が、光軸からの高さにより変化するようとして構成されている。光軸からの高さがYとなる非円弧カーブ上のレンズ面頂点の接平面からの距離(サグ量)をX、頂点の曲率(1/r)をC、円錐係数をK、4次、6次、8次の非球面係数をA4,A6,A8として、以下の式で表される。なお、表1における主走査方向の曲率半径は、レンズ面頂点の曲率半径であり、これらの面の円錐係数、非球面係数は表2に示される。
【0023】
【数2】
X= CY2/(1+√(1-(1+K)C2Y2)) + A4Y4 + A6Y6 + A8Y8
【0024】
【表1】
Figure 0003699501
【0025】
【表2】
Figure 0003699501
【0026】
図3は上記実施例1の構成による走査レンズ系の像面湾曲を示し、(A)が誤差がない場合の理論値、(B)は研磨誤差を含む実測値である。図中、Mが主走査方向の焦点、Sが副走査方向の焦点位置を示す。図3の縦軸は主走査方向における像高、横軸は光軸方向の焦点位置のずれを示す。各軸の単位はmmである。
【0027】
設計値としては副走査方向の像面湾曲はオーバーであるが、加工後はこのオーバー分がトーリック面の研磨誤差により発生する像面湾曲のアンダー分と相殺され、結果として生じる像面湾曲は低く抑えられている。
【0028】
【実施例2】
図4は、実施例2にかかるfθレンズ系を適用した走査光学系の要部を示す主走査方向の説明図であり、その具体的構成は表3に示される。この例でも、実施例1と同様に第2レンズ12がガラストーリックレンズであり、像面4側の面12bが研磨トーリック面である。
【0029】
実施例2では、トーリックレンズの屈折率n=1.78569、副走査方向の実効FナンバーF=1:58.5、光束の光軸からの高さh=1.30、高さhでの過剰研磨量S=1.06×10-4としており、副走査方向の像面湾曲量の最大量は前述の式(1)によりC=
2.28となる。
【0030】
【表3】
Figure 0003699501
【0031】
図5は、実施例2の構成による走査光学系の像面湾曲を示し、(A)が誤差がない場合の理論値、(B)は研磨誤差を含む実測値である。実施例2においても、設計値としてのオーバーの像面湾曲が研磨誤差によるアンダー分と相殺され、結果として生じる像面湾曲は低く抑えられている。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、研磨工程で発生する誤差による影響を予め見込んで設計することにより、加工後の走査レンズ系の像面湾曲を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明にかかる走査レンズ系の設計、製造方法を示すフローチャートである。
【図2】 実施例1にかかる走査レンズ系を含む光学系の主走査方向の説明図である
【図3】 実施例1にかかる走査レンズ系の像面湾曲を示すグラフであり、(A)が誤差がない場合の理論値、(B)は研磨誤差を含む実測値を示す
【図4】 実施例2にかかる走査レンズ系を含む光学系の主走査方向の説明図である
【図5】 実施例2にかかる走査レンズ系の像面湾曲を示すグラフであり、(A)が誤差がない場合の理論値、(B)は研磨誤差を含む実測値を示す
【図6】 トーリックレンズの研磨方法を示す説明図である。
【図7】 トーリックレンズの研磨誤差により生じる副走査方向の像面湾曲を示す説明図である。
【符号の説明】
1 シリンドリカルレンズ
2 ポリゴンミラー
4 像面
10 fθレンズ系
11 第1レンズ
12 第2レンズ
12b 研磨トーリック面

Claims (9)

  1. 正の研磨トーリック面を有するガラストーリックレンズを含む走査レンズ系の設計方法において、
    要求される仕様に基づいてレンズデータを決定する際に、前記研磨トーリック面の研磨誤差を見込んで像面湾曲がオーバーとなるよう設計することを特徴とする走査レンズ系の設計方法。
  2. 正の研磨トーリック面を有するガラストーリックレンズを含む走査レンズ系の設計方法において、
    前記研磨トーリック面の研磨工程で発生する副走査方向の曲率半径のバラツキによる副走査方向のアンダーの像面湾曲を求める評価段階と、
    前記評価段階で求められるアンダーの像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生させるようレンズデータを決定する決定段階とを有することを特徴とする走査レンズ系の設計方法。
  3. 前記評価段階では、研磨されたトーリックレンズの像面湾曲を測定して評価することを特徴とする請求項2に記載の走査レンズ系の設計方法。
  4. 前記評価段階では、研磨された複数のトーリックレンズの像面湾曲を測定し、その平均値を求めることを特徴とする請求項3に記載の走査レンズ系の設計方法。
  5. 請求項4の設計方法で求められた前記レンズデータに基づいて研磨する加工段階を有することを特徴とする走査レンズ系の製造方法。
  6. 前記加工段階において、前記トーリックレンズは、主走査方向の曲率半径に対応した半径を有する円形の回転皿の周面に複数貼り付けられ、前記回転皿を回転させつつ、副走査方向に曲率を持つ凹面状の研磨皿を往復動させて研磨されることを特徴とする請求項5に記載の走査レンズ系の製造方法。
  7. 請求項5の製造方法により製造された走査レンズ系。
  8. 正の研磨トーリック面を有するガラストーリックレンズを含む走査レンズ系であって、
    前記研磨トーリック面の副走査方向の曲率半径は、主走査方向の中心部より周辺部が小さく、
    前記研磨トーリック面を除く面は、前記研磨トーリック面の副走査方向の曲率半径の分布により発生するアンダーの像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生するよう設計されていることを特徴とする走査レンズ系。
  9. 正の研磨トーリック面を有するガラストーリックレンズを含む走査レンズ系であって、
    前記研磨トーリック面は、副走査方向の像面湾曲がアンダーとなる形状に加工され、
    前記研磨トーリック面を除く面は、前記研磨トーリック面の副走査方向の像面湾曲を相殺するオーバーの像面湾曲を発生するよう設計されていることを特徴とする走査レンズ系。
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