JP3698667B2 - 伝播時間差方式による超音波流量計 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は伝播時間差方式(以下時間差方式と称す)による超音波流量計の改良に関し、特に伝播時間を十分に高い時間分解能とともに安定に計測できる超音波流量計に関する。
【0002】
【従来の技術】
図10は従来の時間差方式による超音波流量計の構成を示し、以下その概要を説明する。
同図において符号1は流体入口1aと同出口1bを有する流路用管体、2a、2bは管体の両端に設けた1対の超音波振動子を示す。
【0003】
3は切替器であり、励振パルス電圧源4と受信信号の増幅器5とを上記振動子2aまたは2bへ交互に切り替えて接続するが、その切替信号についてはここでは触れない。
【0004】
6は振幅を検知する第1コンパレータ、7はその参照電圧源、8はゼロクロス点を検知する第2コンパレータであり、前記増幅器5にて増幅された受信波形の電圧値が前記参照電圧源7の電圧値を超えると第2コンパレータ8はゼロクロス点を検知できる状態になる。
【0005】
すなわち、第2コンパレータ8は第1コンパレータ6の動作後における最初のゼロクロス点を検知し、このゼロクロス点の受信時刻を検出する。
【0006】
9はデータ処理装置であり、上記第2コンパレータ8の出力を受けて振動子励振時刻から受信時刻までの時間すなわち超音波伝播時間を算出する。
【0007】
上述した構成により、切替器3を操作して超音波が流体の流れに逆らう場合の伝播時間Tuと、流れと同じ向きの場合の伝播時間Tdを測定すれば、これらの差から下記のように流速Vが、さらにこれに管断面積Sを乗じて流量Qが求められることはよく知られているので詳細には述べない。
ただしCは音速、Lは振動子間距離であり、かつCは(Tu+Td)より求められる。
Tu−Td=2LV/C2
∴V=(Tu―Td)C2 /2L
Q=SV
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の超音波流量計には次のような技術的問題が生じる。
伝播時間をデジタル手段により計測する場合、十分に高い時間分解能を得るためには、単に時間計測用のクロック周波数を高くするだけでは不十分である。
【0009】
このことは、L/C=(Tu+Td)/2を前記Vの式に入れて、
(Tu−Td)/(Tu+Td)=V/C
なる式においてC=1.5km/s、V=1m/sとすれば伝播時間差は伝播時間の1/1000以下であること、および通常使用される振動子の共振周波数が1〜2MHzであること、したがって所要のクロック周波数が極めて高くなることから容易に理解できる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、本発明に係る第1発明の伝播時間差方式による超音波流量計は、流路用管体の流体の流れ方向上流側と下流側における流路用管体の外側にそれぞれ取り付けた1対の超音波振動子と、これら1対の超音波振動子の送信、受信を交互に切り替える切替器と、流体内を伝播する超音波により受信側の振動子に生じる受信信号を増幅する増幅器と、増幅された受信信号のゼロクロス点を測定して上流向けおよび下流向け伝播時間を求め、この伝播時間から流量信号を算出するデータ処理装置を備え、前記データ処理装置は前記増幅後の受信信号の増幅波形を複数の電圧値−時刻の対データに変換し、かつ、前記増幅波形が時刻軸と交差する複数のゼロクロス点のうち、少なくとも1個のゼロクロス点を選び、このゼロクロス点の前後時刻に分布する複数個の前記対データの中から、電圧絶対値が最小の対データを含む複数の対データを選んで第1の対データ群とし、同じく電圧絶対値が最小の対データを含み、第1の対データ群とは構成が同一ではない複数の対データを選んで第2の対データ群とし、各対データ群を構成する複数の対データに基づき、電圧値を変数とし、時刻をその関数とする等次数の近似式をそれぞれ求め、これら2式の時刻軸切片の平均値をもって前記ゼロクロス点の時刻近似値とするとともに、この近似値により超音波の送信より受信までの伝播時間が算出されることを特徴としている。
【0011】
また、上記第1の発明における実施態様は、前記第1の対データ群と第2の対データ群が、nを整数として前記電圧絶対値が最小の対データの電圧極性に応じ、一方の対データ群においては同一極性側にさらにn+1個、反対の極性側にn個の対データが選ばれ、他方のデータ群においては同一極性側にさらにn個、反対の極性側にn+1個の対データが選ばれ、好適には前記nを、n=1とすることを特徴としている。
【0012】
また、第1の発明における他の実施態様は、前記2つの近似式を、ともに最小自乗法により得られる直線とすることを特徴としている。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【実施例】
以下、本発明に係る超音波流量計の実施例を添付図面に基づいて説明する。なお、図1において符号1〜5は図10に示した従来のものに付した符号に対応するので、説明は省略する。
【0018】
本実施例の流量計は、データ処理装置9として数10MS/s程度のサンプリングレートと、10〜12ビット程度の分解能を有するアナログ・デジタル変換器(以下、ADCと称す)10と、高速デジタル信号処理器(以下、DSPと称す)11を備え、増幅器5にて増幅された受信波形のデータをこのデータ処理装置9にて演算処理する点を特徴としている。
【0019】
振動子の共振周波数が例えば2MHzのときの受信波形をこのようなADCによりサンプリングする結果、図2に●印で示すようなデータが得られる(煩雑さを避けるためにピークP1 付近のみにつき、個数も減らして示す)。
ここで○印はこのピークおよび隣接ピークに付随するゼロクロス点の一例を示す。
【0020】
本発明におけるデータ処理装置9は増幅後の受信信号の増幅波形を前記ADC10において複数の電圧値−時刻の対データに変換し、少なくとも1個のゼロクロス点例えばq1付近の前後時刻に分布する複数個の前記対データに基づき、DSP11における演算によってq1の時刻近似値を求める。
【0021】
しかして本発明の流量計においては、上述したデータ処理装置9によるゼロクロス点の時刻近似値の演算に関し、大別して2つの演算方式があり、以下各演算方式について詳述する。
【0022】
<第1の演算方式>
第1の演算方式においては、ゼロクロス点の前後時刻における複数の電圧値−時刻の対データ中から任意の対データを選んで2組の対データ群を決め、各対データ群の対データに基づいて互いに次数の等しい近似式を求め、これら近似式の時刻軸切片の平均値をゼロクロス点の近似値とするものである。
【0023】
なお、前記2組の対データ群は、電圧絶対値が最小である対データ(以下、最小対データと称する)をともに含み、他の対データは重複するものがあってもよいが、云うまでもなく2組の対データ群は同一とならないようにしなければならない。
【0024】
次に、上述した第1の演算方式の具体例を図3(a)、(b)に基づいて説明する。なお、図3(a)は図2に示した受信波形グラフにおけるゼロクロス点q1付近を拡大して示し、図3(b)は(a)をさらに拡大して示すものである。
【0025】
まず、第1の対データ群として前記最小対データa1と、その他の対データa2、a3、b1等を選び、第2の対データ群として同じく最小対データa1と、その他の対データa2、b1、b2等を選ぶ。
【0026】
これら2つの対データ群につき、電圧値を変数とし、時刻をその関数とする次数の等しい近似式をそれぞれ求め、これら2つの近似式L1、L2の時刻軸切片r1およびr2の平均値を前記ゼロクロス点q1の近似値とする。
【0027】
ここで、上記近似式として電圧値を変数とし、時刻をその関数とする理由は、これと逆の場合に比べて時刻切片を求めるのが遥かに容易な点にある。
【0028】
すなわち、時刻を変数、電圧値をその関数とし、次数が2次以上の近似式である場合、時刻切片を求めるには、電圧を表す時刻の多次式の各項の係数を求めた後に式の根を算出しなければならないので、計算が煩雑になるからである。
【0029】
上述のようにして求めたゼロクロス点q1の近似値から超音波の伝播時間を求め、流体の流方向に対する正逆方向の伝播時間の差から流量信号が得られる。
なお、各対データ群を構成する対データの数は通常偶数でよいが、データ数によっては奇数がよい結果を与えることもある。
【0030】
次に上述した第1の演算方式における実施態様について説明する。
前記2組の対データ群における対データの個数について、前記最小対データの電圧極性に応じ、nを整数として一方の対データ群は最小対データと同一の極性側にさらにn+1個、反対の極性側にn個を選び、他方の対データ群は同一極性側にさらにn個、反対側にn+1個を選ぶよう構成する。
【0031】
一般に近似式を演算する際のデータ数が多い程、近似精度は高まると考えられるが、ADC10のサンプリングレートが超音波振動子の周波数に比べて十分には高くない場合、データ数を増やせば近似式の次数を挙げる必要が生じ、計算が煩雑になる割には精度は向上せず、前記数値例ではnとしてn=1が好適である。
【0032】
また、近似式として、一般に最小自乗法による式を使用するが、データ数と近似式の次数の差を1としていわゆる補間公式を使用するのが簡便である。なお、図3は直線近似の例を示している。
【0033】
<実施態様1−1>
次に、第1の演算方式につき、実際の測定において得られる受信波形に近い波形を想定した数値シミュレーションの結果を図4乃至図6に基づいて説明する。図4は受信信号の模擬波形であり、その周波数は2MHz、ADC10のサンプリングレートは50MS/sとしてある。
【0034】
同図4中に示した6つのゼロクロス点q1〜q6につき、第1と第2の各対データ群における対データ数を4とし、近似式には最小自乗法による直線近似式を使用してADC10のサンプリングの位相が変化したときのゼロクロス時刻誤差をシミュレーションにより求めた結果を図5に示す。
【0035】
ここで、横軸は各ゼロクロス点を基準とする最小対データの時刻を表し、その極性は受信波形の尾に向かう方向を正としている。
【0036】
この図5に示された結果から、各ゼロクロス点によって誤差は異なるが、そのサンプリング位相変化による誤差変動すなわち安定性は100ps程度に収まっていて、十分実用になることがわかる。
なお、この誤差そのものは伝播時間の一部として扱うことができる。
【0037】
<実施態様1−2>
さらに、図6は第1と第2の各対データ群における対データ数を4とし、近似式には電圧値を変数とし、時刻をその関数とする補間3次式を使用したときの誤差を示し、その位相変化による誤差変動は最も大きいゼロクロス点q1においても40ps程度に減少しており、精度の高い測定を行なえることがわかる。
【0038】
<第2の演算方式>
次に、本発明に係る第2の演算方式について説明する。
上述した第1の演算方式においては2組の対データ群に基づいて2つの近似式を求めたが、この第2の演算方式においては、ゼロクロス点q1の前後時刻における複数の対データを選んで1つの対データ群とし、この対データ群を構成する対データに基づいて3次以上の次数の近似式を1つ求め、この近似式の時刻軸切片を前記ゼロクロス点の時刻近似値とする。
なお、上記対データ群は前記最小対データを必ず含むものとする。
【0039】
具体的には、対データ群を最小データa1と、その他の対データa2、a3、b1、b2、b3等を選び、これらの対データにつき電圧値を変数とし、時刻をその関数とする3次以上の次数の近似式を1つ求め、この近似式の時刻軸切片をゼロクロス点q1の時刻近似値とする。
【0040】
そして、この時刻近似値より超音波の伝播時間を求め、流体の流方向に対する正逆方向の伝播時間の差から流量信号を得る。
なお、近似式として電圧値を変数とし、時刻をその関数とする理由は、第1の演算方式と同じであり、時刻切片を求めるのが容易である点にある。
【0041】
ところで、複数の対データから近似式を演算してゼロクロス点を求めるには、最小自乗法による直線(1次式)を使用するのが一般的であるが、この演算方法では伝播時間の演算に適用する場合近似精度が不十分であるので、上述した第2の演算方式では3次以上の次数の近似式を用いている。
【0042】
上述した第1の演算方式と第2の演算方式とを比較すると、近似式を得るのに用いる対データの総数が同じである場合、第1の演算方式では2つの近似式を使用するので、近似式の次数が少なくて済み、したがって、時間軸切片の計算が第2の演算方式よりも容易である。
ただし、近似精度は一般に第2の演算方式の方が優れているので、必要に応じていずれかの方式を選ぶ。
【0043】
また、上述した各演算方式の説明では、1つのゼロクロス点の近似値を求める場合について述べたが、複数のゼロクロス点について上述した各演算方式と同様の手順で近似値を求め、得られた複数の時刻近似値を平均すれば、より精度と安定度の高い伝播時間が得られ、したがって高精度の流量測定を行なうことができることは明らかである。
【0044】
<実施態様2−1>
次に上述した第2の演算方式における実施態様について説明する。
前記対データ群を構成する対データとして、前記最小対データと、この最小対データの時刻前と同時刻後に分布する対データをそれぞれ2個ずつ選び、これら5つの対データに基づいて電圧値を変数とし、時刻をその関数とする近似式として最小自乗法による3次近似式を使用したときのシミュレーション結果を図7に示す。
【0045】
このシミュレーション結果から、第2の演算方式により得られたゼロクロス点の近似値は実用上十分な精度を有するということがわかる。
【0046】
<実施態様2−2>
さらに、図8は第2の演算方式において、対データ群を構成する対データを、最小対データと同一の極性側にさらに1個、反対の極性側に2個を選び、これら4つの対データにつき電圧値を変数とし、時刻をその関数とする3次補間式を使用したときの誤差を示し、その位相変化による誤差変動は図6に示した第1の演算方式によるシミュレーション結果より少なく、良好な結果が得られた。
【0047】
<他の実施例>
本発明に係る超音波流量計における検出器の構成としては、図1に示すように流路用管体1に直管1aの両端に超音波振動子2a、2bを設ける構成の他に、例えば図9に示すように超音波振動子12a、12bを、直管よりなる流路用管体13の外周に設けたいわゆるクランプオン形とする場合もあり、図1の構成と同様に適用できて良好な結果が得られる。
【0048】
【発明の効果】
上述したように、本発明によれば、受信波形のゼロクロス点の時刻近似値を2つの近似式からまたは3次以上の1つの近似式から演算して求めるので、十分に高い分解能を得ることができるとともに、ADCのサンプリング位相の変動にかかわらず、安定した高精度の計測を行なうことができ、優れた測定精度の超音波流量計を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超音波流量計の構成図。
【図2】本発明における受信波形を示すグラフ。
【図3】 (a)は図2のグラフにおけるゼロクロス点付近を拡大して示すグラフであり、(b)はさらに拡大して示すグラフ。
【図4】受信波形を模擬した波形を示すグラフ。
【図5】実施態様1−1による誤差評価の一例を示すグラフ。
【図6】実施態様1−2による誤差評価の一例を示すグラフ。
【図7】実施態様2−1による誤差評価の一例を示すグラフ。
【図8】実施態様2−2による誤差評価の一例を示すグラフ。
【図9】本発明の流量計における検出器の他の例を示す一部破断正面図。
【図10】従来の伝播時間差方式による超音波流量計の構成図。
【符号の説明】
1 流路用管体
2a、2b 超音波振動子
3 切替器
4 励振電圧源
5 増幅器
6 第1のコンパレータ
7 参照電圧
8 第2のコンパレータ
9 データ処理装置
10 アナログ・デジタル変換器
11 高速デジタル信号処理器
12a、12b 超音波振動子
13 流路用管体
Claims (4)
- (a) 流路用管体の流体の流れ方向上流側と下流側における流路用管体の外側にそれぞれ取り付けた1対の超音波振動子と、これら1対の超音波振動子の送信、受信を交互に切り替える切替器と、流体内を伝播する超音波により受信側の振動子に生じる受信信号を増幅する増幅器と、増幅された受信信号のゼロクロス点を測定して上流向けおよび下流向け伝播時間を求め、この伝播時間から流量信号を算出するデータ処理装置を備え、
(b) 前記データ処理装置は前記増幅後の受信信号の増幅波形を複数の電圧値−時刻の対データに変換し、
(c) かつ、前記増幅波形が時刻軸と交差する複数のゼロクロス点のうち、少なくとも1個のゼロクロス点を選び、このゼロクロス点の前後時刻に分布する複数個の前記対データの中から、電圧絶対値が最小の対データを含む複数の対データを選んで第1の対データ群とし、同じく電圧絶対値が最小の対データを含み、第1の対データ群とは構成が同一ではない複数の対データを選んで第2の対データ群とし、各対データ群を構成する複数の対データに基づき、電圧値を変数とし、時刻をその関数とする等次数の近似式をそれぞれ求め、これら2式の時刻軸切片の平均値をもって前記ゼロクロス点の時刻近似値とするとともにこの近似値により超音波の送信より受信までの伝播時間が算出される伝播時間差方式による超音波流量計。 - 前記第1の対データ群と第2の対データ群は、nを整数として前記電圧絶対値が最小の対データの電圧極性に応じ、一方の対データ群においては同一極性側にさらにn+1個、反対の極性側にn個の対データが選ばれ、他方のデータ群においては同一極性側にさらにn個、反対の極性側にn+1個の対データが選ばれる請求項1に記載の伝播時間差方式による超音波流量計。
- 前記nを、n=1とする請求項2に記載の伝播時間差方式による超音波流量計。
- 前記2つの近似式を、ともに最小自乗法により得られる直線とする請求項1に記載の伝播時間差方式による超音波流量計。
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