JP3697484B2 - 磁力支持天秤装置における動的力評価システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、物体の空力特性を研究するため、物体の模型を風洞中の気流中に浮揚させ、模型に作用する外的な力を磁力で支持する磁力支持天秤装置において、模型に働く動的な力を評価する動的力評価システムに関する。
【0002】
【従来技術】
従来、物体の空力的な特性を模型で得るため風洞設備の測定部において模型を支持体で支持することが一般的に行われてきたが、支持体自体が模型表面における空気流れに影響を及ぼすので、試験結果をそのまま模型の空力特性として採用することができない。そこで、風洞試験において、模型を磁力で支持することが提案されている。模型を磁力支持することによって支持体が不要となるので、支持体が存在することに起因した模型への空力的な影響を回避することができる。
【0003】
模型を磁力支持する磁力支持天秤装置は、風洞試験において模型の周りを流れる気流が模型に作用する揚力、抗力、ピッチング(縦揺れ)モーメント等の静的又は動的な空力特性を、模型の内部に設けられる磁石と相互作用する磁気力を生じさせるために設けられているコイルに流す電流の大きさに置き換えて測定する装置である。こうした空気力とコイル電流の大きさとの関係を調べて予めマップ、関数、表等の対応関係を用意しておくことにより、コイル電流を測定することで模型に作用する空力特性を知ることができる。
【0004】
図10及び図11を参照して、磁力支持型風洞及び磁力支持天秤装置の概要を説明する。図10は磁力支持型風洞と磁力支持天秤装置の概要を示す斜視図であり、図11は磁力支持型風洞と磁力支持天秤装置に用いられる電源系と計測系を示す概念図である。図10に示す磁力支持天秤装置20は、風洞模型10を磁気の力で気流中に支持する装置であり、支持干渉のない風洞試験を実現することができる。風洞模型10には磁化された物質、超伝導コイルのような電流を流し続けているコイル、或いは永久磁石等から成る強力な磁石体が搭載される。風洞模型10の磁石体には、風洞の測定部の周りに配置したコイルに通電することにより生じた外部磁場との磁気作用によって磁気力が生じ、風洞模型10を磁気的に浮上支持させることができる。外部磁場は、磁気支持コイルとしてのコイル23〜26とコイル27〜30とから成る二つの磁気回路21,22、及びその外側に配置された同じく磁気支持コイルとしての空芯コイル31,32によって発生される。磁気回路21,22の各コイルに流れる電流を調節することにより、磁気回路21,22内のy−z面内での磁場の強さと方向及びそれらのx軸方向の変化率を連続的に変化させることができる。また、空芯コイル31,32に流れる電流を調節することによりx軸方向磁場の強さのx軸方向で見た変化率を制御でき、都合5軸の制御が可能である。即ち、磁気回路21,22のコイル23〜30は、風洞模型10に働く揚力と縦揺れモーメントとに対抗する磁気力を与える揚力用コイルとして機能し、空芯コイル31,32は風洞模型10に働く抗力に対抗する磁気力を与える抗力対抗用コイルとして機能している。
【0005】
風洞には、風洞模型10とコイル23〜32の他に、各コイルを駆動する電源系、風洞模型10の位置と姿勢とを計測する計測系、及び風洞模型10の位置と姿勢とを制御する制御系が組み込まれている。図11に示すように、計測系であるカメラ33が検出した風洞模型10の位置姿勢に関する計測データはパソコン等の計算機34に送信され、計算機34での演算結果がアンプ35にて増幅された後、制御された指令電流が各コイル23〜32に通電される。
【0006】
磁力支持天秤装置20は、本質的に不安定なシステムであるので、常に、フィードバック制御が行われている。即ち、指令電流によって風洞模型10に磁力が作用し、その結果、出力として風洞模型10の状態変数である位置・姿勢角に変化が表れる。この風洞模型10の位置・姿勢角は、計測系であるカメラ33によって検出され、検出値に応じて制御装置である計算機34が指令電流を出力することで、フィードバック制御が行なわれている。
【0007】
航空機やスペースシャトルのような宇宙往復機の開発・設計に際しては、気流が機体に及ぼす影響が時間を追う毎に変化する動的特性を知ることが不可欠である。動的特性が求められる場合としては、例えば、突風や気流の乱れ等のように気流の流れが変化する場合、気流の密度や温度等の特性自体が変化する場合、或いは操舵によって気流に対して航空機の姿勢が変更される場合等がある。このような状況の変化に応じて模型に作用する揚力、抗力、モーメント等の動的に変化する力を知ることで、実機の位置・姿勢角に応じた動的特性を知ることができ、そうした実機の動的特性は、航空機の翼や胴体等の外形形状、構造強度、エンジン特性、或いは操舵装置等の開発・設計に資することができる。
【0008】
現在、磁力支持天秤装置を用いた風洞設備において、模型に働く動的な力を知るには、力較正試験により得られた力−電流間の関係からオフラインで計算して推測するより他に手段がなかった。この力較正試験は、模型に作用させる重りの重さとコイルに流す電流値との対応データを逐一試験して得るために、長時間を要し非効率である。このようなオフラインでの計算では、風洞試験を一旦停止し、計算結果を精査した後に、更に必要な風洞実験を再開させるなど、試験期間が長時間になり、また磁力支持天秤装置の利用効率が低下する原因となっている。
しかしながら、現在のところ、磁力支持天秤装置の動的な天秤機能をリアルタイムで利用できるシステムは提供されていない。
【0009】
磁力支持天秤装置では、上記のとおり、磁気発生回路に通電される指令電流が発生させる磁場と、模型に搭載されている磁石との磁気相互作用によって生じる力によって、模型を風洞内で浮揚支持しているので、リアルタイムで計測可能な動的特性評価を行おうとする場合、指令電流に基づいて磁場(大きさと方向)を計算し、そうして計算された磁場と模型内の磁石との相互作用で生じる力を計算し、光学等の手段によって計測された模型の変位や姿勢を求め、磁場に基づく力と模型の変位や姿勢とによって空力特性を求めることになる。しかしながら、磁場(大きさと方向)、模型に生じる力を求めるには、膨大な回数の計算が必要であるので、事実上、動的特性のリアルタイムな評価は困難であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、動的力のリアルタイムな評価を困難にしているのが、磁場と、磁気相互作用による力との計算であることに着目して、模型の動的力のリアルタイムな計測を可能にするため、そうした磁場や磁気力を直接に計算するのではなく、模型の変位又は姿勢角、指令電流、若しくはそれら両者から、より簡単な計算で動的力を得る点で解決すべき課題がある。
【0011】
この発明の目的は、模型に作用する動的力を磁気に力によって釣り合い支持させる風洞設備における磁力支持天秤装置において、磁場と磁気相互作用による力との膨大な計算を行うことなく模型の空力特性を計算・評価可能にして、天秤機能を効率的に利用することを可能にする、磁力支持天秤装置における動的力評価システムを提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、この発明による磁力支持天秤装置における動的力評価システムは、風洞模型を磁気支持コイルに流される指令電流に基づいて発生される磁場と前記風洞模型内に搭載された磁石との磁気相互作用で生じる磁気力によって風洞内に浮揚支持する磁力支持天秤装置において、前記指令電流値と計測される前記風洞模型の位置又は姿勢角との間における制御対象の伝達関数を数学モデルとして同定し、前記風洞模型に働く動的力を、同定された前記伝達関数に基づいて前記風洞模型の位置又は姿勢角、及び前記指令電流の少なくとも一方に対応した値として評価することから成っている。
【0013】
この磁力支持天秤装置における動的力評価システムによれば、指令電流値と計測される風洞模型の位置又は姿勢角との間における制御対象の伝達関数を数学モデルとして同定し、風洞模型に働く動的力を、同定された伝達関数に基づいて、風洞模型の位置又は姿勢角、及び指令電流の少なくとも一方に対応した値として求めており、計算途中にコイルが作る磁場と風洞模型に搭載されている磁石との相互作用によって生じる力を計算しないので、動的力の計算が短時間で済み、リアルタイムで風洞模型に働く動的力を評価することができる。即ち、入力としての指令電流と風洞模型の位置及び姿勢角との間の入出力関係を、一度の試験のデータに基づいて数学モデルとして同定することができる。そうして得られた数学モデルに基づいて、風洞模型の位置又は姿勢角、指令電流、若しくはそれら両者を利用して、動的力(空気力、モーメント)を評価するための計算が計算機上でリアルタイムに行われる。そして、その値は逐次ディスプレイ上に表示することが可能である。なお、この動的力評価システムの精度は、同定したモデルの精度だけではなく、磁力支持天秤装置の制御系の調整具合にも依存するため、適切な制御定数の調整により、評価精度を向上させることが可能である。
【0014】
この磁力支持天秤装置における動的力評価システムにおいて、前記数学モデルは、前記風洞模型の位置又は姿勢角に入力として既知の目標値を与えたときの、前記目標値、前記風洞模型の位置又は姿勢角の出力、及び前記指令電流値のデータに基づいて求めることができる。風洞模型の位置又は姿勢角に入力として既知の目標値を与えたとき、その目標値に応じてコイルに流される指令電流が設定され、指令電流に応じてコイルが発生する磁場と、風洞模型に搭載される磁石との相互作用によって風洞模型に力が生じ、風洞模型の位置又は姿勢角が変化する。従って、風洞模型の位置又は姿勢角の目標値と、それに応答して変化する指令電流値及び風洞模型の位置又は姿勢角の出力のデータに基づいて、伝達関数の数学モデルを求めることができる。
【0015】
この磁力支持天秤装置における動的力評価システムにおいて、前記位置・姿勢角を前記コイルへの指令電流及びホワイトノイズと前記伝達関数とによって表した関係式と、前記指令電流を前記位置・姿勢角の前記目標値と前記位置・姿勢角とによって表した関係式とから、前記指令電流又は前記位置・姿勢角を互いに相関のない前記位置・姿勢角の前記目標値及び前記ホワイトノイズとそれぞれの修正伝達関数とによる関係式で表し、前記各修正伝達関数を開ループシステムにおいて用いられる同定手法を適用して求め、前記各修正伝達関数に基づいて前記制御対象の前記伝達関数を求めることができる。風洞模型の位置・姿勢角をコイルへの指令電流及びホワイトノイズと、それらの伝達関数とによって表した関係式と、指令電流を風洞模型の位置・姿勢角の目標値と実際に測定した位置・姿勢角とによって表した関係式とから、指令電流又は位置・姿勢角を、位置・姿勢角の目標値及びホワイトノイズとそれぞれの修正伝達関数とによる関係式で表すことができる。このとき、位置・姿勢角の目標値とホワイトノイズとは互いに相関がないと考えられるので、開ループシステムにおいて用いられる同定手法を適用することができる。修正伝達関数を同定できれば、上記の各関係式から制御対象の伝達関数を求めることができる。
【0016】
この磁力支持天秤装置における動的力評価システムにおいて、前記目標値は、適当な周波数帯をスイープさせた正弦波状の目標値、又はランダムな値の目標値である。模型の位置・姿勢角に、目標位置又は目標姿勢角として、適当な周波数帯をスイープさせた既知の正弦波状の目標値、又はランダムな値を制御対象に入力することにより、磁場及び風洞模型を含めた制御対象を加振し、そのときの制御対象の加振試験により得られた応答データ(模型位置・姿勢角、指令電流値、目標入り・姿勢角を含む。)から、磁場及び模型を含めた制御対象の同定、即ち、制御対象の伝達関数を求めることができる。同定結果を用いて力の評価式を作成し、力評価プログラムに代入することができる。
【0017】
制御対象である風洞模型の伝達関数は、磁力支持天秤装置において、指令(制御)電流と模型の位置及び姿勢角との関係を結びつける数学モデルである。この数学モデルは、磁力支持天秤装置に固有のコイルの配置に関係なく得ることができるため、すべての磁力支持天秤装置に適用可能である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの実施例を説明する。図1はこの発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの構築のためのフローチャート、図2は既存システムにおけるこの発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの関係を示すブロック図である。図3は、磁力支持天秤装置における別の動的力評価システムの関係を示すブロック図である。風洞模型及びその磁力支持天秤装置の前提となる基本的な構造は、図10及び図11に示したものと同様であるので、それらについての再度の詳細な説明を省略する。
【0019】
図1のフローチャートに示すように、この発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムは、加振試験S11と同定計算S12とから成る制御対象の同定作業S1の後に、同定作業S1で得られたデータから力の評価式の作成作業S2によって構築される。
【0020】
同定作業S1の加振試験S11では、先ず、風洞模型(図10に示す風洞模型10、以下、単に「模型」と称する)の状態変数の各軸(位置・姿勢角)に、既知の目標位置又は目標姿勢角として、適当な周波数帯をスイープさせた正弦波状の目標値、又はランダムな値を入力して、磁場及び模型を含めた制御対象を加振する。次に、同定計算S12として、制御対象の加振試験により得られた応答データ(模型位置・姿勢角、指令電流値、目標位置・姿勢角を含む。)から、磁場及び模型を含めた制御対象の同定、即ち、数学モデルとして、制御対象の伝達関数が求められる。即ち、入力としての指令電流と模型の位置及び姿勢角との間の入出力関係を、一度の試験のデータに基づいて数学モデルとして同定することができる。このようにして得られた同定結果を用いて力の評価式を作成し、作成された評価式は計算機(制御装置)の力評価プログラムに代入される(S2)。その後は、評価式に基づいて、風洞模型の位置又は姿勢角、指令電流、若しくはそれら両者に対応した値として模型に働く動的力(空気力、モーメント)を計算機上で評価することができる。この際、計算途中にコイルが作る磁場と模型に搭載されている磁石との相互作用によって生じる力を計算しないので、動的力の計算が短時間で済み、リアルタイムで模型に働く動的力を評価することができる。
【0021】
図2は、既存システムにおけるこの発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの関係を示すブロック図である。磁力支持天秤装置20の制御システム1は、本来、不安定であるため、図2に示すようにフィードバック制御が行われている。即ち、位置・姿勢角の現在値(状態変数)yに基づく信号と位置・姿勢角の各目標値rとの偏差信号が伝達関数Cを持つ比例積分(PI)コントローラ2に入力され、更にデジタル/アナログ増幅器3を経て指令電流信号uが作られ、指令電流信号uによってコイル23〜32(図10参照)に磁場が生成される。磁場には外乱が入るが、磁力支持天秤装置20のコイル・磁場と模型とから成る制御対象の伝達関数G0 によって模型の位置・姿勢角の現在値yが得られる。現在値yにはノイズeが混入するが、遅延時間Lを持つセンサ4、伝達関数Fnを持つノイズカットフィルタ5、及び伝達関数Fdを持つ二重位相進み器6を経た信号と目標値rとの差が算出されて、その偏差が比例積分(PI)コントローラ2に入力される。この例では、センサ4としてCCDセンサを用いているので、センサ4は、電荷の蓄積に要する時間を遅延時間Lとして伝達関数がexp(−Ls)で表されるむだ時間要素として記述される。この実施例による動的力評価システムにおいては、この制御ループの一部を構成する指令電流信号uを取り出して、動的力が評価される。
【0022】
図3は、図2に示すブロック図において風洞模型の磁力支持天秤装置における別の動的力評価システムの関係を示している。図3において、図2に示した構成要素及び信号と同等のものについては、同じ符号を付すことで重複する説明を省略する。図3に示すブロック図では、動的力評価システムにおいて採用される信号が図2に示す場合と異なっている。即ち、この動的力評価システムは、この制御ループの一部を構成するセンサ4の出力yS 及びコントローラ2の出力である指令電流信号uを取り出して、動的力が評価される。
【0023】
上記のように、磁力支持天秤装置20は、フィードバック制御によって作動されているので、そのままでは、システム同定の分野で通常用いられているような開ループでの同定手法を用いることはできない。そのため、以下で述べるように、2−ステージ法(Two−Stage Method)と呼ばれる手法が用いられる。即ち、磁力支持天秤装置20の制御系は、主要な要素を取り出すと、離散時間システムとして、次のように記述される。
y(k)=G0 (q)u(k)+H0 (q)e(k) (1)
u(k)=C(q)[r(k)−F(q)y(k)] (2)
ここで、y、u、rは、それぞれ模型の位置・姿勢角信号、コイルへの指令電流信号、及び目標位置・姿勢角信号である。また、eは平均0、分散1のホワイトノイズ、Fはノイズフィルタと二重移送進みを含めた要素の伝達関数、G0 はコイル・磁場及び模型を含めた要素の伝達関数、H0 はプロパーな有理関数、qはシフトオペレータである。
【0024】
ここで、システムの同定は、伝達関数G0 及びH0 を求めることである。そのために、先ず、
T0 (q)=C(q)[I+F(q)G0 (q)C(q)]-1 (3)
と置くと、式(2)は、次のように式(4)となる。
ここで、r(k)とe(k)とは互いに相関がないので、T0 (q)の同定には、開ループシステムにおいて用いられている同定手法が適用可能である。開ループシステムにおける同定手法は、周波数応答法、補助変数法等の入力と出力との相関を調べるだけでシステムの伝達関数を得ることができる手法である。
【0025】
更に、ur (k)を次の式(5)のように定義すると、
ur (k)=T0 (q)r(k) (5)
式(1)及び式(2)から
y(k)=G0 (q)ur (k)+T0 (q)H0 (q)e(k) (6)
となり、ここにおいてもur (k)とe(k)とは互いに相関がないため、T0 (q)の場合と同様に、G0 (q)の同定に開ループシステムにおいて用いられている同定手法が適用可能である。
【0026】
G0 (q)の同定には、充分な周波数帯に渡ってシステムを加振する必要がある。図4は、x軸の目標位置・姿勢角として、周波数を0Hzから2.0Hzまで時間変化させた正弦波(スイープ波)を入力した場合の各軸の応答を示すグラフである。図4から判るように、x軸の加振と同時にθ軸も振動しており、これらの軸が干渉し合っている。一方、その他のy軸、z軸、ψ軸は振動していないので、x軸とこれらの軸との間には干渉がないと仮定してよい。実際に、T0 (q)、G0 (q)を求めるためには、多入出力システムの場合によく用いられる部分空間法(差分方程式等のような入出力表現を介さずに、入出力データから直接的に伝達関数を求める法)が用いられる。
【0027】
図3に示す動的力評価システムにおいては、動的力を次のように評価する。
前記制御対象の数学モデルは、離散的に
x(k+1) = A・x(k)+B・u(k) (7)
y(k)=C・x(k) (8)
と表現することができる。ここで、kはサンプリング回数、xは風洞模型の位置、姿勢角とそれぞれの速度、角速度を含む状態変数、uは制御電流、そしてA、Bは同定された係数行列を表す。制御対象の同定結果によっては、状態変数xは加速度、角加速度やさらに高次の微分を含む場合もある。式(7)は空気力を含まないが、あるサンプリングkにおける空気力Fを含む場合は、式(7)は、
x(k+1)=A・x(k)+B・u(k)+F(k) (9)
となる。したがって、風洞模型に作用する空気力は、
F(k)=x(k+1)−A・x(k)−B・u(k) (10)
によって評価することができる。この評価式を用いることにより、風洞模型に作用する動的な力をリアルタイムで評価することができる。ただし、次元解析からわかるように、式(9)及び(10)中で空気力Fは風洞模型の単位質量あたりの値であることに注意する。ここで、風洞模型の位置、姿勢角を含む状態変数xはセンサー出力に基づいた量であるが、センサー出力はセンサーノイズを含むため、状態変数のうち速度、角速度やさらに高次の微分はセンサーノイズの影響を著しく被り、非常に変動の激しい量となる。この変動は式(9)により評価した空気力の精度を著しく悪化させる原因となるため、風洞模型の位置及び姿勢角のセンサー出力に対してフィルタをかけてセンサーノイズを除去する必要がある。
ここで、ノイズカットフィルタは無限インパルス応答(IIR)フィルタ又は有限インパルス応答(FIR)フィルタでも構わないが、カルマンフィルタに代表される合理的な状態変数の推定手法を用いることで効果的にセンサーノイズを除去することが可能となる。一方、図2に示す動的力評価システムにおいては、力Fが作用すると、制御系は、x(k)→0となるように電流値u(k)を決めるため、結局、u(k)は、Bu(k)=−F(k)を満足するような値に収束する。その時々のリアルタイムで計測される電流値u(k)に行列Bを乗じた式を前述の評価式の一つの例とすることができる。
【0028】
空力特性の評価の精度がどの程度かは、このT0 (q)、G0 (q)の同定の精度に依存している。位置・姿勢角の計測データをy、同定したモデルを用いたシミュレーションによる位置・姿勢角のデータをy’で表し、同定の精度を
1−|y−y’|/|y| (11)
で定義する。この場合では、x軸は28.08%、y軸は87.07%、z軸は89.41%、θ軸は38.02%、ψ軸は88.86%の精度が得られた。干渉のあるx軸及びθ軸の精度は40%に留まっており改善の余地があるが、一入出力系と仮定したy,z,ψの各軸については90%近くの精度を得ることができ、空力特性の評価についても高い精度で得られることが期待される。図5は、互いに干渉があるx軸及びθ軸の計測データと、同定モデルを用いたシミュレーション結果とを示すグラフである。図6は、干渉が無いとみなすことができるz軸の計測データと、同定モデルを用いたシミュレーション結果とを示すグラフである。互いに干渉があるx軸及びθ軸については、図5に示すように、振動初期において、シミュレーション結果と計測データとの一致性には改善の余地が認められるが、z軸については、振動初期からシミュレーション結果と計測データとの良い一致性が見られる。
【0029】
図7〜図9は図2に示す動的力評価システムにおいて力の推定の一例を説明するグラフであり、図7は、図2に示した動的力評価システムにおいて、図9で破線で示す力を与えたときのz軸の時間応答を示すグラフであり、図8は、z軸に対する指令電流値、図9は、推定した力(実線)と実際に与えた力(破線)とを示す図であって、本手法において計算した力の時間履歴を示している。図7には、数値シミュレーションとして、z軸方向に1.0[N]の力を図9の破線のように作用させた際の時間応答が示されている。z軸方向の変位は0に収束しているが、そのためには、図8及び図9に示すように、指令電流値は0でないバイアスした値が必要であり、それに対応して、z軸方向には、オフセットした値の力が現れる。式(11)と同じような式で精度を計算すると、この場合では、57.93%であった。
【0030】
【発明の効果】
この発明による磁力支持天秤装置における動的力評価システムによれば、磁力支持天秤装置において、指令電流値と計測される風洞模型の位置又は姿勢角との間における制御対象の伝達関数を数学モデルとして同定し、風洞模型に働く動的力を、同定された伝達関数に基づいて風洞模型の位置又は姿勢角、及び指令電流の少なくとも一方に対応した値として評価している。従って、数学モデルとしての同定は、一度の試験のデータに基づいて、入力としての指令電流値と出力として計測される風洞模型の位置及び姿勢角との間の入出力関係から求めることができる。また、そうして得られた数学モデルに基づいて、風洞模型の位置又は姿勢角、指令電流、若しくはそれら両者を用いて、動的力(空気力、モーメント)を求める計算途中には、コイルが作る磁場と風洞模型に搭載されている磁石との相互作用によって生じる力を計算しないので、計算が短時間で済み、リアルタイムで風洞模型に働く動的力を評価することができる。その結果、磁力支持天秤装置において、磁場と磁石との磁気相互作用による力を求めるために膨大な計算を行うことなく風洞模型の動的力が計算・評価可能となり、天秤機能を効率的に利用することが可能な磁力支持天秤装置における動的力評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの構築のためのフローチャートである
【図2】既存システムにおけるこの発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における動的力評価システムの関係を示すブロック図である。
【図3】この発明による風洞模型の磁力支持天秤装置における別の動的力評価システムの関係を示すブロック図である。
【図4】風洞模型のx軸の目標位置・姿勢角として、スイープ波を入力した場合の各軸の応答を示すグラフである。
【図5】風洞模型の互いに干渉があるx軸及びθ軸の計測データと、同定モデルを用いたシミュレーション結果とを示すグラフである。
【図6】風洞模型の干渉が無いとみなすことができるz軸の計測データと、同定モデルを用いたシミュレーション結果とを示すグラフである。
【図7】図2に示す動的力評価システムにおいて、一定値まで上昇する力を与えたときの、風洞模型のz軸方向の時間変位応答を示すグラフである。
【図8】図7に対応した、風洞模型のz軸に対する指令電流値を示すグラフである。
【図9】図7に対応した、推定した力(実線)と実際に与えた力(破線)とを示す図である。
【図10】磁力支持型風洞と磁力支持天秤装置の概要を示す斜視図である。
【図11】磁力支持型風洞と磁力支持天秤装置に用いられる電源系と計測系を示す概念図である。
【符号の説明】
1 制御システム
2 比例積分(PI)コントローラ
3 デジタル/アナログ増幅器
4 センサ
5 ノイズカットフィルタ
6 二重位相進み器
10 風洞模型
20 磁力支持天秤装置
23〜32 コイル
y,yS 位置・姿勢角の現在値(状態変数)
r 位置・姿勢角の各目標値
u 指令電流信号
e ノイズ
C 比例積分(PI)コントローラ2の伝達関数
G0 コイル・磁場と模型から成る制御対象の伝達関数
Fn ノイズカットフィルタ5の伝達関数
Fd 二重位相進み器6の伝達関数
Claims (4)
- 風洞模型を磁気支持コイルに流される指令電流に基づいて発生される磁場と前記風洞模型内に搭載された磁石との磁気相互作用で生じる磁気力によって風洞内に浮揚支持する磁力支持天秤装置において、前記指令電流と前記風洞模型の位置又は姿勢角との間における制御対象の伝達関数を数学モデルとして同定し、前記風洞模型に働く動的力を、同定された前記伝達関数に基づいて前記風洞模型の位置又は姿勢角、及び前記指令電流の少なくとも一方に対応した値として評価することから成る磁力支持天秤装置における動的力評価システム。
- 前記数学モデルは、前記風洞模型の位置又は姿勢角に入力として既知の目標値を与えたときの、前記目標値、前記模型の位置又は姿勢角の出力、及び前記指令電流値のデータに基づいて求めることから成る請求項1に記載の磁力支持天秤装置における動的力評価システム。
- 前記位置・姿勢角を前記コイルへの指令電流及びホワイトノイズと前記伝達関数とによって表した関係式と、前記指令電流を前記位置・姿勢角の前記目標値と前記位置・姿勢角とによって表した関係式とから、前記指令電流又は前記位置・姿勢角を互いに相関のない前記位置・姿勢角の前記目標値及び前記ホワイトノイズとそれぞれの修正伝達関数とによる関係式で表し、前記各修正伝達関数を開ループシステムにおいて用いられる同定手法を適用して求め、前記各修正伝達関数に基づいて前記制御対象の前記伝達関数を求めることから成る請求項2に記載の磁力支持天秤装置における動的力評価システム。
- 前記目標値は、適当な周波数帯をスイープさせた正弦波状の目標値、又はランダムな値の目標値であることから成る請求項2又は3に記載の磁力支持天秤装置における動的力評価システム。
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