JP3696617B2 - フィブリン特異性が改善されたt‐PA置換変異体 - Google Patents
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Description
I.発明の分野
本発明は組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)変異体、その変異体を製造する方法、及びそれを含有する医薬組成物に関する。
II.発明の背景及び関連分野
プラスミノーゲンアクチベーターは、プラスミノーゲンにおけるアミノ酸残基561及び562間のペプチド結合を開裂して、それをプラスミンに変換させる酵素である。プラスミンはフィブリンなどの種々のタンパク質を分解する活性なセリンプロテイナーゼである。幾つかのプラスミノーゲンアクチベーター、例えばストレプトキナーゼ(細菌タンパク質)、ウロキナーゼ(腎及び他の部位にて合成され、初めは尿から抽出されたもの)、及びt-PAと呼ばれるヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(血管壁を裏うちする細胞から産生される)などが同定されている。
これらプラスミノーゲンアクチベーターそれぞれの作用機序は若干相違している。ストレプトキナーゼはプラスミノーゲン又はプラスミンと複合体を形成してプラスミノーゲン活性化活性を生じさせるものであり、ウロキナーゼはプラスミノーゲンを直接に開裂するものであり、そしてt-PAはプラスミノーゲン及びフィブリン両者と相互作用して最適な活性を生じさせるものである。
t-PAの1本鎖型は低分子量基質及びインヒビターに対する活性が低いが、フィブリンの存在下では、それは本当のチモーゲン(酵素前駆体)ではないにも拘わらず、2本鎖t-PAと同様のプラスミノーゲンアクチベーター活性を示す点で、t-PAは変則的なセリンプロテアーゼである[Rijkenら,J.Biol.Chem.257,2920-5(1982);Lijnenら,Thromb.Haemost.64,61-8(1990)]。野生型t-PAはフィブリン不存在下では貧弱な酵素であるが、フィブリンが存在すると、プラスミノーゲンを活性化する能力が著しく増大する。黒色腫(メラノーマ)又は組換えt-PA(ActivaseR)のプラスミノーゲン活性化に関する触媒効率(触媒速度定数(kcat)/ミカエリス定数(Km))は刺激がない状態では約0.001μM-1sec-1であり、一方フィブリン又はフィブリン分解産物の存在下では、その効率(偽−速度定数)は約1500倍に増大する。
t-PAは一部はその高いフィブリン特異性とインビボにおける強力な血餅溶解能のおかげで、心筋梗塞、肺塞栓症などの血管疾患を処置するための重要かつ新規な生物学的医薬物質として確定されている。
実質的に純粋な形態のt-PAは、最初はCollenらにより天然起源から製造され、そのインビボ活性が試験された[1988年6月21日発行の米国特許第4,752,603号(さらにRijkenら,J.Biol.Chem.256,7035(1981)も参照のこと)]。Pennicaら[Nature 301,214(1983)]はt-PAのDNA配列を決定し、そのDNA配列からアミノ酸配列を推定した[1988年8月23日発行の米国特許第4,766,075号を参照]。
ヒト天然t-PAはアミノ酸117、184、218及び448位に潜在的なN連結グリコシル化部位を有している。高いマンノースオリゴ糖が117位に存在し、複合オリゴ糖が184位及び448位に存在している。117位及び448位は常にグリコシル化されているようであるが、184位は約50%のt-PA分子でグリコシル化されていると考えられる。184位におけるこの部分的なグリコシル化のパターンは、t-PA分子の暴露されていない領域にこの184部位が位置していることに由来すると思われる。184位がグリコシル化されているt-PA分子はI型t-PAと呼ばれ、184位がグリコシル化されていない分子はII型t-PAと呼ばれる。天然t-PAでは218位はグリコシル化されていないことが見いだされた。I型及びII型t-PAは同じセルラインから単離した場合、それらはAsn−117及びAsn−448位が同一の態様でN−グリコシル化されていると報告された。Asn−117は高いマンノースオリゴ糖の混合体と主として関連しており、他方t-PAを線維芽細胞から単離した場合はAsn−184及びAsn−448は複合N−アセチルラクトサミン型構造によって特徴付けられ、メラノーマ細胞から単離した場合は複合−及びオリゴマンノース−型の構造を有している。それらの詳細に関しては、例えば、Parakh,Raj B.ら,Biochemistry 28,7644-7662(1989)及びSpellman,Michael W.ら,J.Biol.Chem.264(24)14100-14111(1989)を参照のこと。CHO細胞における発現によって産生される組換えt-PA(ActivaseR tPA)は、117位の高いマンノースオリゴ糖及びAsn−184及びAsn−448位の複合オリゴ糖から構成される炭水化物を約7重量%で含有していることが報告された[Vehar,G.A.,”組換えDNA技法によって産生されたヒト組織プラスミノーゲンアクチベーターの特性試験”Cold Spring Harbar Symposia on Quantitative Biology 1986;LI:551-562]。
t-PAの構造研究により、この分子は5つのドメインを有することが突き止められた。各ドメインは、トリプシン、キモトリプシン、プラスミノーゲン、プロトロンビン、フィブロネクチン及び表皮性成長因子(EGF)などの他のタンパク質中における相同的又は機能的領域に照らして規定されている。これらのドメインは、t-PAのアミノ酸のN-末端から始めて、アミノ酸1から約44までのフィンガー(F)ドメイン、アミノ酸約45から91までの成長因子(G)ドメイン[EGFとの相同性に基づく]、アミノ酸約92−173のクリングル−1(K1)ドメイン、アミノ酸約180から261までのクリングル−2(K2)ドメイン、及びアミノ酸約264から527位アミノ酸のC末端までのセリンプロテアーゼ(P)ドメイン、と命名されている。これらのドメインは本質的に互いに隣接して位置しており、幾つかは短い「リンカー」領域によって連結されている。このリンカー領域は成熟ポリペプチドのアミノ酸の総数を527に導いているが、3つの付加的な残基(Gly−Ala−Arg)がそのアミノ末端に見いだされる場合があり、これはおそらく分子の不完全な前駆体プロセッシングに由来するものであろう。
上記の各ドメインは、生物学的に意義ある何らかの性質をt-PA分子に付与していると考えられる。フィンガードメインは、フィブリンに対するt-PAの高い結合親和性にとって重要であると考えられるが、欠失突然変異体を用いて得られる証拠によれば、フィブリンへのt-PAの結合がクリングル−2ドメインによっても媒介されることが示唆されている[Van Zonneveld, A.J.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.83,4670-4677(1986);Verheijen,J.H.ら,EMBO J. 5.3525-30(1986)]。血漿クリアランスの構造決定基はフィンガー、成長因子、及びクリングル−1ドメイン上にあると考えられる。クリングル−2ドメインはリジンとの結合に関与している。セリンプロテアーゼドメインは、t-PAの酵素活性及びフィブリン特異性に関与している。天然t-PAは275位及び276位間(このセリンプロテアーゼドメイン内に位置している)で開裂され、2鎖形態の分子となることができる。
天然のヒトt-PAに血餅溶解物質としての充分な利点があるとしても、天然に存在するこのタンパク質の形態が必ずしも、すべての治療的状況下で最適なt-PAを代表しているとは考えられない。
例えば、深部静脈血栓症を処置する場合、再灌流(reperfusion)を行って心筋梗塞を処置する場合、肺塞栓症を処置する場合、又はボーラス注入を使用して処置する場合など、いつかの場合には、より長い半減期及び/又は減少されたクリアランスを有するt-PA分子が望ましいことがある。クリアランスが減少されたt-PA変異体はこの分子から個々のアミノ酸、部分的ドメイン又は完全なドメインを欠失させることによって製造されている。例えば、米国特許第4,935,237号(1990年6月19日発行)に記載されているようにt-PAのフィンガードメインの一部又はそのすべてを除去すると、フィブリン結合特性は実質的に減少するが、クリアランスは減少した分子が得られる。ブラウン(Browne)ら[J.Biol.Chem.263:1599-1602(1988)]はアミノ酸51及び87間の領域(成長因子ドメイン)を除去し、それにより得られる変異体がモルモットモデルにおいて比較的ゆるやかな血漿からのクリアランスを示すことを見いだした。Johannessenら[Thromb.Haemostas.63,54-59(1990)]も、成長因子ドメインが欠失されたt-PAがラット及びウサギにおいて5−10倍に長くなった半減期を有することを見いだした。コラン(Collen)ら[Blood, 71:216(1988)]はアミノ酸6−86(フィンガー及び成長ドメインの一部)を欠失させ、野生型t-PAが5分の半減期であるのに対して、得られた突然変異体がウサギにおいて15分の半減期を有することを見いだした。同様に、カイラン(Kaylan)ら[J.Biol.Chem.,263:3971(1988)]はアミノ酸1−89を欠失させ、野生型t-PAが約2分であるのに対して、この突然変異体のマウスにおける半減期が約15分であることを見いだした。Sobelら[Circulation 81, 1362-73(1990)]は、成長因子ドメインが欠失するか、又は成長因子−クリングル1ドメインが欠失すると共にクリングル2ドメインが重複しているt-PA突然変異体のイヌ及びウサギにおける半減期が長期化していることを見いだした。さらに、フィンガー及び成長因子ドメインを欠くt-PA変異体はハムスターモデルにおいて天然t-PAと比較して10−20倍減少された血漿クリアランスを有している。この同じ試験にて、重複クリングル2ドメインを有するt-PA変異体は3−5倍に減少された血漿クリアランスを有していることが見いだされた[Collenら,Thromb.Haemost. 65, 174-189(1991)]。Cambierら[J.Cardiovasc.Pharmacol.,11:468(1988)]はフィンガー及び成長因子ドメインが欠失され、3つのアスパラギングリコシル化部位が完全に破壊された変異体を構築した。この変異体はイヌで試験した場合、野生型t-PAよりも長い半減期を有することが示された。成長因子ドメイン又はフィンガードメインのみが欠失された変異体もウサギ、モルモット及びラットにおいてクリアランス速度が減少していることが証明された[Higgins及びBennett, Ann.Rev.Pharmacol.Toxical.,30:91(1990)及びそこの引用文献]。フィンガー及びセリンプロテアーゼドメイン(t-PAデル(C51−C251))のみから構成されるt-PA突然変異体もまた、ラット及びウサギにおいて野生型t-PAよりも4−5倍遅い血漿クリアランス及びそれよりも長い半減期を有していた。しかし、ウサギの末梢動脈血栓症モデルでは、この変異体のフィブリン溶解力は天然t-PAのそれの半分程しかなく、そのフィブリン刺激性は顕著に低かった[Trill,J.J.ら,Fibrinolysis 4, 131-140(1990)]。
成長因子領域を種々欠失させることが、1987年10月14日公開のEP−A第241,208号などの特許文献にも報告されている(アミノ酸51−87の欠失、及びアミノ酸51−173の欠失)。さらに、1987年10月7日公開のEP−A第240,334号を参照すれば、そこには成熟した天然t-PAのアミノ酸領域67−69につき、1つ又はそれ以上のアミノ酸を欠失又は置換させることによるその修飾が開示されている。
これらの試験はt-PAのフィンガー及び成長因子ドメインを欠失させると、その血漿クリアランスが顕著に減少することを示している。しかし、同時にこのような変異体の血栓溶解活性は実質的に減少していることが多い。
t-PAのクリアランス速度を遅くさせ、及び/又は半減期を長期化させるもう1つの手段は、t-PA分子を別の分子と複合体化することである。例えば、t-PA−ポリエチレングリコールコンジュゲート体は、EP−A第304,311号(1989年2月22日公開)に報告されているように、t-PAのクリアランス速度を増大させると報告された。t-PAに対するモノクローナル抗体は、その活性を減少させることなくt-PAのインビボにおける機能的な半減期を増大させると報告された(1989年11月2日公開のEP−A第339,505号を参照のこと)。
t-PAの種々のアミノ酸置換変異体が、t-PAの半減期を増大させたり、そのクリアランス速度を減少させたりするそれらの能力について評価された。変異体R275E(天然の成熟t-PAにおける275位のアルギニンがグルタミン酸と置換されている)は、霊長動物及びウサギにおいて試験した場合、野生型t-PAよりも約2倍遅いクリアランス速度を有していることが示された[HotchkissらのThromb.Hemost.,58:491(1987)]。成熟した天然t-PAのアミノ酸63−72の領域における置換、特に67位及び68位の置換は、t-PAの血漿中半減期を増大させると報告されている[1989年12月28日公開のWO 89/12681]。
他の置換変異体の製造方法は、t-PAのグリコシル化部位を非グリコシル化部位に変換する点に焦点を合わせている。ホッチキス(Hotchkiss)ら[Thromb.Hemost.,60:255(1988)]はt-PA分子からオリゴ糖残基を選択的に除去し、ウサギにおいて試験した場合、それらの残基の除去によりt-PAのクリアランス速度が減少することを証明した。エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼH(Endo-H)酵素を使用して117位の高度マンノースオリゴ糖を除去すると、約2倍に減少したクリアランス速度が得られた。過ヨウ素酸ナトリウムを使用して殆どすべてのオリゴ糖残基を酸化すると、野生型t-PAと比較して3倍近く低いクリアランス速度となった。これらの研究者は、117位のグリコシル化を防止するため、t-PA変異体N117Q(天然の成熟t-PAの117位のアスパラギンがグルタミンと置換している)も創製した。この変異体のクリアランス速度は野生型t-PAよりも低かった。1987年9月23日公開のEP−A 238,304、及び1987年6月1日公開のEP−A 227,462も参照のこと。クリングル−2及びプロテアーゼドメインから構成されるt-PAの非グリコシル化変異体は、イヌの冠動脈血栓モデルにおいて野生型t-PAよりも9倍遅い血漿クリアランス及びそれよりも12倍高い血栓溶解力を有すると報告された[Martinら,Fibrinolysis 4(補3):9(要約26)(1990)]。
延長された循環系半減期及び比較的ゆっくりしたクリアランスを有するt-PA変異体を製造するための別のアプローチは、t-PA分子にグリコシル化部位を付加することである。このアプローチの例示として、60、64、65、66、67、78、79、80、81、82及び103位を適当なアミノ酸と置換し、これらの残基のうち幾つかの残基又はその近くの残基にグリコシル化部位を有する分子を創製することが挙げられる(1989年11月30日公開のWO 89/1531を参照のこと)。
ヒトt-PA分子を修飾するための他の鍵部位はプロテアーゼドメイン内全体に位置している。Smithら,(1984年5月24日)のWO 84/01960は、フィブリン溶解活性のある糖タンパク質のフィブリン溶解活性に必須であると考えられる触媒部位をアシル基などの特定のグループを導入することによりブロックすることに指向している。t-PAの275/276開裂部位におけるタンパク質分解的開裂の機能的な帰結を明らかにするため、Arg275残基を部位特異的突然変異によって別のアミノ酸、例えばグルタミン酸又はグリシンに変換した[Tateら,Biochemistry 26,338-43(1987);Uranoら,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.86,2568-71(1989);Petersenら,Biochim.Biophys.Acta 952,245-54(1988);1987年8月19日公開のEP-A 233,013及び1987年8月13日公開のWO 87/04722]。フィブリン(ノーゲン)の不存在下では、これらの突然変異の活性は2本鎖天然t-PAよりも低いが、フィブリンが存在すれば、それらのうちの幾つかは完全なプラスミノーゲン活性能を有することが見いだされた。天然t-PAの277位の突然変異は例えば、1988年12月28日公開のEP−A 297,066、WO 86/01538(1988年6月28日発行の米国特許第4,753,879号に対応)、及び1986年11月12日公開のEP−A 201,153に開示されている。Higginsら,Fibrinolysis 5,43-9(1991)に最近報告されているように、R275E,K277It-PA二重突然変異体はプラスミンによる2本鎖t-PAへの変換に完全に耐性であるが、これはフィブリンの存在下におけるプラスミノーゲンの活性化能を大きな程度で保持している(これは野生型t-PAの約2/3の活性を有している)。野生型t-PAの274−277アミノ酸領域に種々の置換を有しているt-PA変異体は1988年11月23日公開のEP−A 292,009に開示されている。天然t-PAの275位にグリシンを含有する変異体はプラスミンによる開裂に対する感受性が100から1000倍低く、フィブリンの不存在下ではプラスミノーゲン活性化活性を殆ど示さず、フィブリンの存在下ではその活性は顕著であるが、天然t-PAと比較すると低いことが記載されている。t-PAの276位にプロリンを有する別の変異体はプラスミンによって変換され、この変異体の1本鎖型よりも顕著に低い活性しか有していない2本鎖型となることが見いだされた。
t-PAのプロテアーゼドメイン内におけるさらなる既知の修飾は414−433位(1990年1月17日公開のEP−A 351,246)、及び296−299位、416−418位、及び426位、427位、429位、430位(1990年3月22日公開のWO 90/02798)である。t-PA分子の296−302アミノ酸領域はt-PAのプロテアーゼ部分に殆どのセリンプロテアーゼには存在しないユニークな挿入を含有しているが、これはt-PA分子の2つの重要な機能に影響することが示されている。Madisonら[Nature 339,721-724(1989)及びProc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.87,3530-3533(1990)]は、この領域はt-PAとPAI−1との相互作用を制御していることを証明した。そのプロテアーゼの296−299領域がt-PAとPAI−1との相互作用に関与していることが確かめられたことに加え、Bennettら[J.Biol.Chem.266,5191-5201(1991)]の最近の研究において、この領域がt-PAがプラスミノーゲンを活性化できる速度を増大させるフィブリノーゲン及びフィブリンの能力にも関与していることが証明された。Bennettらは、テトラ−アラニン置換KHRR(296−299)AAAAt-PA変異体が野生型t-PAと比較して顕著に改変された酵素特性を有することを観察したのである。この変異体の親残基は殆どのセリンプロテアーゼには存在しない挿入ループにあるが、これはトリペプチド基質S−2288(H−D−イソロイシル−L−プロリル−L−アルギニン−p−ニトロアニリド二塩酸塩)に対する正常なアミド溶解活性を有しているが、刺激物質の不存在下、又は弱い刺激物質フィブリノーゲンの存在下におけるヒトGlu−プラスミノーゲンに対する活性は減少している。しかし、フィブリンの存在下では、この変異体は野生型t-PAよりも3倍近く高い活性を示した。フィブリノーゲンの存在下に減少する活性とフィブリンの存在下における比較的高い活性とを組み合わせた効果によって、KHRR(296−299)AAAAのフィブリン特異性は野生型のt-PAと比較して殆どマグニチュードのオーダーで高くなる。
吸血コオモリ(Desmodus rotundus)の毒液のt-PA(Bat−PA)はフィブリンによって、組換えヒトt-PAが250倍であるのに対して、45,000倍刺激されることが見いだされた[Gardellら,J.Biol.Chem.264,17947-52(1989)]。これは、ヒトt-PAとの相同性の程度が高いにも拘わらずである[EP−A 352,119(1990年1月24日公開)及びEP−A 383,417(1990年8月22日公開)を参照]。EP−A 352,119によれば、完全長Bat−PA及びPennicaら,Nature 301,214-221(1983)に記載されているヒトt-PA間のフィンガー、上皮成長因子及び第1クリングルドメインにおける配列相同性はそれぞれ、78%、75%及び67%である。ヒトt-PAでは、第2クリングルドメイン内のリジン結合部位は活性のフィブリン誘導刺激に重要な役割を果たしていると考えられる。このドメインはコオモリt-PA配列に対応のものを有さないので、その顕著なフィブリン特異性は、現在まで未確定の1つ又はそれ以上の異なる領域にその原因を求めなければならない。大腿部動脈血栓症を有するウサギでは、コオモリt-PAは強力かつフィブリン特異的な血栓溶解物質であるように思われる[Shebuskiら,Fibrinolysis 4(補.3):97(要約248)(1990)]。
プラスミノーゲンアクチベーター及び第2世代のその誘導体の概論は、Harris,Protein Engineering,1:449-458(1987)、及びLijnen,H.R.及びCollen,D.,Thromb.Haemost.66(1)88-110(1991)に見いだすことができる。t-PA変異体の他の概論には、Pannekoekら,Fibrinolysis, 2:123-132(1988)、Rossら,Annual Reports in Medicinal Chemistry,23巻,12章(1988)、及びHiggins及びBennett,前掲などがある。
より新しいかつ種々の局面で良好なt-PA物質がすぐに用意できる証拠を先の開示により提示したが、薬理学的特性が改善されたt-PA変異体のさらなる要求は存在する。より詳細には、296−302の全領域、特に296−299が絡むなどの解く的の突然変異によりフィブリン特異性などの望ましい特性が付与されるが、フィブリノーゲン刺激(又は血漿−刺激)活性よりもフィブリン刺激(又は血漿凝血(血餅)刺激)活性のほうが顕著に高い、即ち野生型ヒトt-PAよりもフィブリン(又は血漿凝血)特異性が高いt-PA変異体であるため、凝血の部位においてのみ機能し、全身的には機能しない変異体を提供するのが望ましいであろう。全身活性が野生型t-PAよりも減じられたこのような分子は出血傾向合併症及び/又は再梗塞の発症率を減少させると期待される。さらに、フィブリン特異性が改善されると共に野生型t-PAの血漿凝血溶解活性を本質的に保持しているt-PA変異体も望まれよう。特に、フィブリン特異性と長期の半減期又はゆっくりとした血漿からのクリアランスとを併せ持つt-PA変異体が望まれよう。このようなt-PA変異体が生産できれば、深部静脈血栓の処置、心筋梗塞後の再還流処置、肺塞栓の処置に有益であろうし、ボーラス注射を使用する処置も可能となるであろう。
従って、本発明の目的は、治療学的及び製薬的特性が改善されたフィブリン特異的なヒトt-PA分子を提供することである。
この目的及び他の目的は当業者ならば、明白であろう。
発明の概要
上記の目的は、成熟野生型ヒトt-PA分子の274−277位のアミノ酸のFRIK配列がLHSTに改変されたヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)変異体を提供することによって達成される。
このように、本発明は、成熟野生型ヒトt-PAアミノ酸配列の274−277位にアミノ酸LHSTを含有するt-PAアミノ酸配列変異体であって、t-PAの生物活性を示し、フィブリン特異性が野生型ヒトt-PAと比較して顕著に増大しており、そのために非折りたたみt-PAよりも優先的に血餅の部位において機能する該変異体を提供するものである。本発明の変異体は、1本鎖又は2本鎖形態いずれでも存在できる天然t-PAとは異なり、275及び277位におけるプロテアーゼ開裂に耐性である点からプロテアーゼ耐性であり、従ってインビボにて代謝的に2本鎖形態に変換されない。
他の態様として、本発明は上記の変異体をコードするDNA配列、このDNA配列を形質転換宿主細胞において発現できる複製可能な発現ベクター、形質転換された宿主細胞、及びその宿主細胞を培養して該t-PA変異体をコードするDNAを発現させることを特徴とする方法を提供する。
また別の態様として、本発明は、本発明のt-PA変異体の治療学的有効量を製薬的に許容される担体と共に含有してなる、血管状態又は血管疾患を処置するための組成物を提供する。
本発明はさらに別の態様として、本発明のt-PA変異体の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の血管状態又は疾患を処置するための方法を提供する。
また、本発明は、本発明のt-PA変異体の治療学的有効量を製薬的に許容される担体と共に含有してなる、フィブリン沈着又は接着形成もしくは再形成を予防するための組成物を提供する。
さらに、本発明は、潜在的なフィブリン又は接着形成のある哺乳動物におけるその部位に本発明t-PA変異体の有効量を投与することを特徴とする、フィブリン沈着又は接着形成もしくは再形成を予防するための哺乳動物の処置方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
第1図はpRK.t-PAの構築の模式図である。ヒトt-PA cDNAをHindIII及びBalIで消化し、それを真核生物発現ベクターpRK7のHindIII及びSalI部位間に挿入した。
発明の詳細な説明
I.定義
「t-PA」、「ヒトt-PA」、及び「ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター」なる用語は、通常は5つのドメイン(フィンガー、成長因子、クリングル−1、クリングル−2、及びプロテアーゼドメイン)からなる構造を有しているフィブリン溶解活性を有するヒト内因性(組織型)プラスミノーゲンアクチベーターを意味するが、5つのドメインとはいってもそのうちの幾つかのドメインを有している、又はそのドメインの幾つかが反復しているt-PAであってもそれが血栓溶解物質として機能するならば、それらも包含する意味である。t-PAは、プラスミノーゲンをプラスミンに変換できるプロテアーゼドメイン及びフィブリン結合性に少なくとも一部分は関与していると考えられているN末端領域から構成される2つの機能的な領域を最低限、含んでいる。従って、これらの用語は、上記の機能ドメインをポリペプチドのアミノ酸配列の一部として含有しているそのようなポリペプチドをも包含する。生物学的に活性な形態のt-PAは、この分子の上記2つの機能領域及びt-PAの供給源本来のそれら以外のt-PAの他の部分を含有する形態として組換え細胞培養系によって生産することができる。各個体のt-PAのアミノ酸配列における1つ又はそれ以上のアミノ酸の相違によって示されるように、個体間毎に天然のアレル変異体が存在し、また生じ得ることは理解されよう。
「野生型t-PA」、「天然t-PA」、「野生型ヒトt-PA」及び「天然ヒトt-PA」なる用語は天然配列のヒトt-PA、即ち1988年8月23日発行の米国特許番号第4,766,075号にて報告されているcDNAによってコードされているt-PAを意味する。このt-PA分子のアミノ酸部位の番号又は位置は米国特許番号第4,766,075号(前掲)に従って決めている。t-PAは天然起源から得ることができる。さらに、t-PAは、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)又はヒト腎胚293細胞などの組換え発現系から入手することもできる。
「(t-PA)生物活性」、「生物学的に活性な」、「活性」及び「活性な」なる用語は、血漿凝血の存在下、又はフィブリンの存在下のS2251検定、S2288検定、血漿凝血溶解検定、又は他の適当な検定において測定される、t-PA分子がプラスミノーゲンをプラスミンに変換できる能力を意味する。本発明のt-PA分子はプラスミンによる2本鎖t-PAへの変換に耐性であるので、1本鎖として検定される。検定(群)は活性の潜在的な調節物質、例えばフィブリン、フィブリノーゲン、血漿及び/又は血漿凝血の存在又は不存在下に実施すればよい。
「血餅(凝血)溶解活性」なる用語は、上記の検定を使用し、精製フィブリン又は血漿から誘導されることに無関係な血餅を溶解するt-PA分子の活性を意味する。
「フィブリン特異性」なる用語は、S2251検定におけるフィブリノーゲン依存性比活性に対するフィブリン依存性比活性の比率が野生型rt-PAよりも高い、好ましくは少なくとも1.5の比率を示す突然変異体の活性を意味する。
「クリアランス速度」及び「クリアランス」なる用語は、t-PA分子が血流から除去される速度を意味する。クリアランスが減少されていれば、そのt-PA変異体は天然t-PAよりもゆっくりと消失することを意味し、クリアランスが増大していれば、そのt-PAは天然t-PAよりも迅速に消失するなど、クリアランスは天然t-PAと比較して測定される。
「アミノ酸」及び「アミノ酸群」なる用語は天然に存在するすべてのL−α−アミノ酸を意味する。この定義は、ノルロイシン、オルニチン、及びホモシステインを包含するものである。アミノ酸は、以下の1文字又は3文字命名法によって特定される:
Asp D アスパラギン酸 Ile I イソロイシン
Thr T スレオニン Leu L ロイシン
Ser S セリン Tyr Y チロシン
Glu E グルタミン酸 Phe F フェニルアラニン
Pro P プロリン His H ヒスチジン
Gly G グリシン Lys K リジン
Ala A アラニン Arg R アルギニン
Cys C システイン Trp W トリプトファン
Val V バリン Gln Q グルタミン
Met M メチオニン Asn N アスパラギン
これらのアミノ酸は化学組成及びそれらの側鎖の性質に応じて分類することができる。これらのアミノ酸は、帯電及び非帯電アミノ酸と大きく2つのグループに分類される。これらのグループはそれぞれサブグループに分割され、アミノ酸はさらに厳密に分類できる:
I.帯電アミノ酸
酸性残基:アスパラギン酸、グルタミン酸
塩基性残基:リジン、アルギニン、ヒスチジン
II.非帯電アミノ酸
親水性残基:セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン
脂肪族残基:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン
非極性残基:システイン、メチオニン、プロリン
芳香族残基:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン
「改変」、「アミノ酸配列改変」、「変異体」及び「アミノ酸配列変異体」なる用語は、アミノ酸配列が天然t-PAと比較して幾つかの相違点を有しているt-PA分子を意味する。普通、変異体は天然t-PAと少なくとも80%の相同性を有しているが、天然t-PAとは少なくとも約90%で相同的であるのが好ましい。本発明の範囲内にあるt-PAのアミノ酸配列変異体は野生型ヒトt-PAの274−277位のアミノ酸部位にLHSTの置換を有しており、さらに特定の他の位置に置換、欠失及び/又は挿入を有している場合もある。
置換t-PA変異体は、天然t-PA配列中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、その同じ部位に別のアミノ酸が挿入されているものである。この置換は、分子内のアミノ酸1つだけを置換させる場合は1つでよく、あるいは同じ分子内に2つ又はそれ以上のアミノ酸を置換する場合は多数であってもよい。
電荷及び/又は構造が天然アミノ酸とは有意に異なる側鎖を有するアミノ酸で置換すれば、t-PA分子の活性を実質的に変動させることができる。このタイプの置換を行えば、この分子の置換領域のポリペプチド骨格の構造及び/又は電荷又はハイドロホビシティーに影響を与えることができると期待される。
t-PA分子の活性は、天然分子の側鎖と電荷及び/又は構造が類似している側鎖を有するアミノ酸で置換すれば、穏やかに変動させることができよう。このタイプの置換は保存的置換と呼ばれるが、この分子の置換領域のポリペプチド骨格の構造又は電荷又はハイドロホビシティーのいずれかも実質的に変化させないと期待される。
挿入t-PA変異体は、天然t-PA分子の特定の位置にあるアミノ酸のすぐ隣に1つ又はそれ以上のアミノ酸が挿入されたものである。「アミノ酸のすぐ隣に」とは、アミノ酸のα−カルボキシ又はα−アミノ官能基のいずれかに連結することを意味する。この挿入はアミノ酸1つ又はそれ以上であってよい。普通、挿入は1つ又は2つの保存的アミノ酸から構成される。電荷及び/又は構造が挿入部位に隣接するアミノ酸と類似しているアミノ酸は保存的と規定される。別に、本発明は、挿入部位に隣接するアミノ酸とは実質的に異なる電荷及び/又は構造を有するアミノ酸の挿入も包含している。
欠失変異体は、天然t-PA分子の1つ又はそれ以上のアミノ酸が除去されているものである。普通、欠失変異体は、t-PA分子の特定の領域にある1つ又は2つのアミノ酸が欠失されている。
t-PAアミノ酸配列変異体を説明するために本明細書全体で使用している命名法を次に説明する。t-PAのポリペプチド鎖の特定のアミノ酸の位置は数字で特定している。この数字は、1988年8月23日発行の米国特許番号第4,766,075号に記載されている成熟野生型ヒトt-PAポリペプチドのアミノ酸配列のアミノ酸位置を意味する。t-PA変異体の実際の残基番号はその分子の欠失又は挿入によって上記のような番号の並びではないが、本明細書では、t-PA変異体内の同様に位置した残基もこれらの数字によって命名している。これは例えば、部位特異的な欠失又は挿入変異体に存在する。アミノ酸の特定には1文字コードを使用している。置換アミノ酸は、野生型アミノ酸のポリペプチド鎖の位置を示す数字の左側に野生型アミノ酸を特定し、そしてその数字の右側に置換されたアミノ酸を特定することで命名している。
例えば、野生型ヒトt-PAの274、275、276及び277位のアミノ酸において、フェニルアラニン(F)、アルギニン(R)、イソロイシン(I)及びリジン(K)をアミノ酸ロイシン(L)、ヒスチジン(H)、セリン(S)及びスレオニン(T)と置き換えると、F274L,R275H,I276S,K277Tt-PA、又はより短くすればFRIK(274−277)LHSTt-PAと命名される。
欠失変異体は、包括的な欠失のいずれかの端のアミノ酸残基及び位置を示し、示したアミノ酸の左側にギリシヤ文字「Δ」を配置することによって特定される。例えば、アミノ酸296−299の欠失を有するt-PA変異体はΔK296−H297−R298−R299t-PA(ここに、K、H及びRはそれぞれ、アミノ酸リジン、ヒスチジン及びアルギニンを表す)と示される。1つのアミノ酸、例えばK296が欠失される場合は、ΔK296と表される。挿入t-PA変異体は、挿入されたアミノ酸の回りを括弧「[]」でくくり、挿入のいずれかの側のアミノ酸の位置を示すことによって挿入の位置を示して命名される。例えば、94位のグルタミン酸と95位のアスパラギン酸との間にアミノ酸アラニン(A)が挿入される場合は、E94[A]D95と表される。読み易くするために、カンマ「,」を使用し、1つの分子に存在する多重突然変異を分離して表し、また幾つかのt-PA変異体分子を同時に挙げる場合には、セミコロン「;」を使用して、構築された個々のt-PA変異体分子を分離して表す。
「・・・をコードするDNA配列」、「・・・をコードするDNA」及び「・・・をコードする核酸」なる用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序又は配列を意味する。これらデオキシリボヌクレオチドの順序によって、ポリペプチド鎖に沿ったアミノ酸の順序が決められる。従って、DNA配列はアミノ酸配列をコードしている。
「複製可能な発現ベクター」及び「発現ベクター」なる用語は、外来DNA片が既に挿入することのできた、通常は2本鎖であるDNA片を意味する。外来DNAは異種DNAと規定され、これは宿主細胞内に天然では見いだされないDNAである。このベクターは、外来即ち異種DNAを適当な宿主細胞に輸送するために使用される。ベクターは宿主細胞内に入ったなら、宿主の染色体DNAとは独立して複製でき、ベクター及びその挿入された(外来)DNAの幾つかのコピーが創製される。さらに、このベクターは、外来DNAをポリペプチドに翻訳させる必須要素を含有している。外来DNAによってコードされているポリペプチドの多くの分子はこのようにして迅速に合成することができる。
「形質転換宿主細胞」及び「形質転換」なる用語は、DNAを細胞に導入することを意味する。この細胞は「宿主細胞」と呼ばれ、原核生物又は真核生物細胞のいずれでもよい。典型的な原核生物宿主細胞としては大腸菌の種々の株が挙げられる。典型的な真核生物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞又はヒト腎胚293細胞などの哺乳動物である。導入されるDNAは通常、挿入されたDNA片を含有するベクターの形態にある。導入DNA配列は宿主細胞と同じ種又は宿主細胞とは異なる種由来のいずれでもよく、又は何等かの外来DNA及び何等かの同種DNAを含有する雑種DNA配列であってもよい。
II.一般的な方法
A.変異体の選択
本発明の変異体は、野生型ヒトt-PAアミノ酸配列の274、275、276及び277位アミノ酸部位にそれぞれ、アミノ酸ロイシン(L)、ヒスチジン(H)、セリン(S)、及びスレオニン(T)を必要不可欠なものとして含有する。この改変により、プラスミン開裂部位が喪失され、そのため、得られた変異体は実質的に1本鎖形態となる。このような変異体はさらに、他のアミノ酸置換、欠失又は挿入を含有することで、フィブリン特異性がさらに向上でき、及び/又は血漿半減期の増大又はクリアランスの遅速などの付加的な所望の性質を付与することができる。
フィブリン特異性をさらに改善するため、FRIK(274−277)LHSTt-PA変異体は例えば、セリンプロテアーゼドメインの296−302アミノ酸部位、好ましくは296−299部位でさらに突然変異することができる。好ましい変異体では、野生型t-PAの296−299部位のアミノ酸リジン(K)、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、アルギニン(R)それぞれがアラニンと置き換えられ、FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAAt-PA変異体となる。野生型t-PAの299位のアルギニンをアスパラギン酸と置換するのは、フィブリン特異性をさらに改善させる別の可能性ある手段である。さらに好ましい変異体では、野生型t-PAの296、297及び301位アミノ酸のリジン(K)、ヒスチジン(H)、及びプロリン(P)がそれぞれ、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)及びセリン(S)と置き換えられ、FRIK(274−277)LHST,K296Q,H297N,P301St-PA変異体となっている。
分子のクリアランスを減少させ得る、可能性ある付加又は改変突然変異を例示すれば、天然t-PAアミノ酸配列における103位スレオニン又は67位チロシンのアスパラギンとの置換、又は107位アラニンのセリンとの置換と一緒の105位セリンのアスパラギンの置換(1989年11月30日公開のWO 89/11531)、及び/又は天然t-PAアミノ酸配列における117位又は184位のアスパラギンのアラニン又はセリン、又は好ましくはグルタミンとの置換などが挙げられる。クリアランス速度及び/又は半減期を改善させる別の手段は、本発明のFRIK(274−277)LHSTt-PA変異体からフィンガー及び/又は成長因子ドメインの一部又はそのすべてを除去することである。あるいは、又はさらに、天然t-PA分子の例えば60、64、65、66、67、78、79、80、81、82及び103位アミノ酸位の1つ又はそれ以上の部位に、又はそれらの近傍にグリコシル化部位を付加することによって、循環半減期を延長させ、又はクリアランスをゆっくりとさせることができる。
また、本発明の分子の特定の部位を置換し、又は欠失を含有させることで、チモーゲニシティー(zymogenicity)などの付加的な所望の性質を付加させることができる。ヒトt-PAにおけるこれらの位置としては例えば、416−418位のそれぞれリジン、ヒスチジン及びグルタミン酸のアラニンとの置換、94位のグルタミン酸のアラニンとの置換、及び/又は95位アスパラギン酸のアラニン又はグリコシル化との置換、及び426、427、429及び430位のそれぞれグルタミン酸、アルギニン、リジン及びグルタミン酸のアラニンとの置換が挙げられ、これらは例えば1990年3月22日公開のWO 90/02798に開示されている。
適当な多重突然変異体としては例えば、以下のものが挙げられる:FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA t-PA;FRIK(274−277)LHST,R299D t-PA;FRIK(274−277)LHST,K296Q,H297N,P301S t-PA;FRIK(274−277)LHST,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,R299D,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,K296Q,H297N,P301S,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,R299D,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,K296Q,H297N,P301S,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,R299D,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,K296Q,H297N,P301S,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,T103N,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,S105N,A107S,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,T103N,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,S105N,A107S,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N t-PA;FRIK(274−277)LHST,N117A t-PA;FRIK(274−277)LHST,N117S t-PA;FRIK(274−277)LHST,N184A t-PA;FRIK(274−277)LHST,N184S t-PA;FRIK(274−277)LHST,N184Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N117A t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N117S t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,T103N,N184A t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N184A t-PA;FRIK(274−277)LHST,T103N,N184S t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,T103N,N184S t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N184S t-PA;FRIK(274−277)LHST,T103N,N184Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,Y67N,N184Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,D95G t-PA;FRIK(274−277)LHST,E94A,D95A t-PA;FRIK(274−277)LHST,E94A,D95A,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,E94A,D95A,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,E94A,D95A,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,E94A,D95A t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,E94A,D95A,T103N t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,E94A,D95A,N117Q t-PA;FRIK(274−277)LHST,KHRR(296−299)AAAA,E94A,D95A,S105N,A107S t-PA;FRIK(274−277)LHST,K416A,H417A,E418A t-PA;FRIK(274−277)LHST,E426A,R427A,K429A,E430A t-PA;FRIK(274−277)LHST,K429Y t-PA。
B.変異体の構築
本発明のt-PAアミノ酸配列変異体は好ましくは、野生型t-PAをコードするDNA配列を突然変異させることによって構築される。一般には、DNAの特定の領域又は部位を突然変異誘発のために標的化するものであり、従ってこれを行うための一般的手法は部位特異的突然変異誘発と呼ばれる。このような突然変異は、制限エンドヌクレアーゼ(特定の部位でDNAを開裂する)、ヌクレアーゼ(DNAを分解する)、及び/又はポリメラーゼ(DNAを合成する)などのDNAを改変する酵素を使用して行う。
1.単純な欠失及び挿入
DNAを制限エンドヌクレアーゼで消化した後、連結させれば、サムブルック(Sambrook)らの15.3項[Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2版,Cold Spring Harbar Laboratory Press,ニューヨーク(1989)]に記載されているように、欠失を生じさせることができる。この方法を使用するためには、外来DNAをプラスミドベクターに挿入するのが好ましい。外来(挿入)DNA及びベクターDNAの両者の制限地図は利用可能でなければならず、又は外来DNA及びベクターDNAの配列は知られていなければならない。外来DNAは、ベクターには存在しないユニークな(唯一の)制限部位を有していなければならない。次いで、適当な制限エンドヌクレアーゼをその酵素の製造元が教示している条件下で使用し、これらのユニークな制限部位間で消化し、外来DNAに欠失を施す。使用する制限酵素が平滑末端又は適合する末端を生じさせるなら、バクテリオファージT4 DNAリガーゼなどのリガーゼを使用し、ATP及びサムブルックら(前掲)の1.68項に記載されているリガーゼ緩衝液の存在下に16℃で1−4時間、得られた混合物をインキュベートすることにより、それらの末端は直接に連結させることができる。これらの末端が適合しない場合は、消化DNAの突出した1本鎖末端を充填するために4つのデオキシリボヌクレオチド三リン酸が必要であるDNAポリメラーゼI又はバクテリオファージT4 DNAポリメラーゼのクレノー断片を使用し、まず始めにそれらを平滑末端とする。あるいは、これらの末端は、DNAの突出した1本鎖を切断(カッティング・バック)することにより共に機能するヌクレアーゼS1又はヤエナリ・ヌクレアーゼ(mung-bean nuclease)などのヌクレアーゼを使用して平滑末端にすることもできる。次いで、得られたDNAをリガーゼを用いて再連結する。これにより得られた分子がt-PA欠失変異体である。
同様のストラテジーを使用することによって、サムブルックら(前掲)の15.3項に記載されているように、挿入変異体を構築することができる。外来DNAをユニークな制限部位(群)において消化した後、オリゴヌクレオチドを、外来DNAが切断されたその部位に連結する。このオリゴヌクレオチドは、挿入する所望のアミノ酸をコードするように設計したものであり、また直接に連結できるように、消化した外来DNAの末端と適合する5’及び3’末端をさらに有している。
2.オリゴヌクレオチド−媒介性突然変異誘発
オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発は本発明の置換変異体を製造するための好ましい方法である。これは、本発明の欠失及び挿入変異体を簡便に製造するためにも使用できる。この手法は、アデルマン(Adelman)らによって開示されているように[DNA 2,183(1983)]、当業者に周知である。
一般には、少なくとも25ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドを使用し、t-PA分子の2つ又はそれ以上のヌクレオチドを挿入、欠失又は置換する。最適なオリゴヌクレオチドは、突然変異をコードするヌクレオチドのいずれかの側のヌクレオチドと完璧に適合する12から15のヌクレオチドを有している。これにより、オリゴヌクレオチドが1本鎖DNAの鋳型分子と適切にハイブリダイズするようになる。このオリゴヌクレオチドは、クレア(Crea)ら[Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.75,5765(1978)]に記載されている手法などの当業者に周知の手法によって容易に合成することができる。
DNA鋳型分子は、野生型cDNA t-PA挿入体を有するベクターの1本鎖の形態である。この1本鎖の鋳型は、バクテリオファージM13ベクター(市販されているM13mp18及びM13mp19が適当である)、又はベイラ(Veira)ら[Meth.Enzymol. 153,3(1987)]に記載されている1本鎖ファージの複製起点を含有するベクターのいずれかから誘導されるベクターによって作成することができるのみである。従って、突然変異しようとするcDNA t-PAは、1本鎖の鋳型を創製するためにこれらのベクターの1つに挿入しなければならない。1本鎖の鋳型の生産は、サムブルックら(前掲)の4.21−4.41項に記載されている。
野生型t-PAを突然変異するには、適当なハイブリダイゼーションの条件下で1本鎖DNAの鋳型分子とアニーリングする。次いで、DNAポリマー化酵素、通常は大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIのクレノー断片を加える。この酵素は、突然変異を有するDNA鎖を合成するために、プライマーとしてオリゴヌクレオチドを利用する。従って、DNAの1つの鎖がベクターに挿入される野生型t-PAをコードしており、第2のDNAの鎖が同じベクターに挿入された突然変異形態のt-PAをコードしているヘテロ二重ラセン分子が形成される。次いで、このヘテロ二重ラセン分子を適当な宿主細胞、通常はE.coli JM101などの原核生物に形質転換する。得られた細胞を発育させた後、それをアガロース平板にプレートし、32−Pで放射線標識したオリゴヌクレオチドプライマーを使用してスクリーニングし、突然変異されたt-PAを含有するコロニーを同定する。そのようなコロニーを選択し、t-PA分子に突然変異が存在しているかを確認するため、DNAの配列決定を行う。
1つ以上のアミノ酸が置換されている突然変異体は、幾つかの方法の中の1つの方法によって生成させることができる。ポリペプチド鎖中に複数のアミノ酸を近接して一緒に配置させる場合は、所望のアミノ酸置換のすべてをコードする1つのオリゴヌクレオチドを使用して同時に突然変異させることができる。しかし、アミノ酸が互いに若干距離をおいて位置している場合(例えば、10アミノ酸以上で分割されている場合)は、所望の変化をすべてコードする単一のオリゴヌクレオチドを生成させるのは比較的困難である。その場合は代わりに、2つの代替方法のいずれかを使用すればよい。第1の方法では、置換させる各アミノ酸毎にオリゴヌクレオチドを別々に創製する。次いで、それらのオリゴヌクレオチドを1本鎖鋳型DNAに同時にアニーリングすれば、この鋳型から合成された第2のDNA鎖は所望のアミノ酸置換をすべてコードすることになる。別の方法は、2つ又はそれ以上の突然変異誘発工程によって所望の突然変異体を生産することに関する。第1工程は単一突然変異体について記載しているとおりの方法である:
野生型t-PA DNAを鋳型として使用し、第1の所望のアミノ酸置換(群)をコードするオリゴヌクレオチドをこの鋳型とアニーリングし、次いでヘテロ二重ラセンDNA分子を生成させる。第2の突然変異誘発工程は、突然変異誘発の第1工程で調製した突然変異DNAを鋳型として使用する。従って、この鋳型は既に1つ又はそれ以上の突然変異を含有している。次いで、付加的な所望のアミノ酸置換(群)をコードしているオリゴヌクレオチドをこの鋳型とアニーリングすると、得られるDNAの鎖は、第1及び第2工程の突然変異誘発の両者に由来する突然変異を新たにコードすることになる。この得られたDNAは、第3の突然変異誘発工程、などにおいて鋳型として使用することができる。
t-PA変異体をコードするDNAをポリペプチドとして発現させるため、このDNAをベクターから切り取り、真核生物宿主細胞発現にとって適切な発現ベクターに挿入する。長期の安定なt-PA生産のためには、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が好ましい。しかし、本発明はCHO細胞におけるt-PA変異体の発現に限定されるものでなく、特に、実験目的にt-PA変異体を一時的にしか発現させる必要がない場合などは、多くの他の細胞型が使用できることが知られている。
C.宿主細胞培養及びベクター
1.原核生物細胞
原核生物は、本発明の最初のクローニング工程にとって好ましい。原核生物は、DNAの迅速な大量生産、部位特異的突然変異に使用される1本鎖DNAの鋳型の生産、多くの突然変異体の同時スクリーニング、及び生成される突然変異体のDNAの配列決定にとって特に有用である。適当な原核生物宿主細胞には、E.coli(大腸菌)K12株294(ATCC No.31,446)、E.coli株W3110(ATCC No.27,325)、E.coli X1776(ATCC No.31,537)、及びE.coli Bなどがある。しかし、HB101、JM101、NM522、NM538、NM539などのE.coliの他の多くの株、並びに他の多くの原核生物の種及び属も同様に使用することができる。
原核生物はDNA配列の発現のためにも宿主として使用できる。上記に挙げたE.coli株の他、バシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などのバシラス属、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)又はセラチア・マルセサンス(Serratia marcesans)などの他の腸内細菌、及び種々のシュードモナス(Pseudomonas)種などもすべて宿主として使用できる。
これらの宿主は、その宿主細胞と適合する種由来のレプリコン及び制御配列を含有するプラスミドベクターと共に使用する。そのベクターは通常、複製部位、形質転換された細胞内において表現型の選択性を付与するマーカー遺伝子、1つ又はそれ以上のプロモーター、及び外来遺伝子を挿入するための幾つかの制限部位を含有するポリリンカー領域を含有する。E.coliの形質転換に通常使用されるプラスミドには例えば、pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、及びブルースクリプト(Bluescript)M13などがあり、これらはすべてサムブルックら(前掲)の1.12−1.20項に記載されている。しかし、多くの他の適切なベクターも同様に利用可能である。これらのベクターはアンピシリン及び/又はテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子を含有しており、それによりこれらのベクターによって形質転換された細胞はそれらの抗生物質の存在下に発育することが可能となる。
原核生物ベクターに最も普通に使用されるプロモーターとしては、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)及びラクトースプロモーター系[チェンジ(Chang)らのNature 375,615(1978);イタクラ(Itakura)らのScience 198,1056(1977);ゴーデル(Goeddel)らのNature 281,544(1979)]、及びトリプトファン(trp)プロモーター系[ゴーデルらのNucleic Acids Res.8,4057(1980);EPO出願公開第36,776号]、及びアルカリホスファターゼ系が挙げられる。これらは最も普通に使用されるものであるが、他の微生物プロモーターも利用され、それらのヌクレオチド配列に関する詳細も既に開示されており、当業者ならば、それらをプラスミドベクターに機能的に連結させることができる[シーベンリスト(Siebenlist)らのCell 20,269(1980)を参照]。
2.真核微生物
本発明の実施には、原核生物に加え、糸状菌又は酵母などの真核微生物も適している。下等真核生物宿主の微生物の中では、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、又は普通のパン酵母が最も普通に使用される。しかし、他の多くの属、種及び株が市販され、かつそれらは本発明に有用であり、例示すればシゾサッカロマイセス・ポムベ(Schizosaccharomyces pombe)[Beach及びNurse, Nature, 290;140(1981);1985年5月2日公開のEP 139,383];クルイベロマイセイス(Kluyveromyces)宿主(米国特許第4,943,529号;Fleerら,前掲)、例えばK.ラクチス(K.lactis)[MW98−8C,CBS683,CBS4574;Louvencourtら,J.Bacteriol.,737(1983)]、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12,424)、K.ブルガリカス(K.bulgaricus)(ATCC 16,045)、K.ウィッケラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24,178);K.ワルチイ(K.waltii)(ATCC 56,500)、K.マルキサヌス(K.marxianus);varrowia[EP 402,226];ピシア・パストリス(Pichia pastoris)[EP 183,070;Sreekrichnaら,J.Basic Microbiol., 28:265-2778(1988)];カンジダ(Candida);トリコデルマ・リエシア(Trichoderma reesia)[EP 244,234];ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)[Caseら,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.76:5259-5263(1979)];シュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyses occidentalis)などのシュワンニオマイセス(Schwanniomyses)属[1990年10月31日公開のEP 394,538];及び例えばニューロスポラ(Neurospora)、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)などの糸状菌類[1991年1月10日公開のWO 91/00357]及びアスペルギルス(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)[Ballanceら,Biochem.Biophys.Res.Commum., 112:284-289(1983);Tilburnら,Gene, 26:205-221(1983);Yeltonら,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.81:1470-1474(1984)]及びA.ニガー(A.niger)[Kelly及びHynes, EMBO J., 4:475-479(1985)]。
酵母ベクターにおける適当なプロモーター配列には、3−ホスホグリセレートキナーゼのプロモーター[ヒッツェマン(Hitzeman)らのJ.Biol.Chem.255:2073(1980)]、又はエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼなどの他の解糖系酵素[ヘス(Hess)らのJ.Adv.Enzyme Reg.7:149(1968);ホーランド(Holland)らのBiochemistry 17,4900(1978)]のプロモーターなどがある。適当な発現プラスミドを構築するに当たっては、これらの遺伝子に付随する終止配列も、発現させようとする配列の3’側で発現ベクターに連結させ、mRNAのポリアデニル化及び終止機能を付与する。発育条件によって転写が制御されるという付加的な利点を有している他のプロモーターには、アルコール脱水素酵素2、イソチトクロームC、酸ホスファターゼ、窒素代謝に関与する分解酵素、及び上記のグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、及びマルトースとガラクトースの利用に関与する酵素、にかかるプロモーター領域がある。酵母に適合するプロモーター、複製起点及び終止配列を含有するプラスミドベクターが好適である。
3.真核多細胞生物
本発明を実施するためには、多細胞生物由来の細胞培養も宿主として使用することができる。脊椎動物及び無脊椎動物培養のいずれの由来であっても許容できるが、脊椎動物細胞培養、特に哺乳動物培養が好ましい。適当なセルラインとしては例えば、SV40によって形質転換されたサル腎CV1ライン[COS−7、ATCC CRL 1651];ヒト腎胚ライン293S[Grahamら,J.Gen.Virol.,36:59(1977)];幼若ハムスター腎細胞[BHK,ATCC CCL 10];チャイニーズハムスター卵巣細胞[Urlab and Chasin, Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.77:4216(1980)];マウス・セルトリ細胞(mouse sertoli)[TM4,Mather, Biol.Reprod.,23:243(1980)];サル腎細胞[CVI−76,ATCC CCL 70];アフリカミドリザル腎細胞[VERO−76,ATCC CRL 1587];ヒト子宮癌細胞[HELA,ATCC CCL 2];イヌ腎細胞[MDCK,ATCC CCL 34];バッファロー・ラット肝細胞[BRL 3A,ATCC CRL 1442];ヒト肺細胞[W138,ATCC CCL 75];ヒト肝細胞[Hep G2,HB 8065];マウス乳房腫瘍細胞[MMT 060562,ATCC CCL 51];ラット肝癌細胞[HTC,MI.54,ボウマン(Baumann)らのJ.Cell Biol.,85:1(1980)];及びTRI細胞[MatherらのAnnals N.Y.Acad.Sci.,383:44(1982)]が挙げられる。これらの細胞のための発現ベクターは普通、(要すれば)複製起点、発現すべき遺伝子の前に位置するプロモーター、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写ターミネーター部位のDNA配列を含有している。
哺乳動物発現ベクターに使用されるプロモーターは、ウイルス起源のものが多い。これらウイルスプロモーターは普通はポリオーマウイルス、アデノウイルス2、及び最も頻繁にはアカゲザルウイルス40(SV40)から誘導される。SV40ウイルスは初期及び後記プロモーターと呼ばれる2つのプロモーターを含有する。これらのプロモーターは共にウイルスの複製起点をも含有する1つのDNA断片として該ウイルスから容易に入手されるので、特に有用である[フィールズ(Fiers)らのNature,273:113(1978)]。また、それよりも小さな又は大きなSV40 DNA断片も、このウイルスの複製起点内に位置するHindIII部位からBglI部位に伸長する約250bp配列を含有する限りは、使用することができる。さらに、形質転換のために選択する宿主セルラインと適応する限りは、外来遺伝子に天然で伴われているプロモーター(同種プロモーター)を使用することもできる。
複製起点は、SV40又は他のウイルス(例えば、ポリオーマ、アデノ、VSV、BPV)などの外因性供給源から入手することができ、それをクローニングベクターに挿入すればよい。あるいは、複製起点は宿主細胞の染色体の複製メカニズムによって付与することができる。外来遺伝子を含有するベクターが宿主細胞の染色体に組み込まれるなら、後者で十分である場合が多い。
ヒトt-PAは形質転換された細胞培養から満足のいく量で生産される。しかし、第2のコード化配列を使用すれば、さらに生産レベルを向上させることができる。この第2のコード化配列は通常、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を含有するものである。野生型のDHFRは正常では化学物質メトトレキサート(MTX)によって阻害される。細胞内のDHFR発現レベルは、培養宿主細胞に加えるMTXの量によって変動する。DHFRを第2の配列として特に有用としているさらなる性質は、それが形質転換細胞を同定するための選択マーカーとして使用できることである。
DHFRを第2の配列として使用するには、野生型DHFR及びMTX−耐性DHFRの2つの型が利用できる。個々の宿主細胞で使用されるDHFRの型は、宿主細胞がDHFR欠損であるか否か(例えば、非常に低いレベルでしかDHFRを内生的に産生しないか、又は機能的DHFRを全く産生しないか)によって決定される。ウルローブ及びチャシン(Urlaub及びChasin)の[Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.77:4216(1980)]に記載されているCHOセルラインなどのDHFR欠損セルラインを野生型DHFRコード化配列で形質転換する。形質転換された後では、これらのDHFR欠損セルラインは機能的なDHFRを発現し、ヒポキサンチン、グリシン及びチミジン栄養素を欠く培養培地中で増殖することができる。形質転換されていない細胞はこの培地中では生存しない。
MTX耐性型のDHFRは、MTX感受性の機能的DHFRを正常な量で内生的に産生する宿主細胞の中から形質転換宿主細胞を選択する手段として使用できる。CHO−K1セルライン(ATCC No.CL 61)はこれらの特性を有しており、従ってこの目的にとって有用なセルラインである。細胞培養培地にMTXを添加すれば、MTX耐性DHFRをコードするDNAで形質転換された細胞のみを発育させることができる。形質転換されていない細胞はこの培地中で生存することはできない。
本発明の変異体を生産するために使用される哺乳動物宿主細胞は種々の培地中で培養することができる。この宿主細胞を培養するには、Ham's F10[シグマ]、最小必須培地([MEM]、シグマ)、RPMI−1640[シグマ]、及びダウベッコ改変イーグル培地([DMEM]、シグマ)が適当である。さらに、Ham及びWallace[Meth.Enz.,58:44(1979)]、Barnes及びSato[Anal.Biochem., 102:255(1980)]、米国特許第4,767,704号;第4,657,866号;第4,927,762号;又は第4,560,655号,WO 90/03430;WO 87/00195;米国特許Re.30,985;又は米国特許第5,122,469号に記載されているいずれの培地もこの宿主細胞の培養培地として使用できる。これらの培地にはいずれも、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、又は上皮性成長因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン)、微量元素(通常は終濃度がマイクロモル濃度の範囲で存在する無機化合物と規定されるもの)、及びグルコース又はそれと等価のエネルギー供給源を、要すれば添加することができる。他の必須の添加物質であっても、当業者に知られている適当な濃度で含有させることもできる。
4.分泌系
細胞から通常分泌される多くの真核生物タンパク質は、内生のシグナル配列をそのアミノ酸配列の一部として含有している。この配列は小胞体及びゴルジ装置を介して細胞からタンパク質を輸出させる。このシグナル配列は通常タンパク質のアミノ末端に位置しており、約13から約36のアミノ酸長の範囲にある。実際の配列はタンパク質毎に異なっているが、既知のすべての真核生物シグナル配列は、そのシグナル配列の中心付近に高い疎水性強度の10−15アミノ酸(通常はアミノ酸ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン及びフェニルアラニンに豊富である)及び少なくとも1つの正に帯電した残基を含有している。このシグナル配列は、タンパク質が小胞体中に移動する際に小胞体上に存在するシグナルペプチダーゼによって開裂されるので、分泌形態のタンパク質からは除去されているのが普通である。そのシグナル配列が依然として結合しているタンパク質は、「プレタンパク質」又は非成熟型のタンパク質と呼ばれることが多い。
しかし、分泌されるタンパク質のすべてが、開裂されるアミノ末端シグナル配列を含有しているわけでない。オバルブミンなどのある種のタンパク質は、タンパク質の内部領域に位置するシグナル配列を含有している。この配列は移動の際に正常では開裂されない。
細胞質中に通常見いだされるタンパク質は、そのタンパク質にシグナル配列を連結させることにより分泌させることができる。このことは、シグナル配列をコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの5'末端に連結し、次いでこの融合タンパク質を適当な宿主細胞において発現させることにより、容易に実施することができる。シグナル配列をコードするDNAは、シグナル配列を有するタンパク質をコードするあらゆる遺伝子から制限断片として入手できる。従って、本発明を実施するために利用する宿主細胞の型に応じて、原核生物、酵母、及び真核生物シグナル配列を本発明では使用できる。遺伝子のシグナル配列部分をコードするDNAは適当な制限エンドヌクレアーゼを使用して切除され、次いでそれを、分泌させようとするタンパク質、即ちt-PAをコードするDNAに連結する。
機能的なシグナル配列の選択には、シグナル配列が宿主細胞シグナルペプチダーゼによって認識される結果、シグナル配列の開裂及びタンパク質の分泌が起こることが要件となる。幾つかの真核生物遺伝子のシグナル配列部分をコードするDNA及びアミノ酸配列は既知であり[例えば、ヒト成長ホルモン、プロインスリン、及びプロアルブミン(StryerのBiochemistry, W.H.Freeman and Company,ニューヨーク(1988),769頁を参照)]、これらは適当な真核生物宿主細胞においてシグナル配列として使用することができる。例えば、酸ホスファターゼ[ArimaらのNuc.Acids Res.,11:1657(1983)]、α−因子、アルカリホスファターゼ及びインベルターゼなどの酵母シグナル配列は、酵母宿主細胞から直接に分泌させるため使用できる。例えば、LamB又はOmpF[WongらのGene 68:193 1988]、MalE、PhoA、又はβ−ラクタマーゼをコードする遺伝子、並びに他の遺伝子由来の原核生物シグナル配列は、原核生物細胞から培養培地にタンパク質を向かわせるのに使用できる。
目的のタンパク質が分泌できるようにするためにそれにシグナル配列を付与する別の手法は、シグナル配列をコードするDNAを化学的に合成することである。この方法では、選択したシグナル配列をコードするオリゴヌクレオチドの両鎖を化学的に合成し、次いで互いにアニーリングさせて二重ラセンを形成させる。次に、得られた2本鎖オリゴヌクレオチドを、タンパク質をコードするDNAの5'末端に連結させる。
次いで、タンパク質をそれに連結されたシグナル配列と共にコードしているDNAを含有する構築物を適当な発現ベクターに連結すればよい。この発現ベクターを適当な宿主細胞に形質転換し、目的のタンパク質を発現させ、分泌させる。
D.形質転換方法
哺乳動物宿主細胞及び、頑強な細胞膜障壁を有していない他の宿主細胞の培養物は、グラハム(Graham)及びフォン・デル(Van der Eb)[Virology 52,546(1978)]に最初に開示され、サムブルックら(前掲)の16.32−16.37項にて改変を施されたリン酸カルシウム法によって普通は形質転換される。しかし、ポリブデン(Polybrene)[Kawai及びNishizawa,Mol.Cell.Biol.,4:1172(1984)]、プロトプラスト融合[Schaffner, Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.77:2163(1980)]、エレクトロポレーション[Neumannら,EMBO J., 1:841(1982)]、及び核への直接的マイクロインジェクション[Capecchi, Cell,22:479(1980)]などの、DNAを細胞に導入するための他の方法も使用できる。
酵母宿主細胞は、ハイネン(Hinnen)のProc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.,75:1929-1933(1978)に記載されているように、ポリエチレングリコール法によって形質転換するのが一般的である。
原核生物細胞又は頑強な細胞壁を有する細胞を形質転換するには、サムブルックら(前掲)の1.82項に記載されている塩化カルシウム法によって行うのが好ましい。また、これらの細胞を形質転換するにはエレクトロポレーションも使用できる。
E.クローニング法
複製配列、調節配列、表現型選択遺伝子をコードするDNA及び目的の外来DNAを含有する適当なベクターの構築には、標準的な組換えDNA手法を使用する。単離したプラスミド及びDNA断片を開裂し、仕立て、そして特定の順序で互いに連結し、所望のベクターを生成させる。
DNAの開裂は、適当な緩衝液中にて適当な制限酵素又は酵素群を使用して行う。一般には、緩衝溶液約20μl中、適当な制限酵素約1−2単位と共に、プラスミド又はDNA断片約0.2−1μgを使用する(適当な緩衝液、DNA濃度、及びインキュベート時間及び温度は、その制限酵素の製造元によって特定されている)。一般には、37℃での約1又は2時間のインキュベート時間が適当であるが、酵素の中にはそれよりも高い温度が必要なものがある。インキュベートした後に、フェノール及びクロロホルムの混液で消化溶液を抽出することによって酵素及び他の夾雑物を除去し、次いでエタノール沈殿によってその水性画分からDNAを回収する。
DNA断片を共に連結して機能的ベクターを形成させるためには、それらDNA断片の末端は互いに適合していなければならない。ある場合には、エンドヌクレアーゼ消化後に末端は直接的に適合性となる。しかし、エンドヌクレアーゼ消化によって普通に生成される粘着末端を連結適合性にするために、それをまず平滑末端に変換する必要のある場合がある。末端を平滑末端にするためには、4つのデオキシヌクレオチド三リン酸の存在下、DNAポリメラーゼIのクレノー断片(クレノー)10単位と共に少なくとも15分間、15℃において適当な緩衝液中でDNAを処理する。次いで、それをフェノール-クロロホルム抽出し、エタノール沈殿して精製する。
開裂させたDNA断片は、DNAゲル電気泳動によってサイズ分離し、選択することができる。DNAはアガロース又はポリアクリルアミドマトリックスのいずれかによって電気泳動できる。マトリックスの選択は、分離しようとするDNA断片のサイズ(大きさ)に左右される。電気泳動した後に、電気溶離(electroelution)によってDNAをマトリックスから抽出するか、あるいは低融解アガロースゲルをマトリックスとして使用した場合は、サムブルックら(前掲)の6.30−6.33項に記載されているようにしてアガロースを融解し、それからDNAを抽出する。
互いに連結させようとするDNA断片(適当な制限酵素で消化しておき、それぞれの断片の連結末端を適合させておく)は、等モル量で溶液中に存在させる。この溶液はATP、リガーゼ緩衝液及びリガーゼ、例えばDNA0.5μg当たりT4DNAリガーゼ約10単位をさらに含有する。DNA断片をベクターに連結する場合は、適当な制限エンドヌクレアーゼ(群)によってそのベクターを切断してまず線状化し、次いで細菌アルカリホスファターゼ又は子牛腸内アルカリホスファターゼのいずれかでリン酸化する。この操作によって、開裂したベクターが連結工程の際に自己連結するのを防止できる。
連結した後に、新たに外来遺伝子が挿入されたベクターを適当な宿主細胞、最も普通にはE.coli K12株294(ATCC番号31,446)又は別の適当なE.coil株などの原核生物に導入する。形質転換された細胞は、抗生物質、普通はテトラサイクリン(tet)又はアンピシリン(amp)と共に増殖させることにより、ベクター内のtet及び/又はamp耐性遺伝子のおかげでそれらに対して耐性になっているものが選択される。連結混合物によって真核生物宿主細胞を形質転換した場合は、形質転換細胞は上述のDHFR/MTX系によって選択できる。形質転換細胞は培養物中で増殖させ、次いでプラスミドDNA(プラスミドは、目的の外来遺伝子に連結されたベクターを意味する)を単離する。このプラスミドDNAは次に、制限マッピング及び/又はDNA配列決定によって分析する。DNAの配列決定は一般には、メッシング(Messing)らのNucleic Acids Res.,9:309(1981)の方法又はマキサム(Maxam)らのMethods of Enzymology,65:499(1980)の方法のいずれかによって分析される。
哺乳動物宿主細胞をDNAで安定に形質転換した後、その宿主細胞培養をMTX約200−500nM濃度の存在下で増殖させ、それによりDHFRタンパク質をコードしている配列の増幅を行う。MTXの有効な濃度範囲は、DHFR遺伝子及びタンパク質の本質、及び宿主の特性に非常に左右される。一般に規定される上限及び下限は明瞭には確認することができない。他の葉酸同族体又は、DHFRを阻害する他の化合物も適当な濃度で使用することができる。しかし、MTXそれ自体が簡便であり、容易に利用でき、かつ有効である。
上述のように、t-PA変異体は、部位特異的突然変異の方法を使用し、突然変異(群)を生成させることによって製造するのが好ましい。この方法では、所望の突然変異の配列をコードする特定のオリゴヌクレオチド及び、そのオリゴヌクレオチドがDNAの鋳型と安定にハイブリダイズできるほどに十分な数の隣接ヌクレオチド、を合成し、使用することが必要である。
F.医薬組成物
本発明のt-PA産物を医薬的に許容され得る担体との混合物中で混合することにより、本発明の化合物は医薬的に有用な組成物を調製するための既知の方法によって製剤化することができる。適当な担体及び製剤化法は、オスロー(Oslo)ら編のRemington's Pharmaceutical Sciences 16版、1980[マック・パブリッシングCo.]に記載されている。このような組成物は通常、患者に効果的に投与するのに適した医薬的に許容される組成物が調製されるように適量のビヒクルと共に、本発明のt-PA変異体を有効量で、例えば約0.5から約5mg/mlで含有している。本発明のt-PA変異体は、心臓血管の疾患又は症状の患者に非経口的に、又はその有効な型が血流に供給されるような他の方法によって投与することができる。
本発明を実施する上で使用されるt-PA変異体を臨床的に投与するのに特に適している組成物には、例えば滅菌水溶液剤、又は凍結乾燥タンパク質などの滅菌水和性の粉末剤などがある。このような製剤中にはさらに、医薬的に許容される塩を適量使用し、製剤の等張性を変化させるのが通常である。アルギニン塩基などの緩衝剤も、適当なpH、一般にはpH5.5−7.5を維持するに適当な濃度でリン酸と共に含有させるのが通常である。さらに又はあるいは、貯蔵寿命を維持、長引かせるために、グリセリンなどの化合物も含有させることができる。
本発明の医薬組成物の投与量及び望ましい薬物濃度は、目的とする個々の用途に応じて変動し得る。例えば、深部静脈血栓又は末梢血管疾患の処置に当たっては、約0.05から約0.2mg/kgオーダーの「ボーラス」投与が通常好ましく、その後は、血中レベルがほぼ一定に、好ましくは約3μg/mlのオーダーが維持されるよう約0.1から約0.2mg/kgの投与を行うのが好ましい。
しかし、一般に灌流(infusion)が行えない場面である緊急医療に関連して使用するためには、及び処置する疾患が一般に危険性を孕む場合(例えば、塞栓症、心筋梗塞)には、多めの初期投与量、例えば約0.3mg/kgオーダーの静脈内ボーラス投与が通常望ましい。
例えば、本発明のt-PA変異体は、心臓血管の疾患又は症状に罹患した患者に非経口的に投与するのが適切である。投与量及び投与速度は、他の心臓血管薬、血栓溶解薬が臨床試験で通常使用されているものと同等又は高い場合があり、例えば心筋梗塞、肺塞栓症などに罹患したヒト患者では、約1−2mg/kg体重で1.5−12時間かけて静脈内又は動脈内投与を行えばよい。
適当な投与剤形の1例として、50mg t-PA、アルギニン、リン酸、及びポリソルベート80を含有するバイアルを滅菌水50mlにより注射用に再構成し、それを適量の0.9%塩化ナトリウム注射液と混合することが挙げられる。
本発明のt-PA変異体はフィブリン沈着又は接着の形成もしくは再形成を防止するためにも有用である。この用途の1態様は、1989年1月4日公開のEPO 297,860に記載されている。一般には、このタイプの処置は、可能性あるフィブリン又は接着形成の部位に治療学的有効量のt-PA変異体がおよそ3日から2週間にわたって持続的に放出されるような難溶性の形態で含有される組成物をその部位に局所投与することを包含する。t-PA変異体は通常、手術、感染、外傷又は炎症後に形成されるフィブリン沈着又は接着形成を予防するに充分な投与量で投与する。その量は普通、0.02mg/gのゲルから25mg/gのゲルであり、0.20mg/gから約2.5mg/gのゲルが好ましく、最も好ましくは0.25mg/gから約1.0mg/gのゲルである。接着形成及び/又はフィブリン沈着を防止するために使用する各t-PA変異体は、可能性ある接着形成の部位にt-PA酵素を位置させるための半固形の粘液質の製薬的に不活性な担体中で製剤化するのが普通である。このような担体には、改変された飽和及び不飽和脂肪酸グリセリドの混合物又は改変された飽和及び不飽和脂肪酸グリセリドの混合物から構成される長鎖の炭化水素又は植物油及びワックスなどがある。例えば、ワセリン又は半合成グリセリドなどの半固形ビヒクル、グリセロールなどのポリヒドロキシ溶媒、長鎖炭化水素、生体侵食性ポリマー(bioerodable polymers)、又はリポソームなどが挙げられる。
以下に記載する実施例を平易にするため、通常使用される特定の方法は以下の用語を用いて表現している。
「プラスミド」は、小文字のpの後ろにアルファベットの名称を付して表している。本発明に使用する出発プラスミドは市販されているか、制限無く公に入手可能となっており、又はそのような入手可能なプラスミドから文献開示の方法によって構築することができる。さらに、他の同等のプラスミドも当業界で知られており、当業者には明らかである。
DNAの「消化」、「切断」又は「開裂」とは、DNA内のある特定の場所でのみ働く酵素によってそのDNAを触媒的に開裂することを意味する。このような酵素は制限エンドヌクレアーゼと呼ばれ、各酵素が開裂するDNA配列に沿った部位は制限部位と呼ばれる。本発明で使用している制限酵素は市販されており、その供給元から提示されている教示に従って使用される。制限酵素は、大文字の後ろに各制限酵素が得られる微生物を表す2又は3つの小文字を付して構成される略語によって呼称される。これらの文字の後ろには、次に各々の酵素を示す1又はそれ以上のローマ数字が付される。一般に、プラスミド又はDNA断片約1μgを緩衝溶液約20μl中、酵素約2単位と共に使用する。個々の制限酵素にとって適当な緩衝液、基質濃度、インキュベート温度、及びインキュベート時間は製造元が特定している。インキュベートした後、フェノール−クロロホルム溶液による抽出によってDNAから酵素及び他の夾雑物を除去し、エタノール沈殿によって、消化されたDNAを水性画分から回収する。制限酵素による消化の後には、細菌アルカリホスファターゼ又は子牛腸内アルカリホスファターゼで処理する。これは、別のDNA断片がその制限部位に挿入するのを妨げかねない「環状化」又は閉じたループの形成から、DNA断片の2つの制限開裂末端を護るためのものである。しかし、特に明記しない限りは、プラスミドの消化後には5’末端の脱リン酸化は行わない。脱リン酸化のためのこれらの操作法及び試薬はサムブルックら(前掲)の1.60−1.61項及び3.38−3.39項に記載されている。
特定のDNA断片を制限消化物から「回収」又は「単離」するとは、ポリアクリルアミド又はアガロースゲルを使用する電気泳動法により、得られたDNA断片を分離し、目的とする断片を既知の分子量のマーカーDNA断片の移動度と比較してその同定を行い、所望の断片を含有するゲル切片を取り出し、そしてDNAからゲルを分離することを意味する。この操作法は一般に既知である。例えば、ローン(R.Lawn)らのNucleic Acids Res.9:6103-6114(1981)、及びゴーデル(D.Goeddel)らのNucleic Acids Res.8:4057(1980)を参照のこと。
「サザーン分析」とは、既知の標識化オリゴヌクレオチド又はDNA断片とハイブリダイズすることにより、消化物又はDNA含有組成物中のDNA配列の存在を確かめる方法である。サザーン分析とは、サザーン(E.Southern)のJ.Mol.Biol.98:503-517(1975)に記載され、サムブルックら(前掲)の9.31−9.57項に改変された方法により、アガロースゲル上にて消化DNAを分離し、そのDNAを変性させ、そしてそのゲル由来のDNAをニトロセルロース又はナイロン膜に移動させることを意味する。
「形質転換」とは、DNAが染色体外要素または染色体成分として複製できるようにそのDNAを生物に導入することを意味する。形質転換するために使用する方法は、宿主細胞が真核生物であるか、又は原核生物であるかによって変わる。原核生物を形質転換する方法はサムブルックら(前掲)の1.82項に記載されている塩化カルシウム法である。真核生物は、サムブルック(前掲)らの16.32−16.37項に記載されているリン酸カルシウム法によって形質転換される。
「連結」とは、ATPをも含有している適当な緩衝液中、リガーゼ酵素を使用して、2つの2本鎖DNA断片間にホスホジエステル結合を生成させる工程を意味する。
「オリゴヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合によって結合されているデオキシリボヌクレオチドの短い長さの1本鎖又は2本鎖配列を意味する。このオリゴヌクレオチドは既知の方法によって化学的に合成され、ポリアクリルアミドゲル上にて精製される。
以下に、本発明を実施する上で現在知られている最も最良の方法を説明するために実施例を挙げるが、これは本発明の限定を意図するものではない。
実施例1
I.発現ベクターpRK.t-PAの構築
t-PA突然変異体を作成するためのベクターとしてプラスミドpRK7を使用した。pRK7は、ClaI及びHindIII間のポリリンカー領域内のエンドヌクレアーゼ制限部位の順序が逆である以外はpRK5[1989年3月15日公開のEP公開番号第307,247号]と同一である。このベクターに挿入するためのt-PA cDNA[ペニカ(Pennica)らのNature 301:214(1983)]を、制限エンドヌクレアーゼHindIII(ATG開始コドンの5'側496塩基対を切断する)及び制限エンドヌクレアーゼBalI(TGA終止コドンの下流276塩基対を切断する)で切断することにより調製した。このcDNAを、サムブルック(Sambrook)ら(前掲)の1.68−1.69項に記載されている標準的な連結法を使用し、HindIII及びSmaIで前もって切断しておいたpRK7に連結した。得られた構築物をpRK.t-PAと命名した。第1図を参照。
II.pRK7−t-PAの部位特異的突然変異
アメルシャン・コーポレーション(Amersham Corporation)から入手されるキット(カタログ番号RPN 1253)を使用し、テイラー(Taylor)らのNucl.Acids.Res.,13:8765(1985)の方法によってt-PA cDNAの部位特異的突然変異を行った。所望の突然変異を生成させるため、所望のアミノ酸置換をコードする配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、それをプライマーとして使用した。
デオキシリボアデノシン(dATP)、デオキシリボグアノシン(dGTP)、及びデオキシリボチミジン(dTTP)の3つのデオキシリボヌクレオチドの混合物を、上記キットの製造元から供されているそのキット中のdCTP(aS)と呼ばれる改変チオ-デオキシリボシトシンと混合し、それを標準的な方法[Vieraら,Meth.Enz., 143:3(1987)]によって調製した1本鎖pRK7−t-PAに加えてオリゴヌクレオチドとアニーリングさせた。
この混合物にDNAポリメラーゼを加えると、突然変異された塩基以外はpRK7−t-PAと同一のDNAの鎖が生成した。さらに、この新たなDNAの鎖はdCTPの代わりに、それが制限エンドヌクレアーゼ消化されることから保護するのに役立つdCTP(aS)を含有していた。得られた2本鎖ヘテロ二重鎖の鋳型の鎖に適当な制限酵素により切れ目(ニック)を作成した後、その鋳型の鎖を、突然変異オリゴマーを含有している領域を通過するようExoIIIヌクレアーゼによって消化した。次いで、この反応を停止させ、部分的にしか1本鎖でない分子を残した。次に、4つすべてのデオキシリオヌクレオチド3リン酸、ATP、及びDNAリガーゼの存在下にDNAポリメラーゼにより、完全な2本鎖DNAのヘテロ二重鎖分子を形成させた。
FRIK(274−277)LHST t-PAを製造するために使用したオリゴヌクレオチドは次のものである:
III.細菌形質転換及びDNA調製
標準的な塩化カルシウム法[Sambrookら(前掲)の1.76−1.84項]を使用し、上記プロトコールを使用して作成した突然変異t-PA構築物をE.coli宿主株MM294tonAに導入することにより、コンピーテントな細胞を調製し、その形質転換を行った。Tn10トランスポゾンをtonA遺伝子に挿入した後、不正確に切除することにより、E.coli株MM294tonA(これはT1ファージに耐性である)を調製した。次いで、この遺伝子をトランスポゾン挿入突然変異[KlecknerらのJ.Mol.Biol.,116:125-159(1977)]を使用し、E.coli宿主MM294(ATTC No.31,446)に挿入した。
Sambrookら(前掲)の1.25−1.31項に記載されている標準的なミニプレプ法を使用し、個々の細菌形質転換体コロニーからDNAを抽出した。得られたプラスミドをセファクリルCL6Bスピンカラムに通してさらに精製し、次いでDNA配列決定並びに制限エンドヌクレアーゼ消化及びアガロースゲル電気泳動によって分析した。
IV.真核生物細胞の形質転換
10%全ウシ胎仔血清を加えた、1mM HEPES緩衝液、0.29g/lグルタミン、2.44g/l重炭酸ナトリウム、0.55g/lピルビン酸ナトリウム、pH6.95を含有するDMEM:F12(1:1)培地中、6ウエル平板にてヒト腎胚293細胞(温度感受性巨大T抗原遺伝子によってトランスフェクトしたサブクローン293TSA)を70%全面成長まで増幅させた。トランスフェクションの前日に、細胞を計数し、その培地を吸引除去し、得られた細胞をトリプシン処理し、リジン含有カラムに通してプラスミノーゲンを除去しておいた10%全ウシ胎仔血清を含有する同じDMEM:F12(1:1)を基礎とする培地中に再懸濁した。次いで、得られた懸濁液を266,000細胞/mlに調整し、6ウエル平板の1ウエル当たり3mlを接種し(800,000細胞/ウエル)、トランスフェクションを行う日までインキュベートした。
t-PA突然変異体をコードするプラスミド2.5μgを1mMトリス-HCl、0.1mM EDTA、0.227M CaCl2(150μl)中に溶解した。これに、50mM HEPES緩衝液(pH7.35)、280mM NaCl、1.5mM NaPO4(150μl)を加え(旋回下に滴加)、25℃で10分間沈殿物を形成せしめた。次いで、得られた懸濁沈殿物を6ウエル平板の各ウエル中の細胞に加え、インキュベーター中に一晩放置した。次いで、培地を吸引除去し、インスリン、トランスフェリン、微量元素及び脂質を含有するPS−04と呼ばれるDMEM:F12(1:1)を基礎とする血清不含の培地と置き換えた。細胞を6日間インキュベートした後、培地を採取し、検定した。
V.生物学的検定
A.t-PAの定量
野生型t-PAに対して調製したポリクローナル抗体を使用し、ELISA(酵素結合免疫吸着検定)法によって、細胞培養上清中に存在するt-PAの濃度を測定した。以下で説明する各検定に使用するt-PAの量はこのELISA法の結果に基づいている。
B.S−2288検定
S−2288検定はt-PAタンパク質分解活性を直接検定するものである。t-PAは、H−D−イソロイシル−L−プロリル−L−アルギニン−p−ニトロアニリド二塩酸塩(S−2288;KabiVitrum)基質中の小ペプチドとパラニトロアニリド発色団との間の結合を開裂させる。
野生型組換えt-PA(rt-PA)を細胞培養培地で希釈して標準曲線試料を調製する。この標準曲線試料及びrt-PA突然変異体試料をマイクロタイター平板のウエルに加えた。この検定法を使用して2本鎖rt-PAの活性を測定するので、ヒトプラスミンとのインキュベーション工程をこの操作中に包含させる。ヒトプラスミン(KabiVitrum)は終濃度0.13CU(カゼイン単位)/mlまで加えた。試料を室温にて90分間インキュベートした。
アプロチニン[シグマ、約14TIU(トリプシンインヒビター単位)/mg]を終濃度72μg/mlまで加えてプラスミン活性を阻害し、得られた試料を室温にて15分間インキュベートした。S−2288の2.16mM溶液を0.1Mトリス、0.106mM NaCl、0.02%アジ化ナトリウム、pH8.4を用いて1.45mMにまで希釈し、この溶液100μlをマイクロタイター平板の各ウエルに加えた(各ウエルにおける最終容量は200μlであった)。405nmにおいて発色をモニターした。それぞれの標準及び試料についての吸光度対時間の曲線勾配を測定した。標準曲線は、rt-PA標品についてのrt-PA濃度の関数として、吸光度対時間の曲線勾配をプロットすることで作成した。次いで、突然変異体の相対活性濃度を標準曲線から測定した。各突然変異体の活性濃度をrt-PA ELISAにて得られた突然変異体についての濃度で除し、得られた比活性を、1.0値と帰属される野生型t-PAに相対させて表した。
C.S−2251検定
この検定はt-PA活性の間接検定法である。この検定法では、プラスミノーゲンをt-PAの作用によりプラスミンに変換させるが、そのプラスミンはH−D−バリル−L−ロイシル−L−リジン−p−ニトロアニリド二塩酸塩(S−2251;KabiVitrum)基質を開裂してパラニトロアニリド発色団を放出させるものである。次いで、この発色団の発色を経時的に測定する。
1.フィブリン刺激S−2251検定
S−2288検定について記載しているようにして標準曲線試料を調製した。その試料をプラスミン−セファロースと共にインキュベートすることにより、試料を2本鎖形態に変換した。プラスミン−セファロースは、ヒトプラスミン(KabiVitrum)約20.8CUを臭化シアン活性化セファロース(ファルマシア)1mlとカップリングさせて調製した。このプラスミン−セファロース(5%スラリー50μl)を試料150μlと共に室温で90分間撹拌させながらインキュベートした。インキュベートの後、樹脂を遠心によって除去し、試料10μlをマイクロタイター平板のウエルに加えた。
ヒトトロンビン(42単位/ml溶液10μl)を各ウエルに加えた。ヒトGlu-プラスミノーゲン(5.3μM)28μl、プラスミノーゲン不含のヒトフィブリノーゲン(10μM)10μl、3mM S−2251(KabiVitrum)30μl、及びPBS 62μlから構成される混合物(130μl)を加え、各ウエル中の反応を開始させた。405nmにおいて発色をモニターし、492nmの参考波長における吸光度を各時点の吸光度から差し引き、濁度作用のために補正した。吸光度対時間の二乗の曲線勾配を標準及び突然変異体試料について測定した。データは、AST Premium/286コンピューターに介在されるSLTラボラトリーズモデルEAR340ATマイクロタイター平板解読装置を使用して集めた。各標準及び突然変異試料について、吸光度対時間の二乗曲線の勾配を測定した。標準曲線は、rt-PA標品についてのrt-PA濃度の関数として、吸光度対時間の二乗曲線の勾配をプロットすることにより作成した。突然変異体の相対比活性の測定は、S−2288検定について記載されている。
2.フィブリノーゲン刺激S−2251検定
この検定は、PBSをトロンビンと置き換える以外はフィブリン刺激S−2251検定について記載しているようにして行った。
3.血漿血餅S−2251検定
これは、t-PAがプラスミノーゲンをプラスミンに活性化し、そのプラスミンが合成基質S−2251を加水分解する連続カップリング検定である。標準曲線試料の調製及び、プラスミン−セファロースを使用する1本鎖rt-PAから2本鎖rt-PAへの変換は、フィブリン−刺激S−2251検定について記載しているものである。ヒトトロンビン(31μg/ml溶液10μl)をマイクロタイター平板の各ウエルに加えた。標準及び突然変異体試料(40μl)をその平板に加え、9.1mM S−2251(KabiVitrum)1部、100mMトリス、200mM NaCl、pH8.0(2部)及び血漿6部の混合物100μlを加え、反応を開始させた。これらの条件では、プラスミノーゲン活性化反応の反応時間と比較して、血餅形成が迅速であった。発色は405nmにおいてモニターし、492nmの参考波長における吸光度を各時点の吸光度から差し引き、濁度の作用のために補正した。データは、AST Premium/286コンピューターに介在されるSLTラボラトリーズモデルEAR340ATマイクロタイター平板解読装置を使用して集めた。得られたデータの分析は、フィブリン刺激S−2251検定について記載しているようにして行った。
血漿S−2251検定
この検定は、リン酸緩衝化食塩水(PBS)をトロンビンと置き換え、参考波長の差し引きを適用しないことを除いて血漿血餅S−2251検定について記載しているようにして行った。
上記の手法の詳細はBennettら,J.Biol.Chem.266,5191-5201(1991)にも記載されている。
得られた結果を以下の第1表−第3表に示す。
この検定は上述のようにして行った。得られた値は野生型ヒトt-PAとの対比である。変異体は血清不含の細胞培養上清中にて検定した。*のFRIK274−277LHSTt-PA変異体は2本鎖型に結合され得なかった。
上記の検定は既述のようにして行った。すべての値は2本鎖野生型ヒトt-PAとの対比である。Fg=フィブリノーゲン、Fn=フィブリン。
野生型t-PAに対するFRIK274−277LHSTt-PA変異体の血漿血餅溶解活性は0.77であった。SDS−PAGEオートラジオグラフィーにより、試験したt-PA変異体の100%が1本鎖であることを確認した。
本発明のFRIK274−277LHSTt-PA変異体は、野生型ヒトt-PAと比較して、フィブリン及び血漿血餅特異性が顕著に増大しており、同時にその血漿血餅溶解活性は野生型t-PAのそれに近似していた。
これまで、具体的な好ましくは態様を説明してきたが、本発明はそれに限定されないことは理解されよう。当業者であれば、本発明の概念全体を逸脱することなく、開示した態様に種々の改変を施すことのできる。このような改変もすべて、本発明の範囲内に包含されるものである。
配列表
(1)一般的情報
(i)特許出願人:ジェネンテク,インコーポレイテッド
(ii)発明の名称:フィブリン特異性が改善されたt-PA置換変異体
(iii)配列の数:1
(iv)連絡先:
(A)名宛人:ジェネンテク,インコーポレイテッド
(B)通り:ポイント・サン・ブルーノ・ブールバード460番
(C)市:サウス・サン・フランシスコ
(D)州:カリフォルニア
(E)国:アメリカ合衆国
(F)ZIP:94080
(v)コンピューター解読書式
(A)媒体型:5.25インチ,360Kbフロッピーディスク
(B)コンピューター:IBM PC適合
(C)オペレーティング・システム:PC-DOS/MS-DOS
(D)ソフトウエア:patin(ジェネンテク)
(vi)本出願のデータ:
(A)出願番号:
(B)出願日:1992年12月14日
(v)優先権主張出願のデータ:
(A)出願番号:
(B)出願日:
(viii)弁理士/代理人情報
(A)氏名:ドレジャー,ジンジャー・アール
(B)登録番号:33,055
(C)参照/整理番号:744
(ix)電話連絡先情報
(A)電話番号:415/266−2614
(B)ファックス番号:415/952−9881
(C)テレックス:910/371−7168
(2)配列番号1の情報
(i)配列の特徴:
(A)長さ:42塩基
(B)型:核酸
(C)鎖の数:1本鎖
(D)トポロジー:直鎖状
(xi)配列:配列番号1:
Claims (15)
- 野生型ヒトt-PAの274位、275位、276位及び277位がそれぞれ、フェニルアラニンからロイシンに、アルギニンからヒスチジンに、イソロイシンからセリンに、そしてリジンからスレオニンに置換されているt-PAアミノ酸配列変異体。
- 請求項1に記載の変異体をコードするDNA分子。
- 形質転換宿主細胞にて請求項2に記載のDNA分子を発現できるように、該DNA分子を組込んでなる複製可能な発現ベクター。
- 請求項3に記載のベクターによって形質転換された宿主細胞。
- 真核生物細胞である請求項4に記載の宿主細胞。
- 哺乳動物細胞である請求項4に記載の宿主細胞。
- ヒト腎胚293細胞である請求項6に記載の宿主細胞。
- チャイニーズハムスター卵巣細胞である請求項6に記載の宿主細胞。
- 請求項4に記載の宿主細胞を培養し、請求項1に記載のt-PA変異体をコードするDNAを発現させることを特徴とする方法。
- 宿主細胞が真核生物細胞である請求項9に記載の方法。
- 宿主細胞が哺乳動物細胞である請求項10に記載の方法。
- 宿主細胞培養物から変異体を回収することをさらに包含する請求項9に記載の方法。
- 変異体が培養培地から回収される請求項12に記載の方法。
- 治療学的有効量の請求項1に記載の変異体を製薬的に許容し得る担体と共に含有してなる、血管症状又は疾患を処置するための組成物。
- 治療学的有効量の請求項1に記載の変異体を製薬的に許容し得る担体と共に含有してなる、フィブリン沈着もしくは接着形成又は再形成を予防するための組成物。
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