JP3693075B2 - 組み換えウイルス、その作製法およびその利用 - Google Patents
組み換えウイルス、その作製法およびその利用 Download PDFInfo
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は組み換えウイルス、その作製方法、とそのワクチンとしての利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の養鶏分野においては、種鶏、産卵鶏、及び肉用鶏の別を問わず、ワクチネーションによる疾病予防は衛生管理の柱である。しかしながらワクチネーションのプログラムは実に過密であり、従って、これに要する人手、時間ならびに経費は大きな問題となっている。
この解決策として、近年、ある病原体より免疫誘導に必要なタンパク質をコードする遺伝子のみを取り出し、これを含む組み換えウイルスを構築する遺伝子組み換え技術により得られる組み換えウイルスを組み換え生ワクチンとして用いることが提案されている。
【0003】
たとえば、ポックスウイルスに属するアビポックスウイルス(以下、APVという)はそのような組み換えウイルスの構築に用いるのに好適なウイルスである。ファウルポックスウイルス(以下、FPVという)に代表されるこれらウイルスは、大きなゲノムDNAを持ち、ウイルス増殖に非必須な領域が多く存在し、同一ウイルスのこれらの非必須領域に複数の抗原遺伝子を挿入することができる。このような組み換えウイルスワクチンは、ワクチンを接種した宿主の液性免疫、細胞性免疫を誘導することができると推測される。この方法は、従来、鶏痘に対する生ワクチンとして使用されてきた弱毒化FPVに遺伝子工学的手法を用いて外来遺伝子を挿入した組み換えFPVとして応用されてきた。外来遺伝子として、鶏病ウイルスであるニューカッスル病ウイルス(以下、NDVという)の抗原をコードした遺伝子(以下、抗原遺伝子という)、マレック病ウイルスの抗原遺伝子、鶏インフルエンザウイルスの抗原遺伝子を挿入した組み換えFPVが構築され、実験的にSPF鶏に接種して、ワクチン効果を確認している(Boursnellら、Virology、178、297−300(1990);Nazarianら、J.Virol.,66、1409−1413(1992);Taylorら、Vaccine、6、504−508(1988))。このように組み換えFPVは、目的に応じて種々の外来抗原遺伝子を挿入することができ、また同時に複数の病原体に対して有効な多価ワクチンが可能になり、その結果先述の過密なワクチンプログラム問題の解決策と成りうると有望視されている。
【0004】
しかしながら、たとえば、鶏痘に対する生ワクチンとして使用されてきた弱毒化FPVを親ウイルスとして作製した組み換えウイルスは毒性が低く組み換えウイルスワクチンとしては有用であるものの、移行抗体保有鶏に接種した場合の感染防御効果が低いという問題があった。一方、強毒株を親ウイルスとして組み換えウイルスを作製すると、感染防御効果は高いが毒性も高いため組み換えウイルスワクチンとして実用的であるとは言いがたいものであった。
FPVに限らず、様々な親ウイルスを用いた組み換え生ワクチンにおいても同様にこのような問題を抱えているのが現状であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
かかる従来技術のもと、本発明者らは、感染防御効果は高く毒性は低い組み換えウイルスを作製すべく鋭意研究した結果、異なる親ウイルスを用いて作製した同じ異種外来抗原遺伝子を組み込んだ複数の組み換えウイルスの間で、キメラウイルスを作製することによって、感染防御効果は高く毒性は低い組み換えウイルスを得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、異種外来遺伝子を組み込んだ1種類の組み換えアビポックスウイルス(a)と、当該組み換えアビポックスウイルス(a)(以下、組み換えウイルス(a)という)の親ウイルスと同属異株の親ウイルスに異種外来遺伝子を組み込んだ1種類の組み換えアビポックスウイルス(b)(以下、組み換えウイルス(b)という)とからなるキメラ組み換えアビポックスウイルスのもととなるウイルスを、宿主細胞に共感染させることを特徴とする、異種外来遺伝子を有するキメラ組み換えアビポックスウイルス(以下、単にキメラ組み換えウイルスという)の作製方法、当該方法により作製されたキメラ組み換えウイルス、及び当該キメラ組み換えウイルスを有効成分とするワクチンが提供される。
【0007】
本発明のキメラ組み換えウイルスは、キメラウイルスの増殖に非必須領域なゲノム領域(非必須領域)に異種外来抗原遺伝子を組み込んだものであって、本発明の作製方法により得られるものであれば特に制限されない。ここでいう非必須領域とは、後述する非必須領域であり、異種外来抗原遺伝子も後述するものである。
【0008】
本発明の方法で用いられる組み換えウイルス(a)は、例えば、以下のようにして調製される。予め親ウイルスの非必須領域を組み込んだプラスミドに、親ウイルス内で機能するプロモーターの支配下となるように連結された異種抗原遺伝子を組み込み、プラスミドベクターを得る。ついで、親ウイルス感染細胞にこのプラスミドベクターを導入することにより、相同組み換えを起こさせ、その結果生じたウイルスを選択、純化する。また一方で、上記親ウイルスとは異なる親ウイルスであって、上記親ウイルスとキメラウイルスを作製しうる親ウイルスを用いて別の組み換えウイルス(b)を常法により作製する。組み換えウイルス(b)を用いた組み換えウイルスと組み換えウイルス(a)を感受性の培養細胞に共感染させることによって、キメラ組み換えウイルスを得ることができる。得られたキメラ組み換えウイルスを通常の方法、例えばプラークアイソレーションなどにより純化し、その感染防御効果、毒性を試験することによって、任意の強さの感染防御効果、毒性を持つキメラ組み換えウイルスを得ることができる。本発明のキメラ組み換えウイルスの作製方法は、通常、上述した手順により進められるものであるが、各発明について、更に詳細を以下に説明する。
【0009】
(親ウイルス)
本発明において、親ウイルスとは、抗原遺伝子が組み込まれるアビポックスウイルスである。
【0010】
APVの種類は鳥類に感染するものである限りいかなるウイルスでもよいが、鶏、七面鳥、アヒルなどの家禽類の細胞中で増殖可能な、例えばFPV、ピジョンポックスウイルス、カナリーポックスウイルス、七面鳥ポックスウイルス、クエルポックスウイルス等が例示される。
【0011】
その具体例としては、FPVではATCC VR−251、ATCC VR−250、 ATCC VR−229、 ATCC VR−249、ATCC、 ATCC VR−288、 西ヶ原株、 泗水株、 USDA株、 POXINE株、 946株、 BORDETT株、 CEVA株、CEVAワクチン株由来のウイルスのうち、鶏胚線維芽細胞(以下、CEFという)に感染したとき大きいプラークを形成するものなどのごとき狭義のFPVや、NP株(CEF馴化鳩痘中野株)等のごとき狭義のFPVと近縁のウイルス株、鶏痘生ワクチン株として使用されるウイルスなどが例示される。これらワクチン株は、市販されているなど容易に入手できる。
【0012】
組み換えウイルス(a)の親ウイルス(以下、親ウイルス(a)ということがある)と組み換えウイルス(b)の親ウイルス(以下、親ウイルス(b)ということがある)とは、親ウイルス同士がキメラウイルスを形成することができる関係にある組み合わせで選択される必要がある。
キメラウイルスを形成することができる関係にあるかどうかは、例えば任意のマーカー遺伝子を挿入した組み換えウイルス同士を、宿主細胞に共感染させてマーカー遺伝子が欠失するかマーカー遺伝子を2つ有するウイルスが得られればキメラウイルスが得られると判断することができ、そのキメラウイルスが得られる。具体的には後述する実施例4の方法により調べることが可能である。
親ウイルス(b)は1種類である必要はなく、親ウイルス(a)とキメラウイルスを形成するものである限り何種類を選択しても良い。しかしながら、キメラ組み換えウイルス作製後のスクリーニングの効率を考慮すると、親ウイルスの合計(親ウイルス(a)と(b)の合計)は2種類であることが望ましい。
【0013】
また、感染防御能が高く、毒性の低いワクチンとして適したキメラ組み換えウイルスが得られるため、親ウイルスとして、強毒株と弱毒株の両方を選択することが望ましい。ここで言う強毒株・弱毒株の基準は、毒性を調べる試験を用いて調べる事ができる。弱毒株として、公知の生ワクチン用弱毒株を用いると、実用性の高いキメラ組み換えウイルスワクチンが得られるため、より好ましい。
ここで毒性を調べる試験は、任意に選択することができるが、動物用ワクチンの場合、例えば「動物用生物学的製剤基準」(社団法人 動物用生物学的製剤協会)に記載されている「安全試験」を用いることが可能である。この「安全試験」を用いて判定し、安全であるものを弱毒株、安全でないものを強毒株と判定することができる。さらに詳しくは、初生ひな以上用の鶏痘の場合であれば、上記の「安全および発痘試験」を用いて、SPF鶏に4日齢で穿刺し、そのポックの消退を観察する方法を用いることにより、記載されている判定基準に乗っ取って弱毒株か強毒株かの判定をくだすことが可能である。同様に、HVTの場合であれば1日齢のSPF鶏の皮下に接種し7週間臨床観察を行い剖検しその異常の有無を観察し、弱毒株か強毒株の判定が可能である。
【0014】
好ましい親ウイルス(a)と(b)の組み合わせとしては、FPVのNP株と西ヶ原株との組み合わせが例示される。
【0015】
(非必須領域)本発明で使用される非必須領域は、親ウイルスの増殖に非必須なDNA領域であり、TK遺伝子領域や特開平1−168279号に記載されている領域などの公知のものを用いることができる。具体的には、前記公報に記載されたAPV・NP株DNAのEcoRI断片(7.3Kbp)、EcoRI−HindIII断片(約5.0Kbp)、BamHI断片(約4.0Kbp)、HindIII断片(約5.2Kbp)、クエイルポックスのTK遺伝子領域、七面鳥ポックスウイルスのTK遺伝子領域など、あるいはこれらと相同組み換えを起こす領域が例示される。
【0016】
異種外来抗原遺伝子を有するキメラ組み換えウイルスを作製するに本発明の方法においては、異種外来抗原遺伝子が挿入される非必須領域は、組み換えウイルス(a)と組み換えウイルス(b)とで、相同組み換えを起こす領域を選択するべきである。なぜならば、それぞれの組み換えウイルスが、相同組み換えを起こし得ない領域に異種外来遺伝子を含有するものを用いた場合、得られたキメラ組み換えウイルスが目的とする異種外来遺伝子を含有しない可能性がきわめて高くなるからである。
【0017】
(非必須領域を含有するベクター)
後述する本発明の組み換え用ベクターの構築には、ウイルスの非必須領域をクローニングするためのベクターが用いられる。この様なベクターは、例えば、pBR322、pBR325、pUC8、pUC18などのプラスミド、λファージ、M13ファージなどのファージ、pHC79等のコスミドなどのベクターを適当な制限酵素で処理して、常法に従って上述したようなウイルス非必須領域のDNA断片を組み込むことにより得られる。
【0018】
(組み換え用ベクター)
本発明で用いる組み換え用ベクターは、後述する異種外来抗原遺伝子とそれを支配するプロモーターとが挿入された非必須領域を含むものである。このベクター中に挿入された非必須領域に後述する異種外来抗原遺伝子と、各遺伝子を支配するプロモーターを挿入すればよく、また、このベクターから切り出される抗原遺伝子とそれを支配するプロモーターが挿入されたウイルスの非必須領域を含む断片を他のベクターに組み込んだりしてもよい。さらに、組み換えウイルスの純化などの効率化のために大腸菌のlacZ遺伝子などのマーカー遺伝子とそれを発現するための後述するプロモーターを組み込んでもよい。
【0019】
(プロモーター)本発明で用いるプロモーターは、組み換えウイルス感染宿主中でプロモーターとして機能するものであれば、特に限定されない。例えば、VVの7.5Kポリペプチドや、11Kポリペプチド、チミジンキナーゼなどをコードするVV遺伝子のプロモーターなどが例示されるほか、プロモーターとして機能する限りにおいては、一部を削除するなどの改変したものであってもよく、また合成されたものでもよい。抗原遺伝子、マーカー遺伝子をそれぞれ支配するように、プロモーターを連結することができるが、各遺伝子に連結したプロモーターは、必ずしも同じプロモーターである必要はない。
【0020】
(異種外来抗原遺伝子)
本発明に於いて異種外来抗原遺伝子とは、親ウイルスとは異なるウイルスや細菌、原虫などから由来するタンパク質をコードするDNAであり、親ウイルス中で転写、翻訳されて抗原タンパク質として発現されるタンパク質をコードするものであればよい。鶏用ワクチンを得る場合の異種抗原タンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、マレック病ウイルス(以下、MDVという)の糖タンパク質gBをコードする遺伝子(Rossら、J.Gen.Virol.、70、1789−1804(1988))、NDVのHNタンパク質をコードする遺伝子(Millerら、J.Gen.Virol.、67、1917−1927(1986))、NDVのFタンパク質をコードする遺伝子(McGinnesら、Virus Res.,5、343−356(1986))、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(以下、IBDV)の構造タンパク質VP2をコードする遺伝子(Baylissら、J.Gen.Virol.、71、1303−1312(1990))、伝染性喉頭気管炎ウイルス(以下、ILTV)の糖タンパク質gBをコードする遺伝子、MDVのgBタンパク質と相同性の高い七面鳥ヘルペスウイルス(以下、HVT)の糖タンパク質gBをコードする遺伝子等の感染防御に関与した抗原タンパク質をコードした各種の抗原遺伝子が好ましい。
【0021】
本発明のキメラ組み換えウイルスの作製方法において、組み換えウイルス(a)および(b)の非必須領域に挿入されるべき異種抗原遺伝子は同種の起源から得られるものであって、相同するものである。
【0022】
異種抗原遺伝子は、起源となるウイルス・細菌・細胞などが完全に同じである必要はなく、同種であれば異属、異株であっても構わないが、相同する遺伝子、即ち同じ機能であることが知られている抗原タンパク質をコードする遺伝子である。その相同性が高くても、低くても構わない。また、挿入する異種抗原遺伝子の長さも、各組み換えウイルス毎に任意に選ぶことができる。このような異種抗原遺伝子の組み合わせの例としては、MDVのgB遺伝子とILTVのgB遺伝子などのようにウイルス、MDVのgB遺伝子とHVTのgB遺伝子などのような同属の相同する遺伝子の組み合わせが挙げられる。もちろん、同属・同種由来の遺伝子の組み合わせであってもよく、そのような例としては、NDVの佐藤株由来のHN遺伝子とNDVのD−26株由来のHN遺伝子の組み合わせ、NDVのD−26株由来のHN遺伝しとNDVのBeaudette C株由来のHN遺伝子の組み合わせ、NDVのD−26株由来のHN遺伝子とNDVのD−26株由来のHN遺伝子の組み合わせ、MDVのGA株由来のgB遺伝子とRBIB株由来のgB遺伝子の組み合わせなどが挙げられる。
【0023】
(組み換えウイルスの作製方法)
組み換えウイルス(a)および(b)の作製方法は特に限定されず、常法に従って行えばよい。すなわち、予め親ウイルスを感染させた細胞に、例えば、リン酸カルシウム共沈法やエレクトロポレーション法等により、抗原遺伝子、マーカー遺伝子等を有する組み換えベクターが導入されることにより、ベクターと感染細胞中のウイルスゲノムDNAとの間で相同組み換えが起こり、組み換えウイルスが構築される。得られた組み換えウイルスは、イーグルMEMなどの培地で培養された宿主細胞に感染させ、生育してくるプラークを組み込んだ抗原遺伝子をプローブとするハイブリダイゼーション法や、抗原遺伝子と共に組み込んだマーカー遺伝子の発現等の方法により候補株を純化し、組み込んだ抗原遺伝子のコードするポリペプチドに対する抗体を使用したイムノアッセイ等の方法により、目的の組み換えウイルスであることを確認すればよい。例えば、マーカー遺伝子としてlacZ遺伝子が組み込まれている組み換えAPVの場合、β−ガラクトシダーゼを発現する。よって、その基質のひとつであるBluo−gal(GIBCO−BRL社製)存在下で青いプラークを形成するので、その性質を利用して選択、純化することができる。
宿主細胞としては、用いるウイルスが感染し、増殖することが可能なものであれば特に限定されず、例えば、FPVを用いた場合は、CEFや発育鶏卵しょう尿膜細胞などが挙げられる。
【0024】
(キメラウイルスの作製)
上述の方法により作製された組み換えウイルス(a)および(b)を前述の宿主細胞に共感染させて、キメラ組み換えウイルスを得る。共感染におけるそれぞれの感染多重度は、高ければ高い程よい。組み換えFPVの場合、感染多重度が2以下でも作製できるが、望ましくは2以上にする。このようにして、組み換えウイルスを共感染させた後、常法に従って組み換えウイルスを選択、純化し、本発明のキメラ組み換えウイルスを単離する。
さらにこのキメラウイルスを動物に接種して評価すれば、目的とする性質をもったキメラ組み換えウイルスを選択することが可能である。例えば、動物に様々な方法で接種することによって、得られたキメラ組み換えウイルスの毒性を試験することが可能であるし、強毒な親ウイルスや抗原遺伝子が由来したウイルスや病原体等によって攻撃することによって、その感染防御効果を試験することが可能である。
ここでいうキメラ組み換えウイルスの毒性とは、先に例示した親株の毒性を調べる方法が同様に適用できる。
また、キメラ組み換えウイルスの感染防御効果の試験方法としては、例えば「動物用生物学的製剤基準」の「力価試験」を応用することも可能である。さらに具体的には、NDVの場合であれば、上記の「力価試験」を用いてキメラ組み換えウイルス接種2週後のSPF鶏に対してNDV強毒株(佐藤株)で攻撃し、その防御率(生存率)を試験することにより、感染防御効果を試験することができる。
【0025】
(ワクチン)
本発明の生ワクチンは、少なくとも1種類以上の本発明のキメラ組み換えウイルスを有効成分とするワクチンである。キメラ組み換えウイルス以外に、他の2〜3種類の組み換えウイルス(キメラではない組み換えウイルス)を組み合わせて用いることもできる。このような場合、組み換えウイルスを作製するのに用いた非必須領域は、1ヶ所であることが望ましい。また、組み換えウイルス以外の薬理学的に問題のないキャリアー、例えば生理食塩水、安定剤などを含んでいてもよい。
本発明のワクチンの調製法は特に限定されない。例えば、キメラ組み換えウイルスが生育することのできる宿主細胞に、キメラ組み換えウイルスを感染させ、組み換えウイルスが増殖するまで培養する。その後、細胞を回収し破砕する。この細胞破砕物を遠心分離機によって遠心分離チューブ中で沈澱物とキメラ組み換えウイルスを含んだ高力価上清とに分離する。本質的に宿主細胞を含まず、細胞培養培地とキメラ組み換えウイルスを含んだこの遠心上清は、本発明のワクチンとして使用できる。また、薬理学的に受け入れられる生理食塩水などのようなもので、希釈して使用してもよい。遠心上清を凍結乾燥ワクチンとしても利用できる。
本発明のワクチンが鶏用ワクチンである場合、ワクチン中のキメラ組み換えウイルスが家禽に感染して防御免疫を引き起こすような方法であれば、どのような方法で家禽に投与してもよい。例えば、翼膜穿刺、皮膚に引っかき傷をつけてワクチンを接種したり、注射針やその他の器具で家禽の皮下にワクチン接種することができる。また、ワクチンを家禽の飲み水に懸濁したり、飼料の固形物に混入して、経口接種させることも可能である。さらに、エアロゾルやスプレーなどによるワクチンを吸入させる方法、静脈内接種法、筋肉中接種法、腹腔内接種法等を用いることもできる。
接種量は、例えば、鶏に接種するFPVの場合、1羽あたり通常10〜106プラーク形成単位(PFU)であり、好ましくは102〜104PFUである。注射する場合には、この量を生理食塩水等の薬理学的に受け入れられる液体で希釈して0.1ml程度にすればよい。
本発明のワクチンがFPVの場合は、普通の条件下で保存、使用することが可能である。例えば、本発明の組み換えウイルスを凍結乾燥すれば、冷蔵庫(0〜4℃)での保存も可能であり、さらに短期間であれば室温(20〜22℃)での保存も可能である。また、ウイルスの懸濁液を−20〜−70℃にして凍結させ、保存することも可能である。
【0026】
【実施例】
(実施例1) FPV組み換え用プラスミドpNZ6927RLの構築
本発明で用いたFPV組み換え用プラスミドpNZ6927RLは、大腸菌由来のlacZ遺伝子に鳩痘由来のプロモーターP17を接続したプラスミド、pNZ1729R(Yanagidaら、J.Virol.、66、1402−1408(1992))を元にして、pNZ98(特開平3−27284)のVVの7.5Kプロモーターと連結したNDVのF遺伝子と、pNZ87(特開平1−157381)のVVの7.5Kプロモーターを連結したNDVのHN遺伝子を挿入して作製した。
【0027】
(実施例2) 組み換えFPVの作製と純化
単層になったCEFにFPVの各ウイルス株(USDA株、NP株、西ヶ原株、ポキシン株、946株、Bordett株)を0.1の感染多重度で感染した。3時間後、これらの細胞をトリプシン処理で剥がし、細胞懸濁液とした。2×107個の細胞を含む懸濁液に、実施例1で得た組み換え用プラスミドpNZ6927RL 10μgを加えた。この細胞と組み換え用プラスミドの混合物をSaline G(0.14M NaCl、0.5mM KCl、1.1mM Na2HPO4、0.5mM MgCl2・6H2O、0.011% グルコース)に懸濁し、室温において、ジーンパルサー(Bio−Rad社)3.0KV/cm、0.4msec条件下でエレクトロポレーションした。プラスミドを導入した細胞を、その後37℃で72時間培養し、3回の凍結融解によって細胞を溶解した。放出した組み換えウイルスは次のように選別された。
【0028】
溶解した細胞から放出された子孫ウイルスを含んだ溶解液の10倍段階希釈液を継代したCEFに感染させ、生育培地を含んだ10mlの寒天溶液を重層した。室温中で寒天を固めた後、典型的なFPVのプラークが出現するまで37℃で培養した。この培養期間は親ウイルスによって少し異なるが、通常、親ウイルスがUSDA株の場合は5〜6日、NP株の場合は6〜7日、西ヶ原株の場合は7〜8日である。さらにBluo−galを600μg/ml含んだ別の寒天をそれぞれの培養プレートに重層し、さらに24時間37℃で培養した。これらの青色プラークを単離し含まれているウイルスを回収し、形成する全てのプラークがBluo−galで青く染まるまで、同じ方法でさらに組み換えウイルスの純化を行った。通常この過程は4〜6回で終了する。親ウイルスとして、USDA株、NP株、西ヶ原株、ポキシン株、946株、Bordett株を用いて作製、純化した組み換えウイルスを、それぞれ、US6927RL、NP6927RL、Ni6927RL、PX6927RL、Q6927RL、BD6927RLと名付けた。これら全ての組み換えウイルスは、サザンハイブリダイゼーション法により解析され、NDVのF遺伝子とHN遺伝子、大腸菌のlacZ遺伝子が予想通りの位置にあることが確認された。また、これら全ての組み換えウイルスをカバースリップ上で培養したCEFに感染させ、NDVの抗HNおよび抗Fマウス・モノクローナル抗体を用いて間接蛍光抗体によってその蛋白の発現をチェックしたところ、全ての組み換え体で特異蛍光が観察され、導入抗原遺伝子の発現が確認された。
【0029】
(実施例3) 組み換えウイルスを接種した鶏の強毒NDVに対する感染防御効果とポックサイズの推移
組み換えFPVおよび対照としてのFPV親ウイルスは、穿刺用針で104PFUを4日齢のニューキャッスル病に対する移行抗体保有鶏の翼膜に接種した。32日齢で2.6×104PFUのNDV佐藤株を腿の筋肉中にチャレンジし、その後2週間観察して耐過したものを感染防御したとみなした。この実験を2度繰り返して行い、その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、親ウイルスが西ヶ原株の組み換えFPVは最もよい防御率を示し、その次によかったものが親ウイルスがNP株の組み換えFPVであったことが判る。3番目にその成績のよかったものは、親ウイルスが中雛用ワクチンに限定されているポキシン株の組み換えFPVであったことも判る。その他のワクチン株(USDA株、946株、Bordett株)が親ウイルスの組み換えFPVの防御率は30%未満と低かった。
また、2度目のチャレンジ実験では、接種後7、9、11、13、15、17、19、21、23、25日目に各個体のポックサイズを測定し、各群ごとの平均を算出し、その推移を図1に示す。ポックサイズの測定は、デジタルノギスを用いて、縦、横、高さを測定し、その3つを乗じたものをポックサイズとした。この結果に示されるように、親ウイルスが西ヶ原株の組み換えFPVは接種後21日を経過してもポックが大きく存在し、その毒性の強いことが判明した。
この結果、親ウイルスが強毒株である西ヶ原株の組み換えFPVは感染防御効果も高いが、毒性も高いことが判明した。
【0032】
(実施例4) キメラウイルスの作製と組み換え効率の決定(モデル実験)
組み換えウイルス間でキメラウイルスが作製できる組み換えが起こること、および組み換え効率がどの程度おこるのかを確認するために、以下のモデル実験を行った。
材料として使用した組み換えFPVのlacZ遺伝子挿入部位はすでに同定してあり(図3参照)、全長300kbのゲノムの端から80kb離れたところの29位(組み換え体はfNZ1029)とそこからさらに50kb離れたところの25位(組み換え体はfNZ1025)である(R.Ogawaら、J.Gen.Virol.、74、55−64、1993年)。両挿入部位の間で組み換えが起こるとlacZ遺伝子を欠失するか、又はlacZ遺伝子を2つ持つどちらかのキメラウイルスとなる。
【0033】
このことを確かめるために、6cmφの培養皿に2次培養したCEFに、NP株のfNZ1025とfNZ1029の組み換えFPVをそれぞれ感染多重度2で共感染した。37℃で3日間培養した後感染細胞を回収し、種ウイルス液を得た。このウイルス液を103〜106まで10倍ごとに段階希釈したものを10cmφの培養皿に2次培養したCEFに感染し6日間培養してプラークを形成させた。これに600μg/mlBluo−gal(GIBCO−BRL社製)を含む培地を重層してさらに1晩培養したのちに、全てのプラーク、染色されていないプラークをカウントしその比率を計算した。
437個の出現プラークをスクリーニングしたところ、白プラークの数は35個検出された。したがって、8.00%の出現率である。fNZ1025の自然発生的 なlacZ非発現プラークは0.45%未満(検出限界以下)であり、fNZ1029タイプの組み換え体については0.05%であった。したがって、2つの組み換え体の自然発生的なlacZ非発現プラーク出現を考慮すると、lacZを欠失したキメラウイルスの出現率は
8.00−(0.05+0.45)=7.50
7.5%ということになる。
【0034】
感染多重度xでウイルスを感染させたときの細胞全体に対する感染細胞の割合P(x)は、
P(x)=1−e-x
(eは自然対数)
で与えられることが知られている。従って、全細胞数をN0とすると、同じ感染多重度xで異なる2種のウイルスを感染したときの共感染している細胞の数Nxxは、
Nxx=[P(x)]2・N0
であらわされる。また、それぞれの親ウイルスのみが感染している細胞数Nxは、
Nx={P(x)−[P(x)]2}・N0
となる。共感染した場合、感染細胞中でウイルスのゲノム同士が1回だけ100%相同組み換えを起こし、複製、パッケージング等の効率が一様でKで表されるとすると、組み換えタイプの子ウイルスの比率は以下の式で表される、
2[P(x)]2・N0・K/〔2[P(x)]2・N0・K+2{P(x)−[P(x)]2}・N0・K〕=P(x)
これに感染多重度2を当てはめてみると、86.5%になる。FPVのゲノムが300kbとすると、両挿入部位間で組み換えが起こる確率は、
50/300=16.7%
さらにlacZが欠失するのはこの半分で、8.4%となるから、感染多重度2で感染したとき、
0.865×0.084=0.073
で、7.3%となる。これは、実験値の7.5%と非常に近い数字である。これから考えると、組み換えFPVにおいても実際に組み換えがおこり、共感染したものは100%に近い確率で互いに相同組み換えを起こし、キメラウイルスが作製できることが判る。
【0035】
(実施例5) キメラ組み換えウイルスの作製
実施例4に示した如く、共感染した場合は100%に近い確率でキメラウイルスが作製できることが示されたため、Ni6927RLとNP6927RLとを10cmφの培養皿に2次培養したCEFにそれぞれ感染多重度2で、共感染させた。37℃、3日間培養した後、感染細胞を回収し、超音波破砕処理して種ウィルス液を取得した。このウィルス液を103−107まで10倍ごとに段階希釈したものを10cmφの培養皿に2次培養したCEF細胞に感染し、6日間培養してプラークを形成させた。これに600μg/mlのBluo−galを含む培地を重層してさらに1昼夜培養した。翌日、20の青プラークを取得し、引き続いて大量調製、タイトレーションを行った。この20クローンのキメラ組み換えウイルスをNi/NP(1)〜Ni/NP(20)と名付けた。
【0036】
(実施例6) キメラ組み換えウイルスを接種したポックサイズの推移と、鶏の強毒NDVに対する感染防御効果
実施例5で純化、大量調製をおこなった20クローンのうち、8クローン、Ni/NP(4)、Ni/NP(5)、Ni/NP(8)、Ni/NP(9)、Ni/NP(10)、Ni/NP(12)、Ni/NP(15)、Ni/NP(18)に関して、動物実験をおこなった。キメラ組み換えFPVおよび対照としての組み換えFPV、FPV親ウイルスは、穿刺用針で104PFUを4日齢のニューキャッスル病に対する移行抗体保有鶏の翼膜に接種した。接種後4、8、11日目に各個体のポックサイズを測定し、各群ごとの平均を算出し、その推移を図3に示す。ポックサイズの測定は、実施例3と同様に行った。25日齢で2.6x104PFUのNDV佐藤株を腿の筋肉中にチャレンジし、その後2週間観察して耐過したものを感染防御したとみなし、その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
図3に示されるように、これらキメラ組み換えウイルス8クローンのうち、Ni/NP(5)、Ni/NP(9)、Ni/NP(15)の3株に関しては、組み換えウイルスであるNi6927RLとNP6927RL、さらにFPV親ウイルスのNP株のポックサイズより、大きいまま推移していることが観察された。他の5クローンに関しては、親組み換えウイルスよりもかなり小さいポックサイズで推移していることが観察された。
また表2に示されるように、強毒NDVでチャレンジした場合、Ni/NP(4)、Ni/NP(5)、Ni/NP(8)、Ni/NP(15)の4株が、Ni6927RLと同等か、それ以上の防御率を示した。もう一方の組み換えウイルスであるNP6927RLに関しては、この条件下では全く感染防御効果を示さなかった。
【0039】
(実施例7) キメラ組み換えウイルスを接種した鶏のポックサイズの推移
実施例5の強毒NDVチャレンジ実験において、感染防御効果が高かった4クローンNi/NP(4)、Ni/NP(5)、Ni/NP(8)、Ni/NP(15)に関して、さらにその毒性を詳しく検討するために、SPF鶏を用いて、そのポックサイズの推移を検討した。キメラ組み換えFPVおよび対照としての組み換えFPV、FPVの親ウイルスの104PFUをそれぞれ穿刺用針で4日齢のSPF鶏の翼膜に接種した。接種後3、7、9、11、14、17、21日目に各個体のポックサイズを測定し、各群ごとの平均を算出し、その推移を図4に示す。ポックサイズの測定は、実施例3と同様に行った。
図4に示されるように、実施例5で最も感染防御効果が高かった4クローンのうち、Ni/NP(5)のみが接種後21日後でも、親組み換えウイルスであるNi6927RLよりも大きいポックサイズを示し、むしろより毒性はより強くなったことが観察される。しかしながら、そのほかの3クローンNi/NP(4)、Ni/NP(8)、Ni/NP(15)に関しては、FPVの親ウイルスであるNP株よりも小さいポックサイズを示している。この3クローンのうち、Ni/NP(15)は、他の2クローンに比較して、大きいポックサイズの推移を示した。Ni/NP(4)、Ni/NP(8)の2クローンに関しては、NP6927RLと同等かそれ以下のポックサイズの推移を示した。
以上のように、Ni/NP(4)、Ni/NP(8)の2クローンは、実施例5より、感染防御効果がNi6927RLと同様に高く、実施例6よりNP6927RLと同等の低い毒性しか持たないことが示された。
【0040】
【図面の簡単な説明】
【図1】様々なFPV株を用いた6927RLタイプの組み換え体のポックサイズの推移を示したグラフである。
【図2】挿入部位29位と25位のFPVゲノム上の位置を説明した図である。
【図3】ニューカッスル病に対する移行抗体保有鶏に対して、キメラ組み換えウイルスを接種したポックサイズの推移を示したグラフである。
【図4】SPF鶏に対して、キメラ組み換えウイルスを接種したポックサイズの推移を示したグラフである。
Claims (7)
- 異種外来遺伝子を組み込んだ1種類の組み換えアビポックスウイルス(a)と、当該組み換えアビポックスウイルス(a)の親ウイルスと同属異株の親ウイルスに異種外来遺伝子を組み込んだ1種類の組み換えアビポックスウイルス(b)とからなるキメラ組み換えアビポックスウイルスのもととなるウイルスを、宿主細胞に共感染させることを特徴とする、異種外来遺伝子を有するキメラ組み換えアビポックスウイルスの作製方法。
- 組み換えアビポックスウイルス(b)に組み込まれた異種外来遺伝子が、組み換えアビポックスウイルス(a)に組み込まれた異種外来抗原遺伝子と同属の相同する抗原タンパク質をコードする遺伝子である請求項1記載のキメラ組み換えアビポックスウイルスの作製方法。
- 組み換えアビポックスウイルス(a)の親ウイルスがフォウルポックスウイルスのNP株であり、組み換えアビポックスウイルス(b)の親アビポックスウイルスがフォウルポックスウイルスの西ヶ原株である請求項1記載のキメラ組み換えアビポックスウイルスである請求項1記載のキメラ組み換えウイルスの作製方法。
- 異種外来抗原遺伝子がニューカッスル病ウイルス、マレック病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、および伝染性喉頭気管炎ウイルスからなる群より選択されるウイルス由来の遺伝子である請求項1記載のキメラ組み換えアビポックスウイルスの作製方法。
- 異種外来抗原遺伝子がニューカッスル病ウイルスのF抗原タンパク質遺伝子またはHN抗原タンパク質遺伝子、マレック病ウイルスの糖タンパク質gB遺伝子、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスのVP2タンパク質遺伝子、および伝染性喉頭気管炎ウイルスの糖タンパク質gB遺伝子からなる群より選択される遺伝子である請求項1記載のキメラ組み換えアビポックスウイルスの作製方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載された方法により作製されたキメラ組み換えアビポックスウイルス。
- 請求項6記載のキメラ組み換えアビポックスウイルスを有効成分とするワクチン。
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