JP3686319B2 - ガスタービン動翼の溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は発電用ガスタービン動翼の溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属の表面改質のための溶融溶接、摩耗部あるいは浸食部へ補修のために基材金属と同材質の材料を溶融溶接する方法は、サブマージアーク溶接、ティグ溶接、被覆アーク溶接等により一般的に行われている。
【0003】
ところが、溶加材として加える金属が延性が低い等の理由で溶接棒または溶接ワイヤとして加工困難である場合、これらの溶接方法では施工できない。
【0004】
すなわち、摩耗部あるいは浸食部の補修において、基材金属と同材質の溶接棒または溶接ワイヤの製作が困難である場合、類似成分で製作可能な溶接棒での溶接を余儀なくされ、この場合溶接部金属の機能が低下してしまう。
【0005】
一方、前述の問題を解決するため、特開昭55−005126号公報に示されるように、プラズマ溶接トーチ内を経由して金属粉末を供給するプラズマ溶接方法が現在広く知られている。この方法によれば、溶接棒、ワイヤの添加が可能であるだけでなく、金属粉末の添加によっても溶接が可能であるため、溶接棒、ワイヤの製作が困難な材料であっても、金属粉末の製作が可能であれば、溶融溶接が可能となる。
【0006】
表面改質、摩耗部あるいは浸食部の補修を対象とするガスタービン動翼の材料は硬く、延性が低く、溶接棒、ワイヤの製作が困難であるため、金属粉末を供給するプラズマ溶接方法が有効である。
【0007】
しかし、プラズマ溶接トーチ内を経由して金属粉末が供給される方法によれば、金属粉末は重力に従い下方向に落下するため、被溶接物の溶接部分と溶接トーチの角度は下向きに垂直を保つことが原則であり、被溶接物の溶接部分と垂直を保つことができない上進溶接あるいは下進溶接では溶融池に適切に金属粉末が供給されず、溶接が困難である。また、この溶接方法は、前述のように、専ら溶接トーチと被溶接物の溶接部を垂直に保ち、ポジショナー等を利用し、下向き溶接で平面、あるいは円筒物の外表面等、ある一定形状を有する被溶接物にしか適用できない。
【0008】
ところが、表面改質、摩耗部あるいは浸食部の補修が必要なガスタービン動翼の先端部は、一定形状ではなく、施工時には上進、下進溶接が必要である。
【0009】
ここで、特開昭55−005126号公報に示される粉末がトーチとは別系統で供給される方法ならば、可動式の粉末の供給ノズルを用い、溶融プールに確実に粉末を供給することができる。
【0010】
また、表面改質、摩耗部あるいは浸食部の補修が行われる先端部は、3mm程度の薄板の端部への溶接施工であるため、施工時の溶接電流は5〜25A程度の低電流で溶接施工しなければならないが、先に述べたプラズマ溶接方法の施工時の溶接電流は50〜150A程度であることが一般的であるため、従来のプラズマ溶接法では被溶接物である動翼を過多に溶融してしまい、安定した溶接部を得ることができない。これに対し、粉末供給を別系統にすることで、低電流でのアーク特性に優れたプラズマ溶接機を用い、低電流で薄板端部への溶接施工が可能となる。
【0011】
ところが、ガスタービンに用いられているNi基超合金を基材とする動翼は、従来技術による施工法では、溶融溶接を行うと、基材の溶接熱影響部の粒界が液化し、溶接時に発生する拘束熱応力と相まって割れを生じる。このため、従来技術では、拘束熱応力を低減するために、ガスタービン動翼の先端部を一定形状になるように切断して溶接する方法が採用されている。しかし、この方法では、摩耗あるいは浸食されていない健全な部分も切断しなければならず、また溶接部分も多くなる。
【0012】
つまり、ガスタービン動翼に対しては、溶接部を最小限にして局部的に、表面改質のための溶接や摩耗あるいは浸食された部分に対しての溶接を行うことができなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ガスタービン動翼の表面改質、あるいはガスタービン動翼の摩耗・浸食部分を補修する場合に、基材である動翼の高温割れを抑止し、当該動翼の使用寿命の延長化を図ることを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、ガスタービン動翼の溶接方法において、前記動翼を加熱しながら、溶接開始点から溶接終了点に向かって溶接した後、反転して、再び溶接開始点に戻って溶接を終了することによって達成される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明による溶接施工の形態を以下に説明する。
【0016】
図1において、1はプラズマ溶接トーチ、2はシールドガス、3はプラズマアーク、4は粉末供給ノズル、5は金属+粉末供給ガス、6は溶融池、9はチップ、13はガスタービン動翼、14は溶接部を示している。
【0017】
図1では、熱源としてプラズマ溶接装置での装置構成を示すが、他の熱源としてレーザーを使用することも可能である。
【0018】
(実施例1)
図2は、溶接トーチ1とガスタービン動翼13の補修溶接施工を溶接方向に平行な視野で模式的に示したものであり、図に向かって右側が動翼の後側である。斜線部14は、高温酸化による減肉、摩耗等により部分的に欠損したガスタービン動翼の先端部の溶接後の状態を示している。
【0019】
この欠損した部分を原形に復元させるため、溶融溶接方法を用いるが、ガスタービン動翼13はγ´相強化型のNi基超合金であり、硬いため、同材質の溶接棒あるいは溶接ワイヤの製作は非常に困難である。
【0020】
すなわち、溶加材として溶接棒あるいは溶接ワイヤの製作が困難な材料であって、同材質粉末の製作が可能である金属材料であるため、従来の技術の項で述べたプラズマ溶接方法が適用できる。また、欠損部は一定形状ではなく、図3に示すごとく、上進あるいは下進溶接が要求されるため、溶接トーチ内を経由して金属粉末を供給させる方法では、重力により該金属粉末が落下し、金属溶融池に適正量の粉末を供給することができないので、図4に示すように、粉末の供給ノズル4が別系統で、供給する位置を自由に変えられる方法であれば、溶融池に適正量の粉末を供給することができる。
【0021】
また、粉末を溶加材に用いた溶接方法では、粉末の粒径が小さ過ぎると、シールドガス2あるいは粉末供給ガス5の影響により、チップ9に溶融付着し、安定したプラズマアーク3が得られなくなり、逆に粒径が大き過ぎると、溶融池内で溶融せず、溶接欠陥として残る可能性があるが、この問題に対しては、粉末の粒度を50〜260μmとすることにより、安定した溶接が可能となった。
【0022】
ところが、先に述べたように、この合金は溶接時の割れ感受性が非常に高く、溶接熱影響部に割れが発生する。この割れを防止し、溶接するためには、溶接時の入熱をできる限り低くし、溶接前後に発生する応力を可能な限り低く抑えなければならない。
【0023】
溶接時の入熱を低くするためには、溶接電流を低くする。ガスタービン動翼の欠損部は、ティグ溶接では溶接可能な下限電流は40Aであり、この入熱では、動翼の熱影響部に割れを発生したが、プラズマ溶接では5〜20Aの電流で施工可能であり、溶接時の入熱量をティグ溶接の半分以下に抑えることができた。よって、溶加材が粉末であるという点からも、入熱を低く抑えるという点からも、プラズマ溶接が有効であった。
【0024】
しかし、単純に粉末を別系統で添加し、入熱を低く抑えるプラズマ溶接だけでは、溶接の開始部(始端部)あるいは溶接の終了部(終端部)に発生する割れを防止できなかった。図5は、摩耗・浸食されたガスタービン動翼で、2層溶接した後の平面図と側面図を示している。7は溶接ビードであり、15は溶接後発生した割れである。矢印が溶接方向を示しており、16,17は溶接の始端部あるいは終端部となる部分であり、この部分ではアークを出したままトーチの移動を停止し、入熱が多くなり、溶接前後で発生する熱応力が高くなるため、高温割れが発生した。
【0025】
そこで、溶接前後に発生する熱応力を低減するため、WELDING JOURNAL(NOV.1982,p25〜)に示されるように、ガスタービン動翼を加熱しながら溶接を行った。加熱は抵抗加熱ヒーターを動翼に巻き付けて行うことができ、加熱温度は、基材の延性が向上する約1000℃程度である。基材の延性が向上する温度まで加熱することで、基材の延性により発生した熱応力を基材の塑性変形で吸収できる可能性がある。ところが、16に発生する割れはこの施工方法によっても熱影響部に発生する割れは防止できなかった。
【0026】
図6(a)は、摩耗・浸食されたガスタービン動翼で、2層溶接した後、割れが発生しなかった施工時の平面図と側面図を示している。矢印が溶接方向の一例である。図5に示す16を始端部、終端部とすることなく、17,18の溶融池を拘束する範囲が減少する部分に始端部および終端部を設定する溶接施工を行うことによって高温割れを防止でき、局部的な補修溶接が可能となった。図6(b)は、溶接部分の側面図を示し、矢印は凝固部を主に拘束する横方向の力を示している。つまり、16では始端部、終端部を拘束する基材は2方向となるが、17,18では1方向となる。よって、凝固する部分に発生する熱応力が減少し、高温割れの防止が可能となった。
【0027】
ここで、加熱せずに図6(a)に示した17,18を始端部、終端部に設定した施工方法を試みた。図7は、2層溶接した後の動翼の側面図を示し、15は割れを、矢印は溶接方向を示している。加熱せずに溶接した場合では、18の部分に割れが発生し、加熱が有効であることが確認された。
【0028】
一方、高温酸化により減肉した部分に対しては、同材質の材料を肉盛施工しても、運転中に再度減肉してしまう可能性が高い。このため、表面改質として、基材より耐高温酸化性の優れた材料を本発明による溶接施工で基材に割れを生じさせることなく肉盛溶接することができ、動翼の性能向上を図ることができる。
【0029】
本実施例によれば、同材質の粉末の溶加材を用いることで、ガスタービン動翼の欠損部を局部的に補修し、動翼形状を原形に復元し、動翼の性能を取り戻すことができるだけでなく、表面性能を向上させることもでき、動翼の使用寿命の延命化に寄与することができる。
【0030】
また、トーチ1および粉末供給ノズル4をマニピュレーターあるいはロボットに搭載し、溶接することも可能である。
【0031】
(実施例2)
実施例1では、ガスタービン動翼の欠損部の局部的な補修方法について説明したが、本実施例では、ガスタービン動翼の先端部全体の摩耗部を原形寸法に復元する方法について説明する。
【0032】
図8には、プラズマ溶接で先端部の摩耗部を肉盛溶接施工する状況を溶接方向に平行な視野での模式図を示し、図に向かって右側が動翼の後側である。斜線部が肉盛施工された部分である。実施例1と同様、斜線部の肉盛溶接施工を簡便に行い、さらに、同材質の粉末の溶加材を用いることで、摩耗部を原形に復元することができるだけでなく、元の該動翼の性能を取り戻すことができる。
【0033】
また、トーチ1および粉末供給ノズル4をマニピュレーターあるいはロボットに搭載し、溶接することも可能である。
【0034】
さらに、酸化し易い材質における溶接においては、不活性ガス雰囲気を持つチャンバ内で施工すればよい。
【0035】
このように、本実施例によってガスタービン動翼先端部の摩耗部に対しても簡便に良好な溶接ができるだけでなく、失われた性能を復元することができ、動翼の使用寿命の延長を図ることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、ガスタービン動翼の表面改質、あるいはガスタービン動翼の摩耗・浸食部分を補修する場合に、基材である動翼の高温割れを抑止し、当該動翼の使用寿命の延長化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱源をプラズマアークとした場合の溶接装置構成の概略を示す図である。
【図2】本発明によってガスタービン動翼の欠損部の補修状況を溶接方向に平行な視野で模式的に示す図である。
【図3】溶接トーチ内を経由して粉末を供給する溶接トーチによる下進または上進溶接を模式的に示す図である。
【図4】粉末が別系統で供給される溶接方法による溶接状況を模式的に示す図である。
【図5】ガスタービン動翼の先端摩耗部を部分的に肉盛施工する状況を溶接方向に平行な視野で模式的に示す図である。
【図6】プラズマ溶接で動翼先端部の摩耗部を肉盛溶接施工する状況を溶接方向に平行な視野で模式的に示す図である。
【図7】2層溶接した後の動翼の側面図である。
【図8】プラズマ溶接で先端部の摩耗部を肉盛溶接施工する状況を溶接方向に平行な視野での模式図である。
【符号の説明】
1…プラズマ溶接トーチ、2…シールドガス、3…プラズマアーク、4…粉末供給ノズル、5…金属粉末+粉末供給ガス、6…溶融池、7…溶接ビード、8…母材金属、9…チップ、10…Arガスボンベ、11…プラズマ溶接電源、12…粉末供給装置、13…ガスタービン動翼、14…溶接部、15…割れ、16…始端部または終端部、17…始端部及び終端部。
Claims (12)
- ガスタービン動翼の溶接方法において、前記動翼を加熱しながら、溶接開始点から溶接終了点に向かって溶接した後、反転して、再び溶接開始点に戻って溶接を終了することを特徴とするガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1において、溶加材として金属粉末、炭化物あるいは酸化物を含む金属粉末を使用し、前記金属粉末の粒度は50〜260μmであるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1または2において、溶接熱源はプラズマアークであり、その電流値は5〜30Aであるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項において、不活性ガスを封入したチャンバ内で溶接施工するガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項において、動翼の材質はAL+Tiの重量比が7.5%以上である難溶接性材質のγ´相析出強化型Ni基合金であるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項において、酸化あるいは腐食された部分を溶融溶接する方法であって、酸化あるいは腐食された部分を溶融溶接するために溶加材として使用する金属粉末は、動翼部材より耐酸化性、あるいは耐腐食性に優れた材料であるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項において、摩耗された部分を溶融溶接する方法であって、摩耗された部分を溶融溶接するために使用する溶加材は、金属粉末あるいは金属粉末にセラミックスを分散した材料であり、動翼より耐摩耗性に優れた材料であるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項1または2において、溶接熱源はレーザーであり、供給された金属粉末と動翼を溶融溶接し、レーザー溶接中にプラズマが発生してレーザーの入熱が阻害され一定した溶融溶接が不可能になるのを防止するため、レーザーの周囲に少なくとも20%以上のHeガスを混入したArガスあるいは高純度のHeガスを供給するガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項8において、不活性ガス雰囲気内で溶接施工するガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項8または9において、動翼の材質はAL+Tiの重量比が7.5%以上である難溶接性材質のγ´相析出強化型Ni基合金であるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項8〜10のいずれか1項において、酸化あるいは腐食された部分を溶融溶接する方法であって、酸化あるいは腐食された部分を溶融溶接するために溶加材として使用する金属粉末は、動翼部材より耐酸化性、あるいは耐腐食性に優れた材料であるガスタービン動翼の溶接方法。
- 請求項8〜10のいずれか1項において、摩耗された部分を溶融溶接する方法であって、摩耗された部分を溶融溶接するために使用する溶加材は、金属粉末あるいは金属粉末にセラミックスを分散した材料であり、動翼より耐摩耗性に優れた材料であるガスタービン動翼の溶接方法。
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