JP3684374B2 - 分岐澱粉の製造方法 - Google Patents

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【0001】
本発明は、澱粉枝付け酵素(SBE−II:starch branching enzyme-II)およびホスホリラーゼの反応様式を利用し、長鎖または短鎖の分岐鎖(側鎖)を有する分岐澱粉(分岐グルカン)を製造する分岐澱粉の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
分岐澱粉(または分岐グルカン)はアミロペクチン、フィトグリコーゲンおよびグリコーゲンとして自然界に広く存在し、人間をはじめ動植物および微生物のエネルギー源として利用されている。分岐澱粉の1種であるアミロペクチンは穀物の澱粉(アミロースおよびアミロペクチンからなる)に含まれる構成要素であり、マルチプルクラスター構造(複数の分岐グルカンが連なった構造)を持ち、溶解性が低い。フィトグリコーゲンおよびグリコーゲンはシングルクラスター構造を持ち、6〜15量体を比較的多く持つ溶解性の高い短鎖分岐澱粉であるが、フィトグリコーゲンはトウモロコシおよびイネの突然変異体の種子に含まれる澱粉の構成要素として蓄積されており、高純度なものは得られない。また、グリコーゲンは蛋白質と分岐α−グルカンが結合した糖蛋白質である。
【0003】
アミロペクチンの合成に関しては、ADPグルコース(アデノシン二リン酸グルコース)を反応基質として、まず(1)可溶性スターチシンターゼ(α−グルカンの合成反応、J. L. Ozbun et al. Biochem. Biophys. Res. Commun., 43, 631, 1971)および澱粉枝付け酵素(α−グルカンの1,4−結合を6量体以上で切断し、α−グルカンの6位に転移させる反応、W. N. Haworth et al., Nature, 154, 236, 1944)の協奏反応に基づくシングルクラスタ−の形成、次いで(2)澱粉枝切り酵素による余剰分岐鎖の間引き処理、再び(1)の反応による新たなクラスターの形成が行われ、(1)→(2)→(1)の連続的な反応によるマルチプルクラスター構造の構築機構が提唱されている(Steven Ball et al., Cell, 86, 349-352, 1996)が、実験的な実証例は無い。
【0004】
一方、分岐グルカンであるグリコーゲンはUDPグルコース(ウリジン二リン酸グルコース)を反応基質として、グリコーゲンシンターゼ(L. F. Leloir and S. H. Goldemberg, J. Biol. Chem., 235, 919, 1960)およびグリコーゲン枝付け酵素(G. T. Cori and C. F. Cori, J. Biol. Chem., 151, 57, 1943))の協奏反応に基づくことが知られている。これまでに、グルコース−1−リン酸を反応基質として、ホスホリラーゼのグルコース転移作用に基づいた直鎖α−グルカン(人工アミロース)の合成方法についてはすでに技術化され、市販されている(株式会社アジノキ)。
【0005】
また、動物由来のグリコーゲンシンターゼと枝付け酵素を用いた分岐グルカンの合成例(A. J. Parodi et al., Arch. Biochem. Biophys., 132, 111, 1969)、さらにホウレンソウ由来のスターチホスホリラーゼとトウモロコシ由来の澱粉枝付け酵素を用いた分岐澱粉の合成例(M. N. Sivak, Carbohydrate Research, 227, 241-255, 1992)も報告されているが、どちらも限定された反応条件にとどまっており、合成された分岐グルカン(または分岐澱粉)の構造的特徴は詳細には示されていない。したがって、任意の受容体(マルトオリゴ糖4量体以上またはパラアミノフェニルマルトオリゴ糖など)を共存させ、さらにホスホリラーゼと澱粉枝付け酵素の活性量比を調整し、直鎖α−グルカンの合成と分岐の転移を連続的に進行させることを基本とする、分岐鎖長を任意に設定でき、かつ再現性のある人工分岐澱粉の合成に関する製造方法は確立していない。
【0006】
ところで、澱粉枝付け酵素には2種類存在し、それぞれSBE−IとSBE−IIと呼ばれている。前者の酵素は比較的長い単位のα−グルカンを転移し、後者は短い単位のα−グルカンを転移することが知られている。したがって、SBE−IIによって合成される分岐澱粉は溶解性に優れることが考えられる。市販澱粉の中には、SBE−Iを主体として合成・蓄積されたトウモロコシの分岐澱粉が知られるが、SBE−IIを主体として合成・蓄積された澱粉はない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ホスホリラーゼによる直鎖α−グルカンの合成とα−グルカン鎖の転移とを協奏的に行うことにより、分岐グルカンの基本骨格を構築するととともに、グルコース転移反応によるそれぞれの分岐鎖の伸長度を高度に制御することである。特に、本発明の製造方法に用いられる澱粉枝付け酵素SBE−IIの転移反応は、グルコース重合度6〜7量体を中心としており、これまでに知られる酵素よりも転移鎖長の単位が短いことを特徴とする。この酵素反応の制御技術によって長鎖分岐を持つ分岐澱粉または短鎖分岐を持つ分岐澱粉を容易に効率よく製造することができる分岐澱粉の製造方法を提案することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために大麦未熟種子の胚乳抽出液からカラムクロマトグラフィー法を用いて高純度な澱粉枝付け酵素SEB−IIを調製するとともに、分岐澱粉の合成にあたってはホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素の活性比を調節することで解決した。これにより、トウモロコシ由来のフィトグリコーゲン(シュガリー型澱粉)よりも分岐鎖長が短い分岐澱粉、またはトウモロコシ由来の高アミロース型澱粉よりも分岐鎖長が長い分岐澱粉を合成することに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は次の分岐澱粉の製造方法である。
(1) グルコース−1−リン酸を反応基質とし、4量体以上のマルトオリゴ糖を受容体として、ホスホリラーゼaまたはbによるα−グルカンの合成と、澱粉枝付け酵素SBE−IIによるα−グルカン鎖の分子内および/または分子間転移とを行う方法であって、
ホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素SBE− II のユニット比を0.15〜0.7にすることにより、分岐鎖がグルコース重合度として70量体以上である長鎖分岐澱粉を製造することを特徴とする分岐澱粉の製造方法。
(2) グルコース−1−リン酸を反応基質とし、4量体以上のマルトオリゴ糖を受容体として、ホスホリラーゼaまたはbによるα−グルカンの合成と、澱粉枝付け酵素SBE− II によるα−グルカン鎖の分子内および/または分子間転移とを行う方法であって、
ホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素SBE− II のユニット比を13.5〜40にすることにより、分岐鎖がグルコース重合度として6〜7量体である短鎖分岐澱粉を製造することを特徴とする分岐澱粉の製造方法。
(3) 澱粉枝付け酵素が大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIである上記(1)または(2)記載の製造方法。
(4) 澱粉枝付け酵素が大麦種子に含まれている大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIである上記(1)または(2)記載の製造方法。
【0010】
本発明で使用するマルトオリゴ糖はアミロースを酸加水分解またはアミラーゼによる酵素分解によって得られ、α−1,4−グリコシド結合したものであり、4量体以上、好ましくは7〜20量体のものを使用する。
【0011】
本発明で使用する澱粉枝付け酵素SBE−II(以下、単に澱粉枝付け酵素という場合がある)は、α−グルカンのα−1,4−結合を切り離し、切り離したα−グルカン鎖を分子内および/または分子間で糖の6位に転移して分岐を作る酵素であり、α−1,4−グルカン分岐転移酵素と称されることもある酵素である。本発明では大麦から得られる澱粉枝付け酵素SBE−IIを使用するのが好ましく、特に大麦種子から得られるものが好ましい。大麦の品種などは制限されない。大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIには2種類のアイソザイムがあり、それぞれSBE−IIaとSBE−IIbと区別されるが、それぞれ単独で使用することもできるし、併用することもできる。
【0012】
澱粉枝付け酵素SBE−IIは、例えば次のような方法により精製することができる。すなわち、開花後3週目の大麦未熟種子の胚乳を調製し、緩衝液(pH7.2)で酵素蛋白質を抽出する。抽出した粗酵素液に硫酸アンモニウムを添加することにより、粗酵素蛋白質を沈殿分画する。この分画物を緩衝液に再溶解したのち透析し、次にイオン交換クロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー法によって精製し、高純度な澱粉枝付け酵素SBE−IIを得ることができる。精製操作を行う際には、α−シクロデキストリンなどの安定化剤を共存させることによって酵素の安定性を保持することが好ましい。本発明の製造方法ではこのようにして精製した高純度な酵素を使用するのが好ましいが、粗酵素を使用することもできる。
【0013】
本発明で使用するホスホリラーゼaまたはb(以下、これらをまとめて単にホスホリラーゼという場合がある)は特に制限されず、公知のホスホリラーゼが使用できる。例えば、ウサギ骨格筋、ニワトリ、カエル、ツノザメ、イセエビ、ヤツメウナギ、ブタ肝臓、ウシ肝臓等の動物に由来するホスホリラーゼaまたはb;酵母等の微生物に由来するホスホリラーゼ;ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ等の植物に由来するホスホリラーゼなどがあげられる。ホスホリラーゼは1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0014】
前記澱粉枝付け酵素SBE−IIを作用させて長鎖分岐澱粉および短鎖分岐澱粉を製造するには、例えば次のような方法があげられる。受容体であるマルトヘプタオース(グルコース7量体)とホスホリラーゼ活性化因子であるAMP(アデノシン−5’−1リン酸)を含むグルコース−1−リン酸溶液にウサギ筋ホスホリラーゼbと澱粉枝付け酵素SBE−IIとを同時に添加し、pH6〜8、温度20〜35℃下で1〜8時間反応を行う。好ましくはpH6.5〜7.5、温度30℃下で1〜3時間反応を行う。また、受容体は0.001〜0.05重量%、グルコース−1−リン酸は50〜80mM、ホスホリラーゼ活性化因子は0.5〜2mM、好ましくは受容体は0.01〜0.02重量%、グルコース−1−リン酸は60〜70mM、ホスホリラーゼ活性化因子は1〜1.5mMであるのが望ましい。澱粉枝付け酵素SBE−IIおよびホスホリラーゼbの使用量は適宜選択できる。またホスホリラーゼbに対する澱粉枝付け酵素SBE−IIの使用量を選択することにより、得られる分岐澱粉の分岐鎖の長さを調節することができる。
【0015】
例えば、ホスホリラーゼbの添加量を0.72ユニット(unit)に定めた場合、長鎖分岐澱粉を合成するには澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量は、精製された酵素量として0.1〜0.5ユニット、好ましくは0.3〜0.4ユニットとするのが望ましい。また短鎖分岐澱粉を合成する場合は10〜30ユニット、好ましくは15〜20ユニットとするのが望ましい。
【0016】
ここでホスホリラーゼの1ユニットは、1分間にグルコース−1−リン酸から1マイクロモルのグルコースを遊離し、受容体(マルトヘプタオース)に転移する酵素量である。
また、澱粉枝付け酵素SBE−IIの1ユニットは、ホスホリラーゼ附活化法による定法(Yamauchi, H and Nakamura, Y., Plant Cell Physiol., 33, 985-991, 1992)に準拠して行い、測定波長540nmにおける吸光度を1分間あたり1.0上昇させる酵素量を1ユニットとした酵素量である。
【0017】
酵素反応が進行するに従って、ホスホリラーゼbの作用によってグルコース鎖が伸長すると同時に、澱粉枝付け酵素SBE−IIによるα−グルカン鎖が分子間転移され、次いでホスホリラーゼbにより転移されたα−グルカンの伸長が起こる。この一連の反応が繰り返し起こることによって複数の分岐を持つ澱粉が合成される。澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を上記のように少なくすると長鎖分岐澱粉が合成され、多くすると短鎖分岐澱粉が合成される。これらの合成澱粉はアミロペクチンおよびフィトグリコーゲン等の天然澱粉とは分岐構造が異なり、天然澱粉に比べて分岐鎖が短い澱粉または長い澱粉である。なお、澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を調節することにより、天然澱粉と同程度の長さの分岐鎖を持つ澱粉を得ることもできる。
【0018】
本発明の製造方法において、ホスホリラーゼの添加量に対して澱粉枝付け酵素SBE−IIを少量添加した場合、例えば澱粉枝付け酵素/ホスホリラーゼのユニット比が0.15〜0.7、好ましくは0.45〜0.6の場合は、酵素反応が進行するに従って分岐鎖のグルコース重合度として70量体以上の長鎖が増加する。一方多く添加した場合、例えば澱粉枝付け酵素/ホスホリラーゼのユニット比が13.5〜40、好ましくは20〜30の場合は6〜7量体の短鎖が増加する。
【0019】
本発明の製造方法では、澱粉枝付け酵素SBE−IIを少量添加した場合、反応を十分進行させることにより老化性の高い長鎖分岐澱粉を得ることができる。一方、澱粉枝付け酵素SBE−IIを多量に添加した場合、反応を十分進行させることにより溶解性の高い短鎖分岐澱粉を得ることができる。
【0020】
本発明の製造方法を図面を用いて説明する。図1は本発明の製造方法に係る反応の摸式図であり、1は受容体としてのグルコース7量体、2はホスホリラーゼ、3はグルコース−1−リン酸、4は直鎖α−グルカン、5は澱粉枝付け酵素、6は分岐グルカン、7は分岐澱粉である。
【0021】
反応系では、ホスホリラーゼ2の作用によってグルコース7量体1にグルコース−1−リン酸3のグルコースが転移するとともに、リン酸が遊離する(反応1)。このグルコースを転移する反応1が繰り返して進行することにより、グルコース7量体1の鎖が伸長した直鎖α−グルカン4が生成する。
この直鎖α−グルカン4は澱粉枝付け酵素5の作用によって鎖が切断されるとともに、この切断された短鎖が他のα−グルカンに転移され、分岐グルカン6が生成する(反応2)。この反応2で生成した分岐グルカン6は前記反応1により、鎖が伸長し、続いて反応2により鎖の転移が生じ、分岐の増加した分岐グルカン6が生成する。このようにして反応1および反応2が繰り返して協奏的に進行することにより、本発明の分岐澱粉7が生成する。
上記反応系において、澱粉枝付け酵素5/ホスホリラーゼ2のユニット比が小さい場合は、前記反応1が優勢となり、長鎖が増加して長鎖分岐澱粉が生成する。一方澱粉枝付け酵素5/ホスホリラーゼ2のユニット比が大きい場合は、前記反応2が優勢となり、短鎖が増加して短鎖分岐澱粉が生成する。
【0022】
本発明の製造方法によって得られる分岐澱粉の構造的特徴については、以下の方法で解析することができる。すなわち、本発明の製造方法によって得られた分岐澱粉の水溶液に対してイソアミラーゼを作用させた後、遊離した直鎖状α−1,4−グルカン鎖の長さを液体クロマトグラフィーによって解析する。なお、イソアミラーゼは分岐グルカンの分岐点となるα−1,6−グルコシド結合を分解して直鎖状α−1,4−グルカンを生じる酵素であり、例えばPseudomonus属に由来するものなどが使用できる。さらにヨウ素呈色反応法により澱粉溶液を有色化し、鎖長に依存して現れる色調の判定および分光光度計による最大吸収波長の測定を行う。これらの分析方法によって、本発明の製造方法により得られる分岐グルカンの鎖長の長短が確認できる。
【0023】
本発明の製造方法で得られる分岐澱粉はシングルクラスター構造の分岐澱粉であり、分岐鎖は長鎖から短鎖まで任意に調節することができる。このような分岐澱粉は、従来から利用されている作物のアミロペクチン、フィトグリコーゲン、高アミロース型分岐澱粉とは分子構造が異なるものである。
本発明の製造方法では上記分岐グルカンを容易に効率よく製造することができる。また、従来の天然澱粉とは違い、本発明の製造方法で製造される分岐澱粉は高純度な分岐グルカンのみを含む。
【0024】
以上の通り本発明の製造方法は、ホスホリラーゼと澱粉枝付け酵素の活性量比を調整することにより、直鎖α−グルカンの合成と分岐の転移を連続的に進行させ、これにより分岐鎖長を任意に設定でき、かつ再現性のある人工分岐澱粉を容易に効率よく製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法で得られる各種分岐澱粉は、溶解性、膨潤性および老化性などの諸性質が異なることから、人工糊および包装資材などの産業分野、あるいは可食性フィルム素材、増量剤および食品安定化剤などの食品分野などにおいて、新規澱粉性素材としての利用が可能である。
【0026】
【発明の効果】
以上の通り、本発明の製造方法は、グルコース−1−リン酸を反応基質としたホスホリラーゼによるα−グルカン合成反応と、澱粉枝付け酵素SBE−IIによるα−グルカンの転移反応とを組み合わせることに基づいており、ホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を調整することにより、天然物には無い長鎖分岐澱粉または短鎖分岐澱粉をそれぞれ高純度に製造することができる。また、本発明の製造方法で製造した分岐澱粉はシングルクラスター構造の分岐澱粉であり、この構造に依存して多様な理化学的性質(溶解性、膨潤性および老化性など)を持つことから、産業資材および食品素材などとして広い分野において利用できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施例について説明する。なお、%は特に断らない限り重量基準である。また略号および酵素の活性測定方法は次の通りである。
AMP:アデノシン−5’−1リン酸(Adenosine-5'-monophosphate)
EDTA:エチレンジアミン四酢酸(Ethylenediamine-N,N,N',N'-tetraacetic acid)
DTT:ジチオスレイトール(Dithiothreitol)
PMSF:フェニルメチルスルホニルフルオリド(Phenylmethylsulfonylfluoride)
PVPP:ポリビニルポリピロリドン(Polyvinylpolypyroolidone)
CHAPS:3−[(3−コルアミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(3-[(3-Cholamidepropyl)-dimethylammonio]-1-propanesulfonate)
【0028】
酵素蛋白質の精製過程における澱粉枝付け酵素の活性測定は、ホスホリラーゼ附活化法による定法(Yamauchi, H and Nakamura, Y., Plant Cell Physiol., 33, 985-991, 1992)に準拠して行い、測定波長540nmにおける吸光度を1分間あたり1.0上昇させる酵素量を1ユニットとした。
【0029】
実施例1
(1)澱粉枝付け酵素SBE−IIの抽出および硫安塩析による分画
モチ大麦(四国裸97号、二条大麦)の開花後3週目の大麦未熟種子から調製した胚乳4kgを8Lの酵素抽出用緩衝液に懸濁し、ホモジナイザーで粉砕抽出処理を行った。この時使用した酵素抽出用緩衝液の組成は、25mM−トリス/塩酸緩衝液(pH7.2)、1M−塩化ナトリウム、5mMEDTA、1mM−PMSF、5mMDTT、および1.5%PVPPである。次いで、遠心分離操作(17,000xg、20分)により上清を採り、この上清に硫酸アンモニウムを40%濃度になるまで添加、溶解した。この塩析操作により不溶化した酵素蛋白質を遠心分離操作(17,000xg、20分)によって集め、硫安塩析物(粗酵素)とした。
【0030】
(2)澱粉枝付け酵素の精製
上記で得られる硫安塩析物(粗酵素)を100mlの脱イオン水に溶解し、セルロース系透析膜(排除分子量:10,000以下)に入れ、20mM−トリス/塩酸緩衝液を透析外液として24時間透析処理を行った。透析内液を遠心分離操作(46,000xg、20分)により上清と沈殿物に分画し、上清を粗酵素液として精製に用いた。粗酵素液を陰イオン交換樹脂(Q−SepharoseFF:ファルマシア社製)を充填したカラムに導入および吸着させ、20mM−トリス/塩酸緩衝液の塩化ナトリウム濃度を50mMおよび300mMに変えてそれぞれ段階的に溶出した。50mMおよび300mM塩化ナトリウム濃度によって溶出されてくる澱粉枝付け酵素はそれぞれSBE−I(ホスホリラーゼ附活化法による活性量:1733.4ユニット)およびSBE−II(ホスホリラーゼ附活化法による活性量:624.8ユニット)として分画した。
【0031】
次に、上記SBE−II画分を、市販アミロース(商品名:EX−1、生化学工業)をセルロース系樹脂(商品名:アミノセルロファイン、生化学工業)に結合させ、それを充填したカラムに導入し、樹脂に特異的に結合させた。次いで、0.1%CHAPSを含む20mM−トリス/塩酸緩衝液(pH7.2)に0.5%濃度のEX−1を加えた溶出用緩衝液によって特異結合した澱粉枝付け酵素SBE−IIを溶出させた(酵素回収量:204.9ユニット、酵素蛋白質の等電点4.71)。ここで得られた高純度な澱粉枝付け酵素SBE−IIを分岐澱粉の合成に用いた。大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIの等電点電気泳動結果は図2に示すように、このSBE−II画分にはSBE−IIb以外にSBE−IIaが僅かに混在している。なおSBE−IIaとSBE−IIbのα−グルカン鎖の転移反応特性は同じである。
【0032】
(3)分岐澱粉の合成
上記で得られた澱粉枝付け酵素SBE−II(ホスホリラーゼ附活化法による活性量:0.12〜18ユニット)をホスホリラーゼb(720ミリユニット、ベーリンガー山之内社)、反応基質であるグルコース−1−リン酸(62.5mM)、ホスホリラーゼ活性化剤であるAMP(1.25mM)および受容体であるマルトヘプタオース(50μg)を含む反応液(2ml)に添加して、30℃で3時間の反応を行った。反応停止はエタノールを2倍量添加することによって行い、同時に生じる分岐澱粉の沈殿物を遠心分離操作によって得た。これを真空凍結乾燥法によって粉末化し、新規分岐澱粉とした(収量は約5mg)。
【0033】
(4)分岐澱粉の分子構造
上記の澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量(0.12、0.36、1.2、3.0、6.0、12または18ユニット)をそれぞれ違えて合成した7種類の新規分岐澱粉(0.5mg)を脱イオン水(940μl)中で加熱溶解し、枝切り酵素反応[反応液組成:25mM酢酸緩衝液(pH4.7)、イソアミラーゼ(1ユニット、Pseudomonus属起源、生化学工業)、0.02%アジ化ナトリウム]を35℃で24時間行った。次に、遊離したマルトオリゴ糖(α−グルカンオリゴマー)をアルカリ条件下で1%水素化ホウ素ナトリウム(50μl)を添加することにより室温で24時間還元処理し、真空凍結乾燥を行った。さらに、得られた分岐澱粉の調製物を陰イオン交換カラム(CarbopacPA10、ダイオネクス社)とパルスドアンペロメトリック検出器(ダイオネクス社)を用いた液体クロマトグラフィー法により分析した。図3に、澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を0.36ユニットまたは18ユニットをして酵素反応を行った場合に得られた分岐澱粉の構造解析データーを示す。
【0034】
上記の反応条件で合成された新規分岐澱粉の分岐鎖長に依存したヨウ素呈色反応による色調判定と最大吸収波長(λmax)の測定は、以下の方法で行った。すなわち、澱粉合成反応液1mlに対して1M−塩酸(0.1ml)、ジメチルスルホキシド(0.5ml)および0.05%ヨウ素/0.5%ヨウ化カリウム(0.7ml)を添加、攪拌後呈色させ、その色調の判定と分光光度計によるスペクトルスキャンを行い、最大吸収波長を検出した。上記の分析を行った結果、澱粉枝付け酵素添加量を0.12または0.36ユニットとした場合の合成澱粉は鎖長が70量体以上の長鎖長の分岐で構築され、1.2ユニットの合成澱粉は24量体を中心とする広い範囲の分岐で構築され、18ユニットの合成澱粉は6量体を中心とする分岐と16量体を中心とする広い範囲の分岐とで構築されていることが確認できた。ただし、この分岐澱粉はシングルクラスター構造であり、アミロペクチン様のマルチプルクラスター構造ではない。
【0035】
また、任意の酵素添加量(0.12〜18ユニットの7種類)に依存して合成された分岐澱粉のヨウ素呈色反応と最大吸収波長(λmax)は以下の通りであった。
0.12ユニット=ブルー/グリーン・592.8nm
0.36ユニット=ブルー・575.4nm
1.2ユニット=ワインレッド・530.6nm
3.0ユニット=ブラウン・520.8nm
6.0ユニット=オレンジ・λmax検出不可
12ユニット=イエロー・λmax検出不可
18ユニット=クリアイエロー・λmax検出不可
結果は図4に示す。
【0036】
図3の結果から、上記の製造方法の反応条件で合成した長鎖分岐澱粉(SBE−II、0.36ユニットを使用)は70量体以上の長鎖分岐を約40%持ち、アミロース状の長鎖の分岐が多く存在することが示された。このことは、アミロースよりも溶解性は良いが、老化性は高いことが予想される。この長鎖分岐澱粉の構造の模式図を図5に1高アミロース型として示す。また、短鎖長分岐澱粉(SBE−II、18ユニット使用)は6〜7量体の短鎖が最も多く、4〜16量体の分岐数を100%とすると、4〜8量体が占める割合は53.5%である。一方、トウモロコシのフィトグリコーゲンの場合、4〜8量体が占める割合は33.9%である。このことは、短鎖分岐澱粉はフィトグリコーゲンよりも短い分岐を多く持ち、溶解性に優れることが予想される。この短鎖分岐澱粉の構造の模式図を図5に7シュガリー型として示す。なお図5の4標準型として示す模式図は長鎖分岐澱粉と短鎖長分岐澱粉との中間の分岐鎖を有する分岐澱粉の模式図であり、本発明の製造方法で得られる分岐澱粉であるとともに天然澱粉(標準型)の構造の摸式図である。
このように実施例1では、側鎖の長いaeタイプ(長鎖分岐澱粉)から短いsu1タイプ(短鎖分岐澱粉)まで各種分岐グルカンが合成されることが示された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法に係る反応の摸式図である。
【図2】実施例1で得た大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIの等電点電気泳動パターンである。
【図3】実施例1で得た分岐澱粉の側鎖長分布を示す構造解析データである。番号2が付されている最上段のデータは澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を0.36ユニットとした場合に得られた分岐澱粉のデータ、番号7が付されている2段目のデータはSBE−IIの添加量を18ユニットとした場合に得られた分岐澱粉のデータである。また3段目および最下段のデータは比較のためのデータであり、それぞれ大麦アミロペクチンおよびトウモロコシフィトグリコーゲンの構造解析データである。ピークの上側に記載の数字または下向き矢印で示した数字はグルコース重合度の数を示す。なお番号2および番号7は図4のセルの番号に対応している。
【図4】実施例1で得た人工分岐澱粉のヨウ素呈色と分岐鎖長を反映する最大吸収波長を示す図である。ヨウ素呈色反応の結果はセルのカラー写真で示されており、番号1のセルが澱粉枝付け酵素SBE−IIの添加量を0.12ユニットとした場合結果であり、番号2、3...はそれぞれ0.36ユニット、1.2ユニット、3.0ユニット、6.0ユニット、12ユニット、18ユニットの場合の結果である。
【図5】人工分岐澱粉の模式図であり、番号1の高アミロース型は本発明の製造方法で得られる長鎖分岐澱粉の構造の模式図であり、番号7のシュガリー型は本発明の製造方法で得られる短鎖分岐澱粉の構造の模式図である。番号4の標準型は長鎖分岐澱粉と短鎖長分岐澱粉との中間の分岐鎖を有する分岐澱粉の模式図であり、本発明の製造方法で得られる分岐澱粉であるとともに、天然澱粉の構造の摸式図である。なお番号1、番号4および番号7は図4のセルの番号に対応している。
【符号の説明】
1 グルコース7量体
2 ホスホリラーゼ
3 グルコース−1−リン酸
4 直鎖α−グルカン
5 澱粉枝付け酵素
6 分岐グルカン
7 分岐澱粉

Claims (4)

  1. グルコース−1−リン酸を反応基質とし、4量体以上のマルトオリゴ糖を受容体として、ホスホリラーゼaまたはbによるα−グルカンの合成と、澱粉枝付け酵素SBE−IIによるα−グルカン鎖の分子内および/または分子間転移とを行う方法であって、
    ホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素SBE− II のユニット比を0.15〜0.7にすることにより、分岐鎖がグルコース重合度として70量体以上である長鎖分岐澱粉を製造することを特徴とする分岐澱粉の製造方法。
  2. グルコース−1−リン酸を反応基質とし、4量体以上のマルトオリゴ糖を受容体として、ホスホリラーゼaまたはbによるα−グルカンの合成と、澱粉枝付け酵素SBE− II によるα−グルカン鎖の分子内および/または分子間転移とを行う方法であって、
    ホスホリラーゼに対する澱粉枝付け酵素SBE− II のユニット比を13.5〜40にすることにより、分岐鎖がグルコース重合度として6〜7量体である短鎖分岐澱粉を製造することを特徴とする分岐澱粉の製造方法。
  3. 澱粉枝付け酵素が大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIである請求項1または2記載の製造方法。
  4. 澱粉枝付け酵素が大麦種子に含まれている大麦澱粉枝付け酵素SBE−IIである請求項1または2記載の製造方法。
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