JP3677088B2 - 超電導磁気軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導現象を利用して回転体を非接触で支持する超電導磁気軸受に関するものであり、超高真空を実現するターボ分子ポンプやフライホイールを用いたエネルギー貯蔵装置などに利用される。
【0002】
【従来の技術】
ターボ分子ポンプやエネルギー貯蔵用フライホイールなどの回転機器において、高効率化、高速化、長寿命化、低騒音化、クリーン化などの機器に対する要請が高まってきている。この要請に応えるため非接触な軸受機構を有する装置が望まれており、その一つとして超電導材料の磁束に対するピン止め力を利用した超電導磁気軸受が有望視されている。
【0003】
しかしながら、超電導磁気軸受にはダンピング特性が小さいという問題がある。そのため、超電導磁気軸受を利用した回転機器においては、回転数が共振点付近になると、回転体の振れが異常に大きくなり、回転体が破損する危険性がある。
【0004】
このような共振点での大きな振れを抑制するため、電磁石、位置センサ、速度センサ、電子回路などを用いた複雑な制御機構を設けて、超電導磁気軸受と組み合わせることが提案されている(例えば、特開平6−129427号公報)。
【0005】
しかしながら、このことは、複雑な制御を必要とせずに安定な浮上を実現できるという超電導浮上の画期的な特徴をなくすものである。
【0006】
そこで、本発明者らは、先の出願で、超電導材料と磁石との隙間にダンピング材料を挿入することによって、複雑な制御機構を有することなく安定な浮上を実現でき、高ダンピング特性を有する超電導浮上装置を提案した(特願平6−064937号)。ダンピング材料が、浮上体の振動に伴う磁場変動を熱エネルギーとして吸収し、浮上体の振動を抑制するのである。この提案は、超電導浮上装置の実現を可能にするものとして期待されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した超電導浮上装置では、ダンピング材料と超電導材料が一体化しているため、ダンピング特性が自由に調節できなかった。そのため、超電導磁気軸受を利用した回転機器においては、ダンピング特性は改善されるが、エネルギー損失が増大するという問題が生ずる。エネルギー損失が大きくなると、低エネルギー損失で回転できるという超電導磁気軸受の特徴が失われてしまう。超電導磁気軸受を利用した回転機器において、理想的に軸対称に設計された装置で、かつ磁石強度の周方向分布が均一な場合には、回転に伴う磁場変動がなく、ダンピング材料に起因するエネルギー損失は実質的にゼロになるが、現実の装置においては回転中心と装置の重心の若干のずれ(偏心)が生じ、また磁石の周方向にも磁気むらが存在するので、回転に伴って磁場が変動する。この回転に伴う磁場変動をダンピング材料が感じて、エネルギー損失の増大につながる。すなわち、ダンピング材料が、回転体の振動に伴う磁場変動に対してエネルギー吸収してダンピング特性を改善するだけでなく、回転体の回転に伴う磁場変動に対してもエネルギーを吸収して回転損失の原因となるのである。
【0008】
本発明は、上述の問題点を解決し、複雑な制御機構を必要とせずに、共振点での振れを抑制し、回転損失を低下することのできる超電導磁気軸受を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の超電導磁気軸受は、上述の問題を解決するために、
(1) 超電導材料、磁石およびダンピング材料を利用した超電導磁気軸受において、該超電導磁気軸受が、前記超電導材料の磁束に対するピン止め力を利用し、ダンピング特性調節機構を設けたことを特徴とする超電導磁気軸受である。
【0010】
(2)前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の位置を可変にするものであることを特徴とする前記(1)に記載の超電導磁気軸受である。
【0011】
(3)前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の前記磁石に対する角度を可変にするものであることを特徴とする前記(1)に記載の超電導磁気軸受である。
【0012】
(4)前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の温度を可変にするものであることを特徴とする前記(1)に記載の超電導磁気軸受である。
【0013】
(5) 前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料を用いて作製されたコイルの開閉を制御するものであることを特徴とする前記(1)に記載の超電導磁気軸受である。
【0014】
また、(6) 超電導材料と浮上用磁石からなる浮上手段、または超電導材料と磁石とダンピング材料からなるダンピングを兼ねた浮上手段とダンピング材料とダンピング用磁石からなるダンピング手段を利用した超電導磁気軸受において、該超電導磁気軸受が、前記超電導材料の磁束に対するピン止め力を利用し、ダンピング特性調節機構を設けたことを特徴とする超電導磁気軸受である。
【0015】
(7)前記ダンピング特性調節機構が、前記ダンピング材料と前記ダンピング用磁石の相対的位置を変化させるものであることを特徴とする前記(6)に記載の超電導磁気軸受である。
【0016】
(8)前記ダンピング特性調節機構が、前記ダンピング材料の温度を変化させるものであることを特徴とする前記(6)に記載の超電導磁気軸受である。
【0017】
上記(1)から(5)は、ダンピング材料が、超電導材料と対になっている浮上用の磁石により形成される磁場中に配置されている。このような配置では、浮上用の磁石とダンピング用の磁石を兼用でき、装置の構成が簡単になる。一方、上記(6)から(8)は、浮上用の磁石とダンピング用の磁石が別々に設置されている。このような配置では、ダンピング特性調節機構が浮上機能を担う超電導材料と磁石から分離しており、ダンピング特性調節機構の設計が容易になる。
【0018】
また、浮上手段としては、浮上力を補うために、極性が異なるように磁石を配置する方法がある。例を、図13と図14に示す。これらの浮上機構は浮上力が向上するためギャップを大きくとることができ、ダンピング機構の設計が容易になる。これらのような浮上用の磁石配置を有する軸受に対しても(1)〜(8)のダンピング調節機能が有効であることは明らかである。
【0019】
ここで、超電導材料とは、臨界電流密度(Jc)の高い、すなわちピン止め力が強い超電導材料であり、磁石の磁力線をピン止めすることにより浮上機能を担う。具体的な例としては、QMG材と呼ばれるY系酸化物超電導バルク材(特開平2−153803号公報)がある。QMG材とは、溶融法による製造プロセスで作製され、単結晶状のREBa2 Cu3 7-x 相(REはYおよび希土類元素、あるいはそれらの組み合わせ)中にRE2 BaCuO5 相が微細分散していることを特徴とするものであり、RE2 BaCuO5 相が磁束量子のピン止め点として働いており、液体窒素温度でピン止め力の強い材料である。ここで単結晶状とは、完璧な単結晶でなく小傾角粒界など実用に差しさえない欠陥を有するものを包含するという意味である。
【0020】
上記の課題を解決するための手段の中において磁石とは、永久磁石および電磁石のことである。磁石は、磁力線を発生しているので、上記超電導材料と組み合わせて浮上機能を担い、また下記ダンピング材料と組み合わせてダンピング機能を担う。永久磁石を使用する場合には、Nd−Fe−B系やSm−Co系の希土類系永久磁石のような磁力の強い永久磁石が望ましい。
【0021】
上記の課題を解決するための手段の中においてダンピング材料とは、銅や銀などの電気伝導率が高い導電性材料あるいはJcの低い超電導材料であり、浮上体の振動エネルギーを熱エネルギーとして吸収し、振動を抑制する働きを有する。電気伝導率が高い導電性材料の場合、浮上体の振動によって磁石との相対的距離が変化することにより導電性材料中に渦電流が流れ、その渦電流によるエネルギー損失としてエネルギーを吸収する。また、Jcの低い超電導材料の場合、超電導体中の磁束量子の動きに伴うエネルギー損失としてエネルギーを吸収する。
【0022】
ダンピング材料の位置を可変にすることやダンピング材料の磁石に対する角度を可変にすることは、電動式のモータ、油圧や空気圧などを利用すれば可能となる。また、ダンピング材料の温度を可変にすることは、ダンピング材料に冷媒を通す流路を設けたり、ダンピング材料とヒータを組み合わせることによって可能となる。
【0023】
【発明の実施の態様】
本発明の超電導磁気軸受は、ダンピング特性調節機構を設けたことを特徴とするものである。本発明の超電導磁気軸受は、ダンピング特性が調節可能なので、エネルギー損失を低下させることができる。超電導磁気軸受を利用した回転機器において、回転数に応じて装置のダンピング特性を変化させるのである。共振が発生する回転数は、超電導磁気軸受の剛性、浮上体の重量、浮上体の剛性などにより予測できる。したがって、共振が発生する回転領域のみダンピング特性を大きくすれば、共振点での大きな振れが抑制され、しかもそれ以外の回転領域ではダンピング特性を小さくし、回転損失を低下させることによって装置のエネルギー効率は向上する。高速回転機器以外の多くの機器においては、通常低速回転領域に1次共振モードが存在し、定常時の回転領域として1次共振モードと2次共振モード間の回転領域を設定する場合が多い。この場合、加速および減速時のみダンピング特性を大きくし、定常時の回転領域ではダンピング特性を小さくするようにすれば調節機構は簡単になる。したがって、本発明の超電導磁気軸受は、複雑な制御機構を必要とせずに、共振点での振れを抑制し、回転損失を低下することができる。
【0024】
超電導材料、磁石およびダンピング材料からなる浮上手段を利用した超電導磁気軸受において、軸受のダンピング特性はダンピング材料自身の形状や性質(高電気伝導率の導電性材料の場合における渦電流の流れ易さや低Jcの超電導材料の場合における磁束量子の動き易さ)だけでなく、超電導材料の形状やピン止め力、磁石の形状や磁力の強さおよびその勾配、超電導材料と磁石とダンピング材料との相対的な位置関係などの因子を考慮して決定される。簡単には、ダンピング材料を貫いている磁力線の量が多いほど、ダンピング特性が大きくなる傾向にある。
【0025】
本発明(2)と(7)の超電導磁気軸受は、ダンピング特性調節機構として、ダンピング材料と磁石との相対的位置を変化させるものであることを特徴とする超電導磁気軸受である。磁石が形成する磁場の強さ、すなわち磁力線の量は磁石からの距離によって変化するので、この機構により超電導磁気軸受内のダンピング材料の位置を変化させると、ダンピング材料を貫いている磁力線の量が変化することになる。その結果、ダンピング特性も変化する。ダンピング材料を動かす方向としては、回転軸と平行な方向、回転軸に対して垂直な方向、およびそれらを組み合わせた方向が考えられる。ダンピング材料の位置変化に伴うエネルギー損失を小さくするためには、移動速度をなるべく遅くした方が望ましい。ダンピング特性を大きくしたいときは、ダンピング材料と磁石との相対的距離を小さくし、磁石からの磁力線がなるべく多くダンピング材料を貫くようにすればよい。逆にダンピング特性を小さくしたいときには、ダンピング材料と磁石との相対的距離を大きくし、ダンピング材料を貫く磁力線の量を小さくすればよい。このようにダンピング材料の磁石に対する相対的距離を変化させることによって、ダンピング材料を貫いている磁力線の量を変化させることが可能である。したがって、本発明の超電導磁気軸受においては、ダンピング特性が調節可能である。
【0026】
また、本発明(3)の超電導磁気軸受は、ダンピング特性調節機構として、ダンピング材料の磁石に対する角度を変化させるものであることを特徴とする超電導磁気軸受である。ダンピング材料の磁石に対する角度を変化させることによっても、ダンピング材料を貫いている磁力線の量を変化させることが可能となる。ダンピング特性を大きくしたいときには、ダンピング材料を磁石の面に対して平行にし、磁石からの磁力線がなるべく多くダンピング材料を貫くようにすればよい。逆にダンピング特性を小さくしたいときには、ダンピング材料を磁石の面に対して垂直にし、ダンピング材料を貫く磁力線の量を小さくすればよい。このようにダンピング材料の磁石に対する角度を変化させることによって、ダンピング材料を貫いている磁力線の量を変化させることが可能である。従って、本発明の超電導磁気軸受においては、ダンピング特性が調節可能である。
【0027】
また、本発明(4)と(8)の超電導磁気軸受は、ダンピング特性調節機構として、ダンピング材料の温度を変化させるものであることを特徴とする超電導磁気軸受である。ダンピング材料が高い電気伝導率の導電性材料の場合、ダンピング材料の温度を変化させることによって、ダンピング材料の電気伝導率が変化する。渦電流の流れ易さは、電気伝導率に依存するので、ダンピング特性も変化する。また、ダンピング材料が低いJcの超電導材料の場合、ダンピング材料の温度を変化させることによって、ダンピング材料の超電導性が変化する。磁束量子の動き易さは、超電導性に依存するので、ダンピング特性も変化する。温度が低いJcの超電導材料の臨界温度を超えたときは超電導から常電導への転移が起こり、この場合ダンピングの要因が渦電流の流れ易さに変化するが、超電導材料の常電導状態での電気伝導率は低いので、ダンピング特性は著しく小さくなる。ダンピング特性を大きくしたいときにはダンピング材料の温度を低くし、逆にダンピング特性を小さくしたいときにはダンピング材料の温度を高くすればよい。このようにダンピング材料の温度を変化させることによって、ダンピング材料の渦電流の流れ易さや磁束量子の動き易さを変化させることが可能である。従って、本発明の超電導磁気軸受においては、ダンピング特性が調節可能である。
【0028】
また、本発明(5)の超電導磁気軸受は、ダンピング特性調節機構として、ダンピング材料を用いて作製されたコイルの開閉を制御するものであることを特徴とする超電導磁気軸受である。この機構によりダンピング材料で作製されたコイルを開閉すると、コイルのインダクタンスが変化することになるので、ダンピング特性も変化する。コイルの開閉は、コイル面を貫いている磁力線の量が変化することに対応している。従って、本発明の超電導磁気軸受においては、ダンピング特性が調節可能である。コイルの開閉によるダンピング特性の調節は、可動部が少なくなるので装置が簡単になる。
【0029】
本発明の超電導磁気軸受において、超電導材料を冷却するのに液体窒素などの冷媒や冷凍機などの冷却機構を用いるので、ダンピング特性を大きくするには、これらの冷却機構をダンピング材料の冷却に利用することが望ましい。
【0030】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図を用いて説明する。
【0031】
図1は、本発明の超電導磁気軸受の一実施例を示すもので、フライホイールのような回転機器の例である。図1では、ダンピング材料9が、超電導材料1と対になっている浮上用の磁石2により形成される磁場中に配置されている。環状の永久磁石2が回転体3の上下に各1組ずつ組み込まれ、強いピン止め力を有する環状の超電導材料1が容器11の中で永久磁石2に対向する位置に固定されている。超電導材料1を冷却する前に、油圧や空気圧を利用した初期位置決め機構により回転体3を垂直方向に持ち上げ、その後超電導材料1を冷却する。超電導材料1を臨界温度以下に冷却した後、回転体3を固定していた初期位置決め機構を開放すると、回転体3は、上部の超電導材料1からの吸引力と、下部の超電導材料1からの反発力により、非接触で安定に浮上する。図1では、冷却装置および初期位置決め機構は省略してある。回転体3は、回転軸4の上部に取付けられた電動発電機5により回転する。回転軸4の底部には、非常用の補助軸受が取付けられている。超電導材料1と永久磁石2との隙間には、ダンピング材料9が、駆動装置8により支持されて設置されている。ダンピング特性の調節は、例えば図2から図6に示すような方法で行うことができる。回転数検出器6によって回転数を検出できるようにして、駆動装置用制御器7を通して駆動装置8をコントロールすれば、回転体3の回転数に応じて、ダンピング特性を調節することが可能となる。
【0032】
図2は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すものである。図2において、ダンピング材料9は、駆動装置8によって超電導材料1と永久磁石2との隙間を回転軸に平行方向に移動することにより、ダンピング材料9と永久磁石2との距離を変化させることができる。例えば、図2に示したように、ダンピング材料9が、位置(b)から位置(a)にダンピング材料9と永久磁石2との距離が小さくなるように移動した場合には、ダンピング特性は大きくなる。逆に、位置(b)から位置(c)にダンピング材料9と永久磁石2との距離が大きくなるように移動した場合には、ダンピング特性は小さくなる。従って、本装置のダンピング特性は調節可能になる。
【0033】
図3は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すものである。図3において、超電導材料1と永久磁石2との隙間にあるダンピング材料9は、図3に示すように、回転軸に垂直な面に沿ってスライド式に動かすことができる。この場合には、永久磁石2の下方にあるダンピング材料9の面積が変化するにつれて、ダンピング材料9を貫く磁力線も変化し、装置のダンピング特性も変化することになる。ダンピング材料9がちょうど永久磁石2の真下にある時にダンピング特性が大きくなり、ダンピング材料9が移動するにつれてダンピング特性はだんだん小さくなる。従って、この方式でもダンピング特性は調節可能である。この方式の場合、スライドする箇所が1箇所でも効果があるが、回転を安定させるためには回転軸に対して対称にスライドする箇所を複数個設けたほうが望ましい。図3の場合は、スライドする箇所が2個の例である。
【0034】
図4は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すものである。図4において、超電導材料1と永久磁石2との隙間にあるダンピング材料9は、図4に示すように、永久磁石2に対する角度を変化させることができる。この場合には、ダンピング材料9が永久磁石2の面に平行から垂直に回転するにつれて、ダンピング材料9を貫く磁力線の量が減少し、装置のダンピング特性も変化することになる。従って、この方式でもダンピング特性は調節可能である。この方式の場合、角度を変化する箇所が1箇所でも効果があるが、回転を安定させるためには回転軸に対して対称に角度を変化する箇所を複数個設け、それらが回転軸に対して対称に角度変化したほうが望ましい。図4の場合は、角度変化する箇所が2個の例である。
【0035】
図5は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すものである。図5において、超電導材料1と永久磁石2との隙間にあるダンピング材料9には、図5に示すように、温度を変化させることができるように冷媒の通る流路11が付いている。この場合には、ダンピング材料9は超電導材料1を冷却する冷媒等とは分離独立して冷却される。冷媒が流路11を通ることにより、ダンピング材料9の温度が低下し、装置のダンピング特性も変化する。従って、この方式でもダンピング特性は調節可能である。ダンピング材料9を超電導材料1を冷却する冷媒等で冷却するのに比較して、ダンピング材料9を冷媒用流路11から直接冷却する方式は、ダンピング特性を大きくするためにダンピング材料9を大きくし、永久磁石2を囲うような構造にしたときに、ダンピング材料9を均一に冷却できるので有効である。
【0036】
図6は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すものである。図6においては、超電導材料1と永久磁石2との隙間にあるダンピング材料9は、コイル状に作製されている。この場合には、ダンピング材料9で作製されたコイルを開閉することにより、装置のダンピング特性も変化することになる。コイルを開にするとダンピング特性は小さくなり、コイルを閉にするとダンピング特性は大きくなる。従って、この方式でもダンピング特性は調節可能である。
【0037】
図7は、ダンピング特性の調節方法の一実施例を示すもので、本発明のダンピング特性の調節方法をいくつか組み合わせたものである。本発明のダンピング特性の調節方法は、互いに組み合わせることができ、調節機能をさらに向上させることができる。図7において、超電導材料1と永久磁石2との隙間にあるダンピング材料9は、ダンピング特性を大きくできるように永久磁石2を囲うような構造をしており、内部に冷媒用流路11が設けられてある。また、ダンピング材料9は複数個に分割することができ、その各々が回転軸に対して対称に位置を変化させることができる。ダンピング材料9が大きく永久磁石2を囲っていても、冷媒用流路11から冷却できるのでダンピング材料9は均一に冷却可能である。さらに、ダンピング材料9の位置と温度の両方を変化させることにより、ダンピング特性の調節できる範囲が大幅に広がることになるので、本実施例のダンピング特性調節機能は大きく向上する。
【0038】
本発明の効果を調べるため、図8のような装置で実験した。即ち、表面磁界0.45TのNd−Fe−B系の永久磁石2がロッド15の底部に取り付けられており、永久磁石2と対向する位置に超電導材料1が冷却容器13に固定される。超電導材料1と永久磁石2が所定の距離を保持して液体窒素14により冷却される。超電導材料1を臨界温度以下に冷却した後、支持をはずすと浮上力とロッド15の重力が釣り合った点で安定浮上する。その後、加振コイル17より0.2〜200Hzの振動の力をロッド15の上部に加え、振れの大きさを位置センサ18で測定し、FFTアナライザ19で解析する。共振を起こす振動数の力が加わった時の振れの大きさからダンピング係数を計算する。ダンピング係数が大きいと、振れが小さくなる。本実験では、簡単のため、ダンピング材料9は、手動のネジ式駆動装置12を使って、永久磁石2との相対的距離を変化させた。
【0039】
図9に、永久磁石2とダンピング材料9との相対的距離を変化させた場合の結果を示す。本実験では、超電導材料1として直径46mmで厚さ20mmのY系酸化物超電導バルク材(QMG材)を、またダンピング材料9として直径46mmで厚さ1mmの銅板を使用した。冷却前の超電導材料1と永久磁石2との隙間は9mmで、冷却後支持をはずすと4.2mmになり、この状態で測定した。永久磁石2とダンピング材料9の距離が3.2mm、2.2mm、1.2mmの時に、ダンピング係数はそれぞれ1.2Ns/m、2.3Ns/m、5.8Ns/mになった。本実験により、超電導磁気軸受において永久磁石2とダンピング材料9との相対的距離を回転軸に対して平行方向に変化させると、ダンピング特性が変化することが確認された。
【0040】
図10は、本発明の効果を示すもう一つの実験結果例である。図10の実験は、図9と同じ超電導材料1とダンピング材料9を使用して行われたものであり、異なる点はダンピング材料9をスライド式に挿入したことである。ダンピング材料9が永久磁石2の真下にある時の隙間は、1.2mmである。スライド方式によりダンピング材料9を永久磁石2の真下に挿入する前と後では、ダンピング係数はそれぞれ1.0Ns/m、5.8Ns/mになった。本実験によって、超電導浮上装置において永久磁石2とダンピング材料9との相対的距離を回転軸に対して垂直方向に変化させると、ダンピング特性が変化することが確認された。
【0041】
図11は、本発明の効果を示すもう一つの実験結果例である。図11の実験は、図9と同じ超電導材料1を使用して行われたものであり、異なる点はダンピング材料9として直径1mmの銅線を用い、直径25mmで10巻のコイルを作製して測定したことである。コイルを開と閉にすると、ダンピング係数はそれぞれ1.2Ns/m、2.0Ns/mになった。本実験によって、超電導浮上装置においてダンピング材料9で作製されたコイルを開閉すると、ダンピング特性が変化することが確認された。
【0042】
図12は、本発明の超電導磁気軸受の一実施例を示すものである。図12では、超電導材料1と対になっている浮上用の磁石2とは別に、ダンピング用の磁石2′が回転軸4に固定状かつ同心円状に取り付けられている。このダンピング用磁石2′により形成される磁場中にダンピング材料9が配置されている。回転数検出器6により検出された回転数に応じて、駆動装置制御器7を通して駆動装置8をコントロールすることにより、ダンピング特性を調節することが可能となる。図12では、ダンピング特性調節機構が浮上機能を担っている超電導部とは別の箇所に存在するので、例えば、図7のようにダンピング材料9を動かす場合に、空間的な制約が小さいためダンピング材料9を可動範囲が大きくとれ、設計が容易になる。図12では、磁石2′を回転軸4に固定状かつ同心円状に取り付けたが、ダンピング材料9を回転軸4に固定状かつ同心円状に取り付けてもよい。図12のように、磁石2′を回転軸4に取り付けた場合は、超電導材料1を冷却している冷却装置20を利用して、ダンピング材料9を冷却することが容易にでき、ダンピング特性を大きく改善できる。
【0043】
【発明の効果】
本発明により、複雑な制御機構を必要とせずに、種々に回転数において安定な浮上を可能とする超電導磁気軸受が提供できる。従って、広範囲な利用分野に、超電導磁気軸受が実用化可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の超電導磁気軸受の一つの実施例を示す概略構成図である。
【図2】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の一つの実施例である。
【図3】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の他の実施例である。
【図4】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の他の実施例である。
【図5】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の他の実施例である。
【図6】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の他の実施例である。
【図7】 本発明におけるダンピング特性の調節方法の他の実施例である。
【図8】 本発明の効果を調べるための実験装置の概略構成図である。
【図9】 本発明の効果を示す実験の一つの結果例である。
【図10】 本発明の効果を示す実験の他の結果例である。
【図11】 本発明の効果を示す実験の他の結果例である。
【図12】 本発明の超電導磁気軸受の一つの実施例を示す概略構成図である。
【図13】 本発明に係る超電導磁気軸受において、その浮上手段として浮上力を補うために、極性が異なるように磁石を配置する方法の1つの例である。
【図14】 本発明に係る超電導磁気軸受において、その浮上手段として浮上力を補うために、極性が異なるように磁石を配置する方法の他の1つの例である。
【符号の説明】
1…超電導材料、 2…永久磁石(浮上用の磁石)、
2′…ダンピング用の磁石、 3…回転体、
4…回転軸、 5…電動発電機、
6…回転数検出器、 7…駆動装置用制御器、
8…駆動装置、 9…ダンピング材料、
10…補助軸受、 11…冷媒用流路、
12…手動式ネジ式可動装置、 13…冷却容器、
14…液体窒素、 15…永久磁石取付ロッド、
16…電磁石制御型軸受、 17…加振コイル、
18…位置センサ、 19…FFTアナライザ、
20…冷却装置。

Claims (8)

  1. 超電導材料、磁石およびダンピング材料を利用した超電導磁気軸受において、該超電導磁気軸受が、前記超電導材料の磁束に対するピン止め力を利用し、ダンピング特性調節機構を設けたことを特徴とする超電導磁気軸受。
  2. 前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の位置を可変にするものであることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気軸受。
  3. 前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の前記磁石に対する角度を可変にするものであることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気軸受。
  4. 前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料の温度を可変にするものであることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気軸受。
  5. 前記ダンピング特性調節機構が、前記磁石により形成された磁場中で前記ダンピング材料を用いて作製されたコイルの開閉を制御するものであることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気軸受。
  6. 超電導材料と浮上用磁石からなる浮上手段、または超電導材料と磁石とダンピング材料からなるダンピングを兼ねた浮上手段とダンピング材料とダンピング用磁石からなるダンピング手段を利用した超電導磁気軸受において、該超電導磁気軸受が、前記超電導材料の磁束に対するピン止め力を利用し、ダンピング特性調節機構を設けたことを特徴とする超電導磁気軸受。
  7. 前記ダンピング特性調節機構が、前記ダンピング材料と前記ダンピング用磁石の相対的位置を変化させるものであることを特徴とする請求項6に記載の超電導磁気軸受。
  8. 前記ダンピング特性調節機構が、前記ダンピング材料の温度を変化させるものであることを特徴とする請求項6に記載の超電導磁気軸受。
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