JP3672299B2 - 浮揚溶解鋳造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属材料をるつぼから浮揚させた状態で溶解する浮揚溶解鋳造装置に関し、特に高真空の溶解雰囲気を得るための手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
浮揚溶解鋳造装置は、金属材料が水冷されたるつぼから離れ、ないしは軟接触した状態で溶解されるため、不純物の混入がなく高純度の溶湯ができる、高融点金属が溶解できる、電磁攪拌により均一な組成が得られるなどの特長を有し、活性金属や高融点金属、合金などの溶解に適している。このような浮揚溶解鋳造装置において、溶解された金属材料の溶湯をるつぼから取り出す技術は重要であり、種々の検討が加えられているが、その一つとしてるつぼ底部に出湯口を設け、この出湯口から鋳型に溶湯を流し込む方法があり、この底部出湯鋳造については特開平5−15950号や特開平7−245182号の公報に記載されている。
【0003】
図3は上記した底部出湯式の従来装置の一例を示す縦断面斜視図である。図3において、るつぼ1は外側に上下2つのコイル2及び3を備え、るつぼ1のすり鉢状の底部には出湯口4が設けられている。るつぼ1は銅からなる複数のセグメントが周方向に並べられて構成されており、セグメント相互間は電気的に絶縁され、また各セグメントは水冷により冷却されている。コイル2及び3には、高周波電源5及び6からそれぞれ高周波電流が流され、るつぼ1内で金属材料7が溶解される。出湯口4は、金属溶解中は可動栓8により閉塞されている。
【0004】
いま、コイル2,3に電流を流すと、るつぼ1の各セグメントに渦電流が誘導されるとともに、セグメント間のスリットから浸入する磁束により、金属材料7にも渦電流が誘導される。これらの渦電流の方向は対向面で図示の通り互いに逆向きなので、それらの間に働く電磁力は反発力となり、金属材料7はるつぼ1から離れて浮上する。また、金属材料7はジュール熱により加熱され、浮揚状態で溶解する。なお、図示装置は2コイル・2電源式で、上コイル2は主に加熱用、下コイル3は主に浮揚用として用いられている。るつぼ1から溶湯を取り出すには、図4に示すように、図示しない栓駆動機構のレバーアーム9を矢印方向に旋回させ、その先端に取り付けられた栓8を抜き取る。これにより、溶湯は図示の通り出湯口4から落下し、図示しない鋳型に流れ込む。
【0005】
ところで、金属の高純度化は、材料本来の性能を高める上で非常に有効な方法であるが、すでに述べたように金属材料の浮揚溶解は溶解材料がるつぼから浮揚しているため、るつぼからの汚染がないという大きな利点がある。また、溶解材料の高純度化を図る方法として、(i)脱酸素材などの添加材を加える方法、(ii)不活性ガスのバブリングによる方法、(iii)減圧雰囲気で脱ガスする方法など種々の方法があるが、特に(iii)の脱ガス溶解法は不純物の除去効果が大きく、浮揚溶解の併用によりきわめて高純度の金属が得られる。そのため、浮揚溶解鋳造装置においては、図3に示すように、装置全体を真空チャンバ24に収容し、真空ポンプ23によりチャンバ内を高真空に排気して金属材料を浮揚溶解することが従来から行なわれている。
【0006】
一方、例えばディスク材や基板上に蒸着させて成膜するためのターゲットディスク材料において、ターゲット材中に含まれるインピュリティ(不純物)が、スパッタリング時にガス放出することによって雰囲気が汚染され、所望の成膜が行なえないことがある。この問題を解決するためには、溶解雰囲気を極力高真空度(10-8Pa台)として脱ガス溶解を行ない、溶解金属中に含まれる不純物濃度を現状の数10ppm〜100ppmから1ppm〜数ppm(wt)もしくはそれ以下に低減する必要がある。
【0007】
また、金属溶解時において、真空容器壁や溶解雰囲気中に存在する水分子が溶解材料中に不純物として混入し、成膜時の状態の悪化を引き起こすことがある。そのような材料の溶解は高真空雰囲気中で行なう必要があるが、前述の水分子の混入については、10-8Pa台で真空排気しなければ完全に除去できないという報告がなされている。従って、そのような不純物のない雰囲気で溶解を行なうためには、溶解雰囲気を10-8Pa台よりも更に高真空に維持する必要があり、それに見合った真空容器及び真空排気装置が必要になる。ところが、例えば溶解量500cc以上の従来の浮揚溶解鋳造装置をそのまま真空チャンバに収容した場合、放出ガス表面積は例えば10m2以上と非常に大きくなるため、到達できる真空度はせいぜい10-6Pa台であり、実用レベルで上記の高真空度を満足することは困難となっている。更に、冷却水系統の封水シール材や各種の電気絶縁材も放出ガスが増加するため使用できない、冷却水の接合シール部からリークが起こるなどの問題も生じている。
そこで、この発明の課題は、浮揚溶解雰囲気の高真空化を実現し、高純度金属の鋳造品質の向上を図ることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明は、底部に出湯口を有するるつぼの外側にコイルを備え、このコイルに高周波電流が流されることにより、前記るつぼ及びその中の金属材料に渦電流が誘導され、これらの渦電流により前記金属材料を前記るつぼから浮揚させるとともに加熱溶解し、生じた溶湯を前記出湯口から鋳型に流し込む浮揚溶解鋳造装置において、前記鋳型を中空筒状に形成して前記るつぼの出湯口に直結し、かつ前記出湯口に嵌合する引抜駆動栓を前記鋳型の中空部内にスライド自在に設け、出湯時に前記引抜駆動栓を引き下げることにより、前記溶湯を前記鋳型内に引き込んで冷却凝固させるように構成するとともに、前記コイルの内側で前記るつぼの側面を覆うるつぼ側面カバー、前記るつぼの上面を覆うるつぼ上面カバー及び前記鋳型の外側を覆う鋳型カバーからなる真空容器を設け、前記各カバー相互を気密にかつ着脱可能に連結し、前記真空容器内を真空排気するものとする(請求項1)。
【0009】
前記るつぼ側面カバーは、石英、ファインセラミックス等の放出ガスの少ない絶縁材で形成するのがよい(請求項2)。また、前記るつぼ、るつぼ側面カバー及びコイルはユニットとして一体に構成するのがよい(請求項3)。更に、前記るつぼ、鋳型及び引抜駆動栓を冷却する冷却水配管を設け、この冷却水配管の前記るつぼ、鋳型及び引抜駆動栓との接続部は前記真空容器の外側に配置するのがよい(請求項4)。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図1及び図2に基づいて、この発明の実施の形態を説明する。ここで、図1は浮揚溶解鋳造装置の金属材料溶解中の縦断面斜視図、図2は図1の装置の鋳造中の図である。なお、従来例と対応する部分には同一の符号を用いるものとする。まず、図1において、るつぼ1は従来例と実質的に同じで、複数の銅セグメントからなり、各セグメントはるつぼ上面に連結された給排水ジャケット10を介して、冷却水配管25から矢印方向に給排水される冷却水により冷却されている。
【0011】
るつぼ底部の出湯口4には、鋳型11が直結されている。鋳型11は銅材からなる中空円筒体で鋳型台12上に支持され、短絡や放電による損傷防止のため、微小空間あるいは絶縁材によりるつぼ1に対して電気的に絶縁されている。るつぼ1の底部に配置された下コイル3の一部3aは、鋳型11の上端部外側に配置されている。鋳型11にはコイル3aが配置された上端部に、周方向に並ぶ複数のスリット11aが軸方向に切り込み形成され、スリット11aからコイル3aの磁束を浸入させるようになっている。このスリット11aはコイル3aの下面よりも下方に深く入れるのがよく、これにより磁束の浸入が良好になる。
【0012】
鋳型11の中空部13には、円柱体の引抜駆動栓14が上下にスライド自在に設けられ、図1の金属溶解状態において、引抜駆動栓14の上端部はるつぼ底部の出湯口4に嵌合され、出湯口4を閉塞している。引抜駆動栓14は、鋳型台12をスライド自在に貫通する駆動ロッド15を介して駆動機構16により上下に駆動される。駆動機構16は、駆動ロッド15に連結された昇降台17を電気式あるいは油圧式のサーボ機構により昇降させる構成となっている。冷却水配管は図示しないが、鋳型11及び引抜駆動栓14は水冷されている。なお、鋳型11は中空円筒体に限るものではなく、断面形状が四角形などの多角形その他の筒体としてもよい。同様に引抜駆動栓14も円柱体に限るものではなく、鋳型11の中空形状に合わせて決定される。
【0013】
このような浮揚溶解鋳造装置において、金属材料7の溶解後、図2に示すように引抜駆動栓14を駆動機構16により下に向って引き抜き駆動すると、溶湯7は出湯口4より鋳型11内に流れ込み、凝固して円柱状のインゴットを形成する。その場合、溶湯7は引抜駆動栓14の下降に追随して鋳型11内に静かに引き込まれるため、溶湯を出湯口から鋳型の底部まで落下させる場合のような乱流が発生せず、きわめて安定した鋳造品質が得られる。鋳型11からのインゴットの取り出しは、引抜駆動栓14によりるつぼ1内に突き上げて上方から抜き出すか、鋳型11のコイル3aより下の部分を割型にしておくなどして行なう。
【0014】
ここで、図1において、溶解雰囲気を高真空に維持するために、浮揚溶解鋳造装置は、るつぼ側面カバー18、るつぼ上面カバー19及び鋳型カバー20からなる真空容器で覆われている。るつぼ側面カバー18は石英からなり、るつぼ1及び鋳型11の上半部に沿う段付き円筒体に形成され、コイル2,3の内側に配置されている。このるつぼ側面カバー18は、上端部のフランジでOリングなどのシール材を介して給排水ジャケット10の下面と気密にかつ着脱可能に締結され、るつぼ1及び鋳型11の一部を覆っている。るつぼ上面カバー19はステンレス製で、円筒体19aとその上端部のフランジにシール材を介して気密に締結された蓋板19bとからなっている。このるつぼ上面カバー19は、円筒体19aの下端部のフランジで給排水ジャケット10の上面にシール材を介して気密にかつ着脱可能に締結され、るつぼ1の上面を覆っている。
ここでは、真空容器をるつぼ側面カバー18、るつぼ上面カバー19及び鋳型カバー20の3分割としているが、るつぼ側面カバー18、鋳型カバー20を一体として2分割の真空容器とすることも可能である。
【0015】
鋳型カバー20はステンレス製で、円筒体20aとその下端部のフランジにシール材を介して気密に締結された蓋板20bとからなっている。この鋳型カバー20は、円筒体20aの上端部のフランジで、ステンレス製の円板21を挟んで、るつぼ側面カバー18の下端部のフランジにシール材を介して気密にかつ着脱可能に締結され、鋳型11の下半部、鋳型台12及び駆動ロッド15の一部を覆っている。蓋板20bと昇降台17との間は、ベローズ22により伸縮自在に閉じられている。各カバー18〜20の内壁面は、複合電解研磨などの処理により平滑に仕上げられ、ガス放出面積の低減及び内壁面に吸着されたガスの除去が図られている。るつぼ1、るつぼ側面カバー18及びコイル2,3はユニットとして一体構成され、それらは一括して交換できるようになっている。真空容器の内部は、るつぼ上面カバー19及び鋳型カバー20の側面にそれぞれ接続された真空ポンプ23の運転により真空排気される。図示の真空排気系は溶解及び鋳造を行なう部分に真空ポンプ23をそれぞれ別々に設け、各々のプロセスで発生するガスを効率よく排気して高真空を維持できるようにしたものであるが、状況に応じて1系統とすることも可能である。
【0016】
上記した真空排気構成において、真空容器はるつぼ側面カバー18、るつぼ上面カバー19及び鋳型カバー20に3分割され、それらは相互に気密にかつ着脱可能に連結されるとともに、各カバー18〜20は浮揚溶解鋳造装置の各部をその輪郭に沿って覆っている。そして、るつぼ側面カバー18はコイル2,3の内側に配置され、コイル2,3は真空容器の外側に設置されている。ここで、冷却水配管25は保守点検時あるいはるつぼ1の交換時に取り外すことがあるが、冷却水配管25の接続部25aは図示の通り、るつぼ側面カバー18及びるつぼ上面カバー19の外側、つまり真空容器の外側に配置する。同様に、図示はしていないが鋳型11及び引抜駆動栓14の冷却水配管の接続部も真空容器の外側に配置する。これにより、高真空雰囲気(10-8Pa台)における冷却水配管の接続シール部からの水分リークの問題が解消する。
【0017】
更に、鋳型11は出湯口4に直結され、るつぼ1との間の空間が省かれるとともに、出湯口4に嵌合する引抜駆動栓14は鋳型11内を直線運動し、駆動ロッド15が真空容器を貫通する部分がベローズ22で容易にシール可能であることから、駆動機構16は真空容器の外側に設置されている。従って、真空容器の容積は最小限に縮小されるとともに、放出ガス量の大きいコイル2,3や配管接続部、駆動機構16などによる溶解雰囲気の汚染が防止されている。また、コイル2,3が真空容器の外側にあるため、真空溶解時のスプラッシュなどの真空度低下により引き起こされる真空放電の問題がなくなる。同様の理由から、真空容器内に分圧コントロール用のガスを流入させながらの溶解も可能になる。その結果、真空容器内のガス放出面積は、例えば溶解量2000ccのるつぼにおいても約3.5 m2と算定され、実用レベルの真空排気装置構成でも10-8Pa以上の到達真空度が可能となっている。
【0018】
一方、従来はるつぼ1と冷却水配管との接続部やコイル2,3と高周波電源5,6との接続部などは、真空チャンバ24(図3)内に収められている。そのため、るつぼ1の交換の際には、真空チャンバ24内で接続取り外しや交換などの作業を行なう必要があり作業性が悪かった。それに対して、図示実施の形態においては、るつぼ1、るつぼ側面カバー18及びコイル2,3はユニット化されており、それらは一括して交換可能である。更に、高真空雰囲気においては、冷却水配管の接続シール部からの水分リークが問題になるが、冷却水配管の接続部を真空容器の外側に配置することで、この問題が解決できるとともに、冷却水配管の接続作業も容易になる。従って、るつぼ1、鋳型11、引抜駆動栓14などの交換や保守などの作業が容易迅速になるとともに、その場合にも高周波電源5,6や冷却水配管及び真空排気系統の接続取り回し部分はそのまま再使用可能である。加えて、るつぼ上面カバー19や鋳型カバー20は個々に着脱可能であるため、るつぼ1に対する金属材料7の投入や鋳造後のインゴットの取り出し、鋳型の交換などの作業スペースの確保も容易である。
【0019】
【発明の効果】
以上の通り、この発明によれば、真空容器の容積が最小限に抑えられるとともに、ガス放出表面積の縮小が図られ、高真空雰囲気での浮揚溶解が可能になるとともに、るつぼ出湯口と鋳型との直結により鋳造品質が向上し、高純度・高品質の浮揚溶解鋳造が実現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態を示す浮揚溶解鋳造装置の金属材料溶解中の縦断面斜視図である。
【図2】図1の装置の引抜駆動栓引き抜き中の状況を示す図である。
【図3】従来例を示す浮揚溶解鋳造装置の金属材料溶解中の縦断面斜視図である。
【図4】図3の装置の出湯中の状況を示す図である。
【符号の説明】
1 るつぼ
2 コイル
3 コイル
4 出湯口
5 高周波電源
6 高周波電源
7 金属材料
10 水冷ジャケット
11 鋳型
13 鋳型中空部
14 引抜駆動栓
16 駆動機構
18 るつぼ側面カバー
19 るつぼ上面カバー
20 鋳型カバー
22 ベローズ
23 真空ポンプ
Claims (4)
- 底部に出湯口を有するるつぼの外側にコイルを備え、このコイルに高周波電流が流されることにより、前記るつぼ及びその中の金属材料に渦電流が誘導され、これらの渦電流により前記金属材料を前記るつぼから浮揚させるとともに加熱溶解し、生じた溶湯を前記出湯口から鋳型に流し込む浮揚溶解鋳造装置において、
前記鋳型を中空筒状に形成して前記るつぼの出湯口に直結し、かつ前記出湯口に嵌合する引抜駆動栓を前記鋳型の中空部内にスライド自在に設け、出湯時に前記引抜駆動栓を引き下げることにより、前記溶湯を前記鋳型内に引き込んで冷却凝固させるように構成するとともに、前記コイルの内側で前記るつぼの側面を覆うるつぼ側面カバー、前記るつぼの上面を覆うるつぼ上面カバー及び前記鋳型の外側を覆う鋳型カバーからなる真空容器を設け、前記各カバー相互を気密にかつ着脱可能に連結し、前記真空容器内を真空排気するようにしたことを特徴とする浮揚溶解鋳造装置。 - 前記るつぼ側面カバーを放出ガスの少ない絶縁材で形成したことを特徴とする請求項1記載の浮揚溶解鋳造装置。
- 前記るつぼ、るつぼ側面カバー及びコイルをユニットとして一体に構成したこと特徴とする請求項1又は請求項2記載の浮揚溶解鋳造装置。
- 前記るつぼ、鋳型及び引抜駆動栓を冷却する冷却水配管を設け、この冷却水配管の前記るつぼ、鋳型及び引抜駆動栓との接続部を前記真空容器の外側に配置したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の浮揚溶解鋳造装置。
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