JP3672180B2 - アグリカン分解剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アグリカン分解剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ADAMTS−1(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1motifs)タンパク質は、ADAMタイプのメタロプロテアーゼ活性と、トロンボスポンジンタイプ1モチーフとを有するADAMTSファミリーの最初のタンパク質として発見された。
【0003】
ADAMファミリー、すなわち、ジスインテグリンドメインとメタロプロテアーゼドメインとを有するタンパク質群は、それらの核酸及びアミノ酸配列がヘビ毒のジスインテグリン及びメタロプロテアーゼの核酸及びアミノ酸配列と非常に酷似している(J.Cell Biol.,131,275−278,1995;Cell,90,589−592,1997;Immunol.Today,278,278−284,1999)。ADAMファミリーが発見された頃は、ジスインテグリン構造が細胞間の相互作用において重要な役割を果たしていると考えられた(Nature,356,248−252,1992;Nature,377,652−656,1995)が、その後の研究により、ADAMファミリーの細胞膜結合型メタロプロテアーゼ活性が、腫瘍壊死因子α(TNFα)の前駆体やショウジョウバエ(Drosophila)デルタタンパク質のような細胞表面に存在する種々のタンパク質を切断し、細胞表面から放出させる活性を有することが判明した(Nature,385,729−733,1997;Nature,385,733−736,1997;Science,283,91−94,1999)。
【0004】
ADAMTS−1タンパク質は、レプロリシン(reprolysin)タイプのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ドメイン1個と、トロンボスポンジン(TSP)タイプ1モチーフ3個とを有し、ADAMファミリーに属するタンパク質である。ADAMTS−1遺伝子は、癌悪疫質をイン・ビボ(in vivo)で引き起こす大腸癌株colon26から単離された(J.Biol.Chem.,272,556−562,1997;Genomics,46,466−471,1997)。ADAMTS−1タンパク質のTSPタイプ1モチーフはヘパリンに結合するが、ADAMTS−1タンパク質は、細胞外マトリックス[extracellular matrix(ECM)]に取り込まれて存在する(J.Biol.Chem.,273,13912−13917,1998)。MMPドメインにタンパク質分解酵素活性があるものと思われる(J.Biol.Chem.,274,18821−18826,1999)。本発明者の以前の研究により、ADAMTS−1タンパク質は細胞外マトリックス結合型メタロプロテアーゼであることが判明しており、細胞外マトリックス中の硫酸化グリコサミノグリカンに結合していることが示唆された。
更に、ADAMTS−1遺伝子の発現が、ヒト関節軟骨及び関節炎症組織で検出されていることも知られている(J.Biol.Chem.,274,23443−23450,1999;Biochem.Biophys.Res.Comm.,260,318−322,1999)。
【0005】
アグリカンは、関節軟骨の細胞外マトリックスに存在する主要なプロテオグリカンであり、そのコアタンパク質は、コンドロイチン硫酸及びケラタン硫酸グリコサミノグリカンにより修飾されている。これらの修飾により、軟骨組織に水分を供給したり、柔軟性を与えている(FASEB J.,6,861−870,1992;Trend.Cell Biol.,5,458−465,1995)。
アグリカンは、複数のドメイン、すなわち、N末端の球状ドメイン(G1及びG2)、グリコサミノグリカン結合領域、及びC末端の球状ドメイン(G3)からなっている(J.Biol.Chem.,262,17757−17767,1987)。これらのアグリカンが、それぞれ単量体として、G1ドメインを介してヒアルロン酸に結合し、アグリカン集合体の形で軟骨マトリックス中に留まっている。
【0006】
関節炎による軟骨破壊の際には、アグリカンの球状ドメイン中の2箇所の特定部位における切断により大量のアグリカンが軟骨組織から失われることが知られている。前記切断が起こる場所は、第341番目のアスパラギン残基と第342番目のフェニルアラニン残基との間(Asn341−Phe342)と、第373番目のグルタミン酸残基と第374番目のアラニン残基との間(Glu373−Ala374)とであり、後者のGlu373−Ala374の結合を切断する酵素はアグリカナーゼと呼ばれている(J.Biol.Chem.,266,8683−8685,1991;Biochim.J.,284,589−593,1992;J.Biol.Chem.,274,23443−23450,1999;J.Biochem.,126,449−455,1999)。
【0007】
Glu373−Ala374の結合を切断されることにより生じる分解物は、軟骨やコンドロサイト(chondrocyte)培養液中(J.Biol.Chem.,266,8683−8685,1991;Biochim.J.,284,589−593,1992;Arch.Biochem.Biophys.,322,22−30,1995;J.Biol.Chem.,270,2550−2556,1995)や、種々の関節疾患患者の関節滑液中に検出される(J.Clin.Invst.,89,1512−1516,1992;Arthritis Rheum.,9,1214−1222,1993;J.Clin.Invst.,100,93−106,1997)。このように、アグリカナーゼは、関節炎における軟骨破壊において重要な役割を果たしており、アグリカナーゼ活性の亢進は、種々の関節疾患(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、又は関節損傷)を引き起こすことが知られている。また、アグリカナーゼ活性の亢進が脳梗塞時の組織損傷を引き起こすことも示唆されている。
【0008】
一方、アグリカナーゼ活性の低下は、軟骨のリモデリング(すなわち、軟骨の破壊と再生)異常を引き起こすことが知られており、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病として、例えば、軟骨形成不全症又は肥大性骨関節症が知られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況下、本発明者は、ヒトADAMTS−1タンパク質の生体内での機能を鋭意探求する過程において、ADAMTS−1タンパク質がアグリカナーゼ活性を有することを新たに見出した。
本発明者が見出したADAMTS−1タンパク質のアグリカナーゼ活性を利用すると、軟骨のリモデリング異常の正常化や、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病の治療又は予防が可能である。また、ADAMTS−1タンパク質を用いることにより、アグリカナーゼ活性を調節(促進又は阻害)することのできる化合物のスクリーニングも可能である。このスクリーニングにより選択されるアグリカナーゼ活性調節剤の内、アグリカナーゼ活性促進剤は、アグリカナーゼ活性の低下に由来する疾病、例えば、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病の治療又は予防に有用である。また、アグリカナーゼ活性阻害剤は、アグリカナーゼ活性の亢進に由来する疾病、例えば、軟骨破壊に起因する疾病の治療又は予防に有用である。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0010】
従って、本発明の課題は、新規のアグリカン分解剤、軟骨のリモデリング異常の正常化剤、及び軟骨のリモデリング異常に起因する疾病の治療又は予防剤を提供すること、そして、アグリカナーゼ活性の低下又は亢進に由来する疾病の治療又は予防に有用なアグリカナーゼ活性調節剤をスクリーニングすることのできる方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、本発明による、(1)ADAMTS−1タンパク質又は(2)天然型ADAMTS−1タンパク質のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、前記天然型ADAMTS−1タンパク質と同じ活性を有するタンパク質(以下、「ADAMTS−1タンパク質の機能的等価改変体」と称する)を有効成分として含有することを特徴とする、アグリカン分解剤によって解決することができる。
また、本発明は、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体を有効成分として含有することを特徴とする、軟骨のリモデリング異常の正常化剤に関する。
また、本発明は、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体を有効成分として含有することを特徴とする、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病の治療又は予防剤にも関する。
【0012】
本明細書において「アグリカン」とは、関節軟骨の細胞外マトリックスに存在し、N末端の2個の球状ドメイン(G1及びG2)、グリコサミノグリカン結合領域、及びC末端の球状ドメイン(G3)からなるコアタンパク質と、このコアタンパク質を修飾するコンドロイチン硫酸及びケラタン硫酸グリコサミノグリカンとからなるプロテオグリカンを意味する。
また、本明細書において「アグリカナーゼ活性」とは、アグリカンを分解する活性を意味し、例えば、ヒトアグリカンのコアタンパク質の第373番目のグルタミン酸残基と第374番目のアラニン残基との間(Glu373−Ala374)の結合を切断する活性を意味する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアグリカン分解剤は、有効成分として、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体を含有する。
【0014】
本明細書において「ADAMTS−1タンパク質」とは、特開平11−46781号公報に開示されているヒトADAMTS−1タンパク質、及びこのヒトADAMTS−1タンパク質に相当する種々の動物におけるタンパク質、例えば、マウスADAMTS−1タンパク質(J.Biol.Chem.,272,556−562,1997)を意味する。すなわち、ヒトを含む種々の動物の天然型ADAMTS−1タンパク質を意味する。前記ヒトADAMTS−1タンパク質はアミノ酸残基727個からなり、そのアミノ酸配列は前記特開平11−46781号公報に開示されている。
【0015】
また、本明細書において「ADAMTS−1タンパク質の機能的等価改変体」とは、天然型ADAMTS−1タンパク質のアミノ酸配列において1又はそれ以上(好ましくは1又は数個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、前記天然型ADAMTS−1タンパク質と同じ活性を有するタンパク質を意味する。ここで、「ADAMTS−1タンパク質と同じ活性」とは、前記特開平11−46781号公報に開示されているように、造血機能に影響を与える活性、例えば、白血球及び血小板の数を低下させ、同時に、赤血球の数を増加させる活性を意味する。
【0016】
本発明のアグリカン分解剤に含有される前記ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体の形状は、そのアグリカナーゼ活性が維持されている限り、特に限定されるものではなく、例えば、天然型のADAMTS−1タンパク質それ自体であることもできるし、あるいは、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体と融合用パートナー(例えば、タンパク質又はペプチド)との融合タンパク質であることもできる。
前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用のタンパク質又はペプチド[例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)又はヒスチジンのヘキサペプチド]、検出用のタンパク質又はペプチド[例えば、β−ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ)]、又は発現用のタンパク質又はペプチド(例えば、シグナル配列)を挙げることができる。
【0017】
本発明のアグリカン分解剤は、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体を、それ単独で、あるいは、所望により薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。
【0018】
投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0019】
これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0020】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分としての前記ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明のアグリカン分解剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明のアグリカン分解剤をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0021】
本発明のアグリカン分解剤は、これに限定されるものではないが、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
本発明のアグリカン分解剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
更に、形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
【0022】
本発明のアグリカン分解剤に含有されるADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体は、アグリカナーゼ活性、すなわち、アグリカンを分解する活性を有する。従って、本発明によるアグリカン分解剤の有効成分として使用することのできるADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体は、アグリカナーゼ活性の低下に由来する異常(例えば、軟骨のリモデリング異常)の正常化剤の有効成分としても使用することができるし、あるいは、前記異常に起因する疾病(例えば、軟骨形成不全症又は肥大性骨関節症)の治療又は予防剤の有効成分としても使用することができる。
【0023】
本発明によるアグリカナーゼ活性調節剤のスクリーニング方法では、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体と、アグリカナーゼの基質であるアグリカンとを用いる。試験化合物不在下及び試験化合物存在下の各条件下において、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体とアグリカンとを接触させ、前記各条件下におけるアグリカン分解反応による変化の差異を比較する。前記「アグリカン分解反応による変化の差異」としては、例えば、アグリカン分解産物の量の増加又は減少を挙げることができる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法に用いることのできるアグリカンは、ヒトアグリカンに限定されるものではなく、ヒト以外の種[例えば、ほ乳類(例えば、ウシ、マウス、又はウサギ)]のアグリカンを用いることができる。
また、本発明のスクリーニング方法に用いることのできるADAMTS−1タンパク質も、ヒトADAMTS−1タンパク質に限定されるものではなく、ヒト以外の種[例えば、ほ乳類(例えば、ウシ、マウス、又はウサギ)]のADAMTS−1タンパク質を用いることができる。
更に、本発明のスクリーニング方法においては、前記アグリカンと前記ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体との組み合わせも特に限定されるものではなく、例えば、同種由来のアグリカン及びADAMTS−1タンパク質を用いることもできるし、異種由来のアグリカン及びADAMTS−1タンパク質を用いることもできる。
【0025】
ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体は、アグリカンのコアタンパク質における第373番目のグルタミン酸残基と第374番目のアラニン残基との間(Glu373−Ala374)の結合を切断するので、前記アグリカン分解産物として、コンドロイチン硫酸を有する約100kdのポリペプチドが生じる。アグリカン分解産物の量を比較する手段としては、公知のタンパク質分析方法、例えば、ウエスタンブロット法を用いることができる。
【0026】
ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体とアグリカンとの接触は、ADAMTS−1タンパク質又はその機能的等価改変体のアグリカナーゼ活性が認められる条件下で実施する限り、特に限定されるものではなく、例えば、後述の実施例1(2)に記載のアグリカナーゼ反応用バッファー中において実施することができる。
【0027】
前記比較において、試験化合物不在下(すなわち、コントロール)におけるアグリカン分解産物の量よりも、試験化合物存在下におけるアグリカン分解産物の量が少ない場合には、前記試験化合物がアグリカナーゼ活性阻害作用を有すると判定することができる。アグリカナーゼ活性阻害作用を有する試験化合物(すなわち、アグリカナーゼ活性阻害剤)は、アグリカナーゼ活性の亢進に由来する疾病、例えば、軟骨破壊に起因する疾病(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、又は関節損傷)の治療又は予防剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
一方、試験化合物不在下(コントロール)におけるアグリカン分解産物の量よりも、試験化合物存在下におけるアグリカン分解産物の量が多い場合には、前記試験化合物がアグリカナーゼ活性促進作用を有すると判定することができる。アグリカナーゼ活性促進作用を有する試験化合物(すなわち、アグリカナーゼ活性促進剤)は、アグリカナーゼ活性の低下に由来する疾病、例えば、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病(例えば、軟骨形成不全症又は肥大性骨関節症)の治療又は予防剤の有効成分として使用することができる。
【0029】
本発明によるアグリカナーゼ活性調節剤のスクリーニング方法に用いることのできる試験化合物は、特に限定されるものではなく、天然化合物又は合成化合物のいずれであることもできる。また、本発明のスクリーニング方法に使用する際の形状も特に限定されるものではなく、精製した状態以外にも、未精製の状態、例えば、発酵生産物、又は細胞若しくは組織抽出液の形で用いることもできる。
【0030】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
(1)組換えヒトADAMTS−1タンパク質の調製
塩基配列:
gtggcggccgcggctccaatgcagcgagctgtg
からなるフォーワードプライマー及び塩基配列:
cactctagactccagccttcttgctttccctg
からなるリバースプライマーと、ヒト脾臓cDNAライブラリー(Marathon−Ready cDNA;Clonetec Lab.,Inc.;米国カリフォルニア州Palo Alto)とを用いて、常法に従い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によりヒトADAMTS−1タンパク質をコードする遺伝子(約3kbpのcDNA)を単離した。得られたcDNAの塩基配列を解析した結果、特開平11−46781号公報に記載のヒトADAMTS−1遺伝子の塩基配列と一致した。
【0031】
続いて、制限酵素XbaI及び制限酵素NotIにより前記cDNAの末端を切断した後、アガロースゲル電気泳動にかけた。約3kbpのDNAをゲルから回収し、動物細胞発現用ベクターpcDNA3.1/V5−His(Invitrogen Corporation;米国カリフォルニア州Carlsbad)のXbaI/NotIサイトに連結することにより、ADAMTS−1発現ベクターを構築した。なお、このADAMTS−1発現ベクターにより発現されるタンパク質は、ADAMTS−1タンパク質のC末端にヒスチジン(His)残基6個が付加された組換えADAMTS−1タンパク質(以下、単に「組換えADAMTS−1タンパク質」と称する)である。
【0032】
得られたADAMTS−1発現ベクターを、トランスフェクション用試薬(lipofectamin;Life Technologies Inc.;米国メリーランド州Gaithersburg)を用いて、添付のプロトコールに従い、動物細胞株HEK293に導入した。導入から8時間後に、ヘパリン(5μg/mL)を含有する無血清のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(日水,日本国東京)で細胞を洗い、更に2日間培養した。組換えADAMTS−1タンパク質のC末端にはヒスチジン(His)残基6個が存在するので、ニッケルキレーティングカラム(Amersham Pharmacia Biotech;スウェーデン・ウプサラ)を用いて、添付のプロトコールに従い、前記組換えADAMTS−1タンパク質を精製した(すなわち、組換えADAMTS−1タンパク質を含有する画分を得た)。
【0033】
また、後述の「アグリカナーゼ活性の評価」においてコントロールとして使用するために、ADAMTS−1発現ベクターを導入した動物細胞の代わりに、前記ベクターpcDNA3.1/V5−His(組換えADAMTS−1タンパク質をコードする遺伝子を含まない)を導入した動物細胞を用いたこと以外は、前記の培養及び精製工程を繰り返すことにより、前記組換えADAMTS−1タンパク質含有画分に相当するコントロール用画分を取得した。
【0034】
(2)アグリカナーゼ活性の評価
アグリカナーゼ活性の評価に用いたアグリカンの調製は、公知方法(Hardinghamの方法;Biochem.J.,177,237−247,1979)により行なった。すなわち、牛鼻軟骨組織より、グアニジン塩酸4mol/Lで抽出した後、塩化セシウム濃度勾配超遠心法により精製した。
【0035】
アグリカン10μgと、前記実施例1(1)で調製した組換えADAMTS−1タンパク質含有画分(組換えADAMTS−1タンパク質の量として0.5μg)又はコントロール用画分とを、アグリカナーゼ反応用バッファー[トリス−HCl−20mmol/L(pH7.6),NaCl−150mmol/L,CaCl25mmol/L,NaN30.01%]100μL中において、37℃で12時間反応させた。
【0036】
反応終了後、更に、コンドロイチナーゼABC(生化学工業;日本国東京)(0.05ユニット/プロテオグリカン10μg)及びケラタナーゼ(生化学工業)(0.05ユニット/プロテオグリカン10μg)を加え、糖鎖分解反応用液[トリス−HCl−50mmol/L(pH8.0),酢酸ナトリウム30mmol/L,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)10mmol/L,フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)5mmol/L,ペプスタチンA−0.36mmol/L,N−エチルマレイミド10mmol/L]200μL中において、37℃で3時間反応させることによって糖鎖を分解した。
【0037】
2段階の反応を実施した反応液を、Laemmliサンプルバッファー[トリス−HCl−60mmol/L(pH6.8),ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)2%,メルカプトエタノール5%,グリセロール10%]中において、100℃で5分間処理した後、濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ゲル濃度勾配=2〜15%)を実施した。
常法に従い、ゲル中のタンパク質をニトロセルロースメンブレンに転写した後、このメンブレンをブロッキング溶液(Block ACE;大日本製薬;日本国大阪)中において、37℃で一晩処理した。
【0038】
ウエスタンブロット法は、一次抗体として、抗コンドロイチン4−硫酸抗体(2−B−6抗体;アグリカンのコアタンパク質を認識して結合する)を使用し、二次抗体として、ホースラディッシュ(horseradish)パーオキシダーゼ(HRP)結合ヒツジ由来抗マウスIgGポリクローナル抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を使用し、検出系として、ケミルミネッセンスシステム(ECLシステム;Amersham Pharmacia Biotech)を使用して実施した。
【0039】
ウエスタンブロット法の結果を図1に示す。図1において、レーン1は、コントロール用画分を用いた場合の結果であり、レーン2は、組換えADAMTS−1タンパク質含有画分を用いた場合の結果である。また、図1において、レーン1の左側に上下方向に一列に並ぶ各横線は、分子量マーカーとして用いたタンパク質の位置を表わし、前記各横線の左側の各数字は、分子量マーカーとして用いたタンパク質の各分子量(単位=kd)を表わす。
レーン2の約100kdの位置に現われたバンド(矢印で示すバンド)が、組換えADAMTS−1タンパク質により分解されたアグリカンのコアタンパク質である。なお、データは示していないが、アグリカナーゼ反応用バッファー中におけるアグリカンと各画分との反応の際に、キレート試薬であるEDTAを添加すると(アグリカナーゼの活性発現のためには、Caイオンが必要であることが知られている)、約100kdの前記バンドは検出されなかった。これらの結果から、組換えADAMTS−1タンパク質にアグリカナーゼ活性があることが判明した。
【0040】
【発明の効果】
本発明のアグリカン分解剤によれば、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病、例えば、軟骨形成不全症又は肥大性骨関節症を治療又は予防することができる。
また、本発明によるアグリカナーゼ活性調節剤のスクリーニング方法によれば、アグリカナーゼ活性促進剤又はアグリカナーゼ活性阻害剤を選択することができる。前記アグリカナーゼ活性促進剤は、アグリカナーゼ活性の低下に由来する異常(例えば、軟骨のリモデリング異常)に起因する疾病(例えば、軟骨形成不全症又は肥大性骨関節症)の治療又は予防剤の有効成分として使用することができる。また、前記アグリカナーゼ活性阻害剤は、アグリカナーゼ活性の亢進に由来する疾病、例えば、軟骨破壊に起因する疾病(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、又は関節損傷)の治療又は予防剤の有効成分として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】組換えADAMTS−1タンパク質含有画分又はコントロール用画分とアグリカンとの反応物を電気泳動した結果を示す、図面に代わる写真である。
Claims (3)
- (1)ADAMTS−1タンパク質又は
(2)天然型ADAMTS−1タンパク質のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、前記天然型ADAMTS−1タンパク質と同じ活性を有するタンパク質
を有効成分として含有することを特徴とする、アグリカン分解剤。 - (1)ADAMTS−1タンパク質又は
(2)天然型ADAMTS−1タンパク質のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、前記天然型ADAMTS−1タンパク質と同じ活性を有するタンパク質
を有効成分として含有することを特徴とする、軟骨のリモデリング異常の正常化剤。 - (1)ADAMTS−1タンパク質又は
(2)天然型ADAMTS−1タンパク質のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、前記天然型ADAMTS−1タンパク質と同じ活性を有するタンパク質
を有効成分として含有することを特徴とする、軟骨のリモデリング異常に起因する疾病の治療又は予防剤。
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