JP3666296B2 - 塩酸中のフェノール類の分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩酸中のフェノール類の分析方法に関する。詳しくは、塩酸中に含まれるフェノール類を溶媒で抽出するか、カラムに吸着させて分離し、分析するところの塩酸中のフェノール類の分析方法に関する。本発明の方法は、中和を必要とせず、少ない前処理により塩酸中のフェノール類を精度よく分析することができる。
【0002】
【従来の技術】
フェノール類は樹脂の原料、染料等の中間体、医療用消毒剤等と広範囲に亘り使用されている化合物である。また、人体や環境への影響が懸念される化合物でもあり、水道水、環境水等の水中のフェノール類については、分析する方法として、比色法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等多くの分析法が提案されている。
一方、塩酸は様々な化学品、食品及び医薬品の合成工程を始め、様々な用途で用いられている。それ故、その使用の過程又は合成の過程でフェノール類が混入する可能性が大いにあり、塩酸中のフェノール類を分析する方法が必要とされている。しかしながら、塩酸中のフェノール類を分析した報告例はない。
【0003】
水中のフェノール類の分析法を塩酸中のフェノール類の分析法に適用することを想定すると、先ず塩酸を中和することが必要で、強酸である塩酸を中和するには大量の塩基を必要とする。中和処理の際にはかなり発熱があり、実験時には危険が伴うだけでなく、塩酸中に溶解している目的物の揮発、変質等が考えられる。また、中和処理することにより容積が増加し、これにより事実上の濃度低下となり、より感度の良い分析法が必要となる。
中和処理後にも試料中には大量の塩が溶解している状態となり、比色法の際に妨害となり得る。また分析機器にて中和処理した試料を測定する際にも大量の塩を脱塩する作業が不可欠となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
塩酸中のフェノール類を分析する方法については、今迄知られておらず、仮に水中のフェノール類の分析方法を適用する場合には、中和が必要となるため、前処理に多大な労力と危険を伴うだけでなく、フェノール類の揮発ないし変質を伴う惧れがある。
本発明は、中和を必要とせず、前処理を少なくして塩酸中のフェノール類を分析する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、フェノール類を含有する塩酸に無機塩及び有機溶媒を加えた後、この塩酸溶液から有機溶媒で抽出したフェノール類を分析するか、或いはフェノール類を含有する塩酸に無機塩を加えた後にカラムで処理して、吸着分離した後、溶媒で溶出させたフェノール類を分析することにより、塩酸中のフェノール類を簡便に且つ精度よく分析し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の要旨は、塩酸中のフェノール類の分析方法において、
(1)フェノール類を含有する塩酸に無機塩及び有機溶媒を加え、この塩酸溶液からフェノール類を有機溶媒により抽出分離する操作を少なくとも一回行い、この抽出液中のフェノール類を分析する、
または
(2)フェノール類を含有する塩酸に無機塩を加え、次いでこの塩酸溶液を固相抽出用充填剤を充填したカラムに通液し、フェノール類を吸着分離した後、溶媒により溶出させ、この溶出液中のフェノール類を分析する、
ことを特徴とする塩酸中のフェノール類の分析方法、にある。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の分析方法の対象は、塩酸中に含まれるフェノール類である。
フェノール類については、芳香環に少なくとも一ケの水酸基を有する化合物であれば、特に限定されないが、下記式で表される化合物が好ましい。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はアルコキシ基を表す)
【0010】
式(I)において、R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 がアルキル基である場合、その炭素数は1〜20、特に1〜14が好ましく、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 がハロゲン原子である場合、ハロゲンとしては塩素、臭素が好ましい。また、R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 がアルコキシ基である場合、その炭素数は1〜4が好ましく、その具体例としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 がアルキル基又はアルコキシ基である場合、これらはアルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
そして、式(I)の化合物の中、その具体例として、例えばフェノール、メチルフェノール、ジメチルフェノール、クロロフェノール、ジクロロフェノール、ブロモフェノール、ジブロモフェノール、メトキシフェノール、ニトロフェノール等が挙げられる。
【0011】
なお、塩酸中に含まれるフェノール類の濃度については、分析上特に限定はされないが、1pg/ml〜飽和濃度が好ましく、100pg/ml〜10μg/mlが特に好ましい。
塩酸については、特に限定はされないが、好ましくは10重量%以上、特に好ましくは25重量%以上の塩化水素が含まれるものがよい。なお、塩酸中には、その他の酸、例えば硫酸、硝酸、リン酸等が混入していても差し支えない。
【0012】
無機塩については、塩酸に溶解可能であり、且つ分析に悪影響を及ぼすものでない限り、特に限定はされないが、塩化物以外の無機塩が好ましい。その具体例としては、例えば硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩等が挙げられる。これらの中、硫酸アンモニウムのような硫酸塩が好ましい。無機塩の濃度については、特に限定されないが、硫酸塩の場合、塩酸に対して3〜30重量%(無水物換算)用いるのが好ましい。
【0013】
請求項1(1)の抽出で用いられる有機溶媒については、塩酸又は混入している酸により分解を受けず、且つ塩酸相と分離する限り、特に限定はされない。その具体例としては、例えばクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ヘキサン等の炭化水素類、ジエチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。なお、有機溶媒の使用量は、塩酸の0.001〜10容量倍が好ましい。
【0014】
請求項1(1)の分析操作の概要を次に示す。塩酸に無機塩又はその水溶液を加えて、混合、攪拌を行う。この塩酸溶液に有機溶媒を加えて十分に攪拌、振盪後、静置し、分液した有機相を取り出し、以下に記す分析装置及び分析方法により有機相中のフェノール類を分析する。なお、塩酸に無機塩又はその水溶液或いは有機溶媒を添加する順序については、通常は無機塩又はその水溶液を先に加えた後、有機溶媒を加えるが、無機塩又はその水溶液と有機溶媒を同時に加えてもよいし、また、有機溶媒を先に加えてもよい。
【0015】
なお、この抽出操作によるフェノール類の回収率は種類によって異なり、一回の操作では、通常、約50〜95%程度である。更に回収率を上げるためには、この操作を複数回、好ましくは三回以上行うことが好ましい。但し、回収率が50〜95%程度で種類によって異なっていても、フェノールの種類毎の回収率をベースとして、真の含有量を計算により求めることができる。
【0016】
請求項1(2)の吸着分離に用いられる固相抽出用充填剤については、塩酸又は混入している酸により溶解ないし分解を受けない限り、特に限定はされない。好ましい具体例としては、例えばジビニルベンゼンを含む架橋ポリマー系の充填剤が挙げられる。
また、溶出に用いられる溶媒は、通常、有機溶媒であり、フェノール類を溶出できるものであれば、特に限定はされない。その具体例としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ヘキサン等の炭化水素類、ジエチルエーテル等のエーテル類、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等が挙げられる。なお、有機溶媒の使用量は充填剤容量の二倍以上が好ましい。
【0017】
請求項1(2)で行う分析操作を以下に記す。固相抽出用充填剤をカラム内に充填し、有機溶媒、純水を通液し活性化を行う。次にフェノールを含有する塩酸に無機塩又は無機塩の水溶液を加えたものをカラムに通液する。更にカラム内を純水で洗浄し、ガスを流すことにより乾燥させた後に、溶媒で溶出させ、以下に述べる分析装置及び分析方法によりこれを分析する。
上記の様に溶媒中に抽出されたフェノール類は例えばガスクロマトグラフ−質量分析計で定性、定量することができる。本発明における分析は、定量分析及び定性分析の両方を含むが、特に定量分析における効果が大きい。このガスクロマトグラフは、通常のキャピラリーカラム等を取り付けられるものであれば差し支えない。検出器については特に限定される訳ではなく、質量分析計の他、水素炎イオン化検出器、原子発光検出器、電子捕獲型検出器(放射線源式、非放射線源式の何れも可)等を用いることができる。
【0018】
また、同様に高速液体クロマトグラフを用いても、定性、定量可能であり、この高速液体クロマトグラフは通常の充填カラム等を取り付けられるものであれば差し支えない。検出器については、特に限定はされず、紫外可視吸光検出器、電気化学検出器、質量分析計等を用いることができる。
データ処理機はガスクロマトグラフ及び高速液体クロマトグラフからの信号を受け取れれば、ガスクロマトグラフ及び高速液体クロマトグラフに専用として付いている計算機、或いは新規に製作するものでもよく、特に限定されない。
【0019】
またフェノール類の濃度が低い場合には、抽出された有機相の装置導入前の濃縮又は濃縮機能のある装置への導入により、高感度で分析可能である。また、揮発性が低いもの、カラムへの吸着があるもの、感度が低いものが分析対象の場合は、誘導体化処理後にクロマトグラフへ導入することにより測定可能となる。
本発明によれば、抽出法とクロマトグラフィーを組み合わせることにより、選択的にフェノール類を定性、定量することが可能で、様々な混在する可能性のある化合物の影響を最小限にすることができる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
参考例1
35%塩酸中にフェノールを80ng/mlとなるように添加したものを試料とした。また、有機溶媒としてクロロホルムを用い、無機塩水溶液として表1記載のものを用いた。
100mlの分液漏斗に試料である塩酸20mlを取り、表1記載の水溶液25mlと混合し、よく攪拌した。このとき、6重量%以上の塩化ナトリウム水溶液を塩酸に混合すると塩が析出し、同様に23重量%以上の硫酸アンモニウム水溶液を塩酸に混合すると塩が析出した。
次に10mlのクロロホルムを加え、5分間振盪し、5分間の静置後にクロロホルム相を取り出し、このクロロホルム相を1mlに濃縮した。
この濃縮液1.0μlを水素イオン化検出器付きガスクロマトグラフに注入し、絶対検量線法にて定量を行った。
この時の回収率測定結果を表1に示す。無機塩を添加することにより、特に硫酸塩である硫酸アンモニウムで回収率の向上が認められる。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例1
35%塩酸中にフェノール4.3ng/mlを添加したものを試料とし、100mlの分液漏斗に該塩酸20mlを取り、20重量%硫酸アンモニウム水溶液25mlと混合し、よく攪拌した。次に10mlのクロロホルムを加え、5分間振盪し、5分間の静置後にクロロホルム相を取り出し、このクロロホルム相を1mlまで濃縮した。
この濃縮液1.0μlを、水素イオン化検出器付のガスクロマトグラフに注入し、絶対検量線法にて定量を行った。
その結果は表2のように示す通りであり、本発明の方法により精度良く塩酸中のフェノール量を求められることが分かる。
【0023】
【表2】
【0024】
実施例2
35%塩酸中にフェノール及び2,4−ジブロモフェノールをそれぞれ表3に記載した量ずつ添加したものを試料とし、100mlの分液漏斗に該塩酸20mlを取り、20重量%硫酸アンモニウム水溶液25mlと混合し、よく攪拌した。次に10mlのクロロホルムを加え、5分間振盪し、5分間の静置後にクロロホルム相を取り出した。残った塩酸相について、同様に抽出操作を二回行い、計三回の抽出を行い、全てのクロロホルム相を合わせ、濃縮をし、25mlに定容した。
このクロロホルム溶液1.0μlを、水素イオン化検出器付のガスクロマトグラフに注入し、絶対検量線法にて定量を行った。
その結果は表3のように示す通りであり、本発明の方法により塩酸中のフェノール類の定量が精度良くできることが分かる。
【0025】
【表3】
【0026】
実施例3
35%塩酸中に2−ブロモフェノール、4−ブロモフェノール、2,4−ジブロモフェノールをそれぞれ1μg/mlとなるように添加したものを試料とし、100mlの分液漏斗に該塩酸20mlを取り、20重量%硫酸アンモニウム水溶液25mlと混合し、よく攪拌した。次に10mlのクロロホルムを加え、5分間振盪し、5分間の静置後にクロロホルム相を取り出した。残った塩酸相について、同様に抽出操作を二回行い、計三回の抽出を行い、全てのクロロホルム相を合わせ、100mlに定容した。
このクロロホルム溶液1.0μlを、ガスクロマトグラフ−質量分析計に注入し、絶対検量線法にて定量を行った。
その結果は表4のように示す通りであり、本発明の方法により塩酸中のフェノール類の定量が精度良くできることが分かる。
【0027】
【表4】
【0028】
実施例4
表5記載の無機塩水溶液を各25ml取り、それぞれにフェノールを100ng/mlとなるように添加した35%塩酸20mlを加え、よく攪拌した。次にこれらをクロロホルム、メタノール、純水で活性化したスチレンジビニルベンゼン/メタクリルエステル系ポリマー充填剤に5ml/分で通液し、30分間ガスを通過させ乾燥させた後にクロロホルム5mlでフェノールを溶出させ、これを10mlに定容した。
このクロロホルム溶液1.0μlを、ガスクロマトグラフ−質量分析計に注入し、絶対検量線法にて定量を行った。
その結果は表5のように示す通りであり、本発明の方法により塩酸中のフェノール類の定量が、より精度良くできることが分かる。
【0029】
【表5】
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、中和処理による多大な労力と危険、更に目的物の揮発、変質を回避し、少ない前処理で塩酸中のフェノール類について広濃度範囲で定性・定量が可能となった。
Claims (3)
- 塩酸中のフェノール類の分析方法において、
(1)フェノール類を含有する塩酸に無機塩及び有機溶媒を加え、この塩酸溶液からフェノール類を有機溶媒により抽出分離する操作を少なくとも一回行い、この抽出液中のフェノール類を分析する、
または
(2)フェノール類を含有する塩酸に無機塩を加え、次いでこの塩酸溶液を固相抽出用充填剤を充填したカラムに通液し、フェノール類を吸着分離した後、溶媒により溶出させ、この溶出液中のフェノール類を分析する、
ことを特徴とする塩酸中のフェノール類の分析方法。 - 前記(1)において、塩酸溶液からフェノール類を有機溶媒により抽出分離する操作を複数回行うことを特徴とする塩酸中のフェノール類の分析方法。
- 前記無機塩が硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、リン酸塩及び亜リン酸塩から選ばれた少なくとも一種の塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩酸中のフェノール類の分析方法。
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