JP3664237B2 - 水域浄化システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として人工島と沿岸部との間に拡がる水域に設置される水域浄化システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
沖合を埋め立てて人工島を建設し、該人工島を工場用地として利用することは従来から行われてきたが、最近では、海上空港として利用することも多くなってきた。
【0003】
このように沖合に人工島を建設した場合、該人工島と沿岸部との間に拡がる水域、いわば背後水域は、人工島がない場合に比べて、当然ながら海水交換が行われにくくなり、海水が停滞する。
【0004】
そのため、水中の汚濁物質が沈降して底質内の有機物含有量が多くなり、海水への栄養塩類の溶出ひいては内部負荷が高くなるとともに、かかる富栄養化によって植物プランクトンが大量発生し、その死骸が沈降してやはり底質内の有機物含有量が増加する原因となる。
【0005】
そして、このような内部負荷の増加によって水質汚濁がさらに進行するといった悪循環が繰り返されるとともに、底層付近における有機物分解によって多量の酸素が消費されるため、水生生物の死滅を招くことにもつながる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、背後水域における海水停滞は、該水域での水質汚濁を招くこととなる。そのため、水質環境を保全することができる技術開発が待たれていたが、上述したような状況で水質保全を行うことは難しく、実効ある対策を講じることができないのが現状であった。
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、人工島と沿岸部との間に拡がる背後水域の水質汚濁を改善し、良好な水質環境を維持可能な水域浄化システムを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る水域浄化システムは請求項1に記載したように、人工島と沿岸部との間に拡がる背後水域と該背後水域に連なる外水域との間の境界に沿って、天端高さが満潮時水位よりも低く干潮時水位よりも高くなるように設定されてなる水中構造物を構築するとともに、前記背後水域を前記外水域に連通させる水路を前記人工島又は前記水中構造物に設け、前記外水域の水位が前記背後水域の水位を下回ったときだけ開くように構成されたゲートを前記水路に設けたものである。
【0009】
また、本発明に係る水域浄化システムは、前記背後水域の水位と前記外水域の水位との差が一定値を超えたときに前記ゲートが開くように該ゲートを構成したものである。
【0010】
また、本発明に係る水域浄化システムは、前記ゲートを水底近傍に設けたものである。
【0011】
本発明に係る水域浄化システムにおいては、人工島と沿岸部との間に拡がる背後水域と該背後水域に連なる外水域との間の境界に沿って、天端高さが満潮時水位よりも低く干潮時水位よりも高くなるように設定されてなる水中構造物を構築するとともに、背後水域を外水域に連通させる水路を人工島又は水中構造物に設け、外水域の水位が背後水域の水位を下回ったときだけ開くように構成されたゲートを水路に設けてある。
【0012】
そのため、満潮時においては、外水域の水が水中構造物の天端を乗り越えるようにして背後水域に流れ込む。そして、この段階では、背後水域の水位が外水域の水位よりも低く、したがって、ゲートが設置された箇所における背後水域の水圧は外水域の水圧よりも小さいため、ゲートは作動せず、水路は塞がれた状態となっており、背後水域の水位が満潮時の水位と同じになるまで、外水域からの流入が続く。
【0013】
一方、満潮時を過ぎて、外水域の水位が水中構造物の天端を下回る状態になると、背後水域が人工島、水中構造物及び沿岸部で囲まれた閉鎖水域となっているため、該背後水域の水位が水中構造物の天端高さ以下には下がらないのに対し、外水域は干潮に向けて水位が下がっていく。すなわち、外水域の水位が水中構造物の天端高さ以下となってからは、外水域の水位が背後水域の水位よりも下がることとなる。したがって、ゲートにおける背後水域の水圧が外水域の水圧を上回り、ゲートが作動して水路が露出し、背後水域の水は、水路を介して外水域へと放流される。
【0014】
このように、干満に応じて外水域から背後水域への流入及び背後水域から外水域への流出が繰り返し確実に行われるため、背後水域での水の滞留が未然に防止される。
【0015】
特に、外水域から流入する水は、外水域の表層水であって酸素を多く含んでいるため、かかる酸素が背後水域での有機物分解に寄与して水質浄化を促進する。
【0016】
また、潮の干満を利用した自然力が背後水域の水交換の動力となるため、特に人工的な動力を必要とせずとも、背後水域の水交換を行うことが可能となる。
【0017】
背後水域と該背後水域に連なる外水域との間の境界とは、あくまで人為的あるいは仮想的な境界であって、地形的に特段の特徴を有していることを要件とするものではない。すなわち、背後水域と該背後水域に連なる外水域との間の境界をどのように設定するかは地形とは関係なく、任意である。
【0018】
水中構造物は、背後水域と外水域との水位差が実現できる程度の止水性があり、天端高さが満潮時水位よりも低く干潮時水位よりも高くなるように設定されてなるものであればどのように構成してもかまわないが、例えば潜堤で構成することが考えられる。
【0019】
人工島と沿岸部との相対位置関係は任意であって、直線状の沿岸部に対向するように矩形平面状の人工島が平行に位置する場合をはじめ、人工島の一部が沿岸部につながっているような場合も含まれる。
【0020】
ちなみに、直線状の沿岸部に対向するように矩形平面状の人工島が平行に位置する場合には、水中構造物を互いに対向する位置にて対で平行配置する、例えば、一方の水中構造物を人工島の一端から沿岸部まで直線状に配置するとともに、他方の水中構造物を人工島の他端から沿岸部まで直線状に配置することが考えられる。
【0021】
また、人工島の一部が沿岸部につながっているような場合、水中構造物は、沿岸部とつながっている側とは反対の側に設置されることとなる。
【0022】
このように、人工島は、沿岸部と完全に離隔している狭義の意味での島に限定されるものではなく、一部が沿岸部につながっている半島の類のものをも含む広義の意味に解釈するものとする。
【0023】
ゲートは、外水域の水位が背後水域の水位を下回ったときだけ開くように構成する限り、どのように構成するかは任意であって、逆止め弁に類似の構造を採用する、潮位の変動を監視しつつ作業員が手動で行う、水圧差を感知して自動開閉させるなど、さまざまな構成が考えられるが、背後水域の水位と外水域の水位との差が一定値を超えたときにゲートが開くように該ゲートを構成した場合においては、満潮時を過ぎて外水域の潮位が下がっても、背後水域の水位はしばらくはそのまま維持され、例えば外水域が干潮になったときにはじめてゲートが開くこととなる。
【0024】
かかる場合には、背後水域から外水域へと放流される水は一気に流れ出すこととなり、水交換の実効性向上が期待できる。
【0025】
背後水域の水位と外水域の水位との差が一定値を超えたときにゲートが開くように該ゲートをどのように構成するかは任意であるが、例えば、ばね、歯車及び該歯車に係止する爪からなる係止機構を使って構成することが可能である。
【0026】
水路は、背後水域を外水域に連通させることができるのであればどのように構成してもよく、人工島に設置するか、水中構造物に設置するかは問わない。ちなみに、人工島に設置する場合には、該人工島の地盤内を貫通するカルバート状の水中トンネルとして構成することが考えられる。
【0027】
ここで、水路をどの水深位置に設置するかも任意であるが、ゲートを水底近傍に設けた場合においては、貧酸素化しがちな底層水を外水域へと優先的に放流することができるため、酸素が豊富な表層水を主体とした外水域からの流入作用と相まって、背後水域の水質を確実に改善することが可能となる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る水域浄化システムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
図1及び図2は、本実施形態に係る水域浄化システム1を示した図であり、図1は平面図、図2(a)は図1のA−A線に沿う断面図、図2(b)は図1のB−B線に沿う断面図である。これらの図に示すように、本実施形態に係る水域浄化システム1は、人工島2と沿岸部3との間に拡がる背後水域4と該背後水域に連なる外水域5との間の境界に沿って、水中構造物6、6を構築するとともに、背後水域4を外水域5に連通させる水路7を人工島2に設け、外水域5の水位が背後水域4の水位を下回ったときだけ開くように構成されたゲート8を水路7の背後水域4側に設けてある。
【0030】
なお、矩形平面状の人工島2は直線状の沿岸部3に対向するように平行に位置し、一方の水中構造物6を人工島2の一端から沿岸部3まで直線状に配置するとともに、他方の水中構造物6を人工島2の他端から沿岸部3まで直線状に配置してある。
【0031】
水中構造物6は、図2(a)でよく分かるように、台形状断面のコンクリートからなる潜堤で構成してあり、天端高さHが満潮時水位H1よりも低く干潮時水位H2よりも高くなるように構築してある。
【0032】
水路7は、図2(b)でよく分かるように、背後水域4を外水域5に連通させることができるように、人工島2の地盤内を貫通するカルバート状の水中トンネルとして水底9に設けてある。
【0033】
ゲート8は、背後水域4の側にて水路7の入口開口に設置してあり、外水域5の水位が背後水域4の水位を下回ったときだけ開くように構成してある。
【0034】
図3は、ゲート8を示した詳細図であり、(a)は正面図、(b)はC−C線に沿う水平断面図である。同図に示すように、ゲート8は、一対のヒンジ扉11、11からなり、該ヒンジ扉のヒンジ部13、13を人工島2の側壁に取り付けられた一対の鋼板12、12に溶接等でそれぞれ固定してある。なお、ヒンジ扉11のヒンジ部13には図示しない戻りバネを内蔵してあり、ヒンジ扉11、11は、その両側から作用する水圧が同じ場合、戻りバネの作用によって閉じた状態となるようになっている。
【0035】
したがって、ゲート8における背後水域4の水圧が外水域5の水圧、すなわち該外水域に連通している水路7の水圧を上回ったとき、ヒンジ扉11、11は、図3(b)に示すように、それぞれ水路7側に回転してゲート8が開く。一方、水路7の水圧が背後水域4の水圧を上回ったときは、ヒンジ扉11、11は背後水域4側に回転するが、水路7を閉じる位置にて鋼板12、12に当接し、回転が拘束される。そのため、ゲート8が背後水域4側に開くことはない。
【0036】
本実施形態に係る水域浄化システム1においては、図4(a)に示すように、満ち潮の際、外水域5の水位が水中構造物6の天端高さHを超えると、外水域5の水が水中構造物6の天端を乗り越えるようにして背後水域4に流れ込む。そして、この段階では、背後水域4の水位が外水域5の水位よりも低く、したがって、ゲート8が設置された箇所における背後水域4の水圧が外水域5の水圧よりも小さいため、ゲート8は作動せず、水路7は塞がれた状態となっており、水路7から背後水域4へ水が流入することはない。したがって、背後水域4の水位が満潮時の水位H1と同じになるまで、外水域5からの水の流入が続く。
【0037】
一方、引き潮時においては、図4(b)に示すように、外水域5の水位が水中構造物6の天端高さHを下回る状態になると、背後水域4が人工島2、水中構造物6、6及び沿岸部3で囲まれた閉鎖水域となっているため、該背後水域の水位が水中構造物6の天端高さH以下には下がらないのに対し、外水域5は干潮に向けて水位が下がっていく。すなわち、外水域5の水位が水中構造物6の天端高さH以下となってからは、外水域5の水位が背後水域4の水位よりも下がることとなる。したがって、ゲート8における背後水域4の水圧が外水域5の水圧を上回り、図5(a)に示すようにゲート8が作動して水路7が露出し、背後水域4の水は、水路7を介して外水域5へと放流される。
【0038】
かかる放流は、背後水域4と外水域5の水位が等しくなるまで続き、干潮時には、図5(b)に示すように、背後水域4の水位は外水域5の干潮時の水位H2と同じになる。したがって、背後水域4の水圧と外水域5の水圧との差がなくなるため、ゲート8が閉じて水路7は塞がれ、かかる状態で、再び満ち潮へと移行していく。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る水域浄化システム1によれば、干満に応じて外水域5から背後水域4への流入及び背後水域4から外水域5への流出が繰り返し確実に行われるため、背後水域4での水の滞留を未然に防止することができる。
【0040】
特に、外水域5から流入する水は、外水域5の表層水であって酸素を多く含んでいるため、かかる酸素が背後水域4での有機物分解に寄与して水質浄化を促進することができる。
【0041】
また、潮の干満を利用した自然力が背後水域4の水交換の動力となるため、特に人工的な動力を必要とせずとも、背後水域4の水交換を行うことが可能となる。
【0042】
また、本実施形態に係る水域浄化システム1によれば、ゲート8を水底9近傍に設けたので、貧酸素化しがちな背後水域4の底層水を外水域5へと優先的に放流することができる。そのため、酸素が豊富な表層水を主体とした外水域5からの流入作用と相まって、背後水域4の水質を確実に改善することが可能となる。
【0043】
本実施形態では、人工島2は、沿岸部3と完全に離隔している島状の構造物としたが、人工島2は狭義の意味での島に限定されるものではなく、図6に示すように、一部が沿岸部3につながっている半島の類の人工島22でもかまわない。なお、人工島の一部が沿岸部3につながっているような場合、水中構造物6は、同図に示すように、沿岸部3とつながっている側とは反対の側に設置されることとなる。
【0044】
また、本実施形態では、水路7を人工島2の底部に設置したが、水路7は、背後水域4を外水域5に連通させることができるのであればどのように構成してもよく、例えば、水中構造物6、6の底部にそれぞれ対向するように設置してもかまわないし、人工島2及び水中構造物6、6の両方に設置してもかまわない。
【0045】
また、本実施形態では、ゲート8は、戻りバネを内蔵した一対のヒンジ扉11、11からなる両開きの自動開閉式扉としたが、ゲートの構成はこれに限るものではなく、例えば、1つの扉で構成される片開きの扉としてもかまわないし、潮位の変動を監視しつつ作業員が手動で開閉する扉としてもかまわない。
【0046】
また、本実施形態では、外水域5の水位が背後水域4の水位を下回ったときだけ開くようにゲート8を構成したが、それに代えて、背後水域4の水位と外水域5の水位との差が一定値を超えたときに開くように構成してなるゲートを採用してもかまわない。このようにすると、満潮時を過ぎて外水域5の潮位が水中構造物6の天端高さH以下に下がっても、ゲートは開かないため、背後水域4の水位はしばらくはそのまま維持され、例えば外水域5が干潮になったときにはじめてゲートが開くこととなる。
【0047】
かかる場合には、背後水域4から外水域5へと放流される水は一気に流れ出すこととなり、水交換の実効性向上が期待できる。
【0048】
背後水域4の水位と外水域5の水位との差が一定値を超えたときにゲートが開くように該ゲートをどのように構成するかは任意であるが、例えば、ばね、歯車及び該歯車に係止する爪からなる係止機構を使って構成することが可能である。
【0049】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明に係る水域浄化システムによれば、干満に応じて外水域から背後水域への流入及び背後水域から外水域への流出が繰り返し確実に行われるため、背後水域での水の滞留が未然に防止され、背後水域の水質汚濁を改善し、良好な水質環境を維持することができる。
【0050】
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係る水域浄化システムを示した平面図。
【図2】本実施形態に係る水域浄化システムを示した図で、(a)はA−A線に沿う断面図、(b)はB−B線に沿う断面図。
【図3】本実施形態に係る水域浄化システムのゲートを示した詳細図で、(a)は正面図、(b)はC−C線に沿う水平断面図。
【図4】本実施形態に係る水域浄化システムの作用を示した図。
【図5】同じく、本実施形態に係る水域浄化システムの作用を示した図。
【図6】本実施形態の変形例に係る水域浄化システムを示した平面図。
【符号の説明】
1 水域浄化システム
2、22 人工島
3 沿岸部
4 背後水域
5 外水域
6 水中構造物
7 水路
8 ゲート
9 水底
Claims (3)
- 人工島と沿岸部との間に拡がる背後水域と該背後水域に連なる外水域との間の境界に沿って、天端高さが満潮時水位よりも低く干潮時水位よりも高くなるように設定されてなる水中構造物を構築するとともに、前記背後水域を前記外水域に連通させる水路を前記人工島又は前記水中構造物に設け、前記外水域の水位が前記背後水域の水位を下回ったときだけ開くように構成されたゲートを前記水路に設けたことを特徴する水域浄化システム。
- 前記背後水域の水位と前記外水域の水位との差が一定値を超えたときに前記ゲートが開くように該ゲートを構成した請求項1記載の水域浄化システム。
- 前記ゲートを水底近傍に設けた請求項1記載の水域浄化システム。
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