JP3662138B2 - 増幅器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異なる帯域を有する複数の信号を同時に増幅する増幅器に関わり、特に増幅器の線形性の補償に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図5は非線形性補償回路(以下、線形補償回路)を有する増幅器の従来例を説明する図である。図5の電力増幅器は、ディジタル変調方式のうち、QAM,QPSK等の線形変調方式に用いられる、フィード・フォワード方式(以下、F・F方式と称する)の電力増幅器のブロック構成図で、1は入力端子、2は第1の方向性結合器(分波器)、3は第1のベクトル調整部、24はパイロット信号生成部、25は加算器、、4は電力増幅部、5は第2の方向性結合器(分波器)、9は第1の遅延器、10は減算器、12は減衰器、27は第3の方向性結合器(合成器)、15は第2のベクトル調整部、18は誤差増幅器、6は第2の遅延器、7は第4の方向性結合器(合成器)、28は主信号制御器、29は誤差信号制御部、26は第5の方向性結合器(合成器)、30はバンドパスフィルタ、19は出力端子である。
【0003】
図5において、変調信号が入力端子1から入力される。入力端子1から入力した変調信号は第1の方向性結合器2に入力する。第1の方向性結合器2は入力された信号を2つの経路に分波する。分波された信号の一方は、加算器25を介して第1のべクトル調整部3を通り電力増幅部4に入力する。また、分波された信号の他方は第1の遅延器9を介して減算器10の被減算入力に入力する。電力増幅部4から出力された信号は第2の方向性結合器5に送られ、第2の方向性結合器5において2つの経路に分波される。分波された信号の一方は第2の遅延器6を介して第4の方向性結合器7に送られ、また、分波された信号の他方は減衰器(ATT)12を介して減算器10の減算入力に入力する。減衰器12は入力された信号成分のレベル(振幅)を減衰し、減算器10に第1の遅延器9を介して入力する他方の信号と信号レベル(振幅)を合せる。第1の遅延器9は入力された信号成分の位相を遅延し、減算器10に減衰器12を介して入力する他方の信号の遅延量と同じ遅延を与える。
【0004】
電力増幅部4において入力された信号は、送信に必要な所定の出力信号レベルに増幅されるが、出力信号には、必要な主信号以外に、電力増幅部4の非線形性によって発生した不要な歪み成分が含まれている。減算器10は、入力した2つの信号の差を計算して、この歪み成分を抽出する。このとき、第1のベクトル調整部3は入力された信号の振幅と位相を調整して第1の遅延器9の出力レベル(振幅)と位相とを、減算器10の減算入力に入力された主信号の信号レベルと位相に合せている。
【0005】
減算器10から出力されたこの歪み成分は、第2のベクトル調整部15と誤差増幅器18を通り、次いで第3の方向性結合器27を介して、第4の方向性結合器7に入力する。この歪み成分は、第2の遅延器6を介して第4の方向性結合器7に入力された信号の歪み成分と、逆相の信号となる。第4の方向性結合器7において入力された2つの信号が合成され、歪み成分が相殺されることによって非線形性の補償ができる。第4の方向性結合器7の出力信号は、第5の方向性結合器26を介してバンドパスフィルタ30に送られ、バンドパスフィルタ30で不要成分を除去された後、出力端子19から出力される。以後、図5の入力端子1,第1の方向性結合器2,第1のベクトル調整部3,電力増幅部4,第2の方向性結合器5,第2の遅延器6,第4の方向性結合器7,出力端子19を通る信号経路を主信号系と称する。また、主信号系以外の構成部分を歪み補償系と称する。
【0006】
次に図5において歪み成分を除去するための調整方法の一例を以下に述べる。
1つの方法として、送信機等の通信機器立上げ時に、テスト信号として、例えば周波数が近接する2波の無変調波を入力端子1から入力し、減算器10の出力と出力端子19の信号とをモニターする。そして、これら信号をモニターしながら、第1のベクトル調整部3及び第2のベクトル調整部15を調整する方法がある。しかしこの方法では通信機器の動作中(通信中)には調整ができず、実際のデータ送信開始後の温度変動などによる特性変化には追従できない。
【0007】
そこで第2の方法として、入力端子側で伝送帯域の近傍にパイロット信号を挿入する方法が採られる。以下、図5と図7を用いて説明する。
図7はパイロット信号挿入後の信号スペクトルを示す図である。横軸fは周波数、縦軸Pは電力レベル、O.L.は出力信号レベル、pltはパイロット信号、Dは歪み成分を示す。
図5において、パイロット信号生成部24から出力されるパイロット信号pltは加算器25に与えられて、第1の方向性結合器2から入力する信号に加えられる。第3の方向性結合器27は出力信号を分波して、分波した信号の一方を誤差増幅器18の出力信号を第4の方向性結合器7に送るとともに、分波した他方の信号を主信号制御器(CONT1)28に送る。主信号制御器28は減算器10の出力信号をモニターしながら、モニタされている信号の電力が最小となるように第1のベクトル調整部3を調整する。更に、第5の方向性結合器26は第4の方向性結合器7からの出力信号をバンドパスフィルタ30に送るとともに、出力信号の一部を分波して誤差信号制御器(CONT2)29に与える。誤差信号制御器29は第5の方向性結合器26の出力信号をモニターしながら、モニタされている信号のパイロット信号電力pltが最小となるように第2のベクトル調整部15を調整する。以上のようにして、歪み成分を通信中に除去することができる。
【0008】
上述のように、例えば異なる複数の周波数帯を用いて基地局(親局)から子局、及び子局から基地局(親局)へ信号を伝送する中継局のようなところで使用する中継増幅器のように、上り回線(子局から親局へ)と下り回線(親局から子局へ)との信号を同時入力して共通増幅するような場合には、互いに異なる複数の搬送周波数帯すべてを網羅する非常に広い周波数帯域にわたって線形補償を行う必要がある。
【0009】
しかし、例えば3次歪みに対して30dB以上の改善量を得ようとした場合、増幅する帯域が比帯域で5%を超えるような場合には、ベクトル調整用の移相器の広帯域化が困難であるため、全帯域にわたって一定量の補償を行うことができなかった。
【0010】
また電力増幅部自身の歪み特性には帯域内偏差がある。例えば、3次歪みを30dB以上改善しようとする場合には、主信号系の周波数特性と、歪み検出、補償を行う歪み補償系の周波数特性との帯域内偏差は、振幅で±0.1dB 、位相で±1度以下である必要がある。しかし、誤差増幅器の特性まで考慮すると上り回線、下り回線それぞれに対して、同時に最適な補償を行うことが困難であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、複数の周波数帯の信号を同時に増幅する場合には、異なる複数の搬送周波数帯すべてを網羅する、非常に広い周波数帯域にわたって線形補償を行う必要があるが、ベクトル調整用の移相器の広帯域化が困難であるため、全帯域にわたって一定量の補償を行うことができなかった。
【0012】
また電力増幅器自身の歪み特性の帯域内偏差のため、上り回線及び下り回線のそれぞれの信号に対して、同時に最適な補償を行うことが困難であった。
【0013】
また、上記のように上り回線及び下り回線の伝送に使用される異なる帯域を有する複数の信号を増幅する増幅器に限らず、異なる帯域を有する複数のアナログ信号またはディジタル信号を同時に増幅する従来の各種の増幅器においても、これら複数の信号に対してその全帯域にわたり最適な補償を行うことは困難であった。
【0014】
本発明の目的は、上記のような欠点を除去した増幅器を提供することにある。
【0015】
さらに、本発明の他の目的は、複数の搬送波帯の信号を共通増幅する増幅器において、それぞれの搬送波に対し、最適な線形補償を行うことを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するために、抽出された歪み成分を補償すべき複数の周波数帯に分離し、分離されたそれぞれの周波数帯域毎に、歪み検出と歪み補償を行ったものである。
【0017】
また本発明の異なる周波数帯を有する複数の入力信号を同時に増幅する増幅器は、
異なる周波数帯を有する複数の入力信号を同時に増幅する増幅部と、
増幅部から出力される異なる周波数帯の信号から、異なる周波数帯域毎に歪成分を分離して抽出する歪抽出部と、
異なる周波数帯域毎に分離して抽出された歪成分の位相と振幅とを、異なる周波数帯域毎に独立して調整する歪調整部と、
異なる周波数帯域毎に調整された歪成分に基き、増幅部から出力される異なる周波数帯域を有する複数の信号から、歪成分をキャンセルして出力するひずみ除去部とを備え、
歪調整部は異なる周波数帯域毎に分離して抽出された歪成分の位相と振幅とを、増幅部から出力される異なる周波数帯域を有する複数の信号に含まれる歪成分の位相と振幅に合せるように、異なる周波数帯域毎に独立して調整する。
【0018】
したがって、本発明によれば、広帯域の増幅器を用いて、複数の周波数帯域を共通増幅する場合においても、周波数帯域毎に分割して歪み量を抽出し、それぞれの帯域に対して最適な線形補償を行うことで、等価的に広い比帯域における線形補償を可能とし、高効率で伝送品質の高い通信機の実現が可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例を説明する。
本発明は、異なる周波数帯域を有する複数の信号を同時に増幅する全てのタイプの増幅器及び増幅方法に適用可能である。また、増幅対象の信号は、アナログ信号及びディジタル信号のいずれでもよく、更に、信号の伝送方式として、有線伝送、無線伝送のいずれにも適用できる。
【0020】
以下の各実施例においては、一例として、図1の従来例と上り回線及び下り回線を伝送される異なる周波数帯域を有する複数のディジタル信号を同時に増幅する電力増幅器であって、ディジタル変調方式としてQAM(Quadrature Amplitude Modulation)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の線形変調方式を用いたフィードフォワード方式の電力増幅器に適用した場合について説明する。また、以下の各実施例において、同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付しその重複説明を省略する。
【0021】
以下、本発明の一実施例について図1を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を説明するブロック構成図である。この図中、従来例を説明した図5と同一の機能のものは同一の符号を付してその説明を省略する。13-1,13-2はそれぞれバンドパスフィルタ(BPF)、15-1,15-2はそれぞれ第2のベクトル調整部、17は合成器である。
【0022】
入力端子1は、第1の方向性結合器(分波器)2を介して、第1のベクトル調整部3と第1の遅延器9とに接続される。第1のベクトル調整部3は、電力増幅部4、第2の方向性結合器(分波器)5、第2の遅延器6、及び第4の方向性結合器(合成器)7を介して出力端子19に接続される。第1の遅延器9は、減算器10の被減算入力に接続される。減算器10はバンドパスフィルタ13-1、第2のベクトル調整部15-1を介して合成器17に接続される。同様に減算器10はバンドパスフィルタ13-2、第2のベクトル調整部15-2を介して合成器17に接続される。合成器17は、誤差増幅器18を介して第4の方向性結合器7と接続される。また、第2の方向性結合器5は、減衰器12を介して、減算器10の減算入力に接続される。
【0023】
以下この動作について説明する。図1において、入力端子1には、上り信号と、下り信号の2つの搬送周波数帯の信号が同時に入力する。入力端子1から入力したこれら複数の信号は、1つの信号として入力端子1から出力され、第1の方向性結合器2に送られる。第1の方向性結合器2は、電力増幅を行う主信号系と、歪み成分の抽出を行う歪み補償系の2つの経路に、入力した信号を分波する。即ち、第1の方向性結合器2は、入力された信号を分波出力し、分波出力信号の一方は第1のベクトル調整部3を介して電力増幅部4に送られる(主信号系)。以後、主信号系の信号処理動作は図5の従来例と同様なので省略する。ただし、図5において、第5の方向性結合器26とバンドパスフィルタ30を有したが本実施例の図1にはこれらはない。
【0024】
次に第1の方向性結合器2の分波出力信号の他方は歪み補償系の信号として、第1の遅延器9を介して減算器10の被減算入力に送られる。この減算器10の出力までの信号経路の動作は図5の従来例と同一なので説明を省略するが、この減算器10から歪成分が抽出される。
【0025】
減算器10の出力信号は、バンドパスフィルタ13-1と13-2に送られる。これらのフィルタの周波数特性は、バンドパスフィルタ13-1を通った信号は上り信号の歪成分を抽出し、またバンドパスフィルタ13-2を通った信号は下り信号の歪成分を抽出するように設定されている。これによって、歪み成分を、上り成分と下り信号とに分離する。バンドパスフィルタ13-1,13-2の各特性は、抑圧すべき信号と通過させる信号とのレベル(振幅)がほぼ等しいため、減衰器の減衰量は10dB以上取れていればよい。したがって、バンドパスフィルタ13-1,13-2の通過帯域WD1,WD2はそれぞれ図18に示すものとすればよい。なお、図18についての説明は後述する。
【0026】
上り信号と下り信号の各周波数帯域に分離された信号はそれぞれ、第2のベクトル調整部15-1,15-2において、後段の第4の方向性結合器7で合成される際に、第2の遅延器6の出力に含まれる歪成分に対して、逆相で、かつ同一レベルとなるように調整される。第2のベクトル調整器15-1,15-2から出力されたこの上り信号と下り信号は合成器17に送られる。この合成器17でこれら2つの歪成分を合成して誤差増幅器18に送る。誤差増幅器18は入力した信号を増幅した後、第4の方向性結合器7に送る。第4の方向性結合器7では主信号系の信号から、歪み補償系の信号を差引くことにより、歪み成分を差引き、出力端子19を介して出力する。
【0027】
次に本発明の第2の実施例を、図2を用いて説明する。図2は、図1で説明した実施例に、第1のベクトル調整部3と第2のベクトル調整部15-1,15-2を自動的に適応的に制御する機能を持たせた場合のブロック構成図である。図2内では、図1と同一の機能のものには同一の符号を付している。また、26は第5の方向性結合器(分波器)、27は第3の方向性結合器(分波器)、28′は主信号制御器、29′は誤差信号制御器である。図2の構成は、図1とほぼ同じ構成で、以下の追加したものである。即ち、誤差増幅器18と第4の方向性結合器7との間の信号経路に第3の方向性結合器27が設けられている。該誤差増幅器18から出力された信号は第3の方向性結合器27を介して第4の方向性結合器7に送られる他、出力信号の一部は第3の方向性結合器27によって分波され、主信号制御器(CONT1)28′に送られる。また更に、第4の方向性結合器7と出力端子19との間の信号経路には第5の方向性結合器26が設けられている。この第5の方向性結合器26は、第4の方向性結合器7の出力信号を分波し、分波した一方の信号を出力端子19に送る他、分波した他方の信号を誤差信号制御器29′に送る。
【0028】
図2の実施例における歪み成分の抽出・補償に関する動作は前述した図1の実施例と同じである。図2では、主信号系経路を構成する第1のベクトル調整器3や、歪み補償系経路の第2のベクトル調整器15-1,15-2を制御する例を説明する。
【0029】
まず、主信号系経路の第1のベクトル調整部3を制御するために、抽出した歪み成分の一部を第3の方向性結合器27より取出す。減算器10において、減衰器12から入力される信号に含まれている上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)のレベルと位相が、第1の遅延器9から入力される信号と一致していれば、減算器10の出力信号の上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)とは抑圧され、歪み成分のみが出力される。しかし、減算器10に入力する2つの上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)信号のレベル振幅や位相に差がある場合には、減算器10の出力信号の上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)は十分抑圧されず残留してしまうことになる。従って、誤差増幅器18の出力電力が最小となるようにベクトル調整部3によりベクトル調整部3の出力信号のレベルと位相を調整したならば、 減算器10の出力信号の上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)が一番抑圧されていることになる。そこで、主信号制御部28′では、上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)の両方の帯域の信号をモニタしながら、即ち、誤差増幅器18の出力が示す歪成分の電力レベルの情報をモニタしながら、その電力が最小となるよう第1のベクトル調整部3を制御する。
【0030】
次に、歪み補償後の信号を出力する第4の方向性結合器7では、第3の方向性結合器27から入力される歪み補償系経路からの信号と、第2の遅延器6から入力される主信号系経路からの信号とから合成される。そこで、これらの信号が互いに正確に逆位相、同レベル(振幅)であれば、第4の方向性結合器7の出力端では歪み成分が完全に相殺され、出力に歪み成分が含まれないことになる。従って、そのためには、第4の方向性結合器7の出力側、即ち、第5の方向性結合器26から分波された上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)の各周波数帯域の外側(帯域外)の電力を誤差信号制御部29´で検出して、その検出電力が最小となるように第2のベクトル調整部15-1,15-2を個別に制御すればよい。
【0031】
上記のような主信号系28´(CONT1)の構成及び動作について説明する。
図9は主信号制御部28´(CONT1)の構成例を示す。図9において、131は誤差信号(歪み成分)入力端子、132は検波器(DET)、133はA/D(Analog-To-Digital)変換器、134はマイクロプロセッサ(MPU)、135-1と135-2はD/A(Digital-To-Analog)変換器、136は位相制御電圧出力端子、137は振幅制御電圧出力端子である。
図9において、誤差信号(歪み成分)入力端子131は、第3の方向性結合器27から分波された信号を入力する。誤差信号入力端子131は、検波器132、A/D変換器133、マイクロプロセッサ134を介して,D/A変換器135-1,135-2に接続される。D/A変換器135-1は位相制御出力端子136に、D/A変換器135-2は振幅制御電圧出力端子137に接続され、これら出力端子136,137は第1のベクトル調整部3に接続される。
【0032】
以下、主信号制御部28´の動作について説明する。
入力端子131から入力された、第3の方向性結合器27からの分波された誤差信号は、検波器132で検波されてベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号はA/D変換器133で量子化されてマイクロプロセッサ134に与えられる。マイクロプロセッサ134は、量子化された信号に基き、歪み抽出に対し、第1のベクトル調整部3の出力が最適な位相、レベルとなるように第1のベクトル調整部3を制御する(即ち、誤差増幅部18の出力電力を最小とする)ための位相制御電圧値Vp及び振幅制御電圧値Vmを演算により求め、D/A変換器135-1と135-2にそれぞれ与える。D/A変換器135-1と135-2からの位相制御電圧値Vp及び振幅制御電圧値Vmはそれぞれ出力端子136と137から第1のベクトル調整部3に与えられる。
【0033】
このベクトル調整部3の出力位相及び出力レベルの最適値を求めるためのアルゴリズムとして、例えば、摂動法、最小二乗法、最急降下法などの方法のいずれをも用いることができるが、ここでは一例として、摂動法のアルゴリズムについて、その処理例を図10、図11に示すフローチャートを用いて説明する。このフローチャートの処理は前記マイクロプロセッサ134により実行される。
【0034】
まず、増幅器の電源投入後等の立上げ時には、位相制御電圧値Vp及び振幅制御電圧値Vmをそれぞれ適当な初期値Vpini及びVminiに設定する(ステップ601)。次いで、A/D変換器133の出力に基き、そのときの誤差信号電力Pd(第3の方向性結合器27からの分波された誤差信号の電力)を検出し内臓のメモリにストア
する(ステップ602)。次に、位相制御電圧値Vp(最初は初期値Vpiniとする)に微少電圧ΔVを加えてVp+ΔV=Vp´を求め(ステップ603)、更にそのときの誤差信号電力Pd´を求めてメモリに格納する(ステップ604)。一方、位相制御電圧Vp(最初は初期値Vpiniとする)からΔVを引いてVp―ΔV=Vp´´を求め(ステップ605)、更に、そのときの誤差信号電力Vp´´を求めてメモリに格納する(ステップ606)。
【0035】
次いで、ステップ602、604、606で記憶しておいた電力値Pd、Pd´、Pd´´よりPd−Pd´=ΔPd1,Pd−Pd´´=ΔPd2を求める(ステップ607)。次いで、ΔPd1<0かどうか、即ち、Vpを増やした場合に誤差電力が増加したかどうかを調べる(ステップ608)。
誤差電力が増加しない場合、即ち、ΔPd1≧0の場合には、Vp´を新たなVpとみなしてステップ602に戻る(ステップ609)。一方、誤差電力が増加した場合にはステップ610に進む。
ステップ610では、ΔPd2<0かどうか、即ち、Vpを減少した場合に誤差電力が増加したかどうかを調べる。
誤差電力が増加しない場合、即ち、ΔPd2≧0の場合には、Vp´´を新たなVpとみなしてステップ602に戻る(ステップ611)。一方、誤差電力が増加した場合にはステップ620に進む。
こうして、ステップ610でYESと判定された場合の電圧Vp即ち、位相制御電圧Vpを増加、減少した場合のいずれにおいても誤差電力が増加した場合の電圧Vpが、第3の方向性結合器27から分波された誤差信号の検出電力を最小とする位相制御電圧Vpの最適値として求まる。
【0036】
図11のフロ―チャートに示すように、ステップ620以降では、振幅制御電圧Vmに対しても同様の処理を行う(ステップ620〜629)。
まず、誤差信号電力Pd(第3の方向性結合器27からの分波された誤差信号の電力)を検出し内蔵のメモリに格納する(ステップ620)。次に、振幅制御電圧Vm(最初は初期値Vminiとする)に微少電圧ΔVを加えてVm+ΔV=Vm´を求め(ステップ621)、更に、そのときの誤差信号電力Pd´をメモリに格納する(ステップ622)。一方、振幅制御電圧Vm(最初は初期値Vminiとする)からΔVを引いてVm―ΔV=Vm´´を求め(ステップ623)、更に、そのときの誤差信号電力Pd´´をメモリに格納する(ステップ624)。
【0037】
次いで、ステップ620,622,624で記憶しておいた電力値Pd,Pd´,Pd´´より、Pd−Pd´=ΔPd1,Pd−Pd´´=ΔPd2を求める(ステップ625)。次いで,ステップ626では、ΔPd1<0かどうか、即ち、Vmを増やした場合に誤差電力が増加したかどうかを調べる。誤差電力が増加しない場合、即ち、ΔPd1≧0の場合には、Vm´を新たなVmとみなして、ステップ620に戻る(ステップ627)。一方、誤差電力が増加した場合には、ステップ628に進む。ステップ628では、ΔPd2<0かどうか、即ち、Vmを減少した場合に誤差電力が増加したかどうかを調べる。誤差電力が増加しない場合、即ち、ΔPd2≧0の場合には、Vm´´を新たなVmとみなして、ステップ620に戻る(ステップ629)。一方、誤差電力が増加した場合には処理を終了する。こうして、ステップ628でYESと判定された場合の電圧Vm、即ち、振幅制御電圧Vmを増加、減少した場合のいずれにおいても誤差電力が増加した場合の電圧Vmが、第3の方向性結合器27からの分波された誤差信号の検出電力を最小とする振幅制御電圧Vmの最適値として求まる。
【0038】
このような処理により求めた位相制御電圧Vpの最適値及び新婦器制御電圧Vmの最適値を、それぞれD/A変換器135-1,135-2を介してアナログ値に変換して第1のベクトル調整部3に与えて、位相と振幅の制御を行う。したがって、このように第1のベクトル調整部3の出力の位相と振幅ともに最適制御された場合、減算器10の出力においては主信号成分が十分抑圧され、ひずみ成分のみとなるため、第3の方向性結合器27からの分波された誤差信号の総電力は最小となる。
【0039】
次に、誤差信号制御部29´(CONT2)の構成及び動作について説明する。図12は、誤差信号制御部29´の構成例を示す。図12の誤差信号制御部29´は、第2のベクトル調整部15-1,15-2のそれぞれを誤差信号制御部29´からの共通の位相制御電圧Vp及び共通の振幅制御電圧Vmで制御する例である。140-1,140-2はバンドパスフィルタ(BPF)、141は信号入力端子、142-1,142-2は検波器(DET)、143はA/D変換器、144はマイクロプロセッサ(MPU)、145-1,145-2はD/A変換器、146は位相制御電圧出力端子、147は振幅制御電圧出力端子である。
【0040】
図12において、信号入力端子141は、第5の方向性結合器26から分波された上り信号(U.L.)及び下り信号(D.L.)を入力する。信号入力端子141からの信号は、バンドパスフィルタ140-1に与えられて、第5の方向性結合器26からの分波された信号のうち上り信号の帯域外の信号成分(即ち、上り信号のうちの主信号成分U.L.の帯域以外の信号成分(歪み成分))を抽出される。また、信号入力端子141からの信号は、バンドパスフィルタ140-2に与えられて、第5の方向性結合器26からの分波された信号のうち下り信号の帯域外の信号成分(即ち、下り信号のうちの主信号成分D.L.の帯域以外の信号成分(歪み成分))を抽出される。
【0041】
バンドパスフィルタ140-1で抽出された上り信号の帯域外の信号成分は検波器142-1で検波されてベースバンド信号に変換されて加算器148に入力される。同様に、バンドパスフィルタ140-2で抽出された下り信号の帯域外の信号成分は検波器142-2で検波されてベースバンド信号に変換されて加算器148に入力される。加算器148の出力はA/D変換器143で量子化されマイクロプロセッサ144に与えられる。マイクロプロセッサ144は、量子化された信号に基き、第2のベクトル調整部15-1,15-2のそれぞれの出力が最適な位相、レベルとなるように第2のベクトル調整部15-1,15-2用の位相制御電圧Vp及び振幅制御電圧Vmの適正値を設定して、位相制御電圧Vpの適正値をD/A変換器145-1から出力端子146を介して、第2のベクトル調整部15-1,15-2それぞれに与えると共に、振幅制御電圧Vmの適正値をD/A変換器145-2から出力端子147を介して、第2のベクトル調整部15-1,15-2それぞれに与える。即ち、第4の方向性結合器7においては、歪みを有する主信号と、抽出された歪み成分とが適正な位相、振幅で合成されないと、歪み補償の動作が不完全となり、第4の方向性結合器7の出力には、歪み成分が十分抑圧されないまま信号が出力される。そこで、第2のベクトル調整部15-1,15-2のそれぞれの出力が最適な位相、レベルとなるように制御して、第4の方向性結合器7の出力には、歪み成分が十分抑圧された信号が出力されるようにして歪み補償の動作を完全なものとする。
【0042】
ここで、バンドパスフィルタ140-1,140-2の特性について説明する。
図18は、本実施例における伝送信号、歪み成分、及びバンドパスフィルタで抽出される信号の各々の周波数の関係を示す図である。
バンドパスフィルタ140-1,140-2の特性は、実際の伝送信号U.L.,D.L.の伝送帯域外に生じる歪み成分を抜出すような帯域とする。ここで、上り伝送信号U.L.の中心周波数をfc1、上り伝送信号の帯域幅をfa、バンドパスフィルタ140-1の帯域をffil1とすると、各々の周波数関係は次のようになる。
【0043】
【数1】
【0044】
あるいは、
【0045】
【数2】
【0046】
同様に、下り伝送信号D.L.の中心周波数をfc2、上り伝送信号の帯域幅をfb、バンドパスフィルタ140-2の帯域をffil2とすると、各々の周波数関係は次のようになる。
【0047】
【数3】
【0048】
あるいは、
【0049】
【数4】
【0050】
このバンドパスフィルタ140-1,140-2で抜出した歪み信号を、検波し、電力を算出してその値を基に第2のベクトル調整部15-1,15-2を調整する。第2のベクトル調整部15-1,15-2が最適点に設定されれば、当然歪み電力の抑圧量が最大となり、第5の方向性結合器26及びバンドパスフィルタ140-1,140-2で抜出される歪み電力を最小とすることができる。また、バンドパスフィルタの帯域幅は、上の式で示した帯域全体を必ずしも通過させる必要はなく、必要に応じ、上式で示す帯域のうちの一部を抜出してもよい。
【0051】
このような構成においては、フィードフォワードの制御が適正になされているほど、バンドパスフィルタ140-1,140-2で抜出した信号のレベルは小さくなるので、マイクロプロセッサ144における演算アルゴリズムは、図10,図11のフローチャートと同じアルゴリズムを用いることができる。
【0052】
なお、第5の方向性結合器26からの上り下り伝送信号の一方から抜出した信号に基き、第2のベクトル調整部15-1,15-2を制御してよく、その場合には上り伝送信号用のバンドパスフィルタ140-1と検波器142-1の組合せ、または、下り伝送信号用のバンドパスフィルタ140-2と検波器142-2の組合せの一方を削除してもよい。
【0053】
次に、誤差信号制御部29′(CONT2)の他の構成例及びその動作について説明する。
図13は、誤差信号制御部29′(CONT2)の他の構成例を示す図である。143-1,143-2はA/D変換器、144-1,144-2はマイクロプロセッサ(MPU)、145-11,145-12,145-21,145-22はD/A変換器、146-1,146-2は位相制御電圧出力端子、147-1,147-2は振幅制御電圧出力端子である。図13の誤差信号制御部29′は、第2のベクトル調整部15-1,15-2を誤差信号制御部29′からのそれぞれの別個の位相制御電圧Vp及び別個の振幅制御電圧Vmで制御する例である。この場合には、図12における加算器148は削除され、図12のA/D変換器143、マイクロプロセッサ144、D/A変換器145-1,145-2がそれぞれ上り及び下り伝送信号毎に別個に設けられる。即ち、上り伝送信号用にA/D変換器143-1、マイクロプロセッサ144-1、D/A変換器145-1,145-2が設けられ、下り伝送信号用にA/D変換器143-2、マイクロプロセッサ144-2、D/A変換器145-3,145-4が設けられる。D/A変換器145-1,145-2からの位相制御電圧Vp及び振幅制御電圧Vmは、それぞれ出力端子146-1,147-1を介してベクトル調整部15-1に与えられる。また、D/A変換器145-3,145-4からの位相制御電圧Vp及び振幅制御電圧Vmは、それぞれ出力端子146-2,147-2を介してベクトル調整部15-2に与えられる。
【0054】
マイクロプロセッサ144-1,144-2のそれぞれにおける演算アルゴリズムは、図10及び図11のフローチャートと同じアルゴリズムを用いる子他が出きる。
また、マイクロプロセッサ144-1,144-2を1つのマイクロプロセッサで構成し、時分割処理動作させて用いるようにしてもよい。
【0055】
また、図2の実施例において、これら第1と第2の各ベクトル調整部3及び15-1,15-2を制御する方法として、従来例で述べたパイロット信号を用いることも可能である。以下、パイロット信号を用いて制御を行う、第3の実施例について図8と図6を用いて説明する。
上記実施例と同様に、周囲の環境変化や経年変化に対して電力増幅器を安定に動作させるために、主信号系経路を構成する第1のベクトル調整部3や、歪み補償系経路の第2のベクトル調整部15-1,15-2を通信中に制御する例を説明する。
【0056】
図8は、図2で説明した実施例に、パイロットの信号を挿入する機能を付加した場合のブロック構成図の一例である。図8では、図2と同様の機能のものには同一の符号を付している。また、24′はパイロット信号生成部、25は加算器である。図8の構成は、図2とほぼ同じ構成で、以下の追加があるものである。即ち、第1の方向性結合器2と第1のベクトル調整部3との間の信号経路に加算器25を設け、入力端子1に入力した信号は、第1の方向性結合器2、加算器25を介して第1のベクトル調整部3に送られる。また、パイロット信号生成部24′が設けられ、加算器25に接続している。
【0057】
図8の電力増幅器の動作は、図2とほぼ同一であるので、主信号系及び歪み補償系の詳しい説明は省略する。図6は、本発明における主信号と歪み成分について、パイロット信号挿入後の信号スペクトルの一例を示す図である。横軸fは周波数、縦軸Pは電力レベル、U.L.は上り信号の出力レベル、D.L.は下り信号の出力レベル、plt1は上り信号近傍のパイロット信号、 plt2は下り信号近傍のパイロット信号、D1は上り信号の歪み成分、D2は下り信号の歪み成分を示す。
【0058】
図8において、パイロット信号発生部24′は上り信号(U.L.)の周波数近傍に単一周波のパイロット信号plt1を生成し、また下り信号(D.L.)の周波数近傍に単一周波のパイロット信号plt2を生成し、この2つのパイロット信号plt1,plt2を加算器25に入力する。加算器25は、第1の方向性結合器2から入力する信号にこれらのパイロット信号を加える。このときのスペクトルの状態が図6である。これらのパイロット信号plt1,plt2は、電力増幅部4の前段側に挿入されるため、図8の信号系では、歪み信号の一部として現われる。したがって、主信号制御部28′ではこのパイロット信号plt1,plt2のみに着目し、その信号レベルが最小となるように第1のベクトル調整部3を制御する。また、第2のベクトル調整部15-1,15-2についても、第5の方向性結合器26から分波した信号を誤差信号制御部29′で検出し、検出される信号に含まれるパイロット信号plt1,plt2のレベルが最小となるように第2のベクトル調整部15-1,15-2を制御する。
【0059】
本実施例においては、主信号制御部28´(CONT1)の構成及び動作は図9のものと同一でよい。また、誤差信号制御部29´(CONT2)の構成及び動作については図12または図13のものと同一でよい。この場合、バンドパスフィルタ140-1,140-2はそれぞれパイロット信号plt1,plt2を抽出するように構成する。
【0060】
以上の結果、実際に出力端子19から送出する信号には、パイロット信号は不要であるので第5の方向性結合器26と出力端子19との間にバンドパスフィルタ30を設けて、パイロット信号plt1,plt2を除去した上で出力端子19から出力する。
【0061】
次に本発明の第4の実施例について図3を用いて説明する。前述した図1の実施例と同一の機能のものには同一の符号を付してある。その他22-1,22-2,14-1,14-2はバンドパスフィルタ(BPF)、10-1,10-2は減算器である。図3の構成は、ほぼ図1と同じであるが、第1の遅延器9の出力はまず2つのバンドパスフィルタ22-1と22-2とに入力する。まず、バンドパスフィルタ22-1は減算器10-1,バンドパスフィルタ14-1を介して、第2のベクトル調整部15-1に接続する。同様にバンドパスフィルタ22-2は減算器10-2,バンドパスフィルタ14-2を介して、第2のベクトル調整部15-2に接続する。また、減衰器12の出力は2つの減算器10-1と10-2とにそれぞれ入力する。その他の接続は図1と全く同じである。
【0062】
以下、図3の動作について説明する。
【0063】
入力端子1には、上り信号と、下り信号の2つの搬送周波数帯の信号が同時に入力する。入力端子1から入力したこれら複数の信号は、1つの信号として入力端子1から出力され、第1の方向性結合器2に送られる。第1の方向性結合器2は入力された信号を2つの信号に分波出力する。この分波した出力信号の一方は、主信号系であり、第1のベクトル調整部3を介して電力増幅部4に送られる。以後主信号系の信号動作は図1の実施例と同一なので省略する。
【0064】
次に分波した出力信号の他方は、歪み補償系に与えられる。第1の遅延器9は入力した信号に、主信号系経路の構成要素3〜5,12で生じる遅延量と同じ遅延を与え、バンドパスフィルタ22-1とバンドパスフィルタ22-2との両方に送る。次にバンドパスフィルタ22-1は、図18に示す通過帯域WULを有して上り信号帯域(U.L.)を抜出し、この抜出した信号を減算器10-1の被減算入力に送る。同様にバンドパスフィルタ22-2は、図18に示す通過帯域WDLを有して下り信号帯域(D.L.)を抜出し、この抜出した信号を減算器10-2の被減算入力に送る。
【0065】
次に、減衰器12の出力信号は、減算器10-1,10-2の両方の減算入力に送られ、減算器10-1,10-2はそれぞれ、入力した減算値と被減算値とで演算を行う。減算器10-1の出力信号は、図18の通過帯域WD1を有するバンドパスフィルタ14-1を介して、第2のベクトル調整部15-1に送られる。また、減算器10-2の出力信号は、図18の通過帯域WD2を有するバンドパスフィルタ14-2を介して、第2のベクトル調整部15-2に送られる。
【0066】
このときの信号の状態を、信号スペクトルの一例を示す図18を用いて説明する。減算器10-1,10-2に対して減衰器12より入力される信号は、上り信号U.L.と下り信号D.L.と、両者の歪み成分であるD1,D2とが入力される。一方で、バンドパスフィルタ22-1の出力は上り信号U.L.のみであるため、減算器10-1の減算出力としては、下り信号D.L.と両者の歪み成分D2,D1とが出力されることになる。同様に、減算器10-2では、上り信号U.Lと両者の歪み成分D1,D2とが出力される。これらの信号からバンドパスフィルタ14-1で、下り信号の歪み成分D1のみを取り出し、またバンドパスフィルタ14-2では、上り成分の歪み成分D2のみを取り出す。このとき、バンドパスフィルタ14-1,14-2の特性として、それぞれの減衰域にある主信号成分、即ち、バンドパスフィルタ14-1における下り信号D.L.、バンドパスフィルタ14-2における上り信号U.L.を、通過域を抜けてくる歪み成分D2またはD1に対して、十分低いレベルまで減衰させる必要がある。例えば、上り信号U.L.と下り信号D.L.のレベル差が10dB(U.L. < D.L.)であり、各々の帯域で発生している歪み成分のレベルが、それぞれ30dBcであったとする。このとき、バンドパスフィルタ14-1を通過してくる歪み成分D1に対して、下り信号D.L.を10dB低いレベルに抑えるためには、下り信号帯域での減衰量として、50dB以上あればよい。またバンドパスフィルタ14-2については、同様の考え方から、上り信号帯域における減衰量は30dB以上あればよいことになる。
【0067】
第2のベクトル調整部15-1,15-2は、バンドパスフィルタ14-1,14-2の出力が第4の方向性結合器7において、第2の遅延器6から入力される信号に含まれる上り/下り各帯域の歪み成分に対し、それぞれ逆相で、かつ同レベルとなるように調整される。調整後の歪み成分を合成器17で合成し、誤差増幅器18にて増幅した後、第4の方向性結合器7で、合成と歪み成分の相殺を行い、出力端子19から出力する。ここで、第2の遅延器6は誤差増幅器18で生じる遅延を吸収するためのものである。
【0068】
次に、図4に示す本発明の第5の実施例について説明する。図4は、図3と同一の機能のものには同一の符号を付している。また、8は分配器(H)、20-1と20-2はバンドパスフィルタ(BPF)である。図4の構成は、ほぼ図3と同じであるが、第1の遅延器9の出力は分配器8を介して減算器10-1と10-2とに入力する。また、減衰器12の出力は2つのバンドパスフィルタ20-1と20-2に入力し、バンドパスフィルタ20-1は減算器10-1,バンドパスフィルタ14-1を介して、第2のベクトル調整部15-1に接続する。同様にバンドパスフィルタ20-2は減算器10-2,バンドパスフィルタ14-2を介して、第2のベクトル調整部15-2に接続する。その他の接続は図3の実施例と全く同じである。
【0069】
以下、図4の動作について説明する。
前述した第4の実施例と同様に、入力端子1には、上り信号と、下り信号の2つの搬送周波数帯の信号が同時に入力する。入力端子1から入力したこれら複数の信号は、1つの信号として入力端子1から出力され、第1の方向性結合器2に送られる。第1の方向性結合器2は入力された信号を分波出力し、分波出力信号の一方は、主信号系に、即ち、第1のベクトル調整部3を介して電力増幅部4に送られる。以後主信号系の信号動作は図1の実施例と同一なので省略する。
【0070】
次に分波出力信号の他方は、歪み補償系に与えられる。即ち、第1の遅延器9は入力した信号に、主信号系経路のベクトル調整部3、電力増幅部4で生じる遅延量を吸収するように遅延を与える。遅延器9の出力は、分配器8により同レベルの2信号に分配され、これら2つの信号は減算器10-1と減算器10-2のそれぞれの被減算入力に与えられる。
【0071】
一方、電力増幅部4に入力された信号は、電力増幅部4の特性により歪みが発生する。電力増幅部4の出力電力のうち一部を、方向性結合器5で取り出し、減衰器12を介して、バンドパスフィルタ20-1と20-2の両方に送られる。減衰器12に入力された信号は減衰器12でレベル調整された後、バンドパスフィルタ20-1,20-2を通すことで、上り信号の帯域と、下り信号の帯域とに分離され、減算器10-1,10-2に入力される。バンドパスフィルタ20-1は通過帯域WD1を有しており、上り信号帯域(U.L.,D1)を抜出し、抜出した信号を減算器10-1の減算入力に送る。同様にバンドパスフィルタ20-2は通過帯域WD2を有しており、下り信号帯域(D.L.,D2)を抜出し、抜出した信号を減算器10-2の減算入力に送る。減算器10-1と10-2では入力した減算値と被減算値とで演算を行う。減算器10-1の出力信号は、バンドパスフィルタ14-1を介して、第2のベクトル調整部15-1に送られる。また、減算器10-2の出力信号は、バンドパスフィルタ14-2を介して、第2のベクトル調整部15-2に送られる。以後の動作は図3と同様なので省略する。
【0072】
ここで、減算器10-1,10-2における信号の様子を、前述の実施例と同様、図18を用いて説明する。分配器8の出力は、無歪みの入力信号、すなわち上り信号U.L.と、下り信号D.L.とからなる。バンドパスフィルタ20-1の出力は、歪みを持った上り信号、すなわちU.L.とD1からなり、バンドパスフィルタ20-2の出力は歪みを持った下り信号でありD.L.とD2からなる。減算器10-1では、(U.L.+ D1)−(U.L. + D.L.)となるため、その出力には上り信号帯域の歪み成分D1と、下り信号(逆位相)が含まれる。同様に、減算器10-2の出力には、下り信号帯域の歪み成分D2と上り信号(逆位相)が現れることになる。
【0073】
減算器10-1,10-2がこれらの信号をそれぞれ通過帯域WD1のバンドパスフィルタ14-1、及び通過帯域WD2のバンドパスフィルタ14-2を通して、それぞれの帯域の歪み成分D1,D2を抽出する。バンドパスフィルタ14-1,14-2により分離された上り/下りそれぞれの帯域の歪み成分は、ベクトル調整部15-1,15-2において、誤差増幅器18の出力と第2の遅延器6の出力に含まれる歪み成分と逆相、かつ同レベルで、第4の方向性結合器7において合成されるように調整される。第2のベクトル調整部15-1,15-2からの歪み成分は合成器17で合成され、誤差増幅器18で増幅され、さらに第4の方向性結合器7で第2の遅延器6の出力と合成され、歪み成分を相殺される。したがって、出力端子19からは信号成分U.L.,D.L.のみが出力される。
【0074】
また、これら図3、図4に示した各実施例についても図1、図2に示した実施例と同様に主信号制御部28´及び誤差信号制御部29´等を設けて、適応的に各ベクトル調整部3,15-1,15-2を制御することで、温度等の周囲環境の変化や、経年変化に追従することが可能となる。
【0075】
図14は本発明の第6の実施例を説明するブロック構成図である。上記各実施例と同一の機能のものは同一の符号を付してある。その他、9-1は第1の遅延器、9-2は第2の遅延器、9-3は第3の遅延器、11は第1の減衰器(ATT)、18-1,18-2は誤差増幅器、21は第2の減衰器(ATT)、31は第6の方向性結合器(分波器)、32は第7の方向性結合器(合成器)である。
【0076】
入力端子1は、第1の方向性結合器2を介して、第1のベクトル調整部3と第1の遅延器9-1及び第2の遅延器9-2とに接続される。第1のベクトル調整部3は、電力増幅部4、第2の方向性結合器5、第2の遅延器6、及び第4の方向性結合器7を介して出力端子19に接続される。第1の遅延器9-1は、減算器10-1の被減算入力に接続される。減算器10-1はバンドパスフィルタ13-1、第2のベクトル調整器15-1、誤差増幅器18-1を介して第4の方向性結合器7に接続される。同様に第2の遅延器9-2は、減算器10-2の被減算入力に接続される。減算器10-2はバンドパスフィルタ13-2、第2のベクトル調整部15-2、誤差増幅器18-2を介して第7の方向性結合器32と接続される。また、第2の方向性結合器5は、第1の減衰器11を介して、減算器10-1の減算入力に接続され、第6の方向性結合器31は、第2の減衰器21を介して、、減算器10-2の減算入力に接続される。
【0077】
以下本実施例の動作について説明する。図14において、第1の方向性結合器2は入力された信号を分波出力し、分波出力信号の一方は第1のベクトル調整部3を介して電力増幅部4に送られる(主信号系)。電力増幅部4から出力された信号は第2の方向性結合器5に送られ、この第2の方向性結合器5において2経路に分波される。分波された信号の一方は第2の遅延器6を介して第4の方向性結合器7に送られる。また、第2の方向性結合器5で分波された信号の他方(U.L.,D.L.,D1,D2)は第1の減衰器11を介して減算器10-1の減算入力に入力する。
【0078】
次に第1の方向性結合器2の分波出力信号の他方は歪み補償系の信号として、第1の遅延器9-1及び第2の遅延器9-2の各被減算入力に送られる。第1の遅延器9-1は入力された信号成分の位相を遅延するもので、減算器10-1の減算入力側に入力してくる主信号系の信号成分(U.L.,D.L.)の遅延量と同じ遅延を与える。
第1の減衰器11は入力された信号成分のレベルを減衰し、減算器10-1に第1の遅延器9-1を介して入力する他方の信号と信号レベルを合せる。
【0079】
電力増幅部4において入力された信号は送信に必要な所定の出力信号レベルに増幅されるが、出力信号には、必要な主信号(U.L.,D.L.)以外に、電力増幅部4の非線形性によって発生した不要な歪み成分(D1,D2)が含まれている。減算器10-1は、入力した2つの信号の差を計算して、この歪み成分(D1,D2)を抽出する。このとき、第1のベクトル調整部3は、入力された信号の振幅と位相を調整して、第1の遅延器9-1の出力レベルと位相とを、減算器10-1の減算入力に入力された主信号のレベルと位相に合せている。
【0080】
減算器10-1から出力されたこの歪み成分(D1,D2)は、上り信号成分を分離・抽出するための通過帯域WD1を有するバンドパスフィルタ13-1と第2のベクトル調整部15-1更に誤差増幅器18-1を介して、第4の方向性結合器7に入力する。第4の方向性結合器7に入力した信号は、バンドパスフィルタ13-1を通ることにより、上り信号だけの歪み成分D1となる。この抽出された上り信号歪み成分D1は、第2の遅延器6を介して第4の方向性結合器7に入力された信号の歪み成分と、逆相の信号となる。第4の方向性結合器7において入力されたこれら2つの信号が合成され、上り信号の歪み成分が相殺されることによって上り信号の非線形性の補償ができる。
【0081】
減衰器13-1の出力には元々の入力信号である上り信号(U.L.)と下り信号(D.L.)の他に、電力増幅器4で生じた上り信号歪み成分(D1)と下り信号歪み成分(D2)が含まれる。一方、第1の遅延器9-1から入力する信号は、上り信号と下り信号のみである。この2つの入力信号の位相とレベルが一致するように第1のベクトル調整部3で調整がなされているため、減算器10-1の出力は上り信号帯域の歪み成分D1と下り信号帯域の歪み成分D2のみが出力されることになる。減算器10-1で抽出された2つの歪み成分D1,D2は、バンドパスフィルタ13-1に送られ、このバンドパスフィルタ13-1で上り信号の歪み成分D1だけを分離・抽出され、第2のベクトル調整部15-1を介して誤差増幅器18-1に送られる。このように分離・抽出された上り信号の歪み成分D1は誤差増幅器18-1で増幅された後、第4の方向性結合器7に送られる。第4の方向性結合器7では、別に入力される主信号系の信号(U.L.+D.L.+D1+D2)と、この上り信号の歪み成分D1を合成して上り信号の歪み成分を相殺し、得られた信号(U.L.+D.L.+D2)を第6の方向性結合器31に送る。ここで第2のベクトル調整部15-1は、第4の方向性結合器7で信号が合成される際、主信号系の歪み成分に対して誤差増幅器18-1からの歪み成分が逆位相,かつ同レベルとなるように第2のベクトル調整部15-1の出力の位相とレベルを調整する。第2の遅延器6は、バンドパスフィルタ13-1から誤差増幅器18-1までの間で生じる遅延を吸収するために挿入される。ここでバンドパスフィルタ13-1は、ローパスフィルタ、あるいは、下り回線側の成分を除去するノッチフィルタ等で構成することも可能である。以上述べた動作により、第4の方向性結合器7の出力には上り信号と下り信号及び下り信号の歪み成分とが残ることとなる。この第4の方向性結合器7の出力信号は第6の方向性結合器31に送られ、2つに分波される。分波された信号の一方は第3の遅延器9-3、第7の方向性結合器32を介して出力端子19に送られ出力される。また第6の方向性結合器31において分波された信号の他方は、第2の減衰器21を介して減算器10-2の減算入力となる。
【0082】
一方、第1の方向性結合器2で分岐した無歪みの信号で第1の遅延器9-2に入力した信号は、第1の遅延器9-2により、主信号系の第1のベクトル調整部3から第4の方向性結合器7までの間で生じた遅延量と同じ遅延を与えられ、減算器10-2の被減算入力に入力する。減算器10-2は、被減算入力信号(U.L.,D.L.)と、第2の減衰器21からの信号(U.L.,D.L.,D2)との差をとる。減算器10-2の出力は通過帯域WD2のバンドパスフィルタ13-2に送られ、バンドパスフィルタ13-2は送られた信号から下り信号の歪み成分D2だけを分離・抽出する。ただし、前段側の処理において上り信号の歪み成分が十分抑圧されていればバンドパスフィルタ13-2は省略することができる。また、バンドパスフィルタ13-2は、ハイパスフィルタ、あるいは、上り信号側の成分を除去するノッチフィルタ等で構成することも可能である。
【0083】
こうして抽出した下り信号の歪み成分D2は誤差増幅器18-2に送られ、誤差増幅器18-2で増幅され、第7の方向性結合器32に送られる。ここで、第2のベクトル調整部15-2は、第7の方向性結合器32で第3の遅延器9-3から入力される主信号系の歪み成分に対して,誤差増幅器18-2からの歪み成分が逆位相、かつ同レベルとなるように、第2のベクトル調整部15-2の出力の位相とレベルを調整する。第7の方向性結合器32は、誤差増幅器18-2から送られてきた信号D2と、第3の遅延器9-3から入力される主信号系の信号と(U.L.,D.L.,D2)を合成し、下り信号の歪み成分を相殺して信号成分(U.L.,D.L.)のみを出力端子19に送る。
第3の遅延器9-3はバンドパスフィルタ13-2から誤差増幅器18-2までの間で生じる遅延を吸収するために挿入されている。
【0084】
次に本発明の第7の実施例を、図15を用いて説明する。図15は、図14で説明した第6の実施例について、第2の実施例等のように、適応的に制御する機能を持たせた場合のブロック構成図である。図15において、24´はパイロット信号生成部、25は加算器、26は第5の方向性結合器、27-1,27-2は第3の方向性結合器、28′は主信号制御器、29′は誤差信号制御器である。図15の構成は、図14とほぼ同じ構成で、以下の追加があるものである。即ち、パイロット信号生成部24´と加算器25が付加されており、加算器25が第1の方向性結合器2と第1のベクトル調整部3との間に設けられ、加算器25にパイロット生成部24´の出力が接続されている。誤差増幅器18-1と第4の方向性結合器7との間の信号経路に第3の方向性結合器27-1が設けられている。また、誤差増幅器18-2と第7の方向性結合器32との間の信号経路に第3の方向性結合器27-2が設けられている。第3の方向性結合器27-1から分波された信号は、主信号制御器28′に与えられる。また、第3の方向性結合器27-2から分波された信号も、主信号制御器28′に与えられる。主信号制御器28′の出力は第1のベクトル調整部3への制御信号となる。更に、第7の方向性結合器32と出力端子19との信号経路間には、第5の方向性結合器26とバンドパスフィルタ30が設けられている。第5の方向性結合器26から分波された信号は誤差信号制御器29′に与えられ、該誤差信号制御器29′の出力は第2のベクトル調整部15-1,15-2への制御信号となる。
【0085】
誤差増幅器18-1から出力された信号は第3の方向性結合器27-1を介して第4の方向性結合器7に送られる他、出力信号の一部は第3の方向性結合器27-1によって分波され、主信号制御器28′に送られる。またさらに、第4の方向性結合器7と出力端子19との間の信号経路には第5の方向性結合器26とバンドパスフィルタ30が設けられている。第5の方向性結合器26は、第7の方向性結合器32の出力信号を該バンドパスフィルタ30に送る他、出力信号の一部を分波し誤差制御器29′に送る。バンドパスフィルタ30は、第5の方向性結合器26から入力された信号の不要周波数成分PLT1,PLT2を除去して出力端子19を介して出力する。
【0086】
図15の歪み成分の抽出・補償に関する動作は前述した第7の実施例(図14)と同じである。しかし、前述の第7の実施例では実際の通信中に適応的にベクトル調整を行う機能を有しないため、温度等の周囲環境の変化や、経年による特性変化に対して追従できない。周囲の環境変化や経年変化に対して電力増幅器を安定に動作させるためには、主信号系経路を構成する第1のベクトル調整器3や、歪み補償系経路の第2のベクトル調整器15-1,15-2を通信中に制御する必要がある。図15の実施例は以下に述べるように通信中に制御することができる。
【0087】
以下図15の動作について、図6を参考にしながら説明する。図6は主信号と歪み成分について、パイロット信号挿入後の信号スペクトルの一例を示す図である。
歪み成分の抽出・補償に関する動作は前述した第6の実施例と同じであるので、省略する。
【0088】
前述したように、第1のベクトル調整部3が最適に調整されているとすれば、減算器10-1の出力には、電力増幅部4を含む経路で生じる上り信号の歪み成分D1のみが出力されるが、減算器10-1に入力される2つの信号の位相、あるいはレベルに差があるときには、減算器10-1の出力は、主信号である上り信号U.L.と下り信号D.L.とが抑圧されきれず残ってしまう。従って減算器10-1の出力以降の歪み補償系の電力をモニタすることによって、第1のベクトル調整部3を制御することが可能となる。そこで、本実施例においては誤差増幅器18-1の出力である上り信号の歪み成分D1を第3の方向性結合器27-1で取出し、さらに誤差増幅器18-2の出力である下り信号の歪み成分D2を第3の方向性結合器27-2で取出し、これらの2つの信号を主信号制御部28′に入力する。主信号制御部28′では入力されたこれら2つの信号の合計が最小となるように、第1のベクトル調整部3の制御を行う。したがって、主信号制御部28´は、図9の構成において、入力端子131が第3の方向性結合器27-1,27-2からの信号を、加算器(図示しない)を介して入力するように構成される。
【0089】
図15において、第1のベクトル調整部3と電力増幅部4以外の構成要素が、歪み補償を行う帯域において十分広帯域であり、無歪みであれば、第1の減衰器11の出力のみで制御を行うことも可能である。また、第2のベクトル調整部15-1,15-2の調整が最適になされていれば第4の方向性結合器7、あるいは第7の方向性結合器32で歪み成分が相殺されるため、上り/下りそれぞれの帯域における帯域外電力をモニタしておき、その電力が最小となるように誤差信号制御部29′で第2のベクトル調整部15-1,15-2を制御する。誤差信号制御部29´の構成は図2で述べた実施例と同様でよい。
【0090】
また、各ベクトル調整部を適応的に制御する方法として、図8の実施例と同様にパイロット信号を用いることも可能である。以下、パイロット信号を用いた制御の方法について図15と図6を用いて説明する。
【0091】
第1の方向性結合器2から与えられた信号に対して、パイロット信号生成部24′で発生したパイロット信号plt1,plt2を加算器25にて加算する。パイロット信号plt1,plt2は、第1の方向性結合器2で分波された後の信号に挿入されるため、挿入された信号は、歪み信号の1部と考えられる。従って、第1のベクトル調整部3の調整が最適であれば減算器10-1,10-2の出力においては主信号が抑圧されるため、主信号制御部28′では、帯域内の全信号レベルをモニタして調整を行う。一方、出力端側の誤差信号制御部29′では、パイロット信号plt1,plt2のレベルが最小となった時をベクトル調整の最適点とみなして、第2のベクトル調整部15-1,15-2の制御を行う。その後、バンドパスフィルタ30でパイロット信号plt1,plt2のみを除去して送信を行う。
【0092】
次に本発明の第8の実施例を図16に示す。図16は、本発明の第8の実施例を説明するブロック構成図である。図16の構成は、図14の実施例とほぼ同じ構成で、以下の変更があるものである。即ち、第1のベクトル調整部3が削除されて第1の方向性結合器2と電力増幅部4が直結され、代りに、第1のベクトル調整部3-1と第3のベクトル調整部3-2が追加された。第1のベクトル調整部3-1は第1の減衰器11と減算器10-1との間に挿入され、第3のベクトル調整部3-2は第2の減衰器21と減算器10-2との間に挿入されている。
【0093】
図16で示したブロック構成図は、図14の構成に対して、第1のベクトル調整部の位置を電力増幅部3の前段から、第1の減衰器11及び第2の減衰器21の後段に変更したものであり、このように各ベクトル調整部は信号経路上のどこにあってもよいことは自明である。
【0094】
また、これら図14、図16に示した各実施例についても、図15、図2等に示した実施例と同様に主信号制御部28´及び誤差信号制御部29´等を設けて適応的に各ベクトル調整部3,15-1,15-2を制御することで,温度等の周囲環境の変化や,経年変化に追従することが可能となる。
【0095】
以上、本発明による増幅器としては、異なる周波数帯域を有する2つの信号を同時に増幅する実施例について説明したが、本発明は異なる周波数帯域を有する3つ以上の信号を同時に増幅するものにも適用可能である。
例えば、図8の実施例において異なる周波数帯域を有する3つの信号(第1、第2、第3の信号)を同時に増幅するように構成した変形例を図17に示す。
この実施例においては、更に第3の信号の通過帯域を有するバンドパスフィルタ13-3及び、第3の信号の位相及びレベル調整用の第2のベクトル調整部15-3を設け、第2のベクトル調整部15-1,15-2,15-3を合成器17´で合成し誤差増幅器18を介して第3の方向性結合器27に送り、第2のベクトル調整部15-3の出力位相及びレベルを、第3の方向性結合器27から分波した信号により動作する誤差信号制御部29´の出力により制御するようにしたものである。また、パイロット信号発生部24´´はパイロット信号plt1,plt2に加えて、第3の信号の周波数近傍にパイロット信号plt3を発生する。
【0096】
以上述べたように、本発明はフィード・フォワード方式の電力増幅器によって説明したが、通常の増幅器でもよく、更に、フィード・バック方式等、他の方式の増幅器であってもよい。
【0097】
【発明の効果】
本発明によれば、広帯域な電力増幅器を用いて、複数の周波数帯域を共通増幅する場合においても、帯域毎に分割して歪み量を抽出し、それぞれの帯域に対して最適な線形補償を行うことで、等価的に広い比帯域において補償を可能とし、高効率で伝送品質の高い通信機の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の増幅器の一実施例の構成を示すブロック図。
【図2】 本発明の第2の実施例の構成を示すブロック図。
【図3】 本発明の第4の実施例の構成を示すブロック図。
【図4】 本発明の第5の実施例の構成を示すブロック図。
【図5】 従来の増幅器の構成を示すブロック図。
【図6】 伝送信号、歪み成分、パイロット信号の周波数関係を示す図。
【図7】 伝送信号、歪み成分、パイロット信号の周波数関係を示す図。
【図8】 本発明の第3の実施例の構成を示すブロック図。
【図9】 主信号制御部の一実施例の構成を示すブロック図。
【図10】 図9の主信号制御部の動作の一例を説明するフローチャート。
【図11】 図9の主信号制御部の動作の一例を説明するフローチャート。
【図12】 誤差信号制御部の一実施例の構成を示すブロック図。
【図13】 誤差信号制御部の一実施例の構成を示すブロック図。
【図14】 本発明の第6の実施例の構成を示すブロック図。
【図15】 本発明の第7の実施例の構成を示すブロック図。
【図16】 本発明の第8の実施例の構成を示すブロック図。
【図17】 本発明の他の実施例の構成を示すブロック図。
【図18】 伝送信号、歪み成分、パイロット信号の周波数関係を示す図。
【符号の説明】
1:入力端子、 2:第1の方向性結合器、 3,3-1:第1のベクトル調整部、 3-2:第3のベクトル調整部、 4:電力増幅部、 5:第2の方向性結合器、 6:第2の遅延器、 7:第4の方向性結合器、 8:分配器(H)、 9,9-1:第1の遅延器、 9-2:第2の遅延器、 9-3:第3の遅延器、 10,10-1,10-2:減算器、 11:第1の減衰器、 12:減衰器、 13-1,13-2,13-3,14-1,14-2:バンドパスフィルタ、 15,15-1,15-2,15-3:第2のベクトル調整部、 17,17´:合成器、 18,18-1,18-2:誤差増幅器、 19:出力端子、 20-1,20-2:バンドパスフィルタ、 21:第2の減衰器、 22-1,22-2:バンドパスフィルタ、 24,24´,24´´:パイロット信号生成部、 25:加算器、 26:第5の方向性結合器、 27,27-1,27-2:第3の方向性結合器、 28,28´:主信号制御器、 29,29´:誤差信号制御部、 30:バンドパスフィルタ、 31:第6の方向性結合器、 32:第7の方向性結合器、 131:誤差信号入力端子、 132:検波器、 133:A/D変換器、 134: MPU、 135-1,135-2:D/A変換器、 136:位相制御電圧出力端子、 137:振幅制御電圧出力端子、 140-1,140-2:バンドパスフィルタ、 141:信号入力端子、 142-1,142-2:検波器、 143,143-1,143-2:A/D変換器、 144,144-1,144-2:マイクロプロセッサ、 145-1,145-2,145-11,145-12,145-21,145-22:D/A変換器、 146,146-1,146-2:位相制御電圧出力端子、 147,147-1,147-2:振幅制御電圧出力端子
Claims (4)
- 入力信号を主増幅器を含む主信号系と誤差増幅器を含む歪み補償系に分波し、該歪み補償系に分波された信号と前記主増幅部の出力を分波した信号とに基づいて、前記誤差増幅器より歪み成分を抽出し、前記主信号系の出力に合成することにより歪み補償増幅を行うフィードフォワード方式の増幅器であって、
前記入力信号を分波した信号と前記主増幅器より分波した信号との差分を抽出する差分抽出手段と、
該差分抽出手段により抽出した差分に基づいて、前記入力信号の歪み成分をそれぞれの周波数帯域毎に抽出する歪み抽出手段と、
該歪み抽出手段によって抽出された各々の歪み成分について位相及び振幅を各周波数帯域毎に調整する位相振幅調整手段と、
該位相振幅調整手段によって調整された各々の歪み成分に基づいて前記誤差増幅器を介して出力信号を前記主信号系に出力することを特徴とするフィードフォワード方式の増幅器。 - 複数の異なる周波数帯域の入力信号を主増幅器を含む主信号系と誤差増幅器を含む歪み補償系に分波し、該歪み補償系に分波された信号と前記主増幅部の出力を分波した信号とに基づいて、前記誤差増幅器より歪み成分を抽出し、前記主信号系の出力に合成することにより歪み補償増幅を行うフィードフォワード方式の増幅器であって、
前記入力信号を分波した信号と前記主増幅器より分波した信号との差分を抽出する差分抽出手段と、
該差分抽出手段により抽出した差分に基づいて、前記入力信号の各周波数帯域毎に歪み成分を分離・抽出する分離抽出手段と、
該分離抽出手段によって分離・抽出された歪み成分の位相及び振幅を、各周波数帯域毎に調整する位相振幅調整手段と、
該位相振幅調整手段によって調整された歪み成分に基づいて前記誤差増幅器を介して出力信号を前記主信号系に出力することにより、該出力信号から歪み成分を相殺することを特徴とするフィードフォワード方式の増幅器。 - 請求項1あるいは請求項2記載の増幅器において、
分離・抽出された歪み成分の位相または電力レベルの情報から入力信号の位相及び振幅を適応的に制御する手段と、
最終出力に含まれる信号の情報から、各周波数帯域毎に抽出された歪み成分の位相及び振幅を各々適応的に制御する手段とを有することを特徴とするフィードフォワード方式の増幅器。 - 請求項3記載の増幅器において、
伝送に用いられる各々の周波数帯域の近傍に制御用のパイロット信号を発生し、挿入するための挿入手段と、
該挿入手段によって挿入された前記パイロット信号の状態に応じて、入力された複数の周波数帯域の信号と、
各周波数帯域毎に抽出された歪み成分の位相及び振幅をそれぞれ独立に、適応的に制御する手段と、
歪み成分を補償した後挿入されたパイロット信号を除去するための除去手段とを有することを特徴とするフィードフォワード方式の増幅部。
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