JP3659174B2 - Iii族窒化物半導体発光素子およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、絶縁性或いは高抵抗の基板を用いたpn接合型の発光部を有するIII族窒化物半導体発光素子を構成する場合に、好適となる電極の配置手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気絶縁性のサファイア(α−Al2O3単結晶)等の結晶を基板とするIII族窒化物半導体発光素子には、青色或いは緑色の発光ダイオード(LED)がある(赤崎 勇編著、「III族窒化物半導体」((株)培風館、1999年12月8日、(株)培風館発行初版、241〜255頁参照)。また、青紫色レーザーダイオード(LD)が知られている(上記の「III族窒化物半導体」、257〜273頁参照)。サファイア基板は絶縁性であるため、基板には発光素子を駆動電流を通流させるための電極を設けることができない。このため、絶縁性基板を利用した従来の発光素子では、素子駆動電流を通流するための入力及び出力電極(入出力電極)の何れもが基板の一表面側に配置される構成となっている。
【0003】
図5は、絶縁性の単結晶を基板301とする従来のIII族窒化物半導体LED30の断面構造を示す模式図である。基板301上には、基板301と下部クラッド層303との格子ミスマッチ(mismatch)を緩和するための緩衝層302が配置されている。緩衝層302は、例えば窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物半導体から構成される(特開平6−268259号公報)。緩衝層302上には、窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1-XN:0≦X≦1)等のIII族窒化物半導体結晶層からなる下部クラッド層303が積層されている。この場合、緩衝層302と下部クラッド層303との間にその他の層が介在している場合もある。下部クラッド層303は、例えばアルミニウム組成比(=X)を0.14とするAl0.14Ga0.86Nから構成されている(上記の特開平6−268259号公報)。下部クラッド層303上には、窒化ガリウム・インジウム(GaXIn1-XN:0≦X≦1)等のインジウム含有III族窒化物半導体からなる発光層(活性層)304が積層される。発光層304上には、AlXGa1-XN(0≦X≦1)等からなる上部クラッド層305が積層されている。発光層304を上部及び下部クラッド層303、305で挟持してなるダブルヘテロ(double−hetero)接合構造から発光部306が構成される。上部クラッド層305上には、低接触抵抗のオーミック(Ohmic)電極を形成するためのコンタクト(contact)層307が敷設される場合もある。
【0004】
III族窒化物半導体を用いたLED30を駆動するための素子駆動用電流は、基板301のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に形成したn形およびp形のオーミック(Ohmic)性の第1および第2の電極308、309を介して流通される。第2の電極309は発光部306を構成する上部クラッド層305或いはコンタクト層307をなす窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム混晶(AlXGaYIn1-X-YN:0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)層の表面上に配置されている。例えば、p形GaNからコンタクト層307上に形成する例が開示されている(上記の特開平6−268259号公報)。
【0005】
一方、第1の電極308はエッチングにより露呈させたAlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)層の表面に配置されるのがもっぱらである(上記の特開平6−268259号公報)。例えば、第1の電極308をAl0.14Ga0.86N下部クラッド層303と下方で接合するGaN層310上に設ける例がある(上記の特開平6−268259号公報)。または、窒化アルミニウム(AlN)からなる緩衝層上に設けた、緩衝層とは格子整合の関係にないGaNからなる下部クラッド層表面上に一方の電極を設ける構成が知れている。即ち、従来例では、第1および第2の電極308、309を何れもAlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)層の表面上に配置するの通例となっている(上記の「III族窒化物半導体」、244〜247頁参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
絶縁性結晶を基板とする従来のIII族窒化物半導体を用いたLEDでは、例えば、窒化ガリウム(GaN:禁止帯幅=3.39eV)の如く室温に於いて3eVを越える大きな禁止帯幅を有するIII族窒化物半導体混晶層上に入出力電極を配置する構成となっているため、充分に低い接触抵抗のオーミック性電極をもたらし難いことが問題点として挙げられている。
【0007】
一般には、禁止帯幅を小とする半導体層程、低接触抵抗のオーミック性電極を形成し易い傾向にある。また、キャリア濃度が高い半導体層に接触させて電極を設ければ、接触抵抗の低いオーミック電極が得られ易い傾向にある。しかし、従来では、高いキャリア濃度のAlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)層を得んがために、例えば、成膜時に多量の不純物ドーピングを施すと、結晶層に生じる亀裂に因り、破断する等の問題を生じていた。また、結晶欠陥を多量に内在したそもそも結晶性に劣る下部クラッド層では、結晶欠陥に因り良好な電流の通流が阻害されるため、通流抵抗の増大を来し、しいては、LEDの順方向電圧(=Vf)の増大や、LDにあっては閾値電圧(=Vth)を増加をさせる欠点があった。
【0008】
本発明は上記の従来技術の問題点に鑑み成されたもので、III族窒化物半導体発光素子において良好なオーミック性を発揮するに好適な電極の配置手段を提供し、順方向電圧が増大しないLEDや閾値電圧が増加しないLDを作成したものである。また本発明は、素子駆動用電流について徒な通流抵抗の増大を回避するに優位となる、結晶性に優れた電極形成用の半導体層が積層できる緩衝層の構成を明らかにし、消費電力の低減されたIII族窒化物半導体発光素子を提供するものである。さらに本発明は、これらのIII族窒化物半導体発光素子を製造するための製造法を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、(1)絶縁性或いは高抵抗の基板と、該基板上に設けられた硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成される緩衝層と、該緩衝層上に設けられた発光層を上部及び下部クラッド(clad)層で挟んだダブルヘテロ接合型のIII族窒化物半導体からなる発光部を含むIII族窒化物半導体層と具備し、基板のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に第1の極性の電極(第1の電極)及び第2の極性の電極(第2の電極)が形成されているIII族窒化物半導体発光素子に於いて、第1の電極が緩衝層に接して設けられ、第2の電極がIII族窒化物半導体層上に設けられていることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0010】
また本発明は、(1)の発明の構成に加えて、(2)緩衝層が下部クラッド層よりも小さな禁止帯幅を有するIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0011】
また本発明は、(1)または(2)の発明の構成に加えて、(3)下部クラッド層と緩衝層とが格子整合して接しているIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0012】
また本発明は、(1)乃至(3)の発明の構成に加えて、(4)緩衝層を、異なる温度でそれぞれ形成した硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体からなる複数の構成層を重層させて構成したIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0013】
特に本発明は、(4)の発明の構成に加えて、(5)第1の電極を、異なる温度でそれぞれ形成した前記複数の構成層のうち、最も比抵抗の小さい構成層に接して設けたIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0014】
また本発明は、(1)乃至(5)の発明の構成に加えて、(6)基板が珪素(Si)単結晶からなり、緩衝層がリン化硼素(BP)からなるIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0015】
また本発明は、(1)乃至(6)の発明の構成に加えて、(7)第2の電極が接するIII族窒化物半導体層を、窒素(N)と窒素(N)以外の第V族元素を構成元素として含むIII族窒化物半導体から構成したIII族窒化物半導体発光素子を提供する。
【0016】
また本発明は、(8)絶縁性或いは高抵抗の基板上に硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成される緩衝層を設ける工程と、該緩衝層上に発光層を上部及び下部クラッド(clad)層で挟んだダブルヘテロ接合型のIII族窒化物半導体からなる発光部を含むIII族窒化物半導体層を設ける工程と具備し、基板のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に第1の極性の電極(第1の電極)及び第2の極性の電極(第2の電極)を形成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に於いて、第1の電極を緩衝層に接して設け、第2の電極をIII族窒化物半導体層上に設けることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【0017】
また本発明は、(8)の発明の構成に加えて、(9)前記緩衝層を、硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体からなる複数の構成層を異なる温度でそれぞれ形成して構成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【0018】
また本発明は、(8)または(9)の発明の構成に加えて、(10)第1の電極を、異なる温度でそれぞれ形成した前記複数の構成層のうち、最も比抵抗の小さい構成層に接して設けるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施形態を示したLED10の断面構造図を図1に模式的に示す。本発明に係わる構成は、電気的に絶縁性或いは高抵抗の結晶を基板101とする発光素子に好適に適用できる。絶縁性の基板材料としては、六方晶のサファイア(α−Al2O3)やLiGaO2、LiAlO2等の酸化物結晶が例示できる。また、高抵抗の基板材料には等軸立方晶のSiや、六方晶または立方晶の炭化珪素(SiC)並びに窒化硼素(BN)などが例示できる。Siを基板とすれば、発光素子と例えば、発光素子を駆動するための他の素子とを組み合わせた集積素子を簡便に構成できる利点がある。基板材料の表面の結晶面方位は、{100}、{1000}、{111}、{1101}等とすることができる。主面から傾斜した方位の結晶面を有する結晶材料も基板として利用出来る。Si等の閃亜鉛鉱型或いはダイヤモンド型の結晶構造を有する単結晶の{111}面では、{100}面に比較して約2倍の稠密さで構成原子が存在している。このことから、面方位を{111}とする単結晶基板では、緩衝層102等の上層を構成する原子の基板内部への熱拡散を抑止するに{100}面の場合より優位となる。
【0020】
基板101の表面上には、緩衝層102を敷設する。緩衝層102は基板101をなす結晶材料との格子ミスマッチ(mismatch)を緩和して、結晶欠陥の少ない良質の結晶層を上層をもたらす作用を有する。併せて本発明では、高抵抗の結晶を基板101とする場合にあって、緩衝層102は入出力用途電極の何れかとして働く第1の電極108を設けるための電極形成層として活用する。このため、緩衝層102は接触抵抗の低いオーミック性電極を形成できる良導性の結晶層から構成する。例えば、比抵抗(抵抗率)にして数ミリオーム・センチメートル(mΩ・cm)以下のn形のIII−V族化合物半導体層から構成する。また、第II族元素を添加してなる低抵抗のp形III−V族化合物半導体層から構成するのが望ましい。
【0021】
本発明では、緩衝層は、硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成する。具体的には、緩衝層102を例えば、リン化硼素(BP)或いは砒化硼素(BAs)から構成する。また、例えば、窒化リン化硼素(BP1-XNX:0≦X<1)、リン化硼素・ガリウム(BαGa1- αP:0≦α≦1)、リン化硼素・アルミニウム(BαAl1- αP:0≦α≦1)等のBP系混晶から構成できる。また、例えば、窒化砒化硼素(BAs1-XNX:0≦X<1)、砒化硼素・ガリウム(BαGa1- αAs:0≦α≦1)、砒化硼素・アルミニウム(BαAl1- αAs:0≦α≦1)等のBAs系混晶から緩衝層102を構成する。硼素(B)を一構成元素として含むIII−V族窒化物半導体は一般に他のIII−V族化合物半導体に比べて融点が高い。例えば、リン化硼素(BP)の融点は、約3000℃を越えている(寺本 巌著、「半導体デバイス概論」((株)培風館1995年3月30日発行初版、28頁参照)。従って、上層として大凡、700℃〜1000℃近傍の高温で発光部を構成するIII族窒化物半導体層を結晶成長させる際にも、耐熱性のある緩衝層を構成できる利点がある。また、硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体からは、例えば、高抵抗基板とするSi単結晶(格子定数=5.4309Å)に格子整合を果たす緩衝層を構成できる利点がある。例えば、硼素(B)組成比を2%(=0.02)とするB0.02Ga0.98Pから高抵抗Si基板に格子整合する緩衝層を構成できる。
【0022】
緩衝層102の伝導形はn形、p形の何れとすることもできる。n形III−V族化合物半導体からなる緩衝層102には、例えば、金(Au)及び金・ゲルマニウム(Au・Ge)等の金合金、アルミニウム(Al)等の単体金属や、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等の遷移金属及びその化合物等からなるn形オーミック電極を第1の電極108として敷設する。p形III−V族化合物半導体からなる緩衝層102には、例えば、金・亜鉛(Au・Zn)等の金合金などからなるp形オーミック電極を第1の電極108として敷設する。結線(ボンディング)用途の台座(パッド)電極を構成する際には、例えば、その大きさと形状は、直径にして約100μmを越える円形状とするのが望ましい。また、例えば、一辺の長さを約100μm以上とする正方形状とする例が挙げられる。
【0023】
上記の如くの硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成された緩衝層は高強度であり、不純物の添加に因る亀裂(crack)のない平坦な結晶層となる。また、上記の様なIII−V族化合物半導体から構成された緩衝層は閃亜鉛鉱型の等軸立方晶結晶層となり、その価電子帯のバンド(band)構造から特に、低抵抗のp形結晶層が得られ易い。従って、亀裂が無く表面の平坦性に優れ、且つ不純物の電気的活性化率の高さから低抵抗となる緩衝層上に第1の電極を設ければ、良好なオーミック特性を呈する電極を優位に構成できる。また、緩衝層を立方晶から構成すると、その上層の堆積層は立方晶となる。六方晶とは異なり、立方晶のIII族窒化物半導体では、例えばp形不純物の電気的活性化率が高く、従って、低抵抗のp形結晶層が得られ易い。また、III族窒化物半導体では、電子の有効質量が比較的に小さいためにn形の低抵抗結晶層も簡便に得られる。従って、本発明に記す如く、第1の電極を緩衝層に接して設け、第2の電極をIII族窒化物半導体層上に設けることとすると、例えば、入力抵抗が小さく良好なオーミック特性を発揮する電極を備えたIII族窒化物半導体発光素子を得るに有利となる。
【0024】
本発明の第2の実施形態では、緩衝層102を特に、発光部を構成する下部クラッド層103よりも小さな禁止帯幅を有する硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成する。下部クラッド層上に電極を設ける従来例とは異なり、下部クラッド層よりも禁止帯幅を小とする緩衝層上に電極を設ける手段に依れば、接触抵抗が低く良好なオーミック性の電極を簡便に獲得できる利点がある。禁止帯幅の差異は0.1eV以上、望ましくは0.2eV以上とする。更に好適なのは0.3eV以上である。しかし、下部クラッド層103と緩衝層102との禁止帯幅の差異が約2eVを越えるLEDにあっては、順方向電圧の極端な上昇を招く不都合が生ずる場合がある。従って、好適な禁止帯幅の差異は、0.3eV以上で約2eV以下の範囲であるのが好ましい。
【0025】
本発明の第2の実施形態に係わる積層構造には、下部クラッド層103を窒化リン化アルミニウム・ガリウム(AlαGa1- αN1-YPY:0≦α≦1、0≦Y<1)から構成し、緩衝層102をリン化硼素(BP)とする一例が挙げられる。例えば、立方晶GaN0.95P0.05とBPとの室温での禁止帯幅の差異は約0.74eVである。また、同様の下部クラッド層について、緩衝層102を上記のリン化硼素(BP)系混晶または砒化硼素(BAs)系混晶から構成する例が挙げられる。また、砒化窒化アルミニウム・ガリウム(AlαGa1- αN1-YAsY:0≦α≦1、0≦Y<1)からなる下部クラッド層103に上記のリン化硼素(BP)系または砒化硼素(BAs)系混晶からなる緩衝層102を接合させる積層例がある。例えば、砒化硼素(BAs:禁止帯幅=0.85eV(上記の「半導体デバイス概論」、28頁参照))を緩衝層102に用いる。従って、立方晶の窒化ガリウム(GaN:禁止帯幅=3.20eV)からなる例えば、上部クラッド層との間の禁止帯幅の差異は2.35eVとなる。ダブルヘテロ(DH)接合型の発光部にあって、発光層104を挟持する下部クラッド層103と上部クラッド層105とを同一のIII族窒化物半導体材料から構成する必要は必ずしも無い。即ち、上下クラッド層103、105とでは禁止帯幅を相違する材料から構成することは許容される。
【0026】
第1の電極108を設ける緩衝層102は、異なる材料からなる複数の半導体層を重層させて構成することができる。例えば、上記のリン化硼素(BP)系混晶層と上記の砒化硼素(BAs)系混晶層とを、交互に周期的に重層させて構成できる。また、組成を相違する例えば、リン化硼素(BP)系混晶層を重層させて構成できる。例えば、単量体のリン化硼素(BP)とリン組成比を0.03(=3%)とする窒化リン化硼素(BN0.97P0.03)との重層構造から構成できる。重層構造から構成される緩衝層にあって、少なくとも、電極が接触する最表層はn形またはp形の伝導性を呈する良導層とする必要がある。最表層を高抵抗層とすると良好なオーミック性を有する第1の電極108を都合良く形成できない。
【0027】
重層緩衝層は、同一の層厚の各構成層を複数に重層させて構成できる。また、層厚を相違する構成層を重層させて重層緩衝層を構成できる。歪の開放に係わる臨界膜厚以下の層厚の構成層を交互に周期的に重層させて歪超格子構造の緩衝層を構成することもできる。重層緩衝層の構成層の層厚としては、一般に数十nmから数μmが適する。更に、発光層104から放射される発光波長(=λ)と屈折率(=η1)との関係式d1=λ/(4・η1)で与えられる層厚(=d1)を有する第一の構成層と、関係式d2=λ/(4・η2)で与えられる層厚(=d2)の第二の構成層とを周期的に交互に積層させて構成した重層緩衝層は、ブラッグ(Bragg)反射層としての作用を発揮する緩衝層として利用できる。ブラッグ反射層は発光を外部の視野方向へ発光を反射できるため、高輝度のIII族窒化物半導体発光素子を得るに効果を奏するものとなる。
【0028】
本発明の第3の実施形態では、例えば、緩衝層102と下部クラッド層103を格子整合させる。緩衝層102の構成材料の格子定数をD1とし、下部クラッド層103の構成材料の格子定数をD2とすれば、緩衝層102に対する下部クラッド層103の格子のミスマッチ度(=δ)は、関係式δ(単位:%)={(D1−D2)/D1}×100で与えられる。D1=D2の条件では、ミスマッチ度(δ)は0(零)となり、格子整合の関係となる。緩衝層102よりも下部クラッド層103の構成材料の格子定数が大である場合、即ち、D1<D2の条件下ではδは負値となる。D1>D2の条件では、ミスマッチ度(δ)は正値を採る。正負何れであってもδが大である程、格子ミスマッチの度合いは増加する。緩衝層102は下部クラッド層103とのδを望ましくは±5%以下とし、更に望ましくは±2%以下とする半導体材料から構成する。本発明では、δ=0、即ち、下部クラッド層103と格子整合の関係にある材料から緩衝層102を構成するのを最適とする。
【0029】
緩衝層102は例えば、下部クラッド層103を構成するリン(P)組成比を0.03(=3%)とするn形またはp形の立方晶窒化リン化ガリウム(GaN0.97P0.03:格子定数=4.538Å)に格子整合する、閃亜鉛鉱型の単量体のリン化硼素(BP)から構成する。また例えば、アルミニウム組成比を0.10とする立方晶の窒化アルミニウム・ガリウム(Al0.10Ga0.90N:格子定数=4.497Å)からなる下部クラッド層103については、リン組成比を0.96とする立方晶の窒化リン化硼素(BP0.96N0.04)から緩衝層を構成する。下部クラッド層103と格子整合する、即ち、δ=0となるIII族窒化物半導体材料から緩衝層102を構成することに依り、緩衝層層102と下部クラッド層103の接合界面での格子ミスマッチに起因するミスフィット(misfit)転位等の結晶欠陥の発生が抑制される利点が生まれる。このため、例えば図1においては、下部クラッド層103とそれに接合する緩衝層102(その構成層である高温緩衝層102−2)との界面でキャリアの結晶欠陥による捕獲が抑止され、素子動作電流を効率的に緩衝層102に通流させることができる。即ち、緩衝層102に設けた第1の電極108に素子駆動電流を通流するに好都合となる。
【0030】
また、本発明の第4の実施形態として、本発明において緩衝層を、結晶成長温度を相違し、例えば組成を同一とする上記の砒化硼素(BAs)混晶層を重層させて構成できる。特に、基板101材料とは格子のミスマッチ(mismatch)を大とする材料から緩衝層102を構成するに際して、結晶成長温度をその上に形成する高温緩衝層の成長温度より低温とした非晶質を主体とする構成層である低温緩衝層102−1と、その上に低温緩衝層より高温で結晶成長させた単結晶の構成層である高温緩衝層102−2との重層構造から緩衝層を構成すると、基板との格子ミスマッチを緩和して結晶性に優れる高温緩衝層102−2をもたらされる効果が得られる。低温及び高温緩衝層102−1、102−2からなる重層緩衝層にあって、低温緩衝層102−1の層厚を概して、約1nm〜約50nmとすると、基板結晶との格子ミスマッチの緩和効果は特に顕著である。
【0031】
単結晶が得られる高温で結晶成長された高温緩衝層は、その単結晶性と相俟って局所的で短絡的な導通を誘発する結晶欠陥密度の少ない良質の結晶層となる。従って、本発明の第5の実施形態では、低温緩衝層102−1と高温緩衝層102−2とからなる重層構造の緩衝層にあって、第1の電極108を高温緩衝層102−2に接触させて設けることとする。低温緩衝層102−1と高温緩衝層102−2とを同一の材料から構成する必要は必ずしもなく、異なる材料からなる構成層を積層させて重層構造の緩衝層102を構成できる。例えば、リン化硼素(BP)低温緩衝層上にリン化硼素・ガリウム混晶(BαGa1- αP:0<α≦1)高温緩衝層を積層させて重層緩衝層を構成できる。
【0032】
緩衝層102を構成する層の結晶成長手段としては例えば、有機金属熱分解気相成長法(MOCVD法)、ハロゲン(halogen)気相成長法、ハイドライド(hydride)気相成長法、または分子線エピタキシャル法(MBE)等の気相成長手段が適する。緩衝層102の構成層の成長時に於いて、導電性を付与できる不純物を故意に層内に添加する、所謂、ドーピング(doping)手法に依り、良導性の緩衝層構成層を得ることができる。例えば、第IV族元素の珪素(Si)、錫(Sn)や第VI族の硫黄(S)、セレン(Se)またはテルル(Te)等のn形不純物を適量でドーピングすれば、n形のリン化硼素(BP)系混晶やn形の砒化硼素(BAs)混晶が得られる。また、例えば、第II族元素の亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)や第IV族の炭素(C)等のp形不純物を適量でドーピングすれば、p形のリン化硼素(BP)系混晶やp形の砒化硼素(BAs)混晶が得られる。電極の接触抵抗の低減を期すために、n形またはp形不純物は、約5×1017cm-3以上、更に好ましくは約1×1018cm-3以上で約5×1019cm-3以下の範囲のキャリア濃度が得られる様に添加するのが望ましい。約5×1019cm-3を越えるキャリア濃度の緩衝層構成層は、多量の不純物のドーピングに因る結晶欠陥を多く内在している場合があり、安定して低接触抵抗のオーミック電極を必ずしも得られないため不都合である。
【0033】
低温緩衝層102−1は非晶質(amorphous)を主体として構成できる温度で結晶成長させるのが好ましい。非晶質体と単結晶体との混合或いは不均一な配向性(orientation)を有する単結晶体の集合からなる多結晶体では、非晶質を主体とする低温緩衝層と比較すると、格子ミスマッチを緩和する作用は弱くなる。例えば、リン化硼素(BP)からなる低温緩衝層102−1の成長温度としては、MOCVD手段では約250℃〜約750℃が適する。高温緩衝層102−2とは、低温緩衝層102−1の成膜温度より高温で結晶成長した単結晶を主体としてなる緩衝層構成層を云う。高温緩衝層を複数の高温緩衝層を重層させて構成することもできる。この様な重層構造から高温緩衝層が構成されている場合、電極はキャリア濃度や移動度が大きく最も比抵抗(抵抗率)の小さい導電性に優れる高温緩衝層の表面に接触させて敷設するのが好適である。リン化硼素(BP)の場合、結晶成長温度を約750℃から約1200℃の範囲とすると単結晶を主体とする良質の高温緩衝層102−2が得られる。
【0034】
低温及び高温の緩衝層からなる重層構造の緩衝層102にあって、低温緩衝層102−1を下地として成膜される高温緩衝層102−2は、下部クラッド層103と伝導型を同一とするのが最適である。例えば、p形窒化リン化ガリウム(GaN1-YPY:0≦Y≦1)からなる下部クラッド層103の直下にp形窒化リン化インジウム(BαIn1- αP:0<α≦1)からなる高温緩衝層102−2を配置する。低温緩衝層102−1の伝導型も高温緩衝層102−2のそれと同一としてもよいが、本発明では、高抵抗結晶を基板101としている関係上、低温緩衝層102−1を敢えて導電層から構成する必要はない。
【0035】
低温及び高温緩衝層の二重構造からなる緩衝層にあって、高温緩衝層上に電極を配置するには、例えば、次の手段がある。
(1)基板表面上に低温緩衝層および高温緩衝層を形成し、高温緩衝層上にダブルヘテロ(DH)構造の発光部を積層させた後、電極を形成する領域に在る高温緩衝層上の発光部を選択的に除去して、露呈させた高温緩衝層の表面に電極を形成する方法。
(2)高温緩衝層の形成を終了した後、電極を形成する高温緩衝層の領域を二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)等の耐熱性膜で一旦被覆し、その後高温緩衝層上の非被覆領域に選択成長手法により発光部等を積層する。そして選択成長後、耐熱性膜を除去した上で同領域に電極を形成する方法。
発光素子用途の積層構造体の形成を終了した後に電極の形成領域に在る発光部等の積層構造を選択的に除去するには、公知のフォトリソグラフィー技術を利用した選択エッチング手法が利用できる。また、特定の領域に耐熱性被膜を残存させるにも上記の写真食刻技術及びエッチング技術が利用できる。第2の電極109は発光部106の上部クラッド層105上またはコンタクト層107等上に設ける。
【0036】
本発明の第6の実施形態では、特に、Si単結晶を基板として利用する。例えば、アンドープ(undope)の抵抗率を1000Ω・cm程度とする高抵抗のSi単結晶を基板として用いる。砒化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)単結晶では、III族窒化物半導体層を成膜する約1000℃〜1200℃の高温環境下で構成成分の砒素(As)やリン(P)が顕著に揮散してしまう不都合が生ずる。Si単結晶(融点=1420℃)では、上記のIII−V族化合物半導体単結晶に比較して化学量論的な組成の変化が顕著に起こらず、耐熱性のある基板材料として用いることができる。また、Si単結晶を基板とすれば、III族窒化物半導体発光素子に併せて、その動作を制御するためのMOS型Siトランジスタ等の電子デバイスを集積した複合素子を簡便に構成される利点がある。
【0037】
また、窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物半導体からなる従来の緩衝層とは異なり、リン化硼素(BP)からは堅牢で頑強な緩衝層102を構成できる。BP結晶層からは、マグネシウム(Mg)や珪素(Si)を約1×1020cm-3を越える原子濃度に添加しても連続で平坦な緩衝層を構成できる。連続膜であれば、亀裂等の通流抵抗の増加を招くことが無い。このため、連続性に優れるBPからなる緩衝層は、良好なオーミック特性の第1の電極108を形成するに好都合となる。また、BP緩衝層の表面平坦性に依り、クラッド層との接合界面の平坦性が維持されるため、例えば、LEDにあって、順方向電圧(Vf)の低減に効果が上げられる。また、LDにあっては、閾値電圧(Vth)の安定化が果たせる。
【0038】
また、単量体のBPは閃亜鉛鉱(zinc−blend)型の立方晶(cubic)結晶であるため、上層として例えば、立方晶のIII族窒化物半導体からなる下部クラッド層をもたらすに貢献する。立方晶のIII族窒化物半導体は価電子帯の縮帯したバンド構造を有する(生駒英明、生駒 俊明共著、「化合物半導体の基礎物性入門」(1991年9月10日)、(株)培風館発行初版、17頁参照)。また、リン化硼素(BP)では、正孔(hole)の有効質量が小さい。このため、BP緩衝層はp形の伝導を呈する立方晶のIII族窒化物半導体層を形成するに好適に用いることができる。特に、BP単結晶層は格子定数を約4.538Åとする閃亜鉛鉱型構造の結晶であり、立方晶のGaN(格子定数≒4.510Å)との格子ミスマッチも矮小である。従って、BP結晶を緩衝層とすれば、その上に下部クラッド層に好適に利用できる立方晶の結晶性に優れる窒化ガリウム(GaN)を形成できる優位性がある。
【0039】
BP緩衝層は低温BP緩衝層とその上層の高温BP緩衝層とから構成するのが特に好ましい。非晶質を主体として構成する低温BP結晶層は、基板材料と上層との格子ミスマッチを緩和するに効果を奏する。また、結晶基板と高温BP緩衝層との熱膨張率の差異を主因とする高温BP緩衝層の基板からの剥離を抑制する作用を発揮する。低温緩衝層を主体的に構成する非晶質体は、より高温の環境下で高温緩衝層を積層する過程で単結晶基板と高温緩衝層との格子ミスマッチを緩和しつつ、単結晶化する。単結晶化は、基板と低温緩衝層との接合界面領域に存在するBP単結晶体を種(seed)結晶として進行する。即ち、基板との接合領域に存在するBP単結晶体は、低温緩衝層を構成する非晶質体の単結晶化を促す「核」として作用する。
【0040】
単結晶を主体として構成する高温BP緩衝層は、約1100℃を越える高温で成長させると、化学式B13P2で表記されるようなリン化硼素の多量体が形成される傾向が強まる(J.Am.Chem.Soc.,44(1)(1964)、44〜46頁参照)。例えば、B13P2多量体は格子定数を約5.23Åとする菱面体構造(rhombohedral)の結晶である(上記のJ.Am.Chem.Soc.,44(1964)、46頁参照)。BP多量体は閃亜鉛鉱型の結晶構造とは相違する菱面体構造であるため、上層として立方晶のIII族窒化物半導体層を形成するに不都合となる。また、800℃未満の成長温度では、多結晶層または非晶質を主体としたBP結晶層が形成されるため高温BP緩衝層の成長には不都合となる。
【0041】
通常のX線回折法或いは電子線回折法等の分析手段を利用すれば、BP層を主体的に構成する結晶形態が判別できる。また、透過電子顕微鏡(TEM)を利用した断面TEM技法に依れば、BP層の層厚の増加方向での結晶学的な構成要素の変化を知ることができる。特に精緻な断面TEM観察に依れば、上記の様な低温で形成したアズグローン(as−grown)状態のBP層であっても、例えば、{111}面を有するSi単結晶基板との接合界面近傍の数ナノメータ(nm)から数十nmの領域に於いて、Si単結晶の{111}面の間隔をあたかも受け継いだ如くの格子面間隔を有するBP単結晶層の存在を知ることができる。非晶質を主体としてなるBP低温緩衝層とは、実際には{111}面を有するSi単結晶基板との境界領域では単結晶層を主体とし、その上方の領域では非晶質を主体としてなる層を云う。
【0042】
本発明の第7の実施形態では、第2の電極109を、窒素(N)に加え、砒素(As)、リン(P)またはアンチモン(Sb)等の第V族元素を構成元素として含む一般式AlαGaβIn1- α ー βN1-YMY(0≦α≦1、0≦β≦1、0≦α+β≦1、Mは窒素以外の第V族元素、0<Y<1)で表記されるIII族窒化物半導体混晶(以下、単にV族混晶層と称す。)上に配置する。V族混晶層に含有される窒素以外の第V族元素は複数種であっても差し支えはないが、例えば、窒素以外にリン(P)のみを第V族構成元素として含むV族混晶層に比較すれば成膜により困難さを伴うものとなる。この様なV族混晶層は、上部クラッド層105またはコンタクト層107を構成するに利用できる。第2の電極109とは、緩衝層102上に設けるオーミック性の第1の電極108とは反対の極性の電極である。例えば、緩衝層102上に設ける第1の電極108が正極性用のオーミック電極であれば、第2の電極109は負極用のオーミック電極となる。
【0043】
第2の電極109を設けるに好適なV族混晶層には、n形またはp形の窒化リン化ガリウム混晶(GaN1-YPY:0<Y<1)や窒化リン化アルミニウム混晶(AlN1-YPY:0<Y<1)が例示できる。また、砒化窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム混晶(AlαGaβIn1- α - βNYAs1-Y:0≦α≦1、0≦β≦1、0≦α+β≦1、0<Y<1)が例示できる。V族混晶層では、第V族元素の組成比に依り低い禁止帯幅を採り得る。例えば、ウルツ鉱結晶型(wurtzite)GaNの室温禁止帯幅が約3.4eVであるのに対し、例えば、GaN0.97P0.03混晶のそれは約3.1eVである。禁止帯幅を小とする半導体材料である程、低接触抵抗を有する電極を形成するに優位であることから、本発明の云うV族混晶層では、従来のGaN層等に比較して、良好なオーミック特性を有する第2の電極109が構成できる。
【0044】
上記の窒化リン化ガリウム混晶(GaN1-YPY:0<Y<1)を例にして説明すれば、禁止帯幅はリン組成比(=Y)の増減に依って顕著な変化を来す(Appl.Phys.Lett.,60(20)(1992),2542頁のFIG.3参照)。V族混晶層を第2の電極を設ける層(コンタクト層)とする場合、コンタクト層を発光部より出射される発光の波長に対応するエネルギーよりも小さな禁止帯幅を与える窒素組成比とすると、発光が吸収される度合が増加し、高発光強度のLEDを得るには不利となる。第2の電極を設ける層は、発光を外部に透過する充分な禁止帯幅を与える様に第V族構成元素の組成比を設定する必要がある。例えば、第2の電極を設ける層を発光部をなす上部クラッド層に接合させて設ける場合、V族混晶層の禁止帯幅は上部クラッド層のそれ以下であっても構わないが、発光層の禁止帯幅よりも0.1eV以上大であるのが望ましい。更には、約0.2eV以上大であるのが好ましい。
【0045】
V族混晶層の層厚は、発光層の禁止帯幅との差異が小である程、薄層とする。例えば、発光層との禁止帯幅の差異が約0.1eVである場合、好適なV族混晶層の層厚として約100nmが例示できる。その差異が約0.2eVであると、層厚を約200nm以上としても発光を充分に外部へ透過できる。V族混晶層の層厚を極端に大とすると、V族混晶層とその下地層である例えば、上部クラッド層との熱膨張率等の差異に因りV族混晶層及び下地層の結晶性が悪化し、電流の流通が妨げられることとなるので好ましくはない。V族混晶層と下地層との間に格子のミスマッチが存在する場合、V族混晶層の層厚は、V族混晶層とその上に設ける第2の電極109との界面で形成される合金化領域の深さの約2倍程度に留めておくのが得策である。
【0046】
V族混晶層のキャリア濃度が比較的低いと、V族混晶層の抵抗自体も高いものとなり、第2の電極109の入力抵抗は高いものとなってしまう。また、高いキャリア濃度を得んがために導電性不純物を過度にドーピングしたV族混晶層では、V族混晶層の結晶性は却って劣化したものとなる。従って、第2の電極109を設置するためのV族混晶層はキャリア濃度が約5×1017cm-3以上で約5×1019cm-3以下となる様に適度に不純物が添加された層であるのが望ましい。更には、約1×1018cm-3以上で約1×1019cm-3以下とするのがより望ましい。この様な好適なキャリア濃度を得るための不純物としては、n形不純物としては珪素(Si)、p形不純物としてはマグネシウム(Mg)等の拡散係数を小とするドーパントが適する。
【0047】
【実施例】
(実施例1)
サファイア基板上に設けた砒化リン化硼素(BAs1-YPY:0<Y≦1)及びリン化硼素(BP)からなる緩衝層上に第1の電極を具備したIII族窒化物半導体LEDを例にして本発明を具体的に説明する。本実施例に係わるLED20の断面構造を図2に模式的に示す。
【0048】
(0001)c面を有するサファイア基板201上には、リン組成比を0.80とする単量体の砒化リン化硼素(BAs0.20P0.80)からなる低温緩衝層202−1を堆積した。低温緩衝層202−1はトリエチル硼素((C2H5)3B)/アルシン(AsH3)/ホスフィン(PH3)/水素(H2)系常圧MOCVD法により、350℃で成長させた。低温緩衝層202−1の層厚は約14nmとした。低温緩衝層202−1の表面には、上記のMOCVD気相成長手段を利用して、1050℃でマグネシウム(Mg)をドーピングしたp形のリン化硼素(BP)層を高温緩衝層202−2として積層した。マグネシウムのドーピング源にはビスシクロペンタマグネシウム(bis−(C5H4)2Mg)を用いた。高温緩衝層202−2のキャリア濃度は約7×1018cm-3とした。層厚は500nmとした。緩衝層202は、上記の低温緩衝層202−1及び高温緩衝層202−2との重層構造から構成した。
【0049】
断面TEM観察に依れば、低温緩衝層202−1は低温成長時のas−grown状態では、サファイア基板201との接合界面近傍の領域は単結晶層となり、その上層部は非晶質体を主体として構成されるものとなっていた。この非晶質体は上部に1050℃で高温緩衝層202−2を積層させた際に単結晶化し、単結晶を主体とする多結晶層に変貌した。多結晶層の他の構成要素は非晶質体であった。
【0050】
緩衝層202の表面上には、トリメチルガリウム((CH3)3Ga)/PH3/アンモニア(NH3)/H2系常圧MOCVD法により1050℃で下部クラッド層203を積層した。下部クラッド層203はマグネシウム(Mg)をドーピングしたp形窒化リン化ガリウム(GaN1-XPX)層から構成した。立方晶のGaN1-XPX混晶のリン(P)の組成比(=X)は、高温緩衝層202−2を構成するBP単結晶と格子整合させるために、BP単結晶と同一の格子定数(=4.538Å)となるよう0.03とした。また、GaN0.97P0.03混晶の室温での禁止帯幅は約3.1eVであり、BPのそれは2.0eVであることから、本実施例の高温緩衝層202−2は、下部クラッド層203より禁止帯幅が約1.1eV小さいIII−V族化合物半導体から構成されるものとなった。下部クラッド層203のキャリア濃度は約8×1017cm-3とし、層厚は500nmとした。下部クラッド層203を構成するGaN0.97P0.03層は、下地層の高温緩衝層202−2を構成する(001)面を有するBP単結晶の表面配列を受け継ぎ、立方晶の(001)面を有する単結晶層から構成されるものとなった。
【0051】
下部クラッド層203上には、平均的なインジウム組成比を0.10とするn形窒化ガリウム・インジウム(Ga0.90In0.10N)からなる発光層204を積層させた。発光層204をなすSiドープGa0.90In0.10N層は、(CH3)3Ga/トリメチルインジウム((CH3)3In)/NH3/H2系常圧MOCVD法により、890℃で成長させた。インジウム組成比を相違する複数の相(phase)からなるこの多相構造の発光層204は、同層の大部分を空間的に占有する主体相(matrix−phase)をn形GaNとするものであった。また、主体相内に従属的に散在する従属相(sub−phase)は概ね、インジウム組成比(=1−X)を0.12から0.15とするGaXIn1-XN(0≦X≦1)相であった。発光層204の層厚は約30nmとした。そのキャリア濃度は約3×1018cm-3に設定した。
【0052】
多相構造発光層204上には、Siをドーピングしたn形窒化リン化ガリウム混晶(GaN1-YPY)層を上部クラッド層205として積層した。リン組成比(=Y)は0.03とした。上部クラッド層205の層厚は200nmとした。その表面でのキャリア濃度は約1×1018cm-3とした。上記のp形GaN0.97P0.03下部クラッド層203、n形Ga0.90In0.10N発光層204、及びn形GaN0.97P0.03層からなる上部クラッド層205からpn接合型ダブルヘテロ接合構造の発光部206を構成した。III族窒化物半導体層203〜205は、閃亜鉛鉱結晶構造型のBP高温緩衝層202−2上に順次、積層させたため、立方晶の単結晶層から構成されるものとなった。
【0053】
次に、公知のフォトリソグラフィー技法を利用して、帯状のp形オーミック電極からなる第1の電極208を設置する予定の領域に在る発光部206を除去すべく、選択パターニングを施した。然る後に、アルゴン(Ar)/メタン(CH4)/水素(H2)混合気体を利用するプラズマエッチング手法で該当部位の発光部206を除去した。エッチング除去した平面領域は横幅を約150μmとし、縦を約350μmとする長方形状とした。このエッチングにより、上記の長方形状の領域の表面にBP高温緩衝層202−2の表面を露出させた。その後、再び、選択パターニング技法を利用して第1の電極208の形状にフォトレジスト材料にパターニング加工を施した。パターニングしたレジスト材料を残置させたままで、金・亜鉛合金(Au95重量%・Zn5重量%合金)を真空蒸着した。次ぎに一般的なリフトオフ(lift−off)手段を利用して、露呈させたBP高温緩衝層202−2の表面に限り、第1の電極208を形成した。第1の電極208の平面形状は横幅約100μmとし、縦方向の長さを約300μmとする長方形状とした。
【0054】
一方、n形GaN0.97P0.03上部クラッド層205の表面上には、選択パターニング技法を利用して帯状のn形オーミック電極からなる第2の電極209を形成した。第2の電極209の平面形状は、横幅を約100μmとし、縦を300μmとする長方形状とした。第2の電極209は金・ゲルマニウム合金(Au95重量%+Ge5重量%)から構成した。その後、基板を裁断して横450μm、縦350μmの長方形のLEDの個別素子(チップ)を製造した。
【0055】
製造したLEDの第1及び第2の電極間208、209に20mAの順方向電流を通流したところ、中心波長を約410nmとする青紫色の発光がもたらされた。発光スペクトルの半値幅は約23nmであった。順方向電圧(Vf、但し順方向電流=20mA)は約3.2Vとなった。また、チップ状態での発光強度は約12μWであり、高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供された。
【0056】
(実施例2)
本発明の別の実施例を高抵抗のSi単結晶を基板として利用するIII族窒化物半導体LED20の例にして説明する。本実施例に係わるLED20の平面構造を図3に模式的に示す。また、図3に示す破線A−A’に沿った断面構造を図4に模式的に示す。図3及び図4に於いて、実施例1に記述した構成要素と同じ構成要素については、同一の符号を付ける。
【0057】
基板201には面方位を(111)とするアンドープn形Si単結晶を使用した。Si単結晶基板201上には、ジボラン(B2H6)/PH3/H2系減圧MOCVD法により、350℃でBP低温緩衝層202−1を積層させた。V/III比(=PH3/B2H6供給比率)は約180に設定した。成長時の反応系の圧力は約3×104パスカル(Pa)に設定した。BP低温緩衝層202−1の成長時には、ジシラン(Si2H6)−H2混合ガスを使用して珪素(Si)をドーピングした。層厚は約15nmとした。
【0058】
BP低温緩衝層202−1の内部構成を断面TEM法で観察した。BP低温緩衝層202−1の成膜時(as−grown状態)では、Si単結晶基板201との接合面から大凡、2nmに至る上方の領域は、単結晶を主体として構成されていた。BP低温緩衝層202−1とn形Si単結晶基板201との間には、剥離は認められず良好な密着性が保持されていた。BP低温緩衝層202−1の上部は非晶質体を主体として構成されていた。
【0059】
BP低温緩衝層202−1上には、上記の減圧MOCVD反応系を利用して、1050℃で珪素(Si)ドープn形BP高温結晶層202−2を形成した。成長時の反応系の圧力は約3×104Paに設定した。X線回折分析法による解析によれば、BP高温結晶層202−2は立方晶を主体とするBP結晶層であると認められた。BP高温結晶層202−2の層厚は約440nmとした。また、キャリア濃度は約1×1018cm-3に設定した。BP低温緩衝層202−1と高温結晶層202−2とから緩衝層202を構成した。
【0060】
BP高温結晶層202−2の成膜を終了した後では、BP低温緩衝層202−1内部の非晶質体の大部分は、Si単結晶基板201との境界領域に存在する単結晶層を基として単結晶化しているのが認められた。また、BP高温結晶層202−2はBP低温緩衝層202−1をSi単結晶基板201表面上に設けたため、剥離することのない連続膜となった。
【0061】
緩衝層202上には、(CH3)3Ga/PH3/NH3/H2系減圧MOCVD法により1050℃で下部クラッド層203を積層した。下部クラッド層203は、BP高温緩衝層202−2とは格子定数を相違する、Siをドーピングしたn形の立方晶GaN0.99P0.01層から構成した。下部クラッド層203の層厚は約2μmとし、キャリア濃度は約2×1018cm-3とした。キャリア濃度はMOCVD反応系へのSiの添加量を制御して調整した。立方晶GaN0.99P0.01層クラッド層203とBP高温緩衝層202−2との室温での禁止帯幅の差は約1.1eVとなった。
【0062】
下部クラッド層203上には、(CH3)3Ga/(CH3)3In/NH3/H2系減圧MOCVD法により850℃で発光層204を積層した。発光層204は下部クラッド層203とは格子定数を相違する、Siをドーピングした立方晶のn形Ga0.80In0.20N層から構成した。層厚は約8nmとし、キャリア濃度は約2×1018cm-3とした。発光層204のキャリア濃度はMOCVD反応系へのSiの添加量を制御して調整した。
【0063】
発光層204上には、(CH3)3Ga/NH3/H2系減圧MOCVD法により980℃で上部クラッド層205とするGaN層を積層した。上部クラッド層205はMgとZnとを共にドーピングした立方晶のp形GaN層から構成した。上部クラッド層205の層厚は約50nmとし、キャリア濃度は約8×1017cm-3とした。キャリア濃度はMOCVD反応系へのMgドーピング源及びZnドーピング源の添加量を制御して調整した。Mgのドーピング源には、ビス−メチルシクロペンタジエニルMg(bis−(CH3・C5H3)2Mg)を使用した。Znはジメチル亜鉛(体積濃度≒100vol.ppm)−水素混合ガスを使用してドーピングした。
【0064】
pn接合型ダブルヘテロ接合構造の発光部206は、上記のn形GaN0.99P0.01下部クラッド層203、n形Ga0.80In0.20N発光層204、及びp形GaN層からなる上部クラッド層205から構成した。
【0065】
発光部206の表層をなす上部クラッド層205を構成するGaN層表面上には、立方晶のGaNに格子整合するMgドープp形BP0.97N0.03からなる単結晶層をコンタクト層207として積層した。コンタクト層207のキャリア濃度は約5×1018cm-3とし、層厚は約15nmとした。コンタクト層207のBP0.97N0.03結晶は、下地層とした立方晶のGaN層205の表面原子配列の影響を受けて、閃亜鉛鉱型の(111)面を有する単結晶から構成されるものとなった。また、コンタクト層207を下地層のGaN層205と格子整合をなすBP0.97N0.03単結晶層から構成したため、コンタクト層205はミスフィット転位等の結晶欠陥密度の少ない良質の結晶層となった。
【0066】
次に、実施例1に記載したと同様の形状の第1及び第2の電極208、209を公知の選択パターニング手法等を利用して設けた。金(Au)からなる第2の電極209はp形コンタクト層207上に設けた。また、Au・Ge合金からなる第1の電極208は選択エッチング技法を利用して露呈させたBP高温緩衝層202−2上に設けた。実施例1と同一の形状の第1及び第2の電極208、209を形成した後、実施例1に記載の形状と大きさのチップ(chip)に分割して、LEDの電気的及び光学的特性を評価した。
【0067】
第1及び第2の両オーミック電極間208、209に20mAの順方向電流を通流したところ、中心波長を約505nmとする青緑色の発光がもたらされた。発光スペクトルの半値幅は約31nmであった。順方向電圧(Vf、但し順方向電流=20mA)は約3.1Vとなった。また、チップ状態での発光強度は約14μWであり、高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供された。
【0068】
(比較例)
実施例2に記載のLEDに於いて、第1の電極208を形成するための領域に施す選択エッチングを下部クラッド層203の表面で停止した。その後、露呈させた下部クラッド層203の表面に、実施例2と同一の材料と形状からなる第1の電極208を形成してLEDを構成した。その他のLEDの構成は実施例2と同様として、本比較例に係わるLEDを作製した。
【0069】
本比較例で作製したLEDに順方向に20mAの直流電流を通流して電気的及び光学的特性を実施例2のLED30と比較した。その結果、発光中心波長及び発光スペクトル半値幅には然したる差異は認められなかったものの、順方向電圧(Vf、但し順方向電流=20mA)は約3.8eVと高値となった。また、逆方向電圧(Vr、但し逆方向電流=10μA)も実施例2のLED30では15V以上であるのに対し、約5Vと低値となった。これは、禁止帯幅が大きく、且つ格子不整合の関係にある緩衝層を下地層として成長したために下部クラッド層の結晶性が充分に良質でないことに起因している。即ち、下部クラッド層は格子ミスマッチに因るミスフィット転位等の結晶欠陥を多く内在する層となっているため、下部クラッド層203上に設けた第1の電極は、結晶欠陥による電流の捕獲により良好なオーミック特性を呈しないためである。このため、順方向電圧の低下や逆方向電圧の向上が充分に達成できず、電気的特性に劣るIII族窒化物半導体発光素子となった。
【0070】
【発明の効果】
本発明に依れば、結晶基板と、該基板上に設けられた緩衝層とを有し、該緩衝層上にIII族窒化物半導体からなるダブルヘテロ接合型の発光部とが少なくとも設けられ、該基板の同一表面側に第1及び第2の電極からなる入出力電極とが備えられているIII族窒化物半導体発光素子に於いて、第1の電極を硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成される緩衝層上に設け、第2の電極をIII族窒化物半導体層上に設けることとしたので、電極の良好なオーミック特性に基づき、高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供できる。
【0071】
また本発明に依れば、緩衝層を発光部を構成するクラッド層よりも小さな禁止帯幅を有する硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成することとしたので、特に、オーミック性に優れる第1の電極が形成できるため、Vf及びVr等の電気的特性に優れる高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供できる。
【0072】
また本発明に依れば、緩衝層を発光部を構成する下部クラッド層と格子整合する、少なくとも硼素(B)とリン(P)または砒素(As)とを含むIII−V族化合物半導体から構成することとしたので、格子ミスフィットに起因して発生する結晶欠陥の密度が小さい良質のクラッド層を構成できるため、緩衝層とクラッド層との間での素子駆動電流の流通を正常なものとすることができ、電気的特性に優れる高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子を提供できる。
【0073】
また本発明に依れば、緩衝層を異なる温度で各々成膜したIII−V族化合物半導体層からなる複数の構成層を重層させて構成することとしたので、良好なオーミック電極を有する第1の電極を形成するに好都合な緩衝層がもたらされるため、良好なVf及びVrを有する高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子を提供できる。
【0074】
特に本発明に依れば、異なる温度で各々成膜したIII−V族化合物半導体からなる複数の構成層を重層させて緩衝層を構成し、且つ、最も比抵抗の小さい構成層に接して第1の電極を設けることとしたので、特に、VfやVrに優れる高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子を提供できる。
【0075】
また本発明に依れば、珪素(Si)単結晶基板上に形成したリン化硼素(BP)からなる緩衝層に接して第1の電極を設けることとしたので、大口径のSi単結晶基板上にIII族窒化物半導体層の結晶成長環境である高温にも耐熱性を発揮する緩衝層が構成できるため、結晶性に優れるIII族窒化物半導体層がもたらされ、高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供できる。
【0076】
また本発明明に依れば、第2の電極を、窒素(N)を唯一の第V族構成元素として含むIII族窒化物半導体層よりも禁止帯幅を小とする、窒素以外の第V族元素を構成元素とするV族混晶層上に配置することとしたので、良好なオーミック特性を発揮する第2の電極を得ることができ、しいては、Vf及びVr等の電気的特性に優れる高発光強度のIII族窒化物半導体発光素子が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるLEDの断面構造を模式的に示す図である。
【図2】実施例1に係わるLEDの断面構造を模式的に示す図である。
【図3】実施例2に係わるLEDの平面構造を模式的に示す図である。
【図4】実施例2に係わるLEDの断面構造を模式的に示す図である。
【図5】従来のIII族窒化物半導体LEDの断面構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
10、20、30 LED
101、201、301 基板
102、202、302 緩衝層
102−1、202−1 低温緩衝層
102−2、202−2 高温緩衝層
103、203、303 下部クラッド層
104、204、304 発光層
105、205、305 上部クラッド層
106、206、306 発光部
107、207、307 コンタクト層
108、208、308 第1の電極
109、209、309 第2の電極
310 GaN層
Claims (8)
- 絶縁性或いは高抵抗の基板と、該基板上に設けられたリン化硼素から構成される緩衝層と、該緩衝層上に設けられた発光層を上部及び下部クラッド(clad)層で挟んだダブルヘテロ接合型のIII族窒化物半導体からなる発光部を含むIII族窒化物半導体層を具備し、基板のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に第1の極性の電極(第1の電極)及び第2の極性の電極(第2の電極)が形成されているIII族窒化物半導体発光素子に於いて、リン化硼素から構成される緩衝層が約250℃〜約750℃で形成された低温緩衝層と、約750℃〜約1200℃で形成された高温緩衝層からなり、第1の電極が高温緩衝層に接して設けられ、第2の電極がIII族窒化物半導体層上に設けられていることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
- 基板が珪素(Si)単結晶からなることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
- 基板上に設けられた緩衝層と、該緩衝層上に設けられた発光層を上部及び下部クラッド(clad)層で挟んだダブルヘテロ接合型のIII族窒化物半導体からなる発光部を含むIII族窒化物半導体層を具備し、基板のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に第1の電極及び第2の電極が形成されているIII族窒化物半導体発光素子に於いて、基板がサファイアであり、緩衝層が砒化リン化硼素層及びリン化硼素層の重層構造であり、第1の電極がリン化硼素層に接して設けられ、第2の電極がIII族窒化物半導体層上に設けられていることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
- 前記緩衝層を、異なる温度でそれぞれ形成した重層構成とすることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
- 前記緩衝層が下部クラッド層よりも小さな禁止帯幅を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
- 前記下部クラッド層と緩衝層とが格子整合して接していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
- 前記第2の電極が接するIII族窒化物半導体層を、窒素(N)と窒素(N)以外の第V族元素を構成元素として含むIII族窒化物半導体から構成したことを特徴とする請求項1乃至6のいずか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
- 絶縁性或いは高抵抗の基板上にリン化硼素から構成される緩衝層と、該緩衝層上に設けられた発光層を上部及び下部クラッド(clad)層で挟んだダブルヘテロ接合型のIII族窒化物半導体からなる発光部を含むIII族窒化物半導体層を形成し、基板のIII族窒化物半導体層が設けられた同一表面側に第1の極性の電極(第1の電極)及び第2の極性の電極(第2の電極)を形成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に於いて、リン化硼素から構成される緩衝層を約250℃〜約750℃で成膜した低温緩衝層と、約750℃〜約1200℃で成膜した高温緩衝層から形成し、第1の電極を高温緩衝層に接して設け、第2の電極をIII族窒化物半導体層上に設けることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
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