JP3658616B2 - 動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンのクランクシャフトのごとき回転体の動不釣り合いの釣り合わせに関し、特にその釣り合わせが可能か否かを判別するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
回転体の動不釣り合いを釣り合わせるためには、その回転体の任意2面の修正面における動不釣り合いの位置と量を測定し、これを修正する。しかし一般的には、その回転体の形状や性状により、修正を加える修正面位置,その修正面内の角度位置あるいは範囲,および最大修正可能量に制約制限のあることが多い。例えば、エンジン用クランクシャフトはそのカウンタウェイト部に修正可能な修正面位置,角度範囲が存在し、最大修正可能量にも制限がある。
【0003】
図1に示すような6気筒エンジン用クランクシャフトのモデルで説明すると、図中の#1〜#5は修正面,修正角度位置は各々の修正面においてV1〜V12の12個であり、各々最大修正可能量は制限される。U1,U5は#1,#5の2面で測定した初期動不釣り合いベクトルであり、この釣り合わせは、V1〜V12の修正角度位置において各々適当量修正することにより行なわれる。また、すべての修正半径は同じとする。
【0004】
従来の方法による釣り合わせでは、2つの修正面において考えるので、#1〜#5の内の2面を選び、この選ばれた2修正面にU1,U5を変換し、変換された不釣り合いU1’,U5’に対して各々の修正面上にある修正角度位置にベクトル分解を行ない、このベクトル分解された量をもってその修正角度位置の修正量としている。もしこの修正量が負ならば修正は行なわず、最大修正可能量を超えている場合は、最大修正可能量をもって修正量とする。釣り合わせが不十分な場合、まだ使用していない修正面から2面を選び残留不釣り合いを測定し、今までの過程を繰り返す。さらに釣り合わせが不十分の場合、まだ使用していない修正面は1面のみであるため動不釣り合いの修正は不可能になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述のような従来の方法では、修正面の数が奇数の場合に、最後に1面のみ残り、動不釣り合いの修正ができなくなることが起きているが、一般に従来の技術では他の修正面のすべての修正分力の影響を考慮に入れていないため、動不釣り合いの釣り合わせの可否を的確に判別することができず、釣り合わせの不可能なクランクシャフト等の回転体の不良品についても、釣り合わせ作業を無駄に進めるという不具合を生じていた。
本発明は、このような問題点の解消をはかろうとするもので、回転体の動不釣り合いの釣り合わせについて、その可否を適切に判別できるようにした方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前述の目的を達成するため、本発明の動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法は、回転体の動不釣り合いの釣り合わせについて2面以上の修正面を設定し、全修正面において少なくとも5個の修正場所で修正を行なう場合の動不釣り合いの釣り合わせに際し、上記回転体の動不釣り合い測定により同回転体の動不釣り合いを求めてから、その動不釣り合いを相殺するための上記修正場所における修正量を未知数とする相互に連立した4つの基本方程式を求め、ついで上記修正場所における最大修正可能量に基づき上記基本方程式を拡張してから、同方程式の解が存在しない場合にのみ、上記動不釣り合いの修正が不可能であると判別することを特徴としている。
【0007】
また本発明の動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法は、上記回転体が6気筒エンジン用クランクシャフトであり、同クランクシャフトの回転軸線上の原点から軸方向(Z軸の方向)の距離をそれぞれL1,L2,……L5とする5個の修正面を設定するとともに、上記Z軸に直交するX,Y座標系を設定して、上記動不釣り合い測定により求められた初期不釣り合いU1,U5の絶対値をu1,u5、X軸となす角をθu1,θu5とし、修正角度位置V1,V2……V12における各修正分力をD1,D2,……D12として、これらの修正分力の各量をd1,d2,……d12、X軸となす角をθ1,θ2,……θ12とするとき、上記基本方程式を、静不釣り合いがゼロの条件について[数1],[数2]式で表し、モーメント不釣り合いがゼロの条件について[数3],[数4]式で表すとともに切削修正のみが行なわれるものとして上記D1,D2,……D12の最大修正可能量をdm1,dm2,……dm12とするとき、各修正分力量は非負であり、最大修正可能量以下であることに基づき、[数5]式の条件を付加して、U1,U5が与えられたときに上記の各式を同時に満足する解d1,d2,……d12が無い場合にのみ、上記不釣り合いの修正が不可能であると判別することを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用い、本発明の一実施形態について説明すると、図1は本発明を6気筒エンジン用クランクシャフトに実施する場合の模式的説明図である。
【0009】
図1において#1〜#5はそれぞれ修正面を示しており、このような修正面は2面以上(本実施形態では5面)設定されている。そして修正角度位置は各々の修正面においてV1〜V12の12個であり、各々最大修正可能量は制限される。U1,U5は#1,#5の2面で測定した初期動不釣り合いベクトルであり、この釣り合わせはV1〜V12の修正角度位置において各々適当量修正することにより行なわれる。また、すべての修正半径は同じとする。
【0010】
上記クランクシャフトの回転軸線上の原点から各修正面#1〜#5の軸方向(Z軸の方向)の距離をそれぞれL1,L2……L5とするとともに、上記Z軸に直交するX,Y座標系を設定して、動不釣り合い測定により求められた初期不釣り合いU1,U5の絶対値をu1,u5、X軸となす角をθu1,θu5とし、修正角度位置V1,V2……V12における各修正分力をD1,D2……D12とし、これらの各修正分力の量をd1,d2,……d12、X軸となす角をθ1,θ2,……θ12とすると、上記動不釣り合いU1,U5を相殺するための上記修正角度位置における各修正分力の量d1,d2,……d12を未知数とする相互に連立した4つの基本方程式は、静不釣り合いがゼロの条件について[数6],[数7]式で表し、モーメント不釣り合いがゼロの条件について[数8],[数9]式で表される。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
である。
【0011】
動不釣り合い釣り合わせのために切削修正のみが行なわれるものとして、上記D1,D2,……D12の最大修正可能量をdm1,dm2,……dm12とするとき、各修正分力量は非負であり、最大修正可能量以下であることに基づき、[数10]式で表す条件を付加される。
【数10】
0≦di≦dmi i=1,2……12
U1,U5が与えられたときに[数6]〜[数9]式,[数10]式を同時に満足する解d1,……d12の組みは次の3つの場合に分かれる。
(1) 解がない{不能}……………釣り合わせ不可能
(2) 単一解がある…………………釣り合わせ可能の限界
(3) 解が無限数ある{不定}……釣り合わせ方法も無限にある。
【0012】
ところで、上記3つの場合の解があるかないかを判断し、解がある場合に最も合理的な釣り合わせを行なうには、Σdi(これは、本実施形態においては、釣り合わせるためカウンタウェイトから削られる切り粉の総量を意味する)を最小にすればよい。また、修正分力の使用に対して優先順位をつけたい場合には、diに対して重み係数Ci(正数とする)を導入して、ΣCi・diを最小にすればよい。優先順位の低い(なるべく使用したくない)修正分力には、大きな重み係数を与えることにより、やむを得ない場合のみ修正するような条件が設定できる。また、各修正分力の修正半径が同一でない時は、各々の修正半径に反比例した係数を重み係数に乗ずることにより設定できる。
そこで、評価関数として[数11]式を導入する。
【数11】
この式の意味は、上述の通り、Zの値が小さいことがよりよい解として扱うこととする。
【0013】
以下、まず上記基本方程式の拡張について、順をおって説明する。
[数10]式を、[数12]式に書き改める。
【数12】
di+di+12=dmi 0≦di i=1……12
[数6]〜[数9]の各式のdiの係数は定数なので、その係数をAi,j(i=1……4,j=1……12)とし、同じく[数6]〜[数9]の各式の右辺は、初期動不釣り合いU1,U5の測定値であり、この方程式を解く段階では定数と見なせるのでBi(i=1……4)として[数6]〜[数9]式と[数10]式を書き改めると[数13],[数14]式になる。
【数13】
A1,1・d1+…………+A1,12・d12=B1
A2,1・d1+…………+A2,12・d12=B2
A3,1・d1+…………+A3,12・d12=B3
A4,1・d1+…………+A4,12・d12=B4
【数14】
d1+d13=dm1
d2+d14=dm2
:
:
d12+d24=dm12
【0014】
[数13],[数14]式を1組の連立方程式にまとめるために、Ai,jを(i=1……16,j=1……24)に拡張する。
また、B5=dm1,B6=dm2,……,B16=dm12とすると、問題の方程式は、[数15]式であり、[数15]式の条件下において[数11]式のZを最小にすることがよりよい解である。
【数15】
A1,1・d1+…………+A1,24・d24=B1
A2,1・d1+…………+A2,24・d24=B2
A3,1・d1+…………+A3,24・d24=B3
A4,1・d1+…………+A4,24・d24=B4
A5,1・d1+…………+A5,24・d24=B5
:
:
A15,1・d1+…………+A15,24・d24=B15
A16,1・d1+…………+A16,24・d24=B16
di≧0
【0015】
ここで[数15]式の上の4つの左辺に対して各々、E1,E2,E3,E4を加えて[数15]式を、[数16]式とする。
【数16】
A1,1・d1+…………+A1,24・d24+E1 =B1
A2,1・d1+…………+A2,24・d24 +E2 =B2
A3,1・d1+…………+A3,24・d24 +E3 =B3
A4,1・d1+…………+A4,24・d24 +E4=B4
A5,1・d1+…………+A5,24・d24 =B5
:
:
A15,1・d1+…………+A15,24・d24 =B15
A16,1・d1+…………+A16,24・d24 =B16
di≧0
もし[数16]式の右辺が負数の場合、その式の両辺に−1を乗じる。[数16]式の一般的な形としては不変であるのでここでは書き直さない。
【0016】
また、[数11]式を、[数17]式に変形する。
【数17】
C1・d1+…………+C12・d12−Z=0
さらにE1,E2,E3,E4の和Wを導入する。すなわち、E1+E2+E3+E4=W。また[数16]式の上4つの式を加えWを用いて新しい式を作ると、[数18]式が得られる。
【数18】
−(A1,1+A2,1+A3,1+A4,1)・d1−……−(A1,24+A2,24+A3,24+A4,24)・d24−W=−(B1+B2+B3+B4)
[数17],[数18]式のdiの係数、右辺は全て定数である。また、−Z,−Wを変数とみなして、[数16]式に取り込みAi,j,Biを拡張して次の[数19]式を得る。
【数19】
A1,1・d1+…………+A1,24・d24+E1 =B1
A2,1・d1+…………+A2,24・d24 +E2 =B2
A3,1・d1+…………+A3,24・d24 +E3 =B3
A4,1・d1+…………+A4,24・d24 +E4=B4
A5,1・d1+…………+A5,24・d24 =B5
:
:
A15,1・d1+…………+A15,24・d24 =B15
A16,1・d1+…………+A16,24・d24 =B16
A17,1・d1+…………+A17,24・d24−Z =B17
A18,1・d1+…………+A18,24・d24 −W =B18
di≧0
【0017】
問題を解くための準備段階として、[数6]〜[数9],[数10]式を[数19]式まで拡張した。さらにEi,−Z,−Wを変数として統一的に取り扱うため、d25=E1,d26=E2,d27=E3,d28=E4,d29=−Z,d30=−Wとし、これに対してAi,jを拡張する。(i=1……18,j=1……30)。すなわち、上述の基本方程式は次の[数20]式のように拡張されることになる。
【数20】
A1,1・d1+A1,2・d2+……………+A1,30・d30=B1
:
:
:
A18,1・d1+A18,2・d2+…………+A18,30・d30=B18
【0018】
さらに解の有無についての判別を段階を追って説明すると、
第1段階としては、
上記Wに関する式の係数A18,j(j=1……24)の最小値を探し、
Gs=Min(A18,j) を与えるjをsとする。
もし複数のA18,jが同じ最小値を与えるならば、無作為選択する。
ここで、Gs≧0 なら解d1,d2,……d12はない。
第2段階では、
s列のAi,s (i=1……16,Ai,s>0)のうち、
Br/Ar,s=Min・(Bi/Ai,s)を与えるiをrとする。
もし、複数のAi,sが同じ最小値を与えるならば、無作為選択する。
この時、上記の条件のiが無ければ解d1,d2,……d12はない。
第3段階では、
Ar,sを枢軸要素として、[数19]式の掃き出しを行なう。すなわち、
Ar,j=Ar,j/Ar,s Br=Br/Ar,s Pi,s=Ai,s/Ar,s
として、Ai,j=Ai,j−Ar,j・Pi,s(i=1……18,ただしi=rを除く)
Bi=Bi−Br・Pi,s (j=1……30)
とする。
そして第4段階では、B18を評価する。
もしB18=0 なら第5段階へ進む。第5段階以降では上記評価関数Zを最小にすべく解が求められる。
B18≠0 なら第3段階の計算結果を基にして、第1段階へ戻る。
【0019】
このようにして、拡張された方程式の解が存在しない場合にのみ、上記クランクシャフトの動不釣り合いの修正が不可能であると判別される。そして、上記解が存在し修正が可能であると判別された場合には、次の段階へ移行する。
すなわち、第5段階においては、
Zに関する式の係数A17,j(j=1……24)の最小値を探す。
Cs=Min(A17,j) を与えるjをsとする。
もし Cs≧0 ならこの段階でのd1……d12が求める解であり、ΣCi・diの最小値を与える。
さもなければ、より良い解があることを示しており第6段階へ進む。
第6段階では、s列のAi,s(i=1……16,Ai,s>0)のうち、
Br/Ar,s=Min・(Bi/Ai,s)を与えるiをrとする。
もし複数のAi,sが同じ最小値を与えるならば無作為選択する。
第7段階では、Ar,sを枢軸要素として[数19]式の掃き出しを行なう。すなわち、
Ar,j=Ar,j/Ar,s Br=Br/Ar,s Pi,s=Ai,s/Ar,s
として、Ai,j=Ai,j−Ar,j・Pi,s(i=1……17,ただしi=rを除く)
Bi=Bi−Br・Pi,s (i=1……29)
この計算結果を基にして、第5段階へ戻る。
【0020】
以上詳細に説明してきた方法を用いることにより、多修正面・多修正分力による動不釣り合いの可否の適切な判別が可能となり、不釣り合い釣り合わせの総修正量を最小とする釣り合わせを行なうことが可能である。これによって釣り合わせの不可能な回転体の不良品について、釣り合わせ作業を無駄に行なわずにすむようになるのである。
【0021】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法によれば、エンジンのクランクシャフトのごとき回転体の動不釣り合いの修正に先だって、その修正の可否が適切に判別されるようになり、これにより本来釣り合わせの不可能な回転体の不良品について釣り合わせ作業を行なうといった無駄な操作が省けるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】5個の修正面を有する6気筒エンジン用クランクシャフトの各修正面における修正場所を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
#1〜5 修正面
V1〜V12 修正角度位置
U1,U5 初期動不釣り合いベクトル
Claims (2)
- 回転体の動不釣り合いの釣り合わせについて2面以上の修正面を設定し、全修正面において少なくとも5個の修正場所で修正を行なう場合の動不釣り合いの釣り合わせに際し、上記回転体の動不釣り合い測定により同回転体の動不釣り合いを求めてから、その動不釣り合いを相殺するための上記修正場所における修正量を未知数とする相互に連立した4つの基本方程式を求め、ついで上記修正場所における最大修正可能量に基づき上記基本方程式を拡張してから、同方程式の解が存在しない場合にのみ、上記動不釣り合いの修正が不可能であると判別することを特徴とする、動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法。
- 請求項1に記載の動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法において、上記回転体が6気筒エンジン用クランクシャフトであり、同クランクシャフトの回転軸線上の原点から軸方向(Z軸の方向)の距離をそれぞれL1,L2,……L5とする5個の修正面を設定するとともに、上記Z軸に直交するX,Y座標系を設定して、上記動不釣り合い測定により求められた初期不釣り合いU1,U5の絶対値をu1,u5、X軸となす角をθu1,θu5とし、修正角度位置V1,V2……V12における各修正分力をD1,D2,……D12として、これらの修正分力の各量をd1,d2,……d12、X軸となす角をθ1,θ2,……θ12とするとき、上記基本方程式を、静不釣り合いがゼロの条件について[数1],[数2]式で表し、モーメント不釣り合いがゼロの条件について[数3],[数4]式で表すとともに、切削修正のみが行なわれるものとして上記D1,D2,……D12の最大修正可能量をdm1,dm2,……dm12とするとき、各修正分力量は非負であり、最大修正可能量以下であることに基づき、[数5]式の条件を付加して、U1,U5が与えられたときに上記の各式を同時に満足する解d1,d2,……d12が無い場合にのみ、上記不釣り合いの修正が不可能であると判別することを特徴とする、動不釣り合い釣り合わせの可否の判別方法。
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