JP3655835B2 - 冷却機能を有する作業用の衣服 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温環境(夏季等の暑さを感じる環境下等)での作業時に着用して好適な冷却機能を有する衣服に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、高温環境等での作業時に身体を冷却するための衣服がいくつか提案されている。例えば、ポンプを用いて衣服本体に内蔵させたチューブに冷水を循環させて身体を冷やすものや、コンプレッサを用いて空気を供給して身体を冷やすもの等がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これまでの冷却機能を有する衣服では、当該衣服で覆う部分のできるだけ全体を冷却するようにしていた。しかしながら、本発明者らがこれまでの当該衣服を着用し、また、鋭意研究した結果では、胸部(特に心臓付近や胸の中心部)を冷やし過ぎると、気分が悪くなる等の事態が生じることを確認した。また、腹部を冷却した場合には、腹痛を訴える状況になり、作業者の本来の目的である仕事(作業)の妨げになることもあった。更に、当該衣服では、単に覆う部分のできるだけ全体を冷却することしか考慮されていないため、逆に冷え過ぎて不快感を感じることもあった。
【0004】
また、上記のように冷水を循環させたり、空気を供給したりするのでは、ポンプやコンプレッサとそれらをつなぐ耐圧ホース、更にはそれらの電源と電源コード等が必要となり、大型化するとともに、価格も高くなってしまう。また、耐圧ホースや電源コード等は、作業時の邪魔になるだけでなく、作業範囲(行動範囲)が制限されて、作業者の本来の目的である仕事(作業)の妨げとなってしまう。
【0005】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、胸を冷却しないようにするとともに、身体の適宜な個所を適宜に冷やして、効果的な冷却機能を発揮できるようにすることを目的とする。また、ポンプやコンプレッサ、電源等を不要にして、簡素化、低価格化を図るとともに、作業者の行動を阻害しない(作業範囲が制限されない)ようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の冷却機能を有する作業用の衣服は、衣服本体に冷却手段を設けた冷却機能を有する衣服であって、上記衣服本体のうち着用者の胸に対応する部位以外の部位である背中を冷却するための冷却手段と、着用者の胸に対応する部位以外の部位である脇の下方を冷却するための冷却手段とを設け、上記衣服本体は、その下端が着用者の腰骨よりも上に位置する身丈としたものであって、着用者の前側を覆う前面布と、着用者の後側を覆う後面布とを備えており、上記前面布に脇の下方を覆うように突出させた左右の突出部を形成し、上記脇の下方を冷却するための冷却手段を上記前面布の突出部に、上記背中を冷却するための冷却手段を上記後面布にそれぞれ配置した点に特徴を有する。
【0010】
また、本発明の冷却機能を有する作業用の衣服の他の特徴とするところは、上記衣服本体に着脱可能に設けた立襟と、上記立襟に設けた着用者の首の後部を冷却するための冷却手段とを備えた点にある。
【0013】
また、本発明の冷却機能を有する衣服の他の特徴とするところは、上記袋体内には、上記蓄熱体の少なくともいずれか一方の面側にクッション層を設け、また、上記袋体内には、上記蓄熱体の少なくともいずれか一方の面側に断熱層を設け、上記蓄熱体を挟んで着用者の身体側における断熱性に比べて、外部側における断熱性を高くした点にある。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の冷却機能を有する衣服の実施の形態について説明する。
【0021】
図1には、本実施の形態の冷却機能を有する衣服の外観を示し、(A)には立襟2を、(B)には衣服本体1を示す。また、図2には、冷却機能を有する衣服を広げた状態を示す(なお、メッシュ模様は省略する)。また、図3には、冷却機能を有する衣服を作業者が着用した状態を示す。これらの図に示すように、本実施の形態の冷却機能を有する衣服は、ベスト型の衣服本体1と、立襟2とを備えている。
【0022】
図1〜3に示すように、衣服本体1は、着用者の前側(胸側)を覆うための左右の前面布101R、101Lと、着用者の後側(背中側)を覆うための後面布102とからなり、左右の前面布101R、101Lをファスナー3により開閉することにより着脱するようになっている。これら前面布101R、101L及び後面布102の素材としては、通気性を確保するためにナイロンメッシュ素材が採用され、その端部にはパイピング始末が施されている。
【0023】
後面布102は、着用者の肩から背中までを覆うように裁断されている。また、左右の前面布101R、101Lは、着用者の肩から胸の下方あたりまでを覆うとともに、脇の下方を覆うよう側方に突出させた突出部103が形成されるように裁断されている。そして、着用者の肩に対応する部位で、左右の前面布101R、101Lと後面布102とが縫い付けられている。
【0024】
ここで、通常であれば、着用者の脇の下方に対応する部位でも、左右の前面布101R、101Lと後面布102とを縫い付けるところであるが、本衣服ではその部分での縫い付けを行っていない。そして、この縫い付けを行っていない脇の下方に対応する部位において、左右の前面布101R、101Lと後面布102とをアジャスタベルト4を介して繋げている。
【0025】
アジャスタベルト4の一具体例について説明する。図3、4(A)に示すように、後面布102の下端側中央位置には、伸縮ベルト401の中央部分を縫い付けている(図4(A)に示す背部縫製A)。この場合に、必要に応じて補強布を用いて縫い付けるようにしてもよい。この伸縮ベルト401の両端には、その幅に合わせたリング402を取り付けている。
【0026】
各リング402には、伸縮性ベルト401と同程度の幅を有する合成繊維ベルト403を挿通させている。そして、これら合成繊維ベルト403の一端側をファスナー3に近い位置まで持ってくるとともに、そこで折り返して重ねるようにして前面布101R、101Lにそれぞれ縫い付けている(図4(A)に示す胴部縫製B)。更に、リング402と前面布101R、101Lに縫い付けている部分(胴部縫製B)との間の個所で、合成繊維ベルト403を前面布101R、101Lの突出部103に縫い付けている(図4(A)に示す脇部縫製C)。
【0027】
上記のようにして縫い付けを行った状態で、合成繊維ベルト403の他端側を調整リング404に係止するように縫製し、前面布101R、101Lに縫い付けている部分(胴部縫製B)を経由した一端側を、調整リング404内を通過させてファスナー3方向に引き出し、ループ部405を形成するようにしている。
【0028】
このようにしたアジャスタベルト4では、合成繊維ベルト403の一端側をファスナー3側に引く等して調整リング404をずらすことにより、合成繊維ベルト403を締め付けたり、緩めたりすることができ、衣服本体1を身体周りにフィットさせることができる。調整リングは、図4に示したものに限定するものではなく、例えば、調整リング404への合成繊維ベルト403の通し方を変更したり、D型のリングを2つ用いたりするものでもよい。要するに、作業者が作業用の手袋を着用する等していても、合成繊維ベルトの一端側を引く等して簡単に締め付けたり、簡単な操作で締め付けを緩めたりすることのできるものであれば、特に種類は問わない。
【0029】
また、一部に伸縮性を持たせたので(伸縮ベルト401)、作業者の身体の動きに合わせて伸縮して、締め付けがきつくなりすぎるのを防止することができる。この伸縮ベルト401は、帯状のゴムや編み方で伸縮性を持たせた合成繊維ベルト403又は合成繊維ベルト403にゴム紐を織り込んだものを用いることができるが、金属製のものは絶縁性が低いので用いない方がよい。なお、伸縮性が弱まった場合や何らかの原因で切れた場合に、不必要に伸びて衣服がずれるようなことを避けるために、伸び規制ベルト403a(合成繊維ベルト403と同じものが望ましい)を設けてもよい。伸び規制ベルト403aは、各リング間を所定の長さで連結するように縫製して設けてもよいし、中間を伸縮ベルト401の中央部分の縫い付け部と一緒に後面布102に縫い付けてもよい。また、図4(B)に示すように、各リング402を省き、合成繊維ベルト403の一部を弛ませて伸び規制ベルト部403aとし、伸縮ベルト401を合成繊維ベルト403に縫製し、更に中間を伸縮ベルト401の中央部分の縫い付け部と一緒に後面布102に縫い付けるようにしてもよい(図4(B)に示す背部縫製A)。
【0030】
特に、本実施の形態の場合、図3にも示すように、作業服の上から着用する衣服を想定しており、着用者の体格の差に加え、作業服の種類によっても、身体周りの長さが大きく異なることがある。この場合に、着用者の脇の下方を縫い付けずに開放させておき、アジャスタベルト4を介して前面布101R、101Lと後面布102とを繋げる構成とすることにより、大きく異なる身体周りの長さにも対応させて、衣服本体1を身体周りにフィットさせることが可能となる。
【0031】
なお、アジャスタベルト4は、図3、4で説明したものに限定するものではなく、他の構成のものを採用してもよい。例えば、図3、4に示したように身体周り全体を囲むようなアジャスタベルト4ではなく、単に前面布101R、101Lの突出部103及び後面布102の端部同士を繋ぐアジャスタベルトであってもよい。ただし、図3、4に示したように身体周り全体を囲むようにしておけば、衣服本体1全体で身体周りにフィットさせて、快適なフィット感を与えることができる。
【0032】
図1〜3に示すように、立襟2は、ファスナー5を介して、衣服本体1に対して着脱可能とされている。このように立襟2を着脱可能とすることにより、不要な場合は取り外すことができ、また、特に汚れやすい襟だけを洗濯することが可能となる。この立襟2の素材としては、肌触りや洗濯のしやすさを考慮してツイル素材(斜文織素材)が採用されている。
【0033】
立襟2は、上辺201の長さに対して、ファスナー5を設けた下辺202の長さが長く、展開したときに滑らかな台形形状となるように型取られて裁断されている。より具体的には、裁断したツイル素材を2枚重ね合わせて、更に端部パイピング始末を施しつつ縫製し、ファスナー5も同時に縫製で取り付けるとよい。このようにした立襟2をファスナー5を介して衣服本体1に取り付けると、図3に示すように、着用者の首の後部では十分な高さが確保され、直射日光等を十分に防ぐことができる一方で、首の側部では高さが低くなるので、首を動かすのに邪魔になることもない。
【0034】
しかも、上述した縫製でツイル素材の肌触りを生かしつつ適当な剛性を持つようにされており、かつ、立襟2の下辺202を長くすることにより、後面布102だけでなく左右の前面布101R、101L側に至るまでの長い取り付け長さを確保することができ、後述するように立襟2に冷却材11を装着した場合でも、立襟2をしっかりと立たせた状態に維持することができる。
【0035】
上記のようにした衣服においては、その身丈を短く、具体的には、図3に示すように、衣服本体1の下端が着用者の腰骨よりも上に位置するようにしている。これは、作業者の腰骨位置には、道具を収納する道具入れを吊り下げたり、命綱を引っ掛けたりするためのベルト、いわゆる安全帯6を巻き付けることが多く、この安全帯6に干渉しないようにするためである。
【0036】
また、衣服本体1(ナイロンメッシュ)や立襟2(ツイル)だけでなく、すべての素材を絶縁性素材としている。例えば、ファスナー3、5やアジャスタベルト4のリング402、404等には樹脂素材が採用されている。これは、配電作業等の電気関係の作業を行う場合の安全性を確保するためである。なお、衣服本体1の素材としては、絶縁性素材のゴム等を採用することも考えられるが、主に高温環境での作業時に着用することを考慮すれば、本実施の形態のようにナイロンメッシュ素材とするのが望ましい。
【0037】
以上述べた衣服において、図2に示すように、着用者の背中に対応する部位、すなわち後面布102の内側には、縦横に並べた4つの収納ポケット7が設けられている。また、着用者の脇の下方に対応する部位、すなわち左右の前面布101R、101Lの突出部103の内側には、それぞれ1つの収納ポケット8が設けられている。さらに、着用者の首の後部に対応する部位、すなわち立襟2の内側中央部分には、左右に並べた2つの収納ポケット9が設けられている。
【0038】
上記収納ポケット7〜9は、後述する冷却材11を取り出し可能に収納するためのものである。このように各収納ポケット7〜9に冷却材11を収納した状態で、この衣服を着用することにより、冷却材11の保冷機能により身体を冷やすことができ、高温環境下での作業者への負担を軽減させることができる。
【0039】
次に、冷却材11について説明する。図5に示すように、冷却材11は、全体として略プレート形状をしたものであり、図6に示すように、水系ゲル蓄熱体12を、EMMA等の絶縁耐磨耗素材からなる袋体13内に格納する構成となっている。そして、袋体13内において、クッション性、断熱性を有する伝熱調整材14により水系ゲル蓄熱体12の両面を覆うようにしている。更に、袋体13内において、断熱材15により伝熱調整材14の片面のみを覆うようにしている。
【0040】
水系ゲル蓄熱体12は、水、エチレングリコール、高吸水性樹脂、抗菌剤等を含む水系ゲル蓄熱材1201を保護フィルム1202で覆ったものである。水系ゲル蓄熱材1201は、通常は液体状であるが、凍結することにより固体状に物理相が変化して、保冷機能を発揮する。
【0041】
袋体13は、2枚のEMMAシートの全縁を溶着させて袋状にしたものである。このようにした袋体13は、水系ゲル蓄熱体12を保護するとともに、水系ゲル蓄熱体12が柔らかくなっている(水系ゲル蓄熱材1201が液体状となっている)ときにも、冷却材11全体が略プレート形状となるよう保持する。また、全縁に厚みを薄くした溶着部1301を有するので、柔らかい状態の冷却材11が起立するのを防ぐことができる。これにより、柔らかい状態の冷却材11を冷凍庫に投げ入れたような場合でも、常に寝かせた状態にして、起立した格好で凍結しその一部が尖った状態になることを防止することができる。
【0042】
伝熱調整材14は、クッション性、断熱性を有し、袋体13内において水系ゲル蓄熱体12の両面を覆っている。この伝熱調整材14は、冷却材11を装着した衣服を着用したときに、凍結させた水系ゲル蓄熱体12が身体に当たって痛くならないようにするクッション機能を発揮する。また、凍結させた水系ゲル蓄熱体12の温度は低く、身体に近いと冷たすぎることがあるため、冷却材11の表面(袋体13の表面)において適宜な温度となるように伝熱調整する断熱機能を発揮する。
【0043】
上記伝熱調整材14の具体例として、図7に示すように、シート1401上に空気を充填した複数の凸部1402を設けてなるいわゆるエアキャップがある。このエアキャップを伝熱調整材14として使用する場合、凸部1402を水系ゲル蓄熱体12側に向かせるようにする。このようにした凸部1402を水系ゲル蓄熱体12側に向かせることにより、水系ゲル蓄熱体12の周りには、凸部1402内に充填された空気によるエア部分Xと、凸部1402外に存在する空気によるエア部分Yといった2種類のエア部分が存在することになる。そして、凸部1402内のエア部分Xによりクッション性を得るとともに、断熱性を確保することができる。また、凸部1402外のエア部分Yでは、空気が対流することができる連続した空間となっているので、適度な伝熱性を確保することができる。したがって、伝熱調整材14として、どの程度のクッション性、断熱性(逆にいえば伝熱性)が必要かに応じて、凸部1402の数や大きさを決めるようにすればよい。
【0044】
また、上記のようにしたエアキャップを使用することにより、クッション性の向上を図ることもできる。図8に示すように、水系ゲル蓄熱体12の一部が尖った状態で凍結したような場合、その尖った部分が身体に当たりやすくなるが、この場合にはエアキャップが水系ゲル蓄熱体12の変形に合わせて曲がり、尖った部分に凸部1402が密集することになり、十分なクッション機能を発揮することになる。
【0045】
図6に説明を戻し、断熱材15は、袋体13内において伝熱調整材14の片面のみを覆っている。断熱材15の材質は問わないが、ここでは発泡ポリエチレンを使用している。冷却材11を衣服に装着するときは、この断熱材15を配置した面を、身体側でなく、外部側に向けるようにする。
【0046】
このように身体側における断熱性に比べて外部側における断熱性を高くすることにより、身体側への伝熱を妨げることなく、外部(高温環境)の熱を水系ゲル蓄熱体12に伝えにくくすることができる。したがって、高温環境下にあっても、水系ゲル蓄熱体12の凍結状態を維持し、保冷機能を長時間発揮させることが可能となる。また、冷却材11の外部側の表面に結露が生じるのを防止し、電気工事作業者が着用した場合に、結露した水分に電気が流れるのを防ぐといった効果が得られる。
【0047】
なお、図6に示した冷却材11においては、伝熱調整材14が本発明でいうクッション層及び断熱層を、また、断熱材15が本発明でいう断熱層を構成する。ただし、冷却材11の構成は、同図に示した構成に限定されるものではなく、例えば図9、10に示すような構成をとることも可能である。
【0048】
図9に示す冷却材11では、断熱材15を別に設けるのではなく、水系ゲル蓄熱体12を挟んで身体側と外部側とにおいて、伝熱調整材14の厚みを異ならせている。すなわち、身体側では、適度なクッション性及び伝熱調整のための断熱性を確保できるだけの厚みh2を確保するとともに、外部側では、身体側よりも厚い厚みh1を確保して、外部の熱を伝えないようにする高い断熱性を得るようにすればよい。
【0049】
また、図10に示す冷却材11では、水系ゲル蓄熱体12を挟んで身体側と外部側とにおいて、異なる材質の部材16、17を配置するようにしている。この場合、身体側には、クッション性及び伝熱調整のための断熱性を有する部材16を設け、外部側には、外部の熱を伝えないようにする高い断熱性を有する部材17を設ければよい。
【0050】
なお、冷却材11の表面(袋体13の表面)には、どちらの面を身体側に向けて収納ポケット7〜9に収納するかを指示する表示があることが望ましい。この表示は、文字であってもよいが、冷却材11の両表面(袋体13の両表面)の色を異ならせておけば、一目で判断することができる。この場合に、一例として身体側に向けるべき面を肌色にしておけば、その面が身体側であるというイメージを容易に発想させることができる。
【0051】
また、冷却材11に断熱材15を持たせる等するのではなく、具体的には図示しないが、収納ポケット7〜9の外部側に断熱性を持たせておき、冷却材11の水系ゲル蓄熱体12に外部の熱を伝えないようにしてもよい。
【0052】
なお、立襟2に装着する冷却材11については、図11に示すように、伝熱調整材14を省いてもよい。これは、衣服本体1は身体に密着する度合いが大きいのに対して、立襟2は首から離れた状態となっているので、クッション性や伝熱調整のための断熱性はさほど必要とされないからである。また、立襟2に装着する冷却材11の大きさは、衣服本体1に装着する冷却材11ほど大きくする必要はなく、サイズの小さいものを使用すればよい。
【0053】
冷却材11の形状やサイズについては適宜決めればよいが、市販されているカイロと同等の大きさにしておけば、低温環境の作業時にはカイロを収納ポケットに収納することができる。
【0054】
以上述べた本実施の形態の冷却機能を有する衣服によれば、衣服本体1のうち着用者の胸に対応する部位以外の部位に冷却材11を設けるようにしたので、心臓が冷やされるのを避け、気分が悪くなる等の事態が生じるのを防止することができる。そして、背中を冷やすことにより、体感温度を十分に低くすることができ、また、動脈が通っている脇の下方を冷やすことにより、効果的な冷却作用を得ることができる。しかも、動脈が通っている首の後部をも冷却可能としたので、更に効果的な冷却作用を得ることができる。
【0055】
図12、13には、本実施の形態の衣服を着用した状態(図12)と、着用していない状態(図13)とで、同じ運動をした場合における体表面各部の温度変化を測定した結果を示す。なお、運動は、エアロバイク(商品名:クラシックバイク、型式:LM−1950、秦運動具工業株式会社製)を用いて、60kcal/10分間の消費エネルギとなるように20分間運動を行い、残り10分は座位休憩するといった30分を1サイクルとして、6サイクル、計3時間行う方法で恒温恒湿環境にて測定した。また、温湿度環境は、温度を一定になるように設定して1時間ごとに相対湿度を上昇させた。また、運動時の衣装は、安全靴、作業着、及び保護ヘルメットを着用した被験者が種々の作業道具類を入れた腰道具と安全帯を着用した上で、本実施の形態の衣服を着用し、更にその上に柱上活線作業時等に着用する絶縁衣(上衣)を着用し、併せて保護用革手袋と高圧用ゴム手袋を装着した状態とした。
【0056】
その結果は、図13に示すように、体表面の各部の温度がほぼ全域にわたって室温(35℃程度)を超え、頚部の温度は、室温を超えたり、下がったりする変動が激しくなっている。それに対して、図12に示すように、本実施の形態の衣服を着用した場合、胸部の温度を下げないで、背中の温度を低く、また、頚部の温度を低い状態で変動を小さくすることができることがわかる。
【0057】
また、本実施の形態の冷却機能を有する衣服によれば、水系ゲル蓄熱体12を凍結させることにより保冷機能を発揮する冷却材11を使用するようにしたので、ポンプやコンプレッサ、電源等の機器が不要であり、簡素化、低価格化を図るとともに、着用時作業者の行動範囲の拡大を図ることができる。しかも、既述したように、袋体13、伝熱調整材14、断熱材15等を用いることにより、冷却材11の機能を高め、より快適で冷却機能を高めた衣服を提供することが可能となる。
【0058】
なお、冷却材11は、そのサイズ等にもよるが、数時間程度の間保冷機能を維持する。一使用例としては、凍結させた冷却材11をクーラーボックスに格納して現場に持っていき、午前中の作業で一組の冷却材11群を、午後になったらクーラーボックス内の新しい一組の冷却材11群を使用するようにすればよい。
【0059】
また、本実施の形態の冷却機能を有する衣服によれば、背中を冷却するための冷却材11を後面布102の収納ポケット7に、脇の下方を冷却するための冷却材11を左右の前面布101R、101Lの収納ポケット8にそれぞれ収納するようにしたので、全体の重量バランスを均等にすることができる。例えば、後面布102に背中を冷却するための冷却材11と脇の下方を冷却するための冷却材11との両方を収納するようにした場合、全体の重量バランスが悪くなり、着脱しにくく、着用時には後面布102側から引っ張られるような違和感が生じてしまう。それに対して、本実施の形態のように前面布101R、101L及び後面布102のそれぞれに冷却材11を持たせるようにすることにより、全体の重量バランスを均等にして、着脱しやすく、着心地をよくすることができる。
【0060】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、衣服本体のうち着用者の胸に対応する部位以外の部位に冷却手段を設けるようにしたので、胸部を冷やし過ぎるのを避け、気分が悪くなる等の事態が生じるのを防止することができる。
特に、背中を冷やすことにより、十分に体感温度を低くすることができ、また、動脈が通っている脇の下方を冷やすことにより、効果的な冷却作用を得ることができる。この場合に、背中を冷却するための冷却手段を後面布に、脇の下方を冷却するための冷却手段を前面布の突出部にそれぞれ配置することにより、全体の重量バランスを均等にすることができ、着脱しやすく、着心地をよくすることができる。
しかも、衣服本体を、その下端が着用者の腰骨よりも上に位置する身丈としたので、安全帯等に干渉するのを避けることができ、作業を阻害することがない。
また、動脈が通っている首を冷やすようにすれば、効果的な冷却作用を得ることができる。この場合に、立襟を着脱可能とすることにより、不要な場合は取り外すことができ、また、特に汚れやすい襟だけを洗濯することが可能になる。
【0061】
また、蓄熱体を用いた冷却材を使用するようにすることにより、ポンプやコンプレッサ、電源等の機器が不要となり、簡素化、低価格化を図ることができるとともに、作業者の行動範囲を阻害しないようにすることができる。しかも、この冷却材において、クッション層を設けることにより、凍結させて硬くなっている蓄熱体が身体に当たって痛くならないようにすることができる。また、断熱層を設けることにより、冷却材の表面において適宜な温度となるように伝熱調整したり、外部(高温環境)の熱を蓄熱体に伝えにくくしたりすることができる。更に、蓄熱体を挟んで身体側における断熱性に比べて、外部側における断熱性を高くすることにより、身体側への伝熱を妨げることなく、外部(高温環境)の熱を蓄熱体に伝えにくくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態の冷却機能を有する衣服の外観を示す図である。
【図2】本実施の形態の冷却機能を有する衣服を広げた状態を示す図である。
【図3】本実施の形態の冷却機能を有する衣服を作業者が着用した状態を示す図である。
【図4】アジャスタベルト4を説明するための図である。
【図5】冷却材11の外観を示す図である。
【図6】冷却材11の断面を示す図である。
【図7】伝熱調整材14としてエアキャップを用いた例を説明するための図である。
【図8】伝熱調整材14としてエアキャップを用いた例を説明するための図である。
【図9】他の例の冷却材11の断面を示す図である。
【図10】他の例の冷却材11の断面を示す図である。
【図11】立襟2に装着する冷却材11の断面を示す図である。
【図12】本実施の形態の衣服を着用した状態で、所定の運動をしたときの体表面各部の温度変化を測定した結果を示す図である。
【図13】本実施の形態の衣服を着用しない状態で、所定の運動をしたときの体表面各部の温度変化を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
1 衣服本体
2 立襟
3、5 ファスナー
4 アジャスタベルト
7〜9 収納ポケット
11 冷却材
12 水系ゲル蓄熱体
13 袋体
14 伝熱調整材
15 断熱材
Claims (3)
- 衣服本体に冷却手段を設けた冷却機能を有する作業用の衣服であって、
上記衣服本体のうち着用者の胸に対応する部位以外の部位である背中を冷却するための冷却手段と、着用者の胸に対応する部位以外の部位である脇の下方を冷却するための冷却手段とを設け、
上記衣服本体は、その下端が着用者の腰骨よりも上に位置する身丈としたものであって、着用者の前側を覆う前面布と、着用者の後側を覆う後面布とを備えており、
上記前面布に脇の下方を覆うように突出させた左右の突出部を形成し、上記脇の下方を冷却するための冷却手段を上記前面布の突出部に、上記背中を冷却するための冷却手段を上記後面布にそれぞれ配置したことを特徴とする冷却機能を有する作業用の衣服。 - 上記衣服本体に着脱可能に設けた立襟と、上記立襟に設けた着用者の首の後部を冷却するための冷却手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の冷却機能を有する作業用の衣服。
- 上記袋体内には、上記蓄熱体の少なくともいずれか一方の面側にクッション層を設け、また、上記袋体内には、上記蓄熱体の少なくともいずれか一方の面側に断熱層を設け、上記蓄熱体を挟んで着用者の身体側における断熱性に比べて、外部側における断熱性を高くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却機能を有する作業用の衣服。
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