JP3653868B2 - 量子演算素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、量子演算素子に関し、特にいわゆる量子箱を用いた量子演算素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高集積の半導体メモリにおいては、メモリセルを構成するキャパシターに蓄積された104 個程度の電子により1ビットを表している。このような、半導体メモリにおいてビット間の演算を行う際には、あるキャパシターに蓄積された104 個程度の電子を別のキャパシターに移す必要がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようにあるキャパシターから別のキャパシターに104 個程度の電子を移すためには、現在のDRAM,SRAM等の素子構造では1電子当たり数eV程度のエネルギーが必要であるため、1ビットの演算を行うだけでも少なくとも104 eV以上のエネルギーが消費されてしまう。すなわち、従来の半導体メモリは、消費電力が高くならざるを得なかった。
【0004】
特に、パターン処理などを行う場合には、極めて多数のビット間の演算を行わなくてはならないので、消費電力は極めて大きくなる。また、従来のパターン間の演算は、半導体メモリ上にある一つ一つのキャパシターに逐次アクセスして行わなければならないので、非常に多数のトランジスタを配線で接続した複雑な回路が必要になり、これが処理速度の遅延の原因となっている。さらに、このような複雑な回路を実現するためには、非常に複雑な製造プロセスが必要である。
【0005】
したがって、この発明の目的は、消費電力が極めて低く高速処理が可能な量子演算素子を提供することにある。
この発明の他の目的は、構造が単純であるために単純な製造プロセスにより製造が可能な量子演算素子を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る量子演算素子は、キャリアのトンネリングが相互に可能な間隔で配置されている複数の演算用量子箱と、前記複数の演算用量子箱に対して非励起状態ではキャリアのトンネリングが不可能な距離をおいて配置されている入力用量子箱と、を有し、前記複数の演算用量子箱は、隣接する2つの演算用量子箱で基底状態である最低エネルギー順位と次のエネルギー順位との差が異なり、前記基底状態である最低エネルギー順位が前記隣接する2つの演算用量子箱で異なる状態において、前記入力用量子箱で励起したキャリアを前記複数の演算用量子箱に遷移させるか否かを入力情報とする。
好適に、本発明では、前記複数の演算用量子箱に入力されたキャリアが基底状態に向けて緩和する過程で取りうるエネルギー順位がパウリの排他律により下位から順次決められることによって、前記隣接した2つの演算用量子箱を単位として論理和または論理積に対応したキャリア占有状態を実現し、当該キャリアの占有状態を演算用量子箱ごとに読み出すことによって論理演算結果を得る。
さらに好適に、本発明では、前記最低エネルギー準位を占めるキャリアの有無をビット情報とし、前記隣接する2つの演算用量子箱で合計2ビットの情報を単位として前記キャリア占有状態を実現する。
【0007】
また、第2の発明に係る量子演算素子は、上記第1の発明の要件に加えて、前記複数の演算用量子箱に対し、その配列方向の一方側に前記入力用量子箱が隣接し、当該配列方向と直交する面内で、前記複数の演算量子箱および前記入力用量子箱の組が複数、アレー状に配置されている。
好適に、本発明では、個々の前記入力用量子箱に対し光を入射することによって前記キャリアを発生させ演算用量子箱に遷移させることを行うか否かを入力すべきビット情報とし、当該ビット情報の入力に際し、所定形状の照射面を有する光の照射を前記照射面の形状を変化させて繰り返す。
【0008】
上述のように構成された第1の発明による量子演算素子および第2の発明による量子演算素子によれば、光の照射などより入力用量子箱でキャリア(電子または正孔)を生成し、エネルギー的に励起して複数の演算用量子箱に遷移させ、この電子または正孔のエネルギーが緩和した後の量子箱列内の電子の分布を光の吸収などによって読み出すことにより、論理和、論理積またはそれらの複合演算を行うことができる。この場合、演算用量子箱の最低エネルギー準位を占める電子または正孔の有無をビット情報とし、最低エネルギー準位へのトンネリングがパウリの排他律により禁止されることを用いて最低エネルギー準位の低い演算用量子箱から順に飽和していくことを利用している。ここで、エネルギー準位を占める電子または正孔の数は、たとえば2個である。したがって、電子または正孔が緩和する際の散逸エネルギー、すなわち1ビットの演算を行う際に消費するエネルギーは極めて小さいため、この量子演算素子は極めて低消費電力である。また素子構造が単純であるため、製造プロセスも単純である。
【0009】
より詳細には、たとえば、入力用量子箱に電子または正孔対生成エネルギーに共鳴するエネルギーの光子を照射して入力用量子箱内に電子−正孔対を発生させると共に、一方の電子または正孔の引き抜きを行って入力用量子箱に一旦電子または正孔を残し、しかる後、入力用量子箱の電子または正孔を光で励起させて量子箱列に遷移させることにより、量子箱列への入力を行うことができる。入力された電子または正孔は、量子箱列内の最低エネルギー準位が満たされている演算用量子箱にはパウリの排他律によりトンネリングが禁止されるため、未だ電子または正孔で満たされていない最も低い最低エネルギー準位を有する演算用量子箱へトンネリングする。これにより電子または正孔の入力を行うことができる。
【0010】
この発明の第1の発明および第2の発明における出力は、それぞれの演算用量子箱の中に局在した電子または正孔の離散化エネルギー差に共鳴するエネルギーを持った光子を照射すると、演算用量子箱内の電子または正孔の有無によって光の吸収または発光が生じるので、この光の吸収または発光の有無を観測することにより演算用量子箱内の情報を読み出すことができる。
【0011】
特に、第2の発明による量子演算素子によれば、複数の演算用量子箱と入力用量子箱の組がアレー状に配列された構造により、2次元パターン間の論理和、論理積またはそれらの複合演算を低消費電力かつ高速に行うことができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。なお、実施例の全図において対応する部分には、同一の符号を付す。
[第1実施例]
まず、この発明の第1実施例による量子演算素子について説明する。情報を担う粒子として電子を扱う場合について説明する。
【0013】
図1はこの第1実施例による量子演算素子の斜視図を示し、図2は図1の線I−Iに沿った方向の断面図を示す。なお、図1の線II−IIに沿った方向の断面図も図2と同様である。
図2においてQD0 ,QD1 ,QD2 は箱状の井戸層、いわゆる量子箱を示し、図1および図2においてB1 ,B2 ,B3 はそれぞれ障壁層を表す。量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質としては例えばGaAs(または、InAs,InGaAs等)が用いられ、障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質としては例えばAlGaAs(または、AlSb,AlGaSb等)が用いられる。量子箱QD0 と量子箱QD1 間の距離d2 は電子および正孔がトンネリング不可能な距離(例えば、50nm以上)、量子箱QD1 と量子箱QD2 間の距離d3 は電子または正孔がトンネリング可能な距離(例えば、数nm)とする。量子箱QD0 は、入力用の量子箱であり、QD1 ,QD2 は、それぞれ演算用の量子箱であり、これらの演算用量子箱QD1 、QD2 で量子箱列を構成している。
【0014】
量子箱QD0 〜QD2 を被覆する障壁層B1 の上面および下面には金属からなる上部電極ELU および下部電極ELL がそれぞれ形成されている。これらの上部電極ELU および下部電極ELL には、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に対応する部分に、それぞれ開口部O1 ,O2 を有し、これらの量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 と開口部O1 ,O2 とはほぼ同軸に配されている。後述のようにこれらの開口部O1 ,O2 は光入出力を行うために用いられる。
【0015】
図2の線α−αに沿った方向のエネルギーバンド図を図3に示す。図3中、EV1 ,EV2,EV3はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の価電子帯端のエネルギー、EC1,EC2,EC3はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の伝導帯端のエネルギー、EF はフェルミエネルギーを表す。また、φ1 、φ2 、φ3 はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の電子親和力、ψ0 、ψ1 、ψ2 はそれぞれ量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質の電子親和力を表す。これらは次式を満足している。
なお、図3に示したバンド図は、いわゆるタイプIのへテロ接合であるが、この場合、障壁層B1 ,B2 ,B3 のエネルギーギャップをそれぞれEgB1,EgB2,EgB3、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 のエネルギーギャップをそれぞれEgQ0,EgQ1,EgQ2とすると、次式を満足する。
【0016】
φ1 +EgB1,φ2 +EgB2>ψ0 +EgQ0
φ2 +EgB2,φ3 +EgB3>ψ1 +EgQ1 …(2)
φ3 +EgB3,φ1 +EgB1>ψ2 +EgQ2
上述のように、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質としてGaAsを用い、障壁層B1 を形成する物質としてAl0.3 Ga0.7 Asを用い、障壁層B2 、B3 を形成している物質としてAl0.2 Ga0.8 Asを用いた場合は式(1)は、満足されている。ただし、この場合にはφ2 =φ3 、ψ0 =ψ1 =ψ2 となる。
【0017】
また、E00 e ,E01 e ,E00 h はそれぞれ入力用量子箱QDO に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位である。同様に、E10 e ,E11 e ,E10 h はそれぞれ第1の物質より形成された第1演算用量子箱QD1 に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位、E20 e ,E21 e ,E20 h はそれぞれ第2の物質より形成された第2量子箱QD2 に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位である。
【0018】
後述のように、電子または正孔の光励起により演算用量子箱に電子の入力を行うためには、入力用量子箱QD0 の離散化エネルギー差が、演算用量子箱QD1 ,QD2 の離散化エネルギー差よりも大きくなければならないから、
E00 e −E00 h >E10 e −E10 h …(3)
E00 e −E00 h >E20 e −E20 h …(4)
でなければならない。
【0019】
また、光の吸収または発光によって量子箱内の電子の有無を選択的に読み出すためには、
E10 e −E10 h ≠E20 e −E20 h …(5)
でなければならない。以上の条件により、図3に示したバンド図の構造を実現することができる。
【0020】
また、絶対温度Tで安定に動作するための条件として、価電子帯から熱的に量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に電子が励起されないために、
E00 e −E00 h >kB T …(6)
E10 e −E10 h >kB T …(7)
E20 e −E20 h >kB T …(8)
(ここで、kB =1.38×1023〔J/K〕, T:絶対温度)
でなければならない。
【0021】
また、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に局在した最低エネルギー準位E00 e ,E10 e ,E20 e に入力された電子が熱的に励起されないために、
EC2−E00 e >kB T …(9)
E11 e −E10 e >kB T …(10)
E21 e −E20 e >kB T …(11)
でなければならない。
【0022】
また、詳しくは以下でのべるが、量子箱QD1 ,QD2 に遷移した電子が量子箱QD0 に戻らないようにするため、
E20 e ,E10 e <E00 e …(12)
でなければならない。また、以下の説明では便利のために、E10 e −E10 h >E20 e −E20 h を仮定する。上記式(3)、(4)、(5)及び(12)の条件は、例えば入力用量子箱QD0 、第1演算用量子箱QD1 、第2演算用量子箱QD2 の各量子箱のα−α方向の厚さをそれぞれa0 ,a1 ,a2 とすると、
a0 <a1 <a2 …(13)
の条件により実現することができる。
【0023】
次に、上述するように構成された第1実施例による量子演算素子の動作原理について説明する。以下の説明では、電子を情報を担う粒子として説明する。
この第1実施例による量子演算素子への入力は次のようにして行う。入力時には、下部電極ELL を接地し、上部電極ELU にバイアス電圧Vg を印加し、図4のように
E21 e >E10 e >E20 e …(14)
の条件が成立するように素子にバイアスをかけるものとする。
【0024】
まず、第1の情報の入力法を説明する。振動数
νin1 =(E00 e −E00 h )/h
(ここで、h=6.63×10-34 J・s)
の光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または下部電極ELL の開口部O2 に照射する。すると、この光の照射によって、入力用量子箱QD0 内のみに選択的に電子−正孔対が生成される。エネルギー準位E00 e ,E00 h が二重にスピン縮退しているときはこのとき生成される電子−正孔対は2つである。図4に示すように、バイアスをかけている結果、障壁層B1 の実効の厚さが薄くなり、電子−正孔対のうち正孔は上部電極ELU に吸収される。この結果、振動数νin1 光の照射を止めても、入力用量子箱QDO 内に2個の電子が、取り残される。これによって、量子箱QDO 内への電子の注入を行うことができる。この場合のバイアス電圧は、通常はトンネリングしない障壁層B1 を電子または正孔がトンネリングできる程度の電界であり、具体的には例えば障壁層B1 の厚さ100nm当たり数V程度である。
【0025】
次に、不等式(EC2−E00 e )/h<νin2 <(EC1−E00 e )/hを満たす振動数νin2 の光を照射する。このとき、E00 e を占める2電子はエネルギーE00 e +hνin2 を持つ状態に励起され、障壁層B2 を越えて量子箱QD1 ,QD2 の結合系にエネルギーを散逸して遷移する。この場合、第1演算用量子箱QD1 に遷移した電子は、トンネリングによりエネルギー準位の低い第2演算量子箱QD2 に移る。その結果、図5に示すように、第2演算量子箱QD2 のエネルギー準位E20 e を2電子が占めた状態になる。その後、振動数hνin2 の光の照射を止める。この様にして、第1の情報を入力することができる。仮に、振動数νin2 の光が照射されている間にエネルギー準位E20 e に電子が緩和しても、式(12)を満足していれば、振動数νin2 の光に励起されて、緩和した電子が入力用量子箱QD0 に戻ることはできない。この様にして第1回目に入力された2電子を第1の入力ビット情報Ain1 =1とする。また、第1回目の情報入力時に上述の方法により電子を入力しないときはAin1 =0である。
【0026】
次に、第2の情報の入力方法を説明する。第2の情報の入力は第1の情報の入力後、第1の情報に用いた方法と同様にして行えばよい。すなわち、第1の情報の入力が終了した後、再び振動数νin1 の光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または下部電極ELL の開口部O1 に照射する。すると、まず入力用量子箱QD0 に2電子が入力される。次に、振動数νin2 の光を照射する。すると、入力用量子箱QD0 内の電子が演算用量子箱QD1 ,QD2 の結合系に遷移する。この、第2回目の情報入力時に入力された2電子を、第2の入力ビット情報情報Ain2 =1とする。また、第2回目の情報の入力時に上述の方法により電子を入力しないときはAin2 =0である。
【0027】
この、第1の実施例における量子演算素子においては次のようにして演算が行われる。
第1および第2の情報入力が終了した後の、第1演算用量子箱QD1 における電子の有/無を演算結果Aout1=1/0、第2演算用量子箱QD2 における電子の有/無を演算結果Aout2=1/0とする。
【0028】
第1の情報がAin1 =0、第2の情報がAin2 =0のとき、すなわち電子が全く入力されなかったときは演算用量子箱QD1 ,QD2 内に電子は存在しないので演算結果はAout1=0,Aout2=0となる。
第1の情報がAin1 =1、第2の情報がAin2 =0のとき、すなわち電子が2つ入力されたときは電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e を占有する。したがって、演算結果はAout1=0,Aout2=1となる(図5参照)。
【0029】
第1の情報がAin1 =0、第2の情報がAin2 =1のとき、すなわち電子が2つ入力されたときは電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e を占有する。したがって、演算結果はAout1=0,Aout2=1となる(図5参照)。
【0030】
第1の情報がAin1 =1、第2の情報がAin2 =1のとき、すなわち電子が4つ入力されたときは、パウリの排他律により電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e と次にエネルギーの低い第1演算用量子箱QD1 に局在した準位E10 e を各々2個ずつ占有する。したがって、演算結果はAout1=1,Aout2=1となる(図6参照)。
【0031】
以上の結果を表にまとめると、表1の様になる。
【0032】
【表1】
この表1(真理値表)から、明らかに
Aout1=Ain1 AND Ain2
Aout2=Ain1 OR Ain2
の演算が行われていることがわかる。すなわち、AND演算(論理積)およびOR演算(論理和)が同時に行われていることになる。
【0033】
また、上述と逆に、演算用量子箱QD1 ,QD2 内の電子の有/無をそれぞれ、Aout1=0/1,Aout2=0/1と定義すると、明らかに
Aout1=Ain1 NAND Ain2
Aout2=Ain1 NOR Ain2
の演算が行われていることになる。すなわち、NAND演算およびNOR演算を行うことができる。
【0034】
以上のように、入力、出力のうちの一方のビット情報の(0,1)の定義を変換することにより、いつでもAND⇔NAND,OR⇔NOR等の変換が可能である。
次に、この第1の実施例における量子演算素子の演算結果の読み出しは、次のようにして行う。
【0035】
ビット情報Aout1を読み出すためには、振動数νout1=(E11 e −E10 e )/hの光を照射し、その吸収または発光を観測する。図7に示すように、第1演算用量子箱QD1 内のエネルギー準位E10 e に電子が存在すれば振動数νout1の光によって電子が第1エネルギー準位に共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和するので吸収または発光が生じる。一方、図8に示すように、第1演算用量子箱QD1 内のエネルギー準位E10 e に電子が存在しなければ振動数νout1の光の吸収は起こらず、光はそのまま透過する。このため、第1演算量子箱QD1 内の電子の有/無は、振動数νout1の光の吸収または発光の有/無を光検出器により観測することによって読み出すことができる。
【0036】
ビット情報Aout2を読み出すためには、振動数νout2=(E21 e −E20 e )/hの光を照射し、その吸収または発光を観測する。第2演算用量子箱QD2 内のエネルギー準位E20 e に電子が存在すれば振動数νout2の光によって電子が共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和するので吸収または発光は生じる。このため、量子箱内の電子は有/無は振動数νout2の光の吸収または発光の有/無を光検出器により観測することによって読み出すことができる(図9、10参照)。
【0037】
次に、この第1実施例による量子演算素子内のビット情報の消去の方法について述べる。演算用量子箱QD1 ,QD2 のビット情報の消去を行うためには、図11に示すように、入力時にかけたバイアスの逆バイアスをかける。この時、正孔が外部電極から素子内に注入され演算用量子箱QD1 、QD2 内の電子と再結合し、演算用量子箱内の電子が消去される。あるいは、演算用量子箱に正孔が注入されやすい場合は、上部電極ELU −下部電極ELL 間に印加したバイアスをゼロにすることで、外部電極から素子内に正孔が自然に注入される場合もある。
【0038】
以上の例は、電子を情報のビットとして扱う場合について述べたが、電子の方が、外部電極に引き抜かれ易い場合、すなわち不等式(電子に対する障壁層のポテンシャルバリア高さ×電子の有効質量)<(正孔に対する障壁層のポテンシャルバリア×正孔の有効質量)が満たされる場合、上記の説明において「電子」を「正孔」に、また「電子のエネルギー準位」を「正孔のエネルギー準位」に置き換え、正孔を入力用量子箱QD0 に残すことにより正孔を情報のビットとして扱うことも可能である。
【0039】
また、上記説明では、入力用量子箱から電子を量子箱列の方に遷移させる際に、バイアス電圧を印加した状態で行っているが、これは入力用量子箱QD0 に正孔が入ってこないように安定化するためであり、上記式(14)の条件がバイアスをかけていない状態で満たされていれば、特にバイアスは必要としない。
【0040】
次に、この第1実施例による量子演算素子の製造法について図12を参照しながら説明する。ここでは、井戸層W0 ,W1 ,W2 を形成する物質としてGaAs、障壁層B1 を形成する物質としてAl0.3 Ga0.7 As,障壁層B2 ,B3 を形成する物質としてAl0.2 Ga0.8 Asを用いるものとする。井戸層W0 ,W1 ,W2 は以下のプロセスを経て加工され、それぞれ量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 となる。
【0041】
まず、図12(A)に示すように、例えばGaAs基板S上に、例えば分子線エピキタシー(MBE)法、有機金属化学気相(MOCVD)法、有機金属分子線エピキタシー(MOMBE)法等により、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 、厚さa2 のGaAsからなるW2 層、厚さd3 のAl0.2 Ga0.8 Asからなる障壁層B3 、厚さa1 のGaAsからなるW1 層、厚さd2 のAl0.2 Ga0.8 Asからなる障壁層B2 、厚さa0 のGaAsからなるW0 層、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 を順次エピタキシャル成長させる。ここで、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 の厚さは例えば100nm以上、Al0.2 Ga0.8 As層からなる障壁層B2 の厚さd2 は電子または正孔がトンネリング不可能な数10nm以上,障壁層B3 の厚さd3 は電子または正孔がトンネリング可能な数nm程度とする。また、井戸層W0 ,W1 ,W2 の厚さa0 ,a1 ,a2 は、量子箱内のエネルギー準位の離散化が顕著になる厚さであり、典型的には数nm〜数十nmとする。また、井戸層の厚みをa0 <a1 <a2 となるように積層することにより条件式(2)、(3)、(4)、(12)を満たすことができる。
【0042】
次に、図12(B)に示すように、例えば電子線リソグラフィー法や走査型トンネル顕微鏡(STM)、あるいは障壁層B1 と格子整合しない材料をMBE法等で数ML成長させて得られる島状のドット構造などを用いて、耐エッチング性を有するマスクMを障壁B1 上に形成する。具体的には、このマスクMは、例えば電子線リソグラフィー法や走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いる場合はSiO2 ,Si3 N4 などにより形成され、島状結晶成長を用いるときはAlGaAs上では格子不整合の大きな物質、例えばInAs等を用いる。マスクMの面積は(数nm)2 であることが望ましい。
【0043】
次に、マスクMを用いて、異方性の強いドライエッチング法、例えばエッチングガスとしてCH4 +HeやSiCl4 +He,Cl2 等を用いた反応性イオンエッチング(RIE)法や電子サイクロトロン共鳴(ECR)を用いた反応性イオンビームエッチング(ECR−RIBE)法等により、障壁層B1 、井戸層W0 、障壁層B2 、井戸層W1 、障壁層B3 ,井戸層W2 、障壁層B1 を基板表面に対して垂直方向に順次エッチングする。このとき、障壁層B1 は、全部エッチングしないで一部を残すようにする。これによって、図12(C)に示すように障壁B1 、井戸層W0 、障壁層B2 、井戸層W1 、障壁層B3 ,井戸層W2 、障壁層B1 がロッド状の形状にエッチングされる。次に、図12(D)に示すように、上述のエッチングにより除去された部分に障壁層B1 を形成する物質、例えばAl0.3 Ga0.7 Asをエピタキシャル成長させて埋める。
次に、選択エッチングを行いマスクMを除去した後、上部電極ELU および下部電極ELL に対応する形状のレジストパターンを形成し(図示せず)、例えば真空蒸着法により例えばAl膜やAu膜等の金属膜を素子の上下に形成した後、このレジストパターンをその上に形成された金属膜と共に除去する(リフトオフ)。これによって、図1および図2に示すように開口部O1 およびO2 を有する上部電極ELU および下部電極ELL が形成される。また、これらの電極ELU 、ELL は、素子の上下に金属膜を形成した後、エッチング等によりパターニングすることによって形成することもできる。なお、素子の上下に数10nmと光を十分透過する厚さの金属薄膜を形成することが可能な場合は、図1および図2に示したような開口部O1 およびO2 を形成しなくてもよい。
【0044】
このようにして、第1実施例による量子演算素子が完成される。
以上のように、この第1実施例による量子演算素子によれば、1ビットの情報を演算用量子箱QD1 およびQD2 内の2個の電子の有無により表し、これらの量子箱QD1 、QD2 の結合系のトンネリングがパウリの排他律により制御されることを利用することによりAND演算(論理積)およびOR演算(論理和)、あるいはNAND演算およびNOR演算を行うことができる。この場合、これらの演算は2個の電子のエネルギー緩和を利用して行っていることから、この第1実施例における量子演算素子においては消費されるエネルギーは極めて小さい。具体的には、従来の半導体メモリは1ビットの演算において104 個以上の電子または正孔のエネルギー緩和を用いるので、この第1実施例における量子演算素子の消費エネルギーは、従来の半導体メモリに較べて1/104 程度である。
[第2実施例]
次に、この発明の第2実施例による量子演算素子について述べる。
【0045】
図13は、この第2実施例による量子演算素子の断面図であり、図2に対応するものである。
図13に示すように、この第2実施例による量子演算素子は、量子箱がn+1段(n≧3)形成されていることを除いて、第1実施例による量子演算素子と同様な構造を有する。すなわち、この第2実施例による量子演算素子においては、n+1段の量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 ,…,QDn-1 ,QDn が形成されており、1個の入力用量子箱QD0 、及びn個の演算用量子箱QD1 ,QD2 ,…,QDn-1 ,QDn で構成されている。また、図13に示すように量子箱は障壁B1 ,…,Bn+1 に埋め込まれているとする。
【0046】
上部電極ELU に印加するバイアス電圧Vg =0のときの図13の線β−βに沿った方向のエネルギーバンド図を図14に示す。Eci,φi (i=1,…,n+1)はそれぞれ障壁層Bi を形成する物質の伝導帯端のエネルギー、電子親和力を表す。また、ψi (i=0,…,n)は量子箱QDi を形成する物質の電子親和力を表す。EF はフェルミエネルギーを表す。
【0047】
以下では情報のキャリアとして電子を扱う場合について説明する。次の条件が満たされているとする。
1.量子箱QDi 内に電子が束縛されるための必要条件
φ1 <φi <ψj , …(21)
(i=2,…,n+1;j=0,…,n)
2.光励起により入力用量子箱QD0 に選択的に電子を入力する条件
E00 e −E00 h >Ei0 e −Ei0 h ,(i=1,…,n) …(22)
3.各量子箱QDi 内のビット情報を選択的に読み出し可能な条件
Ei1 e −Ei0 e ≠Ej1 e −Ej0 e ,(i≠j) …(23)
4.価電子帯からの熱的な電子の励起による量子箱QDi への電子の注入が行われない条件
Ei0 e −Ei0 h >kB T,(i=1,…,n) …(24)
5.量子箱QDi に局在したエネルギー準位Ei0 e に入力された電子が熱的に励起エネルギーEi1 e に励起されない条件
Ei1 e −Ei0 e >kB T …(25)
6.量子箱QDi (i≠0)に入力された電子が量子箱QD0 に戻らないようにする条件
Ei0 e <E00 e (i=1,…,n) …(26)
また、以下では説明を簡便にするために
En0 e <En-1 e <…<E20 e <E10 e …(27)
とする。
【0048】
この第2実施例による量子演算素子への入力は次のようにして行う。なお入力時には、第1実施例による演算素子と同様にして、条件
En0 e <En-1 0 e <…<E20 e <E10 e <En1 e …(28)
が満たされる範囲で下部電極ELL と上部電極ELU 間にバイアス電圧を印加しておく。n段の演算用量子箱QD1 ,…,QDn があるときは、これらの量子箱列に最大nビットの情報を入れることができる。第1情報から第n情報の入力は、次の手順(a)〜(c)を繰り返すことによって行われる。
【0049】
(a)ビット情報が1のときは、振動数νin1 を有する光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または開口部O2 の部分に照射して、入力用量子箱QD0 内に電子−正孔対を生成させる。この電子−正孔対のうち正孔は、印加バイアスのため上部電極ELU に吸収される。この結果、入力用量子箱QF0 内のエネルギー準位E00 e に電子が入力される。エネルギー準位がスピンに関して二重に縮退しているならば、入力される電子の数は2個である。
【0050】
(b)次に、振動数νin2 の光を照射する。このとき、E00 e を占める電子はエネルギーE00 e +hνin2 を持つ状態に励起され障壁層B2 を越えて量子箱列QD1 ,…,QDn にエネルギーを散逸して遷移する。その後、振動数vin2 の光の照射を止め一つの情報の入力が終わる。
【0051】
(c)ビット情報が0のときは、何もしない。
次に、この第2実施例による量子演算素子の演算は次のように行われる。量子箱列QD1 ,…,QDn に緩和した電子は、低いエネルギー準位を有する量子箱から占有していく。特に各エネルギー準位がスピンに対して2重に縮退していくときは、エネルギーの低い順からパウリの排他律により2個づつの電子で占有されていく。
【0052】
以上のことから、i回目の電子の入力の有/無をビット情報Aini =1/0とし、全情報入力後のj番目にエネルギーの低い準位、すなわち、ここでは量子箱QDn-j を占有している電子の有/無をビット情報Aoutj=1/0とすると、演算結果を表すビット情報Aoutjは、
Aout j =∪i 1,...,i n-j (∩k ≠i 1,...,i n-j Ain k )…(29)
で与えられる。
【0053】
具体的には、例えばn=4、すなわち量子箱QD0 ,…,QD4 を有する場合、真理値表は表2に表すようになる。
【0054】
【表2】
【0055】
次に、この第2実施例による量子演算素子の出力は次のようにして行う。
演算用量子箱QDi 内のエネルギー準位Ei0 e に電子が存在すれば、振動数νouti=(Ei1 e −Ei0 e )/hの光によって共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和を生じるので吸収または発光が生じる。また、量子箱QDi 内のエネルギー準位Ei0 e に電子が存在しなければ、振動数νoutiの光の共鳴励起、または共鳴緩和のため吸収または発光は生じない。すなわち、i段目の量子箱QDi 内のビット情報は、振動数νoutiの光を照射し、その吸収また発光を観測することにより読み出すことができる。
【0056】
この第2実施例による量子演算素子の消去は、第1実施例による量子演算素子と同様に、入力時にかけたバイアスの逆バイアスをかける。あるいは上部電極ELU にかけるバイアス電圧を0にすることにより行うことができる。
この第2実施例による量子演算素子の製造方法は、第1実施例による量子演算素子と同様であるので説明を省略する。
[第3実施例]
つぎに、この発明の第3実施例による量子演算素子について説明する。
【0057】
図15はこの第3実施例による量子演算素子を示す断面図であり、図2または図13に相当するものである。
この第3実施例は、第1実施例に示した量子演算素子を2次元状に配置したような構造を有し、入力用量子箱QD0 と、演算用量子箱QD1 ,QD2 で構成される一組の量子箱を一単位としてマトリックス状に並べ、これらを障壁層B1 ,B2 ,B3 で被覆し、更に障壁層B1 の上下の面には一単位の量子箱に対応するそれぞれの開口部Oを有する上部電極ELU 、下部電極ELL が形成されている構造を有する。
【0058】
この第3実施例による量子演算素子の入力、演算、読み出しおよび消去は、第1実施例による量子演算素子と同様にして行うことができる。この場合、出力時に必要な光の測定は、例えば電荷結合素子(CCD)のような2次元センサーを用いることにより行うことができる。
【0059】
この第3実施例による量子演算素子によれば、第1実施例による量子演算素子と同様に極めて低消費電力であることに加えて、演算を並列的に行うことができることにより高速演算が可能である。
従来のデジタルパターン処理の最大の欠点は、処理に時間がかかることである。すなわち、従来のデジタルパターン処理においては、膨大な情報量があるパターンの各画素を1画素つづ直列的に処理するため、処理に膨大な時間がかかる。この問題は、この第3実施例により量子演算素子を用いてパターン処理を行うことにより解決することができる。そこで、次にこの第3実施例による量子演算素子によりパターン処理を行う方法について説明する。
【0060】
いま、第1実施例による量子演算素子の入力時と同じ条件下で、この第3実施例による量子演算素子に、まず、図16(A)に示すようにパターン{Ain1 }を入力する。すなわち、パターン{Ain1 }の形状に第1実施例の入力法を用いて、同図の斜線を施したような光を照射する。この例においては、パターン{Ain1 }は3角形の形状を有する。この結果、2次元アレー状に配列された複数の量子箱QD2 のうちのパターン{Ain1 }に対応する部分にふくまれるもののみ電子が入力される。
【0061】
次に、図16(B)に示すように、上述と同様にして別のパターン{Ain2 }を入力する。この例においては、このパターン{Ain2 }は逆3角形の形状を有する。
その結果、2次元アレー状に配置された複数の量子箱QD1 のうちパターン{Ain1 }とパターン{Ain2 }との論理積に対応する部分に含まれるものだけに電子が入力された状態が実現される。この状態を図17(A)の斜線で示す。一方、複数の量子箱QD2 のうちパターン{Ain1 }とパターン{Ain2 }との論理和に対応する部分に含まれるものだけに電子が入力された状態が実現される。この状態を図17(B)の斜線で示す。すなわち、量子箱QD1 のアレーに含まれる電子のパターンを{Aout1}と、量子箱QD2 のアレー含まれる電子のパターンを{Aout2}とすると、演算
Aout1={Ain1 }AND{Ain2 }
Aout2={Ain1 }OR{Ain2 }
が行われたことになる。
【0062】
そして、読み出しは、パターン{Aout1}に関しては振動数νout1、パターン{Aout2}に関しては振動数νout2の光を照射し、その光の吸収または発光パターンを読み出すことにより行うことができる。
これらのパターンの演算は、高速かつ低消費電力で行うことができる。
【0063】
以上のようにして実現されるパターン間の論理積、論理和は、パターン処理における基本演算であり、CADやコンピュータ・グラフィックスなどにおいて不可欠なものである。したがって、この第3実施例による量子演算素子は、これらのCADやコンピュータ・グラフィックスにおける高速プロセッサに適用することができる。
【0064】
以上、この発明の実施例について具体的に説明したがこの発明は、上述の実施例に限定されるものでなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、第2実施例の量子演算素子を2次元的に並べることにより、第3実施例と同様にして2次元パターン{Ain1 },…,{Ainn }間の論理和、論理積およびそれらの複合演算{Aout j }=∪i 1,...,i n-j (∩k ≠i 1,...,i n-j {Aink })を実行することができる。
【0065】
また、上記の第1実施例において説明した量子演算素子の製造法は一例に過ぎず、他の製造方法を用いてもよいことは言うまでもない。
さらに、上述の第1実施例、第2実施例および第3実施例においては量子箱に電子を入力し、電子を情報の担い手として用いているが、量子箱に正孔を入力し、この正孔を情報の担い手として用いてもよい。
【0066】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、低消費電力で高速でしかも製造プロセスが単純な量子演算素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例による量子演算素子を示す斜視図である。
【図2】図1の線I−IまたはII−IIに沿った方向の断面図である。
【図3】図2の線α−αに沿った方向のエネルギーバンド図である。
【図4】この発明の第1実施例による量子演算素子の入力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図5】この発明の第1実施例による量子演算素子の入力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図6】この発明の第1実施例による量子演算素子の演算方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図7】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図8】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図9】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図10】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図11】この発明の第1実施例による量子演算素子の消去方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図12】(A)〜(D)はこの発明の第1実施例による量子演算素子の製造方法を説明するためのそれぞれ断面図である。
【図13】この発明の第2実施例による量子演算素子を示す断面図である。
【図14】図13の線β−βに沿った方向のエネルギーバンド図である。
【図15】この発明の第3実施例による量子演算素子を示す断面図である。
【図16】(A)、(B)は、この発明の第3実施例による量子演算素子をパターン処理に適用した例を説明するためのそれぞれ斜視図である。
【図17】(A)、(B)は、この発明の第3実施例による量子演算素子をパターン処理に適用した例を説明するためのそれぞれ斜視図である。
【符号の説明】
ELU …上部電極、ELL …下部電極、B1 〜Bn+1 …障壁層、QD0 …入力用量子箱、QD1 〜QDn …演算用量子箱(量子箱列)、O1 ,O2 …開口部
【発明の属する技術分野】
この発明は、量子演算素子に関し、特にいわゆる量子箱を用いた量子演算素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高集積の半導体メモリにおいては、メモリセルを構成するキャパシターに蓄積された104 個程度の電子により1ビットを表している。このような、半導体メモリにおいてビット間の演算を行う際には、あるキャパシターに蓄積された104 個程度の電子を別のキャパシターに移す必要がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようにあるキャパシターから別のキャパシターに104 個程度の電子を移すためには、現在のDRAM,SRAM等の素子構造では1電子当たり数eV程度のエネルギーが必要であるため、1ビットの演算を行うだけでも少なくとも104 eV以上のエネルギーが消費されてしまう。すなわち、従来の半導体メモリは、消費電力が高くならざるを得なかった。
【0004】
特に、パターン処理などを行う場合には、極めて多数のビット間の演算を行わなくてはならないので、消費電力は極めて大きくなる。また、従来のパターン間の演算は、半導体メモリ上にある一つ一つのキャパシターに逐次アクセスして行わなければならないので、非常に多数のトランジスタを配線で接続した複雑な回路が必要になり、これが処理速度の遅延の原因となっている。さらに、このような複雑な回路を実現するためには、非常に複雑な製造プロセスが必要である。
【0005】
したがって、この発明の目的は、消費電力が極めて低く高速処理が可能な量子演算素子を提供することにある。
この発明の他の目的は、構造が単純であるために単純な製造プロセスにより製造が可能な量子演算素子を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る量子演算素子は、キャリアのトンネリングが相互に可能な間隔で配置されている複数の演算用量子箱と、前記複数の演算用量子箱に対して非励起状態ではキャリアのトンネリングが不可能な距離をおいて配置されている入力用量子箱と、を有し、前記複数の演算用量子箱は、隣接する2つの演算用量子箱で基底状態である最低エネルギー順位と次のエネルギー順位との差が異なり、前記基底状態である最低エネルギー順位が前記隣接する2つの演算用量子箱で異なる状態において、前記入力用量子箱で励起したキャリアを前記複数の演算用量子箱に遷移させるか否かを入力情報とする。
好適に、本発明では、前記複数の演算用量子箱に入力されたキャリアが基底状態に向けて緩和する過程で取りうるエネルギー順位がパウリの排他律により下位から順次決められることによって、前記隣接した2つの演算用量子箱を単位として論理和または論理積に対応したキャリア占有状態を実現し、当該キャリアの占有状態を演算用量子箱ごとに読み出すことによって論理演算結果を得る。
さらに好適に、本発明では、前記最低エネルギー準位を占めるキャリアの有無をビット情報とし、前記隣接する2つの演算用量子箱で合計2ビットの情報を単位として前記キャリア占有状態を実現する。
【0007】
また、第2の発明に係る量子演算素子は、上記第1の発明の要件に加えて、前記複数の演算用量子箱に対し、その配列方向の一方側に前記入力用量子箱が隣接し、当該配列方向と直交する面内で、前記複数の演算量子箱および前記入力用量子箱の組が複数、アレー状に配置されている。
好適に、本発明では、個々の前記入力用量子箱に対し光を入射することによって前記キャリアを発生させ演算用量子箱に遷移させることを行うか否かを入力すべきビット情報とし、当該ビット情報の入力に際し、所定形状の照射面を有する光の照射を前記照射面の形状を変化させて繰り返す。
【0008】
上述のように構成された第1の発明による量子演算素子および第2の発明による量子演算素子によれば、光の照射などより入力用量子箱でキャリア(電子または正孔)を生成し、エネルギー的に励起して複数の演算用量子箱に遷移させ、この電子または正孔のエネルギーが緩和した後の量子箱列内の電子の分布を光の吸収などによって読み出すことにより、論理和、論理積またはそれらの複合演算を行うことができる。この場合、演算用量子箱の最低エネルギー準位を占める電子または正孔の有無をビット情報とし、最低エネルギー準位へのトンネリングがパウリの排他律により禁止されることを用いて最低エネルギー準位の低い演算用量子箱から順に飽和していくことを利用している。ここで、エネルギー準位を占める電子または正孔の数は、たとえば2個である。したがって、電子または正孔が緩和する際の散逸エネルギー、すなわち1ビットの演算を行う際に消費するエネルギーは極めて小さいため、この量子演算素子は極めて低消費電力である。また素子構造が単純であるため、製造プロセスも単純である。
【0009】
より詳細には、たとえば、入力用量子箱に電子または正孔対生成エネルギーに共鳴するエネルギーの光子を照射して入力用量子箱内に電子−正孔対を発生させると共に、一方の電子または正孔の引き抜きを行って入力用量子箱に一旦電子または正孔を残し、しかる後、入力用量子箱の電子または正孔を光で励起させて量子箱列に遷移させることにより、量子箱列への入力を行うことができる。入力された電子または正孔は、量子箱列内の最低エネルギー準位が満たされている演算用量子箱にはパウリの排他律によりトンネリングが禁止されるため、未だ電子または正孔で満たされていない最も低い最低エネルギー準位を有する演算用量子箱へトンネリングする。これにより電子または正孔の入力を行うことができる。
【0010】
この発明の第1の発明および第2の発明における出力は、それぞれの演算用量子箱の中に局在した電子または正孔の離散化エネルギー差に共鳴するエネルギーを持った光子を照射すると、演算用量子箱内の電子または正孔の有無によって光の吸収または発光が生じるので、この光の吸収または発光の有無を観測することにより演算用量子箱内の情報を読み出すことができる。
【0011】
特に、第2の発明による量子演算素子によれば、複数の演算用量子箱と入力用量子箱の組がアレー状に配列された構造により、2次元パターン間の論理和、論理積またはそれらの複合演算を低消費電力かつ高速に行うことができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。なお、実施例の全図において対応する部分には、同一の符号を付す。
[第1実施例]
まず、この発明の第1実施例による量子演算素子について説明する。情報を担う粒子として電子を扱う場合について説明する。
【0013】
図1はこの第1実施例による量子演算素子の斜視図を示し、図2は図1の線I−Iに沿った方向の断面図を示す。なお、図1の線II−IIに沿った方向の断面図も図2と同様である。
図2においてQD0 ,QD1 ,QD2 は箱状の井戸層、いわゆる量子箱を示し、図1および図2においてB1 ,B2 ,B3 はそれぞれ障壁層を表す。量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質としては例えばGaAs(または、InAs,InGaAs等)が用いられ、障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質としては例えばAlGaAs(または、AlSb,AlGaSb等)が用いられる。量子箱QD0 と量子箱QD1 間の距離d2 は電子および正孔がトンネリング不可能な距離(例えば、50nm以上)、量子箱QD1 と量子箱QD2 間の距離d3 は電子または正孔がトンネリング可能な距離(例えば、数nm)とする。量子箱QD0 は、入力用の量子箱であり、QD1 ,QD2 は、それぞれ演算用の量子箱であり、これらの演算用量子箱QD1 、QD2 で量子箱列を構成している。
【0014】
量子箱QD0 〜QD2 を被覆する障壁層B1 の上面および下面には金属からなる上部電極ELU および下部電極ELL がそれぞれ形成されている。これらの上部電極ELU および下部電極ELL には、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に対応する部分に、それぞれ開口部O1 ,O2 を有し、これらの量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 と開口部O1 ,O2 とはほぼ同軸に配されている。後述のようにこれらの開口部O1 ,O2 は光入出力を行うために用いられる。
【0015】
図2の線α−αに沿った方向のエネルギーバンド図を図3に示す。図3中、EV1 ,EV2,EV3はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の価電子帯端のエネルギー、EC1,EC2,EC3はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の伝導帯端のエネルギー、EF はフェルミエネルギーを表す。また、φ1 、φ2 、φ3 はそれぞれ障壁層B1 ,B2 ,B3 を形成する物質の電子親和力、ψ0 、ψ1 、ψ2 はそれぞれ量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質の電子親和力を表す。これらは次式を満足している。
なお、図3に示したバンド図は、いわゆるタイプIのへテロ接合であるが、この場合、障壁層B1 ,B2 ,B3 のエネルギーギャップをそれぞれEgB1,EgB2,EgB3、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 のエネルギーギャップをそれぞれEgQ0,EgQ1,EgQ2とすると、次式を満足する。
【0016】
φ1 +EgB1,φ2 +EgB2>ψ0 +EgQ0
φ2 +EgB2,φ3 +EgB3>ψ1 +EgQ1 …(2)
φ3 +EgB3,φ1 +EgB1>ψ2 +EgQ2
上述のように、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 を形成する物質としてGaAsを用い、障壁層B1 を形成する物質としてAl0.3 Ga0.7 Asを用い、障壁層B2 、B3 を形成している物質としてAl0.2 Ga0.8 Asを用いた場合は式(1)は、満足されている。ただし、この場合にはφ2 =φ3 、ψ0 =ψ1 =ψ2 となる。
【0017】
また、E00 e ,E01 e ,E00 h はそれぞれ入力用量子箱QDO に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位である。同様に、E10 e ,E11 e ,E10 h はそれぞれ第1の物質より形成された第1演算用量子箱QD1 に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位、E20 e ,E21 e ,E20 h はそれぞれ第2の物質より形成された第2量子箱QD2 に局在した電子の最低エネルギー準位、第1励起エネルギー準位、正孔の最低エネルギー準位である。
【0018】
後述のように、電子または正孔の光励起により演算用量子箱に電子の入力を行うためには、入力用量子箱QD0 の離散化エネルギー差が、演算用量子箱QD1 ,QD2 の離散化エネルギー差よりも大きくなければならないから、
E00 e −E00 h >E10 e −E10 h …(3)
E00 e −E00 h >E20 e −E20 h …(4)
でなければならない。
【0019】
また、光の吸収または発光によって量子箱内の電子の有無を選択的に読み出すためには、
E10 e −E10 h ≠E20 e −E20 h …(5)
でなければならない。以上の条件により、図3に示したバンド図の構造を実現することができる。
【0020】
また、絶対温度Tで安定に動作するための条件として、価電子帯から熱的に量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に電子が励起されないために、
E00 e −E00 h >kB T …(6)
E10 e −E10 h >kB T …(7)
E20 e −E20 h >kB T …(8)
(ここで、kB =1.38×1023〔J/K〕, T:絶対温度)
でなければならない。
【0021】
また、量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 に局在した最低エネルギー準位E00 e ,E10 e ,E20 e に入力された電子が熱的に励起されないために、
EC2−E00 e >kB T …(9)
E11 e −E10 e >kB T …(10)
E21 e −E20 e >kB T …(11)
でなければならない。
【0022】
また、詳しくは以下でのべるが、量子箱QD1 ,QD2 に遷移した電子が量子箱QD0 に戻らないようにするため、
E20 e ,E10 e <E00 e …(12)
でなければならない。また、以下の説明では便利のために、E10 e −E10 h >E20 e −E20 h を仮定する。上記式(3)、(4)、(5)及び(12)の条件は、例えば入力用量子箱QD0 、第1演算用量子箱QD1 、第2演算用量子箱QD2 の各量子箱のα−α方向の厚さをそれぞれa0 ,a1 ,a2 とすると、
a0 <a1 <a2 …(13)
の条件により実現することができる。
【0023】
次に、上述するように構成された第1実施例による量子演算素子の動作原理について説明する。以下の説明では、電子を情報を担う粒子として説明する。
この第1実施例による量子演算素子への入力は次のようにして行う。入力時には、下部電極ELL を接地し、上部電極ELU にバイアス電圧Vg を印加し、図4のように
E21 e >E10 e >E20 e …(14)
の条件が成立するように素子にバイアスをかけるものとする。
【0024】
まず、第1の情報の入力法を説明する。振動数
νin1 =(E00 e −E00 h )/h
(ここで、h=6.63×10-34 J・s)
の光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または下部電極ELL の開口部O2 に照射する。すると、この光の照射によって、入力用量子箱QD0 内のみに選択的に電子−正孔対が生成される。エネルギー準位E00 e ,E00 h が二重にスピン縮退しているときはこのとき生成される電子−正孔対は2つである。図4に示すように、バイアスをかけている結果、障壁層B1 の実効の厚さが薄くなり、電子−正孔対のうち正孔は上部電極ELU に吸収される。この結果、振動数νin1 光の照射を止めても、入力用量子箱QDO 内に2個の電子が、取り残される。これによって、量子箱QDO 内への電子の注入を行うことができる。この場合のバイアス電圧は、通常はトンネリングしない障壁層B1 を電子または正孔がトンネリングできる程度の電界であり、具体的には例えば障壁層B1 の厚さ100nm当たり数V程度である。
【0025】
次に、不等式(EC2−E00 e )/h<νin2 <(EC1−E00 e )/hを満たす振動数νin2 の光を照射する。このとき、E00 e を占める2電子はエネルギーE00 e +hνin2 を持つ状態に励起され、障壁層B2 を越えて量子箱QD1 ,QD2 の結合系にエネルギーを散逸して遷移する。この場合、第1演算用量子箱QD1 に遷移した電子は、トンネリングによりエネルギー準位の低い第2演算量子箱QD2 に移る。その結果、図5に示すように、第2演算量子箱QD2 のエネルギー準位E20 e を2電子が占めた状態になる。その後、振動数hνin2 の光の照射を止める。この様にして、第1の情報を入力することができる。仮に、振動数νin2 の光が照射されている間にエネルギー準位E20 e に電子が緩和しても、式(12)を満足していれば、振動数νin2 の光に励起されて、緩和した電子が入力用量子箱QD0 に戻ることはできない。この様にして第1回目に入力された2電子を第1の入力ビット情報Ain1 =1とする。また、第1回目の情報入力時に上述の方法により電子を入力しないときはAin1 =0である。
【0026】
次に、第2の情報の入力方法を説明する。第2の情報の入力は第1の情報の入力後、第1の情報に用いた方法と同様にして行えばよい。すなわち、第1の情報の入力が終了した後、再び振動数νin1 の光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または下部電極ELL の開口部O1 に照射する。すると、まず入力用量子箱QD0 に2電子が入力される。次に、振動数νin2 の光を照射する。すると、入力用量子箱QD0 内の電子が演算用量子箱QD1 ,QD2 の結合系に遷移する。この、第2回目の情報入力時に入力された2電子を、第2の入力ビット情報情報Ain2 =1とする。また、第2回目の情報の入力時に上述の方法により電子を入力しないときはAin2 =0である。
【0027】
この、第1の実施例における量子演算素子においては次のようにして演算が行われる。
第1および第2の情報入力が終了した後の、第1演算用量子箱QD1 における電子の有/無を演算結果Aout1=1/0、第2演算用量子箱QD2 における電子の有/無を演算結果Aout2=1/0とする。
【0028】
第1の情報がAin1 =0、第2の情報がAin2 =0のとき、すなわち電子が全く入力されなかったときは演算用量子箱QD1 ,QD2 内に電子は存在しないので演算結果はAout1=0,Aout2=0となる。
第1の情報がAin1 =1、第2の情報がAin2 =0のとき、すなわち電子が2つ入力されたときは電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e を占有する。したがって、演算結果はAout1=0,Aout2=1となる(図5参照)。
【0029】
第1の情報がAin1 =0、第2の情報がAin2 =1のとき、すなわち電子が2つ入力されたときは電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e を占有する。したがって、演算結果はAout1=0,Aout2=1となる(図5参照)。
【0030】
第1の情報がAin1 =1、第2の情報がAin2 =1のとき、すなわち電子が4つ入力されたときは、パウリの排他律により電子はエネルギーの最も低い第2演算用量子箱QD2 に局在した準位E20 e と次にエネルギーの低い第1演算用量子箱QD1 に局在した準位E10 e を各々2個ずつ占有する。したがって、演算結果はAout1=1,Aout2=1となる(図6参照)。
【0031】
以上の結果を表にまとめると、表1の様になる。
【0032】
【表1】
この表1(真理値表)から、明らかに
Aout1=Ain1 AND Ain2
Aout2=Ain1 OR Ain2
の演算が行われていることがわかる。すなわち、AND演算(論理積)およびOR演算(論理和)が同時に行われていることになる。
【0033】
また、上述と逆に、演算用量子箱QD1 ,QD2 内の電子の有/無をそれぞれ、Aout1=0/1,Aout2=0/1と定義すると、明らかに
Aout1=Ain1 NAND Ain2
Aout2=Ain1 NOR Ain2
の演算が行われていることになる。すなわち、NAND演算およびNOR演算を行うことができる。
【0034】
以上のように、入力、出力のうちの一方のビット情報の(0,1)の定義を変換することにより、いつでもAND⇔NAND,OR⇔NOR等の変換が可能である。
次に、この第1の実施例における量子演算素子の演算結果の読み出しは、次のようにして行う。
【0035】
ビット情報Aout1を読み出すためには、振動数νout1=(E11 e −E10 e )/hの光を照射し、その吸収または発光を観測する。図7に示すように、第1演算用量子箱QD1 内のエネルギー準位E10 e に電子が存在すれば振動数νout1の光によって電子が第1エネルギー準位に共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和するので吸収または発光が生じる。一方、図8に示すように、第1演算用量子箱QD1 内のエネルギー準位E10 e に電子が存在しなければ振動数νout1の光の吸収は起こらず、光はそのまま透過する。このため、第1演算量子箱QD1 内の電子の有/無は、振動数νout1の光の吸収または発光の有/無を光検出器により観測することによって読み出すことができる。
【0036】
ビット情報Aout2を読み出すためには、振動数νout2=(E21 e −E20 e )/hの光を照射し、その吸収または発光を観測する。第2演算用量子箱QD2 内のエネルギー準位E20 e に電子が存在すれば振動数νout2の光によって電子が共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和するので吸収または発光は生じる。このため、量子箱内の電子は有/無は振動数νout2の光の吸収または発光の有/無を光検出器により観測することによって読み出すことができる(図9、10参照)。
【0037】
次に、この第1実施例による量子演算素子内のビット情報の消去の方法について述べる。演算用量子箱QD1 ,QD2 のビット情報の消去を行うためには、図11に示すように、入力時にかけたバイアスの逆バイアスをかける。この時、正孔が外部電極から素子内に注入され演算用量子箱QD1 、QD2 内の電子と再結合し、演算用量子箱内の電子が消去される。あるいは、演算用量子箱に正孔が注入されやすい場合は、上部電極ELU −下部電極ELL 間に印加したバイアスをゼロにすることで、外部電極から素子内に正孔が自然に注入される場合もある。
【0038】
以上の例は、電子を情報のビットとして扱う場合について述べたが、電子の方が、外部電極に引き抜かれ易い場合、すなわち不等式(電子に対する障壁層のポテンシャルバリア高さ×電子の有効質量)<(正孔に対する障壁層のポテンシャルバリア×正孔の有効質量)が満たされる場合、上記の説明において「電子」を「正孔」に、また「電子のエネルギー準位」を「正孔のエネルギー準位」に置き換え、正孔を入力用量子箱QD0 に残すことにより正孔を情報のビットとして扱うことも可能である。
【0039】
また、上記説明では、入力用量子箱から電子を量子箱列の方に遷移させる際に、バイアス電圧を印加した状態で行っているが、これは入力用量子箱QD0 に正孔が入ってこないように安定化するためであり、上記式(14)の条件がバイアスをかけていない状態で満たされていれば、特にバイアスは必要としない。
【0040】
次に、この第1実施例による量子演算素子の製造法について図12を参照しながら説明する。ここでは、井戸層W0 ,W1 ,W2 を形成する物質としてGaAs、障壁層B1 を形成する物質としてAl0.3 Ga0.7 As,障壁層B2 ,B3 を形成する物質としてAl0.2 Ga0.8 Asを用いるものとする。井戸層W0 ,W1 ,W2 は以下のプロセスを経て加工され、それぞれ量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 となる。
【0041】
まず、図12(A)に示すように、例えばGaAs基板S上に、例えば分子線エピキタシー(MBE)法、有機金属化学気相(MOCVD)法、有機金属分子線エピキタシー(MOMBE)法等により、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 、厚さa2 のGaAsからなるW2 層、厚さd3 のAl0.2 Ga0.8 Asからなる障壁層B3 、厚さa1 のGaAsからなるW1 層、厚さd2 のAl0.2 Ga0.8 Asからなる障壁層B2 、厚さa0 のGaAsからなるW0 層、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 を順次エピタキシャル成長させる。ここで、Al0.3 Ga0.7 As層からなる障壁層B1 の厚さは例えば100nm以上、Al0.2 Ga0.8 As層からなる障壁層B2 の厚さd2 は電子または正孔がトンネリング不可能な数10nm以上,障壁層B3 の厚さd3 は電子または正孔がトンネリング可能な数nm程度とする。また、井戸層W0 ,W1 ,W2 の厚さa0 ,a1 ,a2 は、量子箱内のエネルギー準位の離散化が顕著になる厚さであり、典型的には数nm〜数十nmとする。また、井戸層の厚みをa0 <a1 <a2 となるように積層することにより条件式(2)、(3)、(4)、(12)を満たすことができる。
【0042】
次に、図12(B)に示すように、例えば電子線リソグラフィー法や走査型トンネル顕微鏡(STM)、あるいは障壁層B1 と格子整合しない材料をMBE法等で数ML成長させて得られる島状のドット構造などを用いて、耐エッチング性を有するマスクMを障壁B1 上に形成する。具体的には、このマスクMは、例えば電子線リソグラフィー法や走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いる場合はSiO2 ,Si3 N4 などにより形成され、島状結晶成長を用いるときはAlGaAs上では格子不整合の大きな物質、例えばInAs等を用いる。マスクMの面積は(数nm)2 であることが望ましい。
【0043】
次に、マスクMを用いて、異方性の強いドライエッチング法、例えばエッチングガスとしてCH4 +HeやSiCl4 +He,Cl2 等を用いた反応性イオンエッチング(RIE)法や電子サイクロトロン共鳴(ECR)を用いた反応性イオンビームエッチング(ECR−RIBE)法等により、障壁層B1 、井戸層W0 、障壁層B2 、井戸層W1 、障壁層B3 ,井戸層W2 、障壁層B1 を基板表面に対して垂直方向に順次エッチングする。このとき、障壁層B1 は、全部エッチングしないで一部を残すようにする。これによって、図12(C)に示すように障壁B1 、井戸層W0 、障壁層B2 、井戸層W1 、障壁層B3 ,井戸層W2 、障壁層B1 がロッド状の形状にエッチングされる。次に、図12(D)に示すように、上述のエッチングにより除去された部分に障壁層B1 を形成する物質、例えばAl0.3 Ga0.7 Asをエピタキシャル成長させて埋める。
次に、選択エッチングを行いマスクMを除去した後、上部電極ELU および下部電極ELL に対応する形状のレジストパターンを形成し(図示せず)、例えば真空蒸着法により例えばAl膜やAu膜等の金属膜を素子の上下に形成した後、このレジストパターンをその上に形成された金属膜と共に除去する(リフトオフ)。これによって、図1および図2に示すように開口部O1 およびO2 を有する上部電極ELU および下部電極ELL が形成される。また、これらの電極ELU 、ELL は、素子の上下に金属膜を形成した後、エッチング等によりパターニングすることによって形成することもできる。なお、素子の上下に数10nmと光を十分透過する厚さの金属薄膜を形成することが可能な場合は、図1および図2に示したような開口部O1 およびO2 を形成しなくてもよい。
【0044】
このようにして、第1実施例による量子演算素子が完成される。
以上のように、この第1実施例による量子演算素子によれば、1ビットの情報を演算用量子箱QD1 およびQD2 内の2個の電子の有無により表し、これらの量子箱QD1 、QD2 の結合系のトンネリングがパウリの排他律により制御されることを利用することによりAND演算(論理積)およびOR演算(論理和)、あるいはNAND演算およびNOR演算を行うことができる。この場合、これらの演算は2個の電子のエネルギー緩和を利用して行っていることから、この第1実施例における量子演算素子においては消費されるエネルギーは極めて小さい。具体的には、従来の半導体メモリは1ビットの演算において104 個以上の電子または正孔のエネルギー緩和を用いるので、この第1実施例における量子演算素子の消費エネルギーは、従来の半導体メモリに較べて1/104 程度である。
[第2実施例]
次に、この発明の第2実施例による量子演算素子について述べる。
【0045】
図13は、この第2実施例による量子演算素子の断面図であり、図2に対応するものである。
図13に示すように、この第2実施例による量子演算素子は、量子箱がn+1段(n≧3)形成されていることを除いて、第1実施例による量子演算素子と同様な構造を有する。すなわち、この第2実施例による量子演算素子においては、n+1段の量子箱QD0 ,QD1 ,QD2 ,…,QDn-1 ,QDn が形成されており、1個の入力用量子箱QD0 、及びn個の演算用量子箱QD1 ,QD2 ,…,QDn-1 ,QDn で構成されている。また、図13に示すように量子箱は障壁B1 ,…,Bn+1 に埋め込まれているとする。
【0046】
上部電極ELU に印加するバイアス電圧Vg =0のときの図13の線β−βに沿った方向のエネルギーバンド図を図14に示す。Eci,φi (i=1,…,n+1)はそれぞれ障壁層Bi を形成する物質の伝導帯端のエネルギー、電子親和力を表す。また、ψi (i=0,…,n)は量子箱QDi を形成する物質の電子親和力を表す。EF はフェルミエネルギーを表す。
【0047】
以下では情報のキャリアとして電子を扱う場合について説明する。次の条件が満たされているとする。
1.量子箱QDi 内に電子が束縛されるための必要条件
φ1 <φi <ψj , …(21)
(i=2,…,n+1;j=0,…,n)
2.光励起により入力用量子箱QD0 に選択的に電子を入力する条件
E00 e −E00 h >Ei0 e −Ei0 h ,(i=1,…,n) …(22)
3.各量子箱QDi 内のビット情報を選択的に読み出し可能な条件
Ei1 e −Ei0 e ≠Ej1 e −Ej0 e ,(i≠j) …(23)
4.価電子帯からの熱的な電子の励起による量子箱QDi への電子の注入が行われない条件
Ei0 e −Ei0 h >kB T,(i=1,…,n) …(24)
5.量子箱QDi に局在したエネルギー準位Ei0 e に入力された電子が熱的に励起エネルギーEi1 e に励起されない条件
Ei1 e −Ei0 e >kB T …(25)
6.量子箱QDi (i≠0)に入力された電子が量子箱QD0 に戻らないようにする条件
Ei0 e <E00 e (i=1,…,n) …(26)
また、以下では説明を簡便にするために
En0 e <En-1 e <…<E20 e <E10 e …(27)
とする。
【0048】
この第2実施例による量子演算素子への入力は次のようにして行う。なお入力時には、第1実施例による演算素子と同様にして、条件
En0 e <En-1 0 e <…<E20 e <E10 e <En1 e …(28)
が満たされる範囲で下部電極ELL と上部電極ELU 間にバイアス電圧を印加しておく。n段の演算用量子箱QD1 ,…,QDn があるときは、これらの量子箱列に最大nビットの情報を入れることができる。第1情報から第n情報の入力は、次の手順(a)〜(c)を繰り返すことによって行われる。
【0049】
(a)ビット情報が1のときは、振動数νin1 を有する光を例えば上部電極ELU の開口部O1 または開口部O2 の部分に照射して、入力用量子箱QD0 内に電子−正孔対を生成させる。この電子−正孔対のうち正孔は、印加バイアスのため上部電極ELU に吸収される。この結果、入力用量子箱QF0 内のエネルギー準位E00 e に電子が入力される。エネルギー準位がスピンに関して二重に縮退しているならば、入力される電子の数は2個である。
【0050】
(b)次に、振動数νin2 の光を照射する。このとき、E00 e を占める電子はエネルギーE00 e +hνin2 を持つ状態に励起され障壁層B2 を越えて量子箱列QD1 ,…,QDn にエネルギーを散逸して遷移する。その後、振動数vin2 の光の照射を止め一つの情報の入力が終わる。
【0051】
(c)ビット情報が0のときは、何もしない。
次に、この第2実施例による量子演算素子の演算は次のように行われる。量子箱列QD1 ,…,QDn に緩和した電子は、低いエネルギー準位を有する量子箱から占有していく。特に各エネルギー準位がスピンに対して2重に縮退していくときは、エネルギーの低い順からパウリの排他律により2個づつの電子で占有されていく。
【0052】
以上のことから、i回目の電子の入力の有/無をビット情報Aini =1/0とし、全情報入力後のj番目にエネルギーの低い準位、すなわち、ここでは量子箱QDn-j を占有している電子の有/無をビット情報Aoutj=1/0とすると、演算結果を表すビット情報Aoutjは、
Aout j =∪i 1,...,i n-j (∩k ≠i 1,...,i n-j Ain k )…(29)
で与えられる。
【0053】
具体的には、例えばn=4、すなわち量子箱QD0 ,…,QD4 を有する場合、真理値表は表2に表すようになる。
【0054】
【表2】
【0055】
次に、この第2実施例による量子演算素子の出力は次のようにして行う。
演算用量子箱QDi 内のエネルギー準位Ei0 e に電子が存在すれば、振動数νouti=(Ei1 e −Ei0 e )/hの光によって共鳴励起され、励起された電子は非発光緩和または発光緩和を生じるので吸収または発光が生じる。また、量子箱QDi 内のエネルギー準位Ei0 e に電子が存在しなければ、振動数νoutiの光の共鳴励起、または共鳴緩和のため吸収または発光は生じない。すなわち、i段目の量子箱QDi 内のビット情報は、振動数νoutiの光を照射し、その吸収また発光を観測することにより読み出すことができる。
【0056】
この第2実施例による量子演算素子の消去は、第1実施例による量子演算素子と同様に、入力時にかけたバイアスの逆バイアスをかける。あるいは上部電極ELU にかけるバイアス電圧を0にすることにより行うことができる。
この第2実施例による量子演算素子の製造方法は、第1実施例による量子演算素子と同様であるので説明を省略する。
[第3実施例]
つぎに、この発明の第3実施例による量子演算素子について説明する。
【0057】
図15はこの第3実施例による量子演算素子を示す断面図であり、図2または図13に相当するものである。
この第3実施例は、第1実施例に示した量子演算素子を2次元状に配置したような構造を有し、入力用量子箱QD0 と、演算用量子箱QD1 ,QD2 で構成される一組の量子箱を一単位としてマトリックス状に並べ、これらを障壁層B1 ,B2 ,B3 で被覆し、更に障壁層B1 の上下の面には一単位の量子箱に対応するそれぞれの開口部Oを有する上部電極ELU 、下部電極ELL が形成されている構造を有する。
【0058】
この第3実施例による量子演算素子の入力、演算、読み出しおよび消去は、第1実施例による量子演算素子と同様にして行うことができる。この場合、出力時に必要な光の測定は、例えば電荷結合素子(CCD)のような2次元センサーを用いることにより行うことができる。
【0059】
この第3実施例による量子演算素子によれば、第1実施例による量子演算素子と同様に極めて低消費電力であることに加えて、演算を並列的に行うことができることにより高速演算が可能である。
従来のデジタルパターン処理の最大の欠点は、処理に時間がかかることである。すなわち、従来のデジタルパターン処理においては、膨大な情報量があるパターンの各画素を1画素つづ直列的に処理するため、処理に膨大な時間がかかる。この問題は、この第3実施例により量子演算素子を用いてパターン処理を行うことにより解決することができる。そこで、次にこの第3実施例による量子演算素子によりパターン処理を行う方法について説明する。
【0060】
いま、第1実施例による量子演算素子の入力時と同じ条件下で、この第3実施例による量子演算素子に、まず、図16(A)に示すようにパターン{Ain1 }を入力する。すなわち、パターン{Ain1 }の形状に第1実施例の入力法を用いて、同図の斜線を施したような光を照射する。この例においては、パターン{Ain1 }は3角形の形状を有する。この結果、2次元アレー状に配列された複数の量子箱QD2 のうちのパターン{Ain1 }に対応する部分にふくまれるもののみ電子が入力される。
【0061】
次に、図16(B)に示すように、上述と同様にして別のパターン{Ain2 }を入力する。この例においては、このパターン{Ain2 }は逆3角形の形状を有する。
その結果、2次元アレー状に配置された複数の量子箱QD1 のうちパターン{Ain1 }とパターン{Ain2 }との論理積に対応する部分に含まれるものだけに電子が入力された状態が実現される。この状態を図17(A)の斜線で示す。一方、複数の量子箱QD2 のうちパターン{Ain1 }とパターン{Ain2 }との論理和に対応する部分に含まれるものだけに電子が入力された状態が実現される。この状態を図17(B)の斜線で示す。すなわち、量子箱QD1 のアレーに含まれる電子のパターンを{Aout1}と、量子箱QD2 のアレー含まれる電子のパターンを{Aout2}とすると、演算
Aout1={Ain1 }AND{Ain2 }
Aout2={Ain1 }OR{Ain2 }
が行われたことになる。
【0062】
そして、読み出しは、パターン{Aout1}に関しては振動数νout1、パターン{Aout2}に関しては振動数νout2の光を照射し、その光の吸収または発光パターンを読み出すことにより行うことができる。
これらのパターンの演算は、高速かつ低消費電力で行うことができる。
【0063】
以上のようにして実現されるパターン間の論理積、論理和は、パターン処理における基本演算であり、CADやコンピュータ・グラフィックスなどにおいて不可欠なものである。したがって、この第3実施例による量子演算素子は、これらのCADやコンピュータ・グラフィックスにおける高速プロセッサに適用することができる。
【0064】
以上、この発明の実施例について具体的に説明したがこの発明は、上述の実施例に限定されるものでなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、第2実施例の量子演算素子を2次元的に並べることにより、第3実施例と同様にして2次元パターン{Ain1 },…,{Ainn }間の論理和、論理積およびそれらの複合演算{Aout j }=∪i 1,...,i n-j (∩k ≠i 1,...,i n-j {Aink })を実行することができる。
【0065】
また、上記の第1実施例において説明した量子演算素子の製造法は一例に過ぎず、他の製造方法を用いてもよいことは言うまでもない。
さらに、上述の第1実施例、第2実施例および第3実施例においては量子箱に電子を入力し、電子を情報の担い手として用いているが、量子箱に正孔を入力し、この正孔を情報の担い手として用いてもよい。
【0066】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、低消費電力で高速でしかも製造プロセスが単純な量子演算素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例による量子演算素子を示す斜視図である。
【図2】図1の線I−IまたはII−IIに沿った方向の断面図である。
【図3】図2の線α−αに沿った方向のエネルギーバンド図である。
【図4】この発明の第1実施例による量子演算素子の入力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図5】この発明の第1実施例による量子演算素子の入力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図6】この発明の第1実施例による量子演算素子の演算方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図7】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図8】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図9】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図10】この発明の第1実施例による量子演算素子の出力方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図11】この発明の第1実施例による量子演算素子の消去方法を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図12】(A)〜(D)はこの発明の第1実施例による量子演算素子の製造方法を説明するためのそれぞれ断面図である。
【図13】この発明の第2実施例による量子演算素子を示す断面図である。
【図14】図13の線β−βに沿った方向のエネルギーバンド図である。
【図15】この発明の第3実施例による量子演算素子を示す断面図である。
【図16】(A)、(B)は、この発明の第3実施例による量子演算素子をパターン処理に適用した例を説明するためのそれぞれ斜視図である。
【図17】(A)、(B)は、この発明の第3実施例による量子演算素子をパターン処理に適用した例を説明するためのそれぞれ斜視図である。
【符号の説明】
ELU …上部電極、ELL …下部電極、B1 〜Bn+1 …障壁層、QD0 …入力用量子箱、QD1 〜QDn …演算用量子箱(量子箱列)、O1 ,O2 …開口部
Claims (8)
- キャリアのトンネリングが相互に可能な間隔で配置されている複数の演算用量子箱と、
前記複数の演算用量子箱に対して非励起状態ではキャリアのトンネリングが不可能な距離をおいて配置されている入力用量子箱と、を有し、
前記複数の演算用量子箱は、隣接する2つの演算用量子箱で基底状態である最低エネルギー順位と次のエネルギー順位との差が異なり、
前記基底状態である最低エネルギー順位が前記隣接する2つの演算用量子箱で異なる状態において、前記入力用量子箱で励起したキャリアを前記複数の演算用量子箱に遷移させるか否かを入力情報とする
量子演算素子。 - 前記複数の演算用量子箱に入力されたキャリアが基底状態に向けて緩和する過程で取りうるエネルギー順位がパウリの排他律により下位から順次決められることによって、前記隣接した2つの演算用量子箱を単位として論理和または論理積に対応したキャリア占有状態を実現し、当該キャリアの占有状態を演算用量子箱ごとに読み出すことによって論理演算結果を得る
請求項1に記載の量子演算素子。 - 前記最低エネルギー準位を占めるキャリアの有無をビット情報とし、前記隣接する2つの演算用量子箱で合計2ビットの情報を単位として前記キャリア占有状態を実現する
請求項2に記載の量子演算素子。 - 前記入力用量子箱は、前記複数の演算用量子箱のどの正孔準位−電子準位の差よりも大きい正孔準位−電子準位の差を有する
請求項1記載の量子演算素子。 - 上記入力用量子箱にバイアス電圧を印加した状態で、入力用量子箱の電子−正孔対生成エネルギーに共鳴するエネルギーの光を入力用量子箱に照射することにより当該入力用量子箱内に電子−正孔対を生成し、生成した電子または正孔の一方を入力用量子箱から引き抜き、
入力用量子箱内に残った他方の電子または正孔に光を照射することにより励起させて前記複数の演算用量子箱へ遷移させる
請求項1記載の量子演算素子。 - 前記2つの演算用量子箱について、演算用量子箱ごとに、前記基底状態と前記次のエネルギー順位との離散化エネルギー差に共鳴するエネルギーを持った光を照射し、該演算用量子箱内の電子または正孔の有無による光の吸収または発光の有無を観測することにより各演算用量子箱内の情報をそれぞれ読み出す
請求項1記載の量子演算素子。 - 前記複数の演算用量子箱に対し、その配列方向の一方側に前記入力用量子箱が隣接し、当該配列方向と直交する面内で、前記複数の演算量子箱および前記入力用量子箱の組が複数、アレー状に配置されている
請求項1に記載の量子演算素子。 - 個々の前記入力用量子箱に対し光を入射することによって前記キャリアを発生させ演算用量子箱に遷移させることを行うか否かを入力すべきビット情報とし、当該ビット情報の入力に際し、所定形状の照射面を有する光の照射を前記照射面の形状を変化させて繰り返す
請求項7に記載の量子演算素子。
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- 1996-06-05 JP JP14321296A patent/JP3653868B2/ja not_active Expired - Fee Related
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