JP3652566B6 - 超音波振動子 - Google Patents

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聡 糸谷
潤一郎 副島
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波振動子に関するものであり、特に、音響整合層の形状を工夫することにより送受信感度の向上を図った超音波振動子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
大気中や海中の障害物を検出したり、このような障害物や標的までの距離を計測するなどの目的で、超音波振動子が使用される。この超音波振動子は、圧電機能を有する圧電セラミックなどから構成され、大気中や海水中に超音波を放射し伝播した超音波を直接又は物体からの反射波を受信して電気信号に変換するように構成されている。
【0003】
この種の超音波振動子においては、振動子と媒質(空気や水など)との界面を超音波が小さな反射損失で通過できるように、振動子と媒質との間に音響整合層が設けられる場合がある(特開昭59−171295号)。このような音響整合層の音響インピーダンスは、振動子の内部と媒体内部のインピーダンスの幾何平均値に設定されると共に、厚みも1/4波長に設定される(特開平3−186252号等)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、上記音響整合層についての検討を重ねるうちに、上述した材質と厚みとに加えて、従来知られていない最適な形状が存在しそうであるとの見通しを得るに至った。従って、本発明の一つの目的は、音響整合層の形状について最適化を図った超音波振動子を提供することある。
【0005】
また、本発明者は、上記音響整合層についての検討を重ねるうちに、このような音響整合層には、インピーダンスの整合の他に、振動モードの変換にも利用できそうであるとの見通しを得るに至った。従って、本発明の他の目的は、音響整合層を振動子モードの変換機構として利用することにより、駆動電圧の低減と励振能率の向上による送受信感度の向上を図った超音波振動子を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術の課題を解決する本発明の超音波振動子は、前方に向けて断面積が拡大される形状の音響整合層が前端面の全面に振動伝達媒体を介在させることなく直に固着されている。
【0007】
本発明の好適な実施の形態によれば、音響整合層の音響インピーダンスは、超音波振動子の内部の音響インピーダンスとこの超音波振動子を囲む媒体の音響インピーダンスとの幾何平均値の近傍に設定されている。
【0008】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、音響整合層の厚みはその内部を伝播する超音波振動の1/4波長にほぼ等しい値となるように設定されている。
【0009】
本発明の更に他の好適な実施の形態によれば、上記断面積の拡大率は、前後の端面間でほぼ2倍の値に設定されている。
【0010】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、本体部分の後端面が音響整合層よりも小さな剛性の素材を介して保持されることにより音響整合層が振動モードの変換機構とした利用されると共に、この本体部分が径方向の振動子モードを励振するための低電圧で駆動される。
【0011】
【実施例】
図1は、本発明の一実施例の超音波振動子の構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図、(C)は斜視図である。この超音波振動子は、本体部1と、この本体部1に取付けられた音響整合層2とから構成されている。
【0012】
本体部1は、円板形状の圧電セラミックスと、その表面側及び裏面側に形成された電極と、この電極から引き出されるリード線(図示せず)とから構成されている。音響整合層2は、エポキシ樹脂を素材とし、円錐形状を呈している。このようなエポキシ樹脂としては、適宜なものが使用可能である。この実施例では、米国のシンテックマテリアルズ社からシンフォームの商品名で発売されている微小な中空のガラス球を含有するものを使用した。このシンフォームの密度、剛性はそれぞれ676Kg/m3, 3.39×109N/m2 であり、音速は2240m/s である。この音響整合層2は、エポキシ系の接着剤によって本体1の表面に固定される。
【0013】
音響整合層2の音響インピーダンスは、圧電セラミックの音響インピーダンスと超音波が放射される媒体の音響インピーダンスとの幾何平均値であることが望ましい。媒体が水であればこの条件を満たすことが容易であるが、空気の場合には難しい。しかしながら、音響整合層2の音響インピーダンスを空気の音響整合層の音響インピーダンスとの幾何平均値から離れた両者の中間の値に設定することにより実用的な特性が得られることが確認された。また、音響整合層2の厚みがこの内部を伝播する超音波の1/4波長にほぼ等しい値に設定されることにより、その上面に変位量が最大となる振動の腹が形成される。この実施例では14.2mmの厚みに設定されている。
【0014】
図1の超音波振動子は、図2の断面図に示す構造の保持機構(ハウジング)に一体化された状態で使用される。この保持機構4は、ABS樹脂を素材にすると共に、圧肉の底面4a及び側面4bと、薄肉の上面4cとを有する概ね円筒形状を有している。本体部1が剛性の小さなスポンジの層3と接着剤層とを介して保持機構4の底面4aに固定されると共に、この本体部1の表面に接着固定された音響整合層2の表面が薄肉の上面4cの内面に接着固定されている。
【0015】
本体部1を低電圧で駆動するために、この本体部1に厚み方向よりはむしろ径方向の振動モードを主体として発生させる。そして、音響整合層2を本体部1に対する振動モード変換機構として機能させることにより、径方向の振動モードを厚み方向の振動モードに変換させる。すなわち、超音波振動子の本体部1の底面が剛性の小さなスポンジの層3上に保持されることにより、図3(A)と(B)に示すように、本体部1の底面が自由端で近似される。そして、本体部1の上面はこのスポンジに比べれば相当大きな剛性を有する音響整合層2に固定されている。
【0016】
この結果、励振された径方向の振動モードによって本体部1が径方向に伸びようとする場合、音響整合層2に拘束された上面側があまり伸びないが自由端に近い底面側は自由に伸びる。この結果、図3の(A)に示すように、本体部1は底面側を主体として径方向に伸び、厚み方向に縮む。逆に、励振された径方向の振動モードによって本体部1が径方向に縮もうとする場合、大きな剛性の音響整合層2に拘束された上面側はあまり縮まないが自由端に近い底面側は自由に縮む。この結果、図3の(B)に示すように、本体部1は底面側を主体として縮み、厚み方向に伸びる。
【0017】
このように、径方向の励振モードによって本体部分1が径方向に伸縮することにより厚み方向(図中の上下方向)への振動が励振される。これを概念的に示すと、図5に矢印で示すように、径方向への振動が厚み方向への振動に変換されることになる。すなわち、本体部1の底面側を音響整合層に比べて小さな剛性の層で保持することにより、音響整合層2に径方向の振動を厚み方向の振動子に変換するモード変換機構として機能させる。本実施例によれば、本体部分1にPZTを使用し、これを径方向に40kHz で共振させるために、直径を49mmとする。
【0018】
一般に、円板形状の圧電セラミックスの上下両面に電極を形成し、この電極間に駆動電圧を供給して数十kHz 〜数百kHz の振動を励振する場合、厚み方向の振動を励振するよりも相当低い駆動電圧によって径方向の振動を励振できる。そして、上述した音響整合層による振動モードの変換機能を考慮して、本体部分1のその表面の全ての箇所において、厚み方向に同位相で振動するものと近似し、FEM圧電解析シミュレーションを行った。
【0019】
図4は、上記シミュレーションによって得られたこの実施例の超音波振動子の指向性である。この指向性は、この実施例の超音波振動子の本体部1の中心に立てた法線のまわりの角度に対する放射音圧の依存性をdBの単位で示したものである。パラメータは、音響整合層2の上面の直径(mm)である。
【0020】
音響整合層の上面の直径が底面の直径と同一の49mmの場合、すなわち、音響整合層が従来例と同様に前方へのテーパを全く有しない円柱形状の場合には、広い指向性が得られる。音響整合層の上面の直径を60mm、70mm、80mm、90mmという具合に次第に増加させるにつれて指向性が次第に鋭くなるという結果が得られた。
【0021】
一方、音響整合層の底面の直径に対してその上面の直径を増加しすぎると、上面に鋭角の外周部分が形成され、このシミュレーションでは解析できない何らかの弊害が生ずることが予想される。例えば、この鋭角状の外周部分において、上面とこの上面に対向するように傾斜した側面との間で多重反射が生ずることが考えられる。このような予想される弊害を考慮すると、上面の直径の最適値は70mm程度と予想される。この70mmの値は、底面と上面の寸法の比率が直径比で1.43倍であり、面積比では2.04倍であることを意味する。
【0022】
49φの本体部分に底面が49φで上面が70φの音響整合層を取付けた本実施例の超音波振動子と、49φの本体部分に底面と上面が共に49φの円柱形状の音響整合層を取付けた超音波振動子を準備し、板状の反射物体を標的として送受往復の送受信利得を測定した。本実施例の超音波振動子では円柱形状の音響整合層を取付けものに比べて2.5 倍程度大きな受信レベルが得られた。
【0023】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の超音波振動子によれば、前方に向けて断面積が拡大される形状の音響整合層が本体部分の前端面に固着されているので、指向性の鋭敏化などに伴い高感度の送受信が可能になる。
【0024】
特に、音響整合層の断面積の拡大率を、前後の端面間でほぼ2倍の値に設定することにより最適の送受信感度を実現できる。
【0025】
また、超音波振動子の本体部分の後端面は、音響整合層に比べて小さな剛性の素材を介して保持すると共に、径方向の励振を行うことにより、音響整合層を振動子モードの変換機構とし、高い送受信感度が実現される。
【0026】
このように、径方向の振動モードを励振することにより、厚み方向の振動モードを励振する場合に比べて励振に必要な電圧が大幅に低められる。この結果、励振回路が簡易・安価になると共に、使用時の安全性も高まるなどの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の超音波振動子の構成を示す平面図(A)、断面図(B)、斜視図(C)である。
【図2】上記実施例の超音波振動子が保持機構に一体化された使用状態の構成を示す断面図である。
【図3】音響整合層による振動モード変換機能を説明するための概念図である。
【図4】FEM圧電解析計算機シミュレーションによって得られた振動レベルの角度依存性(指向性)である。
【図5】径方向の振動が厚み方向の振動に変換される様子を示す概念図。
【符号の説明】
1 振動子本体部分
2 音響整合層
3 スポンジ
4 保持機構

Claims (7)

  1. 前方に向けて断面積が拡大される形状の音響整合層が本体部分の前端面の全面に振動伝達媒体を介在させることなく直に取付けられたことを特徴とする超音波振動子。
  2. 請求項1において、
    前記音響整合層の音響インピーダンスは、超音波振動子の内部の音響インピーダンスとこの超音波振動子を囲む媒体の音響インピーダンスとの中間の値に設定されたことを特徴とする超音波振動子。
  3. 請求項1と2のそれぞれにおいて、
    前記音響整合層の厚みはその内部を伝播する超音波振動の1/4波長にほぼ等しい値となるように設定されたことを特徴とする超音波振動子。
  4. 請求項1乃至3のそれぞれにおいて、
    前記断面積の拡大率は、前後の端面間でほぼ2倍の値に設定されたことを特徴とする超音波振動子。
  5. 請求項1乃至4のそれぞれにおいて、
    前記本体部分の後端面は、前記音響整合層よりも小さな剛性の素材を介して保持されたことを特徴とする超音波振動子。
  6. 請求項5において、
    前記音響整合層の後端部分は、前記本体部分の周縁部分を取り囲む状態でこの本体部分に固着されたことを特徴とする超音波振動子。
  7. 請求項5と6のそれぞれにおいて、
    前記本体部分は、径方向の振動子モードを励振するための低電圧の駆動信号によって駆動されることを特徴とする超音波振動子。
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