JP3652416B2 - ボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、火力発電用ボイラの予防保全における材料損傷診断評価方法に係り、特にボイラ水壁管の疲労損傷度合を評価し、その損傷度合を表示する方法であって、ボイラ水壁管の部分的な検査結果から全体の損傷度合を定量的に評価し、その損傷度合を視覚的に表示するボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
火力発電用ボイラを十年以上運転すると、水壁管内面に腐食疲労と称される腐食を伴った線状の亀裂が発生しやすくなる。図7(a)、(b)、(c)に、代表的な腐食疲労亀裂の発生状況を示す。図7(a)は、水壁管内面に発生した線状の亀裂の顕微鏡写真をスケッチして図面化したものであり、図7(b)は、図7(a)のA−A断面図であり、図7(c)は、図7(b)のB部拡大図を示す。図において、1はボイラ水壁管、3はフィラープレート、6は腐食疲労亀裂を示す。
この水壁管内面の線状の腐食疲労亀裂が進展していくと、水壁管内の高温高圧水の漏洩事故や、伝熱管の噴破事故に繋がることから、経年ボイラにおいては腐食疲労亀裂の進展解析が重要な課題となっている。
火力発電用ボイラの蒸発水壁管には、図6(a)、(b)に示すような形状の金属部品4が溶接により多数取付けられている。この金属部品4が溶接された部分では、ボイラの起動、停止時のような温度変動時においては、金属部品4とボイラ水壁管(伝熱管)1との間に温度差が生じ熱応力が発生する。この熱応力の繰り返しと、腐食性作用の組み合わせにより、ボイラ水壁管1の内面に腐食疲労亀裂6が発生し、ボイラの運転時間が十万時間以上、運転年数で十数年以上の経年ボイラでの伝熱管材料の損傷が問題となってきている。特に、最近のボイラは、電力需要に対応するため、起動停止回数が従来よりも大幅に増加しており、腐食疲労にとって過酷な条件となっている。
ボイラ水壁管内面の腐食疲労は、応力または歪み振幅の大きさ、その繰返し数、繰返し速度、または歪み速度、腐食を支配する環境条件および材料物性の影響を受けることが種々の調査研究により明らかにされている〔▲1▼R. W. Patterson et al. : Corrosion Fatigue Boiler Tube Failure in Waterwalls and Economizers; EPRI Report TR-10045 ('93-12)、▲2▼J. Stodala et al. : Status of Corrosion Fatigue Failure Investigation in Drum Type Utility Boilers; 50th Annual Meeting International Water Conference ('89-10)、▲3▼J. W. H. Prise et al. : Cyclic Magnetite Damege and Consequential Cracking in Waterwall Tubes; 50th Annual Meeting International Water Conference ('89-10)〕。
しかし、ボイラ水壁管内面の腐食疲労は、その影響因子が多い上に、応力または歪み振幅の大きさも金属部品の形状寸法、設置されている場所、言い換えれば温度条件の影響を受けるため、一概に調査していない箇所の損傷、亀裂深さ、または余寿命を、従来の発生応力の大きさだけで推定したり予測することができないのが現状である。
また、大型火力発電用ボイラの水壁管には、20〜30種類からなる多種類の金属部品が多数個、取付けられており、対象とするボイラ水壁管の部位は2万ないし数万箇所に及んでいる。このような非常に多数の部位を、限られた定検期間中に検査することはすこぶる困難であり、何らかの手段で推定したり、あるいは予測せざるを得なくなる。また、すでに発生している腐食疲労亀裂が今後どのような形や速度で進展していくかを予測することも重要な課題となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術において、大型火力発電用ボイラ等の水壁管には20〜30種類からなる多種類の金属部品が多数個取り付けられており、対象とする伝熱管の部位は2万ないし数万箇所に及んでいる。このような非常に多数の伝熱管の部位を、限られた定検期間中に検査することは、例えば、高速コンピュータで計算しても数十時間かかることから実用的に困難であり、また、すでに発生している腐食疲労亀裂が今後どのような形状や速度で進展していくのかを予測することも重要な課題となっている。
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術における課題ならびに問題点を解消するものであって、応力振幅測定に用いる金属部品を十種類以下に分類し、1〜2m角の大きさに区切って区画を形成し、該区画を複数のゾーンに分類し、番地付けして、上記金属部品を溶接により、それぞれの区画の水壁管に装着し、金属部品の種類(型式)から金属部品の設置(装着)場所における応力振幅(σa)を算出し、腐食疲労亀裂深さ等を求めることにより、迅速に腐食疲労損傷度を評価して診断することができ、視覚に訴える表現手段で効果的に表示し得るボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記本発明の目的を達成するために、本発明は特許請求の範囲に記載のような構成とするものである。すなわち、
本発明は請求項1に記載のように、ボイラ水壁管の疲労損傷度合を評価し、その損傷度合を表示する方法であって、ボイラ水壁管を任意の一定面積ごとに区切って複数の区画を形成し、該区画を複数のゾーンに分類して番地付けを行うと共に、上記区画中のボイラ水壁管に溶接により装着された任意の設定形状を有する複数の金属部品の種類とゾーン別の応力係数を設定して、上記金属部品を装着した区画のボイラ水壁管の内面もしくは溶接部の応力振幅(σa)を算出し、上記ボイラ水壁管の区画ごとの疲労損傷度合を評価して、上記算出された応力振幅(σ a )から求められる疲労亀裂進展速度(da/dN)、ボイラの起動停止回数(N)、腐食または孔食進展速度(da/dt)、および運転時間、停止時間、運転年数および酸洗時間等のボイラの腐食に関与する時間(t)を用い、下記の(数1)式により算出される腐食疲労亀裂深さ(a CF )から、上記ボイラ水壁管の疲労損傷度合を視覚的に表示する手段を少なくとも用いるボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法とするものである。
a CF =(da/dN ) ・N+(da/dt ) ・t……(数1)
このように、ボイラ水壁管を区画分けして、ゾーン別に分類しているので、従来のように応力振幅を測定するのに多種類(20〜30種類)の金属部品を用いることなく、数種類(10種以下)で済み、また応力振幅の測定の対象とするボイラ水壁管の部位も区画分けしているので、使用する金属部品の数も非常に少なく、従来の2万ないし数万箇所に対し、その数十分の一ないし数百分の一で済むことになる。したがって、ボイラ水壁管の経年劣化寿命を支配する腐食疲労亀裂損傷について、部分的な検査結果から全体の損傷度合を迅速に診断することができ、さらに、上記(数1)式により算出されたボイラ水壁管の腐食疲労亀裂深さ(a CF )から、ボイラ水壁管の疲労損傷度合を視覚的に表示する手段を用いるため、定量的にボイラ水壁管の疲労損傷度合を診断表示できる効果がある。
また、本発明は請求項2に記載のように、請求項1において算出されたボイラ水壁管の腐食疲労亀裂深さ(aCF)と、強度上必要な最小必要肉厚(tsr)までの残肉厚の大きさ(tsr−aCF)もしくは残肉厚が強度上必要な最小必要肉厚(tsr)に達するまでの期間を、一つ以上のレベルに分別して色分け基準を作成し、ボイラ水壁管を任意の一定面積ごとに区切った複数の区画ごとに、色分け表示するカラーマッピング手段を少なくとも用いるボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法とするものである。このように、強度上必要な最小必要肉厚(tsr)までの残肉厚の大きさ(tsr−aCF)、もしくは残肉厚が強度上必要な最小必要肉厚(tsr)に達するまでの期間(余寿命)をカラーマッピング手段により表示するため、上記請求項1の効果に加えて、あと何年間の使用に耐え得るかを定量的に診断できる効果がある。
また、本発明は請求項3に記載のように、請求項2において、色分け基準は、設計必要肉厚(tsr)までの
残肉厚が0.00mm未満のものを赤色、
残肉厚が0.00mm以上、0.25mm未満のものをピンク色、
残肉厚が0.25mm以上、0.50mm未満のものを黄色、
残肉厚が0.50mm以上のものを青色とするか、
もしくは、
残肉厚が設計必要肉厚(tsr)に達するまでの
余寿命(年数)が1年未満のものを赤色、
余寿命が1年以上、4年未満のものをピンク色、
余寿命が4年以上、7年未満のものを黄色、
余寿命が7年以上のものを青色とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法である。このように、残肉厚または余寿命を、例えば、赤色、ピンク色、黄色、青色とに、色分けして表示するので、上記請求項1の効果に加えて、ボイラ水壁管全体の腐食度合を定量的に把握することができる。
また、本発明は請求項4に記載のように、請求項2または請求項3において、色分け表示するカラーマッピング手段は、ボイラ水壁管の展開図と組み合わせて構成したカラーマッピング図による表示とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法である。このように、ボイラ水壁管の展開図と組み合わせて構成したカラーマッピング図とすることにより、上記請求項1の効果に加えて、ボイラ水壁管の位置と腐食度合をマッチさせることができ、保守点検の能率を向上することができる。
また、本発明は請求項5に記載のように、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のボイラ水壁管の疲労損傷の診断表示方法を、少なくとも2種以上組み合わせて用いるボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法とするものである。このようにすることにより、上記請求項1の効果に加えて、ボイラ水壁管全体の腐食度合を定量的に把握することが可能となり、後何年、ボイラを運用できるか等の余寿命を、ボイラの展開図と組み合わせたカラーマッピング図等により明確に表示することができ、ボイラの定期検査における保守点検能率の向上をはかることができる。
【0006】
本発明者らは、ボイラ水壁管の金属部品の溶接部での水壁管(伝熱管)の内面腐食疲労亀裂は、ボイラの起動停止時に受ける熱応力と、腐食性環境作用による腐食または孔食の組み合わせと、それらの繰り返しによって発生進展することを知見しており、腐食疲労亀裂深さ(aCF)は、下記の(数1)式で表わすことができ、しかも、その後の腐食の進展も(数1)式によることを見出した。
aCF=(da/dN)・N+(da/dt)・t……(数1)
ここで、(da/dN):疲労亀裂進展速度〔大気中の疲労寿命特性、応力または歪み振幅、および歪み速度または繰り返し速度の関数〕
N:ボイラの起動停止回数
(da/dt):腐食または孔食進展速度
t:孔食および腐食に関与する時間(例えば、運転時間、停止時間、運転年数および酸洗時間等)。
【0007】
また、本発明者らの種々の調査結果から、ボイラ水壁管内面の腐食疲労は、起動停止時に熱応力が付加される金属部品の溶接部の応力または歪み振幅の高いところでしか発生しないことが分かっており、上記(数1)式による腐食疲労亀裂深さの評価は、ある限界値以上の応力が付加されたところを対象としている。その応力値は、ボイラプラントの運転や環境条件によって変化する性質のものであるが、オーダ的には、ボイラ水壁管構成材料(通常は、JIS STB410等の炭素鋼)の降伏強度の数十%である。
上記(数1)式において、孔食または孔食進展速度(da/dt)、ボイラの起動停止回数(N)および運転年数等による孔食および腐食に関与する時間(t)は、プラント独自の値を有するが、ボイラ水壁管の場所によって変化するものではない。したがって、一つのボイラプラントの中で、腐食疲労亀裂深さ(aCF)の大小を決めるのは応力または歪み振幅である。
ボイラ水壁管に装着した金属部品の起動停止時に付加される応力または歪み振幅は、金属部品と伝熱管(水壁管)の温度差、金属部品の形状寸法、および取付け場所による拘束を受けることが知られている。言い換えれば、応力または歪み振幅は、金属部品の型式(種類)と設置(装着)されている位置に支配される。金属部品が大きかったり、連続的に設置されている場合や、熱負荷または拘束の高いところでは応力振幅は高くなる。
発電容量が300MW〜1000MWクラスの火力発電用ボイラの水壁管は、縦:20〜50m、横:十数〜二十数m、奥行き:十数〜三十数mもあり、二十数種の金属部品が種々の位置に取付けられている。上述したように、金属部品が溶接されているボイラ水壁管を構成する伝熱管の数は、一つのボイラで二万から数万に昇る。二万から数万ある金属部品の溶接部の伝熱管について、管内面の応力振幅(σa)を求め、先の(数1)式で、腐食疲労亀裂深さ(aCF)を算出して、表示することが最も高精度な評価方法であるが、高速コンピュータで計算しても数十時間かかることから工学的あるいは工業的には無理が生じる。
そこで本発明は、従来の二十数種類ある金属部品を、十種類以下に分類し、 1〜2m角の大きさで区切って区画を形成し、番地付けして、金属部品を配置し、金属部品の種類(型式)および設置場所による応力振幅(σa)を求め、腐食疲労亀裂深さ(aCF)等を算出して、腐食疲労損傷度を表示しようとするものであり、この効率的な手法が本発明の骨子となるものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
〈第1の実施の形態〉
本実施の形態では、ボイラの起動停止回数(N)、腐食または孔食進展速度(da/dt)、運転年数(t)および代表的な金属部品の応力振幅(σa)が既知の場合のボイラ水壁管全体の腐食疲労損傷をマッピングする手法を示す。
(A)ボイラ水壁管全体の腐食疲労損傷のマッピングに際しての設定値。
(1)ボイラの起動停止回数:N=240回
(2)腐食または孔食進展速度:(da/dt)=0.021mm/年
(3)運転年数:t=23.4年
(4)設定した代表部位(例:表2に示す、金属部品の種類:B、第2ゾーン)における応力振幅:σa=360MPa
(B)腐食疲労損傷をマッピングする手法およびその内容。
(1)ボイラ水壁管を1m×1mに区切り、各区画に番地を付ける(図1および図2参照)。例えば、ボイラ前壁管:横:16m、縦:42mを番地付けする。
(2)金属部品の種類(型式)を6種に分類し、各区画に溶接により所定の場所に配置する。例えば、21種の金属部品を6種(A〜F)に分類し、図1および図2に示すように配置する。
(3)ゾーン分けして、熱負荷、拘束等を考慮した応力振幅に関連する位置係数を設定する。例えば、図1および図2に示すように3ゾーンに分ける。図において、▲1▼は第1ゾーン、▲2▼は第2ゾーン、▲3▼は第3ゾーンを示す。
(4)金属部品の種類(型式)とゾーン別応力係数を設定する(表1参照)。
【0009】
【表1】
【0010】
(5)金属部品の種類(型式)と、ゾーン別の応力振幅〔σa〕(MPa)を算出する。例えば、表2に示す、金属部品の種類Bが第2ゾーンに設置されている場合(応力係数=1.80)の応力振幅が360MPaであったことから、各部の応力係数に比例させて応力振幅〔σa〕を算出する。
【0011】
【表2】
【0012】
(6)上記(5)の応力振幅〔σa〕値より、疲労亀裂進展速度(da/dN)を算出する。例えば、表3に示す疲労亀裂進展速度(da/dN)は、通常、応力または歪み振幅、歪み速度または繰返し速度、材料強度特性の関数になるが、その構成式については、ここでは特に規定するものではない。表3は、本発明者らが見出した実験式から算出したものである。
【0013】
【表3】
【0014】
(7)各金属部品のゾーン別腐食疲労亀裂深さ(aCF)を算出する(例えば、表4に示す)。
【0015】
【表4】
【0016】
(8)設計必要肉厚(tsr)までの残肉厚を算出する(表5に示す)。
なお、残肉厚(mm)=ボイラ水壁管(伝熱管)の板厚(tsr−aCF)である。
【0017】
【表5】
【0018】
(9)設計必要肉厚までの残肉厚による色分け(カラーマッピング)を行う。例えば、表6に示すように、色分け基準は、設計必要肉厚(tsr)までの
残肉厚が0.00mm未満のものを赤色、
残肉厚が0.00mm以上、0.25mm未満のものをピンク色、
残肉厚が0.25mm以上、0.50mm未満のものを黄色、
残肉厚が0.50mm以上のものを青色とする。
【0019】
【表6】
【0020】
(10)ボイラ水壁管の腐食疲労損傷度のカラーマッピングを行う(図3参照)。
【0021】
〈第2の実施の形態〉
ボイラの起動停止回数(N)、ボイラの運転年数(t)、代表的な金属部品の応力振幅(σa)、および(σa)が既知の部位の腐食疲労亀裂深さ(aCF)の計測結果が存在する場合のボイラ水壁管全体の腐食疲労損傷マッピング例を、図4に示す。本実施の形態においては、下記の設定値および腐食疲労損傷マッピング手法により評価し解析するものである。
(A)設定値
(1)ボイラの起動停止回数:N=240回
(2)ボイラの運転年数:t=23.4年
(3)代表部位(例えば、金属部品の種類がB、第2ゾーン)における応力振幅:σa=360MPa
(4)代表部位(例えば、金属部品の種類がB、第2ゾーン)におけるゾーン別腐食疲労亀裂深さ:aCF=1.1mm、なお、ボイラの腐食疲労亀裂深さ(aCF)の標準偏差σは0.1とする。
(B)腐食疲労損傷をマッピングする手法およびその内容。
(1)ボイラ水壁管を1m×1mに区切り、区画に番地付けを行う。例えば、図1および図2に示すように、ボイラ前壁管:横:16m、縦:42mを番地付けする。
(2)金属部品の種類(型式)を数種に分類(例えばA〜F)して、金属部品の設置場所に溶接により装着する(図1および図2参照)。
(3)熱負荷、拘束等を考慮した応力振幅に関連するゾーン分けを行う(図1および図2参照)。なお、図に示すように3ゾーンに分類する。
(4)金属部品の種類(型式)およびゾーン別応力係数を設定する(表1参照)。(5)金属部品の種類(型式)とゾーン別の応力振幅〔σa〕MPaを算出する。例えば、表2に示す金属部品の種類がBで、第2ゾーンに設置されている場合の(応力係数=1.80)の応力振幅が360MPaであり、各部の応力係数に比例して応力振幅を算出する。
(6)上記(5)の応力振幅〔σa〕値より、疲労亀裂進展速度(da/dN)を算出する。表3に疲労亀裂進展速度(da/dN)を示すが、通常、(da/dN)は、応力または歪み振幅、歪み速度または繰返し速度、材料強度特性の関数となるが、この構成式については、ここでは特に規定するものではない。なお、表3に示す疲労亀裂進展速度(da/dN)は、本発明者らが見出した実験式によるものである。
(7)疲労亀裂進展速度(da/dN)、ボイラの起動停止回数(N)、運転年数(t)および腐食疲労亀裂深さ(aCF)値を、下記の(数1)式に代入して、腐食または孔食進展速度(da/dt)を算出する。
aCF=(da/dN)・N+(da/dt)・t……(1)
1.1+0.1×2=0.0028×240+(da/dt)×23.4
(da/dt)=0.0268(mm/年)
ここで、aCF値に、計測値+2σ値を用いているが、これは95%信頼度を得るため、別の言い方をすれば信頼性の向上のための安全性を加味したものであり、計測値そのままの値を用いても良く、また他の統計値を代入しても良い。
一方、aCFおよび(da/dN)値のセットが複数個ある場合の(da/dt)値は、平均値を用いてもよく、重み付けした代表値を用いてもよい。
(8)下記の(数1)式を用いて、ゾーン別腐食疲労亀裂深さ(aCF)を算出する(表7参照)。
【0022】
【表7】
【0023】
(9)設計必要肉厚(tsr)までの残肉厚を算出する。なお、残肉厚(mm)=ボイラ水壁管(伝熱管)の板厚(tsr−aCF)である(表8参照)。
【0024】
【表8】
【0025】
(10)設計必要肉厚(tsr)までの残肉厚によるカラーマッピングを行う。なお、色分け基準は、設計必要肉厚(tsr)までの
残肉厚が0.00mm未満のものを赤色、
残肉厚が0.00mm以上、0.25mm未満のものをピンク色、
残肉厚が0.25mm以上、0.50mm未満のものを黄色、
残肉厚が0.50mm以上のものを青色とする(表9参照)。
【0026】
【表9】
【0027】
(11)残肉厚が設計必要肉厚(tsr)に達するまでの期間(余寿命)によるカラーマッピングを行う。なお、色分け基準は、表10に示すように、残肉厚が設計必要肉厚(tsr)に達するまでの
余寿命(年数)が1年未満のものを赤色、
余寿命が1年以上、4年未満のものをピンク色、
余寿命が4年以上、7年未満のものを黄色、
余寿命が7年以上のものを青色とした。
【0028】
【表10】
【0029】
(12)図4にボイラ水壁管腐食疲労損傷度のカラーマッピングを示す。
【0030】
〈第3の実施の形態〉
ボイラの起動停止回数(N)、ボイラの運転年数(t)、代表的な金属部品の応力振幅(σa)、および(σa)が既知の部位の腐食疲労亀裂深さ(aCF)の計測結果がある場合のボイラ水壁管全体の腐食疲労損傷のカラーマッピング表示を図5に示す。なお、本実施の形態においては、下記の設定値および手法を用いてボイラ水壁管全体の腐食疲労損傷を解析評価したものである。
(A)設定値(第2の実施の形態と同じ値に設定する)
(1)ボイラの起動停止回数:N=240回
(2)ボイラの運転年数:t=23.4年
(3)代表部位(例えば、表2に示す金属部品の種類がB、第2ゾーン)の応力振幅:σa=360MPa
(4)代表部位(例えば、表4に示す金属部品の種類がB、第2ゾーン)の腐食疲労亀裂深さ:aCF=1.1mm、なお、ボイラの腐食疲労亀裂深さの標準偏差値σは0.1とする。
(B)腐食疲労損傷をマッピングする手法およびその内容。
(1)〜(11)については、上記第2の実施の形態と同様である。
(12)図5に示すように、ボイラ水壁管腐食疲労損傷度のカラーマッピングを行う。
【0031】
【発明の効果】
本発明のボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法を用いることにより、水壁管の経年劣化寿命を支配する腐食疲労亀裂損傷について、部分的な検査結果から全体の損傷度合を定量的に、かつ迅速に診断することができ、判り易いカラーマッピングで表示することができる。
すなわち、本発明は請求項1に記載のように、ボイラ水壁管を区画分けして、ゾーン別に分類しているので、従来のように多種類(20〜30種類)の金属部品を用いることなく、数種類(10種以下)で済み、また応力振幅の測定の対象とするボイラ水壁管の部位も区画分けしているので、使用する金属部品の数も少なくて済み、従来の2万ないし数万箇所に対し、その数十分の一ないし数百分の一で済むことになる。したがって、ボイラ水壁管の経年劣化寿命を支配する腐食疲労亀裂損傷について、部分的な検査結果から全体の損傷度合を迅速に診断することができる効果がある。
また、本発明は請求項1に記載のように、腐食疲労亀裂深さ(aCF)からボイラ水壁管の疲労損傷度合を視覚的に表示する手段を用いるため、さらに、定量的にボイラ水壁管の疲労損傷度合を診断表示できる効果がある。
また、本発明は請求項2に記載のように、強度上必要な最小必要肉厚(tsr)までの残肉厚の大きさ(tsr−aCF)、もしくは残肉厚が強度上必要な最小必要肉厚(tsr)に達するまでの期間(年数…余寿命)をカラーマッピング手段により表示するため、上記請求項1の効果に加えて、後何年、使用に耐え得るかを定量的に診断できる効果がある。
また、本発明は請求項3に記載のように、設計必要肉厚(tsr)までの残肉厚(mm)、もしくは残肉厚が設計必要肉厚(tsr)に達するまでの余寿命(年数)により、色分け表示しているので、上記請求項1の効果に加えて、ボイラ水壁管全体の腐食度合を定量的に把握することができる。
また、本発明は請求項4に記載のように、ボイラ水壁管の展開図と組み合わせて構成したカラーマッピング図とすることにより、上記請求項1の効果に加えて、ボイラ水壁管の位置と腐食度合をマッチすることができ、保守点検の能率が向上できる効果がある。
また、本発明は請求項5に記載のように、ボイラ水壁管全体の腐食度合を定量的に把握することが可能となり、後何年、ボイラを運用できるか等の余寿命を、ボイラの展開図と組み合わせたカラーマッピング図等により明確に表示することが可能となり、ボイラの定期検査における保守点検能率をいっそう向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態で例示したボイラ水壁管の区画分けとゾーン分類を示す模式図。
【図2】本発明の第1の実施の形態で例示したボイラ水壁管の区画分けとゾーン分類を示す模式図。
【図3】本発明の第1の実施の形態で例示したボイラ水壁管の腐食疲労損傷度合をカラーマッピングした状態を示す模式図。
【図4】本発明の第2の実施の形態で例示しボイラ水壁管の腐食疲労損傷度合をカラーマッピングした状態を示す模式図。
【図5】本発明の第3の実施の形態で例示したボイラ水壁管の腐食疲労損傷度合をカラーマッピングした状態を示す模式図。
【図6】応力振幅測定の対象となる金属部材をボイラ水壁管に装着した状態を示す模式図。
【図7】ボイラ水壁管の内面の腐食状態を示す図。
【符号の説明】
1…ボイラ水壁管(伝熱管)
2…メンブレンバー
3…フィラープレート
4…金属部品
5…溶接部
6…腐食疲労亀裂
7…シールボックス
Claims (5)
- ボイラ水壁管の疲労損傷度合を評価し、その損傷度合を表示する方法であって、ボイラ水壁管を任意の一定面積ごとに区切って複数の区画を形成し、該区画を複数のゾーンに分類して番地付けを行うと共に、上記区画中のボイラ水壁管に溶接により装着された任意の設定形状を有する複数の金属部品の種類とゾーン別の応力係数を設定して、上記金属部品を装着した区画のボイラ水壁管の内面もしくは溶接部の応力振幅(σa)を算出し、上記ボイラ水壁管の区画ごとの疲労損傷度合を評価して、上記算出された応力振幅(σ a )から求められる疲労亀裂進展速度(da/dN)、ボイラの起動停止回数(N)、腐食または孔食進展速度(da/dt)、および運転時間、停止時間、運転年数および酸洗時間等のボイラの腐食に関与する時間(t)を用い、下記の(数1)式により算出される腐食疲労亀裂深さ(a CF )から、上記ボイラ水壁管の疲労損傷度合を視覚的に表示する手段を少なくとも用いることを特徴とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法。
a CF =(da/dN ) ・N+(da/dt ) ・t……(数1) - 請求項1において算出されたボイラ水壁管の腐食疲労亀裂深さ(aCF)と、強度上必要な最小必要肉厚(tsr)までの残肉厚の大きさ(tsr−aCF)、もしくは残肉厚が強度上必要な最小必要肉厚(tsr)に達するまでの期間を、一つ以上のレベルに分別して色分け基準を作成し、ボイラ水壁管を任意の一定面積ごとに区切った複数の区画ごとに、色分け表示するカラーマッピング手段を少なくとも用いることを特徴とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法。
- 請求項2において、色分け基準は、設計必要肉厚(tsr)までの
残肉厚が0.00mm未満のものを赤色、
残肉厚が0.00mm以上、0.25mm未満のものをピンク色、
残肉厚が0.25mm以上、0.50mm未満のものを黄色、
残肉厚が0.50mm以上のものを青色とするか、
もしくは残肉厚が設計必要肉厚(tsr)に達するまでの
余寿命(年数)が1年未満のものを赤色、
余寿命が1年以上、4年未満のものをピンク色、
余寿命が4年以上、7年未満のものを黄色、
余寿命が7年以上のものを青色とすることを特徴とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法。 - 請求項2または請求項3において、色分け表示するカラーマッピング手段は、ボイラ水壁管の展開図と組み合わせて構成したカラーマッピング図による表示とすることを特徴とするボイラ水壁管の疲労損傷診断表示方法。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のボイラ水壁管の疲労損傷の診断表示方法を、少なくとも2種以上組み合わせて用いることを特徴とするボイラ水壁管の疲労損傷の診断表示方法。
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