JP3650454B2 - 多層延伸フィルムの製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、ガスバリヤー性と熱水処理耐性に優れた多層延伸フィルムの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
EVOHは優れたガスバリヤー性を有するが、吸湿性が高いという欠点がある。
そこで、EVOHのガスバリヤー性を生かしながら、吸湿性を改良し、さらに、強度や耐熱性を向上させるために、EVOHとポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンなどからなる多層フィルムが食品包装用途などに使用されている。しかしながら、EVOH層を多層包装フィルムの一層として用いた包材では、内容物の熱水処理により水分がEVOH層へ侵入し、EVOH層が白濁したり、波状のしわや模様などの外観不良が発生するという問題があった。
【0003】
このような熱水処理による外観不良を防止するために、EVOHとポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、あるいはポリカーボネートのような熱可塑性樹脂をブレンドする方法(特開平1−253442号公報、特開平1− 22890号公報、特開平5−214186号公報など)が提案されている。
【0004】
しかしながら、EVOHと他の熱可塑性樹脂との混合物は、溶融押出時に架橋反応によりゲル化し、長時間の連続押出が困難となり操業性が低下したり、EVOHの特長であるガスバリヤー性が低下するなどの問題があった。
また、EVOHに無機フィラーを添加し、熱水処理耐性を付与する方法が提案されている(特開平5−140344号公報)が、製膜前にEVOHと無機フィラーをあらかじめ溶融混合する必要があるため、熱履歴が長くなり樹脂が劣化したり、また、フィルムの透明性が損なわれて商品価値が損なわれるなどの問題があった。
【0005】
さらに、EVOHに架橋剤、架橋助剤を添加して製膜した後に電子線を照射し、EVOHを架橋させることにより熱水処理耐性を付与する方法(特開平5−271498号公報)も提案されているが、高価な電子線照射設備が必要なため工業的に有利な方法とはいえなかった。
このように、EVOH層を一層として用いた多層包装フィルムに熱水処理耐性を付与するための工業的に有利な方法はなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、EVOHの優れたガスバリヤー性、透明性を損なわずに、工業的に有利な方法で熱水処理耐性を付与することのできる多層延伸フィルムの製造法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶融したEVOHが固化し、さらに結晶化するときの熱処理条件について検討した結果、EVOHの結晶構造を制御することにより、熱水処理によるEVOH層の白濁やしわの発生などの外観不良を改良することができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は次のようである。
EVOHからなる層と、融点がEVOHよりも高い熱可塑性樹脂(P)からなる層の少なくとも2層からなる多層延伸フィルムに、EVOHの融点以上、Pの融点未満の温度で熱処理(a)を行った後に、下記式(1)、(2)を満足する条件で熱処理(b)を行うことを特徴とする多層延伸フィルムの製造法。
t≧ 0.00889(Tc−T)2 − 0.373(Tc−T)+ 5.1 (1)
−19≦Tc−T≦ 61 (2)
ただし、Tは熱処理(b)の温度(℃)、tは処理時間(秒)、Tcは示差走査熱量計で10℃/分の速度で降温した場合のEVOHの結晶化ピーク温度(℃)を示す。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明におけるEVOHとしては、エチレン成分の含有率が20〜50モル%、好ましくは27〜44モル%、酢酸ビニル成分のけん化度が96モル%以上、好ましくは99モル%以上のものがガスバリヤー性や強度が優れ、また、メルトインデックス(210 ℃,2160g )の値が、0.2 〜60g/10分のものが加工性が良く好ましい。
【0010】
また、EVOHには、その特性を損なわない限り、EVOHと親和性のある樹脂、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤などを添加することができる。
【0011】
本発明におけるPとしては、EVOHよりも高い融点を有する樹脂であり、フィルムの破断などの現象が起こりにくく、安定した生産性が得られる点からは、EVOHよりも5〜 100℃程度高い融点(非晶性樹脂の場合は軟化点)を有する樹脂が好ましい。
【0012】
Pの好適な樹脂としては、ポリ−ε−カプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン 610)、ポリラウリルアミド(ナイロン12)、ポリメタキシリレンアジパミドなどのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネートなどを挙げることができる。
また、Pとしては、上記のポリマーの混合物や共重合体を用いることもできる。
ナイロン6は、EVOHとの接着性、強度、靭性、透明性、耐ピンホール性に優れており、本発明における樹脂Pとして最も好適である。
【0013】
本発明における多層延伸フィルムの構成は、(A)層と(B)層が含まれていれば特に制限はなく、他の樹脂層として、たとえば、EVOHよりも低い融点を有する樹脂層を含んでいてもよいし、また、EVOH層は一層でも複数層であってもよいが、包材構成としてはEVOHの吸水性によるトラブルを防止するため、EVOH層は外部表面層としない構成にする方が望ましい。
【0014】
本発明における多層延伸フィルムの製法においては、EVOHの融点以上、Pの融点未満の温度で熱処理(a)を行った後に、前記式(1)及び(2)を満足する熱処理(b)を行うことが必要である。
本発明において、熱処理(a)の温度がEVOHの融点未満の場合、得られる多層延伸フィルムの熱水処理耐性を改良することができず、Pの融点以上の場合はフィルムが破断しやすくなる。熱処理(a)は、通常、1〜10秒、好ましくは2〜5秒行われる。
【0015】
式(1)における処理時間tは、EVOHの劣化を抑え、また経済的な観点から、最小時間+60秒を超えないようにするのがより好ましい。なお、式(1)より、Tc−T=21(℃)のときに処理時間tが最小値(1.2 秒)となる。
【0016】
また、本発明の目的を達成するためのEVOHの結晶構造を最適化するためには、−19≦Tc−T≦61(℃)とすることが必要であり、1≦Tc−T≦41(℃)がさらに好ましい。
【0017】
本発明においては、熱処理(a)の後、速やかに式(1)、(2)を満足する条件で熱処理(b)を行うことが好ましく、あらかじめ所定の温度に調節された熱処理炉内にフィルムを移送することが好ましい。
【0018】
フィルムの製造方法としては、公知の任意の方法を利用することができる。すなわち、各層を構成する数種の樹脂を別々の押出機中で溶融し、フィードブロック法により多層構造に重ね合わせた後、ダイスより押し出す方法や、溶融した数種の樹脂をマルチマニホールドダイス中で多層構造に重ね合わせて押し出す方法、各層を構成する数種の樹脂層をラミネートして貼り合わせる方法などが挙げられる。
【0019】
延伸方法としては、テンター式同時二軸延伸法、テンター式逐次二軸延伸法、チューブラー式同時二軸延伸法を用いることができる。
【0020】
延伸後の熱処理方法としては、熱風をフィルムに吹き付ける方法、赤外線をフィルムに照射する方法、マイクロ波をフィルムに照射する方法、およびこれらの組合せを用いることができるが、熱風をフィルムに吹き付ける方法が均一に精度良く加熱できるので最も好ましい。
【0021】
本発明における多層延伸フィルムの厚みは特に制限はないが、フレキシブルな包材として使用する場合、通常1〜50μm の厚みとされる。
【0022】
本発明における多層延伸フィルムを包装袋用として使用する場合、ヒートシール性を付与したり、ガスバリヤー性や機械的強度を高めるために、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどのプラスチックフィルムや紙、アルミニウムなどと積層して用いることができる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例の評価に用いた原料及び測定法は次のとおりである。
【0024】
(1)原料
ナイロン6:ユニチカ社製 A1030BRF を用いた。
EVOH:クラレ社製エバールを用いた。使用したEVOHの銘柄と各々の性状を表1に示した。
【0025】
【表1】
Figure 0003650454
【0026】
(2)測定法
結晶化ピーク温度TC
パーキンエルマー社製示差走査熱量計( DSC−7型)を用い、室温より昇温を始め、試料の融点+20℃まで10℃/分で昇温し、その温度で5分間ホールドした後、10℃/分で降温し、現れた結晶化ピークのピークトップから求めた。
【0027】
熱水処理耐性:
多層延伸フィルムに、ドライラミネート法により無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、東レ社製トレファンZK−93K、厚み60μm )をラミネートした。このラミネートフィルムのCPP面同士を重ね合わせた後、3方をヒートシールした袋に水50mlを充填し、残る一方をヒートシールし、縦14cm×横12cmの長方形の充填袋を製作した。
次に、この充填袋を 100℃×30分で熱水処理し、外観を観察し、以下のように評価し、評価AおよびBを合格とし、評価Cを不合格とした。
A … 良好
B … 充填袋の表面積の5%以下に外観不良がみられる。
C … 充填袋の表面積の5%以上に外観不良がみられる。
【0028】
実施例1
3層共押出Tダイを用いて、第1押出機よりEVOH(クラレ社製EP−F101BZ)を 210℃で押し出し、第2押出機よりナイロン6を 265℃で押し出し、ナイロン6/EVOH/ナイロン6の構成の多層未延伸シートをダイスより押し出し、表面温度18℃に温調した冷却ドラム上に密着させて急冷し、厚さ 150μm の未延伸シートを得た。
得られたシートの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップで把持し、温度70℃で、延伸倍率が、縦 3.0倍、横 3.3倍で同時二軸延伸した。
次に、210 ℃で 4.0秒間の熱処理〔熱処理(a)〕を施した後、直ちに、 170℃の雰囲気下で10.2秒間の熱処理〔熱処理(b)〕を行い、90℃で 2.0秒間フィルムを冷却した後、巻取機で巻取り、ナイロン6/EVOH/ナイロン6= 5.0/5.0 /5.0 μm の厚みの多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの評価結果を表2に示した。
【0029】
実施例2〜5、比較例1〜4
熱処理温度Tと処理時間tを表2に示す値に変更した外は、実施例1と同様の方法で多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの評価結果を表2に示した。
【0030】
比較例5
熱処理(a)の温度を表2に示す値とした外は、実施例2と同様の方法で多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの評価結果を表2に示した。
【0031】
実施例6〜8、比較例6〜8
EVOHの銘柄、熱処理温度T、及び処理時間tを表2に示すとおりに変更した外は、実施例1と同様の方法で多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの評価結果を表2に示した。
【0032】
【表2】
Figure 0003650454
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、EVOHの優れたガスバリヤー性、透明性を損なわずに、熱水処理耐性を有する多層延伸フィルムを提供することができるので、各種の包装用袋の材料として幅広い応用が可能である。

Claims (2)

  1. エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)からなる層と、融点がEVOHよりも高い熱可塑性樹脂(P)からなる層の少なくとも2層からなる多層延伸フィルムに、EVOHの融点以上、Pの融点未満の温度で熱処理(a)を行った後に、下記式(1)、(2)を満足する条件で熱処理(b)を行うことを特徴とする多層延伸フィルムの製造法。
    t≧ 0.00889(Tc−T)2 − 0.373(Tc−T)+ 5.1 (1)
    −19≦Tc−T≦ 61 (2)
    ただし、Tは熱処理(b)の温度(℃)、tは処理時間(秒)、Tcは示差走査熱量計で10℃/分の速度で降温した場合のEVOHの結晶化ピーク温度(℃)を示す。
  2. Pがポリ−ε−カプラミドである請求項1記載の多層延伸フィルムの製造法。
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