JP3648031B2 - ハニカム成形用口金の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面に溝状のスリットを設けるとともに、裏面にスリットに連通する坏土供給孔を設けた構造を有するハニカム成形用口金の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えばセラミックハニカムの押出成形に用いる口金として、表面に溝状のスリットを設けるとともに、裏面にスリットに連通する坏土供給孔を設けた構造を有するハニカム成形用口金が知られている。図1は本発明の対象となる従来から公知のハニカム成形用口金の一例の構成を示す図であり、図1(a)はその部分を示す平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図である。図1に示す例において、ハニカム成形用口金1は、表面に溝状のスリット2を十文字形状に複数のセルブロック3により設けるとともに、裏面のスリット2が交差する位置のうち所定の位置に対応してスリット2に連通する坏土供給孔4を設けて構成される。上述した構成の口金によれば、成形すべき坏土は、裏面の坏土供給孔4から口金1に供給され、裏面のスリット2からハニカム成形体が押し出される。
【0003】
このようなハニカム成形用口金の製造方法として、例えばSKD−61(JIS)等の金属からなるセルブロックを使用し、このセルブロックの一表面にカーボン電極型彫放電加工、ワイヤ放電加工、さらにはこれらの加工に研磨加工を施してスリット2を形成し、スリット2の交差する位置のうちの所定の位置に対応して、上記スリット2を形成した面とは反対側の面にドリル加工を施して坏土供給孔4を形成し、その後セルブロック3の表面に無電解Niめっきを施して最終的なスリット2の幅を規定する方法が知られていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したハニカム成形用口金の製造方法では、坏土供給孔4をドリル加工する際、ドリルにチッピング等が発生した場合にドリルを交換する必要があるが、この交換により加工状態のバラツキが発生し、坏土供給孔4のパターンが変動する問題があった。そのため、そのような口金を使用してハニカム構造体を成形しようとすると、正確な坏土供給を行えなくなる問題があった。特に、薄壁厚のハニカム構造体製造の場合はこの問題は深刻であった。
【0005】
この問題を解決するために、セルブロックを耐食性の金属で構成し、このセルブロックの坏土供給孔4を電解エッチングによるECM(Electrical Chemical Machining )加工して形成するとともに、スリット2を加工後例えばTiC/TiNからなるCVDコーティングを施して最終的なスリット2の幅を規定する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、この製造方法においても、CVDコーティングのみでは厚いコーティング層を形成できず、せいぜい30μm以下であるため、ある程度小さいスリット幅まで例えば放電加工や研磨などの従来から知られた方法で加工することが必要となるが、CVDコーティング層の厚さを考慮しても、そのように小さいスリット幅加工を従来の放電加工や研磨では行えない問題があった。また、CVDコーティング層は高摩擦抵抗であるため、坏土流動性が悪くなる問題があった。さらに、CVDコーティング層では厚いコーティング層を形成できないため、そのセルコーナー部がシャープとなり、押し出したハニカム成形体においてセル変形が起きやすくなる問題があった。
【0007】
本発明の目的は上述した課題を解消して、薄壁のハニカム構造体を押し出すことができ、しかも、坏土供給孔のパターン変動が無く良好な坏土供給が可能なハニカム成形用口金の製造法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のハニカム成形用口金の製造法は、表面に溝状のスリットを設けるとともに、裏面にスリットに連通する坏土供給孔を設けた構造を有するハニカム成形用口金の製造法において、耐食性金属からなるセルブロックに対し、その裏面に電解エッチング加工(ECM加工)により坏土供給孔を形成するとともに、その表面にスリットを形成し、電解めっきをした後無電解めっきすることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、セルブロックとして耐食性金属を用いることで、坏土供給孔を酸を使った電解エッチングによるECM加工で形成することができ、坏土供給孔の加工精度を向上させ、坏土供給孔のパターンを安定させることができる。また、厚膜めっきが可能であるがステンレス等の耐食性金属に直接施すことは難しいと考えられてきた無電解めっきを、予め電解めっきをした後無電解めっきをすることで可能とし、その結果、スリット幅のバラツキを無くすとともに薄壁のハニカム構造体を押し出すことのできるスリット幅を達成することができる。
【0010】
【発明の実施の態様】
図2は本発明のハニカム成形用口金の製造法の一例を説明するためのフローチャートである。図2に従って本発明のハニカム成形用口金の製造法を説明すると、耐食性金属からなるセルブロックの一表面に対し放電加工および/または研摩加工を行い、所定のスリット幅およびスリット深さのスリットを、そのX軸およびY軸に沿って所定の本数十文字状に形成する。次に、セルブロックのスリットを形成した面と反対側の表面に対し、酸中での電解エッチングによるECM加工を所定の位置に行い坏土供給孔を形成する。次に、セルブロックに前処理を施す。前処理は、アルカリ脱脂、電解脱脂、酸処理を順に行って実施する。次に、次工程の無電解めっきの際に核となる膜をセルブロックに施す電解めっきによる核生成処理を実施する。最後に、核生成処理後のセルブロックに対して無電解めっきを施して、最終的なスリット幅を決定して口金を得ている。
【0011】
上述したハニカム成形用口金の製造法において、以下の実施例から明らかなように、耐食性金属として例えばC450(JIS)のステンレスを使用し、ECM加工を硝酸液中で使うことが好ましい。また、電解めっきおよび無電解めっきの材料としてNiを使用し、めっきの膜厚を15〜80μmとすることが好ましい。さらに、放電加工として、カーボン電極型彫放電加工またはワイヤ放電加工を使用し、それらの放電加工後さらに研摩加工を行うことが好ましい。さらにまた、スリット幅を110μm以下とし、またセルブロックのスリット交点の角部のRが15〜80μmとすると、厚さ110μm以下の薄壁のハニカム構造体でも必要な強度を得ることができる。
【0012】
上述した本発明のハニカム成形用口金の製造法では、まず、ステンレス等の耐食性金属からなるセルブロックを使用することで、高精度の加工が可能なECM加工により、パターンの安定した坏土供給孔を形成することができる。一方、ステンレス等の耐食性金属に対し直接無電解めっきを行っても、安定しためっき膜を得ることができない。本発明では、この点を、スリットを形成したセルブロックに脱脂工程を含む前処理施すことおよびこの前処理後電解めっきによる核生成処理を行うことで解消している。そのため、セルブロックとして耐食性金属を使用しても、厚膜めっきが可能な無電解めっきを使用してスリット幅を決定できるため、厚さ110μm以下の薄壁のハニカム構造体を押し出し可能なスリット幅110μm以下のハニカム成形用口金を得ることができる。この無電解めっきによるNiめっき膜は表面摩擦抵抗が小さいため、坏土流動性が良好である。また、厚膜めっきが可能であるため、スリット交差部のセルブロックの角にR部を形成でき、薄壁でも必要な強度を持たせることができる。ここで、耐食性金属に電解めっきが良好に施せるのであれば、電解めっきのみで必要な厚さの膜を設けることも考えられるが、その場合は、均一な膜形成ができない。
【0013】
図3は本発明のハニカム成形用口金の製造法におけるセルブロックへの電解めっき工程の一例を示すフローチャートである。図3に従って電解めっき工程を説明すると、まず、濃度30g/l、温度55℃のアルカリ脱脂液中に競るブロックを5分間浸漬してアルカリ脱脂を行う。次に、水洗後、濃度50g/l、温度50℃の電解脱脂液中にセルブロックを1分間浸漬して、電解脱脂を行う。次に、水洗後、室温で、濃度50g/lの電解脱脂液と濃度50g/lの苛性ソーダとからなる電解脱脂液中にセルブロックを1分間浸漬して、+電解脱脂を行う。次に、水洗後、濃度17.5%の白塩酸中にセルブロックを1分間浸漬して、酸活性処理を行う。次に、水洗後、室温で、濃度250g/lの塩化ニッケルと濃度120g/lの塩酸とからなる電解めっき液中にセルブロックを2分間浸漬し、その後電解めっき液が取れる程度にかるく水洗することで、ニッケルめっき膜を設けることができる。
【0014】
【実施例】
以下、実際の例について説明する。
実施例1
上述した方法に従って、以下の表1に示す材料からなるセルブロックに対し、以下の表1に示すように、同じ幅のスリット加工、同じ径の坏土供給孔加工を行うとともに、表1に示す膜厚でコーティングを行い、本発明範囲内の実施例1〜3と本発明範囲外の比較例4〜5のハニカム成形用口金を準備した。準備した本発明例および比較例の口金に対し、製造工程における坏土供給孔の加工精度およびスリットの加工性を調べた。また、得られた口金のスリット交差部におけるセルブロックの角のRを測定した。さらに、得られた口金に所定の坏土を実際に供給し、坏土流動性を調べた。結果を以下の表1に示す。
【0015】
【表1】
Figure 0003648031
【0016】
表1の結果の結果から、本発明の範囲内の実施例1〜3の口金は、加工精度およびスリット加工性がともに良好で、しかもセルブロックの角のRを60μmと薄壁でも充分な強度を得ることができる範囲内であることがわかった。一方、比較例4は、坏土供給孔をドリル加工で形成しているため、坏土供給孔のパターンのバラツキが発生することがわかった。また、比較例5は、コーティング層が薄いためスリット幅が薄くなるよう加工する必要がありスリット加工性が悪いとともに、CVD膜が高摩耗抵抗を有するため坏土流動性が悪いことがわかった。
【0017】
実施例2
R部の曲率の影響を調べるため、R部の曲率半径(μm)を0、40、80、120、160とした口金を、実施例1と同様の方法で製造し、実際にコージェライト組成から成るハニカム構造体を押出成形し、乾燥、焼成を経て壁厚100μmのハニカム体を準備し、準備したハニカム体に対し、アイソスタティック強度試験(ISO)、圧縮強度試験(Cr)、耐熱衝撃性試験(電気炉スポーリング、ESP)、変形量測定試験を実施した。結果を以下の表2に示すとともに、図4にも示す。
【0018】
ここで、アイソスタティック強度試験試験(ISO)は、水の中にハニカム体をセットし、水に圧力を加えることで全方向から均一な力を加え、破壊強度(ISO強度)を求めることで実施した。ハニカム体が構造的に強い程(セル壁のR部の曲率が大きい程)ISO強度も強くなる。このISO強度は、ハニカム体がエンジン排気系のキャンの中にセットされるときに、外周から均一な力がかかるため、それに耐え得るか否かを判断するために使用される。
【0019】
また、圧縮強度試験(Cr)は、ハニカム体をワイヤーメッシュで包み(力が均等にかかるよう)、圧縮試験機により上部から力を加え、ハニカム体が破壊した時の力をCr強度(クラッシング強度)として求めることで実施した。ハニカム体が構造的に強い程(セル壁のR部の曲率が大きい程)Cr強度も強くなる。このCr強度は、ハニカム体が実車に搭載されたときに、走行中の外部振動等の外力に耐え得るか否かを判断するために使用される。
【0020】
さらにまた、耐熱衝撃性試験(ESP)は、ハニカム体に熱的な衝撃(加熱/冷却)を加え、サーマルショックに対する強度(ESP強度)を求めることで実施した。即ち、常温に対し破壊するまでの温度差が大きい程強いことになる。このESP強度は、ハニカム体が実車に搭載されたときに、エンジンからの排気(高温)にさらされたり、エンジンを止めたときの冷却にも耐え得るから否かを判断するために使用される。サーマルショックはハニカム体が均一な程(セル壁のR部の曲率が小さい程)小さい。セル交差部はR部が小さい程熱容量の均等化が図られ、ESP強度は高くなる。
【0021】
また、変形量測定試験は、ハニカム体の外形寸法の規格値と実測値との差を変形量として求めることで実施した。寸法はノギスあるいはレーザーを利用した自動寸法測定装置により測定した。ハニカム体が構造的に弱い(セル壁のR部の曲率が小さい)と、成形時に自重により変形(一種のつぶれ)し、焼成後も寸法公差に入らなくなる。この変形量は、ハニカム体がエンジン排気系のキャンの中に正しくセットできるか否かを判断するために使用される。
【0022】
【表2】
Figure 0003648031
【0023】
表2及び図4の結果から、R部の曲率半径が大きくなるに伴い、Cr強度、ISO強度、変形は良化し、ESPは悪化することがわかる。そのため、R部の曲率半径の好ましい範囲が、上記各パラメータがいずれも良好な範囲を見い出すことにより求まる。この点で、製品についての目標特性を以下の表3に示す。
【0024】
【表3】
Figure 0003648031
【0025】
表3の性能を満たす範囲を図4から求めると、R部の曲率半径が15〜80μmとなり、この範囲がR部の曲率半径として好ましいことがわかった。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、セルブロックとして耐食性金属を用いているため、坏土供給孔を酸を使った電解エッチングによるECM加工で形成することができ、坏土供給孔の加工精度を向上させ、坏土供給孔のパターンを安定させることができる。また、無電解めっきを、予め電解めっきをした後無電解めっきをすることで可能とし、その結果、スリット幅のバラツキを無くすとともに薄壁のハニカム構造体を押し出すことのできるスリット幅を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の対象となる従来から公知のハニカム成形用口金の一例の構成を示す図である
【図2】本発明のハニカム成形用口金の製造法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明のハニカム成形用口金の製造法におけるセルブロックへの電解めっき工程の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例における測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1 ハニカム成形用口金、2 スリット、3 セルブロック、4 坏土供給孔

Claims (11)

  1. 表面に溝状のスリットを設けるとともに、裏面にスリットに連通する坏土供給孔を設けた構造を有するハニカム成形用口金の製造法において、耐食性金属からなるセルブロックに対し、その裏面に電解エッチング加工(ECM加工)により坏土供給孔を形成するとともに、その表面にスリットを形成し、電解めっきをした後無電解めっきすることを特徴とするハニカム成形用口金の製造法。
  2. 前記耐食性金属がステンレスである請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  3. 前記電解エッチング加工に硝酸を用いる請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  4. 前記電解めっきおよび無電解めっきの材料がNiである請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  5. 前記めっきの膜厚が15〜80μmである請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  6. 前記スリットを放電加工または研磨加工により形成する請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  7. 前記放電加工がカーボン電極型彫放電加工またはワイヤ放電加工であり、放電加工後さらに研磨加工を行う請求項6記載のハニカム成形用口金の製造法。
  8. 前記電解めっきの前に脱脂処理を行う請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  9. 前記脱脂処理がアルカリ脱脂および/または電解脱脂である請求項8記載のハニカム成形用口金の製造法。
  10. スリット幅が110μm以下である請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
  11. スリット交点のRが15〜80μmである請求項1記載のハニカム成形用口金の製造法。
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