JP3646588B2 - レーザプラズマx線発生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体または液体の物質をターゲットとしてこのターゲットに高尖頭パワーを有する繰り返しパルスレーザ光を集光照射して生じたプラズマからレーザプラズマX線を発生するレーザプラズマX線発生装置に関し、特に、高尖頭パワーを有する繰り返しパルスレーザ光の照射でも、発生したレーザプラズマX線を集めるX線反射鏡がターゲット材から飛散した高速の微粒子により損傷を受けることなく、連続して安定した高い平均出力のレーザプラズマX線を発生することができるレーザプラズマX線発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高い尖頭パワーを有するパルスレーザ光を直径100μm以下の点に集光して、これを固体密度のターゲットに照射することにより高温高密度のレーザプラズマが生成され、このレーザプラズマから高い輝度のパルスX線がレーザプラズマX線として放射されることは1970年代から知られている。
【0003】
この固体密度のターゲットはいずれも銅Cu、アルミニウムAl、金Auなどの金属を主体とする固体材料である。従って、レーザ加熱によって蒸発した集光点近傍のターゲット材の蒸気分子が周囲のチャンバー壁内面または放射されるレーザプラズマX線を集めるX線鏡の表面に堆積付着する。この結果、X線鏡の表面に堆積付着したターゲット材の固体材料がX線を強く吸収するため、鏡の反射率が減少し、使用できるX線の実効強度が時間と共に低下するという問題点を発生する。
【0004】
このような問題点を解決するため、A.L.Hoffman,他により「Vacuum Science and Technology B3(1),pp.258,1985年」において、図4に示されるような、X線鏡の表面までの空間に機械的なシャッターを設ける技術が提案されている。また更に、N.Kandaka,他により「Japanese J.Applied Physics 37,L147,1998年」において、図5に示されるような、ガスセルによる密度の大きなバッファー(衝突)ガス領域を配置するなどの手段を用いて、上述した蒸発ガス分子がX線鏡まで流れることを阻止している。しかし、一般にX線鏡までの距離が大きいので、X線を集める立体角度を大きくとることができない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したような液体または固体のクライオ材を用いるレーザプラズマX線発生装置では、ターゲット材が粉砕されて生じた微粒子の速度、すなわち運動エネルギーが大きい場合、この発生した微粒子が衝突することによってX線鏡の表面の多層膜に回復不能な機械的損傷を与えるという問題点がある。
【0006】
その理由は、高尖頭パワーのパルスレーザ光によるレーザプラズマ生成ののち、ターゲット材からは温度の比較的高い中性ガス分子の蒸発に遅れてターゲット材が破砕されて生じた微粒子または破片が放出されるためである。特に、微粒子の直径が5μm以上、速度が毎秒1km程度以上ではX線鏡表面の多層膜に損傷が発生する。上述した第2のガスセルの例では、運動量の大きな高速微粒子に対してガスによる阻止効果が弱い。他方、第1の機械式シャッターの例では、要求される応答速度を実現することはできても、集光できる立体角度を大きくとることはできない。
【0007】
本発明の課題は、このような問題点を解決し、高尖頭パワーを有する繰り返しパルスレーザ光の照射でも、発生したレーザプラズマX線を集めるX線反射鏡を含むX線光学素子がターゲット材から飛散した高速の微粒子により損傷を受けることなく、連続して安定した高い平均出力のレーザプラズマX線を発生することができるレーザプラズマX線発生装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によるレーザプラズマX線発生装置は、固体または液体の物質をターゲットとしてこれに高尖頭パワーを有する繰り返しパルスレーザ光を集中照射して生じたプラズマからレーザプラズマX線を発生するレーザプラズマX線発生装置において、プラズマを発生させる前記パルスレーザ光を主パルスレーザ光とし手発生する主パルスレーザ発生装置と、ターゲット表面から放出されるターゲット材微粒子を加熱して蒸発気化させる蒸散用パルスレーザ光を発生する蒸散用パルスレーザ発生装置と、前記主パルスレーザ光に対し時間的に遅延して前記ターゲットの集光照射された表面近傍を通過する前記ターゲットを避けた光路に、前記蒸散用パルスレーザ光を導光し前記表面近傍に向けて集光する光学系部材と、前記蒸散用パルスレーザ発生装置に通知して導光される前記蒸散用パルスレーザ光の遅延時間、パルス時間幅、およびパルスエネルギーを調整する制御装置とを備えることを特徴としている。
【0009】
このような手段により、高尖頭パワーの主パルスレーザ光によるレーザプラズマX線が発生した後、ターゲットから温度の比較的高い中性ガス分子が蒸発する時点より遅れて飛散する微粒子または破片を、蒸散用パルスレーザ光によりレーザ加熱して蒸発気化することができる。
【0010】
更に、上述したレーザプラズマX線発生装置は、前記蒸散用パルスレーザ光の光路とほぼ同一の光路を伝搬し、前記表面近傍を通過するパルス状および連続のいずれか一方の照明光を発生する照明光源と、通過して到来した前記パルス状および連続のいずれか一方による記照明における強度および照明光中における飛来物体の映像の少なくとも一方を検出する検出器と、前記検出器から受ける信号を処理し同期信号として前記蒸散用パルスレーザ光の発生を制御する前記制御装置へ転送する信号処理装置とを備えることができる。このような手段により、蒸散用パルスレーザ光が適切に制御できるので飛来微粒子を照射・加熱を効果的に実効することができる。
【0011】
また、上述したレーザプラズマX線発生装置は、蒸散用パルスレーザ光の集光照射領域を空間的に掃引するために前記光路中の反射鏡の向きを揺動させる機構を備えてもよい。更に、上述したレーザプラズマX線発生装置は、前記ターゲットに、冷却して液体化および固体化の少なくとも一方となった化学的に不活性で室温ではガス状の物質であるクライオターゲットを充てている。
【0012】
すなわち、主パルスレーザ光に遅延して別の蒸散用パルスレーザ光を高速微粒子の発生源の表面空間に、ターゲット表面の接線方向から集光することにより、飛来する高速微粒子を照射加熱して蒸散させている。また、放出点の近傍で蒸散させることができるので、X線光学素子を放出点の近くに配置することができる。遅延時間は、実験により最適値を定めることもできるが、実時間で微粒子の発生を観測し、これに同期して蒸散用パルスレーザ光のレーザパラメータをパルスのショット毎に制御することも可能である。
【0013】
すなわち、主パルスレーザ光の集光照射点近傍の空間をターゲット表面に沿った方向から照明光ビームにより照明し、その透過光または反射光を検出することによって微粒子が照明領域に現れたことをモニターして遅延時間を計測し、これを同期信号として上述した蒸散用パルスレーザ光を発生させることにより主レーザパルス光を無駄にすることなく、飛散して空間を横切る高速の微粒子に同期してこの微粒子を照射蒸散している。
【0014】
特に、クライオターゲットから飛散する氷状の微粒子は、弱いファンデルワース力(分子間力)のみで結ばれた原子分子の集合体であるため、固体金属ターゲットから飛来する飛散微粒子に比べて少ないレーザ加熱で容易に蒸散気化している。
【0015】
また、必要な蒸散速度を得るためのレーザ強度が上記蒸散用パルスレーザ光の集光スポット内で十分な大きさであっても、集光されたレーザビームの直径が集光照射点から放出される微粒子の角度分布で決まる円錐台形の空間寸法に比べて小さい場合には、上記蒸散用パルスレーザ光の方向を振動する鏡などにより変化させ、その結果、上記円錐台形の空間全体を微粒子の通過する時間と比較して十分に高速にレーザビームを掃引することによって、全ての高速微粒子を逃さずに蒸散させている。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の一形態を示す説明用の概要図である。
【0018】
図1に示されるレーザプラズマX線発生装置は、真空チャンバー111、液体または固体のターゲット材112、プラズマ生成用の主パルスレーザ光を発生する主パルスレーザ発生装置121、およびターゲットから飛散する微粒子を蒸散させる蒸散用パルスレーザ光を発生する蒸散用パルスレーザ発生装置131を主要構成要素として備えている。
【0019】
主パルスレーザ発生装置121には光学系部材として、主パルスレーザ光を導く反射鏡122と入射窓ガラス124を通してターゲット表面に集光照射させる集光レンズ123とが備えられている。また、蒸散用パルスレーザ発生装置131の光学系部材として、蒸散用パルスレーザ光を導く反射鏡132と入射窓ガラス134を通して微粒子が飛散する場所の近傍に集光する集光レンズ133とが備えられている。また、蒸散用パルスレーザ光の集光照射領域を空間的に掃引するために上記反射鏡132の向きを揺動させる機構として揺動器135が備えられている。
【0020】
更に、主パルスレーザ発生装置121から受ける同期信号に対し、制御された時間だけ遅延させて蒸散用パルスレーザ発生装置131を制御して蒸散用パルスレーザ光を発光させる制御装置125、ターゲット表面上の集光照射点近傍の空間で微粒子により散乱される照明光を発生する照明光源141、散乱または透過する照明光を検出する検出器142およびその信号処理器143、並びにX線出射口113を備えている。
【0021】
ターゲットの集光照射点110へ入射される主パルスレーザ光は、高い尖頭パワーと高い繰返し型のものである。
【0022】
例えば、あるレーザプラズマX線発生装置は、レーザ波長1μm、パルスエネルギー0.7J〜1.0J、パルス幅15ns、および繰返し周波数10Hz〜1kHzを有する主パルスレーザ光を主パルスレーザ発生装置121から放射している。この主パルスレーザ光はターゲットの表面に集光照射点110としてほぼ100μmの集光径で集光照射される。この場合、ターゲット表面上でのレーザ強度(電力密度)はほぼ1012W/cm2となる。放射されたX線はX線出射口113から取り出される。この光強度により、プラズマ化したターゲット材112からX線が放射される。主パルスレーザ光を繰返し周波数10Hz〜1kHzで動作させ、安定なパルスX線(レーザプラズマX線)を得るためには、1パルス毎に新しいターゲット表面を回転円筒または無端回転ベルトなどにより集光照射点110に連続して供給している。
【0023】
次に、図2に図1を併せ参照して主パルスレーザ光の発光に対する集光照射点110周辺の状況について説明する。
【0024】
主パルスレーザ光の集光照射点110を中心に生成されたターゲットプラズマにより集光照射点110周辺は加熱される。この加熱により、集光照射点110周辺のターゲット材112から中性の原子および分子が気化する。この気化の後、1μs程度の遅延時間でターゲット材の微小破片、すなわちターゲット材の微粒子が放出される。この微粒子の速度は1km/s以下であり、その高速微粒子の直径は10μm以下である。
【0025】
高速微粒子がターゲット表面からほぼ1mm離れた空間に到達するまでに要する飛行時間はほぼ1μsである。従って、主パルスレーザ光のパルスよりほぼ2μs遅れて蒸散用パルスレーザ光をターゲット表面に沿って2μs〜6μsの間だけ入射させた場合、上記高速微粒子を同期して照射することができる。
【0026】
次に、図3に、図1および図2を併せ参照して飛散するターゲット材の微粒子と蒸散用パルスレーザ光との関係について説明する。
【0027】
高速微粒子115が集光照射点110から放出される角度の分布は、集光照射点110におけるターゲット面の法線に対し、ほぼ30度以内の円錐形領域114の内側に集中している。従って、図示されるように、蒸散用パルスレーザ光は、集光照射点110上の空間において、ターゲット表面から1mm離れた面上に垂直に2mmの幅を有し、集光照射点110からの垂直線に直角方向にそれぞれ1mmの境界を有する正方形断面を有する角柱状の照射領域130の内側を、上述した遅延時間をもって照射している。飛散する高速微粒子115がこの照射領域130を横切るために必要な時間は2μsである。
【0028】
例えば、レーザパラメータとして、パルスエネルギー100mJ、パルス幅2μs、波長1μm〜10μmを有する場合には、上記2mm×2mmの照射領域内に集光されたレーザ強度は1.3×106W/cm2となる。このレーザ強度で照射されたターゲット材の質量蒸発速度はほぼ5×103g/cm2/sとなるので、レーザパルス時間幅2μs以内では、質量密度がほぼ3g/cm3のターゲット(キセノンXe)の場合、レーザ光を照射している間に直接蒸発する深さはほぼ30μmに達する。従って、10μm以下の直径を有する高速微粒子は十分に蒸散・気化される。
【0029】
蒸散用パルスレーザ光を発光させるタイミングは、主パルスレーザ発生装置から送信される同期信号に基づいて、制御装置125により遅延時間を調節されたものである。照射領域130を照明する照射光の透過光または反射光の光量または照射領域内に飛来する微粒子の映像を検出器142でモニター検出することにより、微粒子の到着時間を計測し、認知することができる。
【0030】
また、蒸散に必要な照射強度を得るために集光された蒸散用パルスレーザ光の集光スポットの寸法が照射領域130の寸法に比べて小さい場合には、蒸散用パルスレーザ光導光用の反射鏡132の一つを電磁力またはピエゾ効果を利用した揺動器135で揺動させ、集光スポットの中心を微粒子115の通過時間のほぼ2μsに比べて十分に短い時間で空間的に掃引することによって実効的に照射領域130の全域に蒸散用パルスレーザ光を照射したものと等価な状態を形成している。
【0031】
このように、上記記載では、図面それぞれを参照し、かつ適切なデータを示して説明しているが、図示され説明された形状大きさおよび相互位置、数量などの構成並びに組み合わせについては、相互に関連があるが上述した機能を満たす範囲で変更可能であり、本発明は上記記載に限定されるものではない。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、レーザプラズマ生成後、ターゲットから放出された破片微粒子を時間的に調整された蒸散用パルスレーザ光で加熱し、これを蒸発・気化させることができるため、レーザプラズマX線を反射する高価なX線反射鏡の多層膜を損傷することがなく、また、蒸散用に極めて小さな空間のみしか必要としないので、X線反射鏡をターゲットに近く配置でき、プラズマX線を受ける明るい光学系の形成が可能となる。従って、X線反射鏡の交換を不要とし、実用的なレーザプラズマX線発生装置の提供を可能とするという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】図1の主パルスレーザ光の発光に対する集光照射面近傍における状態を説明するタイムチャートである。
【図3】図1の集光照射面近傍における実施の一形態を示す説明斜視図である。
【図4】従来の一例を示す説明図である。
【図5】従来の図4とは別の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
110 集光照射点
111 真空チャンバー
112 ターゲット材
113 X線出射口
114 円錐形領域
115 微粒子
121 主パルスレーザ発生装置
125 制御装置
130 照射領域(蒸散用パルスレーザ光)
131 蒸散用パルスレーザ発生装置
135 揺動器
141 照明光源
142 検出器
143 信号処理器
Claims (4)
- 固体または液体の物質をターゲットとしてこれに高尖頭パワーを有する繰り返しパルスレーザ光を集中照射して生じたプラズマからレーザプラズマX線を発生するレーザプラズマX線発生装置において、プラズマを発生させる前記パルスレーザ光を主パルスレーザ光として発生する主パルスレーザ発生装置と、ターゲット表面から放出されるターゲット材微粒子を加熱して蒸発気化させる蒸散用パルスレーザ光を発生する蒸散用パルスレーザ発生装置と、前記主パルスレーザ光に対し時間的に遅延して前記ターゲットの集光照射された表面近傍を通過する前記ターゲットを避けた光路に、前記蒸散用パルスレーザ光を導光し前記表面近傍に向けて集光する光学系部材と、前記蒸散用パルスレーザ発生装置に通知して導光される前記蒸散用パルスレーザ光の遅延時間、パルス時間幅、およびパルスエネルギーを調整する制御装置とを備えることを特徴とするレーザプラズマX線発生装置。
- 請求項1において、更に、前記蒸散用パルスレーザ光の光路とほぼ同一の光路を伝搬し、前記表面近傍を通過するパルス状および連続のいずれか一方の照明光を発生する照明光源と、通過して到来した前記パルス状および連続のいずれか一方による記照明における強度および照明光中における飛来物体の映像の少なくとも一方を検出する検出器と、前記検出器から受ける信号を処理し同期信号として前記蒸散用パルスレーザ光の発生を制御する前記制御装置へ転送する信号処理装置とを備えることを特徴とするレーザプラズマX線発生装置。
- 請求項1において、蒸散用パルスレーザ光の集光照射領域を空間的に掃引するために前記光路中の反射鏡の向きを揺動させる機構を備えることを特徴とするレーザプラズマX線発生装置。
- 請求項1から請求項3までのうちの一つにおいて、前記ターゲットが、冷却して液体化および固体化の少なくとも一方となった化学的に不活性で室温ではガス状の物質であるクライオターゲットであることを特徴とするレーザプラズマX線発生装置。
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