JP3640701B2 - 精製ポリスルホン樹脂及びポリスルホン樹脂精製方法 - Google Patents

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はポリスルホン製膜原液の安定性および製膜における生産性にすぐれた精製ポリスルホン樹脂及びポリスルホン樹脂精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリスルホンを素材とする流体分離膜は耐熱性に優れ、多くの用途で活躍している。製膜に当たっては、ポリスルホンをジメチルアセトアミド(以下、DMACという)やジメチルホルムアミド(DMF)等特定の有機溶剤に溶解したポリマー溶液を水等の凝固媒体に押し出して凝固させる。ところで、このポリスルホンの製膜原液が時間と共に白濁する現象を示す事は古くから観察されていた。しかし、その正体は明らかにはされていなかった。原液が白濁すると製膜工程内の異物除去用のフィルターがつまり生産性が低下することが問題となっていた。
【0003】
最近の研究において白濁の正体は原材料たるポリスルホンペレット中に存在するサイクリックダイマーが析出するためである事がわかった。ところが、このサイクリックダイマーはポリマーの重合工程である確率で発生するものであり、その生成を防止する事はもちろん比率を変化させる事も不可能であるといわれている。またサイクリックダイマーをペレット中から除去する方法についても確立された技術はなく、ために白濁を放置せざるを得なかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、原液の安定性および製膜の生産性にすぐれた精製ポリスルホン樹脂及びポリスルホン樹脂精製方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記ポリマー溶液を白濁させる原因物質のサイクリックダイマーを除去し、長期間白濁せずフィルターつまりを起こさずに安定な製膜が可能な原液を供給するために鋭意研究を行った結果、特定の条件でサイクリックダイマーを選択的に抽出する方法を見いだし本発明に到達した。
【0006】
即ち、本発明は、ポリスルホン樹脂からサイクリックダイマーを除去するポリスルホン樹脂精製方法である。ポリスルホン樹脂には数種のものが知られており、スーパーエンジニアリングプラスチックで耐熱性を有する膜素材として認知されているが、本発明では式(1)で表されるビスフェノールAとジクロロジフェニルスルホンの共重合体で、一般にポリスルホンと呼ばれるものが対象となる。
【0007】
【化1】
Figure 0003640701
【0008】
ポリスルホンの重合の過程では、いくつかの低分子量重合体が生成される。ポリスルホンをテトラヒドロフラン(以下、THFという)のような有機溶媒に溶解させそのゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCという)を測定すると、複数のピークを得る。2量体、環状2量体(即ち、サイクリックダイマー)、3量体、環状3量体、4量体、環状4量体等オリゴマーと呼ばれる低分子量成分である。このうちサイクリックダイマー等の環状多量体は構造上ポリマーを溶解する溶媒にも溶解しにくく、結晶を形成しやすいが、結晶のほとんどはサイクリックダイマーであり、白濁をなくすにはサイクリックダイマーを除去すればよいことが判明した。
【0009】
ポリスルホンのこのサイクリックダイマーは式(2)で表される。
【0010】
【化2】
Figure 0003640701
【0011】
重合過程で親水基などの官能基を導入したもの、ポリマー形成後に官能基等を付加させたものに対しても同様のサイクリックダイマーが存在すれば本発明は適用できる。
本発明において「除去した」状態とは、初期原料中のサイクリックダイマー含有率に対する抽出後の原料中のサイクリックダイマー含有率で定義する残存率が50%以下である事をいう。すなわちペレット中に含まれていた量の50%以下に低減した状態を指す。さらに好ましくは30%以下である。水分が多かったり、温度が高かったりすると白濁しやすいが、30%まで低減させると原液中の水分約1000ppm、温度50℃の原液は1週間放置しても白濁してこない。
【0012】
サイクリックダイマーの含有率は以下のようにして測定する。
被検ペレット1粒を約20ccのTHFに溶解し、カラムをTSKgel G2000Hxlとした東洋曹達製HLP−8020でGPCクロマトグラムを得る。
得られたポリマーピーク高さに対するサイクリックダイマーピーク高さを含有率とする。
【0013】
サイクリックダイマーの除去方法は何通りか考えられる。原液にしてから長期間放置して白濁させ沈降させてから濾別する方法が公知であるが、白濁沈降が生じるまでの時間がかかりすぎて工業生産には不適当である。またサイクリックダイマーはポリマーを溶解する溶媒に対しては一般に溶解しやすいので、沈殿して平衡になっていた原液を1回濾別して放置すると、再び白濁してしまう。これをくりかえしてゆかないとサイクリックダイマーの含有率は下がってゆかないので、工業生産の生産性を考えると不適当である。
【0014】
本発明者らは鋭意研究の結果、サイクリックダイマーがポリスルホン樹脂を膨潤させる液体に浸す事で除去することができることを見いだし本発明に至った。これは、すなわちポリスルホンのポリマーを膨潤する液体の中ではポリスルホンのポリマー鎖の隙間が空き、ポリマー鎖間に閉じこめられているサイクリックダイマーの移動性が上がった結果抽出速度が高まったものと解釈できる。さらに、ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体中で超音波を照射すると、移動がますます促進されるため除去速度が向上する。膨潤したポリスルホンを圧延すれば接触面積が広がるためさらに除去速度が促進される。また、前記、ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体中で圧延する工程と超音波照射する工程を併用することも有用である。こうして、サイクリックダイマーを抽出分離した後、膨潤させた液体を揮発させればサイクリックダイマーが除去された精製ポリスルホン樹脂が得られる。
【0015】
なお、この際、サイクリックダイマー以外のオリゴマーも除去される場合もあるが、それは何ら本発明の目的を妨げるものではない。
本発明において用いられるポリスルホン樹脂を膨潤させる液体は、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)、ケトン類等があげられるが膨潤能力に加え、オリゴマーを抽出後ペレットを再度乾燥させることを考えると、揮発性のあるアセトンに代表されるケトン類がもっとも好ましい。
【0016】
照射する超音波の波数、出力は設備の規模、要求能力によって異なるが、20kHz〜1MHz程度、好ましくは40〜100kHz程度が使用される。出力は装置の大きさによって決定されるが、実験室的には数百Wあれば十分である。またポリマーと抽出膨潤剤の浴比は低いほど良好な抽出を可能にするが、生産性と到達レベルを考慮して適宜決定できる。
【0017】
圧延する方法は、スクリュー、ローラー等従来公知の技術が適用可能である。
さらに抽出を効率よく行うために撹拌、昇温する事も可能である。
膨潤剤はバッチ式で接触させては更新することが好ましい。更新を繰り返すと残存率を下げる効果が高い。
最後に抽出された膨潤剤を揮発等の方法で除去して、サイクリックダイマーが除去されたポリスルホン樹脂を得ることが出来る。
【0018】
一方、抽出溶媒を揮発させずに残存させたままポリマー溶液を調製することも可能である。たとえば、DMSOはポリスルホンの良溶剤であるDMACとよく混和し性能制御に有効な膨潤剤であることからそのまま残しておいても問題ない場合もある。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0020】
【実施例1】
ポリスルホンペレット(テイジンアモコ株式会社製UDEL・P−3500)約0.1g、和光純薬株式会社製試薬特級アセトン100mlをいれたコレクションバイアルを、ヤマト科学株式会社製の超音波洗浄器BLANSONIC221(45kHz,60W)中で8時間超音波処理した。8時間後のサイクリックダイマー残存率は55%であった。
【0021】
さらに3回アセトンを更新して計32時間実施したところ残存率は17%であった。このようにして精製した残存率17%のポリスルホン固形物20gをDMAC(和光純薬株式会社製試薬特級)80gに溶解し、ポリマー溶液を得た。この溶液は20℃で10日以上放置しても全く白濁してこなかった。この原液を日本ポール株式会社製の公称孔径0.5ミクロンのキャンドルフィルターで定容濾過したが、濾過圧力の上昇は見られなかった。
【0022】
【実施例2】
実施例1と同様にして3時間超音波処理した。途中1時間後、2時間後にペレットを取り出しガラス棒で圧延した。3時間後のサイクリックダイマー残存率は42%であった。
このようにして精製した残存率42%のポリスルホン固形物20gをDMAC80gに溶解し、ポリマー溶液を得た。この溶液は20℃で10日以上放置しても全く白濁してこなかった。この原液を日本ポール株式会社製の公称孔径0.5ミクロンのキャンドルフィルターで定容濾過したが、濾過圧力の上昇は見られなかった。
【0023】
【比較例1】
アセトンの代わりにエタノールを用いたこと以外は実施例1と同様にして処理した。3時間後の残存率は98%であった。エタノールはポリスルホンの多孔膜は膨潤させるが、ペレットはほとんど膨潤させない。このような液体ではペレットからの除去は困難である。このようにして処理した残存率98%のポリスルホンペレット20gをDMAC80gに溶解し、ポリマー溶液を得た。この溶液は20℃で数日放置するとすぐ白濁してしまった。この原液を実施例1で用いたのと同じ公称孔径0.5ミクロンのキャンドルフィルターで定容濾過したところ濾過圧力の上昇が見られた。
【0024】
【発明の効果】
本発明により白濁の原因物質であるサイクリックダイマーが除去されたポリスルホンが得られるので、白濁を起こさない安定な製膜原液を調製することが出来、製膜の生産性が向上する。

Claims (4)

  1. ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体中で超音波を照射する工程を含む事を特徴とするポリスルホン樹脂からサイクリックダイマーを除去するポリスルホン樹脂精製方法。
  2. ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体中で圧延する工程、超音波を照射する工程、膨潤させた液体を揮発させる工程を含む事を特徴とするポリスルホン樹脂からサイクリックダイマーを除去するポリスルホン樹脂精製方法。
  3. ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体がケトン類である事を特徴とする請求項1又は2に記載のポリスルホン樹脂からサイクリックダイマーを除去するポリスルホン樹脂精製方法。
  4. ポリスルホン樹脂を膨潤させる液体がアセトンである事を特徴とする請求項に記載のポリスルホン樹脂からサイクリックダイマーを除去するポリスルホン樹脂精製方法。
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