JP3640457B2 - 鋼材防食被覆用自着性シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材、例えば鋼管の外面を簡便、かつ効率的に防食被覆するための鋼材防食被覆用自着性シートに関するものである。さらに詳しく述べるなら、本発明は、貼着施工が容易で、かつ低温時にも実用上十分な柔軟性を有し、高温時にも高い耐クリープ性を有し、被貼着鋼材の重量に起因する変形が少なく、耐久性、機械強度、寸法安定性の優れた、鋼材防食被覆用自着性シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、鋼材、特に鋼管の防食被覆には、鋼管生産工程においてアスファルト系樹脂を被覆する方法、または前記アスファルト系防食層の上にさらにポリオレフィン系樹脂を被覆する方法、あるいは鋼管施工現場において鋼管にアスファルト系樹脂を塗装する方法、またはアスファルト系樹脂もしくはペトロラクタム系樹脂を不織布あるいはジュート等の粗布に含浸した防食テープを鋼管に巻き付ける方法などが知られている。
【0003】
鋼管生産工程で防食処理のために施されるアスファルト系樹脂の被覆は、一般に浸漬法および流し塗り法により実施されている。前記浸漬法および流し塗り法においては、被覆対象鋼管とアスファルト系樹脂との密着効果を向上させるためにアスファルト系樹脂を被覆する前工程として、鋼管の被覆面をサンドブラスト処理したのち、プライマー樹脂を塗布する。この場合、プライマー樹脂塗布後、アスファルト系樹脂の塗装まで、室温で約4時間以上放置する必要がある。次に加熱したアスファルト系樹脂を塗装温度170〜230℃で前記プライマー樹脂層の上に塗装する。このとき、アスファルト系樹脂塗膜が垂れ下がらなくなるまで、あるいは覆装材(例えば、耐熱用ビニロンクロス、ガラスクロスまたはガラスマット)巻き付け作業が可能な温度に下がるまで、鋼管を回転し続けることが必要であり、このために大規模な処理設備が必要となり、また工程数が多くなるため、生産コストが高くなる。特に角形鋼管の塗装においては、塗膜厚さを均一にすることが困難であるため、前述工程を利用できず、手塗りを必要とする。このため、作業性が極端に低下し、生産費はさらに高価となる。
【0004】
また被覆処理した鋼管を使用するまで保管しなければならないが、保管中に、被覆したアスファルト系樹脂が夏期の高温気象条件下において軟化し、垂れ下がりを生ずる。これを防止するためには、常温で硬化し、流動しない被覆層を形成し得る処方が採用されている。しかし、このような常温硬化被覆層は、厳冬下では樹脂が脆弱となり、わずかな衝撃で樹脂にひび割れが生じ、ひび割れ部分から水が侵入し防食効果が劣化するという欠点がある。
【0005】
上記流し塗り法は、円筒形鋼管に適用する場合、防食被覆層の塗布厚さの均一性を確保し易いが、特に矩形鋼管に適用する場合、防食被覆層の塗布厚さの均一性を確保することが非常に困難である。
さらに、浸漬法および流し塗り法による塗膜厚は、防食の信頼性確保のため被覆の合計厚さが3mm以上でなければならないし、前述のように、加工工程数が多く、かつ困難であることより、製品が高価になるという問題点がある。
さらに、浸漬法による被覆鋼管では、電気溶接あるいはガス溶接によって2本以上の被覆鋼管を互いに接合する場合には、被覆鋼管端部の被覆層を剥離し、鋼管の鉄面を露出させるための付加的作業が必要となる。
【0006】
また鋼管生産工程において、防食層の上にさらにポリオレフィン系樹脂を被覆する処理方法では、被覆対象鋼管と防食層となるアスファルト系樹脂との密着効果を向上させるために、前工程として鋼管の被覆面をサンドブラスト処理したのち、プライマー樹脂を塗布し、その上にアスファルト系樹脂を被覆し、さらに、その上に溶融ポリオレフィン系樹脂を被覆積層する。このような鋼管生産工程における防食被覆方法は、前記の浸漬法および流し塗り法よりもさらに大規模な処理設備が必要であり、かつそれが多工程のため、製品は非常に高価となる。また工程中でアスファルト系樹脂を被覆した後、その上に溶融ポリオレフィン系樹脂を被覆積層する場合、溶融ポリオレフィン系樹脂により付与される熱により、アスファルト系樹脂が加熱され流動性が増大し、鋼管表面上のアスファルト系樹脂が、ポリオレフィン系樹脂の積層端部から滲み出したり、又は積層したポリオレフィン系樹脂層が、鋼管軸方向に滑るという現象が生ずるおそれがある。特に角形鋼管に溶融ポリオレフィン系樹脂の均一被覆厚さを確保することは非常に困難なことである。
【0007】
鋼管施工現場においてアスファルト系樹脂を塗装する方法は、その密着性、被覆厚み、および防食性などが、人手による作業および気象状態により大きく影響を受けるため、製品品質の信頼性が劣り、かつアスファルト系樹脂を加熱溶融して用いるか、あるいはエマルジョン化して用いるため、悪臭による公害を引き起こすおそれがあり、加熱溶融したアスファルト樹脂を用いる場合には火傷による労働災害の危険が常に存在する。
【0008】
アスファルト系樹脂もしくはペトロラクタム系樹脂を、不織布あるいはジュート等の粗布に含浸した防食テープを鋼管巻き付ける方法では、防食テープを鋼管に密着させるため使用するアスファルト系樹脂、もしくはペトロラクタム系樹脂を柔軟にする必要がある。ところが柔軟なアスファルト系樹脂、もしくはペトロラクタム系樹脂が用いられている防食テープで被覆した鋼管を地中に埋設する際、防食テープが他の物体に接触すると簡単に被覆材を貫通する傷が生じて当該鋼管の防食性が損なわれてしまうという問題がある。また埋設後、上載荷重や土圧により土壌に含まれている石片により簡単に被覆材を貫通する傷が形成され、或は植物の根により被覆材が損傷し、当該鋼管の防食性が損なわれるという問題もある、そこで被覆材の厚さを前述損傷を受けても傷が鋼管表面まで達しない様に十分に厚くするか、或は別途に損傷防止対策を施さなくてはならない。しかしこのような対策は、作業性、および経済性を低下させてしまうことになる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、鋼材、例えば鋼管の外面を防食被覆するための、鋼材防食被覆用自着性シートを提供しようとするものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、鋼材防食被覆用自着性シートの化学的、機械的、生物的抵抗力を著るしく向上させ、特に酸化劣化、加水分解及びバクテリア分解等に起因して、土に接触する最外層面から鋼材表面に向かって進行する劣化、および保管あるいは施工中に他の物体との接触、または鋼管埋設後の上載荷重や土圧による土壌に含有する石等によって生ずる防食層の損傷が鋼管表面まで到達することを防止し、広い温度領域で柔軟性を高め、高温気象環境下における防食剤の垂れ下がりを少なくし、かつ耐クリープ性を向上させ、加圧抵抗力を高め、しかも鋼材の表面に対する施工性を向上させ、特に角形鋼管表面に簡易に貼付することを可能にしようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートは、繊維性基布からなる中間補強層と、前記中間補強層の一面上に形成され、0.910g/cm3以下の密度を有するエチレン−α−オレフィン共重合体を含み、かつ0.1〜1.0mmの厚さを有する少なくとも1層のエチレン共重合体樹脂層を含む表面保護層と、前記中間補強層の他の面上に形成され、ゴム系樹脂、アスファルト及び軟化剤を含むアスファルト組成物を含み、かつ0.1〜3.0mmの厚さを有する少なくとも1層のアスファルト組成物層を含む自着性防食層との積層合体物により構成されていることを特徴とするものである。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、前記自着性防食層に離型層が剥離可能に貼着されていてもよい。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、前記中間補強層と前記自着性防食層との間に、さらに前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含み、かつ、0.1〜1.0mmの厚さを有する中間層が配置されていて、前記表面保護層と、前記中間補強層と、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含む中間層とにより複合表面保護層が構成されていてもよい。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、前記表面保護層と前記中間補強層との間に、前記アスファルト組成物を含み、0.1〜3.0mmの厚さを有する中間層がさらに配置されていて、前記自着性防食層と前記中間補強層と前記アスファルト組成物を含む中間層とにより複合自着性防食層が構成されていてもよい。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、前記複合自着性防食層が、繊維性基布からなる補強層を介して、前記表面保護層と、前記中間補強層と、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含み、かつ0.1〜1.0mmの厚さを有する中間層とにより構成された複合表面保護層に積層合体されていてもよい。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂が、高圧イオン重合法により製造され、かつ直鎖状分子構造を有するものであることが好ましい。
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、前記ゴム系樹脂が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレンゴム、SBR、部分架橋ブチルゴム、および再生ブチルゴムから選ばれた少なくとも1種からなるものであることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
下記に、添付図面を参照しながら、本発明の、鋼材防食被覆用自着性シートの構成および作用効果について詳細に説明する。
【0012】
図1に示された本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、表面保護層1は、繊維性基布からなる中間補強層2を介して自着性防食層3に積層合体されており、自着性防食層3下面に離型層4が剥離可能に貼着されている。
【0013】
図2に示された本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて中間補強層2と、自着性防食層3との間にエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有層1aが形成されていて、複合表面保護層5は、表面保護層1とエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有層1aと、これらの層1及び1aの間に配置合体され、かつ繊維性基布からなる中間補強層2からなるものである。この複合表面保護層5の下面に自着性防食層3が積層され、その下面に離型層4が剥離可能に貼着されている。
図2に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、複合表面保護層5は、表面保護層と、2層以上のエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有中間層と、これらの間に挿入合体された2層以上の繊維性基布補強層から構成されていてもよい。
【0014】
図3に示された鋼材防食被覆用自着シートにおいて、複合表面保護層5と自着性防食層3とは、その間に配置され、かつ繊維性基布からなる補強層2aを介して積層合体されている。
【0015】
図4に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、表面保護層1と、中間補強層2との間にアスファルト組成物含有中間層3aが配置されていて、アスファルト組成物含有中間層3aと、中間補強層2と、自着性防食層3とにより複合自着性防食層6が構成されており、その下面に離型層4が剥離可能に貼着されている。
【0016】
図5に示された鋼材防食被覆用自着性シートは、中間補強層2と自着性防食層3との間に、中間補強層2に隣接するエチレン−α−オレフィン共重合樹脂含有中間層1aと、それに隣接する繊維性基布からなる補強層2aと、それに隣接するアスファルト組成物含有中間層3aと、自着性防食層3に隣接する繊維性基布からなる補強層2bを含むものであって、つまり複合自着性防食層6が、繊維性基布からなる補強層2aを介して、複合表面保護層5に積層合体された構造を形成している。複合自着性防食層6の下面に離型層4が剥離可能に貼着されている。
【0017】
図1〜図5の鋼材防食被覆用自着性シートにおいては、自着性防食層に、離型層が剥離可能に貼着されているが、離型層の使用は、省略されてもよい。
【0018】
本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、表面保護層は0.1〜1.0mm好ましくは0.2〜1.0mmの厚さを有する1層以上のエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂フィルム層と、必要により、1層以上の繊維性基布補強層とから構成されるものであって、このような表面保護層は、酸化劣化、加水分解及びバクテリア分解等に起因して、土に接触する最外層面から鋼管面に向かって進行する劣化、および保管あるいは施工中に他の物体との接触、または鋼管埋設後の上載荷重や土圧による土壌に含有する石等によって生ずる防食層の損傷が鋼管表面まで到達することを抑制する能力に優れたものである。また、表面保護層は、低温気象環境下においても柔軟性に優れているので、厳冬期の施工においても鋼材、特に鋼管表面、特に角形鋼管表面に、鋼材防食被覆用自着性シートを巻き付ける作業を容易に行うことができる。
【0019】
本発明に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂は、0.910g/cm3以下の密度を有するエチレン−αオレフィン共重合樹脂、を主成分として含み、必要によりエチレン−極性ビニル化合物共重合樹脂、例えばエチレン−メチルメタアクリレート共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化エチレン共重合体の架橋体アロイ等が含まれていてもよい。特に高圧イオン重合法で製造され、直鎖状分子構造を有するエチレン−αオレフィン共重合樹脂を用いることが好ましい。極性ビニル化合物としては、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル)、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸)、その無水物、塩、およびエステルなどを用いることができる。
【0020】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂において、その主共重合成分をなすエチレンは75〜92重量%の共重合含有率で含まれることが好ましく、共重合成分は、α−オレフィン、の他は、例えばアクリレート、メタアクリレート、酢酸ビニル、一酸化炭素、および塩素化エチレンなどから選ばれる1種以上からなるものである。
【0021】
上記のエチレン−αオレフィン共重合体樹脂は、密度0.910〜0.911g/cm3のとき、曲げ剛性率および融点に湾曲点を示すが、密度0.910g/cm3以下のとき、すぐれた柔軟性を示し、かつ融点の低下率が減少するという特長を有している。α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、および4−メチルペンテン−1などを用いることができ、エチレン−α−オレフィン共重合体におけるエチレンと、α−オレフィンとの共重合重量比は92:8〜75:25であることが好ましい。エチレン共重合体樹脂は、単一種のエチレン共重合体からなるものであってもよく、又は2種以上のエチレン共重合体の混合物であってもよい。
【0022】
表面保護層がエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂層のみからなり、その厚さが0.1mm未満の場合には樹木の根の生育により鋼材を被覆している鋼材防食被覆用自着性シートの穴開き等の損傷が発生し易く、またその厚さが1.0mmより大である場合には、表面保護層の剛性が過大になり、特に角形鋼管角部への鋼材防食被覆用自着性シート密着性が低下するため、角形鋼管表面への鋼材防食被覆用自着性シートの巻き付け作業性が低下する。好ましくは0.2〜1.0mmである。
エチレン−α−オレフィン系共重合体樹脂は、安定剤、酸化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑材、および/又は顔料等を、目的に応じ総計0.5〜35.0重量%の添加量で適宜含有してもよい。
【0023】
表面保護層に塗布積層された自着性防食層は、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマーの一種類以上からなるゴム材料と、アスファルトと、軟化剤とを混合し、これを0.1〜3.0mm厚さに形成した少なくとも1層のアスファルト組成物層と、必要により1層以上の繊維編織物補強層とからなるものである。アスファルトはストレートアスファルト、ブローンアスファルトのいずれでもよいが、感温性を向上させたブローンアスファルトを用いることが好ましい。アスファルトと混合するゴム材料は例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、SBR、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、スチレン−イソプロピレン−スチレンブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの天然ゴム、合成ゴム、および/又は熱可塑性エラストマー、またはこれらの再生ゴムのいずれかを1種以上を用いてよい。
さらにスチレン−ブタジエン、スチレンブロック共重合体、スチレンゴム、部分的に架橋点を持つブチルゴムや、IIR、および再生ブチルゴムが、粘着性および耐クリープ性能に優れている。またブチル系ゴムは、気体を通しにくく、かつ二重結合をほとんど含まず、酸化劣化しにくいという利点を有する。特に再生ブチルゴムは架橋部分が適度に残留し、また再生工程において生ずる分子鎖切断や再生油の効果により、優れた耐クリープ性と粘着性が発現するので、外力に対する変形抑制能力、防食性、並びに自着性に優れている。
【0024】
軟化剤は、アスファルトおよびゴム材料を軟化し、粘着性を発現向上させるために有効なものであり、一般に、ポリブテンなどのような液状ゴム、プロセスオイル、C5 および/又はC9 不飽和炭化水素留分の重合体又は共重合体からなる石油樹脂、ポリペンテン系樹脂、およびロジン樹脂などから選ぶことができる。軟化剤は、粘着付与剤とも呼ばれているものである。
【0025】
本発明のアスファルト組成物を形成するために用いられるゴム材料、アスファルトおよび軟化剤は、その配合重量比が5〜65:20〜75:10〜45であることが好ましく、15〜55:25〜50:20〜40であることがより好ましい。
【0026】
本発明において自着性防食層中の少なくとも1層のアスファルト組成物層は0.1〜3.0mm、好ましくは0.3〜3.0mmの厚さを有している。自着性防食層のアスファルト組成物層の厚さが0.1mm未満の場合には、そのクリープにより鋼材面と表面保護層との間隔が接近するため表面保護層の変位範囲が狭められ、鋼材、特に鋼管埋設後の上載荷重や土圧下において土壌中に含有される石片等による表面保護層の損傷発生の危険性が増大する。またそれが3.0mmを超えると、被覆鋼管を傾斜地等の、水平面以外の場所に長期間設置する際、表面保護層がずれてしまう危険性があるので好ましくない。
【0027】
図1に示された本発明の鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、保護表面層1は、繊維性基布からなる中間補強層2を介して、自着性防食層3に積層合体されており、図2に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいては、複合表面保護層5は、表面保護層1、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有中間層1aと、それらの間に配置された繊維性基布からなる中間補強層2を有している。また図3に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいては、複合表面保護層5は、繊維性基布からなる補強層2aを介して自着性防食層3に積層合体されており、図4に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいては、複合自着性防食層6は、自着性防食層3とアスファルト組成物含有中間層3aと、それらの間に配置され、繊維性基布からなる中間補強層2とからなるものであり、さらに、図5に示された鋼材防食被覆用自着性シートにおいては、複合表面保護層5が、繊維性基布からなる補強層2aを介して、複合自着性防食層6に積層合体された構造を有している。上記のような繊維性基布からなる補強層2a,2b又は中間補強層2を有する鋼材防食被覆用自着性シートは、酸化劣化、加水分解及びバクテリア分解等に起因して、土に接触する最外層面から鋼材面に向かって進行する劣化を抑制する能力に優れたものである。特に繊維性基布補強層が、表面保護層又はエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有中間層に積層合体されている場合、表面保護層の寸法安定性、かつ保管あるいは施工中に他の物体との接触、または鋼管埋設後の上載荷重や、土圧による土壌に含有する石片等によって生ずる防食層の損傷が鋼管表面まで到達することを抑制する能力を著しく向上しさせることができる。また低温気象環境下での柔軟性が優れているので厳冬期の施工においても、特に角鋼管表面に容易に鋼材防食被覆用自着性シートの巻き付け作業ができる。
【0028】
繊維製性基布としては、繊維材質は例えばナイロン6、ナイロン66、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維等の合成繊維、綿、麻などの天然繊維、および半合成繊維から選ばれた少なくとも1種からなるものであり、繊維及び糸条の形態は短繊維、長繊維、短繊維紡績糸条、長繊維糸条、スプリットヤーン、テープヤーンのいずれでもよく、編織方法は平織り、絡み織り、もしゃ織り、経糸緯糸挿入ラッセル編みまた、スパンボンド、メルトブロー、ニードルパンチングその他湿式、乾式その他任意の不織布等いずれであってもよい。一般的には合成繊維編織物からなる補強層および中間補強が用いられることが好ましいが、自着性防食層の補強層としては不織布を用いると、抗突き差し性、抗圧縮性の面からより好ましい場合がある。
【0029】
本発明に係る鋼材防食被覆用自着性シートにおいて、自着性防食層は、離型層により被覆されていてもよく、この場合には、使用する際に離型シートを剥離して自着性防食層を、露出させればよい。本発明の鋼材防食被覆用自着性シートが巻き上げられ、ロール状で供給される場合、表面保護層の表面が、自着性防食層と剥離可能に粘着するならば、離型層の使用を省略することができる。また表面保護層の表面に離型処理を施してもよい。さらに、表面保護層には、必要により着色、および模様づけなどを施してもよい。
【0030】
本発明の離型層を形成する離型紙又は離型フィルムとしては、パラフィン樹脂等のオレフィン系樹脂、ふっ素系樹脂、シリコン樹脂等の離型剤を被覆した紙類、前述離型剤を被覆したオレフィン系樹脂等フィルム、あるいはオレフィン系樹脂等フィルム単体を用いることができる。また離型層の表面形状は、平滑、凹凸のいずれでもよい。
【0031】
【実施例】
本発明を更に下記実施例により具体的に説明する。
参考例1
表面保護層を形成するフィルムとして下記合成樹脂組成物を用いた。
エチレン−αオレフィン共重合樹脂
(MFR;0.75、密度;0.8994g/cm3) 86.0 重量%
テトラキス〔メチレン−3(3.5−ジ−t−ブチル
−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン 0.1 重量%
エチレンビスオレイン酸アマイド 0.05重量%
2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン 0.05重量%
酸化チタン 12.8 重量%
上記合成樹脂組成物から、カレンダー法により厚さ0.5mmの表面保護層用フィルムを形成した。
【0032】
自着性防食層を形成するアスファルト組成物として下記組成物を調整した。
ブローンアスファルト(JISK2207防水工事用
アスファルト4種相当品) 26.5 重量%
再生ブチルゴム 52.5 重量%
ポリテルペン系樹脂 3.5 重量%
マシンオイル 17.5 重量%
上記アスファルト組成物を180℃で加熱溶融し、前記表面保護層用フィルムの下面に、0.8mmの厚さに塗布し、冷却し、さらにその上に離型紙を貼付して、鋼管防食被覆用自着性シートを作製した。離型紙は基紙と、その上に塗布されたシリコーン樹脂からなり0.35mmの厚さを有していた。
【0033】
表面保護層を形成する上記合成樹脂組成物の100%モジュラス、破断伸び率(JIS K 6301)の測定結果を表1に示し、自着性防食層を形成するアスファルト組成物のJIS−G−3491による高温垂下試験、および衝撃試験の結果を表2に示す。
【0034】
この鋼管防食被覆用自着性シートを、氷点下−10℃の雰囲気下で肉厚13mm、角部が半径18mmの円弧状に曲げ、一辺30cmの矩型断面を有する長さ5mの角形鋼管に巻き付けた。角形鋼管に巻き付ける際の防食被覆用自着性シートは矩形鋼管の平面部中央部軸方向に5cmの重ね合わせを行った。この巻き付け作業の作業性を評価し、さらにこれを地下1mに仮埋設し、1年後の角形鋼管面の錆発生状況を観察した。その結果を表3に示す。
【0035】
実施例1
表面保護層を、下記組織のポリエステル基布:
の両面上に、参考例1で記載した合成樹脂組成物からカレンダー法により形成された厚さ0.3mmのフィルムを加熱積層して形成した。
【0036】
上記アスファルト組成物を180℃で加熱溶融し、前記フィルムと前記ポリエステル基布を加熱積層した前記表面保護層の下面に、0.8mmの厚さに塗布、冷却し、その上にさらに離型紙を貼着して、図3に示す鋼材防食被覆用自着性シートを作製した。
参考例1と同一の作業を実施し、作業性評価結果および一年後の観察結果を表3に示す。
【0037】
比較例1
参考例1と同様にして、鋼材防食被覆用自着性シートを作製した。但し、保護表面層を形成する合成樹脂組成物として、下記組成物を用いた。
低密度ポリエチレン樹脂(MFR:0.65、密度:
0.923g/cm3) 86.0 重量%
テトラキス〔メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル
−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン 0.1 重量%
エチレンビスオレイン酸アマイド 0.05重量%
2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン 0.05重量%
酸化チタン 12.8 重量%
参考例1と同一の測定の結果と作業性評価結果および一年後の観察結果を表1,3に示す。
【0038】
比較例2
参考例1と同様にして鋼材防食被覆用自着性シートを作製した。但し、表面保護層を形成する合成樹脂組成物として、下記組成物を用いた。
塩化ビニル樹脂 41.2 重量%
エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体 41.2 重量%
ステアリン酸亜鉛 0.2 重量%
ステアリン酸バリウム 0.2 重量%
ジブチル錫マレート 0.8 重量%
炭酸カルシウム 10.2 重量%
酸化チタン 6.2 重量%
参考例1と同一測定の結果と作業性評価結果および一年後の観察結果を表1,3に示す。
【0039】
比較例3
参考例1と同様にして、鋼材防食被覆用自着性シートを作製した。但し、自着性防食層を形成するアスファルト組成物として、下記組成物を用いた。
ストレートアスファルト60−80 42.5 重量%
スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体 19.5 重量%
ポリテルペン系樹脂 20.0 重量%
マシンオイル 18.0 重量%
参考例1と同一の測定の結果と作業性評価結果および一年後の観察結果を表2,3に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表1に示されている結果により明らかなように、表面保護層が密度0.910g/cm3以下のエチレン−αオレフィン共重合体樹脂で形成されている鋼材防食被覆用自着性シートは、低温、常温、高温の広い温度範囲において、100%モジュラスにより示される硬さの変化、および破断時の伸び率の変化により表される硬さの変化が、密度0.923g/cm3の低密度ポリエチレン樹脂、あるいは塩化ビニル樹脂とエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合樹脂の混合物からなる表面保護層に比較して、極めて少なく、十分な柔軟性を保持していた。また表2に示された結果から明らかなように、自着性防食層が参考例1で形成された組成のアスファルト組成物により形成されている場合、得られる鋼材防食被覆用自着性シートは、氷点下においても角形鋼管面に強固粘着し、耐衝撃性を保ち、かつ高温時の垂れ下がりが比較例3のような一般的な被覆用アスファルト組成物を用いた場合に比較して、極めて少なかった。さらに表3の結果から明らかなように、参考例1及び実施例1で示した本発明の鋼材防食被覆用自着性シートは、低温時作業において損傷なく被覆することができ、かつ防食性が優れていることが確認された。
【0044】
【発明の効果】
本発明による鋼材防食被覆用自着性シートは、その表面保護層により酸化劣化、加水分解及びバクテリア分解に等に起因して、土に接触する最外層面から鋼材面、特に鋼管の外側面に向かって進行する劣化、および保管あるいは施工中に他の物体との接触、または鋼管埋設後の上載荷重や土圧下に、土壌中に含有される石片等によって生ずる防食層の損傷が鋼管表面まで到達することを抑制し、水の侵入を防ぐことができ、また広い温度領域で柔軟性を保有するので、気温条件に影響されずに鋼材全面、特に角形鋼管全面に、鋼材防食被覆用自着性シートが簡易に鋼管面追従させることができる。さらに、その自着性防食層により、広い温度領域で気温条件に影響されずに粘着性、柔軟性を発現し、氷点下でも鋼材全面、特に角形鋼管に簡易に鋼材防食被覆用自着性シートと鋼管との間に空隙を生ずることなく貼付することができ、それによって水の侵入を防ぎ、防食効果を長期維持することができる。さらにこの自着性防食層は、高温気象環境下でも垂れ下がりを発生することがなく、耐クリープ性がすぐれている。従って本発明の、鋼材防食被覆用自着性シートは、地中埋設する通信線、高圧電線保護用等鋼管、特に角形鋼管に長期の防食にきわめて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の鋼材防食被覆用自着性シートの一例の断面説明図。
【図2】 図2は本発明の鋼材防食被覆用自着性シートの他の一例の断面説明図。
【図3】 図3は本発明の鋼材防食被覆用自着性シートのさらに他の一例の断面説明図。
【図4】 図4は、本発明の鋼材防食被覆用シートのさらに他の一例の断面説明図。
【図5】 図5は、本発明の鋼材防食被覆用シートのさらに他の一例の断面説明図。
【符号の説明】
1…表面保護層
1a…エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂含有中間層
2…中間補強層
2a,2b…補強層
3…自着性防食層
3a…アスファルト組成物含有中間層
4…離型層
5…複合表面保護層
6…複合自着性防食層
Claims (7)
- 繊維性基布からなる中間補強層と、前記中間補強層の一面上に形成され、0.910g/cm3以下の密度を有するエチレン−α−オレフィン共重合体を含み、かつ0.1〜1.0mmの厚さを有する少なくとも1層のエチレン共重合体樹脂層を含む表面保護層と、前記中間補強層の他の面上に形成され、ゴム系樹脂、アスファルト及び軟化剤を含むアスファルト組成物を含み、かつ0.1〜3.0mmの厚さを有する少なくとも1層のアスファルト組成物層を含む自着性防食層との積層合体物により構成されていることを特徴とする鋼材防食被覆用自着性シート。
- 前記自着性防食層に離型層が剥離可能に貼着されている、請求項1に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
- 前記中間補強層と前記自着性防食層との間に、さらに前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含み、かつ、0.1〜1.0mmの厚さを有する中間層が配置されていて、前記表面保護層と、前記中間補強層と、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含む中間層とにより複合表面保護層が構成されている、請求項1又は2に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
- 前記表面保護層と前記中間補強層との間に、前記アスファルト組成物を含み、0.1〜3.0mmの厚さを有する中間層がさらに配置されていて、前記自着性防食層と前記中間補強層と前記アスファルト組成物を含む中間層とにより複合自着性防食層が構成されている、請求項1又は2に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
- 前記複合自着性防食層が、繊維性基布からなる補強層を介して、前記表面保護層と、前記中間補強層と、前記エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂を含み、かつ0.1〜1.0mmの厚さを有する中間層とにより構成された複合表面保護層に積層合体されている請求項4に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
- エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂が、高圧イオン重合法により製造され、かつ直鎖状分子構造を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
- 前記ゴム系樹脂が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレンゴム、SBR、部分架橋ブチルゴム、および再生ブチルゴムから選ばれた少なくとも1種からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼材防食被覆用自着性シート。
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