JP3639721B2 - 測定システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、測定手段のデータから検量式を用いて試料に係る目的変数を求める測定システムにおいて、試料が性状の異なるものに変更された場合に、新たに測定する試料に対応できる新検量式を迅速に作成できる測定システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
石油製品の生産現場においては、製品や中間材料が一定の品質を保つように管理する目的で、生産工程の各段階で品質に関する指標を測定している。近年、組成、密度、曇点、オクタン価等様々な指標についての情報がほぼリアルタイムで得られる近赤外分析計が、インライン分析計として注目されている。近赤外分析計から得られる各波長のデータは、目的の指標、例えば密度等を直接示すものではない、そのため、各波長のデータから密度等を求める場合には、検量式と呼ばれる回帰式が用いられる。この回帰式は、通常同一試料についての近赤外分析計の波長データと手分析データとの照合結果に基づいて作成される。
【0003】
この近赤外分析計のように多変量のデータが得られる場合の検量式は、上記照合結果を多数用いて求める必要がある。そのため、様々な性状の試料についての照合結果を蓄積したデータベースを検量式作成の基礎情報として使用することが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記データベースは、あらゆる性状の試料に対応できるよう、あらゆる性状の試料についての照合結果が蓄積されていることが理想である。しかし、現実には原油の性状だけを考えても千差万別であり、さらに工程の運転変数についても様々な条件設定が可能であることを考えると、試料の性状は無限と言えるほどの多様性を持つ。したがって、すべての性状の試料に対応できる検量式は現状では用意されていない。
【0005】
そのため、測定したい試料と類似の性状の試料に関する照合結果がデータベースに蓄積されていないと、適切な検量式を作成するために、測定したい試料と類似の性状の試料を多種類用意して、手分析値等との照合結果を蓄積しなければならない。また、このようにしてせっかく適切な検量式を作成しても、原料や工程の運転変数等の変更によって試料の性状が変わると、また新たに照合結果を蓄積して検量式を作成しなおさなければならない。そのため、新たな検量式の作成が終わるまで近赤外分析計のデータは信頼性がないとして使用できず、高い応答性という利点を失ってしまうことになる。また、このように煩雑な新検量式作成作業を実際の製造現場において、原料や工程の運転変数が変わる度に行うことは現実的ではなく、近赤外分析計をインライン分析計として活用することを困難にしていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、近赤外線分析計のように、密度等最終的に知りたい情報を間接的に示すデータを与える測定手段の使用にあたり、測定手段に試料を供給する条件の変更によってそれまでに使用していた検量式では対応できなくなった場合に、適切な検量式を簡易かつ迅速に用意できるようにした測定システムを提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明らは上記課題を解決するため検討した結果、インライン測定においては、原料や工程の運転変数等、試料の供給条件を切り替えても、試料の置き換わりや蒸留装置の温度上昇等には一定の時間を要することに着目した。その間に測定手段に導入される試料は、供給条件の変更に基づく性状変化が完了した後の試料の性状を反映していると共に、その反映する度合いが徐々に変化していく。つまり、この変化過程中の試料の測定により、変化過程完了後の試料の性状を反映した複数種類の測定データの取得が可能であり、これらの測定データを用いれば、変更後の試料に対応できる検量式をいち早く作成できることに気がついたものである。
【0008】
すなわち、請求項1に係る測定システムは、説明変数である間接測定手段のデータと目的変数との関係を示す検量式に基づいて間接測定手段のデータから目的変数を求める測定システムにおいて、間接測定手段に連続的又は間欠的に導入される試料の性状が、試料の供給条件の変更によって変化する変化過程中に、その時得られる間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせを、従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合に追加し、追加後の間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合を用いて新検量式を作成することを特徴とする。
【0009】
本明細書における説明変数や目的変数という用語は、以下に説明するようにケモメトリックスと呼ばれる化学の一分野で使用される概念を意味する。ケモメトリックスとは、数学的手法や統計的手法を適用し、最適手順や最適実験計画の立案・選択を行うとともに、化学データから得られる化学情報量の最大化を目的とする手法からなる化学の一分野である。
【0010】
通常、機器分析データは試料が含む特定成分や物理的性質、状態、特性等を説明、予測するために収集される。説明されるべき対象は質的変数の場合と量的変数の場合がある。因果関係から考えると、成分組成等の性状を直接反映する機器分析データは原因であり、説明されるべき変数は結果と考えられる。この関係を踏まえて、前者を説明変数(あるいは従属変数)、後者を目的変数(あるいは独立変数)と呼ぶ。
【0011】
ケモメトリックスで扱う説明変数(測定データ)は従来の化学分析とは異なり、例えばクロマトグラフィーやスペクトロメトリーによる分析から得られる多数ピークの定量値や多数波長の吸光度からなる。一つの試料に対する説明変数は、ピークや波長における定量値をxj、それらの数をmとしたとき、下記のようにベクトル(x)として表される。
x=(x1,x2,…,xj,…,xm
【0012】
さらに、試料群全体に対する説明変数は試料数をnとした場合下記式(数1)のように、行列(X)として表される。
【数1】
Figure 0003639721
【0013】
一方、目的変数も各試料に対して複数項目からなるときはベクトル(y)として表される。
y=(y1,y2,…,yp,… ,yr
【0014】
さらに、試料群全体に対する目的変数は試料数をnとした場合下記式(数2)のように、行列(Y)として表される。
【数2】
Figure 0003639721
【0015】
なお、目的変数が単数項目の場合、試料群全体に対する目的変数は下記式(数3)のように行列(Y’)として表される。
【数3】
Figure 0003639721
【0016】
この説明変数を目的変数に置き換えるのが検量の目的であり、このための式が検量式である。検量式を求めるために、クロマトグラフィ、スペクトロメトリー等の分野では多変量回帰分析が一般に用いられる。多変量回帰分析には、良く知られているように重回帰分析、主成分回帰分析、PLS回帰分析等の種類がある。
【0017】
間接測定手段とは、検量式を介して目的変数を間接的に求められる説明変数を、データとして与える測定手段である。その構成要素の種類や数に限定はなく、例えば、近赤外分析計単独で構成しても良いし、温度計、圧力計、PH計等の複数の計測器を組み合わせて構成しても良い。ただし、何れの場合にも試料が連続的又は間欠的に導入されるいわゆるインライン測定を行う手段である。
【0018】
何れの請求項においても、問題としているのは試料の供給条件を変更する場合である。試料の供給条件とは、測定手段に導入されるまでに、試料がどのような材料からどのように加工されてくるかを示す条件で、原料の種類や工程の運転変数等からなる。
【0019】
原料の種類の変更からなる供給条件の変更としては、例えば、二種類の基材をブレンドした後で測定する測定ラインの場合における、基材Aと基材Bをブレンドしていた状態から基材Cと基材Dをブレンドする状態への切替等がある。また、工程の運転変数の変更からなる供給条件の変更しては、例えば、蒸留装置の蒸留温度や圧力の変更等がある。
【0020】
試料の供給条件の変更によって、間接測定手段に導入される試料の性状は一般的に変化する。ここで、性状とは、説明変数に変化を与えうる試料の性状すべてをいう。このとき、目的変数は変化する場合もあれば変化しない場合もある。例えば、原料となる基材が異なる石油製品は成分組成(性状)が異なり、近赤外分析計から得られるスペクトルデータ(説明変数)が異なるものとなるが、オクタン価(目的変数)は異なる場合もあれば、同一の場合もある。
【0021】
インライン測定の場合上記のように試料の供給条件を切り替えても、運転変数の変更が達成されるまでの時間や、測定手段に至るサンプリングライン等の試料の置き換わりの時間が必要である。測定手段には、供給条件変更前の試料から、変更が完了して新たな定常状態の試料となるまでの変化過程の間、変更前の試料の性状を主体として変更完了後の試料の性状を併せ持つ試料、変更完了後の試料の性状を主体として変更前の試料の性状を併せ持つ試料等、変更完了後の試料の性状を様々な度合いで反映する試料が導入される。
【0022】
従前の検量式を作成するために使用された測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合は、上述の行列(X)と(Y)又は(Y’)のような行列式の組み合わせとして捉えられる。新たな測定手段のデータ(説明変数)と目的変数との組み合わせを追加することは、(X),(Y)あるいは(Y’)のような行列式に、それぞれ行を追加していくことに相当する。
【0023】
前述のように、この変化過程中に得られる組み合わせの集合は、変化完了後の試料の性状を一部反映しているので、変化完了後の試料に対応可能な新検量式の作成を、完全に試料が切り替わる前から行うことができる。
【0024】
なお、請求項1においては、従前の検量式を作成するために使用された目的変数と、新たに追加する目的変数のいずれについても、手分析値、他の測定手段のデータ、運転条件からの推定値等、又はこれらの組み合わせ等を任意に選択できる。
【0025】
請求項2に係る測定システムは、説明変数である間接測定手段のデータと目的変数との関係を示す検量式に基づいて間接測定手段のデータから目的変数を求める測定システムにおいて、間接測定手段と別個に直接測定手段を設け、これら双方の測定手段に連続的又は間欠的に導入される試料の性状が、試料の供給条件の変更によって変化する変化過程中に、その時得られる各々の測定手段のデータの組み合わせを、直接測定手段のデータを目的変数として従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合に追加し、追加後の間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合を用いて新検量式を作成することを特徴とする。
【0026】
請求項2に係る測定システムでは請求項1に係る測定システムと異なり、従前の組み合わせの集合に追加する目的変数を、直接測定手段のデータ、すなわち、間接測定手段と別個に設けたインライン測定手段のデータに限定している。ここで、直接測定手段とは、直接、あるいは直接とみなせる程度に単純な相関関係に基づいて目的変数を示すデータを与える測定手段である。
【0027】
これにより、説明変数である間接測定手段のデータと目的変数である直接測定手段のデータとの組み合わせを自動的に取得することできる。そのため、変化過程中にデータの組み合わせを簡易にかつ多数の種類取得することができ、簡便かつ迅速な新検量式の作成が可能となる。
【0028】
なお、「従前の検量式を作成するために使用された第1の測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合」における目的変数としては、請求項1に係る測定システムと同様、直接測定手段のデータ、手分析値、推定値、又はこれらの組み合わせ等を採用できる。
【0029】
請求項3に係る測定システムは、請求項1又は請求項2に記載の測定システムにおいて、新検量式の誤差が予め定めた許容範囲以下となった際に、有効な検量式を新検量式に更新することを特徴とする。
【0030】
追加するデータの数が少ない内は、新検量式を作成しても新たなデータが分布する範囲に対する学習不足から、誤差の大きい検量式となりやすい。そこで、新検量式を作成しても直ちに有効な検量式としては採用せず、充分な数のデータが追加されて新検量式により求められる目的変数の信頼性を確保できるようになってから採用するものである。なお、新検量式作成開始から有効な検量式更新までの間、間接測定手段から求められる目的変数は、出力しないか出力しても暫定値として扱うのが適当である。
【0031】
請求項4に係る測定システムは、請求項1から請求項3の何れかに記載の測定システムにおいて、間接測定手段のデータが従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータの集合が分布する範囲(以下「母集団」という)に含まれていないと判別分析により判断したときに、新検量式作成を開始することを特徴とする。
【0032】
試料の供給条件の変更は、バルブの開閉等の事実から別途判断することも可能である。しかし、試料の供給条件が変更されても、その条件を過去に学習済みで、従前の検量式で変更後の試料に対応できるものであれば、新たに検量式を作成する必要がない。また、既に母集団にあるデータを重ねて追加しても検量式の改善は望みにくい。一方、前述のように新検量式の作成開始当初は新検量式の評価を行うことが望まれるので、不要な場合にまで新検量式作成を開始することは適当でない。したがって、間接測定手段のデータが母集団に含まれておらず、真に検量式の更新が望まれるときのみに検量式作成を開始するものである。
【0033】
判別分析は、間接測定手段のデータのみに適用しても、間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせに適用してもよい。前者の場合には、主成分分析、因子分析、クラスタ分析、多次元尺度構成法等の手法が使用できる。また、後者の場合には、線形学習機械、KNN法(K-nearest neighbor method)、シンプレックス法、線形判別分析、SIMCA(soft independent modeling of class analogy)等の手法が使用できる。
【0034】
請求項5に係る測定システムは、請求項1から請求項3の何れかに記載の測定システムにおいて、間接測定手段のデータから求めた目的変数と直接測定手段のデータとの誤差が予め定めた所定の値以上になったときに、新検量式作成を開始することを特徴とする。
【0035】
これも請求項4に係る測定システムと同様、必要なときのみ新検量式作成を開始しようとするものである。この場合、従前の検量式では対応できない性状の試料であることを、間接測定手段のデータから求められる目的変数と、直接測定手段のデータとの差異により判断するものである。
【0036】
請求項6に係る測定システムは、請求項1から請求項5の何れかに記載の測定システムにおいて間接測定手段及び/又は直接測定手段は、正常な測定を行っているか否かを判断する自己診断機能を有し、この自己診断機能により間接測定手段及び/又は直接測定手段が異常と判断された場合は、新検量式の作成を中止することにより、誤った測定データによって新検量式が作成されることを防止するものである。
【0037】
請求項7に係る測定システムは、請求項1から請求項6の何れかに記載の測定システムの間接測定手段として近赤外分析計を採用するものである。近赤外分析計では各波長のデータから所望の情報(目的変数)を得るための検量式が必要である。試料の性状が切り替わった場合に対応できる検量式が迅速に作成できることにより、ほぼリアルタイムでデータが得られる近赤外分析計の利点を充分に活かすことが可能となる。また、請求項2に記載の如く、目的変数として直接測定手段を用いる場合、直接測定手段が比較的信頼性の高いインライン分析計であれば、信頼性の高いデータをほぼリアルタイムで得られるようになる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の1実施形態として、ガソリンのオクタン価の測定システムを示す構成図である。図1において、測定手段1と測定手段2が、それぞれ製造ライン3から分岐された測定ライン4と測定ライン5に介装されている。製造ライン3には、開閉弁6によって選択した基材A〜Dをブレンド装置7でブレンドした結果のガソリンが供給されるようになっている。そして、このガソリンは製造ライン3から測定ライン4と測定ライン5を経由して測定手段1と測定手段2の双方に試料として供給されるようになっている。測定手段1と測定手段2のデータ及び自己診断の結果は、演算装置8に伝えられるようになっている。
【0039】
ここで、測定手段1は説明変数としてのデータを取得するための間接測定手段で、本実施形態では近赤外分析計であるとする。測定手段2は目的変数としてのデータを取得するための直接測定手段で、本実施形態ではエンジン法によるオクタン価計であるとする。
【0040】
演算装置8は、測定手段1のデータから検量式を用いてオクタン価を算出するようになっている。ただし、演算装置8における検量式は、初期状態として基材Aと基材Bとをブレンドしてできたガソリンについては対応できるが、基材Cと基材Dとをブレンドしてできたガソリンについては対応できないものであると仮定する。
【0041】
今、弁6を切り替え、ブレンド装置7に供給する基材が基材AとBである初期状態から基材CとDである状態へと変更したとする。すると、測定手段1と測定手段2に供給される試料は、基材Aと基材Bとをブレンドしてできたガソリンから、基材Cと基材Dとをブレンドしてできたガソリンへと直ちに切り替わる訳ではなく、基材A、B、C、Dが混在したガソリンが供給される過程が存在する。この変更過程中、基材A、Bの比率は徐々に減少し、基材C、Dの比率が徐々に増加する。
【0042】
演算装置8は、測定手段1のデータが従前の検量式作成のために使用された測定手段1のデータの集合が分布する範囲に含まれているか否かを判別分析により判断し、含まれていないと判断したときに、その時の測定手段1と測定手段2のデータの組み合わせを従前の検量式を作成するために用いた測定手段1のデータと目的変数の組み合わせの集合(以下「母集合α」という)に追加して新検量式を作成する作業を開始する。また、演算装置8は、測定手段1のデータから求めたオクタン価と測定手段2から得られるオクタン価の値の差が一定以上になった場合にも同様に新検量式を作成する作業を開始する。
【0043】
このとき、測定手段1のデータは数秒から数十秒に一度の間隔で得られるが、測定手段2のデータは、数分から数十分に一度しか得られない。そのため、母集合αへのデータの追加は、測定手段2のデータが得られたときに行われる。また、測定手段1のデータは試料が導入されて即座に得られるが、測定手段2のデータは、試料が導入されてから所定の測定工程を経た後に得られる。そのため、タイムラグを考慮して同一の試料についての測定手段1のデータと測定手段2のデータの組み合わせを追加データとする。
【0044】
測定手段1と測定手段2のデータの組み合わせが母集合αに追加されると、追加後の集合に基づき新検量式を作成する。ただし、演算装置8が測定手段1のデータからオクタン価を算出するための検量式として直ちにこの検量式を採用することはしない。新検量式の誤差が所定の許容範囲以下となったことを確認してから新検量式を有効な検量式として採用する。
【0045】
もし、測定手段1に導入される試料が完全に基材Cと基材Dとをブレンドしてできたガソリンに変化し終わっても誤差が許容範囲に入らない場合はその後の定常状態となった試料のデータを重ねて追加しても検量式の改善は望めない。その場合は、警報を出力し、従来どおり試験室で検量式を作成し直す等の対処を行う。
【0046】
誤差評価は、測定手段1のデータから求めたオクタン価と測定手段2等から求めたオクタン価の誤差の評価により行う。なお、追加後の集合に含まれるすべてのデータを使用して評価しても代表的なデータをサンプリングしたデータで評価してもよい。誤差の評価手法に特に限定はないが、それぞれのオクタン価の差の二乗平均ルート(RMSE)や二乗平均(MSE)を求めるのが一般的である。
【0047】
この母集合αへのデータの組み合わせの追加、追加後の集合に基づく新検量式の作成、新検量式の評価、及び有効な検量式の更新は、測定手段2のデータが取得される度に繰り返し行われる。そのため、新検量式を迅速に作成できると共に、信頼性の確保された新検量式が出来次第これを有効な検量式として採用できる。
【0048】
なお、測定手段1又は測定手段2の何れか一方でも自己診断機能により異常と判断された場合には、上記の検量式作成作業を開始せず、異常と判断された測定手段や演算装置8から警報を出力する。また、開始後に異常と判断された場合にも直ちに検量式作成作業を中止しやはり警報を出力する。
【0049】
このように、本実施形態によれば、近赤外分析計によりオクタン価がほぼリアルタイムで、しかもエンジン法によるオクタン価計の信頼性に裏打ちされて得られる。また、ブレンドする基材が変更されて試料の性状が変化し、今までの検量式では対応できない場合に遭遇しても、速やかに信頼性のある検量式が作成できる。したがって、ガソリンの品質管理をほぼリアルタイムで行うことが可能となる。
【0050】
次に、図2は本発明の他の実施形態として、脱ベンゼン等の目的で基材を蒸留した後の残留分の成分濃度を調べる測定システムを示す構成図である。図2において、測定手段11と測定手段12が、それぞれ製造ライン13から分岐された測定ライン14と測定ライン15に介装されている。製造ライン13には、蒸留装置17で蒸留した残留分が供給されるようになっている。そして、残留分は製造ライン13から測定ライン14と測定ライン15を経由して測定手段11と測定手段12の双方に試料として供給されるようになっている。測定手段11と測定手段12のデータ及び自己診断の結果は、演算装置18に伝えられるようになっている。
【0051】
ここで、測定手段11は説明変数としてのデータを取得するための間接測定手段で、本実施形態では近赤外分析計であるとする。測定手段2は目的変数としてのデータを取得するための直接測定手段で、本実施形態ではガスクロマトグラフ装置であるとする。このガスクロマトグラフ装置で得られるクロマトグラムは各成分濃度を直接反映するものであるが、必要に応じて、手分析値や内部標準等により感度の確認をすることができる。
【0052】
演算装置18は、測定手段11のデータから検量式を用いて各成分濃度を算出するようになっている。ただし、演算装置18における検量式は、初期状態として基材を温度T1で蒸留した残留分については対応できるが、温度T2で蒸留した残留分には対応できものでないものであると仮定する。
【0053】
今、蒸留装置17の設定温度を初期状態のT1からT2へと変更したとする。すると、蒸留装置17の蒸留温度は直ちにT2に変化するわけではなく、徐々に変化する。そのため、測定手段11と測定手段12に供給される試料は、蒸留温度T1における残留分から蒸留温度T2の残留分へと直ちに切り替わる訳ではなく、蒸留温度がT1とT2の間の温度である残留分が供給される変化過程が存在する。
【0054】
演算装置18は図1の実施形態における演算装置8と同様に、判別分析や測定手段1と測定手段2のデータの比較により検量式作成を開始し、その時の測定手段11と測定手段12のデータの組み合わせを従前の検量式を作成するために用いた測定手段11のデータと目的変数の組み合わせの集合(以下「母集合β」という)に追加する。
【0055】
このとき、測定手段11のデータは数秒から数十秒に一度の間隔で得られるが、測定手段12のデータは、数分から数十分に一度しか得られない。そのため、母集合βへのデータの追加は、測定手段12のデータが得られたときに行われる。また、測定手段11のデータは試料が導入されて即座に得られるが、測定手段12のデータは、試料が導入されてから所定の測定工程を経た後に得られる。そのため、タイムラグを考慮して同一の試料についての測定手段11のデータと測定手段12のデータの組み合わせを追加データとする。
【0056】
測定手段11と測定手段12のデータの組み合わせが母集合βに追加されると、追加後の集合に基づき新検量式を作成する。この新検量式を演算装置18が測定手段11のデータから各成分濃度を算出するための検量式として採用するのは、図1の実施形態と同様に新検量式の誤差が許容範囲以下になったと確認されてからである。
【0057】
図2においても、この母集合βへのデータの組み合わせの追加、追加後の集合に基づく新検量式の作成、新検量式の評価、及び有効な検量式の更新は、測定手段12のデータが取得される度に繰り返し行われる。そのため、変化後の試料に対応できる検量式をいち早く使用開始できる。また、測定手段11又は測定手段12の何れか一方でも自己診断機能により異常と判断された場合には、検量式作成作業開始や継続を中止し警報を出力する。
【0058】
このように、本実施形態によれば、近赤外分析計により各成分濃度がほぼリアルタイムで、しかもガスクロマトグラフ装置の信頼性に裏打ちされて得られる。また、蒸留温度等の運転変数が変更されて試料の性状が変化し、今までの検量式では対応できない場合に遭遇しても、速やかに信頼性のある検量式が作成できる。したがって、脱ベンゼン等の工程管理をほぼリアルタイムで行うことが可能となる。
【0059】
なお、各実施形態においては、各々の測定手段を並列に設置した例を示したが、近赤外分析計のように一方が試料の性状に変化を与えない測定手段であれば、他方の測定手段をその後に続けて直列に設置しても良いことは勿論である。
【0060】
【発明の効果】
本発明による測定システムによれば、測定手段のデータから目的変数を求めるための検量式が、試料の性状の変化によりその後のデータに対応できない場合に遭遇しても、速やかにかつ簡便に信頼性のある検量式を作成できる。
また、ほぼリアルタイムでデータが得られる等、便宜性の高い測定手段を、他の測定手段の信頼性に裏打ちされた状態で使用することができる。
したがって、原料や運転変数が一定でない現場において、製品の品質管理や工程管理等に必要な信頼性の高い情報を、簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る測定システムの一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る測定システムの他の実施形態を示す構成図である。
【符号の説明】
1,2,11,12 測定手段
3,13 製造ライン
4,5,14,15 測定ライン
6 開閉弁
7 ブレンド装置
17 蒸留装置
8,18 演算装置

Claims (7)

  1. 説明変数である間接測定手段のデータと目的変数との関係を示す検量式に基づいて間接測定手段のデータから目的変数を求める測定システムにおいて、
    間接測定手段に連続的又は間欠的に導入される試料の性状が、試料の供給条件の変更によって変化する変化過程中に、その時得られる間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせを、従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合に追加し、追加後の間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合を用いて新検量式を作成することを特徴とする測定システム。
  2. 説明変数である間接測定手段のデータと目的変数との関係を示す検量式に基づいて間接測定手段のデータから目的変数を求める測定システムにおいて、
    間接測定手段と別個に直接測定手段を設け、これら双方の測定手段に連続的又は間欠的に導入される試料の性状が、試料の供給条件の変更によって変化する変化過程中に、その時得られる各々の測定手段のデータの組み合わせを、直接測定手段のデータを目的変数として従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合に追加し、追加後の間接測定手段のデータと目的変数との組み合わせの集合を用いて新検量式を作成することを特徴とする測定システム。
  3. 新検量式の誤差が予め定めた許容範囲以下となった際に、有効な検量式を新検量式に更新することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の測定システム。
  4. 間接測定手段のデータが従前の検量式を作成するために使用された間接測定手段のデータの集合が分布する範囲に含まれていないと判別分析により判断したときに、新検量式作成を開始することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の測定システム。
  5. 間接測定手段のデータから求めた目的変数と直接測定手段のデータとの誤差が予め定めた所定の値以上になったときに、新検量式作成を開始することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の測定システム。
  6. 間接測定手段及び/又は直接測定手段は、正常な測定を行っているか否かを判断する自己診断機能を有し、この自己診断機能により間接測定手段及び/又は直接測定手段が異常と判断された場合は、新検量式の作成を中止することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の測定システム。
  7. 間接測定手段が近赤外分析計であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の測定システム。
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