JP3629578B2 - Ti系材料とCu系の接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、チタン(以下、Tiと略称する)系材料と銅(以下、Cuと略称する)系材料の接合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
集積回路に用いられる薄膜を形成する方法としてはスパッタリング法が公知である。この方法には、物理スパッタリング(PVD)と反応性スパッタリングとがあるが、いずれの方法も、スパッタリングターゲットを用いる。スパッタリングターゲットは、イオンの照射されるターゲット部材と、このターゲット部材をその背部から支持するバッキングプレートとから成るもので、具体的にはCu系材料、Ti系材料、あるいはアルミニウム(以下、Alと略称する)系材料より成るバッキングプレートに、クロム(以下、Crと略称する)系材料、Ti系材料、あるいはAl系材料より成るターゲット部材を、インジウム(以下、Inと略称する)系材料にてボンディング(ろう付)したものが知られている。例えばバッキングプレートとしてTi系材料を用いる点については、特開平6−293963号公報、またIn系材料を用いてターゲット部材のボンディングを行う点については上記公報、及び特開平3−140464号公報を挙げることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで上記Ti系材料をバッキングプレートとして用い、In系材料にてターゲット部材をボンディングする場合について検討する。まずTi系材料は、大気や水分等の存在に起因して、その表面が、薄い強固な酸化皮膜(不動態皮膜)によって覆われている。この不動態皮膜は、強固であってきわめて除去しにくいものであり、また他の金属と反応し難いものであるため、ボンディング時の濡れ性が極めて悪く、そのためIn系材料等を用いたボンディング作業を著しく困難なものとしている。このような困難性を改善するため、上記特開平6−293963号公報においては、Ti系材料製のバッキングプレートの表面にCuを溶射し、これによりIn系材料の濡れ性を向上しようとする試みがなされている。しかしながらこのようにCu溶射を行うことは、当然のことながらスパッタリングターゲットの大幅なコストアップを招くことになる。また使用済みのスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット部材を除去し、新しいターゲット部材をバッキングプレートにボンディングして再生使用する場合、つまりスパッタリングターゲットのリサイクル時にも上記同様の問題が生じる。また特開平6−116706号公報においては、Ti系材料の表面処理方法として、例えばCu粉を塗布したものを真空中において700℃で約1時間加熱し、これによってCuをTiの表面に拡散させて両者の密着強度を向上させることが提案されている。しかしながらこの反応は固相反応であるため、生成された反応層の厚さは高々数μmであり、その反応層は、脆弱である。従ってスパッタリングターゲットのリサイクル時には、再び上記表面処理を行う必要がある。
【0004】
以上のようにTi系材料をバッキングプレートとして用いる場合には、ターゲット部材のボンディング時の濡れ性改善のために、その表面にCu系材料を接合しておくのが好ましいが、その際、両者を高品質かつ低コストにて接合し得る接合方法を確立することが急務である。またこのことは、Cu系材料をバッキングプレートとして用い、Ti系材料をターゲット部材として用いようとする場合にも同様である。さらに、バッキングプレートとターゲット部材とを共にTi系材料で構成する場合において、Cu系材料を介在させて両者を接合できれば実用上、有利である。
【0005】
そこで発明者らは、Ti系材料とCu系材料との接合性に関し、Ti−Cuの共晶反応を利用する種々の試験を行った。まず試験1として、Ti系材料に厚さ2mmのCu箔を配置し、Ti−Cuの共晶温度(887℃)よりも低い850℃で30分間の加熱を行った(無加圧)。その結果、面積比率で20%の部分にのみTi−Cuの反応が観察され、残る80%の部分は未反応のままであった。従ってこの接合方法によれば、良好な接合結果を得るという目的を達成することができない。次に試験2として、Ti系材料とCu系材料の間に厚さ2mmの接合用Cu板を配置し、上記共晶温度よりも高い900℃で30分間の加熱を行った。その結果、図1に示すように、Ti系材料の上にはα、Ti2 Cu層、TiCu層がまだらに混在して形成されており、接合用Cu板は、完全に溶融していた。
【0006】
以上のように、Ti−Cuの共晶反応を利用してCu系の接合部を形成する方法においては、共晶温度よりも低い温度域では反応の均一性が得られず、従って均質な接合がほとんど不可能である。一方、反応の均一性を得ようとして共晶温度よりも高い温度域で処理を行うと、この温度域では液相が急速に発生するとともにTiとCuとの反応も急速に進むので、Cuを含む液相中へのTiの侵入が顕著となり完全にCuが反応し終わるまで、液相が成長する。この結果、接合部には、非常に脆い金属間化合物(Ti2 Cu、TiCu)が多量に残存し、良好な接合品質を得ることができない。
【0007】
この発明は上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、良好な接合品質を得ることが可能なTi系材料とCu系材料の接合方法を提供することにある。また上記のように接合性の改善されたTi−Cu系複合プレートを提供し、これをバッキングプレートあるいはスパッタリングターゲットとして用いることにより製造コストの低減されたスパッタリングターゲットを提供することもこの発明の目的である。さらにこの発明は、スパッタリングターゲットのリサイクルコストを低減することも目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段および効果】
そこで請求項1のTi系材料とCu系材料の接合方法は、Ti系材料とCu系材料の間に、TiとCuとTi及びCu以外の第三金属との3元共晶温度または他の反応による液相発生温度がTiとCuとの2元共晶温度よりも低くなるような第三金属を成分として含むCu系材料を配置し、上記2元共晶温度よりも低く、かつ3元共晶温度よりも高い温度に上記Ti系材料とCu系材料とを加熱し、両者の反応によってその界面にTi、Cu、上記第三金属を成分として含む接合部を形成することを特徴としている。
【0009】
上記において用いられるTi系材料とは、工業用純Ti、工業用Ti合金を含むものであり、具体的には、Ti−5Al−2.5Sn(重量%で残部は不可避不純物及びTi、以下同じ)、Ti−6Al−4Zr−1V、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−8Al−12Zr、Ti−3Al−2.5V、Ti−8Mn、Ti−4Al−4Mn、Ti−6Al−4V、Ti−7Al−4Mo、Ti−3Al−11Cr−13V等を挙げることができる。また、上記において用いられるCu系材料とは、工業用純Cu、工業用Cu合金を含むものであり、具体的には、融点が本発明の接合温度以上のCu系合金、すなわちりん青銅、黄銅等を含む。
【0010】
一般的に、3種類の金属A、B、Cの3元共晶温度は、金属A、B、金属B、C又は金属C、Aの各2元共晶温度のいずれよりも必ず低温になっている。従って、例えば請求項3のように第三金属として錫(以下、Snと略称する)を用いた場合のTi、Cu及びSnの3元共晶温度は、TiとCuとの2元共晶温度よりも低い。そのため上記3元共晶温度よりも高く、かつ上記2元共晶温度よりも低い温度にTi系材料とCu系材料とを加熱すれば、TiとCuとの反応が急速に進行するのを回避しつつ、Ti系材料とCu系材料の間に接合材の液相を生じさせることができる。そしてこのような液相が存在することにより、その表面張力によってTi系材料とCu系材料との間に均一な接触状態を形成するとともに、CuとSnとの溶液中へのTiの侵入や、Ti中への溶液成分、すなわちCuやSnの固相拡散反応を、上記2元共晶温度よりも低い温度域で生じさせることができる。従ってTi系材料とCu系材料との間では、上記液相を介してTiとCuとの反応が均一に、かつ緩やかな速度で進行することとなる。そしてこれにより、Ti系材料とCu系材料の間にCuを豊富に含む良好な接合部を均一に生成することができる。なおTiとCuとの2元共晶温度よりも低い温度で液相を発生させるためには、共晶反応以外の他の反応によるものでもよい。
【0011】
ところで上記加熱は大気中でも可能であるが、請求項2のように真空、不活性ガス又は還元性ガス等の非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。それは加熱処理中において接合部に酸化皮膜が形成されるのを確実に回避し、接合品質の改善された接合を行うことが可能となるからである。
【0012】
上記接合方法において接合用Cu系材料が含有する第三金属は、Ti、Cu及びこの第三金属で共晶反応またはその他の反応で液相を生じるものであれば、どのようなものでもよい。それは、上述のようにTiとCuとの2元共晶温度よりも、TiとCuと第三金属との3元共晶温度の方が必ず低いからである。しかしながら上記接合用Cu系材料としては、請求項3のように第三金属としてSnを含有するものを用いるのが好ましい。それは、TiとCuとSnとの3元共晶温度がTiとCuとの2元共晶温度よりも十分に低いものであり、加熱温度の制御を容易とすることができるためである。そしてSnを含有する接合用Cu系材料を用いた場合には、上記接合方法における加熱温度は、請求項4のように約700℃〜887℃とするのが好ましい。約700℃以下ではTi系材料とCu系材料との間に液相を生成させるためにはSn量を50wt%以上とする必要があり、接合強度が低下するし、またTiとCuとの2元共晶温度は887℃であり、これ以上ではCuを豊富に含む接合部の形成が上述のように困難となるからである。
【0013】
上記接合方法によって生成される接合部は、請求項5のようにCuを主体とするものであり、好ましくは請求項6のようにCuを約60重量%以上含有する。
【0014】
また上記接合方法で用いられる接合用Cu系材料は、例えば厚さ1mm程度のものを用いることも可能ではある。しかし請求項7のように、箔又は粉末のCu系材料を用いるのが好ましい。このようにすると、加熱処理後の冷却過程において、TiとCuとの熱収縮率の相異から生じ得る材料の反りを回避できるからである。また上記接合用Cu系材料は、請求項8のようにCu箔にSn等の第三金属のメッキを施して成るものを用いてもよい。このようにすると、メッキ処理によってCuと第三成分との成分比を容易に変えられる等の利点が生じる。また請求項1にいう「第三金属を成分として含む」は、上記のようなメッキを施して成るものをも含む意味である。またCu箔とSn粉末とを併用する場合も同様である。
【0015】
上記請求項1〜請求項8のいずれかのTi系材料とCu系材料の接合方法によれば、接合層の均一性及び強度の格段の向上を図り、実用上問題のない十分に良好な接合部を低コストに得ることが可能となる。
【0016】
そして上記接合方法によって、Cuを豊富に含有する良質な接合部を備えたTi−Cu系複合プレートが得られるが、このプレートをスパッタリングターゲットとして用いれば、接合部が非常に均質かつ良好であるために、製膜品質の向上、及びターゲット部材の剥離の可能性を低減し得る。
【0017】
また上記Ti−Cu系複合プレートをバッキングプレートとして用いた場合には、Cu系材料によってIn系材料等のボンディング材に対する表面の濡れ性が改善されることになり、この結果、非常に均質で、かつ良好なボンディングが行えることになることから、製膜品質の向上、及びターゲット部材の剥離の可能性の低減が期待できる。またこれらバッキングプレートを用いたスパッタリングターゲットにおいて、スパッタリング処理を行った後、使用済みのターゲット部材を切削、除去して新しいターゲット部材をボンディングしようとする際にも、その表面にはCu系材料が残存するので、予備処理等を施すことなく、そのままIn系材料を用いたボンディングを行うことができる。この結果、スパッタリングターゲットのリサイクルコストを大幅に低減することが可能である。
【0018】
また、上記接合法で、用いられる接合用Cu系材料を用い、例えば、Cu板と、Ti板の接合が可能となる。すなわち、スパッタリングターゲットとしてTi系材料、バッキングプレートとして、Cu系材料が使用される場合、通常その両者は、Inを用いたボンディングにより接合され使用されているが、本法を用い、接合する事が可能となる。すなわち本法を用いる事により、後述するようにInのボンディング強度と比較して、本法は、極めて高い接合強度を示すため、本目的に使用する場合、過大な水圧等がかかった場合において、バッキングプレートの反り、歪みに起因する剥離等の課題を解決できる。一方、スパッタリングターゲットとしてCu系材料、バッキングプレートとして、Ti系材料が使用される場合も、全く同様の効果が期待できる。
【0019】
【実施例】
(実施例1)
TiプレートとCuプレートの間に厚さ25μmのCu−20Sn(重量%、以下同じ)箔を置き、10−4Torrの真空雰囲気下において、800℃の温度で約30分間保持した。
【0020】
その結果Tiプレート側より順次、30Cu5Sn65Ti層、10μmの6Cu60Sn33Ti層、及び25%のSnを固溶する約25μmのCu層、100%Cu母材が均一に形成された。すなわち、接合部にはCuの豊富な接合部が形成されているということである。またCuとTiとのみの反応では面積比率で15〜20%の部分のみに接合部が生じていたのに対し、この実施例では面積比率で100%に接合部が形成された。
【0021】
(実施例2)
Tiプレートの表面に80Cu20Snの粉末を0.5mmの厚さに塗布し、その上に70μmのCu箔を設置し、5g/cm2 のおもりを均一においた。本品を10−4Torrの真空雰囲気下において、800℃の温度で約30分間保持した。これにより得られた接合部近傍の金属組織の顕微鏡写真を図2に、またTi母材から接合部に至るライン上のTi、Cu、Snの成分分布(ラインスキャン)を図3にそれぞれ示しているが、同図のように良好な接合状態が得られると共に、各成分共に良好な拡散状態となっている。そしてこの結果、Tiプレートの上に均一なCu箔の接合が可能となり、In等のハンダ付の為のCu溶射等のコーティングが不要となり、さらに、Cu箔の厚さを種々変化させる事が可能となり、リサイクル性が格段に改善した(特願平9−115306号)。
【0022】
(実施例3)
Tiプレート(幅30mm×長さ135mm×厚さ10mm)1とCuプレート(幅30mm×長さ135mm×厚さ10mm)2との間にCu−20Sn、Cu−33Snの粉末を介在させることにより両者を接合した。各プレート1、2は、図4のように配置し、両者間の接合部の長さLは30mmとした。また上記粉末の塗布厚さは0.5mm、雰囲気は10−4Torrの真空雰囲気とし、接合温度を種々変化させた。なお接合時間はいずれも30分とした。
【0023】
そして上記によって得られた接合試験片のせん断試験を行った。その結果を図5に示すが、いずれの場合にも良好な接合強度が得られている。なお接合温度の上昇と共に、せん断強度が低下する傾向が見られるが、これは接合部の液相化の進行に伴い、接合部に金属間化合物(Ti2 Cu、TiCu)の残存量が増大するためと推定される。
【図面の簡単な説明】
【図1】CuとTiとを共晶温度以上で反応させて得られた試片の接合部における金属組織を示す顕微鏡写真である。
【図2】実施例2において得られた接合部の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例2において得られた接合部近傍の成分分布状態を示すグラフである。
【図4】実施例3において用いた試験片の説明図である。
【図5】実施例3において得られた接合温度とせん断強度との関係を示すグラフである。
Claims (8)
- Ti系材料とCu系材料の間に、TiとCuとTi及びCu以外の第三金属との3元共晶温度または他の反応により液相の生じる温度がTiとCuとの2元共晶温度よりも低くなるような第三金属を成分として含む接合用Cu系材料を配置し、上記2元共晶温度よりも低く、かつ固液共存の温度領域に上記Ti系材料とCu系材料とを加熱し、両者の反応によって接合部を形成することを特徴とするTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記加熱は、真空、不活性ガス又は還元性ガス等の非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1のTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記第三金属は、Snであることを特徴とする請求項1又は請求項2のTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記加熱温度は、約700℃〜887℃であることを特徴とする請求項3のTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記により形成される接合部は、Cuを主体とすることを特徴とする請求項4のTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記により形成される接合部は、Cuを60重量%以上含有することを特徴とする請求項5のTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記接合用Cu系材料は、箔又は粉末であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかのTi系材料とCu系材料の接合方法。
- 上記接合用Cu系材料は、Cu箔に第三金属のメッキを施して成るものであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかのTi系材料とCu系材料の接合方法。
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