JP3625224B2 - 高深度高硬度レールの製造方法 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は高深度まで硬度の高いレールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高炭素でパーライトの金属組織を呈した鋼は強度が高く、耐摩耗性が良好なことから構造材料として使用され、中でも鉄道車両の重量増加に伴う高軸荷重化や高速輸送化に対応してレールに特に多く使用されている。
【0003】
このような鋼材の製造法として、例えば、特開昭58−221229号公報には「C:0.65〜0.85%、Mn:0.5〜2.5%を含有した高Mn鋼レールをオーステナイト領域から急冷し、レールまたはレールヘッドの組織を微細なパーライトとして耐摩耗性を改善したレールの熱処理方法」、特開昭59−133322号公報には「安定してパーライト組織が得られる特定成分の圧延レールをAr3 点以上の温度から特定温度の溶融塩浴中に浸漬して、レール頭頂部表面下約10mmまでHv350以上の硬さを持つ微細なパーライト組織を呈するレールの熱処理方法」がある。
【0004】
また、特開昭63−277721号公報には「制御圧延と加熱処理を組み合わせた製造方法および圧延後の低温加熱処理方法として、800℃以下で断面減少率が5%以上の圧延を行い、750〜900℃へ加熱し、1〜15℃/秒で加速冷却するレール鋼の製造方法」が開示されているがごとく、多くの技術が知られている。
【0005】
パーライト鋼の強度や耐摩耗性は良好とはいえ、摩耗は不可避的な問題であり、厳しい使用環境から、摩耗したレールでも表面硬度が高いことが望まれている。一方、表面損傷は使用初期にできた疲労亀裂が進展することに起因し、表面の延性と硬度を向上させることで、疲労亀裂の発生をかなり抑えることができ、摩耗したレールにおいてもその表面に延性が高いことが望まれている。
【0006】
一般に、高炭素鋼の延性の向上は金属組織の細粒化、つまりオーステナイト組織の細粒化や粒内変態によって達成されている。このうち、粒内変態は制御が難しく、実際には、加工によるオーステナイト組織の微細化が延性の向上に大きく寄与している。
【0007】
また、一般に、高炭素鋼の硬度の向上は低温でパーライト変態させ、ラメラ間隔を小さくすることによって達成されている。延性を向上させるためにγ粒が微細化すると、焼き入れ性が下がり、特にγ粒度が7番以上のときは、硬度を得るのに6℃/秒以上の冷速を与える必要がある。
【0008】
内部深く高い硬度を得るためには内部の冷速を高くすればよいが、これには表面冷速を大きくしなければならない。表面冷速はスケールの生成等の原因で、冷却速度の偏りが生じやすく、特に、5℃/秒より急速に冷却するとマルテンサイトが生成してしまうことがあった。
【0009】
例えば、γ粒度5番程度の従来材において、6℃/秒以上の表面冷速を空気と水の混合冷却で急冷したところ、水滴の触れた箇所がマルテンサイト変態を起こす一方、水滴の触れなかった箇所が緩冷却されて十分な硬度を得られず、安定した冷却方法が確立できなかった。
【0010】
また、特開昭58−221229号公報には冷速を0.2〜6℃/秒で制御できる冷媒が紹介されているが、これにも6℃/秒以上の表面冷速を与えて材質制御する見解は示されていない。
【0011】
さらに、急速な冷速を与えるには塩浴での熱処理方法が考えられ、例えば特開昭59−133322号公報には塩浴での急冷方法が述べられている。この方法では6℃/秒以上の表面冷速で同一深さでの均一冷却が可能であるが、溶融塩の除去工程がコスト高であり、その後の変態中の冷速制御が困難であり、異常組織の発生に対して十分な対処ができなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、レール圧延時に頭表面をγ細粒化加工を施すことによって表面層の焼き入れ性を低下させ、その分急速な冷却を、マルテンサイトの生成なしに行うことによって、レール頭部の深くまで高い硬度のある表面損傷性に優れた高強度レールを製造することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはレール頭頂表面を高延性化し、かつ、高深度まで高強度化することを目的とした多くの実験を行った結果、以下の知見を見いだした。
1)800〜950℃で加工されたγ組織からはNγ=9〜11に相当する再結晶粒が生じること。
2)Nγ=9〜11程度に細かくなるとγは20℃/秒で急冷されてもマルテンサイト生成のないパーライト変態を生じさせること。
3)Nγ=9〜11程度に細微細化された組織を表面層として与え、表面から急激に冷却すると、表面層では急激にパーライト変態を生じさせ、変態発熱によって、内部の冷却速度が緩和されること。
【0014】
本発明はこのような知見を応用して構成され、その要旨は次の通りである。 1.レール鋼片を1パスあたり15%以上の圧下率のパスを含む前半の仕上げ圧延を行い、800〜950℃で1パスあたり10%以下の圧下率の1パスまたは複数パスの後半の仕上げ圧延を行った後、0.1〜30秒の間に6℃/秒以上の表面冷速で急速冷却を開始することを特徴とする高深度高硬度レールの製造方法。
【0015】
2.レール鋼片を1パスあたり15%以上の圧下率のパスを含む前半の仕上げ圧延を行い、800〜950℃で1パスあたり10%以下の圧下率の1パスまたは複数パスの後半の仕上げ圧延を行った後、0.1〜30秒の間に6℃/秒以上の表面冷速で表面温度で500〜600℃までに急速冷却し、さらに3℃/秒以上の冷速で加速冷却することを特徴とする高深度高硬度レールの製造方法。
【0016】
【作用】
以下に本発明について、加工温度履歴の例を図1に示し、レール頭頂部の概略を図2に示し、これを用いて詳細に説明する。
図1において、▲1▼表面層の点、▲2▼内部の点(図2参照)、1:最終前仕上げ圧延(表面、内部ともに加工される)、2:パス間時間、3:最終仕上げ圧延(表面のみが加工される)、4:第1段階目の冷却、表面層は急速冷却されつつもパーライト変態する。内部はγのままである。5:第2段階目の冷却、表面層はパーライト組織を終了している。内部はパーライト変態している。
【0017】
まず、図1中の前半の仕上げ圧延1について述べる。この圧延ではできるだけ大きい加工を加え、深くまで組織を微細化する必要がある。前半の仕上げ圧延の終了時点で、レールはそのほぼ形状に仕上がっており、その直後では1パスあたりの圧下率が15%以上であるので、Nγ=7以上の微細なγ組織になっていると考えられる。レール形状の精度を保つ都合から圧下率は好ましくは1パスあたり40%以下であることが望ましく、また、内部深くまでγ粒を微細化させるために好ましくは20%以上の圧下率を加えることが望ましい。
【0018】
次に図1中に示される後半の仕上げパス3について述べる。
前述の通り、加工温度800〜950℃はNγ=9〜11に相当する微細な再結晶粒の得られる温度であり、この程度に細かくなるとγは20℃/秒で急冷されても平衡変態温度から40℃と下がらないうちにパーライト変態が始まる。
【0019】
この粒度の表面層を図2中の11に示すような範囲に生じさせるには1パスあたり10%以下の軽圧下でなければならない。例えば、ロール直径を300mmとしたとき、10%の軽圧下で7mm、5%の軽圧下で4mmの微細なγ粒の層が得られる。好ましくは、表面層の厚さにもよるが、7%以下が望ましい。また、再結晶させるための必要加工度として、また、1mmの表面層の厚さを確保するために、好ましくは2%以上の圧下が望ましいが、ロール径を小さくすることによって1%以下の圧下でも可能になる。
【0020】
この仕上げ圧延の直後に図2中のレール頭頂表面層1は静的に再結晶する。再結晶に要する時間はほぼ0.1秒であり、完全に再結晶が終了するには高々1秒である。これ以後は粒成長が進み、20秒までは微細な層は存在するが、30秒後には微細な表面層がなくなってしまう恐れがある。そこで、好ましくは1秒以上から20秒以内に冷却が開始されていることが望ましい。
【0021】
続いて最終仕上げ加工直後の冷却(第1段階の冷却)について述べる。
最終仕上げ加工直後の6℃/秒以上の冷速はNγ=7以下のときのパーライト変態のCCT曲線のノーズに交差しない冷速であり、この粒度で急冷してしまうと部分的にマルテンサイト変態してしまう。しかし、本発明の場合は図2中の表面に非常に微細なγ再結晶層1があるので、この層にマルテンサイトは生成されない。
【0022】
内部の冷速が従来技術での表面の冷却曲線がCCT曲線のノーズを交差しないようにするためには表面冷速で8℃/秒以上あれば十分であり、表面の微細γ組織がパーライト変態するために20℃/秒以下であることが望ましい。
【0023】
このように、表面の微細なγ組織の層を生成させることによって急速冷却を行うことが可能となったが、この後の冷却によってレール内部まで硬度を出すことができない。従って、引き続く冷却条件を検討する。
【0024】
表面温度で6〜20℃/秒で、表面温度で550℃まで降温すると、図2中の表面層1はパーライト変態が進行していることになる。一方、内部ではパーライト変態が始まっていないため、あまり低温まで冷却すると内部からベイナイト変態等の好ましくない変態を生じる。従って、この時点で、急速冷却を切り替え、急冷を緩和する。この冷速の切り替え温度は、本発明者の実験結果から600℃を超える温度では表面層のパーライト変態が十分進行せず、500℃未満の温度まで冷却すると内部からベイナイト変態が始まるため、500〜600℃が適当であることがわかっており、実操業上、好ましくは530〜580℃で切り替えることが望ましい。
【0025】
急速冷却に引き続いて緩やかな加速冷却の段階(第2段階の冷却)に入る。この加速冷却は内部の変態を促進させ、変態発熱分を差し引くことが目的である。このときの最適な表面冷速は冷速緩和した段階と同様に冷却開始温度や内部のγ粒度に対応して異なる。
【0026】
しかし、少なくとも表面の最大冷速が3℃/秒以上あればある程度の内部の硬度を確保できると考えられ、好ましくは変態発熱による変態温度の上昇を回避する意味で最大4℃/秒以上あることが望ましい。ただし、この状態では仕上げ加工直後に行ったときほどの冷速を必要としないので空気噴射冷却で十分である。
【0027】
このように、図2中の部分1はかなり急速に冷却されてもマルテンサイトを生成させずにパーライト変態し、旧γ粒径が非常に微細であるので、延性の高い層として得られる。一方、図2中の部分2は低温で、かつ、温度を保ちながら変態するので、硬度の高い領域となる。部分2はもともと粗大粒ではないので、この部分も延性が高く、摩耗が進んでも耐表面損傷性の高いレールになっている。
【0028】
図2はレール頭頂部を示す。11:表面層で最終仕上げ圧延後;非常に微細なγ粒の層、第1段階の冷却中;急速冷却されつつもパーライト変態する、第2段階の冷却中;パーライト組織、▲1▼:図1中の表面層の点、12:内部の最終仕上げ圧延後;γ組織、第1段階の冷却中;γ組織、第2段階の冷却中;パーライト変態する、▲2▼:図1中の内部の点である。
【0029】
【実施例】
本発明は図3に示される製造ラインにおいて製造された。その優位性は図4で示される試験機、ビッカース硬度試験、引張試験で検証された。
【0030】
図3において、21:レール、22:最終前仕上げ圧延機、23:パス間待機箇所、24:最終仕上げ圧延機、25:第1段階の冷却ゾーン、26:第2段階、第3段階の冷却ゾーン、図4において、21:レール、32:車輪、33:往復アクチュエータ、34:輪重アクチュエータを示す。
【0031】
図4の試験機では車輪からレールに加わる荷重を15tとし、1tのフランジ方向へのスラスト荷重をかけ、累積通過トン数が3億トンになったとき終了し、そのときのレールの状態でその可否を判断した。引張試験は製造したレールの頭部から4号相似の試験片を切り出し、引張強度と伸びを測定した。そのときの製造条件と試験結果の概要は次の表1の通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【発明の効果】
本発明では、塩浴のような高コストな方法を必要とすることなく、また、マルテンサイトのような異組織を生成せずに急速冷却を行え、従来からのレールに比べ、頭部の硬度が表面から内部に向かって広い範囲に非常に高く、摩耗が進行しても表面硬度の高い表面損傷性にも優れた高強度レールが得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱履歴のグラフ。
【図2】レール頭部の説明図。
【図3】本発明のレールの製造ラインの説明図。
【図4】レールの評価試験機の説明図。
Claims (2)
- レール鋼片を1パスあたり15%以上の圧下率のパスを含む前半の仕上げ圧延を行い、800〜950℃で1パスあたり10%以下の圧下率の1パスまたは複数パスの後半の仕上げ圧延を行った後、0.1〜30秒の間に6℃/秒以上の表面冷速で急速冷却を開始することを特徴とする高深度高硬度レールの製造方法。
- レール鋼片を1パスあたり15%以上の圧下率のパスを含む前半の仕上げ圧延を行い、800〜950℃で1パスあたり10%以下の圧下率の1パスまたは複数パスの後半の仕上げ圧延を行った後、0.1〜30秒の間に6℃/秒以上の表面冷速で表面温度で500〜600℃までに急速冷却し、さらに3℃/秒以上の冷速で加速冷却することを特徴とする高深度高硬度レールの製造方法。
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