JP3624771B2 - 車体の吸遮音性能計測装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トラックのキャブ等車体の吸音及び遮音性能を計測する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トラックのキャブ等の車室内の騒音低減には、各種騒音源のパワーレベルを低減すると共に、車室内の受音点(一般には、乗員の耳位置)までの伝達特性を改善する必要がある。その伝達特性には、固体伝搬経路と空気伝搬経路とがあるが、特に車室内のやかましさ成分に関しては、空気伝搬経路による騒音が支配的である。通常のキャブオーバ型トラックの場合、エンジンがキャブの直下に位置するため、空気伝搬のエンジン放射音が、やかましさの主音源となり、車内騒音低減のためには、伝達特性であるキャブの吸音及び遮音性能を評価することが重要である。
【0003】
従来のキャブオーバ型トラックのキャブ音響特性評価は、吸音性能については、キャブ内に音源としてのスピーカを設けると共に集音手段としてのマイクロフォンを設け、上記スピーカから一定時間音を連続的に出し、急に音を止めて、キャブ内の音圧の残響時間から専用の解析器を使用して評価を行なっているが、残響時間から吸音率を求める上記専用解析器が高価な不具合がある。また、遮音性能の評価に当っては、ホワイトキャブ又は実機キャブの外部にエンジン音源を模擬したスピーカを配設すると共にその近傍に集音用のマイクロフォンを配置し、さらにキャブ内部の所定位置(一般には運転者左耳位置)にマイクロフォンを配置して、スピーカから連続的に音を出し、キャブ内部及び外部のマイクロフォンの音圧レベルを夫々計測(周波数分析を含む)して、透過損失を求める手法が広く採用されているが、特に実機キャブでは、スピーカの設置空間の確保と音源形状の再現に多大の準備時間を要するため、試験の簡便性に欠ける不具合がある。なおまた、吸音性能及び遮音性能の計測を夫々別個に行なうため、多くの計測時間が必要となり、相応して試験期間及びコストが増大する欠点がある。
一方、簡便な評価方法として、チルトアップ機構を具備したキャブを有する車両では、エンジンの実稼働時の受音位置騒音をキャブ内外で計測し、これら計測値からキャブ音響特性を求める方法もあるが、この方法では、吸音性能及び遮音性能が合算でしか得られず、両者を分離することが困難な欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来のトラックのキャブ等車体の吸音及び遮音性能評価手法の欠点を解消し、吸音及び遮音性能を同時に、かつ分離して評価することができて極めて簡便性が優れ、かつ特殊の高価な専用解析器を必要としないので、評価試験のコスト及び所要時間を低減することができる計測装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、車室内の乗員の耳位置に相当する位置に設置された全指向性音源と、上記車室内の任意位置に配設された第1の集音手段と、車室外の音源位置近傍に配設された第2の集音手段と、上記第1及び第2集音手段にて夫々検知された上記全指向音源からの音圧レベルと上記全指向性音源のパワーレベルからFFT分析器を用いて周波数分析を行なう周波数分析処理手段とを備え、同周波数分析処理手段の分析値を下記式
TL=(Lpc−Lps)−6
10logA=(Lwr−Lpc)+6
但し、A;吸音力、TL;透過損失、Lwr;全指向性音源のパワーレベル、Lpc;第1集音手段の音圧レベル、Lps;第2集音手段の音圧レベルに代入することにより車体の吸音及び遮音性能を計測することを特徴とする車体の吸遮音性能計測装置を提案するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
なお、以下説明する実施形態は、エンジン音が支配的となる500Hz〜5KHzでの吸音及び遮音(場合により、両者を合わせて吸遮音という)性能の評価を行なうため、キャブオーバ型の小型トラックにおけるキャブを対象とした。
まず、エンジンを点音源とし、キャブ内の受音点との音響伝達特性に下記式(1)に示す相反定理を適用する。
H=Pr/Qs=Ps/Qr ・・・・(1)
ここに、H :騒音源と受音点との間の音響伝達関数
Pr:騒音源位置に点音源強さQsを置いたときの受音点位置の音圧
Ps:受音点位置に点音源強さQrを置いたときの騒音源位置の音圧
Qs:騒音源位置に置いた点音源の体積速度
Qr:受音点位置に置いた点音源の体積速度
式(1)は、図1に示すように、エンジン音源強さQsと評価点音圧Prによるキャブ音響特性が、評価点に置いた全指向性スピーカ音源強さQrで加振したときのエンジン音源位置音圧Psとの関係に、図中矢印で表わされているように、置換可能であることを示すものである。なお、図中符号10は小型トラックのキャブを示している。
【0007】
次に、拡散音場の室内にある音源のパワーレベルLwと室外外壁表面音圧レベルLpには、式(2)が成立する。
Lp=Lw−10logA−TL ・・・・(2)
ここに、Lw:室内音源のパワーレベル
Lp:室外外壁表面の音圧レベル
A :室内吸音力
TL:透過損失
評価対象のキャブオーバ型トラックでは、エンジン音源表面とキャブフロア外壁表面とが近接しており、キャブフロア外壁表面の音圧レベルはエンジン放射音圧レベルに略等しい。従って、エンジン音源位置の音圧レベルをLps、キャブ10内に設置されたスピーカ音源のパワーレベルをLwrで表わすと、上記式(2)より
Lps=Lwr−10logA−TL
即ち、Lwr−Lps=10logA+TL ・・・・(3)
キャブ10の車室内は、音圧レベルが一様に分布している拡散音場であるとしているので、キャブ車室内の音圧レベルは、室内の任意の一点を評価すればそのレベルを特定することができる。
【0008】
そこで、キャブ車室内の音圧レベルをLpcとし、スピーカ加振にて同時に計測することで、式(3)は
(Lwr−Lpc)+(Lpc−Lps)=10logA+TL ・・(4)
と変形できる。
ここに、Lwr:スピーカ音源パワーレベル
Lps:エンジン音源位置音圧レベル
Lpc:キャブ車室内音圧レベル
一方、拡散音場室内から室外への透過損失TLに関して、エネルギ収支から
(c/4)ESτ=cE S ・・・・(5)
の関係式が成立する。
ここに、E :音源室内の平均音響エネルギ密度
:外壁面上の音響エネルギ密度
S :音が透過する壁面の面積
τ :壁の透過率
c :音速
【0009】
また、上記式(4)のキャブ車室内外の音圧レベルLpc,Lpsと音響エネルギ密度との間には、
Lpc−Lps=10log(E−E) ・・・・(6)
の近似式が成立するので、式(5)及び(6)から
Lpc−Lps=10log(4/τ)=TL+6 となり、
TL=(Lpc−Lps)−6 ・・・・(7)
を得る。従って、式(7)を式(4)に代入して
(Lwr−Lpc)+(Lpc−Lps)=10logA−6+(Lpc−Lps)
従って、10logA=(Lwr−Lpc)+6 ・・・・(8)
を得る。即ち、式(7)が遮音性能に等価な透過損失TLを、式(8)が吸音性能に等価な室内吸音力の対数値10logA (ここでは、吸音効果と称する)を表わすので、上述した本発明に係る評価手法では、夫々の性能を分離し、かつ同時に評価することが可能となる。
【0010】
なお、前記従来の残響時間法による吸音性能は平均吸音率として求まるが、本発明に係る評価手法で得られる吸音効果との間には、次式の関係がある。
Figure 0003624771
ここに、10logA:吸音効果
R:キャブ内表面積
Figure 0003624771
【0011】
図2は、本発明に係る評価手法を実施する計測装置の一例を示した概略構成図である。図示のように、キャブ10の車室内において乗員例えば運転席乗員の左耳位置に全指向性のスピーカ12が音源として配置され、同スピーカ12は増幅器14で増幅されたホワイトノイズで加振されそのパワーレベルはLwrである。また、キャブ10の車室内の任意位置に第1の集音手段としての第1マイクロフォン16が設置され、上記スピーカ12から出された車室内の音を集音して音圧レベルLpcを出力する。キャブ10のフロア10Fの下方に近接して配置されるエンジン騒音源の位置即ち車室外の所定位置に第2の集音手段としての第2マイクロフォン18が配設され上記スピーカ12から出された音を集音して音圧レベルLpsを出力する。
【0012】
第1及び第2マイクロフォン16及び18の音圧レベルLpc及びLpsの信号は夫々増幅器20及び22で増幅されて汎用のFFT分析器24に供給されると共に、上記スピーカ12の入力電圧即ち音源パワーレベルLwrの信号が供給される。FFT分析器24では、例えば1/3オクターブの分析処理が行なわれ、得られた1/3オクターブ分析値から前記式(7)(8)を用いてキャブ10の吸音性能又は効果、遮音性能又は効果が算出される。この計測手法では、全指向性の音源スピーカ12さえ準備すれば良く、特別な試験装置を必要としないので、上述した従来の試験方法と較べ、試験の簡便性が著しく優れており、試験コスト及び所要時間を効果的に低減することができる。
【0013】
キャブ10の車室内の点と車室外の点のように、間に弾性構造物が存在する場合にも、上記式(1)に示す相反性が成り立つことは知られているが、上述した本発明に係る計測装置が対象とする周波数範囲で相反性が成立することを確認するために、ホワイトキャブと、これに吸遮音材となる内装材及び座席等の部品を追加したキャブの双方において、車室内の乗員の耳位置と車室外のエンジン位置とを、交互にスピーカ加振して音響伝達関数の測定結果は、図3に示す通りである。同図は横軸に1/3オクターブバンドの中心周波数(Hz)をとり、縦軸に音響伝達関数をとり、ホワイトキャブ(下段に示す)及びホワイトキャブに吸遮音材追加したものの双方において、実線でエンジン位置加振を、点線で乗員耳位置加振を行った場合が示されている。両者の音響伝達関数測定結果は、伝達特性が異なる場合においても、対象周波数範囲で良く一致しており、相反性の成立が確認された。
【0014】
前記従来の遮音性能評価方法である車室外スピーカ音源加振法と、上記本発明に係る計測装置により実施される計測手法との比較において、車室外スピーカ音源加振法は本発明に係る計測手法の相反関係にあり、上記相反定理から両者は明らかに等しい。
従って、ここでは吸音性能について、従来の残響時間法と本発明に係る計測手法との精度比較を行なった。なお、上述したように、残響時間法では平均吸音率で吸音性能が得られるため、式(9)により吸音効果に換算し両者比較した。
図4は、ホワイトキャブに順次内装材を取り付けた際の、下記式(10)に示される平均吸音効果(10logA)の増加量について比較した結果を示す。
Figure 0003624771
ここに、f1:500Hz、f2:5KHz
図4から、本発明計測装置により行なわれる計測手法と従来の残響時間法との相関は良く、両者は同等の精度が得られることが確認された。
【0015】
なお本発明は、例示したキャブオーバ型トラックのキャブの吸遮音性能評価のみならず、中大型キャブオーバ型トラックのキャブは勿論、バス、バン等のワンボックス型車体、ツーボックス及びスリーボックス型の車体の吸遮音性能評価にも広く適用することができる。
【0016】
【発明の効果】
叙上のように、本発明に係る車体の吸遮音性能計測装置は、車室内の乗員の耳位置に相当する位置に設置された全指向性音源と、上記車室内の任意位置に配設された第1の集音手段と、車室外の音源位置近傍に配設された第2の集音手段と、上記第1及び第2集音手段にて夫々検知された上記全指向音源からの音圧レベルと上記全指向性音源のパワーレベルからFFT分析器を用いて周波数分析を行なう周波数分析処理手段とを備え、同周波数分析処理手段の分析値を下記式
TL=(Lpc−Lps)−6
10logA=(Lwr−Lpc)+6
但し、A;吸音力、TL;透過損失、Lwr;全指向性音源のパワーレベル、Lpc;第1集音手段の音圧レベル、Lps;第2集音手段の音圧レベルに代入することにより車体の吸音及び遮音性能を計測することを特徴とし、(1)エンジン等騒音源の近傍に音源スピーカを配置する従来の計測方法に較べ、音源スピーカの設置空間やその形状再現に特別な準備を行なう必要がなく、極めて簡便性に優れている、(2)吸音性能の評価に関し高価な専用解析器を用いて行なっていた従来の残響時間法と較べ本発明では安価な汎用FFTを用いて同等の精度で吸音性能を評価することができる利点があり、(3)また、従来吸音性能及び遮音性能の計測及び評価を別個に行なっていたが、本発明では双方を同時に行ない、かつ分離して評価することができるので、上記専用分析器を必要としないことと併せ試験コスト及び所要期間を低減することができる、等の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】キャブオーバ型トラックのキャブに関し、相反定理の適用の態様を示した概念図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態を示した概略構成図である。
【図3】横軸に周波数をとり縦軸に音響伝達関数をとって、ホワイトキャブ及びホワイトキャブに吸遮音材を装着したキャブの双方について相反性の成立を調べた線図である。
【図4】従来の残響時間法による吸音性能計測結果と本発明装置による吸音性能計測結果との精度比較結果を示した線図である。
【符号の説明】
10…キャブオーバ型小型トラックのキャブ、10F…キャブフロア、12…全指向性スピーカ(全指向性音源)、14…増幅器、16…第1マイクロフォン(第1集音手段)、18…第2マイクロフォン(第2集音手段)、20及び22…増幅器、24…FFT分析器。

Claims (1)

  1. 車室内の乗員の耳位置に相当する位置に設置された全指向性音源と、上記車室内の任意位置に配設された第1の集音手段と、車室外の音源位置近傍に配設された第2の集音手段と、上記第1及び第2集音手段にて夫々検知された上記全指向音源からの音圧レベルと上記全指向性音源のパワーレベルからFFT分析器を用いて周波数分析を行なう周波数分析処理手段とを備え、同周波数分析処理手段の分析値を下記式
    TL=(Lpc−Lps)−6
    10logA=(Lwr−Lpc)+6
    但し、A;吸音力、TL;透過損失、Lwr;全指向性音源のパワーレベル、
    Lpc;第1集音手段の音圧レベル、Lps;2集音手段の音圧レベルに代入することにより車体の吸音及び遮音性能を計測することを特徴とする車体の吸遮音性能計測装置。
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