JP3623905B2 - 半導体レーザ及びモードロック発振方法 - Google Patents

半導体レーザ及びモードロック発振方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体レーザ及びモードロック発振方法に関し、特に、光通信、光交換、光情報処理、光計測等に用いられる半導体レーザ光源に適用して有効な技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
短パルス光を発生することができるモードロックレーザは、大容量時分割多重光通信や光ソリトン通信用の光源として適用できる他、短パルス光を用いる光計測分野への応用が可能である。また、モードロックレーザの光スペクトルには、等周波数間隔のモードが生じるので、光周波数コム発生器として応用することもできる。例えば、高密度波長多重通信システムにおいては、発振周波数が精密に定まった光を用いることが重要となるが、モードロックレーザを周波数基準器として用いることで、光源の周波数を精密に制御することが可能となる。モードロックレーザのなかでも、半導体レーザを用いたモードロックレーザは、極めて小型で低消費電力なので、これらのシステムを実現する上で、極めて重要である。
【0003】
ここで、一般的なファブリ・ペロー共振器型の半導体モードロックレーザの構造を図面を用いて説明する。図6に示すように、半導体モードロックレーザは、基板1上に設けられた活性導波路10に透明導波路11が接続された構造のもので、両端の劈開面により光は反射されるファブリ・ペロー共振型のものである。レーザの縦モード周波数の間隔△fは数1の式で表される。
【0004】
【数1】
△f=c/(2nL)
ここで、cは光速、nは導波路の実効屈折率、Lは共振器長である。なお、簡単のため、活性導波路10と透明導波路11の実効屈折率は等しいものと仮定した。活性導波路10の上部に形成される電極を用いて、この縦モード周波数△fに等しい周波数の高周波電流を活性導波路10に注入すると、各モードの光の位相が揃い、いわゆるモードロック動作が生じて、短パルス光が生じる。一般的な半導体レーザの共振器長は数100ミクロン(μm)で、これに対応するモード周波数間隔は100GHzを越えてしまい、そのような高周波電流を生成させることは困難となる。そこで、図6の例では透明導波路を接続することによって共振器を長くし、実用的な繰り返し周波数になるように設計されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来技術においては、得られるパルス光の幅がある程度以上短くならないといった問題があった。この点について、以下に説明する。
半導体レーザの活性層の利得波長帯域は、通常数十nm(周波数で数THz〜10THz)と広く、この波長(周波数)範囲のすべてのモードが同期して発振すれば、フーリエ変換の関係より、光パルス幅ps以下の短パルスが期待される。
しかしながら、図7(a),(b)に示すように、モード同期発振するモードは利得ピーク付近の1THz程度(波長では8nm程度)の範囲内に限られてしまう。この結果、得られるパルス光の幅も数ps程度のものとなる。
【0006】
この理由としては以下の2点が考えられる。1つは、利得がスペクトル上で完全に平坦ではないため、活性層に注入されたキャリアが、利得ピーク付近の発振モードを増幅するのに消費されてしまい、利得ピークから離れたモードを増幅することができないためであり、もう一つは、半導体導波路では、屈折率が光の周波数(波長)によって変化する、いわゆる波長分散があるため、モード周波数間隔が周波数(波長)によって異なってくるので、広い波長域でモード同期がかからなくなるためであると考えられている。
【0007】
本発明の目的は、モード同期がかかる光周波数(波長)の波長範囲を広くし、ps以下の短いパルス光を発生できる半導体モードロックレーザを提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
(1)一本の入力側導波路に入射した光を少なくとも二本以上の出力側導波路に異なる光周波数ごとに分波する作用を持つ光フィルタをレーザ共振器内に内蔵した半導体レーザにおいて、前記入力側導波路及び前記出力側導波路には、光に対して利得が得られるように、電流を注入するための電極が設けられた活性導波路がそれぞれ接続され、前記出力側導波路の光学的距離とそれに接続される前記活性導波路の光学的距離との和が、各々の出力側導波路間で互いに等しいことを特徴とする
(2)前記手段(1)の半導体レーザにおいて、前記光フィルタがアレイ導波路格子フィルタである。
(3)前記手段(1)または(2)の半導体レーザにおいて、前記出力側導波路の一部の領域に、光の位相を調整するための電極が設けられている。
(4)前記手段(1)乃至(3)のいずれか1つの半導体レーザにおいて、前記出力側導波路に接続された前記活性導波路には一定電流を流し、前記入力側導波路に接続されている活性層には、レーザ共振器の長さにより定まる縦モード間隔に等しい周波数の高周波電流を流すものである。
【0009】
本発明においては、一本の導波路に入射した光を少なくとも二本以上の導波路に異なる光周波数ごとに分波する作用を持つ光フィルタをレーザ共振器内に持つ半導体レーザを基本としている。このような作用を持つ光フィルタとしては、アレイ導波路格子フィルタがある。アレイ導波路格子フィルタを内蔵したレーザはすでに実施されており(例えば、M.Zirgibl他、IEEエレクトロニクス・レターVo1.30,pp.701〜702,1994年、参照)、異なる波長の光を同時に発振したり、あるいは、波長を切り替えたりすることができるレーザである。このアレイ導波路格子内蔵レーザの構造の一例を図2に示す。アレイ導波路格子フィルタの両端の導波路に活性導波路が接続された構造となっており、活性導波路に電流を注入することによって、光を増幅し、レーザ発振を得る。この例では、片側に1本の導波路a1、他方に8本の導波路b1,b2,・・・b8がある。アレイ導波路格子フィルタは、これら入出力導波路とアレイ導波路4を1対のスラブ導波路5で結合した構成となっており、アレイ導波路中の隣り合う導波路の長さには、ある一定の長さだけ差が設けられている。
【0010】
1本の導波路a1から入射された光は、アレイ導波路格子フィルタを通過すると、その波長ごとに異なる導波路へと出力される。図3は、各々の出力側導波路に通過する光の透過特性を重ね書きしたものである。各導波路への透過周波数のピーク間の間隔や、透過帯域幅、隣の導波路との透過特性の重なり具合は、アレイ導波路中の隣り合う導波路の長さの差や、アレイ導波路格子内のスラブ導波路と導波路の位置関係、入出力導波路の幅等を設計することにより、適宜変更が可能である。入力側の一本の導波路に接続された活性導波路に電流を流し、出力側の複数の導波路のうち、ある特定の1つに接続された活性導波路に電流を流した場合、その導波路に対応する透過特性のピーク付近の周波数でレーザ発振が生じる。
【0011】
ここで、異なる出力側導波路に接続された活性導波路に電流を流せば、その導波路に対応する周波数でレーザ発振が生じる。したがって、複数の導波路に接続された活性導波路のうち、どの導波路に電流を流すかによって波長を切り替えることができる。また、すべての活性層に同時に電流を流せば、複数の波長で同時に発振させることも可能となる。
【0012】
さて、このアレイ導波路格子内蔵レーザにモード同期をかけることを考えてみることにする。出力側のうち特定の1本の導波路に接続された活性導波路に直流電流を流し、入力側の活性導波路に高周波電流を加えた場合、ファブリ・ペロー型レーザと同様にモード同期が生じる。
但し、この場合、発振するモードは利得ピーク付近のモードではなく、アレイ導波路格子フィルタの透過特性によって定まり、図4に示すようなものとなる。
【0013】
ここで、他の出力側の活性導波路に電流を注入した場合、その導波路に対応する波長域でもモード同期が起これば、モード同期周波数幅が広がることになるが、この場合、モード同期は生じない。一般に、特別な設計をしていないアレイ導波路格子フィルタやその他の光フィルタ(例えば、多段マッハ・ツェンダ・フィルタ等)では、出力導波路側の導波路の長さは各々大きく異なっている。このことは、前記数1の式より、モード同期周波数も異なることを意味している。したがって、ある出力導波路でモード同期動作を生じさせた場合、他の導波路を通過する光に対しては、モード同期の周波数が異なるため、モード同期が起こらないのである。
【0014】
本発明によるレーザでは、光フィルタの出力側の導波路、及びそれらに接続される活性導波路の光学的距離(導波路の物理長と実効屈折率との積)を各々の導波路間で互いに等しくしている点に大きな特徴がある。この結果、どの導波路を通る光に対しても前記数1の式で定まるモード間隔が等しくなるため、すべての波長域で同時にモード同期が生じ得るのである。前述の従来のファブリ・ペロー型レーザで問題となっていた、増幅可能な利得幅の問題に関しては、光フィルタにより、広い光周波数がいくつかの導波路に振り分けられ、各々の周波数領域を複数の活性領域が分担して増幅することにより解決される。
また、屈折率の分散の問題に関しては、光フィルタで切り分けられた周波数範囲ごとに、光学的距離が等しくなるようになっているため、モード間隔のずれを補正したものとなっている。
【0015】
よって、本発明による特定事項を用いることによって、広い周波数範囲でのモードロック動作が初めて可能となるのである。
以下に、本発明について、本発明による実施形態(実施例)とともに図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明による一実施形態の半導体モードロックレーザの概略構成を示す模式図であり、1はInP基板、2はアレイ導波路格子フィルタ、3は光路長調整領域、a1は入力側透明導波路、b1,b2,・・・b8は出力側透明導波路、aa1は活性導波路及び電極、ab1,ab2,・・・ab8は活性導波路及び電極、pb1,pb2,・・・pb8は位相調整領域及び電極、4はアレイ導波路、5はスラブ導波路である。
【0017】
本実施形態の半導体モードロックレーザは、図1に示すように、1入力8出力構成のアレイ導波路格子フィルタの各入出力導波路に活性導波路が接続された構成となっている。導波路はInP基板1上に形成され、透明導波路領域の導波路層は禁制帯幅組成1.3ミクロン(μm)のInGaAsPで、活性導波路層は禁制帯幅組成1.55ミクロンのInGaAsPである。導波路は、幅約1.5ミクロン、厚さ0.3ミクロンで、周囲が導波路層よりも低屈折率のInPで埋め込まれた、いわゆる埋め込み型の構造である。InP基板1はn型の導電型で、活性導波路の上部クラッド層はp型の伝導型のInPとなっており、p−i−n型のダイオード構造となっている。活性導波路の上部には、それぞれ独立に電極が形成されており、これらの電極ab1,ab2,・・・ab8とInP基板1の裏面に形成されている電極との間に電流を流すことにより、活性導波路にキャリアが蓄積され、その結果、光に対して利得が得られる。図1中で符号3で示した領域に形成される曲線状の導波路は、アレイ導波路格子フィルタから基板劈開端面までの導波路の光学的長さを各導波路b1,b2,・・・b8について等しくするためのものであり、本発明の主要な部分であるpb1,pb2,・・・pb8で示される位相調整領域には、電極が形成されており、電極から透明導波路に電流を流すことにより、導波路の等価屈折率を変化させる働きをもっている。各導波路b1,b2,・・・b8の光学的距離は、導波路作製時の作製誤差等により、厳密に等しくすることは困難である。そのため、この位相調整領域の屈折率を調整することにより、各導波路の光学的距離を厳密に等しくするのである。なお、この位相調整領域がない場合でも、活性導波路への電流を制御することで、屈折率制御が可能であるので、各導波路の光学的距離を厳密に等しくすることは可能である。
【0018】
活性導波路ab1,ab2,・・・ab8、及び位相調整電極pb1,pb2,・・・pb8に直流電流を流し、活性導波路aa1に高周波電流を加えて、モードロック発振動作をさせた場合の発振スペクトルを図5に示す。全導波路長は1.5cmで、それに対応する繰り返し周波数3.125GHzで高周波電流を加えている。このアレイ導波路格子フィルタの周波数分波特性は、導波路a1から入射した光が1THzごとに各導波路b1,b2,・・・b8に振り分けられる特性となっている。よって、各導波路に振り分けられた光パルスは、各周波数帯ごとに活性導波路により増幅され、劈開端面で反射されたのち、同じタイミングでアレイ導波路格子フィルタに戻ってきて、活性導波路a1に加えられる高周波電流に同調する。この結果、図1に示すように、約7THzの広い周波数範囲でモード同期動作する半導体モードロツクレーザが得られている。
【0019】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【0020】
【発明の効果】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
本発明によれば、モード同期できる光周波数(波長)範囲を著しく広げた半導体モードロックレーザを実現することができ、広帯域の光周波数基準器や短パルス光源としての応用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による一実施形態の半導体モードロツクレーザの概略構成を示す模式図である。
【図2】アレイ導波路格子内蔵レーザの従来例の概略構成を示す模式図である。
【図3】アレイ導波路格子フィルタの分波特性を示す図である。
【図4】従来のアレイ導波路格子内蔵レーザによるモードロック発振スペクトルを示す図である。
【図5】本発明による一実施形態の半導体モードロックレーザによる発振スペクトルを示す図である。
【図6】従来のファブリ・ペロー型半導体モードロックレーザの概略構成を示す模式図である。
【図7】従来のファブリ・ペロー型半導体モードロックレーザによる発振スペクトル及び利得特性を示す図である。
【符号の説明】
1…InP基板、2…アレイ導波路格子フィルタ、3…光路長調整領域、a1…入力側透明導波路、b1,b2,・・・b8…出力側透明導波路、aa1、ab1、ab2、ab8…活性導波路及び電極、pb1,pb2,・・・pb8…位相調整領域及び電極、4…アレイ導波路、5…スラブ導波路、10…活性導波路及び電極、11…透明導波路。

Claims (4)

  1. 一本の入力側導波路に入射した光を少なくとも二本以上の出力側導波路に異なる光周波数ごとに分波する作用を持つ光フィルタをレーザ共振器内に内蔵した半導体レーザにおいて、
    前記入力側導波路及び前記出力側導波路には、光に対して利得が得られるように、電流を注入するための電極が設けられた活性導波路がそれぞれ接続され、
    前記出力側導波路の光学的距離とそれに接続される前記活性導波路の光学的距離との和が、各々の出力側導波路間で互いに等しいことを特徴とする半導体レーザ。
  2. 前記光フィルタがアレイ導波路格子フィルタであることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ。
  3. 前記出力側導波路の一部の領域に、光の位相を調整するための電極が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。
  4. 前記請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、前記出力側導波路に接続された前記活性導波路には一定電流を流し、前記入力側導波路に接続されている活性層には、レーザ共振器の長さにより定まる縦モード間隔に等しい周波数の高周波電流を流すことを特徴とするモードロック発振方法。
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