JP3617799B2 - 電力機器負荷監視装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電力機器の劣化に寄与する部位の温度を予測して、当該機器の高効率運転および保守を支援する電力機器負荷監視装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、設備投資を抑制する目的で電力機器を高効率運転(高負荷運転)させるための技術開発が進められているが、この流れに伴い、電力機器の過負荷運転時における高信頼運転のための機器監視、異常予測システムなど、運転保守支援装置(あるいはシステム)の要求がでている。このような要求に対して、電力機器を熱等価回路で表し、電力機器の寿命を決定する巻線温度を、負荷率、外気温度(周囲温度)、および冷却器の運転台数を入力情報とするシミュレーションにより予測する負荷監視装置などが考えられている。
負荷監視装置においては、監視対象機器の熱等価回路の回路定数(あるいは定格値)を工場出荷試験や設計値から予め求め、当該装置の演算処理部による上記シミュレーションの初期設定値として入力しておくことが、一般的である。
【0003】
図7は、巻線油入変圧器の熱等価回路の一例を示すものであり、この熱等価回路は次の微分方程式(1)〜(4)で表すことができる。
但し、
以上の微分方程式を解き、当該装置の演算処理部によるシミュレーションの初期設定値として入力することにより、変圧器の寿命を決定する巻線温度を予測することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の負荷監視装置においては、回路定数であるCic、Co、Hic、Hoは次式(5)〜(8)で与えられる。
但し、
Hicn :定格運転時の巻線−冷却媒体(絶縁油)間熱放散係数
Hon :定格運転時の冷却媒体(絶縁油)−大気間熱放散係数
θicn−θon:定格運転時の巻線平均温度−冷却媒体(絶縁油)温度差
θon−θan :定格運転時の冷却媒体(絶縁油)温度−周囲温度差
τic :巻線熱時定数
τo :冷却媒体、鉄心およびタンクの等価熱時定数
この中で、τoを除く定数、すなわちHicn、Hon、τic、Cicは工場試験結果や設計値から比較的容易に推定することができる。しかし、熱等価回路においては計算速度向上のため、冷却媒体、タンク、および鉄心を集中回路素子で表していることから、冷却媒体温度で代表する等価熱時定数τoを設計値から精度よく推定することが非常に困難である。この等価熱時定数τoは、負荷監視において最も重要である巻線温度推定のためのベースとなる冷却媒体温度を決定するキーファクターとなることから、等価熱時定数τoを精度よく推定できないため当該負荷監視装置の性能が低下するといった問題点があった。
また、熱時定数を求めるための温度上昇試験は、定格負荷(電圧および負荷電流)印加のための工場設備が巨大となるために、工場試験でも困難である。さらに、実測運転状態情報をもとに上記熱等価回路の回路定数を手計算などで推定するには、刻々と変化する負荷や周囲温度、冷却器運転台数等の変動要因が複雑に絡むため、容易には求めることができなかった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、当該装置起動時において、熱等価回路の回路定数、特に冷却媒体、タンクおよび鉄心の等価熱容量決定のための等価熱時定数τoを精度よく設定することにより、巻線温度に代表される電力機器劣化に寄与する部位の経時的温度変化を高精度に予測できる電力機器負荷監視装置を得るものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る電力機器負荷監視装置においては、電力機器の実測運転状態情報を所定の時間収集した収集結果と、熱等価回路の回路定数の値を任意に仮定してシミユレーションを上記所定の時間行ったシミユレーション結果とを比較する手段、および比較の結果、両者の誤差が最小になるときの回路定数の値を上記熱等価回路の回路定数として決定する手段を備えるものである。
【0007】
また、回路定数を決定するために収集する実測運転状態情報として、電力機器への印加電圧および当該電力機器に設けられた負荷時タップ切換器のタップ位置を検出するものである。
【0008】
また、回路定数を決定するために収集する実測運転状態情報として、当該機器への通電電流(負荷)、冷却器の冷却媒体温度、周囲温度、および冷却器運転状態を検出するものである。
【0009】
また、監視対象電力機器が変圧器である場合、回路定数として冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数の値を決定するものである。
【0010】
また、冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数の値として、経験により推定される範囲内の任意の値を仮定してシミュレーションを行う際、実測運転状態情報の収集時間を上記範囲の中央値の少なくとも2倍以上とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、負荷監視対象の電力機器として強制冷却器付きの3巻線油入変圧器に本発明のシステムを適用した場合の構成図である。図において、1は油入変圧器本体、2は変圧器1内で発生した損失(熱量)を大気に放出する冷却器(油−大気間熱交換器)で、油ポンプ3により変圧器本体1の冷却媒体である絶縁油を油配管4を通じて冷却器2へ導き、冷却された絶縁油を変圧器本体1に強制的に返送している。なお、冷却器2には冷却能力向上のためのファンが取り付けられ、強制的に大気を吹き付ける構造になっており、油ポンプ3と連動して運転される。
大容量の変圧器の場合、上記冷却器2および油ポンプ3は複数台取り付けられており、冷却器制御盤5は、油ポンプ3への供給電力を節約する目的で、変圧器本体1の負荷に応じて油ポンプ3の運転台数を制御している。図2に、変圧器1の負荷と冷却器運転台数との関係の一例をグラフで示す。
6は冷却器制御盤5から油ポンプ3およびファンへの電力供給用ケーブルである。
【0012】
この発明に係る電力機器運転保守支援システムは、上記のように構成された変圧器に対して、その実測運転状態情報をセンサ等により検出し、その検出信号をもとに、上位コンピュータ内で熱等価回路によってシミュレーションを行い、機器劣化に寄与する部位、特に巻線温度の経時的変化の予測を行うものであり、上記等価回路の回路定数の値として、所定の時間、実測運転状態情報を収集した収集結果とシミュレーション結果との誤差を最小とする値を設定するものである。上記図1において、7〜9,11,12は変圧器本体1の実測運転状態情報を検出する手段としての検出器で、7は変圧器本体1の負荷を検出する変流器(CT)、8は油温を検出する例えば測温抵抗体のような油温センサ、9は変圧器本体1の印加電圧を検出する計器用変圧器(PT)、11は変圧器負荷側(2次、3次出力)の電圧を制御するためのタップ切替器(図示せず)のタップ切換器操作機構10からタップ位置を検出するタップ位置検出器、12は現地信号処理盤13を経由して周温(大気温度)を入力する例えば熱電対のような周温センサである。これら検出器7〜9,11,12で検出された信号は、計測用インターフェース部14を経由して信号処理部15で物理量に変換され、エンジニアリングワークステーションのような上位のコンピュータ17(以降、EWSという)へ伝送インターフェース16を通じて伝送される。18は現地信号処理盤13とEWS17間の伝送ケーブルである。
【0013】
EWS17では、伝送された上記物理量をもとに、現時刻における巻線の温度を後述の熱等価回路で求め、この温度値を初期値として、予測される変動負荷、周囲温度および冷却器制御条件をもとに、熱等価回路で各部位の今後の経時的温度変化をシミュレーションする。
図7は、上記図1で示した機器構成を過渡現象も考慮した過渡特性付き熱等価回路で表したものであり、この熱等価回路は先に述べた微分方程式(1)〜(4)で表すことができる。この微分方程式を解くことにより、求めるシミュレーション結果が得られる。ここで、熱等価回路の回路定数であるHic、Ho、Cic、Coは式(5)〜(8)で与えられる。
回路定数の中で、冷却媒体、鉄心およびタンクの等価熱時定数τoは、負荷監視において最も重要である巻線温度推定のためのベースとなる冷却媒体温度を決定するキーファクターとなり、この等価熱時定数τoを精度よく推定することが、当該負荷監視装置の性能を左右する。
本発明では、この等価熱時定数τoの値を最適に決定するために、所定の時間、上記等価熱時定数τoの値を任意の値に仮定して上記シミュレーションを行った結果と、変圧器本体1の実測運転状態情報の収集結果とを比較し、両者の誤差が最小となるときの等価熱時定数の値を正規の値として決定するものである。
【0014】
図3は、上記微分方程式の演算処理をサブプログラムとして組み込み、実測運転状態情報から回路定数τoを推定する演算処理のフローチャートである。
まず、装置起動時において、工場試験結果および設計値から上式(5)〜(7)によりτo以外の回路定数を設定する。あるいは、上式(5)〜(7)の必要情報を装置に入力して、EWS17内で演算により求めてもよい。
さらに、推定時定数範囲(τox−△τ)〜(τox+△τ)および計算ステップn(時定数変化は△τ/n)を設定する(S1)。ここで、τoxの値は過去の経験から一般的に1〜2時間とする。
また、一般的に冷却媒体、鉄心およびタンクの温度上昇θと定常値温度θmaxの関係は一定負荷印加時において、
θ=θmax(1−e−t/ τ o)
で表され、温度θは、時間tの値がτoのとき定常値温度θmaxの63%、2τoのとき86%、・・・となり、時間tの値が短いと時定数の違いによる誤差が大きくなるので、実測運転状態情報の収集時間T〜Tmaxは、演算精度確保のため、熱等価回路の等価熱時定数τoxの少なくとも2倍以上とする。
続いて、時刻の初期化(現時刻Tにおいて収集時間t=0,τ=τox−△τ)を行う(S2)。
【0015】
そして、図5で示すような、時刻T(収集時間t=0)での実測負荷、冷却器運転状態、および周温データを取り込む(S3)。次に、微分方程式(1)〜(4)によって、時刻T〜時刻(T+△t)間または収集時間(t+△t)の各部位の平均発生損失(熱量)を計算し、時刻(T+△t)または収集時間(t+△t)の温度分布計算を結果が収斂するまで行う(S4〜S6)。そして、その演算結果を記憶する(S7)。
上記S3〜S7の処理を時刻Tが時刻Tmaxを超過するまで、△tの計算ステップで繰り返す(S8でNのとき)。
時刻T〜時刻Tmaxの演算結果を記憶したならば(S8でYのとき)、その時間帯の最終時間帯△T(時刻(Tmax−△T)〜時刻Tmax)における演算結果を抽出し、当該時間帯の実測冷却媒体(油)温度とを比較し、次式によりその誤差和を求める(S9)。
ε=Σ(計算油温−実測油温)2
【0016】
次に、等価熱時定数τの値が(τox+△τ)を超過するまで(S10でNのとき)、τの値を△τ/nずつ大きい値に設定し、上記S2〜S9の処理を繰り返す。
推定時定数範囲(τox−△τ)〜(τox+△τ)に対して上記処理を終了したならば(S10でYのとき)、上記S9で求めた誤差が最小であるときのτを抽出し(S11)、そのτの値を正規の等価熱時定数として設定する(S12)。
以降、設定された各種回路定数を用いてシミュレーションを行い、巻線温度に代表される変圧器劣化に寄与する部位の負荷監視あるいは予測を開始する。
なお、実測運転状態情報の収集時間帯T〜Tmaxは、周囲温度や負荷増加の変動の大きい朝方から正午に設定する方が、装置の高信頼性のためのより望ましい情報が得られる。
【0017】
また、上記説明においては、電力機器として負荷制御方式冷却器運転の強制冷却油入変圧器について述べたが、近年電力会社などで省エネのために採用されているインバータ制御の冷却方式であっても、同様な定数の自動生成をおこなうことができる。すなわち、負荷に対する冷却媒体流量(あるいはポンプやファンの運転周波数が冷却媒体の流量に比例することから、負荷に対する運転周波数)条件をシミュレーションの冷却器運転条件とすることで、同様な効果が得られる。さらに、上記説明においては、EWS17において熱等価回路のシミュレーションを行ったが、近年のマイクロコンピュータの進歩により、図1の現地処理盤13内の演算処理部に高速処理のマイクロコンピュータを使用しても、上記実施の形態例と同様の効果が得られる。しかも、この場合、EWS17の処理負荷が軽くなるため、1台の上位コンピュータで複数台の電力機器の処理も可能となる。
【0018】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1においては、機器への印加電圧を計測して無負荷損を決定し微分方程式の演算に用いたが、電力機器においてその系統電圧がほぼ一定である場合は、例えば変圧器の場合、電圧の多少の変動では冷却媒体の温度θoにそれほどの変化はない。したがって、図5に示すように、図1で示した構成の現地信号処理盤13における信号処理のうち、タップ切換器操作機構10からタップ位置を検出するタップ位置検出器11からの信号処理、および変圧器本体1への印加電圧を検出する計器用変圧器(PT)9からの信号処理を省略した構成とし、電圧印加有無の検知信号(例えば、変圧器1次側の遮断器投入信号)で電圧印加として代表的な無負荷損が発生していることとしても、上記実施の形態1とほぼ同様のシミュレーション結果が得られる。
【0019】
実施の形態3.
また、図6に示すように、電力機器として自冷式変圧器システムとしても、熱等価回路は同じであるので、基本的には上記実施の形態1と同様の手順でシミュレーションでき、冷却器運転台数を固定して演算処理すれば同様な効果が得られる。
【0020】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
電力機器の実測運転状態情報を検出し、検出した実測運転状態情報および上記冷却器の制御条件をもとに、上記電力機器劣化に寄与する部位の経時的温度変化を熱等価回路によってシミュレーションする際、上記熱等価回路の回路定数の値として、上記実測運転状態情報を所定の時間収集した結果と上記シミュレーション結果とを比較し、両者の誤差を最小にするときの上記回路定数の値を正規の値として決定するので、精度の高い負荷監視が行える。
【0022】
また、回路定数の値を決定するための実測運転状態情報として、電力機器への印加電圧および当該電力機器に設けられた負荷時タップ切換器のタップ位置を検出するので、簡単な構成で精度の高いシミュレーションが行える。
【0023】
また、回路定数の値を決定するための実測運転状態情報として、当該機器への通電電流(負荷)、冷却器の冷却媒体温度、周囲温度、および冷却器運転状態を検出するので、実際の運転状態にあったシミュレーションができる。
【0024】
また、監視対象電力機器が変圧器である場合、推定の困難な冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数を実測運転状態情報をもとに決定するので、より精度の高い等価熱時定数を設定することができる。
【0025】
また、実測運転状態情報の収集時間を、経験により推定される冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数の値の少なくとも2倍以上とするので、誤差の小さい精度の高いシミュレーションが行え、運転員や保守員に有効な支援ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1による電力機器負荷監視装置を強制冷却器付き油入変圧器に適用した場合の構成図である。
【図2】負荷制御方式冷却器における負荷と運転台数との関係を示すグラフである。
【図3】電力機器に対する回路定数の推定処理を示すフローチャートである。
【図4】図1の変圧器の実測機器情報トレンド例である。
【図5】この発明の実施の形態2による電力機器負荷監視装置を強制冷却器付き油入変圧器に適用した場合の構成図である。
【図6】この発明の実施の形態3による電力機器負荷監視装置を自冷式油入変圧器に適用した場合の構成図である。
【図7】3巻線油入変圧器の熱等価回路を示す図である。
【符号の説明】
1 電力機器としての変圧器本体、2 冷却器、5 冷却器制御盤、
7 検出手段としての変流器(CT)、8 検出手段としての油温センサ、
9 検出手段としての計器用変圧器(PT)、
11 検出手段としてのタップ位置検出器、
12 検出手段としての周温センサ、
17 シミュレーション手段、比較手段および回路定数決定手段としての上位コンピュータ。
Claims (5)
- 内部に発生する損失(熱量)を冷却する冷却器を備えた電力機器の実測運転状態情報を検出する検出手段と、検出した実測運転状態情報および上記冷却器の制御条件をもとに、上記電力機器劣化に寄与する部位の経時的温度変化を熱等価回路によってシミュレーションする手段とを備えた電力機器負荷監視装置において、
当該電力機器の上記実測運転状態情報を所定の時間収集した収集結果と、上記熱等価回路の回路定数の値を任意に仮定して上記シミユレーションを上記所定の時間行ったシミユレーション結果とを比較する手段、および比較の結果、両者の誤差が最小になるときの回路定数の値を上記熱等価回路の回路定数として決定する手段を備えたことを特徴とする電力機器負荷監視装置。 - 回路定数を決定するために収集する実測運転状態情報として、電力機器への印加電圧および当該電力機器に設けられた負荷時タップ切換器のタップ位置を検出することを特徴とする請求項1記載の電力機器負荷監視装置。
- 回路定数を決定するために収集する実測運転状態情報として、当該機器への通電電流(負荷)、冷却器の冷却媒体温度、周囲温度、および冷却器運転状態を検出することを特徴とする請求項1または2記載の電力機器負荷監視装置。
- 監視対象電力機器が変圧器である場合、回路定数として冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数の値を決定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力機器負荷監視装置。
- 冷却媒体、鉄心、およびタンクの等価熱時定数の値として、経験により推定される範囲内の任意の値を仮定してシミュレーションを行う際、実測運転状態情報の収集時間を上記範囲の中央値の少なくとも2倍以上とすることを特徴とする請求項4記載の電力機器負荷監視装置。
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