JP3617251B2 - シリンダブロックの鋳造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム合金からなるシリンダブロックの鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金製シリンダブロックのボア部強化策として、例えば展伸加工によって形成されたアルミニウム製ライナをボア部に鋳包み、このライナの内周面に溶射層を形成したもの(特開昭59ー74353号公報)や、シリンダボア回りを筒状繊維強化複合体により構成したもの(特開昭62ー187561号公報)などが知られている。
【0003】
また、本出願人は、特開昭60ー63335号公報において、過共晶アルミニウムー珪素合金鋳物の製造方法を提案した。この方法の場合、まず圧力鋳造可能な金型と、アルミナ短繊維等の繊維が積層された濾過材と、過共晶アルミニウムー珪素合金の溶湯を用意する。金型には成品に適合するキャビティが形成されている。そしてキャビティの一部には濾過材を配置し、キャビティ内に注入した溶湯を加圧して濾過材に溶湯を浸透させる。このとき、濾過材が溶湯内の初晶珪素を分離するため、濾過材との接触界域には高密度の初晶珪素が凝集される。溶湯の凝固後、成品から濾過材を除去することにより、成品には高密度の初晶珪素が凝集した硬化層が表出される。
【0004】
こうして得られた鋳造成品には、所望の表面に高密度の初晶珪素が凝集した硬化層が形成され、残部の母材には硬化層から遠ざかるにつれて低密度の初晶珪素が存在することとなる。このため、所望表面の高い耐摩耗性に加えて、母材内部における優れた強靱性を併有することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上述した特開昭59ー74353号公報開示の対策では、ライナを鋳包むための大幅な工程増しに加えてライナの密着不良が生じ易く、また、特開昭62ー187561号公報開示の対策では、複合化のために非常に高い圧力を必要とすることからダイカスト法に限定され、しかもマイクロポロシテイ、繊維成形体の破損など鋳造欠陥を生じ易いといった問題もある。
【0006】
一方、特開昭60ー63335号開示の方法に採用されている濾過材(繊維集積体)は、通常吸引成形によって製造されるため専ら平板状であり、これを要求に基づいた特殊形状に形成することはかなり難しく、しかもこのような濾過材は、使用繊維のコストや溶湯とのぬれ性を配慮した選択に加えて、ハンドリング中に損壊しない程度の最小厚さを必要とするなど経済性並びに作業性の面からも幾多の制約を受けることになる。
【0007】
本発明は、上記濾過材の改良に基づく簡便な方法により、シリンダボアの内壁面に高密度の初晶珪素を凝集した珪素富化層を形成することを、解決すべき技術課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する請求項1記載の発明は、少なくともシリンダボア用中子と共同してシリンダブロックの形状に適合するキャビティを形成する鋳型を有し、実質的にボア内壁面を画成する金網からなる濾過材をシリンダボア用中子の周面に巻着する工程と、上記キャビティに過共晶アルミニウムー珪素合金の溶湯を注入する工程と、該溶湯を加圧して上記濾過材に溶湯を浸透させ、該濾過材の周域に初晶珪素を凝集させる工程と、溶湯の凝固後、上記濾過材を成品から除去して、上記ボア内壁面に初晶珪素の凝集した珪素富化層を表出させる工程とからなるを特徴としている。
【0009】
この方法では、濾過材として屈曲自在な金網を採用しており、これをシリンダボア用中子に巻着するのみで、実質的にボア内壁面を画成する中子と一体化された濾過材を至極容易に形成することができる。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、溶湯と接触して上記濾過材の実質的な濾過面を形成する主金網は、ステンレス鋼、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金等の線材を用いた織金網であることを特徴としている。
【0010】
この方法では、実質的に濾過面を形成する主金網が、アルミ溶湯とのぬれ性の良好な金属線材を用いた織金網であるため、セラミック濾過材に比べて低圧の濾過が可能になるとともに、織金網の線径及び目数を選択することにより凝集される初晶珪素の粒径を調整することができる。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記濾過材を構成する主金網は、上記シリンダボア用中子の周面に多重状に巻着されていることを特徴としている。
【0011】
この方法では、濾過材を構成する主金網をシリンダボア用中子の周面に多重状に巻着することで、濾過材の厚さを自在に加減することができ、これにより形成される珪素富化層の厚さも関連的に調整される。
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記濾過材は、上記主金網がそれよりも目の粗い厚さ調整用の副金網と多層状に構成されていることを特徴としている。
【0012】
この方法では、実質的に濾過面を形成する主金網よりも目の粗い副金網を内層に配置することで、きわめて安価に濾過材の厚さを保持しつつ、溶湯の十分な浸透を図ることができる。
請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記濾過材は、上記主金網が渦巻き状に巻回された厚さ調整用の針金と組合されていることを特徴としている。
【0013】
この方法では、上記副金網に代え、シリンダボア用中子に巻回された単なる針金が主金網と組合されて濾過材を構成しているので、一層の経済効果が期待できる。
請求項6記載の発明は、請求項1、2、3、4又は5記載の発明において、上記濾過材を構成する主金網は、微細な金属線材によって外端縁の遊動が拘止されていることを特徴としている。
【0014】
この方法では、微細な金属線材(止め針を含む)を用いた係着又は緊縛により、主金網の外端縁の展開遊動が拘止されるので、ごく短時間にシリンダボア用中子との一体化を果すことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、共晶組成以上の珪素を含有するアルミニウムー珪素合金製のシリンダブロック1であって、直列に並ぶシリンダボア2中心に縦断した断面側面図である。シリンダブロック1は各シリンダボア2を囲繞する外壁3との間に一連のウォータジヤケット4を有し、該外壁3の下方部はクランクケース5を形成している。
【0016】
圧力鋳造は、このようなシリンダブロック1の形状に適合したキャビティを形成する金型と、各シリンダボア2及びウォータジヤケット4を形成する中子とを用いて行われるが、本発明の最も特徴とする実施形態においては、図3に示すシリンダボア用中子6の周面に金網からなる濾過材Fが巻着されて、該濾過材Fの外径によりシリンダボア2の実質的な鋳造内径が画成される。
【0017】
濾過材Fは図4の(a)及び(b)に示すように、平織又は綾織をなす織金網であって、直接溶湯と接触して実質的に濾過面を形成する主金網Fは、所要の厚さを保持するため、図5(a)に示すように、シリンダボア用中子6の周面に多重状に巻着されるか、図5(b)に示すように、主金網Fよりも目の粗い厚さ調整用の副金網Fを内層に配置して多層状に構成されている。勿論、厚さ調整のためこの副金網Fを更に多重巻きにすることも可能である。両金網F、Fには溶湯とのぬれ性が良好なステンレス鋼、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金等の金属線材が使用され、主金網F1の線径及び目数は0.05mmφ・250メッシュ〜0.35mmφ・30メッシュ程度の範囲で選択される。これは主金網Fの網目がこの範囲よりも密になると、抵抗が大きくなって溶湯の濾過が不十分となり、逆に網目がこの範囲よりも粗になると、所望の粒径及び密度を充足する初晶珪素の凝集が不可能となるからである。なお、主金網Fの外端縁が展開遊動しないよう、図3に示すような止め針7を用いて係着するか、全外周を図示しない金属線材で緊縛することによって主金網Fは拘止されるが、これら金属線材の結び目などが最終的なシリンダボア2の切削加工で完全に除去されるよう極力微細な線材を用いることが望ましい。
【0018】
13〜30%程度の珪素を含有する過共晶アルミニウムー珪素合金として例えばA390の溶湯が図示しない金型のキャビティ内に注入されると、比較的粗大な初晶珪素を晶出することになるが、濾過材Fと対向する溶湯は加圧によって濾過作用を受け、主金網Fの網目よりも大きな粒径を有する初晶珪素は主金網Fとの接触界域に順次凝集される。凝集される初晶珪素の平均粒径や密度は選択された主金網Fによって左右されるが、現実には溶湯の冷却速度に加えて、主金網Fに被着した溶湯や濾過によって滞留する初晶珪素それ自体の濾過作用も微妙に関与する。また、比較的目の粗い副金網Fは、濾過材Fに必要とされる厚さを保持しながら、主金網Fを潜通した溶湯の更なる浸透を妨げないようサポートしているので、主金網Fによる正常な濾過が遂行される。なお、図示は省略されているが、上記副金網Fに代えて所要の線径を有する針金をシリンダボア用中子6に渦巻き状に巻回し、その外層に主金網F1を巻着するように構成することもできる。このようにすれば、網目が粗く要求精度も低い安価な副金網Fに比べて、より一層のコストダウンを図ることも可能である。
【0019】
図2に示すRはアルミ合金マトリックスM中に高密度の初晶珪素Sが凝集した珪素富化層(リッチ層)であって、この珪素富化層Rは濾過材Fとの接触界域においてほぼ均一、かつ該接触界域から放射方向へ連続的に下傾変化している。Pは初晶珪素Sが低密度に存在するいわゆるプアー層である。該珪素富化層Rの厚さは実用上1mm以上であることが望ましいが、この厚さは注湯から加圧開始までの時間、冷却速度、濾過材Fの厚さなどを変えることによって至極容易に調節することができる。溶湯の凝固後シリンダブロック1は金型から抜き出され、適宜手段により合体されている濾過材F部分を取り除けば、シリンダボア2の内壁面に高密度の初晶珪素を凝集した珪素富化層Rが表出される。
【0020】
以下、図6及び図7により焼付試験結果について説明する。
焼付試験は図7に示すオイルバス内に試験片を固定し、これに相手材として鋳鉄(FC25)製の円筒体を加圧接触させ、3000rpmで相手材を回転させながら順次増圧して、各試験片の焼付荷重を検証したものである。
図6における試験片1は、アルミニウム合金材(A390)、試験片2は、アルミナ繊維とアルミニウムとマトリックスからなる繊維強化複合材、試験片3は、表面にクロムめっきを施したアルミニウム合金材(ADC12)で、いずれも比較例に相当し、試験片4は、本発明の実施例に係るアルミニウム合金材(A390)に珪素富化層Rを表出させたものである。この試験結果から明らかなように、本発明に係る珪素富化層Rは、繊維強化複合材よりも格段と優れた耐焼付性を示している。
【0021】
なお、上述の実施例はすべて金型鋳造に基づいて説明したが、本発明の濾過材には極めて濾過性の良好な金網を採用しているので、比較的低圧の砂型鋳造にも適用可能であることは勿論である。
【0022】
【発明の効果】
以上、詳述したように請求項1〜6記載の発明は、屈曲変形自在な金網からなる濾過材の採用により、簡単に所望形状の濾過面を得ることができるので、従来のセラミック繊維集積体を用いた濾過材とは比較にならない簡便さでシリンダボア用中子への被装を果すことができる。しかも金網の粗密を選択するのみで凝集される初晶珪素の粒度調整が可能となり、さらに濾過材がアルミ合金マトリックスと簡単に分離されてアルミ合金のリサイクル性を向上させる金属であるという点において、一層注目すべき経済効果を発揮する。とくに請求項2記載の発明は、実質的に濾過面を形成する主金網がアルミ溶湯とぬれ性の良好な金属線材を用いた織金網であるため、低圧設備の採用も可能となる。
【0023】
請求項3記載の発明は、実質的に濾過面を形成する主金網のみを多重巻きすることで濾過材の厚さ調節を簡単に行うことができ、請求項4及び5記載の発明のように、濾過材の厚さ調節用として安価な副金網や渦巻き状に巻回した針金を主金網と組合せて濾過材を構成すれば、溶湯の十分な浸透(濾過)を促しつつ、この点でもコスト低減を図ることができる。また、請求項6記載の発明のように、微細な金属線材や止め針を用いて金網の展開遊動を簡単に拘止するようにすれば、ごく短時間に中子への被装、つまり一体化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックを示す断面側面図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】シリンダボア用中子に巻着される濾過材を示す斜視図。
【図4】濾過材に使用される織金網であって、(a)は平織、(b)は綾織を示す説明図。
【図5】シリンダボア用中子に巻着された金網であって、(a)は多重状をなす主金網、(b)は副金網と多層状をなす主金網を示す説明図。
【図6】焼付試験結果を示すグラフ。
【図7】焼付試験方法を示す説明図。
【符号の説明】
1はシリンダブロック、2はシリンダボア、6はシリンダボア用中子、7は止め針、Fは濾過材、Fは主金網、Fは副金網、Sは結晶珪素、Rは珪素富化層

Claims (6)

  1. 少なくともシリンダボア用中子と共同してシリンダブロックの形状に適合するキャビティを形成する鋳型を有し、実質的にボア内壁面を画成する金網からなる濾過材をシリンダボア用中子の周面に巻着する工程と、上記キャビティに過共晶アルミニウムー珪素合金の溶湯を注入する工程と、該溶湯を加圧して上記濾過材に溶湯を浸透させ、該濾過材の周域に初晶珪素を凝集させる工程と、溶湯の凝固後、上記濾過材を成品から除去して、上記ボア内壁面に初晶珪素の凝集した珪素富化層を表出させる工程とからなるを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。
  2. 溶湯と接触して上記濾過材の実質的な濾過面を形成する主金網は、ステンレス鋼、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金等の線材を用いた織金網であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 上記濾過材を構成する主金網は、上記シリンダボア用中子の周面に多重状に巻着されていることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  4. 上記濾過材は、上記主金網がそれよりも目の粗い厚さ調整用の副金網と多層状に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  5. 上記濾過材は、上記主金網が渦巻き状に巻回された厚さ調整用の針金と組合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  6. 上記濾過材を構成する主金網は、微細な金属線材によって外端縁の遊動が拘止されていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の方法。
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