JP3616774B2 - キチン・キトサン内填紙を用いた編織物およびその製造方法 - Google Patents

キチン・キトサン内填紙を用いた編織物およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キチン・キトサン内填紙を用いた編織物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、靴下や下着等の繊維製品にキチン・キトサンを含有させた新たな機能性製品が提案されている。キチン・キトサンは、生分解性・生体適合性・抗菌性・防臭性(消臭性)・吸湿性・帯電防止性・染色性等の面で優れた機能を有しており、かかる機能を各種繊維製品に付与する試みがなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1から5には、キチン・キトサン単独あるいはキチン・キトサンとセルロースとを混合して湿式紡糸することにより、キチン・キトサンを繊維化する試みが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、キチン・キトサンそのものの繊維化あるいはキチン・キトサンと他の繊維との混合紡糸には各種化学プロセスを経る必要があり、コスト面あるいは効率面で決して有利とはいえなかった。
【0005】
また、技術的にも、繊維材料としての十分な強度を確保しつつキチン・キトサンの効果を十分に発揮させるには、克服すべき課題も多く、大量生産に向くとは言い難い面があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑み、より簡便な方法で、繊維材料に必要な強度を確保しつつキチン・キトサンの効果を十分に発揮する編織物およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、本明細書における「キチン・キトサン」との表記には、キチンとキトサンの両方を含む場合だけでなく、キチン単独またはキトサン単独の場合も含まれる。また、これらの誘導体も含まれる。
【0007】
【特許文献1】
特開昭57−171712号公報
【特許文献2】
特開昭58−214512号公報
【特許文献3】
特開平08−092820号公報
【特許文献4】
特開平09−241928号公報
【特許文献5】
特開平10−237722号公報
【特許文献6】
特開平08−218294号公報
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、紙基材に25ミクロン〜150ミクロンのキチン・キトサン微粉末を内填させたキチン・キトサン内填紙からなる紙糸を構成糸として含む編織物において、上記キチン・キトサン内填紙を80〜100℃の温度条件の下で250〜300kg/cm 2 の圧力を加えてカレンダー処理したものを裁断して紙糸となし、この紙糸を構成糸として含むことを特徴とする編織物である。
【0009】
本発明において、キチン・キトサン内填紙とは、紙基材にキチン・キトサン微粉末を内填させたものをいい、紙の製造工程において、キチン・キトサンを溶液化したものを紙基材に混合するのではなく、キチン・キトサンの微粉末を混抄させた紙をいう。本出願人が先に出願した特許文献6には、かかるキチン・キトサン内填紙が例示されている。
【0010】
このキチン・キトサン内填紙は、紙基材にキチン・キトサンを微粉末にして内填するものであり、高濃度のキチン・キトサンの広範囲での利用を可能にするものである。内填にあたっては、紙の調成工程で紙基材にキチン・キトサン微粉末を混抄させるだけで、従来の紙の特性を損なわずしかも表面にザラ付きのない紙製品を得ることができる。また、キチン・キトサンの微粉末を使用するため、紙基材内におけるキチン・キトサンの表面積が大きくなり、その分キチン・キトサンの内填量の節約が図れるとともに、キチン・キトサンの抗菌、防臭といった特性を最大限に発揮できるものである。さらに、製造工程において、キチン・キトサンを溶解して溶液にしたり、各種薬品や樹脂等を添加する必要がないので、製造上の作業工程が少なくなり、その分作業時間の短縮化とコストダウンが図れ、また、キチン・キトサンを溶解する溶剤や、薬品等の添加がないので、人体に対して安全な紙製品が得られ、二次公害を引き起こすおそれもない。
【0011】
ここで、キチン・キトサン微粉末は25ミクロン〜150ミクロン(500メッシュ〜100メッシュ)であ、特に60ミクロン〜100ミクロン(235メッシュ〜150メッシュ)であることが好ましい。キチン・キトサンの分子量は5万〜200万のものが好ましい。脱アセチル化度は10%以上が好ましく、特に70%以上であることが好ましい。キチン・キトサンの効果を十分に発揮するには、キチン・キトサン微粉末の内填率は少なくとも0.3%以上であることが好ましい。特に抗菌特性が必要な場合には、内填率は0.5%以上であることが好ましい。一般的には、キチン・キトサン微粉末の内填率は0.5〜10%が好ましい。
【0012】
なお、キチン・キトサンの分子量、脱アセチル化度、微粉末粒子の大きさ等は、上記範囲内で使用目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、抗菌特性にあっては、キチン・キトサンの分子量は5万〜30万、脱アセチル化度は85%前後が特に好ましい。一方、防臭特性にあっては、キチン・キトサンの分子量は10万〜20万、脱アセチル化度は70%前後が特に好ましい。
【0013】
請求項1に記載の編織物は、上記のキチン・キトサン内填紙を80〜100℃の温度条件の下で250〜300kg/cm 2 の圧力を加えてカレンダー処理したものを裁断して紙糸となし、この紙糸を編織することにより得られる。
キチン・キトサン内填紙を使用した紙糸は、カチオン性物質のキチン・キトサンとアニオン性物質のセルロースとのイオン結合により、従来の紙糸よりも強度が高く、編織過程での糸切れも少ない。このため、織り易さや編み易さが向上して作業効率が向上し、また、糸切れして廃棄される紙糸の削減にも寄与する。さらに、キチン・キトサン内填紙を使用しているため抗菌性や防臭性といった効果を編織物に付与することができる。
【0014】
なお、請求項1の編織物に使用される紙糸には、加燃していない扁平形状の紙糸だけでなく、加撚したものも含まれる。
【0015】
上記請求項1の発明では、かかる紙糸を経糸・緯糸のいずれにも使用することができる。また、綿や絹等と混織または混編してもよく、さらに、上記紙糸のみを編織してもよい。綿や絹等と混織または混編すれば、繊維製品としてより優れたものを得ることができる。特に、生分解性繊維とともに混編織すれば、出来上がった編織物も生分解性に優れることになり、環境に害を与えない製品が得られる。
【0016】
この請求項1の編織物では、カレンダー処理することにより、内填紙中のセルロース繊維がより密着し機械的強度が向上するだけでなく、キチン・キトサンの接触面積が増加して抗菌性等の効果をより発揮することができる。また、カレンダー処理により光沢や耐水性・透気度も増す。
【0017】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の編織物の製造方法であって、紙の調成工程で紙基材に25ミクロン〜150ミクロンのキチン・キトサン微粉末を混合してキチン・キトサン内填紙を抄造する工程と、上記工程で得られたキチン・キトサン内填紙を細長く裁断する裁断工程と、上記裁断工程で得られた紙糸を使用して編織物を編織する編織工程とを備え、上記キチン・キトサン内填紙を抄造した後、80〜100℃の温度条件の下で250〜300kg/cm 2 の圧力を加えてカレンダー処理し、このカレンダー処理したキチン・キトサン内填紙を細長く裁断して紙糸となし、この紙糸を使用して編織物を編織することを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の発明におけるカレンダー処理の際の温度条件については80〜90℃が好ましい。
【0019】
このように、本発明に係る編織物は、キチン・キトサン内填紙からなる紙糸を編織しているので、湿式紡糸法等によるキチン・キトサンの繊維化という工程を経ることなく、キチン・キトサンの効果を十分に発揮できる編織物を簡便かつ低コストで得ることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
キチン・キトサン内填紙は、上述したように、紙基材にキチン・キトサンの微粉末を内填させたものを使用する。キチン・キトサンの分子量、脱アセチル化度、微粉末粒子の大きさ、内填率等は上記の範囲内で適宜選択すればよい。また、キチン・キトサン内填紙は、和紙あるいは洋紙のいずれに抄造してもよい。
【0021】
このキチン・キトサン内填紙を、例えば適当な幅で細長く裁断して扁平形状の紙糸を作る。裁断幅は用途や目的に応じて適当な幅を選択すればよいが、2〜10mmが好ましい。
【0022】
この扁平形状の紙糸をそのまま使用するか、あるいは、この扁平糸に撚りを加えた撚糸を使用して編織する。撚り数・仕上がり糸径等は、用途や目的にあわせて適宜選択すればよい。
【0023】
本発明の編織物は、このような扁平糸または撚糸を、手作業で、または、編機もしくは織機を用いて編織することで得られる。この編織工程は通常の編織紙布を製造する工程と変わるところはなく、用途や目的にあわせて編構造または織構造を選択すればよい。その際、綿や絹等の他の材質の糸とともに混編織すれば繊維製品としてより優れたものが得られる。例えば、上記の扁平糸または撚糸を緯糸に使用し、経糸には木綿糸または絹糸を用いて従来の紙布の製造と同じ要領で織り上げれば、生分解性・生体適合性・抗菌性・防臭性(消臭性)・吸湿性・帯電防止性・染色性等の面で従来にない編織物を得ることができる。
【0024】
本発明の編織物は、編織後の仕上作業として、編織物を叩いてほぐす作業を加えてもよい。これにより、摩擦強度が向上するとともに、肌触りが柔らかくなりゴワゴワした感じがなくなる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例について説明する。
図1に示す表には、以下の参考例及び実施例で使用したキチン・キトサン内填紙の特性が示してある。この表の各キチン・キトサン内填紙A・Bでは、キトサンとして甲陽ケミカル社製のSK10を使用した。このキトサンを微粉末にして、内填率3%のキチン・キトサン内填紙を製造した。各キチン・キトサン内填紙A・Bでは、紙の原料としてパルプの他にマニラ麻を70%混入させたものを使用した。このうち、キチン・キトサン内填紙Aはカレンダー処理されておらず、キチン・キトサン内填紙Bにはカレンダー処理(温度80〜90℃、圧力250〜300kg/cm 2 )が施されている。なお、図1に掲げる表中の各特性値は、各項目に記載の試験方法によって測定した。
【0026】(参考例1)
参考例1は、図1の表に示すキチン・キトサン内填紙Aを使用して編織物を製造した。
具体的には、抄造後にロールに巻き取った幅1100mmのキチン・キトサン内填紙Aをまず幅275mmに裁断し、これをさらに幅2mmに裁断して紙糸とした。この加撚していない紙糸を緯糸とし、経糸として綿を使用して紙布を織った。
【0027】
この参考例1では、キチン・キトサン内填紙を使用していない従来の紙布と比較して、引張強度等の機械的強度の向上がみられた。また、抗菌性や防臭性等の効果を発揮することも観察された。
【0028】(参考例2)
参考例2は、上記参考例1において使用した紙糸に撚りを加え、この撚りを加えた紙糸を緯糸とし、経糸として綿を使用して紙布を製造した。
【0029】
この参考例2においても、従来の紙布と比較して引張強度等の機械的強度の向上がみられた。また、抗菌性や防臭性等の効果を発揮することも観察された。
【0030】(実施例3)
実施例3は、図1の表に示すキチン・キトサン内填紙Bを使用して編織物を製造した。
具体的には、上記参考例1と同様に、抄造後にロールに巻き取った幅1100mmのキチン・キトサン内填紙Bを幅275mmに裁断し、これをさらに幅2mmに裁断して紙糸とした。この加撚していない紙糸を緯糸とし、経糸として綿を使用して紙布を織った。
【0031】
この実施例3でも、従来の紙布に比べて、機械的強度の向上や抗菌性・防臭性といった効果がみられた。また、透気度が向上することがわかった。
【0032】(実施例4)
実施例4は、上記実施例3において使用した紙糸に撚りを加え、この撚りを加えた紙糸を緯糸とし、経糸として綿を使用して紙布を製造した。
【0033】
この実施例4においても、従来の紙布と比較して引張強度等の機械的強度の向上がみられた。また、抗菌性や防臭性等の効果を発揮することも観察された。
【0034】
【発明の効果】
このように、本発明に係る編織物は、湿式紡糸法等によるキチン・キトサンの繊維化という工程を経ることなく、必要な機械的強度と抗菌性や防臭性といった効果を兼ね備えた編織物を簡便かつ低コストで得ることができる。
【0035】
このような性質を利用して、本発明に係る編織物は次のような用途に用いることができる。
例えば、Tシャツ・下着・靴下その他の衣料や服地、靴の中敷、オムツ、生理用品、タオル、バスマット、ランチョンマット、ナプキン、各種敷物、シーツ、枕カバー、病人用の寝巻きや下着、医療用マスク、医師看護婦用制服、エプロン、飲食店の制服や帽子、カーテン、ブラインド、和菓子のかえし、スクリーン、顔用シート、空調機用フィルター、掃除機の集塵袋、照明器具のシェード、スクリーン、自動車用カバーシート等である。
【0036】
かかる用途例からもわかるように、本発明に係る編織物は、健常者のみならず病人の使用にも好適であり、医療分野や食品分野等において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1・2及び実施例3・4に使用したキチン・キトサン内填紙の特性を示す表である。

Claims (2)

  1. 紙基材に25ミクロン〜150ミクロンのキチン・キトサン微粉末を内填させたキチン・キトサン内填紙からなる紙糸を構成糸として含む編織物において、
    上記キチン・キトサン内填紙を80〜100℃の温度条件の下で250〜300kg/cm 2 の圧力を加えてカレンダー処理したものを裁断して紙糸となし、この紙糸を構成糸として含むことを特徴とする編織物。
  2. 請求項1に記載の編織物の製造方法であって、
    紙の調成工程で紙基材に25ミクロン〜150ミクロンのキチン・キトサン微粉末を混合してキチン・キトサン内填紙を抄造する工程と、
    上記工程で得られたキチン・キトサン内填紙を細長く裁断する裁断工程と、
    上記裁断工程で得られた紙糸を使用して編織物を編織する編織工程とを備え、
    上記キチン・キトサン内填紙を抄造した後、80〜100℃の温度条件の下で250〜300kg/cm 2 の圧力を加えてカレンダー処理し、
    このカレンダー処理したキチン・キトサン内填紙を細長く裁断して紙糸となし、
    この紙糸を使用して編織物を編織することを特徴とする編織物の製造方法。
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