JP3615428B2 - 蛋白結合型糖化蛋白を酵素免疫法で測定するための前処理方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蛋白糖化反応生成物を蛋白分解酵素と短時間、高温で反応させ、さらに沸騰水中で失活させる方法で前処理した検体を、酵素免疫法に供することによって簡便かつ正確に生体内の蛋白結合型糖化蛋白を測定するための前処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
蛋白糖化反応はメイラードがアミノ酸と還元糖を加熱すると黄褐色の色素が生成し、香りや保存に影響を与えることを発見して以来、食品化学の分野では古くから重視されてきた。最近になって医学の領域でも注目されるようになったのは蛋白糖化反応初期生成物であるヘモグロビンA1cが血糖コントロールのマーカーとして有用であることが明らかになるとともに、蛋白糖化反応後期生成物(AGE)が腎症や糖尿病性合併症の発症・進展に深くかかわっていることを示唆する学術論文が発表されるようになってからである。初期反応生成物としては、ヘモグロビンA1cの他にグリコアルブミン、フルクトサミンが血糖コントロールの指標として使用されており、その測定法についても高速液体クロマトグラフィー法、免疫学的測定法、比色法、アフィニティークロマトグラフィー法等がある。さらに、測定法によって検出する成分が異なることや、測定施設によって測定値が変動することから糖尿病学会でも永年にわたって標準化作業が行われている。後期反応生成物としてはペントシジン、カルボキシメチルリジン、ピラリン、クロスリン等が報告されており、これらの生成物の沈着と各種組織障害との間には密接な相関性があることを強く示唆する知見が多数、報告されている。ペントシジンはアルツハイマー病患者の脳や腎不全患者の尿細管に沈着していることが明らかにされており、また、慢性関節リューマチ患者や腎不全患者の血中濃度が著しく上昇しており、その濃度は病態の進展と強い相関性が認められることから、診断マーカーへの応用が期待されている。これらの後期反応生成物は糖尿病患者の末梢神経、水晶体、腎臓への沈着が認められることから、糖尿病性合併症の発症・進展因子の一つとして注目され、血糖コントロールのみならず蛋白糖化反応生成物のコントロールが合併症の発症予防につながるものと期待されている。そのためにも測定方法の確立は急務の課題といえるであろう。
【0003】
後期反応生成物は生体内では蛋白と結合しているため、その測定には繁雑な前処理とあまり一般的ではない測定機器が必要である。後期反応生成物のうち唯一、定量法の確立しているペントシジンの場合、血漿中の蛋白をトリクロロ酢酸で沈殿させ、2回洗浄後、窒素ガス封入下、6N塩酸で110℃、17時間加水分解する。その後、減圧下で塩酸を蒸発、乾固して除去し、蒸留水で希釈して蛍光高速液体クロマトグラフィー法で測定しなければならない。カルボキシメチルリジンの場合でも血漿をペントシジンの場合と同様に蛋白を沈殿、洗浄後、6N塩酸で加水分解し、塩酸を除去した後、ガスクロマトグラフィー/ガススペクトロメトリーで測定する方法やアミノ酸分析機で測定する方法が報告されている。
【0004】
後期反応生成物の測定には繁雑な前処理と特殊な分析機器を必要とするため、簡便な酵素免疫法による分析を目的として数多くの後期反応生成物に対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が取得されたが、一部の抗体が免疫染色に利用されているに過ぎず、酵素免疫測定法としては確立されていない。そのため蛋白糖化反応生成物に関する研究は、その重要性が認識されているにも拘わらず、限られた研究機関で研究が継続されている状況である。抗体は取得されているにも拘わらず、酵素免疫測定法として確立されない最大の原因は蛋白糖化後期反応生成物は生体内では蛋白分子とクロスリンクしているため、酵素免疫系で測定するためには後期反応生成物を蛋白分子表面に露出させるための前処理が必要であるが、そのための簡便な方法が開発されていないことにある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
蛋白に結合した後期反応生成物を蛋白分子表面へ露出させるための方法に関しては加水分解法、蛋白分解酵素法、アルカリ処理法等が報告されている。加水分解法については血漿蛋白を窒素ガス封入下、6N塩酸、110℃で加水分解後3N炭酸ナトリウムで中和し、さらにミクロフィルターで濾過した後、酵素免疫法で測定する方法が報告されている(ネフロロジイ、ダイアリイシイス、トランスプランテーション14巻、576−580頁、1999年)。蛋白分解酵素法については血漿蛋白を2%プロナーゼEで37℃、24時間処理した後、プロナーゼEを遠心型メンブランフィルターで除去した後、酵素免疫法で測定する方法が報告されている(クリニカルケミストリー40巻、1766−1773頁、1994年)。前者は液体クロマトグラフィー法の際の前処理方法と同じで、操作が繁雑で加水分解反応に17時間を要し、その前後の処理にも長時間を要する点、後者は酵素反応に24時間要し、さらに、酵素を除去するために高価なフィルターを用いる点から、両者ともに迅速性と処理量並びに簡便さに問題があり、実用性に難点があることから、酵素免疫法に供するまでの簡便かつ迅速な処理法が要望されていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
簡便かつ迅速な前処理法として本発明は蛋白分解酵素を用いるが、その場合、最も重要な課題は、蛋白に結合している蛋白糖化反応生成物を蛋白分子表面に完全に露出させるための反応条件の設定と、反応終了後の酵素を如何にして除去又は不活化するかである。反応条件の設定は、酵素反応温度、反応時間、酵素量並びに酵素除去法にかわる酵素失活法について検討を行った。これらの検討は迅速性と簡便性を要求される診断薬の開発においては必須の条件である。なお、酵素反応の検定は本特許の発明者らが開発した抗ペントシジン−ウサギポリクローナル抗体並びに抗カルボキシメチルリジン−ウサギポリクローナル抗体による競合酵素免疫法と高速液体クロマトグラフィー法で行った。
【0007】
抗ペントシジン抗体はリジン、アルギニン、リボースを成分とする反応液を2カ月間培養し、イオン交換樹脂クロマトグラフィー、ゲル濾過で分取した。ペントシジン画分を高速液体クロマトグラフィーで分取して精製したペントシジンをキャリア蛋白質と結合させた後、ウサギに投与し8週間後に屠殺して得た抗血清をアフィニティクロマトグラフィーで精製して抗体を取得した。抗カルボキシメチルリジン抗体は、ほう酸緩衝液にシアン化ホウ酸ナトリウム、キャリア蛋白質を溶解し、氷冷下で撹拌しながらグリオキシル酸溶液を添加して作成したカルボキシメチルリジンをウサギに投与し、8週間後に屠殺して得た抗血清から抗体を得た。抗ペントシジン抗体、抗カルボキシメチルリジン抗体ともに競合法による酵素免疫測定系を確立して蛋白分解酵素の反応の検定に用いた。
【0008】
高速液体クロマトグラフィー法による検定は以下に示す方法で行った。トリクロロ酢酸を添加して得た血漿中の蛋白を減圧乾固し、6N塩酸を添加し、窒素置換後、120℃で24時間、加水分解した。さらに減圧乾燥し蒸留水で再溶解して、高速液体クロマトグラフィー用のサンプルとした。高速液体クロマトグラフィーによる分析は移動相はメタノール/7mMリン酸緩衝液=1/99、カラムはODS−80TM,蛍光波長は励起波長335nm、蛍光波長385nmの測定条件で行った。
【0009】
蛋白に結合して存在する蛋白糖化反応生成物を蛋白分子の表面に露出させるための手段として蛋白分解酵素を使用した。蛋白分解酵素としては血漿から抽出して製造されるプラスミン、プラスミノーゲン、トロンビン等と微生物から抽出して製造されるプロナーゼ、プロティナーゼ K等の蛋白分解酵素が知られている。通常、これらの酵素の反応温度は37℃であるが、反応を短時間で行うために塩化カルシウムを含有するトリス塩酸緩衝液に酵素と血漿、尿等の生体試料を添加して高温下(50−60℃)で反応を行った。高温下で反応させることによって通常、一昼夜を要していた分解反応をわずか、1−3時間で蛋白糖化反応生成物を蛋白分子の表面に完全に露出させることが可能になった。
【0010】
蛋白分解酵素自身が抗体に影響を与えるため、反応終了後の蛋白分解酵素を除去又は不活化しなければならない。その方法としては、例えば、限外濾過膜を装着したミクロチューブを用いて高速遠心分離によって酵素を除去する方法があるが、これらの製品は高価であり、かつ、血漿中の蛋白量によっては遠心分離では完全には除去できないことがあり、その場合、酵素免疫法による測定において測定値にバラツキを生ずる原因となる。これに対して、沸騰水中(95℃以上)での加熱により短時間(5−15分間)で容易に酵素を失活させることが可能である。加熱後の反応液と抗体との競合反応を行う際にも、界面活性剤等の蛋白変性剤では、抗体への影響が憂慮されるため4℃で長時間反応を行う必要があるが、本発明では競合反応は37℃、1時間でも目的を達することが可能であり、酵素免疫測定系に用いた際にも、測定値になんら影響を与えない。
【0011】
【発明の実施の形態】
最終濃度が10−50mg/mlの蛋白分解酵素と塩化カルシウムを含有するトリス塩酸緩衝液並びに蒸留水に血漿等の生体試料を加えた反応液を高温、短時間で反応させ、失活させた後、酵素免疫法に供する。本発明において高温、短時間とは通常の反応温度に比べてより高温の50−60℃、好ましくは55℃のウォーターバス中で1−3時間、反応を行う。酵素失活のための処理条件は酵素反応終了後、直ちに例えば、80℃以上、望ましくは95℃以上の沸騰水中に浸して失活させる。その後、エチレンジアミン4酢酸を加えて、過剰のカルシウムをキレート化させて、酵素免疫測定系に供することによって、簡便かつ迅速に蛋白に結合した糖化蛋白を測定することが可能である。また、上記の反応系から生体試料を除く蛋白分解酵素と塩化カルシウムを含有するトリス塩酸緩衝液からなる反応液をあらかじめ凍結乾燥しておき、使用時に蒸留水と生体試料を添加して使用することも可能である。
【0012】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
【実施例1】
小型の蓋付き試験管に20mg/ml又は40mg/mlの濃度のプロティナーゼKあるいはプロナーゼに塩化カルシウムを含むトリス塩酸緩衝液並びに血漿を加えて300μlとし、0.5、2.0時間、55℃でインキュベートし、試験管を10分間、煮沸して反応を停止させた。反応停止液中のペントシジンを競合酵素免疫法で測定した結果を表−1に示した。
Figure 0003615428
両方の酵素とも血中の蛋白を分解し、血中のペントシジンを酵素免疫法で測定することが可能であった。
【0014】
【実施例2】
10,20,30mg/mlの濃度のプロナーゼに塩化カルシウムを含むトリス塩酸緩衝液並びに血漿を加えて300μlとし、0.5,1.0,1.5,3.0,5.0時間、55℃でインキュベートし、10分間、煮沸して反応を停止させた。また、比較のために10mg/ml反応温度37oで同時間、反応させた。反応停止液中のペントシジンを競合酵素免疫法で測定した結果を表−2に示した。
Figure 0003615428
プロナーゼ濃度10−30mg/ml、反応時間1.5−3.0時間、反応温度55oCで分解反応がほぼ100%進行しているが、反応温度37oCでは反応途中で、さらに長時間の反応が必要であることが明らかになった。
【0015】
【実施例3】
蛋白分解酵素の活性が残存した状態では酵素免疫系に影響を与えるため蛋白分解酵素を除去又は失活させることが必須である。そこで加熱による失活の条件検討を行った。プロナーゼ10mg/mlと塩化カルシウムを含むトリス塩酸緩衝液と生理食塩水を添加した反応液の入った試験管を沸騰水(95oC)に0,10,20,30,40,60分間漬けて反応を停止させた。反応停止液を競合酵素免疫系に添加して反応を行い、生理食塩水をブランクとして抗原−抗体反応系に対する影響を検討した。結果を表−3に示した。
Figure 0003615428
プロナーゼの蛋白分解活性は沸騰水中に10−30分間漬けることによって、失活し、抗原−抗体系には影響を与えないことが明らかになった。
【0016】
【実施例4】
各10名の健常者、慢性腎不全患者、末期腎不全患者の血漿中のペントシジンとカルボキシメチルリジンを競合酵素免疫法で測定した。各血漿と塩化カルシウムを含むトリス塩酸緩衝液とプロナーゼ10mg/mlからなる反応液を1.5時間、55℃でインキュベートした後、沸騰水中(15分間)で反応を停止させた。反応停止液を各抗原を固相した96穴のプレートに添加して、それぞれにウサギポリクローナル抗体を加えて酵素免疫反応を行い、マイクロプレートリーダー、波長450nm/630nmで測定した。結果を表−4に示した。
Figure 0003615428
血漿中のペントシジン、カルボキシメチルリジン値はともに腎機能の低下に伴って著しく上昇していた。すなわち、血漿中の蛋白結合型の糖化蛋白は血漿を蛋白分解酵素で短時間(反応停止を含めても105分)前処理することによって、酵素免疫法による測定が可能であることが明らかになった。
【0017】
【発明の効果】
本発明は生体内で蛋白に結合して存在する蛋白糖化反応生成物をプロナーゼ、プロティ ナーゼK等の蛋白分解酵素を用いて、通常(37℃)よりも高温(55℃)で、短時間(30−120分間)処理し、その後、沸騰水中で失活させることによって血漿、尿等に含まれる蛋白糖化反応生成物を酵素免疫法で簡便に測定することを目的としている。本発明の方法で前処理した検体を酵素免疫法で測定した血漿中ペントシジン値は、高速液体クロマトグラフィー法で測定した値と高い相関性を示し、また、両者の方法による測定値は近似していた。また、本発明の方法で測定した血漿中のペントシジン値は例えば、腎機能の低下した患者では著しく上昇しており、血漿クレアチニン値とは高い相関性を示しており、腎症の診断に有用である。

Claims (1)

  1. 蛋白に結合して存在する蛋白糖化反応生成物を測定するに際して、検体とプロナーゼまたはプロティナーゼKから選択される蛋白分解酵素を塩化カルシウムを含有するトリス塩酸緩衝液中で1−3時間、50−60℃で反応させ、沸騰水により10−30分間加熱することにより蛋白分解酵素を失活させた後、酵素免疫法に供することを特徴とする検体の前処理方法。
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