JP3615425B2 - 含窒素有機物分析装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術の分野】
本発明は含窒素有機物分析装置、特にデイーゼルエンジンやガソリンエンジンから大気中に排出されるニトロ多環芳香族炭化水素(ニトロアレーン)の分析に用いられるのに適した含窒素有機物分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、肺癌の増加が注目されていて、その原因物質としてニトロアレーンが注目を集めている。ニトロアレーンは蛍光検出器や質量分析計を用いて検出され、分析されることが知られている。しかし、これらの検出及び分析手段では一般に感度が悪く定量分析が困難である。
【0003】
蛍光検出を用いるニトロアレーンの分析には2通りあり、いずれもニトロアレーンを、蛍光を発するアミノアレーンに還元した後に分析する方法である。
【0004】
2通りのうちの一つは、予め試料中のニトロアレーンに還元剤(例えば、水硫化ナトリウム)を加えてアミノアレーンに還元し、その後に分析を開始する方法(試料プレ還元法)である。しかし、感度が必ずしも十分でないのに加えて、用手法を含むことから、その操作に熟練を要し、したがって再現性に問題がある。
【0005】
他の一つは、分析システム中に還元カラムを設け、試料が通過したときにニトロアレーンをアミノアレーンに還元し分析を行なうものである(還元カラム法)。この場合、通常のカラムでは還元効率が悪く、したがって検出感度の点で問題があり、微量成分(例えばジニトロアレーン)の検出が困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は還元カラムでのニトロアレーンの還元効率を高め、その高感度検出を可能するのに適した含窒素有機物分析装置を提供することのある。
【0007】
【問題を解決するための手段】
本発明は、含窒素有機物を還元する還元カラムと、前記含窒素有機物を分離する分離カラムと、前記還元及び分離された含窒素有機物に、これを化学発光させて検出し得るように化学発光用の反応試薬を加える手段と、前記還元カラムを90〜150℃に設定する手段とを含み、前記含窒素有機物を前記90〜150℃の温度で還元することを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
既述したように、試料プレ還元法は一部用手法を含む。このため、この方法によるデータの再現性は分析者の熟練度に左右される。したがって、本発明では還元カラム法が用いられる。
【0009】
図1は知られている還元カラム法によるニトロアレーンの還元の例を示す。これは、ニトロアレーンの1つである1―ニトロピレンを、還元カラムを用いてアミノアレーンの1つである1―アミノピレンに還元し、それによって蛍光が発生する例である。一般の試料に多く含まれている1―ニトロアレーンの測定はそのようにして発生する蛍光を検出することで可能である。しかし、他のニトロアレーン、たとえばジニトロアレーンについては、試料中における濃度が低いため、更なる高感度検出手段の開発が望まれる。この観点から、本発明では蛍光発光の場合に比べて感度が10倍ほど高い化学発光測定が用いられる。
【0010】
図2は知られている化学発光の例を示す。この化学発光の原理は、Bis(2,4,6−Trichlorophenyl)Oxalate(TCPOと略称)と過酸化水素を反応させて1,2―ジオキシタンジオンという中間性生物を生成し、これと発蛍光物質(fluorophor)を結合させて化学発光を生じさせるもので、この発光原理をニトロアレーンの測定に用いることができる。
【0011】
ところで、ニトロアレーンを、化学発光を用いて高感度及び高精度で検出し測定するためには、還元カラムにおいてニトロアレーンをアミノアレーンに100%近く還元することが重要になる。
ニトロアレーンの還元においては、その再現性と効率がもっとも重要であることから、本発明者は還元カラムについて検討を行った。すなわち、還元を100%付近にするために約6ミクロンの粒子径を有するアルミナに白金とロジュームを化学結合させ、これを200℃で水素還元して作製された還元カラムすなわちアルミナー白金ーロジウム還元カラムと、白金黒(理化学辞典より:きわめて微小な粒子からなる黒色の白金粉末で、白金塩水溶液に還元剤を加えたり、電解することにより得られる。製造方法により粒子の形成、大きさには差がある。きわめて大きい表面積をもつ。)カラムとを用いデータ比較を行った。その結果、還元の再現性及び効率は両者実質的に同一であった。 その外に酸化モリブデンカラムについても検討を行ったが満足のいく還元効率を得ることができなかった。
【0012】
アルミナー白金ーロジウム還元カラムは製造が難しく、特別な製造設備を必要とする。これに対して白金黒は容易かつ安価に入手可能である。したがってこのような点から、白金黒還元カラムの使用が望ましい。
【0013】
図3は白金黒還元カラムを用いての本発明者による実験データを示す。これは、1,6―ジニトロピレン(1,6DNP)、1,8―ジニトロピレン(1,8DNP)、1―ニトロピレン(1NP)及び1,3―ジニトロピレン(1,3DNP)について還元カラムの使用温度すなわち還元温度に対して検出された蛍光強度(μV・s)をプロットしたものである。還元カラムの使用温度は室温あるいは30℃であるのが一般的であるが、本発明者による実験はその使用温度を80℃〜150℃にして行われた。図3のデータは蛍光測定によるものであるが、化学発光測定の場合は、その発光強度は図3に示す値の10倍とみてよい。というのは、既述したように、化学発光測定における感度は蛍光測定における感度の10倍だからである。
【0014】
図3から、1,3―ジニトロピレンの場合は130℃が還元効率の最大値を与え、1,6―ジニトロピレン、1,8―ジニトロピレン及び1―ニトロピレンの場合はいずれも140℃が還元効率の最大値を与えることがわかる。また、現実問題として、化学発光の測定においては、粉塵数ミリグラム中に数ピコグラム以上含まれるニトロアレーンを検出し測定し得ることが望ましい。このような検出限界の面からは、図3から推して、還元温度がほぼ90℃以上であることが望ましい。しかし、還元温度が高すぎると、気泡が発生し、これが測定精度に及ぼす影響を無視することができなくなるため、この観点からは、還元温度はほぼ150℃以下であることが望ましい。
図4は本発明による含窒素有機物分析装置の一実施例を示す。この実施例を用いて含窒素有機物である多環芳香族及びニトロアレーンを測定ないしは分析する例を説明する。
【0015】
バルブ8を実線で示す流路が形成されるように切り替えた状態において、溶離液1はポンプ5によりサンプラ7及びバルブ8を介して分離カラム9へと送られる。溶離液1は水とメタノールを含み、その流速は0.5〜1.0ml/min程度である。溶離液1中に含まれる溶存酸素はデガッサ4により除去される。試料はサンプラ7からバルブ8を介して分離カラム9に添加され、試料中の多環芳香族とニトロアレーンは分離される。すなわち、分離カラム9にはシリカゲルODS充填剤が充填されていて、ニトロアレーンは分離カラム9に残留し、多環芳香族はバルブ8を介して分離カラム10へと送られる。分離カラム10にはシリカゲルODS充填剤が充填され、多環芳香族は分離カラム10により分離される。その分離された成分は蛍光用の検出器11により蛍光検出され、さらに紫外吸収測定用の検出器12により検出されて測定され、それらの検出測定結果はデータ処理装置21に入力される。
【0016】
一方、バルブ8を点線で示す流路が形成されるように切り替えた状態において、溶離液2はポンプ2によりバルブ8を介して分離カラム9へと送られる。溶離液2は水とメタノールを含む。これによって、分離カラム9に残留しているニトロアレーンは反応槽16へと送られる。反応槽16は白金黒還元カラム17を含み、更にその使用温度すなわち還元温度を少なくとも90℃〜150℃の範囲内で任意に設定し得るように加熱手段を含んでいる。還元カラム17では、ニトロアレーンは還元反応により還元される。ニトロアレーンが図1に示す1―ニトロピレンの場合は1ーアミノピレンに還元される。還元された物質はシリカゲルODS充填剤が充填された分離カラム18に送られ、分離される。
【0017】
化学発光用の反応試薬すなわち反応液13及び14はポンプ15により分離カラム18の下端部に送られる。反応液13は図2のTCPOを含み、反応液14は図2の過酸化水素を含む。これらの反応液に含まれる溶存酸素はデガッサ4により除去される。これらの反応液及び分離カラム18からの分離成分は反応コイル19を通る間に混合され反応して、化学発光する。このようにして生じた化学発光は化学発光用の検出器20により検出され、その結果はデータ処理装置21に入力される。
【0018】
反応液13及び14は予め混合し、これを化学発光測定時に装置にセットして使用することもできるが、そのようにすると反応液の劣化が早まり、好ましくない。これに対して、図4においては、反応液13及び14はそれぞれ別々に用意し、化学発光測定を行うタイミングに合わせて混合するようにしている。したがって、反応液13及び14の混合液を予め用意しておき、これを化学発光測定時に装置にセットする場合のような劣化の問題は解決される。
【0019】
図5は白金黒還元カラムの長さを変えた場合の性能比較を示す。これらのデータは図4の実施例においてニトロアレーンの化学発光を、還元カラムの長さを変えて検出したときのもので、上段のデータは検出した化学発光強度ピークの面積値を、中段はピーク幅性能を示す理論段数を、下段はピーク高さをそれぞれ示す。(1)は内径4mm、長さ5mmの、(2)は内径mm、長さ10mmの、(3)は内径4mm、長さ40mmの還元カラムを用いた場合のデータである。これのデータからは、内径4mm、長さ10mmの還元カラムがもっとも性能のよい還元カラムであるということができる。
【0020】
図6は、図4の実施例において、還元カラムとして内径4mm、長さ10mmの白金黒還元カラムを用い、その使用温度を140℃に設定して、ニトロアレーンの化学発光強度を検出し測定ないしは分析をした例を示す。各成分の濃度は5ピコグラムである。なお、横軸は時間(分)を表す。
【0021】
図7は本発明による含窒素有機物分析装置のもう一つの実施例を示す。図4におけると同様に、この実施例を用いて多環芳香族及びニトロアレーンを測定ないしは分析する例を説明する。
【0022】
バルブ8を実線で示す流路が形成されるように切り替えた状態において、溶離液1はポンプ5によりサンプラ7及びバルブ8を介して分離カラム9へと送られる。溶離液1は水とメタノールを含み、その流速は0.5〜1.0ml/min程度である。溶離液1中に含まれる溶存酸素はデガッサ4により除去される。試料はサンプラ7からバルブ8を介して分離カラム9に添加され、試料中の多環芳香族とニトロアレーンは分離される。すなわち、分離カラム9にはシリカゲルODS充填剤が充填されていて、ニトロアレーンは分離カラム9に残留し、多環芳香族はバルブ8を介して分離カラム10へと送られる。分離カラム10にはシリカゲルODS充填剤が充填され、多環芳香族は分離カラム10により分離される。その分離された成分は蛍光用の検出器11により蛍光検出され、さらに紫外吸収測定用の検出器12により検出されて測定され、それらの検出測定結果はデータ処理装置21に入力される。
【0023】
一方、バルブ8を点線で示す流路が形成されるように切り替えた状態において、溶離液2はポンプ2によりバルブ8を介して分離カラム9へと送られる。溶離液2は水とメタノールを含む。これによって、分離カラム9に残留しているニトロアレーンは分離カラム18経と送られ、分離される。
【0024】
分離カラム18からの分離成分は反応槽16へと送られる。反応槽16は白金黒還元カラム17を含み、その使用温度すなわち還元温度を少なくとも90℃〜150℃の範囲内で任意に設定し得るようになっている。実施例では、還元効率が最大を与える温度に設定される。還元カラム17では、ニトロアレーンは還元反応により還元される。ニトロアレーンが図1に示す1―ニトロピレンの場合は1ーアミノピレンに還元される。
【0025】
化学発光用の反応試薬すなわち反応液13及び14はポンプ15により反応槽17の下端部に送られる。反応液13は図2のTCPOを含み、反応液14は図2の過酸化水素を含む。これらの反応液に含まれる溶存酸素はデガッサ4により除去される。これらの反応液及び還元カラム16によって還元された成分は反応コイル19を通る間に混合され反応して、化学発光する。このようにして生じた化学発光は化学発光用の検出器20により検出され、その結果はデータ処理装置21に入力される。
【0026】
図7の実施例では、分離カラム18と還元カラム17との配置順序が図4の実施例と逆である。一般に、分離カラム18を含めてその前段の系はたとえば40〜80Kg/cm程度の高圧系となっている。したがって、図4の実施例のような配置順序の場合は、還元カラムが高圧系中に配置されることになり、このため、還元カラム内に隙間(デッドスペース)が生じるので、分離カラム9から送られてくるニトロアレーンがそのデッドスペース内で拡散し、分離性能が低下する。図7の実施例では、この問題が解決される。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、還元カラムでのニトロアレーンの還元効率を高め、その高感度検出を可能するのに適した含窒素有機物分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】知られている還元カラム法によるニトロアレーンの還元の反応式を示す図。
【図2】知られている化学発光の原理を説明するための反応式を示す図。
【図3】白金黒還元カラムを用いての本発明者による蛍光強度の実験データを示す図。
【図4】本発明による一実施例を示す含窒素有機物分析装置の系統図。
【図5】本発明における還元カラムの長さを変えた場合の性能比較データを示す図。
【図6】本発明の実施例によるニトロアレーンの分析結果を示す図。
【図7】本発明によるもう一実施例を示す含窒素有機物分析装置の系統図。
【符号の説明】
1、2:溶離液、4:デガッサ、5、6、15:ポンプ、7:サンプラ、8:バルブ、9、10、18:分離カラム、16:反応槽、17:還元カラム、11、12、20:検出器、21:データ処理装置。

Claims (9)

  1. 含窒素有機物を還元する還元カラムと、前記含窒素有機物を分離する分離カラムと、前記還元及び分離された含窒素有機物に、これを化学発光させて検出し得るように化学発光用の反応試薬を加える手段と、前記還元カラムを90〜150℃に設定する手段とを含み、前記含窒素有機物を前記90〜150℃の温度で還元することを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  2. 請求項1において、前記還元カラムは前記分離カラムの後段に配置されていることを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  3. 請求項1又は2において、前記還元カラムは白金黒還元カラムからなることを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかにおいて、前記化学発光用の反応試薬は複数種類からなり、これらの反応試薬は前記化学発光検出のタイミングに合わせて混合するようにしたことを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  5. 請求項4において、前記反応試薬の一つはBis(2,4,6−Trichlorophenyl)Oxalate、別の一つは過酸化水素であることを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  6. ニトロアレーンとそれ以外の物質とを分離する第1の分離カラム、前記分離されたニトロアレーンを検出する系及び前記ニトロアレーン以外の物質を検出する系を含み、前記ニトロアレーンを検出する系は前記ニトロアレーンを還元する還元カラムと、前記ニトロアレーンを分離する第2の分離カラムと、前記還元及び分離された物質に、これを化学発光させて検出し得るように化学発光用の反応試薬を加える手段と、前記還元カラムを90〜150℃に設定する手段とを含み、前記ニトロアレーンを前記90〜150℃の温度で還元することを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  7. 請求項6において、前記還元カラムは前記第2の分離カラムの後段に配置されていることを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  8. 請求項6又は7において、前記化学発光用の反応試薬は複数種類からなり、これらの反応試薬は前記化学発光検出のタイミングに合わせて混合するようにしたことを特徴とする含窒素有機物分析装置。
  9. 請求項6〜8のいずれかにおいて、前記還元カラムは白金黒還元カラムからなることを特徴とする含窒素有機物分析装置。
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