JP3612434B2 - 音響トモグラフィの情報収集装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、測定対象水域の流速あるいは温度の分布作成のための音波伝播時間情報を収集する音響トモグラフィの情報収集装置に係り、特に情報収集の時間短縮を図る技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、海洋音響トモグラフィ(OAT:Ocean Acoustic Tomography)は、音波の送波器および受波器を備えた送受信局(単に局ともいう)を測定対象海域の周囲の海中に散在させ、様々な経路(以下音線という)での音波の送受信を行って、多数の音波伝播時間の情報を収集し、これらを格子状に組合わせて生成されたデータを、その海域の流速や温度の分布とするものである。
【0003】
計測された音波伝播時間のデータを双方向音波伝播法に適用すれば、海域の2点間の音線に沿って平均化された音速Cm(m/s)および流速Um(m/s)は、次の式(1)および式(2)によって求めることができる。
【0004】
【数1】
ここで、tABは、測定対象海域のA点からB点への音波伝播時間、tBAは、B点からA点への音波伝播時間、Lは、AB点間の距離とする。
【0005】
また、音線に沿って平均化された水温T(℃)は、経験的に次の簡略式によって求めることができる。
【0006】
T=(1449.2−c)/4.6 …… (3)
従来の音響トモグラフィの情報収集装置にあっては、測定海域に、送波器および受波器を備えた複数の送受信局を散在させて、局間で音波を送受信させることで、音波の伝播時間情報の収集が行われる。初めに、散在させた局のうちの第1の局が音波を送信し、他の全局での受信が終了した後に、第2の局が音波を送信する。このように順次に音波送受信を行なうことで音波伝播時間の情報収集が行われた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の音響トモグラフィの情報収集装置は、エルニーニョ現象の確認のため等の、主に10〜1000kmスケールの外洋海域における水温についての音響トモグラフィ生成のために利用されてきた。そして、水温は頻繁に変化することが少ないため、音波伝播時間情報のトータルでの収集時間についての制約を受けることは少なかった。
【0008】
しかしながら、瀬戸内海のように、船舶の頻繁な通行と活発な漁業活動が行われている沿岸海域では、潮流が時事刻々と変化するので、流速を正確に捉えるために、トータルの情報収集時間を短縮したいという要望が挙げられていた。
【0009】
そこで、この発明は上記従来の要望等に鑑みなされたもので、その目的としては、測定対象水域の流速あるいは温度の分布を求めるための音波伝播時間情報の収集の際の、収集時間の短縮化を図った音響トモグラフィの情報収集装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、測定対象水域の周縁近傍に送波局および受波局を散在させて当該水域を横断する音波を送受信させることにより、当該水域の流速あるいは温度の分布作成のための音波伝播時間情報を収集する音響トモグラフィの情報収集装置において、
前記散在させた送波局の一局に設けられ、当該送波局を識別するための識別情報を含む識別音波を所定の送信時刻に送信する送信手段と、
前記散在させた受波局の一局に設けられ、当該受波局で受信された前記識別音波に含まれる識別情報と、前記散在させた各送波局を識別するための予め記憶された識別情報とに基づいて、当該識別音波の送波局を特定すると共に受信時刻を測定する受信手段と
を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成とすることにより、送波局の一局に設けられた送信手段は、当該送波局を識別するための識別情報を含む識別音波を所定の送信時刻に送信し、一方受波局では、この識別音波を受信すると、当該受波局に設けられた受信手段は、識別音波に含まれる識別情報と、予め記憶された各送波局を識別するための識別情報とに基づいて、当該識別音波の送波局を特定すると共に受信時刻を測定する。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項1記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記識別音波は、GPS衛星からの時刻信号に基づいて設定された時間における所定の送信時刻に送信され、前記受信時刻は当該設定された時間において計測されることを特徴とする。
【0013】
この発明にあっては、送波局および送波局にはGPSアンテナが設けられ、送波局および送波局にて、GPS衛星からの時刻信号に同期した基準クロックが生成され、送波局からは、自局の基準クロックに基づいて予め計画された所定の送信時刻に識別音波が送信され、受波局では、自局の基準クロックに基づいて受信時刻が計測される。このため、音波伝播時間の測定精度が向上する。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項2記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記送信手段あるいは受信手段には、GPS衛星からの時刻信号に代替可能な信号を発生する代替信号発生手段が設けられたことを特徴とする。
【0015】
この発明においては、送信手段あるいは受信手段には、例えば水晶クロック等を設けて、GPS衛星からの時刻信号が受信不可能であるときは、この水晶クロックのクロック信号を用いての時刻管理が可能となる。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記送信手段は、自局の識別情報を2値化して前記識別音波に含ませ、前記受信手段は、当該識別音波に含まれる2値化された識別情報と、前記各送波局を識別するための識別情報を2値化した情報とを相関処理することを特徴とする。
【0017】
上記構成とすることにより、送波局にて、識別情報は2値化されて識別音波に含ませられ、受波局では識別音波に含まれる2値化された識別情報と、各送波局を識別するための識別情報を2値化した情報とが相関処理される。このため、受波局において、受信時刻の計測と送波局の特定を同時に行うことができる。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記各送信局を識別するための識別情報は、M系列法により生成された疑似乱数から構成されたことを特徴とする。
【0019】
上記構成とすることにより、相関処理の過程での、音波雑音に対する相関係数のS/N比が格段に向上するため、受信時刻の計測および送波局の特定の精度を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の請求項6に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項5記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記各送信局を識別するための識別情報は、当該各識別情報のうちの任意の二情報の積和が小さくなるような疑似乱数であることを特徴とする。
【0021】
上記構成として、他の送波局の識別情報との相違性を強調することにより、相関処理の過程での、送波局の特定の精度を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の請求項7に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記送信手段は、前記識別音波の波長を可変自在としたことを特徴とする。
【0023】
上記構成とすることにより、様々な大きさの測定対象水域においても、測定対象水域の大きさに応じた最適な識別音波の波長を設定することが可能となるため、識別音波が受波局に到達する前に減衰してしまったり、逆に、識別音波の送信が終了する前に識別音波の先頭が受波局に到達してしまうという不都合が回避できる。
【0024】
また、本発明の請求項8に係る音響トモグラフィの情報収集装置は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置であって、前記受波局には、前記識別音波を電気信号に変換する複数の受波器が鉛直方向に配置され、前記受信手段は、当該各受波器からの複数の電気信号に基づいて、当該識別音波の当該受波局への入射角度を演算することを特徴とする。
【0025】
上記構成とすることにより、識別音波が送波局から直接到達したものか、或は海底や海面等に反射して到達したものかを、入射角度θから判定して選別することができる。また、測定対象海域の鉛直断面に複数の音線を設定することができるため、流速あるいは温度の3次元分布を求めることも可能となる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る音響トモグラフィの情報収集装置の実施の形態を、図1ないし図6を参照して説明する。
図1は、本発明に係る音響トモグラフィの情報収集装置の第1の実施の形態の構成を示す図である。本図に示すように、この実施の形態では、周囲を陸地に囲まれた測定海域に音響トモグラフィシステム100(以下システム100という)が配備される。
【0027】
システム100は、測定海域の周縁近傍に配置された6局の送受信局、即ち、局A,局B,…,局Fから構成される。
局Aにおいては、送波器および受波器を備えた音波送受信部A3が、水面に浮ぶフロート(ブイ)A2および海底の重りA4によって海中に係留されている。フロートA2には、GPSアンテナA1が取付けられ、防水加工されたフロート内部には、バッテリにより電力を供給される送受信制御部A10が収納されている。
【0028】
送受信制御部A10において、時刻管理部1は、GPSアンテナA1によって受信された、GPS衛星からの時刻信号に基づいて、基準クロック信号を生成して制御部2に送出する。一方、制御部2は、自局を識別するための識別コードをハードディスク装置2bに記憶している。出力回路部3は、識別コードを含む駆動信号Sdを、送波器A31に対して出力する回路である。
【0029】
一方、局Dを構成する送受信制御部D10は、送受信制御部A10と同様に時刻管理部1、制御部2を有し、さらに受信した音波の信号処理を行う受信直交復調回路部5と、送信局の特定および音波の受信時刻の計測を行う相関処理部4とを備えている。また、ハードディスク装置2bには、システム100の全局の識別コードが記憶されている。
【0030】
次に、システム100における音波送受信の動作を説明する。
局Aは、時刻管理部1で管理された時間における、予め計画された所定の送信時刻に音波送信を行う。即ち、制御部2では、自局の識別コードがハードディスク装置2bから読出され、出力回路部3では、この識別コードを含んだ駆動信号Sdが生成されて、駆動信号Sdは送波器A31へ送出され、送波器A31から海中に向けて音波aが送信される。
【0031】
局Dでは、音波送受信部D3の受波器D32にて音波aが受信され、その音波受信信号Srは、受信直交復調回路部5にてA/D変換されてディジタルデータとなり、相関処理部4では、このデータに含まれた識別コードと、ハードディスク装置2bに記憶された局D以外の識別コードとの相関処理を行うことで、送信局(この場合、局A)を特定すると共に、受信時刻を測定する。そして、制御部2にて、送信時刻と受信時刻との時間差を演算することで音波伝播時間が算出される。
【0032】
尚、図1においては、上記の動作説明に必要なものに限定して図示したが、送受信制御部A10と送受信制御部D10とは同一構成となっており、共に、時刻管理部1、制御部2、出力回路部3、相関処理部4および受信直交復調回路部5を備えている。また、局B,局C,局Eおよび局Fにおいても、局A、局Dと同一の構成がとられ、音波の送受信が可能となっている。
【0033】
図2は、局Aの送受信制御部A10および音波送受信部A3を示す図である。時刻管理部1は、GPS受信機1a、水晶クロック1bおよび基準時刻発生器1cから構成される。
GPS受信機1aは、GPSアンテナA1で受信されたGPS衛星からの時刻信号を受信して、基準時刻発生器1cおよび水晶クロック1bに同期信号を出力している。基準時刻発生器1cは、この同期信号から、上記した基準クロック信号を生成する。即ち、基準時刻発生器1cは、パルス立上がりが毎正秒を示す正確な周波数1Hzの信号(以下「1Hz信号」という)および周波数が1kHzの信号(以下「1kHz信号」という)を生成して送出するものである。水晶クロック1bは、年間誤差1.5秒の周波数安定度を有する温度自動補正機能付の水晶クロックであり、通常はGPS受信機1aからの同期信号によってGPS受信機1aの内部クロックと常に同期をとり、GPS衛星からの時刻信号が受信できないときは、自身のクロックを同期信号の代りに基準時刻発生器1cに与えるように構成されている。即ち、水晶クロック1bは、GPS受信機1aのバックアップとして機能する。
【0034】
制御部2は、CPU2aおよびハードディスク装置2bとから構成されている。CPU2aは、基準時刻発生器1cから出力された1Hz信号で常に補正される内部クロックで動作する。CPU2aは、バス信号線Sbを介して、後述する相関処理部4とのデータ通信を行い、受信したデータをハードディスク装置2bに保存する。このハードディスク装置2bには、音波の送信局を特定するために、局Aから局Fまでの識別コードが予め記憶されている。この実施の形態では、疑似乱数発生法の一つであるM系列法により生成された乱数のうちの互いに異なる相関の最も小さい乱数ペアであって、その積で作られる6個の異なって符号化されたGold系列が選択されている。
【0035】
制御部2は、後述する出力回路部3に対し、送信スタート信号S1を出力するとともに、相関処理部4および受信直交復調回路部5に対し、受信スタート信号S2を出力している。前者は、音波の送信のタイミング信号(トリガ)とされ、後者は相関処理を開始するためのタイミング信号として用いられる。ここでは、送信スタート信号S1および受信スタート信号S2は共に、所定の繰返し周期(この実施の形態では2分に設定される)をもつパルス信号であるが、受信スタート信号S2は、送信スタート信号S1が出力されてから、所定の時間間隔(遅延時間)をあけて出力される。また、プログラム設定により、繰返し周期は可変とすることも可能である。
【0036】
相関処理部4は、DSP(Digital Signal Processor)4aおよびRAM(Randam Access Memory)4bから構成され、後述する受信直交復調回路部5および制御部2とのデータ通信をデータバスSbを介して行い、受信直交復調回路部5から受信したディジタルデータに含まれる識別コードと、予めハードディスク装置2bに記憶された各局の識別コードとの相関処理(相関検波)を高速度で行い、その処理結果出力(以下、相関係数という)がピークを示す時刻を受信時刻として測定する。
【0037】
周波数可変型タイミング回路部6は、PLL(Phase Locked Loop)回路6a、1/10分周器6bおよび1/2分周器6cから構成される。PLL回路6aは、1kHz信号の周波数を110倍に変換する回路である。尚、この倍数(乗数)は、測定海域の大きさにあわせて音波の波長を可変させるため、4倍から400倍、即ち周波数換算で0.2kHzから20kHzまでの間で設定可能となっている。1/10分周器6bは、PLL回路6aからの110kHzの信号を11kHzに分周するものであり、分周された信号(以下「11kHz信号」という)は、駆動信号Sdの搬送波生成のため、後述する信号発生器3aに入力され、また、サンプリングのタイミング信号としてA/D変換器5gに入力される。1/2分周器6cは、11kHz信号をさらに、5.5kHzに分周した2信号(以下、総称して「5.5kHz信号」という)を生成し、この2信号を、さらに互いに90度の位相差を持たせて出力するものあり、この2信号は、直交復調(位相復調)のタイミング信号として、後述する直交復調回路5c,5dに入力される。
【0038】
受信直交復調回路部5は、アンプ5a,帯域フィルタ5b、直交復調回路5c,5d、高周波除去フィルタ5e,5fおよびA/D変換器5gから構成される。
アンプ5aは、受波器A32から出力される微弱な音波受信信号Srを増幅するものであり、帯域フィルタ5bは、増幅された信号の特定帯域を通過させる回路である。
【0039】
直交復調回路5c,5dは、帯域フィルタ5bの出力信号を、1/2分周器6cから出力された5.5kHz信号により、直交復調する回路である。高周波除去フィルタ5e,5fは、直交復調された各信号の高周波成分を除去する回路である。A/D変換器5gは、高周波除去フィルタ5e,5fからのアナログ信号を11kHz信号に同期したサンプリングによりA/D変換して、ディジタルデータとして相関処理部4に送信する回路である。
【0040】
出力回路部3は、信号発生器3aおよびアンプ3bから構成されている。信号発生器3aは、11kHz信号に同期する搬送波を内部的に生成しており、制御部2からの送信スタート信号S1に応答して、自局の識別コードを制御部2から受信するとともに、この識別コードを搬送波に位相変調して駆動信号Sdとして出力するものである。
【0041】
アンプ3bは、信号発生器3aから入力された駆動信号Sdを増幅するパワーアンプであり、増幅された駆動信号Sdは音波送受信部A3の送波器A31に送出される。
【0042】
音波送受信部A3は、送波器A31および受波器A32から構成される。具体的には、送波器A31にトランスミッタが用いられ、受波器A32には、ハイドロフォンが用いられる。
【0043】
次に、局Aにおける音波の送信動作を説明する。
図3は、送信局Aの各部の波形図であり、同図(a)は、1Hz信号を、同図(b)は、送信スタート信号S1を、同図(c)は、駆動信号Sdをそれぞれ示すものである。
【0044】
図3(a)に示す1Hz信号のパルス立上がりに応答して、CPU2aは、図3(b)に示すような2分の繰返し周期を有する送信スタート信号S1を出力する。
信号発生器3aは、送信スタート信号S1のパルス立上がりに応答して、図3(c)に示すように、周波数5.5kHzの搬送波に自局の識別コードを位相変調して含ませた駆動信号Sdを、搬送波の周波数と識別コードの桁数との積で決定される持続時間(この図では2秒間)だけ出力する。本図に示すように、駆動信号Sdには、180度の位相変調の結果として2値化された識別コードが含まれている。出力された駆動信号Sdはアンプ3bで増幅され、音波送受信部A3の送波器A31へと出力され、送波器A31から音波が2秒間海中に発信される。
【0045】
次に、局Dにおける、送信局の特定および受信時刻の計測動作を説明する。尚、便宜上、局Dの構成を示すものとして、図2を参照する。
音波が受波器A32で受信されると、この受波器A32から音波受信信号Srが出力される。音波受信信号Srはアンプ5aにより増幅され、帯域フィルタ5bにより所定の周波数帯域成分が除去される。さらに、直交復調回路5c,5dにより直交復調され、高周波除去フィルタ5e,5fにより高周波成分を除去され、A/D変換器5gによりディジタルデータ(受信データ)に変換される。そして、受信直交復調回路部5は、受信データを相関処理部4へ送信する。
【0046】
相関処理部4では、受信データを受信直交復調回路部5から受信すると、他の5局、即ち局A,局B,局C,局Eおよび局Fの識別コードを、制御部2から取得して、受信データと他局の識別コードとを相関検波(処理)することにより、音波の発信局の特定を試みる。相関検波において検出された相関係数(受信データと識別コードの相関が大きい程大きい値を示す)がピークを示した時刻を、その識別コードで特定される局からの音波の受信時刻として計測する。そして、相関処理部4は、計測された受信時刻を制御部2に送信し、制御部2では、送信時刻と受信時刻との時間差を音波伝播時間として演算して、ハードディスク装置2bに保存する。送信スタート信号S1の繰返し周期は2分であるので、図4に示すように、2分毎に送信された各音波についての音波伝播時間が次々と計測される。本図は、音波伝播時間、即ち相関係数のピークが、12.20秒(12200mS)から12.25秒(12250mS)の間に集中して計測された結果を示している。
【0047】
以上の説明から明らかなように、第1の実施の形態では、送信局では、所定の時刻に自局の識別コードを含む音波を送信し、受信局では、音波から識別コードを抽出して予め記憶された他局の識別コードとの相関検波を行うことにより、受信時刻の計測だけでなく音波の送信局の特定までもが可能となっている。このため、全ての局での音波受信の終了を待ってから次回の音波送信を行う必要がなく、トータルの音波伝播時間の情報収集時間を短縮することができる。
【0048】
また、各送受信局は、互いに距離をおいて配置されていても、送信時刻および受信時刻は、GPS衛星からの時刻信号に基づいて設定された時間におけるものであるため、音波伝播時間の測定精度が向上するという効果が得られる。
【0049】
さらに、バックアップとしての水晶クロックを備えているため、GPS衛星からの時刻信号が受信できない場合であっても音波伝播時間を計測することができる。
【0050】
また、ディジタル化された識別コードによる相関処理を行うことで、受信時刻の計測と送波局の特定を同時に行うことができる。
【0051】
また、識別コードはM系列法により生成された疑似乱数であるため、海洋の音波雑音に対するS/N比を格段に(M系列法を利用しない場合の約300〜400倍)向上させることができ、しかも、識別コードには相関が最小となる6個の異なって符号化されたGold系列が選択されているため、他の送信局の識別コードとの相違性が強調され、送信局の特定の精度向上の効果も得られている。
【0052】
また、音波の搬送波の周波数を可変可能としたことにより、測定対象水域の大きさに応じた最適な識別音波の波長を設定することが可能となるため、識別音波が受波局に到達する前に減衰してしまったり、逆に、識別音波の送信が終了する前に識別音波の先頭が受波局に到達してしまうという不都合が回避できる。
【0053】
次に、図5を参照して、本発明に係る音響トモグラフィの情報収集装置の第2の実施の形態を説明する。
この実施の形態の特徴としては、送受信局にて、複数の受波器を鉛直方向に並べて配置して受波器アレイを構成し、音波の入射角度の計測を可能としたことにある。即ち、本図に示すシステム200において、単一の受波器の代りに、鉛直方向に均等の間隔dをとってn個の受波器A321,…,A32nを配置して受波器アレイA30を構成し、間隔dのデータをハードディスク装置2bに記憶させている。また、各受波器に対応して、受信直交復調回路部50には、アンプ、帯域フィルタ、一対の直交復調回路、一対の高周波除去フィルタおよびA/D変換器をn組構成して、複数の音波受信信号の並行処理を可能としている。また、相関処理部40にも、各受波器に対応して、DSP、RAMをn組構成し、相関処理を並列して実行することが可能となっている。そして、これら回路は、受波器の数に応じて拡張可能となっている。尚、各部の機能は、第1の実施の形態と同様であり、時刻管理部1、制御部2、出力回路部3および周波数可変型タイミング回路部6については、第1の実施の形態と同様の構成がとられるため、これらの構成要素の図示および説明は省略する。
【0054】
この実施の形態では、ビームフォーミング法を利用して、音波の入射角が測定されるが、その作用の説明の前に、先ず、ビームフォーミング法の概略を説明する。
ビームフォーミング法とは、受波器アレイで得た受信信号を遅延時間を考慮して加算処理(データ処理)することにより、音波の入射角度を検出する手法をいう。受波器が間隔dで直線的に配列されているとき、水平方向に対して入射角度θをもって受波器アレイに入射してくる音波信号に対してのビームフォーミング法出力Bは、次式で与えられる。
【0055】
【数2】
ここで、xiはi番目の受波器の受信信号振幅、wiはi番目の受信信号に対する重み、τiは、i番目の受波器に対する遅延時間、Nは受波器の個数である。
また、τiとθとは、次の式(5)で関係づけられる。
【0056】
【数3】
ここで、Cは音速である。受波器を等間隔に並べた場合には、di=dとなり、さらに入射波を平面波とする場合には、τi=iτおよびwi=1と考えてよい。この場合、式(4)および式(5)は、それぞれ、次の式(6)および式(7)のように書換えられる。
【0057】
【数4】
例えば、B(t,τ)がt=t0,θ=τ0のときにピーク値を示している場合には、音波伝播時間はt0であって、次の式(8)で与えられる入射角度θをもって受波器アレイに入射してきたこととなる。
【0058】
【数5】
式(8)を θで微分すれば角度誤差Δθに関する次の式(9)が得られる。
【数6】
即ち、角度誤差Δθは、間隔dが大きい程、また入射角度θが小さいほど小さくなる。
【0059】
次に、第2の実施の形態の作用を説明する。
図6は、経過時間tを横軸にとり、相関処理によって検出された相関係数Xを縦軸にとったグラフである。
本図に示すように、音波が入射角度θをもって受波器アレイに入射すると、音波が距離rだけ進む時間τの時間間隔もって各受波器A321,…A32nに音波が到達する。その後は、受信直交復調回路部50にて、信号処理が行われ、相関処理部40の各DSP4a1,…,4anにて相関処理が行われ、受信時刻が計測される。各受信時刻はディジタルデータとして、制御部2に送信され、CPU2aでは、受信時刻の時間差τおよび、予めハードディスク装置2bに記憶された受波器間隔dを用いて、式(8)に示す演算を行い、入射角度θを求める。
【0060】
従って、第2の実施の形態では、複数の受波器で受波器アレイを構成して、ビームフォーミング法を適用したことにより、音波の入射角度を求めることが可能である。従って、音波が送信局から直接到達したものか、或は海底や海面等に反射して到達したものかを、入射角度θから判定して選別することができる。この場合、入射角度θが所定の角度以上であるときは、その音波については、相関検波を実施しないようにも構成することができる。尚、受波器アレイを、少なくとも2個の受波器から構成すれば、入射角度θの測定が可能である。
【0061】
また、測定対象海域の鉛直断面に多重の音線を設定することができるため、測定対象海域の水温あるいは流速の3次元分布を求めることも可能となる。
尚、上記した第1および第2の実施の形態では、音波伝播時間の情報収集の対象を海域として説明したが、湖などの水域において計測することも勿論可能である。
また、第1および第2の実施の形態では、送受信局において、音波の送信と受信を共に可能とした構成をとっているが、送信局(送波局)と受信局(受波局)とを別々に設けてもよい。この場合、送信局には、受信直交復調回路部5および相関処理部4は不要であり、受信局には出力回路部3は不要である。
【0062】
【発明の効果】
本発明の音響トモグラフィの情報収集装置によれば、識別情報を含む識別音波を所定の送信時刻に送信する送信手段を送波局に設け、識別音波から当該識別音波の送波局を特定すると共に受信時刻を測定する受信手段を受波局に設けたことにより、音波伝播時間の測定のみならず送信局の特定までもが可能となるため、全受信局での音波受信の終了を待ってから次回の音波送信を行う必要がなく、トータルの音波伝播時間の情報収集時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る音響トモグラフィの情報収集装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】図1に示した送受信局Aの送受信制御部A10および音波送受信部A3を示す図である。
【図3】図1に示した実施の形態での各部の波形図である。
【図4】図1に示した実施の形態において相関検波により得られた相関係数のグラフである。
【図5】本発明に係る音響トモグラフィの情報収集装置の第2の実施の形態を示す図である。
【図6】図5に示した実施の形態における入射角度の計測方法を説明する図である。
【符号の説明】
100,200…音響トモグラフィシステム
A,B,C,D,E,F…送受信局
A1…GPSアンテナ
A3,A30…音波送受信部
A31…送波器
A32…受波器
A10,D10…送受信制御部
1…時刻管理部
1a…GPS受信機
1b…水晶クロック
1c…基準時刻発生器
2…制御部
2a…CPU
2b…ハードディスク装置
3…出力回路部
3a…信号発生器
3b…アンプ
4,40…相関処理部
4a…DSP
4b…RAM
5,50…受信直交復調回路部
5a…アンプ
5b…帯域フィルタ
5c,5d…直交復調回路
5e,5f…高周波除去フィルタ
5g…A/D変換器
6…周波数可変型タイミング回路部
6a…PLL回路
6b…1/10分周器
6c…1/2分周器
Claims (8)
- 測定対象水域の周縁近傍に送波局および受波局を散在させて当該水域を横断する音波を送受信させることにより、当該水域の流速あるいは温度の分布作成のための音波伝播時間情報を収集する音響トモグラフィの情報収集装置において、
前記散在させた送波局の一局に設けられ、当該送波局を識別するための識別情報を含む識別音波を所定の送信時刻に送信する送信手段と、
前記散在させた受波局の一局に設けられ、当該受波局で受信された前記識別音波に含まれる識別情報と、前記散在させた各送波局を識別するための予め記憶された識別情報とに基づいて、当該識別音波の送波局を特定すると共に受信時刻を測定する受信手段と
を有することを特徴とする音響トモグラフィの情報収集装置。 - 前記識別音波は、GPS衛星からの時刻信号に基づいて設定された時間における所定の送信時刻に送信され、前記受信時刻は当該設定された時間において計測されることを特徴とする請求項1記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記送信手段あるいは受信手段には、GPS衛星からの時刻信号に代替可能な信号を発生する代替信号発生手段が設けられたことを特徴とする請求項2記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記送信手段は、自局の識別情報を2値化して前記識別音波に含ませ、前記受信手段は、当該識別音波に含まれる2値化された識別情報と、前記各送波局を識別するための識別情報を2値化した情報とを相関処理することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記各送信局を識別するための識別情報は、M系列法により生成された疑似乱数から構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記各送信局を識別するための識別情報は、当該各識別情報のうちの任意の二情報の積和が小さくなるような疑似乱数であることを特徴とする請求項5記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記送信手段は、前記識別音波の波長を可変自在としたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
- 前記受波局には、前記識別音波を電気信号に変換する複数の受波器が鉛直方向に配置され、前記受信手段は、当該各受波器からの複数の電気信号に基づいて、当該識別音波の当該受波局への入射角度を演算することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の音響トモグラフィの情報収集装置。
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