JP3611500B2 - 静電アクチュエータ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、静電アクチュエータ及びその製造方法に係り、特に小型カメラの焦点調節に使用することが可能な静電アクチュエータ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図9を参照して、従来の焦点調節用に用いられた静電アクチュエータの構造を説明する。図9に示すように、静電アクチュエータは(例えば特開平8−140367号公報参照)、可動子101とこの可動子101を上下より挟み込む一対の固定子102、103を有する。それぞれの固定子102、103の対向する面には2系統ずつの電極が形成されており、上下1組の固定子102、103で合計4系統の電極を有する。固定子102、103に設けたそれぞれの電極および可動子101の電極部の電極のピッチと電極幅はそれぞれ同一である。固定子102と固定子103においてそれぞれ2系統の電極が順番に現れるように電極が組み合わされている。固定子102、103の上下の電極は、ちょうどその位相が1/2ずれるように配設されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、図9に示すように、ガラス製の表面に電極が形成された一対の固定子102、103と、一対の案内用側板105、106と、可動子101とを一体的に形成された筒状の固定子枠104に組み入れて製作されていた。すなわち、従来は、まず、固定子102、103を固定子枠104に挿入し、それぞれを接着する。この際、固定子102、103の表面に設けられた電極の位相が上下でちょうど1/2ずれるように位置決めを行って接着を実施する。続いて、案内用側板105、106を固定子枠104に挿入し、それぞれを接着する。最後に可動子101を固定子102、103の間及び案内用側板105、106の間に挿入する。この時、固定子102、103同士の間隔と可動子101の高さの差は非常に小さく、静電吸引力が作用する部分の距離となるため、非常に精度良く管理する必要がある。
【0004】
このように、従来は、製品毎に個別的に可動子101を研磨し、その管理を実施する必要があった。そして、上下の固定子102、103同士の間の位相関係を精度良くコントロールする必要があり、また可動子101の対応する2面に位相の精度良く電極部を製作する必要があった。このため、従来は、組立に要する時間と手間がかかり、コストが高く、量産を実現する上での課題となっていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の有する問題を解消し、組立性および量産性に優れ高精度に駆動制御可能な静電アクチュエータ及びその製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の静電アクチュエータは、各々の表面に第1電極が形成されこの第1電極が互いに対向するように配置された一対の固定子と、前記一対の固定子の間に配置され、前記第1電極に対向する面側に第2電極が形成され前記第1電極に所定の電圧が印加されることにより前記固定子に対し相対移動可能な可動子と、前記一対の固定子を互いに対向させて支持するとともに前記可動子の移動を案内する固定子枠部材と、を備え、前記固定子枠部材は、前記一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材からなり、前記二つの分割部材は、前記一対の固定子が互いに対向する方向に隙間をおいて固定され、前記一対の固定子が互いに対向する方向と直交する方向に互いが引きつけ合うように接着されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記二つの分割部材は、所定間隔の平行面を有するマスター部材の前記平行面に前記一対の固定子を当接させて挟み込み可能に形成されている。
【0008】
また、前記二つの分割部材は、前記一対の固定子が互いに対向する方向に隙間をおいて固定されている。
【0010】
また、本発明の静電アクチュエータは、各々の表面に第1電極が形成されこの第1電極が互いに対向するように配置された一対の固定子と、前記一対の固定子の間に配置され、前記第1電極に対向する面側に第2電極が形成され前記第1電極に所定の電圧が印加されることにより前記固定子に対し相対移動可能な可動子と、 前記一対の固定子を互いに対向させて支持するとともに前記可動子の移動を案内する固定子枠部材と、を備え、前記可動子は、前記第2電極の配列方向に光軸を有する光学部品を有し、前記第2電極と前記光学部品とは一体的に形成されていることを特徴とする。
また、前記第1電極に対向する前記可動子の面側に前記第1電極に対応するパターンで複数の凹凸部が形成されており、前記第2電極は前記複数の凹凸部に導電材薄膜を付着させて形成されていることを特徴とする。
また、前記第1電極に対向する前記可動子の面側にフラット面が形成されており、前記第2電極は前記フラット面に前記第1電極に対応するパターンで導電材薄膜をパターニングして形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の静電アクチュエータの製造方法は、各々の表面に第1電極が形成されこの第1電極が互いに対向するように配置された一対の固定子と、前記一対の固定子の間に配置され、前記第1電極に対向する面側に第2電極が形成され前記第1電極に所定の電圧が印加されることにより前記固定子に対し相対移動可能な可動子と、前記一対の固定子を互いに対向させて支持するとともに前記可動子の移動を案内する固定子枠部材とを備える静電アクチュエータの製造方法であって、前記固定子枠部材を前記一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材から構成し、二つの前記分割部材の各々に前記一対の固定子の各々を固着し、所定間隔の平行面を有するマスター部材の前記平行面に前記一対の固定子を当接させて挟み込み、前記一対の固定子で前記マスター部材を挟み込んだ状態で、一方の固定子の前記第1電極と他方の固定子の前記第1電極とが所定位置関係になるように二つの前記分割部材を位置調整し、二つの前記分割部材を互いに固着し、前記マスター部材を前記一対の固定子から引き抜き、前記可動子を前記一対の固定子で形成された間隙に挿入することを特徴とする。
【0012】
上述の発明において、固定子枠部材は一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材からなるので、基準となる所定間隔の平行面を有するマスター部材を用いて、その平行面に固定子の表面を押し付け、マスター部材の所定間隔の寸法を一対の固定子の表面と表面との間のギャップとして転写することができ、この転写した状態で二つの分割部材を固着することができる。この結果、一対の固定子の第1電極の組立に要求される電極間ギャップの管理を高精度に確実に行うことができ、組立性と量産性の向上を図ることができる。
【0013】
【発明の実施の態様】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0014】
まず、図1を参照して第1の実施形態について説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る静電アクチュエータ1は、図7に示した固定子枠104とは異なり、2つに分割された固定子枠2,3を備えている。固定子枠2,3の各々の内側上下面には、一対の固定子4,5が接着固定されている。固定子4,5の互いに対向する面には、図7に示すように2系統の第1電極A,C,B,Dが交互に櫛歯状に、例えば24μmの電極幅で64μmピッチで配列形成されている。固定子枠4,5の内側側面には一対の案内用側板6,7が接着固定されている。一対の固定子4,5の間には、図7に示すように、可動子8が、第1電極面との間に例えば約3μmの間隙をおいて、一対の固定子4,5に対し相対移動可能に挿入されている。可動子8の上下面には、第1電極に対向するように第2電極9が第1電極A,C,B,Dと同様に例えば24μmの電極幅で64μmのピッチで配列形成されている。
【0016】
可動子8は、長手方向(第2電極9の配列方向)に例えば5−12mmの長さを有し、長手方向と直交する方向に約2−5mmの横幅を有する。固定子枠2,3の固定子4,5が接着固定される面には、固定子4,5はガラス材等の透明な絶縁部材で形成されている。
【0017】
固定子枠2,3には、後述するように、第1電極A,Cと第1電極B,Dと位相位置合わせをするために上下から顕微鏡で観察するための貫通した覗き窓孔10が形成されている。固定子4,5は透明な絶縁部材で形成されているので、固定子枠2,3の各々の覗き窓孔10を通して、第1電極A,C,B,Dを観察することができる。
【0018】
図2に示すように、二つの固定子枠2,3はともに断面コの字状に形成されており、互いに合わされたときに内部に可動子8が挿入可能な筒形状を形成する。下側に位置する固定子枠3は上側に位置する固定子枠2より大きな横幅を有し、固定子枠3の両側部は、その内側に固定子枠2の両側部がはめ込まれるように形成されている。固定子枠3の内側面には、固定子5が接着固定される面と、案内用側板6,7の下外側面が当接される面とが形成されており、同様に固定子枠2の内側面には、固定子4が接着固定される面と、案内用側板6,7の上外側面が当接される面とが形成されている。後述するようにマスター部材30を用いた状態で、二つの固定子枠2,3は、固定子枠3の上端部と固定子枠2の外側面部との間の接着位置12で接着固定されている。
【0019】
固定子枠2の下端部とこの下端部を受ける固定子枠3の受け面との間には、隙間11が形成されており、二つの固定子枠2,3は、一対の固定子4,5が互いに対向する方向に隙間11をおいて互いに固定されている。また、二つの固定子枠2,3は、一対の固定子4,5が互いに対向する方向と直交する方向に互いに引きつけ合うように、二つの固定子枠2,3は接着位置12で接着されている。
【0020】
このように、隙間11を形成し機械的な逃げを持たせることによって、固定子枠2,3が熱膨張した場合においても、固定子枠2,3の各々の熱膨張による伸びの分が互いに機械的に影響を及ぼすことなく吸収することができ、固定子枠2,3全体の変形や歪みの量を減少させることができる。
【0021】
また、二つの固定子枠2,3を固定子4,5が互いに対向する方向と直交する方向に互いに引きつけ合うように接着位置12で接着することによって、固定子枠2,3が熱膨張した場合においても、固定子枠3、4の各々の熱膨張により固定子枠2,3の変形や歪による悪影響を減少させることができる。
【0022】
なお、静電アクチュエータ1は、図2に示すものに代えて、図3に示すように構成することも可能である。図3に示す静電アクチュエータ1においては、二つの固定子枠2,3はほぼ同じ形状でありともに断面コの字状に形成されている。二つの固定子枠2,3は、互いに合わされたときに、固定子枠2の両側下部端面と固定子枠3の両側上部端面とが隙間14をおいて対向するように形成されている。図2に示した場合と同様に、固定子枠2,3の内側面には、固定子4,5が接着固定される面と、案内用側板6,7の外側面が当接される面とが形成されている。後述するようにマスター部材30を用いた状態で、二つの固定子枠2,3は、固定子枠2,3の両側外面から補助板15,16を当て付け、接着位置13で接着固定されている。接着位置13は、補助板15,16の上端部と固定子枠2,3の両側外面との間、及び補助板15,16の下端部と固定子枠2,3の両側外面との間に設定されている。固定子枠2,3は、接着位置13で接着固定されることによって、補助板15,16を介して固定子4,5が互いに対向する方向と直交する方向に互いに引きつけ合うように接着されている。
【0023】
図3に示す静電アクチュエータ1においても、隙間14を形成し機械的な逃げを持たせることによって、固定子枠2,3が熱膨張した場合に固定子枠2,3の各々の熱膨張による伸び分が互いに機械的に影響を及ぼすことなく吸収することができ、固定子枠2,3全体の変形や歪みの量を減少させることができる。また、二つの固定子枠2,3を、補助板15,16を介して、固定子4,5が互いに対向する方向と直交する方向に互いに引きつけ合うように接着位置12で接着することによって、固定子枠2,3の各々の熱膨張により固定子枠2,3全体の変形や歪による悪影響を減少させることができる。
【0024】
次に、図7を参照して、静電アクチュエータ1の駆動原理について説明する。まず、電極Aに高電圧を印加すると、電極Aと可動子8に設けた第2電極9の間に作用する静電力(クーロン力)により、可動子8は上側の固定子4の電極Aと重なりあう位置に吸引される。続いて、高電圧を印加する電極を電極Bに切り替えると、可動子8は下側の固定子5の電極Bと重なりあう位置に吸引される。この様に、高電圧を印加する電極を電極Aから電極Bへ、電極Bから電極Cへ、電極Cから電極Dへと順次切り替えていくと、可動子8は微視的には微小に上下振動をしながら巨視的には紙面において右側(1自由度)に駆動される。電極に高電圧を加える順番を逆にして、電極A、電極D、電極C、電極Bの順番に切り換えていくとすれば、可動子8は(紙面において)左側への駆動される。
【0025】
次に、図5及び図8を参照して、静電アクチュエータ1の製造方法について説明する。静電アクチュエータ1は、以下に詳述するように、図8におけるステップS1、S2、S3、S4、S5、S6を経て製造される。
【0026】
まず、固定子枠2,3に、第1電極A,C,B,Dを外側に向けて第2電極に対向するように固定子4,5を接着固定する。
【0027】
次に、固定子枠2に案内用側板6,7を接着固定する。なお、案内用側板6,7は固定子枠2,3のいずれに接着固定してもよい。
【0028】
次に、マスター部材30を使用して、以下のようにして固定子枠2,3を接着固定する。
【0029】
ここで、マスター部材30は高さHの間隔をおいた二つの平行面を有するように形成されている。高さHは可動子8の高さ寸法よりも必要とする電極間ギャップの分だけ大きく設定されている。また、マスター部材30の内部には気体流路が形成されており、二つの平行面にはこの流路に連通する開口部31が形成されている。また、マスター部材30は配管32を介して負圧源33に接続されている。
【0030】
固定子4と案内用側板6,7が接着された固定子枠2の第1電極A,Cと、固定子枠3の第1電極B,Dとをマスター部材30の平行面に当接させて挟み込む。第1電極A,C,B,Dをマスター部材30の平行面に当接させた状態で、負圧源33をONにし、第1電極A,Cと、第1電極B,Dとをマスター部材30の平行面に吸引する。これによって、固定子4,5の表面を確実にマスター部材30の平行面に接触させて引きつけることができ、マスター部材30の高さ寸法Hが固定子枠2の第1電極A,Cと固定子枠3の第1電極B,Dとの間隔として転写される。
【0031】
次に、固定子4,5の表面をマスター部材30の平行面に接触させて引きつけた状態で、固定子4の第1電極A,Cと固定子5の第1電極B,Dとが1/2ピッチだけ位相のずれた位置関係になるように、以下のようにして位置調整する。
【0032】
固定子枠4,5に形成された覗き窓孔10を通して、顕微鏡を用いて方向M,Mより第1電極A,Cと第1電極B,Dを観察し、顕微鏡の結像面をモニター映像を見る。そして、第1電極A,Cと第1電極B,Dの電極位相がちょうど半分ずれた位置になるように、固定子枠4,5のいずれかを電極配列方向に移動させる。この場合、固定子4,5の表面はマスター部材30の平行面に吸引されているが、吸引の強さを適度に設定することにより、操作性がよく位相位置調整を行うことができる。
【0033】
なお、位相位置調整のために顕微鏡を用いて観察する方法として、両側より複数の顕微鏡を用いるのではなく一つの顕微鏡を用いることでも可能である。この場合、片側より固定子4を観察し、その映像を一旦保存し、その後に固定子4,5もしくは顕微鏡を180度回転させ、もう一方の固定子5を観察できる位置に配置し、そこから得られる映像と前記一旦保存しておいた映像を比較することにより、固定子4,5同士の位置合わせを行っても構わない。
【0034】
次に、固定子枠2、3同士を、図2等に示す接着位置12に接着材12aを盛り込んで接着する。接着位置12は、固定子枠2、3の前端部と後端部の各々2個所に設けられている。固定子枠2の下端部とこの下端部を受ける固定子枠3の受け面との間には隙間11が形成されているので、固定子枠2と固定子枠3とは熱膨張した場合においても機械的な力を及ぼしあうことなく、マスター部材30の高さ寸法Hを忠実に転写した状態で固定子枠2と固定子枠3とを接着固定することができる。
【0035】
固定子枠2,3同士を接着した後、マスター部材30を引き抜く。このために、負圧源33をOFFにし、固定子4,5の表面がマスター部材30の平行面に吸引された状態を解く。マスター部材30をスムーズに引き抜くことができるように、マスター部材の表面には、例えばタフラム処理によって潤滑膜を形成しておくことが好ましい。マスター部材30は、例えば直線的に移動可能な引き抜き器具を用いることにより、円滑に引く抜くことが可能になる。
【0036】
また、固定子枠2,3と固定子4,5の接着を行う際に、図3に示したように、補強のための補助板15,16を用いて接着位置13で接着固定を行うことも可能である。
【0037】
以上のように、本実施の形態においては、静電アクチュエータ1は、2つに分割された固定子枠2,3を備えている。この結果、次ぎのような効果を奏することができる。
【0038】
基準となる所定間隔Hの平行面を有するマスター部材30を用いて、その平行面に固定子の表面を押し付け、マスター部材30の所定間隔Hの寸法を固定子4,5の表面と表面との間のギャップとして転写することができ、この転写した状態で固定子枠2,3を接着固定することができ、固定子4,5の第1電極A,C,B,Dの組立に要求される電極間ギャップの管理を高精度に確実に行うことができ、組立性と量産性の向上を図ることができる。
また、固定子枠部材は二つの固定子枠2,3からなるので、固定子枠部材の加工性を向上させることができ高精度な加工組立の管理が可能になり、固定子を構成するガラス材の表面へのアクセスをしやすくなり埃やごみの管理を容易にできる。この結果、部品精度があがり組立精度のばらつきが低減されるので、電極ギャップのばらつきを減少でき、静電アクチュエータの製品として製品毎のばらつきを低減でき、高品質な静電アクチュエータを提供することができる。
【0039】
なお、本実施の形態による効果は、次ぎのことを考慮することにより、さらに一層顕著になるのである。
【0040】
静電アクチュエータ1においては、半導体プロセスを用いて櫛歯状に第1電極A,C,B,Dが形成され、櫛歯状に第1電極A,C,B,Dが形成される固定子4,5においては、表面に形成した第1電極同士の絶縁をとる必要がることと、半導体プロセスを用いて加工を行う場合に形状が通常は円形の薄板(ウエハ)であってクリーンルーム内の他プロセス装置に悪影響を与えない様にゴミや不純物等を出さないようにする必要があることより、固定子4,5の材質に制限が加わり、例えば、パイレックス(登録商標)ガラス等が用いられる。一方、固定子枠1,2においては、固定子4,5同士の空間的な位置を固定するために形状が3次元的な形状をとる必要があるため、前記のパイレックス(登録商標)ガラスのような脆性材料で固定子枠2,3を製作することは容易ではない。このため、例えば、ワイヤー放電加工技術等を用いて固定子枠2,3は金属材料によって製作される。
【0041】
このような状況下で、従来のように固定子を単一体である固定子枠104に接着剤により接着して構成した場合には、次ぎのような不都合を回避できなかったのである。すなわち、組み立て製造における接着時の温度と、静電アクチュエータを使用する環境での温度とに差が生じると、パイレックスガラス等からなる固定子と金属材料からなる固定子枠104との間にある熱膨張係数の差異により、接着部位に熱応力が発生する。例えば、固定子枠に用いた金属の熱膨張係数が、固定子に用いたガラスの熱膨張係数よりも大きい場合、固定子支持枠の方が固定子よりも大きく伸びが発生し、固定子枠には引っ張り応力が発生し固定子には圧縮応力が発生する。この結果、固定子枠と固定子を接着している接着部位には、剪断応力が発生する。接着部位が剪断応力に耐えたとしても、固定子枠と固定子を張り付けた辺に関しては曲げが発生し、固定子枠全体として形状に歪みが生じる。歪みが生じると、固定子間同士の距離が変わり、静電アクチュエータの出力低下もしくは機械的に可動子が絞められてしまい、どちらにしても静電アクチュエータの駆動をできない状態となる。この固定子枠の形状の歪みは、固定子枠と固定子の接着部位を熱応力による影響が少ない部分、例えば、それぞれの幾何的な中心近くで接着して熱応力の影響を低下させるように設計最適化を進めたとしても、固定子枠が中空の四角柱形状の一体構造である限りはこの影響を無くすることはできない。異なる熱膨張率材料による熱応力の影響が無い場合、固定子枠の4角柱の4辺の内の各辺が外側に膨らむか内側に窪むかは、各辺の厚さ等の関係によって決まるが、もし、各辺の厚さ等の機械的な条件が同一であったならば、その状態がどちらになるかは不確定条件を有する。つまり、膨らんだ状態と窪んだ状態の2つの安定点を持ち、どちらの安定点をとるかは、最初のちょっとした偏りや初期条件の違い等によって変化することとなる。このように、従来のように固定子枠を単一体で製作した場合には、製作時と使用時の温度に差異が生じれば、変形により、固定子間同士の距離を一定に保つことがは困難になるのである。
【0042】
これに対し、本実施形態の静電アクチュエータ1及びその製造方法によれば、静電アクチュエータ1は2つに分割された固定子枠2,3を備えるので、隙間11等によって機械的な逃げを持たせて熱膨張による伸びの分を吸収し、固定子枠2,3の変形や歪みの量を減少させ、固定子4,5間どうしの距離を一定に保つ能力を向上させることができるのである。
【0043】
次に、図4を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。
【0044】
固定子枠2,3に固定子4,5を接着する場合、図4に示すように、固定子枠2の中央に接着剤挿入口45を形成し、接着剤挿入口45の近傍の中央1カ所でのみ接着を行うようにする。
【0045】
このような接着固定方法を採用することにより、固定子枠2の構成材料と固定子4の構成材料との間の熱膨脹係数の差異に起因する不都合を回避することができる。例えば、静電アクチュエータ1が製造時と異なる温度環境下にさらされた場合に、固定子枠2と固定子4の間の接着剤で接着される接着部位に働く熱応力の影響により、接着部位が破壊されたり、固定子枠2及び固定子4の形状が変位したりすることを防ぐことができる。なお、固定子枠2,3と固定子4,5を接着する部位の形状は図4に示したものに制限されるものではなく、固定子4,5を固定子枠2,3の中央に位置する接着部位を配することができる構造であれば構わない。
【0046】
次に、図6を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。
【0047】
本実施形態は、以下のような従来の課題を解決するものである。従来においては、可動子とレンズとは個別に製作され、静電アクチュエータは可動子枠の中に可動子とレンズとを個別に挿入して組み立て構成されていた。この従来の方法では、静電アクチュエータのデバイスの製作時とデバイス使用環境下で温度条件が異なる場合に、次のような不都合が生じていた。すなわち、可動子とレンズとの材質の熱膨脹係数の違いによる熱応力が生じ、可動子とレンズの接着部位が熱応力により破壊されたり、可動子の外形が変位することにより一対の固定子の対向する電極の間で電極間距離が変化したりし、静電アクチュエータの性能が劣化する恐れがあった。一般に、静電アクチュエータにおいては、発生する静電力は電極間距離の2乗に反比例するため、静電力は電極間距離にきわめて敏感であるからである。
【0048】
これらの問題を解決するために、本実施形態においては、図6に示す可動子40は、レンズ機能と、静電アクチュエータの可動子機能の両方の機能を一体的に備えている。
【0049】
可動子40は、例えば5−12mmの長さと約2−5mmの横幅及び縦幅を有するほぼ直方体ブロック状のガラス材から構成されている。可動子40の上下面には第2電極9が形成されている。第2電極9が形成された上下面に挟まれて長手方向中心部には、第2電極9の配列方向に光軸を有するレンズ42が、第2電極9と一体的に形成されている。
【0050】
次に、可動子40の製造方法について説明する。
【0051】
まず、直方体ブロック状のガラス材の上下面に、固定子4,5に形成された第1電極と同一ピッチと同一の電極幅を有する複数の凹凸形状を形成する。また、この凹凸形状の配列方向を光軸方向とするレンズ42を長手方向中心部に形成する。これらの加工は、例えば金属金型を用いた加熱プレス加工であるガラスモールド製法を用いて製作することが可能である。製作後、可動子40の凹凸形状面を含めて、その外周部に、例えば、スパッタ技術や蒸着技術やメッキ技術を用いて、導電性材料を皮膜する。この場合、ガラスモールド製法によって可動子40の外形形状を形成する際に同時に複数の凹凸形状を形成することができ、後述のようなパターニングする工程を省略することができる。
【0052】
また、加熱プレス加工であるガラスモールド製法を用いて可動子40の外形形状を形成する際に、直方体ブロック状のガラス材の上下面に、凹凸形状を形成することに代えてフラット面を形成してもよい。この場合、このフラット面に、所定のパターン、例えば固定子4,5に形成された第1電極と同一ピッチと同一の電極幅を有するパターンで、導電性材料を梯子状形状にパターニングするようにする。導電性材料をパターニングする手法としては、パターニング面が上面となるように治具を用いてブロック材を位置固定し、レジストを塗布し光学的露光や化学的エッチングを行ってもよい。あるいは、レーザ光を前記フラット面に直接照射するように除去加工をしてもよい。この場合、ガラスモールド製法によって可動子40の外径形状を形成する際に複数の凹凸形状を形成する必要がなくなるので、簡易に可動子40の外形形状を形成することができる。
【0053】
このように、可動子40が第2電極9とレンズ42とを一体的に備えているので、可動子機能とレンズ機能を一体的に製作することができ、上記課題を解決することができると共に、部品点数を減らしコスト低減を図ることができる。さらに、可動子40の機械的な中心線とレンズ42の光軸とを加工時に一致させて製作することができるため、従来問題となったレンズと可動子を組み立て構成する際に必要な煩雑の光軸調整作業を不要にすることができる。
【0054】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明の構成によれば、固定子枠部材は一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材からなるので、基準となる所定間隔の平行面を有するマスター部材を用いて、マスター部材の所定間隔の寸法を一対の固定子の表面と表面との間のギャップとして転写し、この転写た状態で二つの分割部材を固着することができる。この結果、一対の固定子の第1電極の組立に要求される電極間ギャップを高精度に管理した高性能な静電アクチュエータを提供することができるとともに、一対の固定子の第1電極の組立に要求される電極間ギャップの管理を確実に行うことができ組立性と量産性に優れた静電アクチュエータの製造方法を提供することができる。
また、固定子枠部材は二つの分割部材からなるので、固定子枠部材の加工性を向上させることができ高精度な加工組立の管理が可能になり、固定子を構成するガラス材の表面へのアクセスをしやすくなり埃やごみの管理を容易にできる。この結果、部品精度があがり組立精度のばらつきが低減されるので、電極ギャップのばらつきを減少でき、静電アクチュエータの製品として製品毎のばらつきを低減でき、高品質な静電アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明での第1実施形態を表す静電アクチュエータの組み立て方法を説明する斜視図。
【図2】図1に示す静電アクチュエータにおける固定子枠の構造を示す断面図。
【図3】図2に示す固定子枠の変形例の構造を示す断面図。
【図4】本発明での第2の実施形態における固定子枠及び固定子を示す断面図(a)と平面図(b)。
【図5】図1に示す静電アクチュエータの組み立て方法を示す斜視図。
【図6】本発明での第3実施形態における可動子を示す斜視図。
【図7】静電アクチュエータの動作原理を説明する図。
【図8】静電アクチュエータの製造方法を示すフローチャート図。
【図9】従来の静電アクチュエータを示す分解斜視図。
【符号の説明】
1 静電アクチュエータ
2,3 固定子枠
4,5 固定子
6,7 案内用側板
8 可動子
9 第2電極
A,C,B,D 第1電極
10 覗き窓孔
12,13接着位置
15,16 補助板
30 マスター部材
40 可動子
42 レンズ
45 接着剤挿入口

Claims (2)

  1. 各々の表面に第1電極が形成されこの第1電極が互いに対向するように配置された一対の固定子と、
    前記一対の固定子の間に配置され、前記第1電極に対向する面側に第2電極が形成され前記第1電極に所定の電圧が印加されることにより前記固定子に対し相対移動可能な可動子と、
    前記一対の固定子を互いに対向させて支持するとともに前記可動子の移動を案内する固定子枠部材と、を備え、
    前記固定子枠部材は、前記一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材からなり
    前記二つの分割部材は、前記一対の固定子が互いに対向する方向に隙間をおいて固定され、前記一対の固定子が互いに対向する方向と直交する方向に互いが引きつけ合うように接着されている
    ことを特徴とする静電アクチュエータ。
  2. 各々の表面に第1電極が形成されこの第1電極が互いに対向するように配置された一対の固定子と、前記一対の固定子の間に配置され、前記第1電極に対向する面側に第2電極が形成され前記第1電極に所定の電圧が印加されることにより前記固定子に対し相対移動可能な可動子と、前記一対の固定子を互いに対向させて支持するとともに前記可動子の移動を案内する固定子枠部材とを備える静電アクチュエータの製造方法であって、
    前記固定子枠部材を前記一対の固定子の各々が支持される二つの分割部材から構成し、
    二つの前記分割部材の各々に前記一対の固定子の各々を固着し、
    所定間隔の平行面を有するマスター部材の前記平行面に前記一対の固定子を当接させて挟み込み、
    前記一対の固定子で前記マスター部材を挟み込んだ状態で、一方の固定子の前記第1電極と他方の固定子の前記第1電極とが所定位置関係になるように二つの前記分割部材を位置調整し、
    二つの前記分割部材を互いに固着し、
    前記マスター部材を前記一対の固定子から引き抜き、
    前記可動子を前記一対の固定子で形成された間隙に挿入する
    ことを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
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