JP3611322B2 - シュープレス装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抄紙速度の高速化に対応した動圧型シュープレス装置の改良に関し、より詳しくは、動圧と静圧とを併用した混合型のシュープレス装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
製紙機械のプレスパートには、ウェブを加圧脱水するためのシュープレス装置が設けられている。シュープレス装置にはプレスシューとカウンタロールとが備えられ、両者の間にはウェブの走行方向に延在するニップが形成されている。プレスシューの周りにはループ状の粘弾性部材が回転自在に配置されており、ウェブはその両面或いは片面をフェルトにより支持されながら、粘弾性部材とともに上記ニップを通過して加圧脱水されるようになっている。なお、粘弾性部材として筒状のブランケットを用いるものは一般にENP−C(Extend Nip Press−closed)と呼ばれ、複数のガイドローラにより案内されるループ状のゴムベルトを用いるものは一般にENP(Extend Nip Press)と呼ばれている。
【0003】
シュープレス装置は一般に動圧型と静圧型とに大別される。ここで図7(a)は一般的な動圧型シュープレス装置の構成を示す概略図であり、図8(a)は一般的な静圧型シュープレス装置の構成を示す概略図である。図7(a),図8(a)に示すように動圧型、静圧型ともに共通して、ウェブ5はその両面をフェルト3,4に支持された状態で粘弾性部材8とともにカウンタロール2とプレスシュー30,40とのニップを通過するようになっている。プレスシュー30,40はともにカウンタロール2に合わせて凹型に形成されており、カウンタロール2との間でウェブ5の走行方向に広い範囲でニップを形成している。
【0004】
動圧型シュープレス装置では、プレスシュー30は潤滑油の動圧によって粘弾性部材8を支持し、カウンタロール2側へ押し付けるようになっている。一般に動圧型シュープレス装置では必要油膜厚さを確保するために高粘度の潤滑油が用いられているので、潤滑油は粘弾性部材8の回転に伴い、粘弾性部材8の裏面に付着した状態でプレスシュー30と粘弾性部材8との間に巻き込まれてくる。そして、潤滑油がカウンタロール2の形状に合わせて形成されたプレス面30a上を流れる際の速度に応じて動圧が発生し、この潤滑油の動圧によって粘弾性部材8はプレスシュー30に非接触状態で支持されるようになっている。このときの粘弾性部材8とプレスシュー30との間の圧力分布を示したのが図7(b)のグラフである。図7(b)に示すように、プレスシュー30が粘弾性部材8に付与する圧力は、プレス面30a上において粘弾性部材8の回転方向(ウェブ5の走行方向)に向けて次第に大きくなるような圧力分布を示す。
【0005】
プレスシュー30は、油圧ピストン38を介してセンタシャフト36に支持されており、ピストン室37内の油量によってプレスシュー30のカウンタロール2側への押圧力が調整できるようになっている。また、プレスシュー30は油圧ピストン38にピボットピン39を介して回転可能に取り付けられ、さらにウェブ5の走行方向に対して上流側端部と下流側端部とをスプリング34,35によって支持されており、潤滑油の動圧やスプリング34,35のバネ力等の力学的平行条件からプレスシュー30と粘弾性部材8との隙間量(入口側、出口側)が調整されるようになっている。
【0006】
一方、静圧型シュープレス装置では、プレスシュー40は外部から供給される高圧の潤滑油の静圧によって粘弾性部材8を支持し、カウンタロール2側へ押し付けるようになっている。静圧型シュープレス装置のプレスシュー40には高圧の潤滑油を溜めるための静圧ポケット42がその表面に形成されている。静圧ポケット42は、図示しない油圧ポンプに接続された油圧配管43に連通しており、油圧配管43から静圧ポケット42へ高圧の潤滑油が注入されるようになっている。そして、静圧ポケット42に注入された潤滑油の圧力(静圧)によって粘弾性部材8はプレスシュー40に非接触状態で支持されるようになっている。このときの粘弾性部材8とプレスシュー40との間の圧力分布を示したのが図8(b)のグラフである。図8(b)に示すように、プレスシュー40が粘弾性部材8に付与する圧力は、静圧ポケット42上において一定となる圧力分布を示す。なお、図8(a)ではプレスシュー40はセンタシャフト46に固定されているが、油圧ピストンを介して支持されている場合もある。
【0007】
動圧型シュープレス装置と静圧型シュープレス装置とを比較した場合、動圧型シュープレス装置は、静圧型シュープレス装置で必要な油圧ポンプやそのための配管を必要としない分だけ構造を簡略化できコストも抑えることができる。しかしながら動圧型シュープレス装置では、抄紙速度の高速化に際し、高粘度の潤滑油を使用するために潤滑油の流体摩擦抵抗に依存する熱損失や必要動力が増大してしまう。そして、潤滑油の流体摩擦抵抗によってプレスシュー30の温度が上昇して熱変形し、幅方向に均一なニップ圧が得られなくなってしまうという課題がある。さらに、潤滑油の流体摩擦抵抗によって粘弾性部材の温度上昇も生じ、粘弾性部材8が劣化して寿命が短くなってしまうという課題もある。
【0008】
このような動圧型シュープレス装置が有する課題への提案としては、特表2001−520330号公報に開示されたシュープレス装置が挙げられる。ここで開示されたシュープレス装置は、動圧と静圧とを併用したいわば混合型の構造を採用していることに特徴がある。図9(a)はこの混合型シュープレス装置の構造を示す概略図である。
【0009】
図9(a)に示すように、混合型シュープレス装置のプレスシュー50は、動圧型シュープレス装置と同様に、カウンタロール2の形状に合わせて形成されたプレス面50aを備えている。プレスシュー50と粘弾性部材8との間に巻き込まれてくる潤滑油には、このプレス面50a上を流れる際の速度に応じて動圧が発生する。また、プレス面50aの中央部には静圧型シュープレス装置と同様、静圧ポケット52が形成されており、図示しない油圧ポンプに接続された油圧配管53から静圧ポケット52に高圧の潤滑油が注入されるようになっている。したがって、この混合型シュープレス装置では、粘弾性部材8は、プレス面50a上を流れる潤滑油の動圧と静圧ポケット52に注入された潤滑油の静圧とによってプレスシュー50に非接触状態で支持される。このときの粘弾性部材8とプレスシュー50との間の圧力分布を示したのが図9(b)のグラフである。図9(b)に示すように、プレスシュー50が粘弾性部材8に付与する圧力は、静圧ポケット52上において一定圧力となり、その前後のプレス面50a上では粘弾性部材8の回転方向に向けて次第に大きくなるような圧力分布を示す。
【0010】
粘弾性部材8の温度上昇を招く潤滑油の流体摩擦抵抗は動圧の発生領域で生じるが、図9(a)に示すようにプレス面50aの中央部に静圧ポケット52を設けることで、動圧の発生領域を狭くすることができ、発生する摩擦熱量を一般的な動圧型シュープレス装置に比較して抑えることが可能になる。また、粘弾性部材8を支持する力の一部が動圧成分によって負担されることから、一般的な静圧型シュープレス装置に比較して静圧成分が負担する力は小さくてすみ、静圧型シュープレス装置に比較して小さな油圧ポンプを用いることも可能になる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の混合型シュープレス装置では、図9(b)に示すように粘弾性部材8とカウンタロール2とのニップ部の圧力分布に段が生じてしまう。これは、プレス面50a上ではウェブ5の走行方向に向けて次第に上昇する動圧が発生する一方、静圧ポケット52上では動圧が発生せず一定の静圧のみ発生するために、プレス面50aと静圧ポケット52との境界においてウェブ5の走行方向における圧力の上昇度が急激に変化してしまうためである。
【0012】
ニップ部の圧力に急上昇があると、ニップ部を通過するウェブ5に作用する圧力も急激に変化してしまい、紙のクラッシング(圧潰現象)やデンシフィケーション(紙の繊維の不均一分布に起因する密度の偏り)が発生してしまうことが知られている。また、粘弾性部材8やフェルト3,4にも、ニップ部を通過する際にプレスシュー50の後端部(ウェブ5の走行方向下流側端部)において急激な圧力が加わることになる。このため、これらの部材8,3,4の寿命にも悪影響を与えてしまう可能性がある。
【0013】
このように、ニップ部の圧力分布は、最終的な製品の品質に大きな影響を与えると同時に、動圧型シュープレス装置における潤滑油の流体摩擦抵抗と同様、装置自体の寿命にも大きく影響する。したがって、急激な圧力上昇を生じさせることなく適正な圧力分布、具体的には、段のない滑らかな圧力分布が得ることができるようにすることも、プレスシューの構造を決定する上では重要である。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、潤滑油の流体摩擦抵抗によるプレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化を抑制して抄紙速度の高速化に対応できるとともに、ニップ部において滑らかな圧力分布を得ることができようにした、シュープレス装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明のシュープレス装置は、動圧型シュープレス装置としての構成はそのままに静圧型シュープレス装置の要素を付加することによって、上記課題を解決するための手段としたものである。すなわち、支持軸の周りにループ状の粘弾性部材が回転可能に配置されるとともに粘弾性部材を挟んでカウンタロールに対向するようにプレスシューが配置され、アクチュエータによってプレスシューがカウンタロールに向けて押し付けられるようになっている。プレスシューには、カウンタロールの形状に係合するように形成された第1プレス面と、第1プレス面に囲まれるようにして第1プレス面よりも低く形成された第2プレス面とが形成され、これら第1プレス面、第2プレス面と粘弾性部材との協働により、粘弾性部材の回転により粘弾性部材とプレスシューとの間に巻き込まれる潤滑油に動圧が発生するようになっている。さらに第1プレス面と第2プレス面との段差により形成されるポケット部の深さは、少なくとも上記粘弾性部材との協働により潤滑油に動圧を発生させることができる程度に浅く、且つ、静圧ポケットを形成できる程度に深く、しかも略均一な深さに設定され、上記プレスシューのニップ部の略全域にわたって段がなく滑らかな圧力分布特性になるように構成されており、このポケット部では、このポケット部と粘弾性部材との協働により、ポケット部に注入される潤滑油に動圧とともに静圧が発生し、プレスシューのニップ部の略全域にわたって段がなく滑らかな圧力分布特性が得られるようになっている。
【0016】
特表2001−520330号公報に開示された混合型シュープレス装置は、動圧型シュープレス装置の一部を静圧型シュープレス装置に置き換えた構成を採用することによって動圧の発生領域を狭め、それにより摩擦熱の発生を減少させている。これに対し、本発明のシュープレス装置では、ともに動圧の発生領域である第1プレス面と第2プレス面との段差により形成されるポケット部に静圧を発生させることで、動圧の発生領域を狭めることなく、動圧の発生領域に重ね合わせて静圧を発生させている。
【0017】
一般的な動圧型シュープレス装置ではプレスシューと粘弾性部材との間の必要油膜厚さを確保するために高粘度の潤滑油を用いる必要があるが、このように動圧の発生領域に重ね合わせて静圧を発生させることで潤滑油粘度の影響が小さい静圧を併用して粘弾性部材を支持することが可能になる。その結果、低温、低粘度の潤滑油を用いた場合でも必要油膜厚さを確保することが可能になり、潤滑油の流体摩擦抵抗を小さくしてプレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化を抑制することができるようになる。すなわち、特表2001−520330号公報に開示された混合型シュープレス装置では、動圧の発生領域を狭めることで摩擦熱の発生を減少させているが、本発明のシュープレス装置では、装置の構成自体を摩擦熱の発生が少ない構成にするのではなく、摩擦抵抗の少ない潤滑油を使用できるような構成にすることによって、摩擦熱の発生を減少させることを可能にしている。
【0018】
また、本発明のシュープレス装置によれば、動圧の発生領域に重ね合わせて静圧を発生させることで、粘弾性部材とプレスシューとの間の圧力分布は、一般的な動圧型シュープレス装置と同様に、ウェブの走行方向に向けて次第に大きくなるような滑らかな圧力分布を得ることができる。さらに、静圧成分は必要油膜厚さを確保するための補助的なものであるので、ポケット部へ注入する潤滑油は少量でよく油圧ポンプは一般的な静圧型シュープレス装置に比較して小さなものでよい。ポケット部はプレスシューの軸方向に複数に分割して形成するのが好ましい。
【0019】
なお、第2プレス面上において動圧と静圧とをともに発生させるためには、第2プレス面と上記第1プレス面との段差が0.01〜1mm程に形成されるのが好ましい。或いは、第1プレス面からの深さDがプレスシューと粘弾性部材との間に形成される潤滑油の油膜厚さHに対する比D/Hで0.3〜20の範囲になるように形成されるのが好ましい。また、ポケット部への高圧の潤滑油の供給手段としては、粘弾性部材の回転方向において第1プレス面から第2プレス面への境界部に溝を形成し、この溝に、粘弾性部材の回転により粘弾性部材とプレスシューとの間に巻き込まれる潤滑油よりも高圧の潤滑油を注入するのが好ましい。
【0020】
また、上記目的を達成するためには、好ましくは、プレスシューを強制的に冷却する強制冷却手段を備えるようにする。上記のように低粘度潤滑油を使用できるような構成とすることで、潤滑油の流体摩擦抵抗による発熱量を小さくしてプレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化を抑制することができるが、強制冷却手段によってプレスシューを強制的に冷却することで、プレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化をより効果的に抑えることが可能になる。
【0021】
特に動圧型のプレスシューの出口側は、潤滑油の油膜厚さが薄く発熱量が増し、さらに、粘弾性部材の回転により熱が運ばれるため高温になりやすいので、上記強制冷却手段は少なくともプレスシューの出口側を強制冷却するような構成とするのが好ましい。具体的な強制冷却手段の構成としては、冷却用の潤滑油をプレスシューに噴射する潤滑油噴射装置、プレスシューの内部からプレスシューの外表面へ冷却用の潤滑油を沁み出させる潤滑油沁出装置、プレスシューの内部に形成され冷却用媒体を通過させる冷却媒体通路等が挙げられる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、ここでは、本発明のシュープレス装置を製紙機械のプレスパートに備えられる製紙機械用シュープレス装置として構成した場合について説明するが、本発明のシュープレス装置の用途は製紙機械に限定されるものではなく、シュープレス装置が用いられる用途一般に適用可能である。
【0023】
(A)第1実施形態
本発明の第1実施形態にかかるシュープレス装置ついて図1,図2を用いて説明する。本実施形態にかかるシュープレス装置は動圧型シュープレス装置(図7参照)を基本構造として構成され、図1(a)に示すようにカウンタロール2,粘弾性部材(ブランケット或いはベルト)8,プレスシュー10,及び油圧ピストン(アクチュエータ)18を備えている。プレスシュー10はカウンタロール2の形状に合わせて形成されたプレス面10a,11bを有し、カウンタロール2との間でウェブ5の走行方向に延びるニップを形成している。プレス面10a,11bは動圧の発生領域であり、粘弾性部材8の回転によりプレスシュー10と粘弾性部材8との間に潤滑油が巻き込まれることで、プレス面10a,11bと粘弾性部材8との協働により潤滑油に動圧が発生するようになっている。ウェブ5はその両面をフェルト3,4に支持された状態で粘弾性部材8とともにカウンタロール2とプレスシュー10とのニップを通過して加圧脱水される。
【0024】
また、一般的な動圧型シュープレス装置と同様に、プレスシュー10は油圧ピストン18を介してセンタシャフト16に支持されており、ピストン室17内の油量によってプレスシュー10のカウンタロール2側への押圧力が調整できるようになっている。さらに、一般的な動圧型シュープレス装置と同様に、プレスシュー10は油圧ピストン18にピボットピン19を介して回転可能に取り付けられ、さらにウェブ5の走行方向に対して上流側端部と下流側端部とをスプリング14,15によって支持されている。
【0025】
本実施形態にかかるシュープレス装置は、以上のような動圧型シュープレス装置の構成に静圧型シュープレス装置の要素を付加したことを特徴としている。すなわち、動圧の発生領域であるプレス面10a,11bのうち、中央部のプレス面(第2プレス面)11bを周囲のプレス面(第1プレス面)10aよりも若干低く形成している。これにより、プレス面10aとプレス面11bとの段差によりポケット(ポケット部)11が形成され、このポケット11が静圧を発生させる静圧ポケットとして機能するようになっている(以下、静圧ポケット11を形成する中央部のプレス面11bをステップ11bと呼ぶ)。
【0026】
ステップ11bの深さは、少なくとも粘弾性部材8との協働により潤滑油に動圧を発生させることができる程度に浅く、且つ、静圧ポケットを形成できる程度に深ければよい。具体的には、プレス面11aに対して0.01〜1mm程度低くステップ11bを形成すればよい。或いは、ステップ11bの深さをDとしたとき、プレスシュー10と粘弾性部材8との間に形成される潤滑油の油膜厚さHに対する比D/Hが0.3〜20の範囲になるように形成すればよい。なお、ステップ11bは曲率を持った曲面でもよく、平面であってもよい。
【0027】
粘弾性部材8の回転方向においてプレス面10aからステップ11bへの境界部には、リセス11aが形成されている。リセス11aはプレス面10aからステップ11bよりも深く掘られた溝であり、プレスシュー10の幅方向に延在している。このリセス11aもステップ11bとともに静圧ポケット11の一部となっている。リセス11aには図示しない油圧ポンプが接続されて高圧の潤滑油が注入されるようになっている。なお、これらリセス11a及びステップ11bからなる静圧ポケット11は、図2(a)に示すようにプレスシュー10の幅方向に連続したものでもよく、図2(b)に示すようにプレスシュー10の幅方向に複数に分割されたものでもよい。
【0028】
このような構成により、本実施形態にかかるシュープレス装置では、粘弾性部材8のループの下部に溜まった潤滑油が、粘弾性部材8の回転に伴い粘弾性部材8の裏面に付着した状態でプレスシュー10と粘弾性部材8との間に巻き込まれてくる。そして、潤滑油が粘弾性部材8の回転によりプレス面10a上やステップ11b上を流れる際の速度に応じて動圧が発生する。また、リセス11aへの高圧の潤滑油の注入によって、静圧ポケット11では静圧が発生する。さらに、ステップ11b、及びステップ11bの下流側のプレス面10aでは、リセス11aからステップ11bに流れ出る潤滑油の速度に応じた動圧も発生する。
【0029】
これにより、プレスシュー10と粘弾性部材8との間には、プレス面10a上及びステップ11b上で発生する動圧のみならず、静圧ポケット11で発生する静圧によっても油膜が形成され、粘弾性部材8はこれら動圧及び静圧による油膜によってプレスシュー10上に非接触状態で支持される。特に低抄速では静圧によって油膜厚さが確保され、高抄速では動圧によって油膜厚さが確保されるので、低温、低粘度の潤滑油を用いた場合でも常に必要油膜厚さを確保することができる。
【0030】
したがって、本実施形態にかかるシュープレス装置によれば、徐動から高抄速にいたる抄速範囲で低粘度潤滑油を使用することができ、潤滑油の流体摩擦抵抗による発熱量を抑制してプレスシュー10の熱変形や粘弾性部材8の劣化を抑制することができるという利点がある。また、静圧成分は必要油膜厚さを確保するための補助的なものであるので、静圧ポケット11は従来の一般的な静圧型シュープレス装置に比較して浅く小さなものでよい。したがって、高圧の潤滑油を供給する油圧ポンプも従来の一般的な静圧型シュープレス装置に比較して小さなものでよく、コスト増を抑えることができるという利点もある。
【0031】
さらに、本実施形態にかかるシュープレス装置によれば、上述のように動圧の発生領域に重ね合わせて静圧を発生させることで、図1(b)に示すように、粘弾性部材8とプレスシュー10との間の圧力分布は、一般的な動圧型シュープレス装置と同様に、ウェブ5の走行方向に向けて次第に大きくなるような滑らかな圧力分布となる。このような滑らかな圧力分布により、ニップ部を通過するウェブ5のクラッシングやデンシフィケーションを回避することができる。また、粘弾性部材8やフェルト3,4の寿命にも悪影響を与えることもない。
【0032】
(B)第2実施形態
本発明の第2実施形態にかかるシュープレス装置ついて図3,図4を用いて説明する。本実施形態にかかるシュープレス装置は、第1実施形態にかかるシュープレス装置の構成にさらにプレスシューを強制冷却する強制冷却手段を付加した構成になっている。したがって、図中、第1実施形態と同一の部位については同一の符号を付して示すものとし、重複する説明は省略する。
【0033】
本実施形態では、強制冷却手段として冷却用の潤滑油をプレスシュー10の外表面に沁み出させる潤滑油沁出装置が設けられている。この潤滑油沁出装置は、プレスシュー10のプレス面10aの上流側端部と下流側端部に静圧ポケット11を挟むようにして多孔室板20,21が埋め込まれたものであり、これら多孔室板20,21にプレスシュー10の内部から潤滑油が供給されるようになっている。なお、多孔室板20,21は図4(a)に示すようにプレスシュー10の幅方向に連続したものでもよく、図4(b)に示すようにプレスシュー10の幅方向に複数に分割されたものでもよい。
【0034】
プレスシュー10の内部から多孔室板20,21に潤滑油が供給されることにより、多孔室板20,21からプレスシュー10の外表面に潤滑油が沁み出し、沁みだした潤滑油はプレスシュー10の外表面を冷却するとともに、プレスシュー10の入口やリセス11aから流入する潤滑油も冷却して温度上昇を抑制する。したがって、本実施形態にかかるシュープレス装置によれば、第1実施形態と同様に低粘度潤滑油を使用できるような構成とすることで潤滑油の流体摩擦抵抗による発熱量を小さくすることができるだけでなく、プレスシュー10や粘弾性部材8を強制的に冷却することができ、プレスシュー10の熱変形や粘弾性部材8の劣化をより効果的に抑えることができるという利点がある。また、プレスシュー10の外表面に潤滑油を沁み出させることにより、油膜厚さを増大することができるという利点もある。
【0035】
(C)第3実施形態
本発明の第3実施形態にかかるシュープレス装置ついて図5を用いて説明する。本実施形態にかかるシュープレス装置も第2実施形態と同様に第1実施形態の構成にさらにプレスシューを強制冷却する強制冷却手段を付加した構成になっている。したがって、図中、第1実施形態と同一の部位については同一の符号を付して示すものとし、重複する説明は省略する。
【0036】
本実施形態では、強制冷却手段として冷却用の潤滑油をプレスシュー10に噴射する冷却シャワー(潤滑油噴射装置)22,23が設けられている。一方の冷却シャワー22はプレスシュー10の入口側に向けて配置され、他方の冷却シャワー23はプレスシュー10の出口側に向けて配置され、それぞれプレスシュー10の入口部,出口部に冷却用の潤滑油をかけることができるようになっている。
【0037】
冷却シャワー22,23からプレスシュー10に向けて冷却用の潤滑油がかけられることにより、プレスシュー10の冷却やプレスシュー10の入口やリセス11aから流入する潤滑油が冷却され温度上昇が抑制される。したがって、本実施形態にかかるシュープレス装置によれば、第2実施形態と同様にプレスシュー10や粘弾性部材8を強制的に冷却することができ、プレスシュー10の熱変形や粘弾性部材8の劣化をより効果的に抑えることができるという利点がある。
【0038】
(D)第4実施形態
本発明の第4実施形態にかかるシュープレス装置ついて図6を用いて説明する。本実施形態にかかるシュープレス装置も第2,第3実施形態と同様に第1実施形態の構成にさらにプレスシューを強制冷却する強制冷却手段を付加した構成になっている。したがって、図中、第1実施形態と同一の部位については同一の符号を付して示すものとし、重複する説明は省略する。
【0039】
本実施形態では、強制冷却手段としてプレスシュー10の内部に冷却油を通過させる冷却油通路(冷却用媒体通路)24,25が設けられている。一方の冷却油通路24はプレスシュー10の入口側端部に形成され、他方の冷却油通路25はプレスシュー10の出口側端部に形成されている。なお、ここでは冷却用媒体としては冷却油を用いているが、冷却水や冷却空気等、冷却油以外の冷却用媒体を用いることは勿論可能である。
【0040】
このようにプレスシュー10の内部に冷却油通路24,25が設けられることで、プレスシュー10はその入口側端部及び出口側端部を内部から冷却される。また、プレスシュー10の外表面の温度上昇が抑制されることにより、プレスシュー10の入口やリセス11aから流入する潤滑油の温度上昇も抑制される。したがって、本実施形態にかかるシュープレス装置によれば、第2,第3実施形態と同様にプレスシュー10や粘弾性部材8を強制的に冷却することができ、プレスシュー10の熱変形や粘弾性部材8の劣化をより効果的に抑えることができるという利点がある。
【0041】
(E)その他
以上、本発明の4つの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の各実施形態では、図7に示す構造の従来の一般的な動圧型シュープレス装置に本発明を適用した場合に説明したが、本発明を他の構成の動圧型シュープレス装置に適用することは勿論可能である。また、新たに形成する静圧ポケットの形状も各図に示すものに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば様々な形状を採用することができる。
【0042】
また、強制冷却手段としては第2〜第4実施形態のものに限定されず、プレスシューを強制的に冷却できるものであればよい。さらに、動圧型のプレスシューの油膜厚さは出口側のほうが薄く、油膜に作用するせん断力が大きいことから発熱量も出口側が大きく、また、粘弾性部材の回転によりプレスシューの入口側から出口側に熱が運ばれるので、プレスシューは出口側のほうが高温になりやすい。したがって、出口側のみを強制的に冷却するようにしてもよい。具体的には、第2実施形態では出口側の多孔質板21のみを設け、第3実施形態では出口側の冷却シャワー23のみを設け、第4実施形態では出口側の冷却油通路25のみを設けるようにしてもよい。
【0043】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明のシュープレス装置によれば、プレスシューは、第1プレス面及び第2プレス面で発生する動圧による油膜と、第2プレス面上のポケット部で発生する静圧による油膜との協働によって粘弾性部材を支持することができるので、低温、低粘度の潤滑油を用いた場合でも必要油膜厚さを確保することができ、潤滑油の流体摩擦抵抗を小さくしてプレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化を抑制することができるという利点がある。つまり、ポケット部の深さは、少なくとも上記粘弾性部材との協働により潤滑油に動圧を発生させることができる程度に浅く、且つ、静圧ポケットを形成できる程度に深く、しかも略均一な深さに設定され、上記プレスシューのニップ部の略全域にわたって段がなく滑らかな圧力分布特性になるように構成されているので、プレスシューと粘弾性部材との間には、プレス面上及びステップ上で発生する動圧のみならず、ポケット部で発生する静圧によっても油膜が形成され、粘弾性部材はこれら動圧及び静圧による油膜によってプレスシュー上に非接触状態で支持される。特に低抄速では静圧によって油膜厚さが確保され、高抄速では動圧によって油膜厚さが確保されるので、低温、低粘度の潤滑油を用いた場合でも常に必要油膜厚さを確保することができる。そして、粘弾性部材とプレスシューとの間の圧力分布を、プレスシューのニップ部の略全域にわたって、一般的な動圧型シュープレス装置と同様に、ウェブの走行方向に向けて次第に大きくなるような滑らかな圧力分布とすることができ、このような滑らかな圧力分布により、ニップ部を通過するウェブのクラッシングやデンシフィケーションを回避することができる。また、粘弾性部材の寿命にも悪影響を与えないようにすることができる。
【0044】
また、強制冷却手段によってプレスシューを強制的に冷却することにより、プレスシューの熱変形や粘弾性部材の劣化をより効果的に抑えることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態にかかるシュープレス装置の構成を示す概略断面図であり、(b)はそのプレスシューと粘弾性部材との間の圧力分布を示す図である。
【図2】図1のシュープレス装置にかかるプレスシューの平面図であり、(a)は単一のポケットを設けた場合を示し、(b)は複数のポケットを設けた場合を示している。
【図3】本発明の第2実施形態にかかるシュープレス装置の構成を示す概略断面図である。
【図4】図3のシュープレス装置にかかるプレスシューの平面図であり、(a)は単一のポケットを設けた場合を示し、(b)は複数のポケットを設けた場合を示している。
【図5】本発明の第3実施形態にかかるシュープレス装置の構成を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態にかかるシュープレス装置の構成を示す概略断面図である。
【図7】(a)は一般的な動圧型シュープレス装置の構成を示す概略断面図であり、(b)はそのプレスシューと粘弾性部材との間の圧力分布を示す図である。
【図8】(a)は一般的な静圧型シュープレス装置の構成を示す概略断面図であり、(b)はそのプレスシューと粘弾性部材との間の圧力分布を示す図である。
【図9】(a)は従来の混合型シュープレス装置の構成を示す概略断面図であり、(b)はそのプレスシューと粘弾性部材との間の圧力分布を示す図である。
【符号の説明】
2 カウンタロール
3,4 フェルト
5 ウェブ
8 粘弾性部材
10 プレスシュー
10a プレス面(第1プレス面)
11 静圧ポケット
11a リセス(溝)
11b ステップ(第2プレス面)
14,15 スプリング
16 センタシャフト
17 ピストン室
18 油圧ピストン
19 ピボットピン
20,21 多孔質板(潤滑油沁出装置)
22,23 冷却シャワー(潤滑油噴射装置)
24,25 冷却油通路(冷却媒体通路)

Claims (11)

  1. 位置を固定して配置された支持軸と、
    上記支持軸の周りを回転可能に配置されたループ状の粘弾性部材と、
    上記粘弾性部材のループ外面側にウェブを挟んで接するカウンタロールと、
    上記粘弾性部材を挟んで上記カウンタロールに対向して配置され、上記粘弾性部材のループ内面側に接するプレスシューと、
    上記支持軸に設けられて上記プレスシューを上記カウンタロールに向けて押し付けるアクチュエータとを備え、
    上記プレスシューは、
    上記カウンタロールの形状に係合するように形成された第1プレス面と、
    上記第1プレス面よりも低く形成された第2プレス面とを有し、
    上記第1プレス面と上記第2プレス面との段差により上記第2プレス面と上記粘弾性部材との間に形成されるポケット部の深さは、少なくとも上記粘弾性部材との協働により潤滑油に動圧を発生させることができる程度に浅く、且つ、静圧ポケットを形成できる程度に深く、しかも略均一な深さに設定され、上記プレスシューのニップ部の略全域にわたって段がなく滑らかな圧力分布特性になるように構成され、
    上記第1プレス面及び上記第2プレス面において、上記粘弾性部材の回転により上記粘弾性部材と上記プレスシューとの間に巻き込まれる潤滑油に上記粘弾性部材と協働して動圧を発生させるとともに、
    上記第1プレス面と上記第2プレス面との段差により形成される上記ポケット部において、上記ポケット部に注入される潤滑油に上記粘弾性部材と協働して静圧を発生させるように構成されている
    ことを特徴とする、シュープレス装置。
  2. 上記ポケット部が上記プレスシューの軸方向に複数に分割されて形成されている
    ことを特徴とする、請求項1記載のシュープレス装置。
  3. 上記第2プレス面と上記第1プレス面との段差が0.01〜1mmである
    ことを特徴とする、請求項1又は2記載のシュープレス装置。
  4. 上記第2プレス面は、上記第1プレス面からの深さDが上記プレスシューと上記粘弾性部材との間に形成される潤滑油の油膜厚さHに対する比D/Hで0.3〜20の範囲になるように形成されている
    ことを特徴とする、請求項1又は2記載のシュープレス装置。
  5. 上記粘弾性部材の回転方向において上記第1プレス面から上記第2プレス面への境界部に溝が形成され、上記粘弾性部材の回転により上記粘弾性部材と上記プレスシューとの間に巻き込まれる潤滑油よりも高圧の潤滑油が上記溝に注入される
    ことを特徴とする、請求項1〜4の何れかの項に記載のシュープレス装置。
  6. 上記プレスシューを強制的に冷却する強制冷却手段を備えたことを特徴とする、請求項1〜5の何れかの項に記載のシュープレス装置。
  7. 上記強制冷却手段は上記プレスシューの出口側を強制冷却するように構成されている
    ことを特徴とする、請求項6記載のシュープレス装置。
  8. 上記強制冷却手段が上記プレスシューの内部から上記プレスシューの外表面へ冷却用の潤滑油を沁み出させる潤滑油沁出装置として構成されている
    ことを特徴とする、請求項6又は7記載のシュープレス装置。
  9. 上記強制冷却手段が冷却用の潤滑油を上記プレスシューに噴射する潤滑油噴射装置として構成されている
    ことを特徴とする、請求項6又は7記載のシュープレス装置。
  10. 上記強制冷却手段が上記プレスシューの内部に形成され冷却用媒体を通過させる冷却媒体通路として構成されている
    ことを特徴とする、請求項6又は7記載のシュープレス装置。
  11. 製紙機械のプレスパートに備えられる製紙機械用シュープレス装置として構成されている
    ことを特徴とする、請求項1〜10の何れかの項に記載のシュープレス装置。
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