JP3603120B2 - 金属表面の薄膜内部のpHを測定する方法およびその装置 - Google Patents

金属表面の薄膜内部のpHを測定する方法およびその装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
近年、先進国および開発途上国を問わず酸性雨が河川に住む生物や森林の生存に重大な影響を与えており、環境汚染として大きな社会問題になっている。
【0002】
そして、このような公害の原因となっているのは、自動車、工場、火力発電所等から排出される化石燃料の燃焼排出物が大気中に拡散されて、これが雨や霧に溶解されて酸性物質となって降り注ぐためであるとされている。
【0003】
この出願の発明はこのような公害の原因とされる燃焼排出物の酸性の強度を表す指標であるpHを測定する方法およびその装置に関するものであり、さらに詳しくは、この出願の発明は酸性雨等による金属の腐食機構の解明や破壊機構の解明に有用な、金属表面の厚さ10μm以下の極めて薄い液膜内局部のpHを測定方法およびその装置に関するものである。
【0004】
【従来の技術】
pHの測定方法としては従来から酸やアルカリ化合物と反応して鮮明な呈色反応を示す指示薬を滴下してその呈色の程度や色彩の変化を観察する方法や指示薬を紙に染み込ませその呈色の程度や色彩の変化を観察する方法、あるいは、水素イオンによって敏感に反応する酵素等を利用する方法、さらには、ガラス電極や水素電極等を使用した電極反応の電位差からpHを測定する方法が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これまで知られているpH測定方法は物理的・化学的影響を受けやすく、しかも、対象となる試料の一部を採取して水溶液にしたものを測定する方法であり、使用されている状態でpHを測定するものではなかった。
【0006】
この出願の発明は測定しようとする対象を現状のままで測定することができ、しかも金属表面の液膜の厚さが10μm以下の非常に薄い液膜内の局部pHの測定が可能な方法およびその装置を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するためのものとして、第1には、走査型トンネル顕微鏡と非接触表面電位計とを組み合わせ、走査型トンネル顕微鏡の探針の接触によって測定する薄液膜内局部の電位と非接触表面電位計によって測定する薄液膜表面の電位差からpHを測定することを特徴とする金属表面の薄液膜の内局部pH測定装置であり、第2には、上記薄液膜の内局部pH測定装置において、タングステン表面に酸化タングステンが被覆されたpH電極を探針として有する走査トンネル顕微鏡であることを特徴とする装置であり、また、第3には、上記薄液膜の内局部pH測定装置において、pH電極の先端部以外をワックスで被覆されたことを特徴とする装置であり、また、第4には、上記薄液膜の内局部pH測定装置において、非接触表面電位計としてケルビン顕微鏡またはケルビンフォース顕微鏡であることを特徴とする装置である。さらには、この出願の発明は、第5には、走査型トンネル顕微鏡の探針の接触によって測定する内局部の電位と非接触表面電位計によって測定する表面層の電位差からpHを測定することによる金属表面の薄液膜内局部pHの測定する方法であり、さらに、第6には、薄液膜の厚さが10μm以下である上記方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
従来から試料を一旦水溶液にして、そのpHを測定する方法は種々知られているが、厚さが10μm以下の薄液膜の内部、しかも特定の局部のpHを測定する方法はこれまで知られていない。その理由は測定電極と参照電極を同時に配置しても溶液抵抗により正確な測定が阻害されるためである。
【0009】
この出願の発明によるpH測定装置は金属表面の厚さが10μm以下の薄液膜内局部のpHを測定することができるものであるが、その装置の概要は、走査トンネル型顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope)と非接触表面電位計とを組み合わせたものであり、走査トンネル型顕微鏡で薄液膜内局部の電位を測定し、非接触表面電位計によって薄液膜の表面の電位を測定し、その電位差からpH値を求めることを要旨とするものである。
【0010】
この出願の発明に使用する走査型トンネル型顕微鏡とは、顕微鏡の探針の先端を試料の表面に数オングストロング(10−10m)まで近づけた状態で電圧(数mv〜数v)を印加してトンネル電流を流すことによって試料の表面状態を調べる装置であるが、この出願の発明では、この時に使用する探針を薄液膜内局部の薄液膜内局部の電位と非接触表面電位計によって測定される薄液膜表面の電位との電位差を表示するように加工されており、pH電極として使用できるように加工されている。この出願の発明で使用されるpH電極は、タングステン、白金、白金イリジウム等の金属が使用可能であるが、走査トンネル顕微鏡で探針素材として汎用されているタングステンが好ましく、このタングステン探針の先端を除いて表面を酸化させて酸化タングステンで被覆されているものが好適である。
【0011】
そして、この出願の発明のpH電極は先端以外をワックスコートすることにより狭い特定の領域のpHを測定することができるように工夫されている。
【0012】
また、この出願の発明において、表面電位を測定する装置としては、たとえば、ケルビン顕微鏡やケルビンフォース顕微鏡を使用することができるが、このケルビンフォース顕微鏡(KFM)とは、顕微鏡の探針と試料の表面の距離を一定に保ちながら電圧をかけることによって試料表面の電位を測定するものである。
【0013】
すなわち、この出願の発明は走査型トンネル顕微鏡とケルビンフォース顕微鏡等の非接触表面電位計を組み合わせたものであり、従来の水溶液中に電極を注入して電極反応を利用する方法とは全く異なる方法である。
【0014】
この出願の発明のpH測定方法は溶液の中に直接電極を挿入する必要がなく、pH電極と金属表面との間のトンネル電流を利用する走査型トンネル顕微鏡とケルビンフォース顕微鏡等の非接触型の表面電位計を組み合わせることにより極めて薄い液膜の内局部のpHを測定することができるのである。
【0015】
この出願の発明を図1に沿って説明すると、pH電極(1)はタングステン(2)の表面の先端を除いて酸化タングステン(3)で被覆された構造をしており、さらに、この出願の発明のpH電極(1)は先端部を除いてワックス(4)で被覆されている。この出願の発明はpH電極(1)の先端(5)を除いてワックスをコーティングすることによってpH電極(1)の通電部分の面積を小さくして溶液抵抗による測定の阻害を防止するようにしたものであり、さらに、走査型トンネル顕微鏡と非接触表面電位計との間にポテンシオスタット(P)を設けることによって電圧の変化を抑制させることによってより常に安定したpH値を求めることができるようにしたものである。この時のポテンシオスタット(P)は記録計(10)、表面電位計(9)を経由して非接触表面電位計のプローブ(6)と接続される。
【0016】
このpH測定装置の使用方法としては走査型トンネル顕微鏡のpH電極(1)を表面に薄液膜(7)が被覆された金属(8)に対してトンネル電流が生じる程度まで接近させる。このためには、走査トンネル顕微鏡のpH電極の先端(5)は金属(8)表面上の薄液膜(7)内に挿入される形態となる。
【0017】
他方、ケルビン顕微鏡またはケルビンフォース顕微鏡等の非接触表面電位計のプローブ(6)を金属表面に被覆された薄液膜の表面とは接触しないように設置する。そして、走査型トンネル顕微鏡のpH電極(1)で薄液膜の内局部の電位を測定し、非接触表面電位計のプローブ(6)で薄液膜の表面電位を測定し、その電位差を測定することによってpHを求めるものである。
【0018】
【実施例】
先端部を除いて周囲を酸化タングステンで被覆されたタングステンおよびその先端部を除いてワックスが被覆されている探針を有する走査トンネル顕微鏡とケルビンフォース顕微鏡からなる薄液膜の内局部pH測定する装置を使用して純ニッケルに5%塩化マグネシウム水溶液を塗布したものを徐々に乾燥させながら溶液が濃縮する時の薄液膜内局部のpH変化を測定した。なお、この時使用した酸化タングステン探針は50mv/pHのものを使用した。
【0019】
走査トンネル顕微鏡のpH電極の先端を5%塩化マグネシウム水溶液が塗布された純ニッケルとトンネル電流が生じる程度にまで接近して設置し、また、塗布液の表面の電位を測定するケルビンフォース顕微鏡のプローブの先端を塗布液に接触しないように設置した。
【0020】
塗布直後から4800秒(80分)までの走査トンネル顕微鏡の探針と非接触表面電位計のプローブの電位を測定してその電位の変化を連続的なグラフにしたのが図2である。図2のグラフから分かるように5%塩化マグネシウムの塗布直後の電位は0.15〜0.125(v)であったが、溶液の水分が蒸発して濃度が高くなるにつれて電位は増大しているが、この電位は4000秒(約67分)を過ぎると0.25〜0.225(v)近辺で平行状態になっている。この平行状態になった時の電位は塗布直後に比較して電位差は100(mv)程度変化している。酸化タングステン探針の起電力は50mv/pHであり、この数値を当てはめると5%の塩化マグネシウム薄液膜の塗布時と4800秒(80分)後のpHは約2変化していることが判明した。
【0021】
【発明の効果】
この出願の発明の方法によって、従来できなかった金属表面の薄い液膜内の
pH測定が可能になり、大気汚染による金属の腐食や遅れ破壊の予防等に応用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】金属表面に被覆された薄液膜の内局部のpHを測定している状態を示した模式図である。
【図2】純ニッケル表面に5%塩化マグネシウム水溶液を塗布したものを乾燥させて濃度を増した時の電位差の変化を表した図である。
【符号の説明】
1 走査トンネル顕微鏡のpH電極
2 タングステン
3 酸化タングステン
4 ワックス
5 先端部
6 非接触表面電位計のプローブ
7 薄液膜
8 金属
9 表面電位計
10 記録計
P ポテンシオスタット

Claims (6)

  1. 走査型トンネル顕微鏡と非接触表面電位計とを組み合わせ、走査型トンネル顕微鏡の探針の接触によって測定する薄液膜内局部の電位と非接触表面電位計によって測定する薄液膜表面の電位差からpHを測定することを特徴とする金属表面の薄液膜の内局部pH測定装置。
  2. タングステン表面に酸化タングステンが被覆されたpH電極を探針として有する走査トンネル顕微鏡であることを特徴とする請求項1記載の装置。
  3. pH電極の先端部以外をワックスで被覆されたことを特徴とする請求項1または2記載の装置。
  4. 非接触表面電位計がケルビン顕微鏡またはケルビンフォース顕微鏡であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
  5. 走査型トンネル顕微鏡の探針の接触によって測定する薄液膜内局部の電位と非接触表面電位計によって測定する薄液膜表面の電位差からpHを測定することを特徴とする金属表面の薄液膜内局部のpHを測定する方法。
  6. 薄液膜の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項5記載の方法。
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